【人の想い】謎の手紙、その行先

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月22日〜11月29日

リプレイ公開日:2007年11月30日

●オープニング

●京都にて、困惑
 碁盤目状に走る、京都の街中を黙々と一人歩いていたのは小さな少年。
 名前はエドワード・ジルス‥‥見た目こそ普通の外国より来た少年だったが背負う、自身の背丈よりも長い杖を見る限り容易に冒険者の、魔術師である事が窺い知れる。
「‥‥‥」
 普段は伊勢にいる彼、とある用事にて京都へ足を運んだのだが‥‥その道中、道端である物を見付けると人目を気にする事無くその場に屈んでは、普通なら道端に落ちてあろう筈も無い物体を凝視していた。
 それは。
「‥‥手紙?」
 確かに道端に落ちている竹筒から覗かせているそれは確かに和紙で、明らかに墨を用いて何か記されている事が見て取れるとエドは首を傾げ‥‥逡巡する。
 それを見て良いものか、悪いものか。
「こんな所に、どうして‥‥」
 とは言え年の頃、まだ十と三の彼‥‥本来であればまだ遊びたい盛りの子供故、好奇心に負けてエドはその筒を拾うと中の文を取り出し、眼前に広げた。

●その手紙
『貴方は今、何処を歩いていますか?
 貴方は今、何を見ていますか?
 貴方の目の前に広がっている世界は綺麗ですか?

 私の世界は部屋と、部屋から見えるちっぽけなお外の景色だけ。
 だから、お外を歩いている貴方が羨ましい。
 貴方の目の前に広がっている世界は綺麗ですか?

 そう言えばお外は今、寒いですか?
 風邪を引かない様に、気を付けて下さいね』

●再び、困惑
 そして一通り、拾った文を読み終えて彼。
「‥‥‥」
 普段と変わらずに沈黙したまま思考を重ねる‥‥この手紙が意図する所が正に文面に記されている通りなのか分からないから。
「返事、書こうかな‥‥」
 単なる悪戯と言う可能性も拭えなくはなかったが、それでもエドは何と無しにそう思うとそれを手にして場を後にした。

●それから暫く
 一先ず冒険者ギルドへ足を運んだエドは漸く扱い慣れた筆を手に、宛名の無い拾った手紙へ返事を認めればギルドより外へ一歩踏み出して、肝心な事に思い至る。
「‥‥どうしよう」
 それもその筈、拾った手紙には宛名もそうだが認めた主の名すらもなく飛脚へ託そうにも託せないのだから。
「‥‥‥」
 そして再び考える事暫し、悩んだ末に手紙を拾った場へ踵を返せばエドは自身が認めた手紙をその場へ落ちていた手紙の代わりに戻すのだった。

●その日の夜
 今日の泊まり先である宿に腰を落ち着けてエド、ぼんやりと夜空に浮かぶ月を眺めていたその時。
「そう言えば、手紙‥‥」
 忘れていた訳ではないのだがふと、昼間の出来事を思い出すと手持ち無沙汰である事から彼は上着を羽織り随分と寒くなってきた屋外へ飛び出せば三度、最初に手紙を拾った場へと足を運ぶ。
「‥‥‥ない」
 すると訪れたその場、最初と同じく竹筒に入れて置いていた筈の文が欠片もなくなっている事に夜の暗がりの中で気付けばボソリ、呟くと同時。
「っ‥‥」
 闇だけが広がる視界の中、何時の間にか足元に乾いた音を響けばエドは辺りを見回すと‥‥一本の見慣れた竹筒が地を転がっていた。

