●リプレイ本文
●戦いに非ず
京都、冒険者達が常日頃より集うギルドを前に集まった七人の冒険者。
「遅れて馳せ参じた上に一人だけ、異邦人ではありますが‥‥改めて宜しくお願いしますね」
「まぁ細かい事は気にしなさんな、今となっては悪魔も渡ってくるんだからそう珍しい事でもないしさ」
「あぁ、こちらこそ宜しく頼む」
相談を経て後、英国生まれの魔術師がシャルディ・ラズネルグ(eb0299)が遠慮がちに声を響かせては皆を前に頭を垂れれば、しかし頴娃文乃(eb6553)が屈託なく微笑み言うと東雲八雲(eb8467)もまた淡々とではあったが彼に応じると漸く顔を上げ、微笑むシャルディ。
「うーん、しかし狼の群れねぇ。向こうから人里に近付くって言うのも珍しいわよね」
「そうだね」
しかしその次、先までの笑みは僅かに残すだけで文乃が今回の一件‥‥とある村の近くにある山の麓にまで下りてきているにも拘らず何もして来ないと言う狼の事に付いて思考を巡らせ呟くと、同意と言う代わりに頷いて紅林三太夫(ea4630)。
「でも、こう言うのも悪いけど今回の一件は面白い事態だよ。猟師として興味が尽きないね」
「意図的に人間を襲わないって言うんだから、食料が枯渇してるって感じでも無さそうだし‥‥うーん?」
パラと言う種族故に背丈こそ回りの者と比べれば低いが、猟師として確かな腕前を持つ彼だからこそ稀有だろう今回の事態に対して率直な自身の感想を詫びながら紡げばそれを聞いて尚、腕を組んで益々考え込む文乃だったが
「今まで被害が出なかったからと言って、これからもそうだとは限らない。このままの状況が続けば村人か狼のどちらかが深刻な事態に成りかねない以上、双方の為にも早急に解決する必要がある」
次に響いた、逞しい体躯を誇る侍が結城弾正(ec2502)は確かな事だけ告げるとそれには頷きだけ返す彼女。
「でもでもでもっ! 今回戦うのは‥‥どーしようもない最後のさいごのトドメの最後、せーいっぱい戦闘を回避しての平和的解決を目指そうねっ!!」
「そうだな、出来る限りの事はしよう‥‥」
「魔法少女は泣かない負けない諦めない、の三拍子が揃っているんだよ♪ だからきっと諦めない限りは大丈夫だから‥‥頑張ろうね!」
「あぁ‥‥それでは、そろそろ行こうか」
しかし見た目、陰陽師には見えない陰陽師の慧神やゆよ(eb2295)が声高らかに今回の依頼、望むべき姿勢に付いてはっきり告げると静かに八雲も頷くが‥‥その反応でも不服としてか八雲の彼の肩を叩いてやゆよ、自信もたっぷりに彼を励ますとやがて苦笑を湛える彼は頭上を見上げ、意外にも高い位置にある太陽を見つめれば皆を促し件の村へと向け歩き出した。
●
「村へ着く前に一通り狼に付いて聞いておきたいのだが‥‥詳しく、いや‥‥大まかでも良いので説明願えないだろうか?」
「そうねぇ、何から話したものかしら?」
「えーと‥‥」
果たしてその道中、今回の依頼に深く関わる狼に付いての疑問が出るのは必然で‥‥八雲のその問い掛けに対し、艶っぽく笑みながら文乃は自身が知る知識の中からどれだけ話したものか逡巡するが、やゆよは頭こそ巡らせるもすぐに僧侶より早く口を開く。
「狼は肉食で、鹿や猪とか小動物を食べるのは皆知っているよね?」
「それは基本でしょう」
「うん。でも、餌が少ないと人間の生活圏で家畜とかを食べたりもするって言う話は‥‥確かにあるみたい」
「だが今回の件は今の所、大した被害は出ていない」
「‥‥そこが腑に落ちない所なんだよね」
