【伊勢巡察隊】治安維持

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 96 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月21日〜10月02日

リプレイ公開日:2007年09月29日

●オープニング

●京香の動き
「斎宮陥落による防衛の強化、となると暫くは干渉出来そうにないわねぇ」
 果たして伊勢市街、艶やかな黒髪を靡かせてはその中を闊歩して呟いたのは殴られ屋と言う変わった生業に就く浪人が京香と言う名の女性。
「ま、それでも良いわ。今の内に売れる恩は売って後々、動き易くなる為に備えるとしますか」
 見た目、艶のある表情を携える彼女が伊勢藩主の邸宅を後にした後にすれば藩主より聞いた伊勢の現状に珍しく考え込みながら‥‥しかし惑いは僅かに一人頷くが、その彼より承った言葉を思い出せば嘆息を漏らすと
『斎宮陥落の余波によって伊勢も更なる混乱に見舞われる危険がある、妖怪と限らず人にの手に寄ってもな。故に貴殿には市街近辺の哨戒と今後、危険となり得る存在の排除を任せたい。伊勢巡察隊を用いてな』
「具体的な目標がないのは退屈なのよね‥‥それに伊勢巡察隊、か。正直、こう言った枠組みに収まるのって好きじゃないんだけど」
 次いで肩をも落とし、頬を掻いて京香は慣れない仕事故に戸惑いをその表情に浮かべるも
「‥‥我侭も言っていられないわね。何か事が起きる前に、絶対止めて見せるわ」
 すぐに息を吐いて鼻を鳴らせば姿勢を正し、刀の柄を握っては小さく唾鳴りの音を響かせると
「でも何で今更、固執するんだろうねぇ。あの人はあたしを‥‥」
 しかし何事か、再三に表情を変えて彼女は次に渋面を湛え囁くも‥‥自身がらしくない事に漸く思い至れば、殴られ屋は自身の頬を掌で張ると顔を上げ瞳は前へ向けて毅然とした態度にて歩き出すのだった。
「取り敢えず、出来る事を今はやりますか」
 視界の端々に映る、ジーザス会の者が手を回しては建てたのだろう小さな教会の一つを見つめながら。

 一方、伊勢国司が北畠泰衡の邸宅。
「手を貸す他にないのだ、お前は」
 先日に遭った侵入者より受けた被害を纏め、影響は皆無である事を伊勢国司へ報告するアゼル・ペイシュメントの部下がその最後に一言だけ添えた言葉を聞けば泰衡は僅かに口元を歪め、呟く。
「‥‥その割、肝心の駒に手を焼かされている気もするが」
「余り加減出来ない性質故、今は監視だけに留めている。その気になれば」
 その彼が珍しくも放った皮肉を前に、しかしアゼルの部下は微動だにせず無表情のまま言葉を返すと果たして呻いたのは国司の方か。
「しかし一体、あれだけの人を集めて何をすると‥‥」
「さてな、信者を募っていると言う話だがそれ以上は俺も知らん。察しこそつくがな」
 英国より来たジーザス会の青年と違い、揺るがぬ態度で応じる彼に国司は話の矛先をジーザス会そのものへ変えると、真っ赤な瞳を携えるアゼルの部下は肩を竦めてみせるが
「何にせよいずれ、機が来れば分かる事だ‥‥それももう、間も無く。だからこそ直に、証拠を見せる事にもなるだろう。故に決断は早く済ませる事だな」
「‥‥っ」
 やがてその場より踵を返すと同時、自身が分かっている事を踏まえて最終勧告を国司へ告げれば歯噛みする彼をその場に残したまま歩み去ると、一人場に残された伊勢国司は無表情のままに一言だけ呟き、思案するのだった。
「力に、屈する他ないのか‥‥それとも」