●翌日
 冒険者ギルドへ再び足を運んだエド、昨日の一部始終をギルド員の青年へ話していた。
「‥‥成程、それは確かに不思議な話だな」
「うん‥‥」
 そしてその話もやがて終わると簡潔に感想を言う青年へエドも頷き応じると
「で、どうすると?」
「この手紙を書いている人、探してみたいんだけど‥‥」
「非常に骨が折れそうな、難儀な依頼だな」
 手紙を少年に返しては果たしてその真意を尋ねると‥‥エドより返って来た答えにやはり、率直に応じては微かに渋面を浮かべる青年のその様子に彼は表情こそ変えず、しかし落胆してか静かに肩を落とすと
「だが変わった話であり、こう言った依頼もたまには‥‥承ろう」
 それを見て‥‥と言う訳ではなく、青年が先の言葉を打ち消す様に言葉を続ければエドが携えて来た不思議な話を依頼とすべく、彼が顔を上げる手近にあった筆を手にするのだった。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:何処からか飛来する、手紙の主を探せ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)、若しくは相応の金銭は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 対応NPC:エドワード・ジルス(ez1131:同道)
 日数内訳:依頼実働期間、七日
 行動場所:京都市街
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御神楽 澄華(ea6526)/ 太 丹(eb0334)/ 風魔 隠(eb4673

●リプレイ本文

●謎の手紙、見えぬ主
 京都の街中、今日も変わらずに佇む冒険者ギルドを前に寒風こそ吹き荒ぶも暖かな陽光が降り注ぐ中、エドワード・ジルスが拾った『手紙の主』を探し出すべく冒険者達が集っていた。
「宜しく頼む」
「ごきげんようー」
 相変わらず、礼儀正しい挨拶を最初に交わす東雲八雲(eb8467)へ、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)が背筋を伸ばしやはり礼儀正しく応じると、それを端にして初顔合わせに等しい皆もそれぞれに口を開き、挨拶を交わすも
「しかし今回の依頼、何だかよくわかんねー相手を捕まえろってか‥‥何かめんどくせーなー」
「阿邪流、始まってもいないのにいきなりその物言いは失礼ですよ」
 それよりも先に言葉悪く拍手阿邪流(eb1798)が毒づくと、その性格を良く知る双子の兄が拍手阿義流(eb1795)は穏やかな表情こそ湛えながら彼の態度を窘めるが、その対応より早く身を縮こまらせるエド。
「ほら、エドさんもすっかり阿邪流の事を怖がってしまいました。もう少し言葉遣いには気を付けて下さいとあれ程‥‥」
「ふん」
 その様子に肩を落とし、阿義流は穏やかな口調でこそあったが自身の弟へ釘を刺さんと説教を始めるも、それは流して鼻を鳴らす阿邪流だったが
「エドさんも、今回は宜しくお願いしますねー」
「‥‥うん」
 早々に意気消沈とする彼を宥めるべく声を掛けたのはカンタータで、笑顔を持って彼へ挨拶を交わすと僅かに表情の強張りが取れれば彼、一度だけ頷くと
「それにしても随分と風流なお友達に会われましたね、雰囲気的には女の子でしょうかー? エドさんはどう思います?」
「‥‥手紙だけじゃ、分からない」
 笑顔はそのままにカンタータは次いで今回の一件、まだ姿が見えない『手紙の主』に付いて彼の所感を尋ねれば、小さな声ではあったがエドはその答えを確かに返すと頷く彼女。
「それにしても‥‥心の内に秘してこそ華、とは言うけれどこんなにややこしい方法で手紙のやり取りって言うのは、やっぱり普通にやり取り出来ない事情でもあるのかしら?」
「‥‥そうだとは思う、恐らく」
 その彼らが傍ら、依頼書の内容を思い出してはステラ・デュナミス(eb2099)が『手紙の主』の人物像へ考えを及ばせ首を傾げる中、八雲も同意して頷いた時。
「先ず文面から判断出来るのは‥‥文字を書ける点から教養の有る人物で、どうやら部屋か若しくは特定の空間から出られないらしい事。自由に外を歩ける人を羨む様子からそれを察する事が出来ますし、後は文面の表現が少し幼い事から推測すればきっと」
「‥‥きっと?」
 厳かに口を開いたのは今まで珍しく沈黙を保っていた沖田光(ea0029)、彼女らが眼前に己が身を躍らせては一先ず現時点で分かる情報を列挙すれば果たしてその最後、口を噤むとエドが反芻しては彼の瞳を見つめれば一度だけ頷いた後、光は断言する。
「きっと、この手紙を書いたのは薄幸の美少女に違い有りません!」
「‥‥そうなの?」
 その、余りにも自身ありげな様相から思わずエドは改めて問うが
「まぁよ、取り敢えず‥‥ちゃっちゃと始めようぜ?」
「‥‥そうね」
「あ、ちょっと。呆れないで下さいよ!」
「『手紙の主』を探す事にしよう」
 阿邪流にステラは揃い、嘆息を漏らし市街の方へと身を翻せばそれを前に光は果たして叫んで二人へ追い縋らんと駆け出せばその彼らに合わせ一行も『手紙の主』を見付けるべく、動き出した。

