【伊勢巡察隊】光臨武装
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 70 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月27日〜01月06日
リプレイ公開日:2008年01月03日
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●オープニング
●打診
伊勢藩主邸宅、全くの私用で伊勢神宮へ立ち寄った部下の一人が斎王より預かって来た書状に目を通している、その卓の主が名は藤堂守也。
「確かに承った、と斎王様に伝えてくれるか。返事については別途、送付するとも添えて」
「分かりました」
「‥‥因みに、国司殿へこの件は?」
「分かった、下がって良い」
やがてそれを読み終えれば部下へ答えを返し、斎王への伝令だけ頼めば頷き応じた後に踵を返したその彼へ最後、それだけ尋ねると‥‥果たして首を左右に振る部下へ頷きだけ返せば改めて任の全うを告げると、部屋を辞する部下と入れ替わり最近ではすっかりこの邸宅に居座っている殴られ屋の京香が姿を現す。
「‥‥何か、仕事?」
「あぁ、極秘の任務だ‥‥今の所はな」
「今の所、とは言え極秘って」
「天照大御神様に絡んだ物だ」
「‥‥へぇ」
そして開口一番、先のやり取りを微かに聞いていた京香は尋ねると‥‥その答えが一端を明示する守也を見つめ、眉根を顰める彼女だったがまたもう一端だけ、守也が明かせば興味を覚えてか彼女は感嘆の息を漏らすも
「でもそんな話、あたしに言って良かったの? 人の口に戸は立てられないよ」
「問題ない、皆が出立する前には明らかになっている」
「なら良いけどね。ま、その話は後で聞かせて貰うよ。ちと小次郎に呼ばれてる途中で、何やら聞こえた物だから気になってさ」
「分かった」
今更の様に京香が尋ねれば藩主、文に書いてあった一文を思い出してそれだけ伝えると安堵してか、肩を竦め殴られ屋の彼女はおどけて見せるとやがて肝心の用件をを思い出せば踵を返した京香は最後、それだけ藩主へ告げると彼女も部屋を辞して後‥‥守也は天井を仰いでは言葉を紡いだ。
「‥‥そう言えば最近、国司様は?」
「どうやらまた、床に伏しているらしいと言う話です‥‥調子が思わしくないか、見舞いも拒絶されていて」
「そうか、私も後で出向いてみよう。誰に取り次げば良いか?」
するとその独り言だろう問い掛けに天井裏より応じる者ありき、藩主へ解を発すれば一度だけ頷くと‥‥次いで発した問いに返って来た答えを聞けば、常に国司の周りにいる英国よりやって来た青年の顔を思い浮かべては渋面を湛えるのだった。
「‥‥アゼル・ペイシュメント、まさかとは思うが何か目論んでいるとでも」
●宣言
数日後、やはり伊勢藩主の邸宅前‥‥その場には外套を被っては長衣を羽織る巨躯なる者と、斎王に伊勢藩主の姿があればこれから何事かを斎王が宣言すると言う触れ回りより、伊勢の穏やかではない状況故に人々は続々と集まるその中。
「この場を借りたのは、他でもない神からの要望による物です」
この場に来てより久しく動きを見せていなかった斎王が漸く、長衣の者を伴っては人々の眼前へ躍り出ては凛と声響かせると、先までざわめいていた民衆は揃い口を噤めば‥‥真剣な面持ちのまま、次の句を紡ぐ斎王。
「余り公にはされていませんでしたが‥‥昨今、密かに伊勢の地へ降りた神がいました。その名、天照大御神。しかし天照様はまた姿を晦ませてしまい、今へ至るのですがこの伊勢の状況を憂いて、またある神がこの地へ降りられました‥‥その神、猿田彦神より皆へ伝えたい事があるとの事で今回、この様な場を設けました。それでは」
果たして直後、彼女から告げられた話を聞いて再びざわめく人々‥‥それもその筈、伊勢では既に名高き神が二人も下りている事を唐突に知らされたが故。
「初めまして、皆々様‥‥猿田彦神と申します」
だがそのざわめきを前に、斎王の傍らにいた巨躯を誇る長衣の者はやおらそれを脱ぎ捨て姿を露わにすれば、尚も場は騒然とする‥‥それもその筈、装束やらを纏っているもののその面立ちは正に猿そのものだったのだから。
「とは言え、そうそう簡単に信じては貰えないでしょうが‥‥この場を借りて宣言する事はただの一つだけ、それだけを申し以降は動向を見守って頂ければと思います」
人々の好奇と奇異と畏怖と全ての視線がない交ぜに降り注ぐ中、しかし猿田彦神はたじろぎすら見せず頭を垂れれば次いで、本題を口にするのだった。
「数多いる天津神よ聞け。初代からの口伝に従い今、この場に私が姿を現した理由はただの一つ。ジャパンに蔓延る闇を払拭すべく皆を纏め導く為‥‥今、私達が旗頭たる天照様は不在なれど必ずや皆を導くべく再び降り立つからこそ、響かせたこの宣言。どうか各々の地にて立ち上がって下さい」
