死の村

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:9 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月23日

リプレイ公開日:2007年11月23日

●オープニング

●再び、動き出す
 忘れ去られた村、何があって朽ちたかは今となっては知る者も少ないだろう風雨に晒され、嵐に穿たれ、今にでも崩れ落ちそうな廃屋だけが数多ある村の名残だろうその場に、何時消えてもおかしくないおぼろげな人影が一つ佇んでいた。
「‥‥‥‥」
 何を思ってか、ただ佇んでいるだけの『それ』はやがて口を開く。
 知恵等既に失われたと等しく、言葉を発する事はないが‥‥それでも呪詛を紡がんと『それ』が口を開けば、周囲に立ち込める憎悪に呼応してか地面のあちこちが盛り上がると幾多の手が現れ、地を掴んでは地上へ次々に姿を現す死者の群れ。
「‥‥‥」
 その光景を前に、感情等も憎悪以外にある筈はやはりなく‥‥しかし『それ』は淡々とした表情を浮かべたまま、再び現世へと出でた彼らを見つめればやがてその姿を消すのだった。

●それぞれの思惑
 数日後、伊勢藩主邸宅‥‥またしても藩内で死者の群れが沸いた事に藤堂守也は頭を抱えていた。
「場所的に重要な位置ではないが、さて‥‥」
「どうしたって?」
 すると丁度その時、近くを通り掛かった十河小次郎が果たして問うと守也。
「また死者の群れが沸いて出た様だ。既に朽ちている村で周囲に目立ったものもない場ではあるが」
「放置‥‥は余り懸命ではないだろうな。今の情勢を考えれば今後、どう影響してくるか分からない以上」
「そうだな、数が多いのがいささか難だが」
 隠す必要も無く彼の疑問に応じれば、彼の意を聞いて後に一度頷くも直後に伝えられた報告を思い出し、詳細が記された文を見ては渋面を浮かべるも
「‥‥この程度ならあいつらで十分でしょ? 一寸厄介そうな奴もいるみたいだけど」
 横からその文を取り上げては鼻を鳴らし、今まで大人しく書類の整理に励んでいた殴られ屋の京香が鼻を鳴らし言うと
「小次郎。冒険者ギルドへこの件、死者の放逐と現場の調査を依頼として請け負って貰える様に打診して来て貰えるか?」
「分かった」
「あたしは?」
「待機だ。先の一件から下手には動かせない事が分かった故、暫くは大人しくして貰う」
「‥‥ちぇ」
 やがて伊勢が置かれている現状故、藩主は一つ判断を下せば小次郎へそれだけ願い出ると、応じる彼に続いて尋ねる京香ではあったがにべもなく守也が首を左右に振れば舌打ちと共に休憩か、部屋を辞する小次郎の後に続いて彼女もその場から消えれば途端、静まる部屋の中に一人残された藩主はボソリと囁くのだった。
「しかし、この辺りは確か‥‥」