すると最初の解に対し、シャルディは微笑みながら頷くと次いで首を縦に振る陰陽師がその延長線となる、今回の件にも関わる筈である狼の食生活に付いて語るがそれを聞いた弾正の口より吐いて出た、村の現状に当然ながら首を捻るやゆよではあったがその話題は色々と情報を集めない限り結論に至らないと察し、話題を変える。
「後、狼はボディランゲージや表情、吠え声とかを使って群れの内外とコミュニケーションを取っている、って言う話を聞いた記憶があるけど‥‥」
「そうね、そして表情や仕草は群れの順位を確認する際に良く使われるわ。遠吠えは群れの仲間との連絡、狩りの前触れ、縄張りの主張等の目的で行われ、それぞれ吠え方が異なると言われているわね」
「‥‥へぇ、成程」
その次に触れた話題、それは狼のコミュニケーションに付いてで大まかにこそ理解している一行だったがやゆよと、その彼女の後に次いで補足する様に事細かく話す文乃の話を聞いて感心する三太夫。
「それと狼は雌雄のペアを中心とした二〜二十頭程で社会的な群れを形成する。それぞれの群れは縄張りを持ち、縄張りの外から来た他の狼は大抵追い払われるわね」
「そうなると、あの山一体を縄張りとする狼とは違う群れが近付いている?」
「どうかしらね‥‥ま、取り敢えずはこんな所かしら? 知っている事はまだあるけど」
「聞きたいっ!」
その彼の反応に際し、自身が褒められたかの様に文乃は頷き応じると群れに関する話が出れば響いた、八雲の問いに対し首を竦める文乃だったが直後に自身が随分と饒舌になっている事に気付けばやがて、話を打ち切ろうとするがそれでも瞳を輝かせてはやゆよに迫られると彼女は暫しの沈黙の後、口を開いた。
「それじゃ、狼の群れってのはね‥‥」
そして、それより暫し文乃の狼談義が続けばやゆよ以外の皆がそろそろ疲労を覚えた頃になって一行は漸く、件の村へ辿り着くのだった。
●村に至りて
だがその疲労感を拭うより先に村へ至った一行は早速散開し、それぞれに村人達から情報を集めるべく駆け回る。
「済まない。山の麓へ現れる様になった狼の件に付いて、解決すべく派遣された冒険者だが‥‥もし知っていたらで構わない。狼に遭遇した大体の場所と時刻、その時に狼を見て気付いた事があれば教えて貰いたいのだが‥‥」
「実際に出くわした事はないからまた聞きになっちまうけど‥‥時間帯は別に決まっていないみたいだな、決まった場所を通れば必ず出くわすみたいだぜ。極稀に会わない事もあったみたいだけどな。後は、そうだなぁ‥‥狼達は現れてもその場所から一歩も、動かないって事位か?」
「そうか‥‥」
その中の弾正、果たしてすぐに出くわした中年の男性へと開口一番に問えば返って来た答え‥‥と言っても冒険者ギルドにて見た依頼書より少しだけ詳しい話に内心で嘆息こそ漏らすが、しかし確証を得た事には違いなくもう一つだけ質問をぶつけた。
「そう言えば最近、子犬やらを飼い始めた家はないだろうか?」
その一方で八雲、歳若い青年の猟師に礼儀正しく挨拶を交わした上で弾正とは別の質問をぶつけていた。
「そう言えば最近、酷い崖崩れがあったなぁ」
その質問とは最近、この一体で自然現象等の異変が無かったか‥‥と言う事だったがそれに対して響いた青年の答えに微か、眉を揺らして志士は再びに問う。
「それは‥‥どの辺りで、何時頃の話だろうか?」
「まだ一ヶ月も経っていない、かな。細かい場所は分からないけど山の中腹辺りだったと思うよ、幸いにもこの村にまで被害は及ばなかったけどあの時は結構な騒ぎだったなぁ」
するとそれにも青年、すぐに答えを紡げば思考を巡らせながらも志士は静かに頭を垂れ、一礼すれば別の村人にも話を聞くべく動き出した。
対してやゆよ、皆の様に村人との会話だけではなく魔法による未来視をも行う。
