【何でもござれ】憂さ晴らし
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月23日〜10月31日
リプレイ公開日:2007年11月01日
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●オープニング
●溜まる鬱憤
伊勢の市街、その中心にあるだろう藩主邸宅の内部。
「‥‥‥‥」
殴られ屋の京香はその二つ名に似合わず、机を目前にしては寡黙に筆を走らせていた‥‥時間にして大よそ、半刻程度。
「だぁぁーっ! あー、もう! 毎日毎日こんな事ばーっかり、やってらんないわよっ!」
「‥‥またか」
たったそれだけの時間にも拘らず彼女、遂に堪え切れず叫べば目の前の卓を盛大に引っくり返し、宙に舞わせると‥‥辺りを漂う和紙に撒き散らされる墨を一身に受けて、伊勢藩主が藤堂守也はそれを被っても至って冷静に嘆息を漏らすが
「悪いわねっ、生憎とこう言った仕事は性に合ってないの!」
「やれやれ、とんだ人物を組み込んでしまった様だな」
「それは元より、覚悟の上でしょう? あたし、事前に話したけれどねぇ」
「‥‥予想を遥かに超えていたものでな」
既に開き直っている彼女は尚叫べば、近くにあった手拭で顔を拭きながら藩主は呆れるが京香は鼻を鳴らすだけで再び嘆息を漏らしながら藩主。
「‥‥ならば、この案件を任せる。妖の討伐だ。これなら文句はないだろう」
「そうそう、こう言うのを待っていたのよ〜。どうにも最近、スッキリしない事が多くてね‥‥いい憂さ晴らしになりそう」
自身の近くにある和紙の束を弄り、やがて一枚を抜き出して彼女の眼前に突き付ければそれをひったくって京香は暫し目を通し‥‥やがて満足げな笑みを浮かべると
「人選は一任する、が今回も以前と同じく冒険者を雇ってくれ」
「伊勢藩士の皆が皆、可能な限り防衛に回している影響?」
「そう受け取って貰って構わない、今までもそうだったがまだ当分は何があるか分からないから下手に藩士を動かすのは避けたい」
その彼女を前、守也はただ一つだけの注意事項を言えば伊勢の現状から推測を並べる彼女へ頷くも
「でもさぁ‥‥その為に、尾張藩から兵が来たんじゃないのかい?」
「そうなんだが、余りに規模が大き過ぎるのがいささか‥‥な」
「まぁ‥‥難しい事はあたしがやる事じゃあないから良いか。それじゃ、張り切ってお勤めしてくるわ」
一つ、腑に落ちない点を口にする京香へ彼は珍しく浮かない表情を浮かべ呟くと‥‥やがて肩を落として彼女は自嘲の笑みを浮かべれば踵を返し、与えられた仕事をこなすべくその場を後にする。
「とんだじゃじゃ馬だな‥‥しかし彼女を擁する事、これが今は大事か」
そして襖が閉じられれば今日、何度目だろう嘆息を漏らす伊勢藩主はしかし奔放な彼女の存在を様々な意味で重要視するからこそ、縛り付ける訳には行かないと自身に言い聞かせれば
「しかし尾張藩、その意は果たして信じて良いものか‥‥?」
尾張藩から来た二千以上もの増援の兵と共に届いた文へ視線を落とせば彼は渋面を浮かべるのだった。
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依頼目的:妖を討伐せよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
対応NPC:藤堂守也(相談対応のみ)、殴られ屋の京香(同道)
日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●リプレイ本文
●密かな混沌