その宣言‥‥要約すれば天津神の召集と言う事になるか、それを声高らかに告げればやがて唖然と視線を自身へ送る人々を見つめると、その最後は先とは異なる穏やかな声にて間違いなく誓った。
「皆様にはもう少し気苦労を掛ける事となりますが、暫くだけ我慢して頂ければと思います。混沌に陥らんとするジャパンに、眩しくも暖かき日輪の光を再びもたらす事を必ず誓って」
●騒然
「なぁ、伊勢でこの前あった話‥‥本当かよ?」
「知らんよ」
「って言うか、本当に猿田彦神?」
「じゃねぇの?」
「変装やミミクリーの可能性だって‥‥」
「そこまでする理由は?」
「伊勢、大分危ないからなぁ‥‥悪魔とかへ牽制の為の宣伝かもよ?」
更に数日後‥‥京都の冒険者ギルドではその話題で多からずとも盛り上がり、その真偽について冒険者達はギルドの一画で討論していた。
「‥‥だそうだが」
「ま、そう思うのは当然だろうけどね」
「京香としては、どうだ?」
「そうね‥‥」
その傍ら、当の伊勢よりやって来た殴られ屋の京香を前にギルド員の青年が問うと、彼女は暫し頭上を見上げた後に口を開く。
「本物なんじゃない、先日の調査よりも詳しい事を知っている様だし」
「ふむ」
そして告げた事実に感心して青年は一度だけ頷くも、やがて彼女が来訪した理由について確認していない事に気付き、尋ねる彼。
「で、今回の依頼は‥‥先日の五節御神楽と同じく、宝具の回収か?」
「その通り、今回は具足だって話だね。因みに赴く場は今回も山、伊勢藩士を借りる事が出来たから人海戦術の展開も可能。その際の指示に関して大きな所はあたしらに任せるってさ」
「細部はそれぞれが任意に動く、と言う事か」
「そう言う事、まぁこの依頼を手伝ってくれる人だけで捜索するのも構わないけど」
その彼に待っていましたとばかり京香はすぐ応じれば、相変わらず素っ気無く応じる青年ではあったが明確に返って来る殴られ屋からの話を確かに聞きとめ、筆を走らせ、和紙に認め終えればやがて、静かに頷き返しては答えるのだった。
「分かった、すぐに依頼書を作ろう」
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依頼目的:五つあると言われる天照の宝具の一つ、具足『黒焔』を手に入れよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
また、そろそろ寒くなって来たので状況によっては防寒着も必要になるかと。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
対応NPC:藤堂守也(同道せず)、殴られ屋の京香(同道)
日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間は五日。
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●リプレイ本文
此処は伊勢、様々な混沌が訪れる中で天照大御神に猿田彦神までもが降り立った地。
状況が日々流転する中、天照が姿を消せば混沌は尚も増す昨今‥‥果たして猿田彦神より出された打開策とは、天照の復活。
そしてその為にも欠かせない宝具の回収が急務となれば、現状に頭を抱える伊勢藩とて動くのは必至、伊勢巡察隊が再編成されては今へ至る。
●宝具を求めて 〜伊勢巡察隊〜
「神様の具足か、どんな代物か興味が湧くな。武人の端くれとして拝んで見たいものだ」
伊勢藩主邸宅前に集う、再結成される巡察隊へ名乗りを上げた冒険者達のその中‥‥依頼書の写しを興味深そうに改めて読み直しながら、結城弾正(ec2502)はその一端に書かれている宝具の名を見て、くすぐられる好奇心から笑みを湛えれば
「しかし今回の一件、猿田彦神様自らのお願いとは‥‥」
天照大御神のみならず猿田彦神の来訪に少なからず驚いている護堂万時(eb5301)はその傍ら、再び大きく動き出そうとしている伊勢の行く末へ思案に暮れるが
「しかし範囲が広大だな。何かの手掛かりが必要か‥‥」
「場所は漠然としている様ですけど、僕に出来る事があれば頑張りますっ」
それよりも何よりも、今回の依頼に対して榊原康貴(eb3917)は余りにも大雑把過ぎる捜索場所に対し顎に蓄える髭をしごき、頭を抱えると酒井貴次(eb3367)はその状況を踏まえつつ、だからこそやる気を漲らせればそれぞれに見せる表情は様々。
「そんで、前回はどない状況やったんや」
「問題なく、一つ目は回収出来たみたいね。まぁ上手く情報も秘匿出来ていたから‥‥って言うのもあるだろうけど」
その光景を前、苦笑を漏らしつつも大宗院沙羅(eb0094)が今回同行する、今ではすっかり伊勢藩に馴染んでいる殴られ屋の京香へ問うと先に斎宮が属する五節御神楽が結果を簡潔に告げる浪人は一度言葉を区切れば肩を竦め、次いでその続きを紡ぐ。
