【何でもござれ】命の価値は

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月13日〜10月18日

リプレイ公開日:2007年10月22日

●オープニング

●復讐者
 各地での様々な影響を受けてか、以前よりも多く暗躍する様になった妖達を冒険者が屠る光景が日常的となりつつある今。
「よしっ、まだ残っているが奴らも引く‥‥今日は一度戻るぞ」
 江戸の近郊でもやはり同等の光景が繰り広げられており、大体の目処が付き掛けているとある戦場にて冒険者達を束ねる年長の男性が声を響かせれば、その彼が言う様に後退する妖を暫し傍観する一行であったが‥‥そんな折。
「うぉぉぉっ!」
「‥‥またか」
 激しい裂帛が場に響くと年長の彼はその光景に渋面を湛えるが‥‥裂帛を放った主である、一行の中でも若い方に入る浪人は刀を掲げては後退する妖の群れへ一人突貫すると
「彼、どうしたんですか?」
「あぁ、お前は最近入ったばかりだから知らなくて当然か」
 それを前、果たして嘆息を漏らした年長の男性へ呑気に問い掛けたのは最近になってこの場にいる皆と組む様になった、一番に年若い青年で‥‥その疑問へ男性は答えるべく再び口を開く。
「過去に彼の住んでいた村が鬼達に襲撃されてな。その際に家族を全員、目前で亡くしてからあんな調子になったと言う話だ‥‥普段は寡黙なのだが」
「良く聞く話‥‥ですが、実際目の当たりにすると」
「そうだな、だがそれよりも今は‥‥止めるぞ」
 その理由を明示すれば表情を曇らせる二人だったが、年長の男性が鞘に納めたばかりの刀を再び抜き放てばしょうがなく浪人の後に続くべく、皆へ呼び掛けるのだった。

●気遣う者
 翌日、浪人は自身の住まいへと帰って来る‥‥誰もいない家に。
 だが誰もいない筈なのに、今日も今日で傾ぐ玄関の傍らに一人の女性が立っていた。

「今日も、遅かったね。それに何時もだけどボロボロ」
「‥‥‥」
 そして彼へ声を掛ける彼女だったが彼からの反応は、ない。
「自分ばかり責めても今は‥‥これからは変わらないよ?」
「‥‥何が分かる」
「え‥‥?」
 その反応に何時もの事と苦笑を湛えながら、諭す様な優しい声音にて彼へ呼び掛けるも普段は何も応じない彼は今日、久方振りに口を開けば唐突なそれを前にキョトンとする彼女だったが
「何が分かると言った! 目の前で‥‥血を分けた肉親が、兄妹がただの肉片に変わる様を見た事のないお前がっ!」
「それは‥‥」
「後もう少しで届く筈だった手が届かなかった、僅かに躊躇っただけで‥‥だから、そんな自分が許せない。あの時、皆が受けた痛みを思えば俺は‥‥故に行くはただ、修羅の道」
 その、間の抜けた表情に苛立ってか彼はその場で自身の痛みを叫び、解き放てば押し黙る彼女を前に彼は背を向け、ボソリ囁くと
「でも、それで‥‥!」
 返す言葉を見付けられず地を見つめるだけの彼女に最後、それだけ叫ぶが浪人は彼女の制止を聞かず、静かに玄関の戸を開け放っては家の中へと姿を消した。
「馬鹿」
 そして一人、外に残された彼女は‥‥たった一言だけ呟いて、その場から立ち去った。


●そして、冒険者ギルド
 後日、江戸の冒険者ギルドを訪れたのは果たしてその浪人‥‥名は六郎、だった。
「妖の手に落ちた小さな集落の解放、その手伝いを頼みたい」
「‥‥状況は?」
「西洋から渡って来た悪魔の関与もあってか、今は無用な殺戮が起こっていないのが幸いだが‥‥」
「それも時間の問題、か」
「恐らく。故に討伐隊を組み、早急に対応したいのだが」
 その六郎の口から語られる話を聞く、ギルド員の青年はその話が依頼である事を理解すると詳細を聞くべく尋ねれば返って来た答えを聞いて彼は渋面を浮かべるが、浪人は最初から浮かべていた無愛想な表情を変える事無く‥‥だが言葉を連ねれば青年はその最後に一つだけ尋ねる。
「しかし人質がいる、陽動は不要か?」
「そちらも含めてこの人数だ。先遣した所、強い者はいないと言う話故にこれで十分に足りる筈」
「分かった、ならば必要な人数を至急揃えよう」
 するとすぐに返って来た答えを聞いて、一通りの状況と六郎の内心を把握したギルド員は一つ頷き彼へその依頼を引き受ける旨を伝えた。