京都を発ち、伊勢を先ずは経由して一行は妖が蔓延ると言う森を目指す‥‥その前。
「宜しくお願いする」
「あぁ、こっちこそ宜しゅうな」
伊勢にて顔を揃えた一行の中、相も変わらず生真面目に挨拶から入る東雲八雲(eb8467)のそれを受け、顔見知りながらも商人の大宗院沙羅(eb0094)が腕を掲げては応じると
「今回は戦いやな。まぁ最近、運動不足やさかいその解消には丁度ええのかもなぁ」
「戦闘って苦手だからって避けてきたけど僕も十五歳は目前だし、一人前の魔女になる為にも克服するぞー‥‥おー!」
「‥‥‥」
伊勢藩主が邸宅を前、その依頼人が伊勢藩主の藤堂守也と同行人である殴られ屋の京香も前にしながら何処か気だるそうに、しかし言葉の割に瞳へは強い光を宿し言うと彼女に応じて派手な身形の陰陽師が慧神やゆよ(eb2295)も自身を鼓舞すれば、寡黙な侍の瀬崎鐶(ec0097)は一言も発さず、しかし二人に続いて一度だけ強く頷く。
「しかし、憂さ晴らし‥‥ねぇ」
「あんな仕事、あたしの性にあうかっての」
だが、今回の依頼内容‥‥と言うよりは同行人の心情に付いて改めて察した浪人の草薙隼人(eb7556)が呟くと、半眼湛えて彼を睨みつけては囁く殴られ屋だったが
「ま、俺も長い間机に向かってってのは苦手だし、その気持ちは‥‥分かる」
「だろ、そう言う事はやりたい奴に任せれば良いのさ。適材適所を敷かなきゃ効率なんてあがりゃしない」
「‥‥聞こえているのだが、京香殿」
「言っとくけど、悪気があって言っている訳じゃないからね」
掌を返し、その意に隼人が賛同すれば頷いて京香は大仰に肩を竦めては伊勢藩主が近くにいる事を気にも留めず断言すると当然の様に嘆息を漏らす藩主だったが、最後に添えられた言葉を聞けば難しい表情を湛える守也‥‥どうやら彼でも、殴られ屋の存在は手に余る様子が一連のやり取りから容易に見て取れ、揃い忍び笑いを漏らす一行。
「へぇ、あれが殴られ屋の京香か‥‥面白い。音に聞こえた姉さんと腕比べたぁ一興だ、ここは一発気張るぜ」
「しかし話と違わず随分と、破天荒な方の様で」
「そう、だな‥‥」
「まぁ、何と言うか‥‥」
「あ?」
そしてその光景を前、結城弾正(ec2502)は初めて対する彼女を見て尚も豪胆に振る舞えば、その彼とは逆に落ち着き払っている忍びの城山瑚月(eb3736)が冷静に聞いていた話と実物の摺り合わせを終え、苦笑を漏らしながら所感を述べれば果たして言葉を濁した八雲と榊原康貴(eb3917)は直後、彼女から睨まれる事となり弾正と瑚月の二人はそれを前に苦笑だけ交わす。
「そや、依頼はいいけどその辺の地図を先ずはくれへんか」
「簡単なものだが、これだ」
「‥‥でどの辺に出るんやろ。後な、予測出来る敵の能力も教えてくれへんかね」
「ふむ、話に寄れば‥‥」
しかしそんな折、意外と真面目に沙羅が依頼に対して藩主へ向き合えば‥‥やがて掴んでいる情報を交換し終えると一行は早く伊勢を発ち、目的地へと足を向けた。
●その道中
やがて一行、妖が跋扈すると言う森を目指して街道を突き進めばその道中にて伊勢藩主より得た情報を纏める。
「話を聞く限りではま、丁度良い相手か」
「‥‥でもどうせなら、もう少し強そうな相手の方がいいんだけど」
「勘弁、してくれ」
「‥‥でも空を飛ぶ妖も想像より、多いから‥‥それなりに手応えはあると、思うよ」
伊勢では良く見掛ける、妖の情報を一通り確認して頷く隼人ではあったが‥‥何処となく不満げな表情を湛える京香に、鐶が宥めんと声を掛ければ歩を進めながら喧々囂々と言葉を交わす一行だったが
「ねぇねぇ、殴り屋のおねぇーさん」