●『手紙の主』を探すべく
「や、そう言う話は今まで聞いた事がねぇな」
「そうか、邪魔をして悪かった」
 京都の街中にて八雲はエドが今回見舞われた事象に付いて、他にも同じ様な事がなかったか様々な人より聞いて回っていたが、夜へ至るにはまだ早い時間ながら酒場にいた十人目となる中年の男性より今までと同じ答えを聞けば礼は忘れず頭を垂れ、その場を後にする。
「そちらの首尾はどうだったか?」
「生憎と、今の所は‥‥ね」
「こちらも、だな」
 そして外へ出るなり嘆息こそ漏らす彼だったが、すぐに顔を上げると朱に染まる夕日の中にステラの姿を見止めれば進捗の程を尋ねるも‥‥やはり彼女と、その傍らにいた友人より返って来た同じ答えを聞けば八雲は密かに肩を落とす。
「そうなると本当に、つい最近の事なのねぇ」
「あの和紙自体、それなりに値の張る物だと思うが‥‥肝心の手紙自体に何も手掛かりに繋がりそうな事は記されていない、となると」
「先に光さんが言った通り、文字が書ける事を察すればそれなりに教養のある人と見て間違いは無いわよね」
「代筆と言う可能性が考えられなくもないがどちらも否定出来ない以上、俺達はカンタータが言う様に大店や名家も回ってみるべきか」
「そうね」
 しかしそれでも思考を巡らせてステラ、一先ずの状況から綻びの一つを見付け呟くとその彼女が様子に八雲も自身、奮い立たせればエドが手にした手紙を思い出し‥‥それからも得られる情報を摺り合せると三人は頷き合い、再び散開した。

 それより暫く後‥‥エドと共に京都の街並みを歩いていたカンタータと光は丁度彼の眼前に正しく手紙が『降って来た』様を見て大いに驚き、辺りを見回すが‥‥周囲にはパッと見、何の変化も見受けられない。
 その傍らでエドはと言えば、それよりも降って来た竹筒を手にしては何時もの様に手紙を引き抜くと
「すいません、少し見せて貰って良いですか?」
 一先ず腰に差した竹筒へ手を伸ばした光、エドから許可を得た後にそれを掲げれば正に言葉の通り、竹筒を覗き込むと
「何を、しているんですかー?」
「わっ、笑わないで下さい」
 密かに笑いつつもカンタータより尋ねられれば彼は気恥ずかしそうに頬を朱に染め、彼女を窘めた後にその問いへの解を明示する。
「竹筒が九十九神になった存在の可能性だって否定は出来ないじゃないですか。それに反対側が覗ける物は、それ自体が別の世へ繋がっていると言う考えだって世界各地にあると言う話もあってですね‥‥」
「成程ですー、でもそれより何より確かな方法がありますよ?」
 とは言えその解、決して根拠がある筈も無いのだが光が楽しげな笑みを浮かべ、話を続ければエドとカンタータは頷きながら長くなりそうな話のその途中、彼女は光へ問いを発すると
「それは‥‥」
「魔法ですー、必ず成功するとは限りませんが」
 その答えはすぐに思い付いた彼、カンタータの思惑通りに自身の話を一端止めると彼女を見やれば確かな答えを提示してすぐ詠唱を織り紡ぐ。
「‥‥過ぎ去りし過去、今に引き戻しては私の前にその全てを曝け出せ‥‥」
 既に日が落ち、夜の帳故に静まり返る場に相応しい響きを持ってそれが紡ぎ終われば暫くの沈黙の後。
「見えましたよー」
「何が、見えますか?」
「何もー」
 やがて彼女は口を開くもそれに対して尋ねる光へ返したカンタータの答えとは、先の言葉とは矛盾するもので思わず彼は首を傾げるのだった。