 六郎が去ってより後‥‥大した間も開かず、再び開け放たれる冒険者ギルドの戸。
「す、すいません!」
 そして直後、身を滑り込ませれば後手ですぐに戸を締めると、顔を上げてギルド内に飛び込んできた女性は先ず自身の非礼を詫びるも
「ん‥‥何か?」
「彼から目を、離さないで下さい‥‥彼は、死に場所を探しているかも知れないから」

 別段慌てる風も見せず、ギルド員の青年は唐突に場に入って来た女性へ何事かと尋ねれば彼女の口より紡がれる、六郎に関する話を聞き入り暫し。
「‥‥思う以上に、難儀な依頼となりそうだな」
「すいません‥‥」
 先の浪人と知り合いである彼女が持ち込んできた別な依頼の話に対し、青年は嘆息を漏らすと表情を曇らせては再び詫びる女性ではあったが
「まぁ、分かった。弱き人を救うのが冒険者の役目であるのならそれもまた、依頼として引き受けよう」
 次に響いた、彼の言葉を聞けば感謝に絶えないからこそ何度も頭を垂れるのだった‥‥漸く、明るい表情を携えて。

「‥‥死に場所、か。その通りだ、否定はしない」
 果たしてそのやり取り、浪人も扉越しに聞いており‥‥女性の話を否定せず、漸くその場から踵を返す。
「だが、ただでは死なない‥‥皆が受けた痛みを僅かでも受け、一体でも多くの魔性を葬る。それを贖罪に、俺は‥‥」
 そして妖の血に塗れた刀が唾鳴りする中で彼は一つ、あれから未だ変わらない決意を改めて抱きながら血の紅にも似た夕焼けの中、その光の方へと向けて歩き出した。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:悪魔と鬼達に占拠された集落を解放しろ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 日数内訳:目的地まで二日(往復)、依頼実働期間は三日。
 対応NPC:浪人の青年、六郎(プレイングによる指示にて多少、行動を管理する事が出来ますが、状況によってそれは絶対ではありません)

〜集落等の状況に付いて〜
 周囲は目立った遮蔽物がなく開けており見渡しこそ非常に良いが、集落及びその近隣に櫓等の高い建物は特にない。
 また、土地を広く使っている建物も集落にはないので、恐らくは屋外に妖がいると思われる。
 因みに集落を占拠している妖だが鬼は中位程度、悪魔は低位の者しかいないもののその数は多く、悪魔の存在を考えれば一筋縄で行かない事は必死だろう‥‥それに真意も不明なまま故、その動向には十分留意する必要がある。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3988 木賊 真崎(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6321 竜 太猛(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb5988 バル・メナクス(29歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb9090 ブレイズ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●二つの、依頼
 晴れ渡る空、正しく秋空の下‥‥冒険者ギルドを前にして冒険者達が一行は集い、顔を合わせていた。
「久々の依頼でござるなぁ‥‥気合を入れていくでござるよっ!」
 その一行の中、晴れ渡る空の様な笑みを湛える恰幅の良い暮空銅鑼衛門(ea1467)が久し振りに赴く依頼へやる気の程を伺わせるが
「とは言え、中々に難しい依頼じゃな‥‥」
「えぇ。悪魔が動いていると言う話ですからもしかすれば黒幕が暗躍している可能性も十分にありますし‥‥油断は出来ませんね」
「だが我が剣は、魔を断つ剣‥‥侍となった以上、命を掛けて主君の為に武勲を立てねばならない。ならば西洋より来訪せし魔は必ず、討つ」
「後、それに‥‥」
 その内容を思い出しては武道家の竜太猛(ea6321)が厳しい表情を湛えたままに呟くと、それに応じる沖田光(ea0029)が頷けば今回の一件、考えられ得る可能性が一つを呟くもそれは意に介さず、外国よりジャパンを訪れ侍となったグレン・アドミラル(eb9112)が固い意思を雄叫びに変え、上げるがもう一つある問題を初めて目前にした随分と可愛らしい忍びの白井鈴(ea4026)が白き髪を舞わせてはそちらをチラリ見やると‥‥憮然とした面持ちで佇む、一人の浪人。
「辛気臭い御仁が一人‥‥あの方が六郎殿でござるな」
「その様ね」
 依頼人であるその彼を遠目に、銅鑼衛門が話通りの人物である事を察して微かに表情を曇らせるが、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は至って淡々とした調子で素っ気無く呟くと微かに鼻を鳴らすが
「‥‥確かに、死地を求める漢の目でござるなぁ。自らの閉ざされた心は自ら望まねば開かないでござるが、そのきっかけを掴む前に朽ちるのは残念」
「なればこそ、事を成す為にも先ずは多少なりとも揺り動かさねばなりませんね」
 彼女のその調子は特に気にせず、言葉を続ける銅鑼衛門へ同意と頷いたのは小面を付けている宿奈芳純(eb5475)‥‥果たして彼が今どんな表情を湛えているか、それは分からずとも一行は皆、揃い頷くとやがて誰から目的の集落を目指すべく歩き出した。