「ん、なぁに」
「僕の占いによると暫くの間、ドロドロでボロボロな目に遭っちゃうかも知れない人相が出ているから、気を付けてね♪」
その中で響いたやゆよの呼び掛けに頭を巡らせては京香、その呼び掛けに何事かと尋ねると‥‥果たして彼女の口からフォーノリッヂによって得られた占いの結果を聞いて京香。
「‥‥ドロドロで、ボロボロ」
「ふむ、それが真なら滅多に見られない京香殿が見られそうだな」
意外にもその手の類は信用するのか、彼女の言葉を反芻しては途端に浮かない表情を浮かべると珍しいその表情を前、康貴が檄を飛ばすべくして顎に生える髭を撫でながら密かに笑みを湛え呟くと唸る彼女。
「‥‥忙しい所、ごめんなさい。少し良いかな? この先にある、妖の出る森の事なんだけど」
「何じゃ、主ら。あの森へ行くのか‥‥となると」
「えぇ。伊勢藩主殿の命で、此方へ足を運んだ次第です。故に何かご存知の事があれば少しでも構いません、教えて頂きたいのですが」
も街道を進んでいた一行はその道中、傍らにある畑にて作業に勤しんでいた老人へと更なる情報を得るべく声を掛ければ鍬を杖代わりに地へ突き、一行を見つめて彼が尋ねるとその途中で瑚月が頷き、穏やかに応じれば老人も笑みを浮かべ皆へ自身が知り得る限りの話を語った。
●妖霧跋扈
そして森へと至れば一行は道中でも仕入れた情報を纏め、全てを統合するとすぐに森へ入り内部を散策しながらも妖の索敵を行うが‥‥初日は目立った動きがないままに夜を迎えると交代制を敷き、見張りを立てて一時の休みを取っていた。
「‥‥起きなよ」
「あ?」
やがて夜の静寂も終わりを告げ、太陽が昇り始めた頃‥‥場に響いた声は京香のもので周囲の空気を揺さぶればそれに反応して間抜けな声を発した隼人が程無くして起き上がると、それに釣られて眠りに落ちていた他の皆もまた身を起こすとその様子に嘆息を漏らしながらも彼女。
「近くまで、来ているよ‥‥」
「その様で」
果たして息を潜めたままに皆へ告げれば周囲の空気をいち早く察し、瑚月も自身で仕掛けた鳴子が微かにだが鳴った事に気付き頷けば、得物の短刀に手を伸ばし殴られ屋の様子を伺い‥‥内心でだけ驚く。
「‥‥うふふ、久し振りだね。この感じ」
それもその筈‥‥彼女の口より紡がれた言葉は正しく研ぎ澄まされた鋭利な刃、見開かれた瞳は肉食獣を連想させるが如く爛々と輝いており、余りの変貌振りを皆へ見せ付けたのだから。
「さて‥‥どうしてやろうか?」
「やりたい様にすれば良い‥‥出来るだけフォロー、してやるから‥‥」
「勿論、言われずとも宜しく」
しかし皆の反応には気付く事無く、京香がボソリ呟くと‥‥それに応じたのは八雲。
確かに彼女を見知る者でも今までに見た事のない表情に、しかし彼は驚かず何時もの口調で静かにそれだけ告げれば漸く、彼女は笑みを宿してその申し出を受ける。
「‥‥大丈夫かなぁ?」
「問題ない、私も出来得る限りフォローする‥‥つもりだ」
だが先の光景を前にやはり不安が先に立つ一行を代表してやゆよが首を傾げるが、康貴がすぐにその不安を拭うべく‥‥多少自信なさげではあったが断言すれば直後。
「じゃ、頑張っといで」
「あ‥‥?」
彼方を指差して沙羅が口を開けば、間抜けな声を発する康貴はその先を瞳で追い‥‥やがてさっさと影だけを見せる獲物目掛け駆け出した殴られ屋を見止めると慌て、駆け出すのだった。
●
そして程無くすれば森を訪れて初めて、妖の群れと衝突する一行。
「確か、この辺りは‥‥」
先を駆る京香に弾正の後、左手で油断なく大振りの脇差を構えながら右手に持つ長くて軽量な棒で地面のあちこちを弄り続く環が残る皆の先導を勤めれば