 同じく伊勢、二見の海岸沿いにそびえる斎宮。
「最近、亡霊共が騒がしいな」
「みたいだねー、何でかな」
「さてな」
 既に日も落ちた中でその頂に立ち、遠くを眺めては呟いた焔摩天に妖孤も同意するも‥‥その理由までは知らず尋ねるが、その一件に付いては焔摩天も与り知らぬ所らしく素っ気無く応じただけ。
「‥‥様子を見て来い。上手く行けば取り込めるかも知れん」
「えー」
「‥‥余り期待はしていない。恨みでしか動いていない存在故に様子を見てくるだけで構わない」
 しかしそれでも思考が纏まれば一つ、眼前の妖孤へ命令を下すと不満を露わにする狐を見つめ‥‥だが表情は崩さないまま、珍しく宥めれば
「だが、今後に上手く影響すると言うのなら‥‥支援して然るべきだろう。恐らくはそれだけの力を持っている筈。だからそれを見定めて来い」
「‥‥眠ーい」
「‥‥‥」
 次いでその理由を告げる焔摩天だったが、妖孤の口から返って来た全く関係のない答えを聞くと流石にまなじりを吊り上げ、鋭い眼光を湛えては一瞥すれば妖孤が一匹は言うまでも無く、その場より飛び去るのだった。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:死者を放逐し、場の調査まで行え!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 対応NPC:十河小次郎(ez1039)(同道せず)
 日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間(調査含む)は四日。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0524 鷹神 紫由莉(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb9091 ボルカノ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●不穏なる伊勢
 京都を発ち、とある依頼を受けた一行が先ず向かう先は伊勢‥‥今までの経緯とは裏腹に此処最近、不気味なまでに静まり返っているかの地にやがて辿り着けば此度の依頼人と顔を合わせ、談笑を交わしつつもやがて誰からか本題を切り出せば
「伊勢に死者の群れが多く現れる様になった、これは何かが始まる予兆なのでしょうか」
「この時この地に出てくる死霊達が示す意味、ね」
 穏やかな笑みを湛えながらも最初に鷹神紫由莉(eb0524)がある程度とは言え最近の情勢を押さえているからこそ呻くと、嘆息を持って応じたのは伊勢にて桃色侍の名で通っている様な鋼蒼牙(ea3167)で、その二つ名からは想像に難い真面目な表情を浮かべるが
「一先ず、肝要なのは死霊達を現世(うつしよ)より放逐する事か」
「十種之陽光の巫女としてその地、必ず清めましょう」
「えぇ、そうですね」
 一先ずの指針をガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が指し示すと頷き応じる紫由莉に、彼女とは質の違う無駄に明るい笑顔を宿した大宗院鳴(ea1569)が言葉を響かせると伊勢の巫女達は結束を固くする。
「しかし死者でござるか。黄泉人の様な厄介な者達でなければ良いのでござるが‥‥」
「今までの傾向からすれば、癖のある奴は多くいない筈だがそればかりは何ともな」
「ですが今の情勢を考えると、思わぬ相手が潜んでいる可能性は十分にありそうですね」
 その傍ら、完全に見えぬ全容から密かな不安を抱く香山宗光(eb1599)へ依頼人である十河小次郎が肩を竦め応じれば、巨躯の騎士がボルカノ・アドミラル(eb9091)が穏やかな声音を響かせれば傍の女性陣とは対極、静かに言葉交わす男性陣。
「朽ち果てし村、か」
「‥‥何か?」
「心当たりがある気がするのだが‥‥思い出せん」
 だが一先ず、小次郎から聞く限りの話を聞き終えた一行はやがて踵を返せば件の村へ向かうべく動き出し‥‥しかしその中、ガイエルの口から囁かれた言葉を聞き止めたカノン・リュフトヒェン(ea9689)が黒髪を靡かせ素っ気無く尋ねるも、しかし彼女はすぐに首を捻るが
「そう言えば以前、女の死霊を結局逃してしまった事があったが‥‥それと関連があるのやもな」
「死人対策と云えば塩です。『白塩』の使い手の異名を持つわたくしに任せて下さい」
『‥‥はぁ』
 その際に巡らせた思考の欠片より、今回の一件にもしかすると絡んでいるかも知れない事象を思い出し、瞳を細め囁けばその時に何を思うかガイエルの心情を察し‥‥ている筈はなくしかし、努めて明るい声音で鳴が笑みを湛えたままに皆を見回し断言すれば生返事を返す一行だったが
「何はともあれ、参りましょう。被害が広くへ広がらない内に」
 余裕は何時無くなるとも知れない事を神楽聖歌(ea5062)が暗に告げると一行は小次郎の見送りを受けながら死霊達が蠢く廃村を目指し、歩き出した。

「小次郎さんのお話の通り、地形に付いてはほぼ合致しますね」
「えぇ、場としては戦い易そうではありますが‥‥」
 やがて辿り着いた廃村を目前に、小高い丘の高みから遠目にその様子を伺っては事前に小次郎より得ていた情報と照合が付いた事に紫由莉が顔を綻ばせれば、宗光もまた頷くも漏らした呟きの最後を淀ませれば
「やっぱ、数が多いのな」
 彼の後を継ぐ様に直後、蒼牙が言葉を響かせては自身の頭を掻き毟りながら目の前の光景を見据えたまま、嘆息を漏らす。
「似た様な依頼に付いて今の所、関連性はないと言う話だったが‥‥さて」
「それよりも先ずは眼前にて蠢く亡者の群れ、だな‥‥今は人に害なす存在なれど、安らかに眠らせてやるのが神徒の勤めだ」
「この光景はこれからも慣れる事は出来ないでしょう」
 その、様々に見せる皆の反応の中で最初と変わらず淡々と言葉を紡いだカノン‥‥単身、伊勢藩主が藤堂守也の元へ向かい、聞いてきた話の一端を思い出すがすぐに思考を切り替え、眼前の光景へ厳しい光を湛えたままの瞳で射抜かんばかりに見据え呟けば穏やかな性根だからこそ出たのだろうボルカノが感慨深げに漏らした言葉を彼女は諌め、聖剣の柄を握っては皆へ告げるのだった。
「とは言え、今更引く訳には行かない‥‥行くぞ」