●震わせる、言霊
 そしてその道中‥‥一行は六郎と共に目的地を目指し、歩を進めては言葉を交わしていた。
 とは言え、そのやり取りの殆どは一行からの一方通行のみだったが。
「貴方の噂は聞いているよ。まぁ冒険者をする動機なんて人それぞれだけど、貴方の我侭で周りに迷惑をかける事だけは止めてね」
「迷惑‥‥だと?」
「迷惑、と言うのは貴方の死亡も含んでいるよ。だって共同者が死亡なんて後味の悪い迷惑行為に他ならないからね」
「その通りだ、此処で貴殿が突出すれば無用な肉塊を生む事になるぞ?」
 果たしてそのやり取り、最初に口を開いた神聖騎士がカイ・ローン(ea3054)の紡いだ言葉へ応じる六郎は言葉短く、瞳をすがめてはカイをねめつけるも‥‥涼しい表情は崩さないまま騎士は平然と頷けばパッと見、軽い印象を持つ志士が木賊真崎(ea3988)もその見た目とは逆、カイに同調して厳しい声音で口を挟むと
「救出が上手く運ばねば眼前での惨劇は止められん‥‥そうならぬ様に其の手で囚われている人を護ってやってくれ。頼む‥‥」
「‥‥‥」
「一つ問うが貴殿は今回も同じ失敗を繰り返し、村人を犠牲にしたいと言うのであろうか‥‥それは、違うであろう?」
 先の発言から一転して束ねている髪を揺らし、頭を垂れては願い出ると‥‥沈黙する六郎へ陰と陽を司る陰陽師の上杉藤政(eb3701)が今度、尋ね掛けるが彼からの答えはなく
「‥‥もしそうであるのなら此度は救出に専念して頂き、村の人々を助ける事に手を貸して貰えぬであろうか。これは貴殿だからこそ出来る事であり、貴殿が乗り越えなければならぬ傷を癒す為にも逃れられぬからこそ‥‥お願い出来ぬか?」
 だが六郎の事を思うからこそ言葉を続けては諭し掛け、やはり懇願するが‥‥沈黙は続いたままで、辺りには地を踏み締める音だけが響く。
「貴方は、助けられなかった方の分まで生きなければ行けません。貴方の命は、より多くの方の命や人生を救う事で初めて亡くなった方に顔を向けられるのです」
 それでも尚、屈強なるドワーフの騎士であるバル・メナクス(eb5988)が穏やかな声音で背を向けたまま、先を歩く彼へ呼び掛けると
「助けられなかった方の為に貴方自身、苦痛しか残せない生き方では許されません。亡くなった方は、この世界には何も残せませんから。だから、貴方だけが‥‥貴方の行動だけが、亡くなった方がこの世界に居た証になるのです。一人でも多くの方を救い、命と言う可能性を繋げる事で亡くなった方は初めて安心出来るのです」
「好きな事ばかり言って‥‥本当にこの業を、それだけで拭えるとでもっ!」
「それだけ、と言うにはいささか不適切だと思いますが」
「あの時ほど自身の不甲斐なさに‥‥弱さに虚しさと憤りを覚え、この身を刻む事以外に報いる術を知らなかった俺を‥‥お前達はっ!」
 六郎へ歩くべき道を言葉にして指し示すも遂に彼は感情を剥き出しに、自身の激昂を明らかにすればブレイズ・アドミラル(eb9090)がそれを否定するが‥‥尚も憤りを露わにして一行へ向き直れば彼。
「何が、何が分かると言うんだっ! 分かって‥‥たまるかぁーっ!」
 歩を止めて腕を振り乱し、拒絶の意を一行へ確かに告げるものの‥‥それを受けて尚、彼の眼前に小面をつけたまま、表情が分からない宿奈が六郎の前へ出ると
「‥‥貴方の人生は貴方のものです。『気持ちは分かる』等とおこがましい事は申しません。ただ、貴方の一挙手一投足に喜びもすれば泣きもする人間もいると言う事はどうか、忘れないで下さい」
 ただただ穏やかな声で彼へ少しずつ歩み寄りながら、しかし干渉する事無く言葉を投げ掛ければ息荒く肩を上下に揺する六郎とすれ違い様に呟いて宿奈が彼を追い越し、先頭をに立てば
「そう言う人間がいると言うだけで人は前向きに生きて行けると言う事は、何時か貴方にもご理解頂けると信じています‥‥私が申し上げたい事はただ、それだけです」
「でも死んでいい命なんて絶対にないよ。だからとりあえず、僕の目の前じゃ絶対に死なせないからねっ!」
 歩みは止めぬまま振り返らずに最後にそれだけを六郎へ伝えると他の面々もまた、これ以上は言葉を掛ける事をせず六郎よりも先を歩き出せばその殿‥‥鈴は怒りを露わに、面と向かってそれだけは告げて足音荒く皆の後に続けば一人、歩みを止め取り残される彼へ銅鑼衛門は問い掛けるのだった。
「さて‥‥六郎殿。此度の依頼、どの様な方針で動かれようか?」
「‥‥俺は‥‥」