「此処から先へは、進まないで‥‥沼だから」
「忝い」
「確かに話の通り、数だけって感じだが‥‥足元にも気を配らなきゃならんとは何とも」
その途中で的確な指示を下すと感謝して康貴は京香らの後を追うが、余り慣れていない森の中での戦闘に戸惑う隼人は軽快な足取りで進む彼らとは裏腹、苦心するも
「移動の際は樹木に沿って動けば、ある程度は防げます。生木が深い水面に生えている事も余り無いでしょうから」
「成程、それなら‥‥!」
何時の間にか姿を消していた瑚月が姿を現し、連れて来た朧車を一本の樹の眼前で急な方向転換をしてみせれば、追撃してきたそれが樹へ強かに打ちつけられては動きが鈍くなった事を確認して後、隼人へ助言するとそれを試して見た後‥‥確かな事実に浪人が感心すれば早くも慣れてか、木々の根から根へと跳ねながら移動を続けては視界の中に蠢く屍を見止めると
「ちぇええぇーいっ!」
飛翔の勢いも加え、地へ降り立つと同時に頭部へ突き立てた刃を勢いのままに打ち下ろせば正しく死人憑きを一刀両断に切り裂く。
「くっ、疾い‥‥!」
その一方、一行の中で先を駆る弾正だったが京香の速度には付いていけずに舌こそ巻くも、木々の隙間から飛び出しては自身を挟撃せんと二体の死霊侍が殺到するとそれぞれに振われた刀は彼、左右に携える小太刀にて受け止めると返す刃で二体へ同時に得物を振るい叩き付ける。
「その程度であたしと肩を並べようなんてまだまだ‥‥」
とは言え、鎧を着込んでいる屍に梃子摺る弾正を傍目に捉えて京香は鼻を鳴らすが‥‥直後、盛大に隠れていた沼地へ一行の中で初めて彼女が足を落とす事となる。
「京香!」
「打ち落とす程の威力がないのは分かっているけど‥‥それでも、精度の高さと牽制になら!」
すれば唐突に視界から消えた京香と、次いでその場目掛けて空より群がらんとする以津真天を見掛ければ八雲、一先ず細かい狙いこそつけずにその場目掛け重力波を解き放てばやゆよは研ぎ澄ませた陽光を彼とは逆に確かな狙いを付け、次々に空を駆る魔物へ打ち込めば
「今の、内に‥‥」
「あぁ、済まないね」
「何やぁ、ノリが悪いのぉ。そないな事や、立派な漫談家にはなれへんで」
出来た間隙、漸く沼より顔を出した京香の方へ追いついた鐶が携えていた棒を差し出せば、それを掴みながら詫びる彼女だったが‥‥何時の間にか二人の元へ追い着いた沙羅、京香のリアクションが薄い事に肩を竦めると
「いや、なる気ないし‥‥」
「ほな、落ち着いた所でさっさと倒すで」
「あんた、人の話聞いてる‥‥?」
それには嘆息で返す薄汚れた殴られ屋だったが、その嘆息が響き終わるより早く商人が身を翻せば、怒気も露わに彼女へ迫らんとする京香。
「‥‥それよりも、まだ敵はいるよ?」
「あぁ‥‥もう、分かったよ。でも、後悔しても知らないからね」
「たーすーけーてー! やっぱり戦闘は‥‥きらーい!」
しかしそれは鐶が宥めればやがて折れる京香、止むを得ず二人へ頷き返すと何時の間にやら怪骨等に囲まれているやゆよの助けに向かうべく、駆け出した。
●衝動の、その内
そしてその日の夜、一先ず目立った群れを掃討した一行は翌日に備えて変わらず警戒を厳にした上で早々と休みに入る。
「現状、どう感じている?」
「は‥‥?」
その折、見張りとして起きていた京香は燃え盛る薪を挟んで向こうに佇む康貴より唐突に声を掛けられ、間抜けな声を返すと
「今、京香殿が置かれている状況だ」
「あぁ‥‥そうねぇ、思っていたよりも伊勢は悪くない所だよ」