●浮かばれぬ屍の群
 そして廃村へと一行が至れば、正しく待っていましたと言わんばかりに群がってくるは数多いる死者の群れ。
「やぁれやれ、たんまりといるなぁ」
 ただ眼前にいる冒険者を目指し、既に風化している瓦礫を気にせず踏み砕きながら迫るその光景を前に、蒼牙は呑気な面立ちを携えたまま深く溜息を漏らす。
「だが‥‥死霊相手には生きる者の闘気が一番ってな」
「その通りです」
 しかしそれはすぐに振り払われ、まなじりをあげては不敵に笑むと傍らにいた聖歌と共に闘気を練り上げ、前を駆る者達へそれを付与すると
「闘気を付したこの太刀の威力、思い知るでござる‥‥っ!」
 自身にて己の得物に闘気を付与した宗光が小太刀を翳し、疾駆すれば恐れずに眼前にて緩慢と蠢く死者の群れへ突っ込めば遂に開かれる戦端。
「とは言え、数が多いだけでしょうか」
 その中で最後に蒼牙より死者を祓う剣へ更に闘気を付与されたボルカノが周囲を見回し、誰へとも無く尋ねると
「‥‥いや、話に偽りはない様だ」
「その様ですね。それならば‥‥っ!」
 駆け出すと共に呟いたカノンの言葉を受けて彼、改めて周囲へ五感を張り巡らせれば確かに、軽やかな足取りにて土を踏み締めては鋭く地を蹴る音を微かに捉えれば一瞬、表情を曇らせるもそれはすぐに拭い、顔を上げては巨躯の騎士。
「幽世(かくりよ)へ‥‥いや、来世へと帰せ」
 闘気を纏った剣閃を炸裂させ、波の様に一行へ押し寄せる死者をただの一撃で薙ぎ払うカノンに遅れじと、剣を掲げては更にそれを穿ち貫くべく駆け出した。

 とは言え、死者の群れはただ一度の交戦では尽きず‥‥故に一度引いた後に再び廃村へ攻め入る一行。
「別段、組織立った動きはしていない‥‥か」
「これだけの数で統率された行動をもし、取るとなると」
「悪い、後少しだ。頑張ろうぜ」
 改めて必要となるだろう皆へ闘気を宿してはその熟練たる使い手の蒼牙が隙無く辺りへ視線を配し、懸念していた事が見受けられずに安堵こそするが‥‥敵勢の手数の多さから数度の単独突貫にてボロボロになりながらもガイエルの治癒を受けるべく一時身を引いたボルカノ、それを聞き止めれば真剣に考え込む彼の様子に苦笑を湛えて蒼牙が宥めれば再び動き出すも
「しかし、この場にいても可笑しくない存在を見掛けないな」
「何が、でしょう?」
「死霊だ」
「そうですねぇ、今の所は低位の霊体しか‥‥!」
 だがその中、ガイエルは死食鬼等も疾駆こそするが代わり映えの無い光景と、以前に取り逃がした死霊の存在を問い掛けて来た紫由莉へ返せば、ボルカノと入れ替わりで後退して来た鳴が応じるも直後、巫女達は肌が粟立つ感覚に囚われれば死者の群れが中央に霞の如き頼りない姿を持って現れた一体の、以前に見たままの姿を象る死霊。
「っ、いきなり現れたか!」
「あれだけは此処で倒さないと‥‥行けませんね」
「気を付けてくれよ、出来得る限りの支援こそするとは言え」
「任せて下さい♪」
 その唐突な出現にガイエルは舌打ちすれば、準備を改めて整えた紫由莉と鳴は揃いガイエルに応じ雷撃の鎧を纏っては駆け出すも、『彼女』へ最初に接触したのは宗光。
「死者となって尚もこの世を彷徨い続ける者達、せめて拙者の手で成仏させるでござる‥‥」
 いささか頼りない武器とは言え闘気を宿す以上、死者に対して優れた効果を発揮する事と何者にも恐れない勇気を持って彼は地を蹴り、浮遊する『彼女』に切り掛かる。
「っ、浅いか?」
「明らかに、他の死者とは違いますね」
「とは言えこのまま自由にさせて置く訳にも‥‥!」
 だがそれは寸で、避けられると今一つ沸かない手応えに戸惑う彼が体勢を整える傍らで身動ぎしない『彼女』の力を眼光にて牽制する聖歌が先の一合のやり取りで察するも、普段と変わらないまま素っ気無くカノンが呟けば同時に『彼女』を包囲する三人だったが、揃い飛び掛るより早く『彼女』は戦いの最中でも空高みへと昇り‥‥姿を消した。