 それから暫し、集落の近くに辿り着いた一行は村の状況を伺うべく一部の面子がそれぞれに策を講じ偵察へ向かうと出来たその暇、身を持て余す六郎だったが‥‥それは程無くして解消される。
「その程度、ですか?」
「ぬぉぉおっ!」
 その理由はカイが提案した、実践さながらの鍛錬によるもので二人は暫く刀と杖を打ち合わせれば、他の皆はそれぞれ準備に勤しみつつもその光景を静かに見守るも
「少し、休憩にしましょう」
 やがてカイが六郎の強烈な一撃を受け止めながら切り出した、休憩の提案に六郎はやはり静かに踵を返せば一人、草むらの上に寝転がっては相変わらず一行との距離を置く。
(「彼が強くなれば、心配の種は少なくなるかな?」)
「‥‥彼を死なせないし、依頼も確実に達成させる」
「‥‥えぇ」
 しかしカイはそれを別段気に留めず、むしろ顔を綻ばせては首を傾げながらも心の内で囁くと‥‥それを聞いた訳でもないのに真崎がボソリ、呟けば蒼き神聖騎士は目こそ見張るも直後に微笑を湛えれば同時。
「今、戻ったわ」
「あ、お疲れ様ー!」
「それで、様子はどうでした?」
 遮蔽物が殆どない中、それでも忍んでは村の近くへまで足を伸ばしその様子を瞳で見てきたアイーダが戻れば、労う鈴へ頷きだけ返すとグレンの問い掛けに彼女。
「確かに、村の外で鬼やら悪魔やらが徘徊していたわね。村人達の姿は見えなかったから、きっと‥‥」
「それぞれの家の中におり、出るに出られない様子ですね」
「あぁ、それに付いては間違いない」
 すぐにその答えを紡ぐもその途中、一行と同じ場にいながらも様々な巻物を用いて村の動向を伺っていた宿奈が続きを発すれば‥‥何時の間に戻ったか、藤政がやや薄汚れた格好のまま思考を巡らせる巨人の意に同意すると、宿奈は簡単にではあるが白紙の巻物に記した状況図を皆の前へ提示し、掴んだ情報に皆が集めた情報を書き足しながらその情報を詳細に話せば暫し。
「‥‥思っていたより、厄介だな」
「とは言え、引き受けた以上は確実に解決しないとねぇ」
「あぁ。となると予め、考えていた案で問題ないでござろうか?」
 やがて話も終わり、その状況に対して率直な所感を呟くバルだったが‥‥それには頷きながらもアイーダが淡々と呟けば肩を竦める銅鑼衛門ではあったが話を当初、打ち合わせていた作戦を現状に合わせて変えるべきか否か皆を見回し問うと
「下手を打たなければ、問題はないと思います」
「‥‥高みの見物をしている存在がいなければ良いのですが」
「それに付いては分からない以上、考えていてもしょうがないわ」
 賛成するカイに、しかし光は過ぎる不安を正直に口にするが‥‥それはアイーダの言う通り、今の所は捉えられていない事を考慮すれば表情こそ曇らせたままに火の志士もやがて頷くと
「‥‥まだか?」
「一両日、俺達に付き合って待った彼が痺れを切らしているのなら‥‥そろそろ動かないとな」
 話が纏まった事を察してか、六郎が声を響かせれば彼がいる方へ振り返って真崎は苦笑を湛えながらも言うのだった。