それに苦笑を浮かべ、侍が言い直せば漸く何の事に付いて尋ねられているのか思い至った彼女は妖との戦闘の際に見せ付けていた荒々しい表情とは全く異なる、何処かぼんやりとした表情を浮かべ天上にて輝く月を見上げれば彼の曖昧な問いに、曖昧な答えを持って京香は返すも
「でも、国司が自身の父親かも知れない事に正直‥‥実感は沸かない。ま、その存在すら今まで考えた事もなかったから当然だけどね」
「伊勢の国司さんが‥‥殴られ屋のおねーさんのお父さん?」
「そう、なのか」
「そっちのお壌ちゃんはともかく‥‥話していなかったね」
次には突然、伊勢藩との繋がりを告げた彼女に大きな瞳を尚も見開いて驚くやゆよに、康貴もまた驚きを隠し切れず一言だけ言葉を漏らすと今更の様に気付いて肩を竦め、苦笑を浮かべる彼女。
「あたしが捨てられた時、唯一つだけあったのがこれ。そしてこれと同じ物をあの時、見たんだよ」
「だが、それだけでは」
「そ、これだけじゃあ確かな証拠とは言えない。でもね‥‥」
やがてポツリ、真実を語り出せば何時も持っている根付をひらつかせながら伊勢国司邸宅潜入の際、単身で動いていた京香が果たして何を見付けたのか初めて知れば康貴は明らかな動揺を表情に表す殴られ屋を宥めるが‥‥それでも言い淀み顔を俯け、揺れる彼女に果たして康貴は掛けるべき言葉を見失えば
「余り難しく、考えなくてもなる様になると思うよ。京香お姉さんが思う方に‥‥ね」
「そう、だな‥‥イメージする事は大事だと思う」
薪を種にして燃え盛る炎の影に潜む京香へ、だからこそやゆよが笑顔を湛え明るい声音にて何を根拠にしてか断言すると、目を見張る京香だったが康貴もその後に何とか続けば漸く落ち着いてか、一度だけ呟けば顔を綻ばせるのだった。
「‥‥そっちの方がよっぽど、簡単で良いねぇ」
それからより後、森の中へ分け入っては隠れている沼地に気を配しながら断続的に流離う妖との戦闘を続ける一行は着実にその数を減じて行き‥‥。
●終わりは見えぬも
やがて依頼を確かに果たした一行は期日通り、伊勢へ舞い戻ると藩主が邸宅の前へ居並べば皆の元へ足を運んだ藩主に皆を代表し、八雲が簡潔に報告を行う。
「今、戻った‥‥何度も見回り、確かに妖の全てを掃討した事を確認した」
「そうか。何時もとは言え皆、ご苦労だったな」
「あの程度、造作もなかったぜ」
それを受け、顔を穏やかに緩めては皆をも見回し首を縦に振っては応じると、鼻を鳴らして弾正が強気にこそ応じるが
「‥‥その割、所々で追い詰められていなかった?」
「気のせいだ」
直後、すぐに戦場での一端にて展開されていた光景を記憶する鐶より突っ込みを受ける事となるが、それはサラリと流す侍に事実を述べた彼女は肩を竦めるだけ。
「どや、うちを偵察隊の一員にする気になったか」
「‥‥設立する予定はないのだが」
その光景を前にして伊勢藩主は苦笑を浮かべるも、何時の間にか歩み寄った沙羅より声を掛けられればそれには困惑を持って応じると彼女。
「冗談や、でもその気があったら何時でも声を掛けてぇな」
「余り、望ましい事ではないが‥‥その時はな」
笑顔を浮かべればその肩を叩くと‥‥それは彼女が言う様に冗談と知りながらも、だからこそ渋面を湛えては答える伊勢藩主だったが
「一先ず、此度も皆の協力に感謝する。未だ伊勢は先も見えぬが皆の協力もあればこそ、必ずや闇は晴れる筈。故に済まぬがもう暫しの間、宜しく頼む」
「えぇ。冒険者である限り、私達で出来る事があれば何時でもお呼び下さい」
その表情を覗かせたのは僅かだけ、すぐに普段の表情を取り戻すと皆へ視線を移しては未だ変わらぬ伊勢の実情をも確かに告げるが、それでも瑚月は穏やかな声音にて確かに応じる皆に藩主は深く、頭を垂れるのだった。
〜一時、終幕〜