――――――――――――――――――――
 依頼目的:伊勢市街周辺の哨戒、警戒と危険(若しくは今後、混乱の火種となりえるもの)が見付けられた場合の排除!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)、若しくは相応の金銭は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 対応NPC:殴られ屋の京香、藤堂守也(但し守也は同道せず)
 日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は七日。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 eb0094 大宗院 沙羅(15歳・♀・侍・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●舞う、陽光の布巻き
 伊勢市街、殴られ屋の京香よりの依頼‥‥正確には伊勢藩主が藤堂守也からの依頼ともなるか、駆け付けた冒険者が五人は冒険者のみで構築される『伊勢巡察隊』を一先ず統括する事となった殴られ屋の京香と落ち合えば今。
「‥‥とまぁ、そう言う訳さ」
「それはまた思いの他に深刻ですね」
 その市街にある伊勢藩主が邸宅の内にて最近の伊勢の事情には疎い茉莉花緋雨(eb3226)が先ず状況を確認すれば、斎宮陥落を端に市街の状況等を掻い摘んで京香が語ると頷く緋雨だったが
「故に軽率な行動は取らない様、頼む。この状況下で下手をすれば伊勢藩、何が敵かも分からぬままに二つに別たれるからな」
「は、はい‥‥頑張ります」
 皆を前に相変わらず厳しい表情のままに藩主が口を開けば、表立ってこそいないから不穏な国司の事を指してか、言葉紡ぐと最初こそ怯む彼女ではあったが‥‥すぐに気を取り直して藩主に向き直り、やがて何時もの口調で言えば
「‥‥今回だけでは済まないかも知れないが、これ以上迷惑を掛けたくないので暫くは無茶な行動を慎み、無償で手伝おう」
「な、何もそこまで落ち込まなくったって」
「所で黒門の関係者の中に、ジーザス会と何らかの関係があった人物は居ないだろうか、存じないだろうか?」
「黒門とジーザス会の接点は活動していた時期からしてない‥‥と思いたいが、断言は出来ないか」
「ならば調査と動向をお願いしたいのだが‥‥」
 昨日、国司邸宅前にてあった一騒動で一時とは言え伊勢藩に拘留された東雲八雲(eb8467)も何処となく影を漂わせながら誓えば、それを前にして珍しく狼狽する京香だったが彼女の狼狽を他所に、と言うよりは照れ臭くてか普段と変わらない生真面目な表情を湛える彼のその口から紡がれた問いに守也が応じると、尚も打診する彼に藩主はやがて頷き返せば立ち込める重い空気に、漏れる京香の嘆息。
「いあやぁ。こんな状況じゃいずれ、景気が悪くなって商売も上がったりや」
「そうだな、だからこそ私達が頑張らねばならぬ。多少だろうと、変えられる力を持ち合わせているのだから」
「そうだね〜」
 その、それぞれが厳しい表情を浮かべているからこそ常に商人魂全開の大宗院沙羅(eb0094)が大仰に肩を竦めては口を開くと、場の雰囲気が和む中で榊原康貴(eb3917)が苦笑を漏らしながら応じればマキリ(eb5009)も小さな体躯を一杯に頷くが
(「京香さんはこの前、国司様の家に潜入した時の事を藩主さんに報告した筈だしそうだとすれば、騒ぎを起こしたのに一枚噛んでた事も知ってる筈だよね。それでもあえて巡察隊に起用‥‥今後は無茶させない様に、かな?」)
「ん、何を言いたいのかな。その目は?」
「あ、いや‥‥うん、何でもないよ」
 その内心、以前の依頼を思い出しては後にあっただろう事を察しながら視線を京香へ送るのだが、密かなその考えが表情に出ていたか彼女はジト目にてマキリを見つめると何とか動揺を押し隠す彼の答えに京香は再び溜息を漏らすが、改めて皆を見回すと一言。
「まぁ大体、あんたらが考えていそうな事は分かるけどね」
「ならばもう少し、自重をだな‥‥」
「それこそ、無駄な問答って言う事も分かるわよね」
「確かに」
「‥‥何か、釈然としないわねぇ」
 するとそれを受けて康貴は彼女へ怯まずに提言こそするが、京香が珍しく笑顔を湛えればその答えを返すと侍は渋面こそ湛えるが、即座に頷いた八雲の反応を前にすれば今度は京香がしかめっ面を浮かべるも
「ま、良いわ。それじゃあ早速、行きましょう」
「えぇ、伊勢巡察隊‥‥出陣です!」
 すぐにそれを振り払えば京香が立ち上がると皆を促すべく声を発すれば、緋雨がその後を継ぐと陽光にも似た緋色の布をそれぞれに巻いた冒険者達も立ち上がり、混乱覚めやらぬ伊勢の治安維持を諌めるべく動き出すのだった。