 そしてそれより、程無くして一行は妖らの手に落ちている集落と村人達を奪還すべく動き出した。

●明らかなる、陽動
 集落の周囲を巡る一体の鬼‥‥その役目は見たままに、周囲の警戒か。
 今までは特に何事もなく、長閑な風景の中を巡っては辺りを伺うその鬼だったが人の手で築かれた集落に来てより初めて今、異変を察知する‥‥それは遠目にだが見えた、一条の煙。
「‥‥ガッ?」
 さすれば首を捻る鬼だったが、その視界の中で天を目指し立ち昇る煙は次々にその数を増やしていくと流石に訝り、踵を返しては仲間を呼びに行こうとするが‥‥直後、今度は遠くから一つの爆発音が聞こえれば、そちらを見た鬼の視界には何時の間にそこにいたか小さな影が一つ、佇んでいた。
「鬼さんこちら、手の鳴る方に!」
 その影とは鈴、距離こそ未だ離れているが鬼と視線があった事を感じればすぐに大声で囃し立てると先の爆発音を聞き止め、村の中からバラバラと飛び出してくる鬼達を見るも
「うーん‥‥集まりが悪いなぁ。もう一回、やってみよっと。忍法、微塵隠れっ!」
 宿奈から聞いた集落にいるだろう鬼の数の割、出て来た鬼の数がいまいちな事を察するともう一度、先と同じ忍法を振るうべく印を組んではそれを完成させれば大気を震わせては爆音を周囲へ響かせると漸く、二度目のそれに応じる様に鬼達が集落の外へ次々と這い出して来た。
「うわっ、出てきた‥‥でも悪魔さんは動いていない、か」
 その光景を前に鈴は確かな物量を前に呻き、しかし黒い影が一つもない事にも気付くと暫し真剣な面持ちで腕を組んでは悩むが‥‥その間にも鬼達が土煙を上げて彼目掛け迫ってくれば一先ず考える事を後にして鈴は再三、印を組んでは決断するのだった。
「一先ず狼煙も上がったし一度、後退しよっ」

「‥‥どうやら、乗ってくれるみたいですね」
「それは良かったわ。でも、本当に遮蔽物が殆どと言っていい程ないのがねぇ‥‥」
「しょうがあるまい、だからこそ囮には持って来いだとも言えるが故に」
「‥‥ま、それもそうね」
 そしてその光景を遠目、光が果たして安堵しては呟くと準備をすっかりと終えていた他の面々が動き出す中、弦の調子を改めて確認するアイーダが今回の戦場に付いて所感こそ述べるも藤政が続き言葉紡げば、肩を竦める彼女に苦笑を返しながら
「他の皆も準備は?」
「‥‥問題ない」
 皆を見回し最後の確認をすると‥‥六郎の端的な答えと直後、皆も揃い頷けばそれぞれに向かうべき方を見据える皆。
「いささか遠回りになるからその間、頼んだでござるぞ」
「言われるまでもなく」
 六郎の傍らに立つ銅鑼衛門が陽動班に属する真崎へ最後に念押しをすると、確かに頷いて彼が応じれば皆は一斉に、宿奈が静かに響かせた声を合図に駆け出すのだった。
「それでは、動きましょう‥‥」

 そして遂に動き出す場。
 カイが陽動にと置いていった、岩石で出来たゴーレムがただ只管に鍋を叩いては甲高い音を響かせる中で戦闘が始まれば、その珍妙な光景の中において素っ気無い射手は村の方を見ては変わらずに一人ごちる。
「死に場所探し‥‥ねぇ、良く聞く話」
 それは村へ村人達の救助に向かった六郎の事を暗にも言わず指し、呟きながらも弓の弦を引けば矢を放つと‥‥最先にいた、大柄な鬼の首元を容易く貫いては嘆息を漏らすが
「でも取り敢えず依頼人に何かあっても事だし、早く鬼達を退治して村の方へ向かいましょう」
「あぁ‥‥!」
 口調は変わらず、淡々としたままだったが眼前に未だ多くいる鬼を見つめては最後にそれだけ言うと藤政も彼女に頷き応じれば、凛と声音を響かせて詠唱を織る。
「陽光の輝きよ、眼前の敵をただ焼き尽くせっ!」
 すると紡がれた言霊は辺りの精霊に働き掛け、降り注ぐ陽光を収束して放てば鬼達の進軍を阻むと
「行くよっ、獅子丸!」
 その機を逃さずと鈴、優れた忍犬である獅子丸と並んでは誰よりも前に立つべく駆け出せば小柄と手裏剣を強く握り締め、微塵の恐怖も見せずに鬼達の只中へ飛び込む。
「数だけで別段、取るに足らない相手ね。でも‥‥」
 その彼を支援すべく、先よりも更に速度を上げて矢を放つアイーダは確実に一体ずつ鬼達を屠っては手応えのない相手にやはり、嘆息こそ漏らすが
「弓使いにとって最強の敵、赤字は何時もの様に強敵ね‥‥」
 着実に減って行く矢を次いで見ると、彼女にとって唯一無二の悩みの種を自身でも知らず内にぼやき‥‥そのやるせなさを払うべく、また一匹の鬼を見つめては暫くそれを睨み据え眼光で射抜けば、程無くして同じ箇所を寸分違わず矢で貫いた。