「魔法の発動自体は成功していますー。でもエドさんから教えて貰った、最近の手紙が落ちているのを見掛けた前後の刻に手紙をその場に置いてからの刻等、垣間見ましたが‥‥」
 そしてその日の夜遅く、一先ず今日だけで得た情報を交わす一行は先ずカンタータのパーストによる結果にはやはり、首を傾げていた。
「‥‥何も、無いと言う事ですか」
「いえー、そう言う訳じゃないですー。竹筒『だけ』が宙に浮いていましたよー」
 その報告を受けて口を開いた阿義流へ、しかしカンタータの答えは非常に核心へ迫ったものだったが
「はぁ、そうなるとそりゃ‥‥何だ?」
「インビジブルの効果ね、それに加えて宙に浮いていたとなるとシフールかそれに類する存在がエド君の元に手紙を届けていたと言う事になるのかしら」
 それを受け、珍妙な光景を脳裏に思い浮かべては益々首を捻る阿邪流だったが、それに対しての解説をステラが施せば納得とばかりに頷く皆。
「そうなると、妖精の類と言うよりはシフールと言う可能性が高いか」
「しかしあの魔法、付与している者の行動も著しく制限しますが」
 そして『手紙の主』だろう存在がシフールだろう事に気付く八雲だったが、透明になると言う強力なメリットが存在する代わり、当然の様にあるデメリットを指摘する陰陽師の話を聞けば‥‥問題はこれから。
「でも、そこまで分かったのは良いとして‥‥どうして捕まえましょうか。目に見えないとなるとエド君の周囲で上でもずっと見上げていましょうか?」
 次いで光が言う様に行動が制限されているとは言え不可視の存在である『手紙の主』をどうやって見付けるか、その話題に及ぶと麗しき志士の提案が響くも
「時間が限られている以上、何時来るか知れないのにそれでは効率が悪い‥‥宙を飛んでいるとなるとバイブレーションセンサーは」
「使えませんね。あの魔法は地面やそれに接する物に対して加えられた振動を察知するものですし、対象がシフールとなると」
 一先ず気の長いその案を八雲は限られている時間から一先ず傍らへ置き考え込むと妙案を思い浮かべるが、自身の内ですぐに出た答えを阿義流が口にすれば手詰まりとなる一行。
『うーん‥‥』
 それより様々な案を出しこそするも、見えない対象故に此方が警戒すれば向こうはもしかすれば姿を現さなくなる可能性があり、此方からの直接的な行動も相手が不可視だからこそ非常に取り辛ければ他に優れた案がないか、一行は夜明け近くまで頭を寄せ呻くのだった。

●本当の、手紙の主
 とある大きな屋敷、その中にある一つのやはり大きな部屋。
『お手紙、何時もありがとうございます。それと洛中の絵も‥‥』
 手広な割に一つだけ寂しく、ポツンと敷かれている布団の上を跨ぐ様に置かれている机の方へ身を起こしている少女が和紙を前に筆を走らせ、手紙を認めていた。
「お嬢様、少し宜しいですか?」
「何でしょう?」
 だがそんな折、侍女だろう者が静かに襖を開けては彼女を呼ぶと応じる『お嬢様』へ侍女。
「はい、実はお嬢様と手紙のやり取りをしていると言う冒険者の方々がお越しになっておられますが」
「‥‥わざわざ正面から来なくても良いのに、どうしたのでしょうか?」
「はい?」
 彼女へは先ずない筈である来訪者の到来を告げると、首を傾げては言葉囁く『お嬢様』ではあったが、微かながらにもそれを聞き止めた侍女が今度は首を傾げると
「えぇと‥‥それでは、此方へお通しして貰えますか?」
 慌てながらも彼女は侍女へ漸く答えを返した。