●潜む闇‥‥?
 やがて戦いは終わり、もう暫くもすれば夜も明けるだろう頃。
「再度、復活しない様にお塩を撒いておきますね」
「村に安らぎと平穏を。死人達よ、今は眠りなさい‥‥」
 僅かにだけ垣間見えた死霊こそ倒せなかったものの、暫くしても『彼女』が現れなければ廃村に蔓延っていたそれ以外の死者の群れは確かに放逐し、巫女達がまだぎこちない舞と塩等を用い廃村が中央部で場を清めれば、他の皆は頭を垂れ切に祈りを捧げる。
「そう言えば藩主様に話を伺いに行った際、どの様なお話を?」
「近頃、伊勢にて起きている類似する他の話との共通点に付いてと‥‥この村の歴史に付いて少しだけ」
「それで?」
「主だった共通点はないそうだ。だが伊勢で過去、謀反があったと言う話があるが‥‥それにこの廃村が深く纏わると言っていた。生憎と詳細については教えて貰えなかったが、故に凄惨な過去があったのだろうな」
「その様ですわね、私は小次郎さんに話を伺ったのですがやはり謀反の事を話されましたわ。尤もかれは詳しい話について、何もご存知なさそうでしたが」
「ふぅむ」
 だがそれも僅かな間だけ、すぐに誰からか頭を上げるとボルカノが響かせた問いへ出立の前、伊勢藩主が藤堂守也の元へ立ち寄ったカノンが口を開き応じるとその途中で言葉を淀ませ暫しの後、再び語り出した彼女に次いで紫由莉も小次郎から僅かではあったが聞いた話を皆へ伝えれば、宗光が呻いて直後に皆は沈黙するも
「一先ず、警戒は続けながら調査をしましょう」
 それを頭の片隅に留めつつ、先に呻いた宗光がいち早く思考を切り替えて皆へ呼び掛けると夜の帳が落ちる中で一行は漸く、廃村にて今回死者の群れが現れた原因を探るべく動き出した。

 それより暫しの時間を置いて一行、一先ず得られた情報を纏めるべく集えば最初に口を開いてガイエル。
「死者達はどうやら廃村の外より来た者もいる様だな。確かな痕跡が村だったろう所より外にも見受けられた」
「尤も、廃村内部にて沸いた痕跡の方が多いのは間違いなさそうですが」
「憎悪に塗れた場、と言う事か‥‥それが死霊の出現によって励起された」
 死者の群れが現れた、その根源が一つについて公言するとボルカノがそれに付け加えて廃村内にて見受けられたも添えると、頷くガイエルはこの村が関わった歴史故に僅かだが表情を曇らせて推測を紡ぐも
「ですが‥‥」
「生前の知恵はないし魔法を使える術もなければ此処一週間、過去の光景を垣間見た限り『彼女』の存在が出でてより後に今へ至るなら‥‥考え難いがそれが今回の発端な筈」
「そうですね、周囲に名のある寺院や目立った祠もありませんでしたし」
 それに言葉を淀ませる聖歌の呟きも尤もで、ガイエルも少し惑いを覚えたからこそ断言はせず、しかし彼女へその理由を明示すれば廃村より遠くまで見て回って来た紫由莉がそれに賛同すると、皆も頷こうとしたその時。
「何か、感じますか?」
 鳴が傍らにいた狐の宗嵩が微かだが唸っている事に気付くと、それが見ている方を見つめては瞳を細めた。