●治安維持 〜市街〜
「お、あんたら‥‥伊勢巡察隊かい?」
 その伊勢市街、一先ずは皆で揃い街の只中を闊歩すれば目立つ陽光の布巻きを目に留めた茶店の女将が一行へ声を掛ければ
「うん。これから先ずは市街の巡回をする所なんだ」
「それはお疲れ様。今は伊勢もそうだけど何処も大変だからねぇ‥‥期待しているよ」
「任せてっ! それでは伊勢巡察隊、市街の巡回に励みます!」
 それに応じるのは一行の中で一番に元気に溢れるマキリで、それを受けて女将は顔を綻ばせれば皆へ檄を飛ばすとやはり、腕を掲げて彼は元気良く応じればその場にいる人のみからではあるが、今までの実績故に上がる歓声を受けてマキリ。
「宗教に人の心が流れない様にすれば、向こうの企みは潰えないまでも‥‥躓くかな?」
 ささやかで、遠回しながらも自身が取った行動から派生して欲しい目論見を囁くが‥‥此処で一つ、疑問が思い浮かべば自分でも気付かないままにそれを口にした。
「でも何で、ジーザス会なんだろ?」

 それより一行は思うままに散れば、街中を引き続き歩き回る沙羅。
「そういや、あんさん達はお祈りとかするんやろ。ジャパンにいる場合は何処でしてるんや? うちはジャパン人やないさかい、どうしているかと疑問に思ったんや」
 市街の活気を観察しながら、すれ違う諸外国から渡ってきた旅人‥‥と言うよりは英国より来ているだろう、ジーザス会に属する者に片端から声を掛けては差し障りがない範囲で様々な話を聞いていた。
「今までは適当な場所でしたよ。お祈りをする場所まで決められている訳ではありませんし、神は何処でも私達を見守っていますから」
「‥‥あぁ、そやな」
 その今、目前にいる物腰柔らかな青年の答えを聞けば彼の話は良くも分からず素っ気無く応じるも
「でも教会が出来てからはそちらに足を運んでいますね。仮初の形でも、敬うべき対象があるだけで身も入りますから」
「何か変わった事とか、してるんか?」
「いえ、特には」
 次に彼の口から紡がれた話を聞けば、それには沙羅が再び食いついて尋ねるも‥‥応じる彼の表情は変わらないまま、穏やかなものだった。
「‥‥場所によっては、確かに私達と同じくジーザス会を名乗る不穏な輩が悪行を働いているそうですが此処、伊勢は違います。皆安らかに祈りだけ織り、伊勢に蟠る闇を払わんとしています」
「伊勢神宮ちゅう、ジャパンにとって宗教的な中枢があってもか?」
 そして続く話もまた、至って穏やかな表情のままに紡がれたもので‥‥正しく祈りと受け取っても構わないだろう、その安らかな声音に沙羅は表情こそ取り繕ったまま内心で訝り尚も尋ねるが、迷いなく彼が頷けばそれから暫し雑談に興じると彼と別れた商人は歩きながら青年の、迷いのない表情を思い出すと首を傾げるのだった。
「‥‥どうなっとるんやろね?」