「不可視の未来‥‥その一時、少しだけ私に見せて」
様々に分岐する未来の、その一端を垣間見るべくフォーノリッヂの詠唱を紡ぐと程無くしてそれが完成すれば僅かにだけ見えた、一行が努力をせずに迎える筈である一つの可能性を垣間見る‥‥それは一匹も残らず地に伏し、僅かな動きすら見止められない狼達の姿。
「うーん‥‥やっぱり、頑張らないとねっ」
それを前にして彼女、未来視とは言え果たしてそれを当然と受け止めれば必ずその事態は防ぐべく意気込んで頷けば再び、村内を駆け回るのだった。
●
やがて目処も立ち一通りに村を回り、話を聞き終えたそれぞれが一つ所へ集えば得られた情報こそ交わすも
「最近、村内で子犬を飼い始めた家もないとなると‥‥」
「村に仲間やらが保護されている可能性は極めて薄い、と言う事になるね」
その話を集約して弾正、一先ず件の原因が村にはないだろうと単身にて密かに山の様子を先行して巡っていた三太夫と揃い大雑把にではあるがそう結論付けると、シャルディは村より見える山を見上げては呟くのだった。
「そうなると後は、あの山に答えがある様ですね」
●山の闇、響く‥‥
翌日、朝も早くから一行は山へと足を伸ばす‥‥狼達がその麓まで降りて来た原因を特定し解明する為、また可能性としては低いが村にも及ぶかも知れない危機を未然に防ぐ為に。
「崖崩れはこの辺りから上の方で起きた、と言う話だったよね?」
「あぁ、こうも荒れている様を見れば間違いないだろう」
「でも今は‥‥いないみたいだね、餌を探しに行っているのかな?」
「そうかもねぇ。狼の群れに出くわさなかった村人達は丁度、此処を離れていた時に通った‥‥と」
「それなら今の内に少し、辺りの植物から話を伺ってみましょう。きっと何か、知っている筈でしょうから」
そして一行は狼達を見かけた場へ辿り着くと暫し言葉を交わし、視線を彷徨わせては場の検分をする中でシャルディは近くの植物より詳細な情報を得るべく、グリーンワードの呪文を織る。
「大地に宿る、小さき生命‥‥願わくば、私の声に耳を傾け応じて欲しい」
『‥‥構わない』
「狼の群れは何時からこの辺りにいますか?」
『昔‥‥』
すれば完成したそれにどの植物かは分からないが応じると、微笑を湛えて彼は普段言葉を交わす事が出来ない植物と語らう‥‥が最初の疑問は曖昧な解だけしか得られず。
「狼の群れの中に動けない狼はいますか?」
『いる‥‥』
(「そうなると、その動けない個体の為に狼達がこの辺りにいるのは間違いない様ですね」)
しかしその次、一行が予想していた解の一つを率直に尋ねると‥‥それには果たして応と答える植物にシャルディは一先ず、皆の予測が当たった事に安堵するも更に詳細な情報を手に入れるべく尚も自身が気になっている事柄に付いて尋ねる。
「動けない狼の状態は?」
『生きている‥‥』
「狼の群れのボスは人? それとも、獣?」
『獣‥‥』
「ならば、その獣の特徴は?」
『大きい‥‥』
すればまたしても返って来た収穫に頷くが、その時になって魔術師はとある事に気付いた。
「そう言えばやゆよさんは?」
「あぁ、彼女なら‥‥」
●
「これ以上離れると危険だな」
「それじゃ、僕はこの辺りの植物さんからお話を聞いてみよっと」
そのやゆよに八雲、皆より多少場を離れては何事をするかと思えばシャルディとまた同じ事を、但し別な場所にて行っていた。
「あけびとか秋の味覚がおいし‥‥じゃなかった。狼さん達は何かあったの?」
『下りてきた』
「(それは知っているんだけど‥‥)最近山で怖い事、何かあった?」
『崖崩れ』