 そしてその部屋へ通されたのは言うまでもなく一行‥‥結局の所、手紙を届けているだろう存在は無視する事に決めれば手紙より推測される人物像から『手紙の主』を探す事に専念し、そして体が弱いだろう等手紙に記されていた事から推測された条件に合致する彼女を見付ける事が出来たが為、この場へ足を運んでいた。
「えーと、皆様は?」
「貴方の手紙を拾った者だ」
「えーと、シフールさんのお仲間の方ですか?」
「いいや?」
 果たしてその事情は知らないからこそ、そして何よりも初対面である一行を前に『お嬢様』は当然の疑問を発すると、素っ気無く応じた八雲を前に彼女は改めて疑問を響かせれば第三者の存在を漸く耳にした一行は揃い、首を傾げるも
「これ‥‥出したのは君?」
「はい、そうですがどうして私が書いた手紙が皆さんの所に?」
「話を一つずつ纏めて行きましょう。先ずお嬢さんは誰と、手紙のやり取りを?」
 先ずは本題の確認を、と言う事で今までに貰った手紙を掲げてエドが小さな声で尋ねると彼女は頷きつつも驚き、自身の疑問を次いで口にすると第三者が介している事が明らかとなったからこそ、皆が理解出来る様に話を一つずつ纏めて行くべく『お嬢様』へ尋ね返すステラ。
「それは先日、あの窓際に一人のシフールさんが倒れていた事から始まります」
 すればその問いへ『お嬢様』、話が未だ繋がらない一行へ『シフールさん』と手紙をやり取りする事となった顛末‥‥腹を空かせて部屋にある窓の袂に倒れていたシフールを助ければ体の弱い自身とは違う、自由に各地を歩き回る事の出来る冒険者である旨を聞いたからこそ手紙のやり取りを申し出てはその約束を互いに交わしたと語る。
「成程、それで今まではそのシフールさんと手紙のやり取りをしていると信じていたと」
「はい、窓際に手紙を置いておくと何時の間にか無くなっていたので‥‥」
「少なくとも、仲介はしていたのでしょうからそのシフールさんも悪い人ではなさそうですね」
 そして一息ついた所を見計い光が今へと至る確認を取れば、果たして表情にこそ影を漂わせながらも頷いた彼女へ慰めるべく声を掛けるも
「で、一応話が一段落したのは良いとして‥‥これからどうすんだ?」
「後は若い人たちにお任せしましょー、と言う事でお邪魔しましたー!」
 その背後にて囁き、尋ねたのは阿邪流の疑問へカンタータはそれだけ言えば、皆へ目配せするなりエドだけをその場に置いて脱兎の如く屋敷を後にするのだった。

「まぁ取り敢えず、終わりって事で良いのかしら?」
「いいんじゃね、一応『手紙の主』は見付かったんだし」
 そして屋敷より飛び出した一行、京の街中をぶらぶらと歩きつつ今回の依頼を振り返るが、何処かすっきりとしない終わり方にステラが言葉を淀ませるも阿邪流は結果だけを見て断言すれば
「推理が当たったのは嬉しいですが‥‥大分、疲れました」
「そうですねー、京都中の大店とか片端から回りましたからー」
「それでも早く見付かったから良かったが、運が悪ければ依頼期間中に見付からなかった可能性の方が高かったと思う」
 光にカンタータもまた頷くが、しかし八雲はそれに慢心せず運が良かったのだと遠回しに言うと
「それに肝心の、もう一人の『手紙の主』が見付かっていない」
「‥‥どう言った顛末でこうなったのか、気になる所ではありますねー」
「確かに、まぁでも考えられる落ちとしては‥‥」
 次いで明らかにされていない、手紙の運び手だろう第三者の『シフールさん』が見付かっていない事も告げれば、途端に肩を落としてカンタータが応じるとそれには阿邪流も同意するからこそ頷けば、思い浮かんだ推測を口にしようとし
「字が書けなかったんじゃないでしょうかね?」
「まぁ、有り得そうな話ですね」
 しかし阿義流の口から先に言われるとそれを機、取っ組み合う双子を傍目に光が頷けば‥‥何時の間にか辿り着いた冒険者ギルドを前に最後。
「何はともあれ、めでたしめでたし。今後も良い友情を育んで貰いたい物ね」
「‥‥そうだな」
 ステラが掌を叩き、依頼人こそいないが一先ず代わりに場を締めると頷いては八雲も応じ、寒風こそ吹き荒ぶが晴れ渡る青空を見上げ寡黙な少年の為にそれだけは祈るのだった。

 因みにその後の二人、手紙だけでのやり取りは今も続けられている事だけ付け加えておく。

 〜終幕〜