●治安維持 〜ジーザス会〜
「市街に住む人々が知る限りでは穏やかに、伊勢に調和しようと努力しながら活動に励んでいるらしいな」
「そやね。やから表向きには動かせる道理はまだ、ないで」
「‥‥そうですね。危ない所でした」
 初日の夜、果たして集った一行はそれぞれに集めたジーザス会の情報に付いて交換をすると、最後に話を切り出した康貴の後で沙羅が頷けば伊勢藩の特殊部隊『華倶夜』の動員を考えていた緋雨は一連の情報を聞いて今、冷汗を掻くも
「所で、アゼルさんの事ですが」
「あぁ、その話で間違いない‥‥悪い人物ではないが、何処となく掴み難い雰囲気の持ち主だな」
 それにはめげず、話を伊勢のジーザス会を統べるアゼル・ペイシュメントに付いて彼女、自身が手紙を用い小次郎らから得た情報を確認すれば頷いたのは今、この場の中で一番に接点のある八雲だった。
「それで今、アゼルさんはいないのですか?」
「いない、と言うのは正確でないが療養中で伏せているらしい。理由は不明だが」
「参ったね。それじゃ、話は」
「いや、聞けない事もない。彼とは縁があるから打診して見た所、何とか場を設けてくれるそうだ」
 だが次に響いた、緋雨の疑問に彼は僅かに眉根を顰め応じると難しい表情を浮かべて京香は呟くがそれは途中で八雲が遮ると彼は誇る事こそせず‥‥だが、静かに唇の端を吊り上げた。

 そして辿り着いた先はジーザス会が教会の一つ、遠目にこそそれなりに立派に見えたのだが‥‥近くまで来て見れば思いの他に質素で、その内部もまた同様だった。
「お久し振りですね、この様な調子で申し訳ありません」
「気にする必要はない、こちらこそ体調が思わしくない中に押し掛けて済まない」
「いいえ、状況が状況ですから」
 そして内部にある一室のベッドに横たわるアゼルが一行の来訪に身を起こせば先ずは八雲へ挨拶を交わすも、直後に咳払いをすればその彼を再び横たわらせて志士は詫びるがアゼルも引かず手で制し、身は起こしたままに一行と向き合うと八雲に緋雨を中心として最初こそは雑談にてお茶を濁すが
「心に棘を残すよりはスッキリした方がいいですよ」
「偽りなき事を語ると、誓いましょう」
 やがて響いた緋雨の言葉を皮切りに‥‥その意が何を指すかは知れずとも、アゼルは果たして皆の前で十字を切って誓えば話は本題に移行する。
「‥‥それで、どの様な話を?」
「英国から何人位、ジーザス会のものが来ているのか?」
「こちらに来ている人数は然程多くはありませんよ‥‥そうですね、十人位でしょうか」
「最近の布教活動は順調だろうか?」
「えぇ、最初こそこの地での布教に不安を抱いていましたが‥‥今では多からずとは言え皆様に理解をして頂いております」
 そしてアゼルが皆へ向き直っては問うと先ず響いたのは八雲からの疑問で、当人が聞きたいと思っていたその問いに対しアゼルも至極普通に、表情こそ体に痛みが走るからか微かに顰めながら答えると、それを聞いて志士は街での話と相違ない事に安堵するが
「そう言えば、国司殿の元に居られるとか言う話を聞いたのだが‥‥」
「えぇ、説法等で忙しい時は教会にて寝泊りしていますが普段は国司様の御宅の部屋を一つ、拝借しています」
「‥‥何か、おかしな事はないか?」
「そう、ですね。何処となく落ち着かないと言うか思い詰めた表情を時折、見受けますが‥‥何かされたのでしょうか?」
 次に響いた、康貴からの疑問に八雲は眉根を顰めるが‥‥それにもまた、戸惑う事無くジーザス会の青年は答えるも、流石にそれは何事かと思ったかアゼルが問い返せば
「いや‥‥以前まで病で伏せていたと言う話を聞いていたから、今はどうされているか気になってな」
「あぁ、それならば今は大丈夫ですよ」
 しかし、侍は確かな答えを返すと納得してアゼルは笑顔を浮かべると頷いて断言する。
(「アゼルさんも国司様の真意は知らない、か。それとも‥‥?」)
 だが、その話を聞いてマキリは嘘をついていない限りはアゼルもまた国司の思惑を知らないと言う事に気付けば自身、意識しないままに呻くのだった。

「何もお持て成し出来なくてすみません」
「いや、それよりも養生してくれ‥‥それでは失礼する」
 やがて話は雑談交じりにとなれば、夕刻を迎えて腰を上げた一行にアゼルは詫びるがそれを受けても八雲は彼の体調に気遣い、労えばその場を辞すると
「確かに、何処となく食えない感じもするけれど‥‥」
「けど?」
 歩きながら、今まで黙していた京香が久々に口を開けばアゼルに抱いた所感を口にするとマキリは尋ねるが、先の続きは紡がれなかった。