●落ちたる、集落
「青き守護者‥‥カイ・ローン、参る」
 一方、陽動班が派手派手しく鬼達と平野にて戦闘を行う中‥‥その場を大分迂回する形で村人達を救出する一団は村へ辿り着けば、悪魔の指示か集落の内部に残っていた鬼達と接していた。
「手遅れになる前、全ての命を救い上げる‥‥俺は必ず、皆を守る」
 此処まで来た以上、密かにとは行かなくとも速やかに事を成すべくブレイズが静かに意気を吐いては魔剣を振るうと、崩れ落ちる鬼の傍らを駆け抜ける六郎だったが家の影に潜んでいた二匹の鬼には気付かず、側面より襲われる‥‥が。
「‥‥済まん」
「何、気にする必要はないでござるよ」
 間一髪、その場に割り込んだ銅鑼衛門が一撃を捌き、もう一撃は甘んじて自身の身で受ければ直後、振るわれた幾多の白刃の前に崩れ落ちる鬼を一瞥もせず無愛想に詫びる六郎へ笑みを返し、先に受けた一撃も気にする事無く恰幅のいいパラは応じるが
「しかし六郎殿、月並みの言葉じゃが‥‥お主の死んだ家族はお主の今の生き様を見て何と思うじゃろうな? 少なくとも喜ばず、きっと悲しむじゃろうて。死に急ぐ姿を決して望んではおらぬよ。戦って戦って戦い抜いて‥‥生きる為に足掻く事ぞ、お主の復讐では無いかと儂は思うのじゃ」
「‥‥‥」
 速やかにとは言え、先の彼の行動が突出し過ぎていた事を窘める代わりに太猛が初めて六郎へ声を掛け、尋ねると‥‥返って来る沈黙の中、それでも一団は村を疾駆しそれぞれに得物を振るうも
「今は判らずとも良い。じゃが身近に悲しむ者がおる事だけは覚えておくのじゃぞ」
「それ位、分かる‥‥」
「そうか」
 だからこそ先よりも声音を柔らかくして太猛が先を走る浪人へ呼び掛けると‥‥漸く、返って来た答えに微かだが表情を綻ばせると丁度、一つの目的の場へ辿り着いた一団は一軒の家の戸を開ければ
「皆、無事な様じゃの。ほれ、此処は危険じゃ。別な場へ避難しようぞ」
「人質に犠牲を出す訳にはいかん‥‥陽動班が作ってくれたこの機。村人達を皆、救出し一気に制圧する」
 その内部にいた、数通りの村人を見止めた太猛がいかつい顔を綻ばせれば一家だろう彼らへ呼び掛ける中で怯えの色が濃い彼らの顔を見てグレン、油断なく辺りを警戒しながら意を固くすれば暫くして後‥‥皆は再び疾風と化した。

 やがて村の外での戦闘による喧騒が徐々にだが静まる中で村の内部に潜り込んだ一団は着々と村人達の救出を果たし、民家が集中する一画へ彼らを集めていく。
「未だ姿を見せぬ悪魔が空を飛べる特性を考慮し周囲の見通しが良く、近くの村まで距離もあるとなると‥‥」
「一先ずはこうする他、ないだろうな」
 その銅鑼衛門の判断は確かなもので、宿奈も応じたからこそ先に集落の内部に入った面子は漸く、全員だろう村人達をその一画へと集め終える。
 それは一重に一行の迅速な行動もあり、また迂闊に屋外へ出なかった村人達の判断による賜物で‥‥そうなると浮かぶ、一つの疑問。
「しかし奴等は一体、何が目的なんだ‥‥未だ、悪魔は姿を見せぬし」
「‥‥確かに、じゃがそれは今此処で話すべき事ではないじゃろうな」
「皆さん、必ず村に居座っている悪魔に鬼は俺達が退治しますからそれまでは此処で静かにしていて下さい。それと怪我人がもしいましたら俺が治しますので遠慮なく言って下さい」
 そして密かにその事を呟く六郎ではあったが、同意しつつも太猛が宥めると‥‥先の六郎が呟きを掻き消す様にカイが笑顔を湛え、村人達の気を休ませるべく穏やかな声音で告げれば皆は表情を緩めるも
「でも、その前に‥‥」
 しかし直後、僅かにだけカイは瞳を細めると‥‥言霊を織り紡いだ。

 その傍ら‥‥陽動側の戦闘と集落内部の状況がほぼ落ち着いたと、テレパシーにて宿奈より連絡を受けたグレンはブレイズを伴い、陽動班と合流する前に逃げ遅れた村人がいないか、改めて集落内部を駆け回っていた。
「ん‥‥」
 そんな折、すぐ近くにある家の内部より物音が聞こえて来ればそちらの方へ頭を巡らせるブレイズ‥‥その民家の戸の脇に身を寄せれば静かにそれを開けると、グレンの瞳の中に一人の男性がいた。
「た、助けて下さい‥‥」
(「確か、此処は」)
『そこには誰も、おりませんよ』
 そして彼はすぐにグレンらの身形から冒険者である事に気付き、助けを乞うも‥‥脳裏に宿奈の声が響けば、ブレイズは僅かにも惑わず魔を両断する剣を振るい斬り付ける。
「ウギャアーーーーァッ!」
「ちっ、相変わらず姑息な手を」
『そうなると、他にも潜んでいる可能性が十分に考えられますね‥‥急いで下さい、何が起こるか分かりません』
「あぁ、言われずとも‥‥っ、もしかして」
 すると直後に響いた絶叫は人が放つとは考え難い、醜悪なもので‥‥それが崩れ落ちれば本来の姿を目の当たりに、巨躯の侍は舌打ちするも村人に化けている悪魔の存在を危険視した宿奈が囁けば言葉を返しながらブレイズは直後、嫌な予感を脳裏に覚えた。