「調査、なぁ。この手の類は余り得意じゃないが、そうも言っていられないか」
「あの建物はこの村の長老か、村長の家だった所でござろうか?」
 鳴が視線を投げるその先‥‥死者こそ倒したものの、気は常に払いながら蒼牙は宗光と揃い廃村を歩き回っており、年長者である宗光が蒼牙のぼやきを気に留めず彼方を指差すと‥‥大きな家だったろうその名残の影にてちらり、闇が動いた様を見る。
「何だ?」
「さて、とは言え見過ごせませんね」
 すれば当然にそちらへ静かに歩を進める二人の侍が声も密かに、その場へ近付けば直後に響いた叫び声。
「あー!」
「ぬ、お前は‥‥また場を面倒にするつもりか」
「見付かっちゃった」
「七枝のせいだよー」
「八亦だろ?」
「九重に決まってるー!」
 しかしその割に視線には何も映らずやはり二人、揃って視線を下へと向ければ果たして視界の中に収めたのは三匹の狐‥‥尤も、尾の数が普通の狐とは異なり複数本ある事から眼前の狐がただの狐ではない事を宗光がすぐに気付き、得物へ手を伸ばすがそれよりも早く狐らと接触した事のある蒼牙が嘆息を漏らすと途端、責任の擦り付け合いを始める三匹に宗光は絶句するも
「何かは存じませんが生憎と、貴方達はお呼びじゃありませんわ」
「そうだよねぇ、僕達も乗り気じゃなかったんだけど」
「‥‥同意するんですね」
「うん」
 その場に早く割り込んで来た紫由莉がピシャリとそれだけ言い放てば、しかし同意する妖孤らに彼女もまた唖然として再び問うが、どれか一匹が頷いたその間隙。
「ぴげー!」
「今だ‥‥っ?!」
「あ、そう言えば残したままでしたわ」
「ちょ、燃えてる燃えてるぅ!」
 遠方より鳴が雷撃の束を放ち、頷いた一匹を確かに打ち据えれば浮き足立った妖孤らの隙を見逃さず、蒼牙は駆けるも‥‥それは数歩だけ、すぐに何かに躓き転倒すれば廃村の適当な場所に縄を張った紫由莉が今更にそんな事を平然と言う中、然程多く設置していなかった筈の炎上する浅い落とし穴に嵌り燃え盛ると
「うわーん、覚えてろー!」
 それを逃走の機と見てか、惑わず空へ飛翔すれば捨て台詞だけ残してやはり空の高みへと消えていく。
「しかし毎度、何をしに来ているんだ‥‥」
 そんな三匹の妖孤が消えた方を見つめ、漸く場に駆けつけたガイエル呻くが無論それに答えられる物は誰もいなかった。

●晴れぬ想い
 やがて朝日が昇り、頂点にと昇り掛ける頃。
「この瞬間がたまらぬでござる。それに今回も良い仕事だったでござるしな」
 昨夜の一騒動を忘れている訳ではないが、皆の武器を打ち直しては悦に入る宗光が漸く最後の一本の手入れを終えると、無事に終える事が出来た依頼を振り返るが
「とは言え、あの死霊をまた逃がした事だけがすっきりとせぬ」
「今後も神出鬼没に現れるのでは今後、伊勢にとって不安材料がまた一つ増える事に‥‥」
「‥‥どうにかして救いたい物だが」
 (妖孤の事はさて置いて)一つだけ残る案件に渋面を湛えるガイエルが口を開けば、珍しく鳴もそれに賛同するとカノンも淡々とした表情ながら沈痛な声を響かせる。
「やるべき事は果たしました、帰りましょう」
「はい、今もまだ此処は過去の妄執が濃過ぎます」
 しかし、それは拭う様に聖歌が皆へ呼び掛けると応じる鳴もまた先の調子で頷くが
「でも何時か、きっと晴れますよね?」
「‥‥そうだな」
 次には踵を返し、誰へともなく問い掛けると確かにガイエルが断言すればそれを背に受けた彼女は漸く笑みを湛え、皆と共に廃村をするのだった。

 〜一時、終幕〜