そして巻物広げ、グリーンワードの呪文を完成させた彼女はすぐに反応のある植物へ呼び掛けるも、返って来たそれらの答えに対してやゆよは嘆息を漏らしながらもしかし暫く話し込めば‥‥大した情報は得られないまま、小さな命との対話を終える事となり一先ず八雲へその話をあるがまま告げると、一先ず村人から聞いた話と整合性が取れた事を収穫とすれば彼。
「‥‥村人達の話と、辻褄は合うな。そうなると‥‥一先ず、戻る事に」
踵を返しては陰陽師を促し、一行の元へ戻ろうとするが‥‥その言葉の途中、乾いた枯木の枝を踏み砕くと直後に殺気が周囲で膨れ上がった事に気付いた。
●その謎、明らかに
「‥‥と言う事で、恐らくこの辺りに動けない狼がいる筈です。その個体さえ動ける様になればきっと」
「それなら他の狼達がいない今の内に探してみようかね」
「そうだな。今なら正に好機」
一方、植物達より良き情報を得たシャルディ達はすぐに話を纏めると近くにいるだろう狼達の捜索に当たれば、暫く後。
「うん‥‥見付けたよー」
三太夫が静かに場へ声を響かせると、果たして一斉に三人は彼の声が響いた方を見やるが直後、響いた一つの遠吠えと草を荒く掻き分ける足音が二つ場に響き
「‥‥済まん、下手を打った」
「ごめーん!」
次いで草むらの向こうから八雲とやゆよが姿を現すと何事か早々に詫びると同時、周囲より地を蹴っては迫る幾多の足音を一行は耳にする。
「何時戻ってきても可笑しくない状況だったんだから先ずそれを気にするよりも少しだけ、時間を稼いで貰えるかね? その間に治療、済ませるからさ」
「‥‥分かった」
それが何か察すれば、しかしあっさりと文乃は二人へそれだけ告げると三太夫と小さな狼がいる方へ駆ければ、一行は彼女を守る様にその周囲を囲むと狼達が木陰より一斉に姿を現すが、その刹那。
「悪いけど少しだけ、そこから動かないで貰えるかな? 何も悪い事をする訳じゃ‥‥」
すぐ見付ける事が出来たその群れの頭だろう、一回り大きな狼の足元目掛けて狙い過たず、何時の間に樹上へ登ったか三太夫が矢を放ち牽制するが‥‥それには怯まず、狼達は尚もその包囲網を縮めてくる。
「やはり、聞いてはくれないか」
「弾正、峰で応じてくれ!」
「分かっている!」
すれば応じる他に無い一行は止むを得ず、得物を手にするも八雲と弾正がやり取りの様に狼達を傷付けるつもりはなく、それぞれに防戦に回る事とするが
「だけど、これだけ数が多いと‥‥っ、文乃さん!」
しかし、数で勝る狼が容赦なく一行へ飛び掛って来ればそれを凌ぐのも厳しい一行はやがて輪に綻びを生み‥‥そして大きな狼がその綻びから輪の内にいる文乃の喉を切り裂かんと、牙を剥いて飛び掛ろうとする!
きゅう〜ん
だが、寸での所で彼女は巨躯の狼のその眼前に小さな狼が掲げると小さな狼が可愛らしい鳴き声を上げれば、それを機にして荒々しく動いていた場が唐突に静まり‥‥それと同時、文乃は小さな狼を掲げたまま安堵の溜息を漏らすのだった。
●
それから程無くして山中へと姿を消した狼達を見送って後、一行は依頼の解決が達成された事に漸く安堵を覚えれば既に姿を消しているにも拘らず、狼達が去った方を見つめて三太夫は呟いた‥‥厳しい、現実を。
「もう麓にまで降りて来ないで下さいね。また同じ事が起きた時‥‥その時はその経緯に関わらず、どうなるか保証出来ないから」
「ですが、出来得る限り人と獣と自然‥‥その円環はお互いに守って行きたいですね、これからも」
だがそれでもシャルディは頷きながら、彼へ穏やかに応じれば皆も頷くとやがて一行は踵を返して平穏を取り戻した山より去るのだった‥‥これからまた、人も狼も平和に日々を過ごせる様にと祈りながら。
〜終幕〜