●治安維持 〜闇の払拭〜
 伊勢の市街は忍び寄る影にこそ確かに怯えている風ではあったが比較的に平穏で‥‥だからこそ、一行はアゼルとの会談の後に市街から外へ出ては近隣の様子も伺うべく、マキリの意見より斎宮のある方へ暫し足を伸ばしてみれば、見受けられた妖の姿に一行はその放逐を行う。
「あんたら‥‥商売の邪魔なんや」
 果たしてその一番手は沙羅で、市街の不穏を腹に据えてか普段とは違う趣にて地を蹴れば、龍叱爪とヴァジュラを携え一体の死霊侍と剣戟打ち鳴らせば
「考える所はあるんだろうけど‥‥一回、そう言うのを置いといて思いっ切り体を動かせば頭の靄も晴れない?」
「あぁ、やっぱりこっちの方があたしは性に合うね!」
「やれやれ‥‥」
 その傍らで彼女に倣ってか、黙々と細身の刀を振るう京香を心配し樹上より矢を放ちながら声を掛けるマキリだったが‥‥それこそ杞憂と言わんばかりにやがて彼女が声高く応じ叫べば、呆れながらも彼女を守らんと康貴も後の先にて刃を振るうが
「それにしても思ったより、市街の近くにも多く妖怪がいますね」
「そうだね、今度は伊勢藩自体を狙うのか‥‥それとも?」
 騎士学校の出の割には杖を振るう緋雨の不安が響けば、マキリも辺りを見回してまだ多くいる蠢く屍のその意を勘繰るがしかし、市街にて以前までは見られなかった違う藩に属する兵の存在も思い出すと果たして妖の狙いこそ判断こそ出来なかったが
「ともかく出来得る限り、俺達で排除するぞ!」
 今、眼前に広がる光景だけは市街に住まう人々の為にも取り除かんと決めた八雲が叫べば、それをそのまま詠唱として完成させると重力の波動を掌より放つのだった。

●伊勢の明日
「今日までの勤め、ご苦労だった」
「いえ、とんでもありません。こちらこそ色々とお世話になりました」
「これ位であれば何時でも、協力する」
 そして伊勢を発つ日、藩主邸宅の門前にて皆の勤めを労う守也に緋雨が謙遜して応じれば、八雲もまたいずれあるだろう依頼も請け負う旨を告げると静かにではあったが藩主は顔を綻ばせれば、頷いて皆は次に京香の方を見やると
「京香さん、余り思い詰めないでね。この前も最後の辺り、様子がおかしかったし」
「ふん、大丈夫だよ」
「‥‥さて、どうだか」
 その最初、マキリが率直に心配を口にこそするが鼻を鳴らして応じる京香に八雲、肩を竦めて見せれば途端に眉根を吊り上げる彼女であったが
「まぁ、ともかく無理だけはなされるなよ」
「分かっているよ、全く‥‥私は子供かっての」
 その二人を宥めるべく、康貴が間に割って入れば言うといからせていた肩を下ろし、京香がぼやくと場に忍び笑いが漏れればまた憤慨して彼女は皆を見回すも
「どや、うちを伊勢の経済再生担当にでもせえへんか。大阪並みにするでぇ」
「‥‥面白そうではあるが考えるならもう暫くは先やもな」
「そかー、これに所属すると状況が分かって商売しやすいんやけどな‥‥まぁええわ」
 彼女より真先に視線を逸らし、伊勢藩主へ呼び掛けたのは言うまでもなく沙羅だったが‥‥守也より返って来た答えを聞けば、多少とは言え垣間見た伊勢の現状故に肩こそ落とすが最後には笑顔を湛えると踵を返し京都へ戻ろうとする一行の最後、果たして彼へそれだけ言うのだった。
「また呼んどくれよな。今度も良い仕事、したるさかいに!」

 〜一時、終幕〜