 場面は戻り、村人達が集う場にカイの詠唱が凛と響き渡る。
「邪なる魔の手より救いしは、母なる結界」
 それは程無くして完成すると、村人達を囲う様に展開される筈だった聖なる結界はすぐに砕け散ると、その結果が示す唯一つの答えに至るカイ。
「どうやら、既に潜り込んでおる様でござるの」
「えぇ‥‥一寸、困りました」
 そしてその答えに彼同様、気付いた銅鑼衛門が厳しい表情を浮かべてボソリと呟けば騒然とする場にざわめく村人達を前、その事実を隠す事が何の利もないとカイも判断して応じると、どう対処すべきか暫し惑う冒険者らだったが
「六郎っ?!」
 誰よりも早く動いたのは六郎、太猛の制止より早く一人の村人が首筋へ刃を当てるも
「わっ‥‥私ではありません‥‥」
「‥‥っ」
 その身を震わせながら村人が果たして言葉なき彼の問い掛けに否定すれば、流石に逡巡する六郎だったが‥‥その刹那。
「‥‥クカァァァッ!」
 先に動いたのはその村人、奇怪な咆哮を上げると同時に六郎の迷いを察し咄嗟に身を屈めてはその懐へ飛び込んで彼の喉元へ本来の姿を取り戻した鉤爪を振るおうとし‥‥しかし、寸前で太猛の拳に阻まれて盛大に吹き飛ぶ悪魔。
「うっ‥‥うわぁぁっ!」
 だが直後、その光景を前に一人の村人が悲鳴を上げればそれを機にして他の村人達が立ち上がれば駆け出すと、一行が止める間も無くその家屋にいた村人達が屋外へ飛び出せば
「っ、これが狙いだったとでも言うのですか。ですがこれ以上は‥‥!」
「済まん、村人と共に悪魔が何体か外へ逃げてしまった」
 呻きながらもカイ、他の家屋にいる人々を宥めるべく村人達より僅かに遅れて他の民家へ駆け出すと太猛は細かくテレパシーの対象を切り替えている宿奈へ呼び掛け簡潔に状況を説明しながら、自身らは村人達を追うべく駆け出した。

「反撃の狼煙か、それとも逃げ出す算段なのでしょうか‥‥?」
 太猛の報告を受け、望遠視界を維持する宿奈は暫くしてから話の通りに集落の外へ飛び出して来た複数人の村人達の姿を見止めれば、その敵の意図に困惑を覚えるも
「ともかく、今はそれよりも皆を止めないとっ‥‥獅子丸も協力してね」
 今となっては一握りと言え、陽動に釣られ集落の外に引き摺り出した鬼が残り戦っている方へと向けて駆けてくる村人達を見やり、鈴が今成さなければならない事を皆へ声高らかにして告げれば愛犬を伴い、そちらの方へやはり駆け出すと
「皆ー、落ち着いて!」
 先ずは村人達の歩を止めようとその眼前に立ち、声高に呼び掛けるが‥‥目前にいる鬼よりも見えない恐怖が先に立つ村人達は彼の静止を聞かず、足を止めずに未だ戦場の方を目指す。
「この場面は‥‥そうですね、これでしょうか」
 だがこの様な場面においても冷静に宿奈は今、自身が振るうべき業を見出せば一瞬でその魔法の詠唱を構築し、完成させると近くにいたアイーダへ指示を出す。
「アイーダさん、あの青年の隣を駆けている女性を射抜いて下さい」
「‥‥分かったわ」
 その意図は言わないまま、しかし彼女はそれに応じると直後に間違いなく宿奈が指定した対象へ矢を放ち、穿てば叫びを上げる間も無くその女性は崩れ落ち‥‥そして真の姿である漆黒の塊と化すと、それを前にして漸く恐怖で凍り付いたか漸く歩を止める村人達。
「次は‥‥」
 そして敵意を探る魔法を宿す宿奈は内心で村人達に詫びながら、しかしその安全を守る為に慄然と佇んだままに揃い歩を止め、未だ敵意を剥き出しにしている存在を見抜いていく。
「正体さえ分かれば、こっちのものだ!」
 すうとその指示を前に真崎も対峙していた鬼を屠り、村人達がただ立ち尽くしている場へ駆け出すと‥‥いよいよ変化も意味がないと悟ってか村人達の中に潜んでいた悪魔は次々に正体を現すがしかし、村人を人質に取る事をせず一行とも対峙せずに翼を振るい空へ逃れようとする。
「力強き大地よ‥‥その力の枷、解放しては掌に集いて立ち憚る者、全てを薙ぎ払わん!」
 だがそれは阻むと真崎、凛と詠唱を紡げば掌に集めた大地の精霊より借り受けた力を解き放っては打ち落とせば、鈴が残る村人達を後退させる中で悪魔を退治する陽動班の皆だったが
「くっ、間に合わない‥‥?」
 何が起こるか分からない、混沌とするその場の中でただ一体の悪魔が他とは違う動きを見せて空の高みで反転し、背を向けている村人の一人へ突如として飛び掛ると‥‥村人達を先導する鈴がそれに遅れて気付き、慌てて駆け出すが漏らした呟きは現実になろうとする。
「‥‥やらせませんよっ!」
 しかしその前に漸く、最後の鬼を倒した光が間一髪でその場に焔の鳥と化して割り込めば紅蓮を撒き散らしながら拳を振るい、傷を負わせる事こそなかったが僅かな間ではあるが悪魔を一瞬だけ怯ませると直後、その悪魔は魔法と矢によってこの世より放逐された。

●平穏と、自由と‥‥そして
 やがて戦いは完全に終わりを迎える。
 最後の混乱にて負傷した冒険者や村人こそいたが、全体として見れば大きな被害はないままに今回の事件は無事に収束と言えよう。
「所で村長さん、この村には何か‥‥大切な品があったりしないでしょうか?」
「‥‥別段に何もないのじゃがの」
(「嘘を言っている様には見受けられませんね。そうなると、妖の本当の意図が分かりませんが‥‥一体、何を考えていたと言うのでしょう?」)
 そして集落へ久方振りに訪れた平穏のその中、村長と語らう光ではあったが思っていた答えは結局得られず、その声音から真偽の程を判断して宿奈は内心で呻く通りに妖の意図だけは分からず仕舞いのまま、今回の騒動が幕引きとなる。
「しかし、主らのお陰で助かったわ。皆を代表して礼を言わせて貰う‥‥ありがとう」
 だがそんな事には気付く筈もなく、一行を前に村長はやがて頭を垂れては礼を紡ぐとそれを皮切りに、漸く肩の荷が下りてか村人達は一斉に喜びの声を上げたり皆と握手を交わしたりと大騒ぎの一幕を次いで迎える。
「‥‥守る事が、出来た‥‥俺が‥‥?」
「見て下さい、村の人達のあの顔を。貴方にも誰かの笑顔を守る力があります。早く死んじゃったら、その可能性だって無くす事になるんですよ‥‥」
「命を護るは生者にしか出来ん。自身も他人も護り通すこいつが居れば大丈夫と、そう言われる男になるが貴殿の望みを真に叶える道だと思うがな‥‥」
 その光景の最中において静かに佇む六郎は成すがまま、村人達の感謝を受ければ呟くと‥‥光が初めて六郎と向き合い、笑顔を湛えたままに呼び掛ければ彼が何か言うよりも早く真崎も頷き言うと
「それに、貴方には心配してくれる人がいるじゃないですか。その人を悲しませる事の方が何倍も、罪だと僕は思います」
「そうじゃのぅ。もう少し、周りを見てやる事でござるぞ」
「‥‥そうだな」
 押し黙る彼の肩へ掌を置いて光‥‥その最後を締めるべく真面目な面持ちにてそれだけは確かに告げると銅鑼衛門も彼の意に同意すれば果たして直後に六郎は口を開き、僅かにではあったが表情を皆の前で緩めて確かに応じた。
「あっ、後‥‥」
「‥‥何だ」
 だが綺麗に纏まったその直後、何を言い忘れていたか火の志士が再び口を開けば無愛想な表情に戻った浪人は彼を見て問い質せば、光。
「死ぬのって、正直気持ちの良いものじゃないですから‥‥止めておいた方が良いですよ」
「‥‥覚えておこう」
「あぁ、是非‥‥頼む。そして良く、頑張った」
 再三に表情を変え、今度は苦渋を端正な面立ち一杯に満たして真剣な声音で彼へ確かな経験に基づいた死の感想を伝えると六郎は鼻を鳴らし、苦笑を浮かべれば藤政もまた浪人と同じ様な表情を湛えながらしかし彼を励まし、今までの行動を称えると
「これでめでたしめでたし‥‥かなっ?」
 そして最後、鈴が今度こそ場を纏めれば漸く冒険者達が皆も安堵にそれぞれが表情を緩めると‥‥その後、村人達に誘われるままに急遽催される事となった酒宴に参加しては今回の依頼の労を拭うのだった。

 〜終幕〜