「今は猿田彦神の宣言もあって状況が違うから、気は引き締めて掛からないと。何時、妖が出てきてもおかしくないからねぇ」
「何や、物騒なもんやなぁ」
「今に始まった事じゃないでしょうに」
「そうだな、京香も首を突っ込んでいる以上は余計に‥‥だな」
するとそれを受け、笑いながらも応じる沙羅へ京香も負けじと返すが‥‥淡々とした面持ち湛える東雲八雲(eb8467)に直後、良く知るからこその皮肉交じりな発言に浪人は柳眉を立てると、静かに笑みだけ交わす沙羅に八雲。
「しっかしまぁ、その猿田彦神‥‥皆が言う様に本物なのかねぇ」
「まぁ義妹が会ったって言うとったから、ほんまやろ」
「とは言え、なぁ」
その光景に果たして草薙隼人(eb7556)が嘆息を漏らしつつ、今回が依頼の一端を担っている伊勢に降り立った神が名を告げ、目の当たりにしていたとしても信じられるかは定かでないと疑問を囁くが、それには沙羅が応じるも‥‥やはり何処か腑に落ちない彼。
正直、彼の反応は当然と言えば当然で何せ今に生きる人々の中で猿田彦神を見た者等いないのだから。
「‥‥そう言えば猿田彦神様、見てみたかったなぁ」
とは言え、様々な文献や書物を読む事を趣味とする貴次の様にその存在を神聖視するからこそ信じる者も少なくはない訳で、その真実は要として分からないまま。
「それでは先ず、情報を集める事から始めようか‥‥時間も限られている、早い内に現地にも行かなければ」
だがそれでもやるべき事がはっきりしているからこそ、与えられた任を全うすべく八雲は皆を促し行動を始めるのだった。
●伊勢市街 〜情報収集〜
と言う事で八雲が発した言葉の通り、現地へ赴く前‥‥一行は鷲嶺についての情報を集めるべく、伊勢市街を駆け回る。
「鷲嶺の山に関して面白い話は何か、ないだろうか?」
「鷲嶺、ねぇ‥‥」
さて‥‥言い出しっぺの八雲はと言えば一軒の茶屋にて茶を啜りながらその主へ単刀直入に、しかし宝具の事については欠片も出さず尋ねると、暫し考え込む主だったが‥‥その口からは微かな呻き声しか出て来ず。
「‥‥例えば、物を隠すには持って来いの場所が、あるとかないとか‥‥」
「鷲嶺、って言うたらやっぱ水穴が有名なんでないの? 他は特になぁ」
「水穴?」
とは言え八雲も簡単には引き下がらる訳には行かず、予め考えておいた一例を挙げてみるとそれを聞いた主が漸く口を開こうとした矢先、店の奥にいた老人が早く言葉発すれば『水穴』と言う単語を反芻する八雲へ彼。
「あぁ、ちょいと深い洞穴だねぇ。近隣の人々は何やら神聖視しているみたいで中へ立ち入った話は余り聞かないけどなぁ」
「ふぅ‥‥ん」
その詳細を知る限り眼前の志士へ語れば、傍らにて茶屋の主が頷く中‥‥八雲はその『水穴』の存在を今度は調べるべく、茶一杯分の駄賃だけ置けば老人へは頭だけ垂れてその場を後にした。
「名前以外に何か特徴とかがあれば教えて欲しい。肝心の物を目前にして気が付かないとか、そう言った事は無しにしたいんだが」
一方、弾正は今回の依頼人でもある伊勢藩主が藤堂守也の元を訪れては回収すべき宝具の、その詳細に付いて尋ねていた。
「‥‥と言われてもな。文献などで残る以外、それを見たものは天照様以外にいないだろうし、詳しい形状については猿田彦神様も触れなかった。なれば言うまでもなく『具足』なのだろうな」
「そうか。それならば城下町で聞き込んだが、鷲嶺には水穴なる大きな洞穴があると言う話を聞いたが、そこは既に探ったのか」
だが返って来た答えはある意味では当然とも言える答えで、しかしそれには挫けずすぐに次なる質問を発する侍だったが
「過去に調査で中へ入った事こそあるが、その時には別段何も見付かっていないと記録に残っているおり、故に私達の代になってから今まではそちらの調査は特に」
「ふむ‥‥」
「大した役に立てず、済まないな」
「いや、忙しい中にも拘らず応じて頂き忝い。必ずや宝具は見付け出し持ち帰ろう」
藩主より返って来た答えはやはり、先と同じく知り得る事だけは確かに答えつつもその詳細については分からない物で、腕組みをしては呻く弾正へ守也は丁寧に彼へ詫びるが‥‥頭を左右に振って彼、唐突な来訪にも拘らず応じてくれた藩主へ礼を言い約束だけ確かにすると立ち上がり、踵を返してはその場を辞した。
●
「うちは水穴なんて怪しいと思うんやけど、どない思う?」
「あぁ、確かに水穴については話を聞いた」
「それなりに深い、洞窟と言う話だったでしょうか?」
「あぁ‥‥一先ず、此処までは情報に食い違いはないみたいだな」
それより、その日の夕刻辺りに一軒の酒場に集ってはその片隅で頭を寄せ合い、各々が集めてきた情報を密かに交換し合えば‥‥やはり水穴についての情報が多く、一先ず水穴に関する情報を全て纏め相違がないか摺り合わせると、ほぼ一致する情報に隼人が頷けば
「となると先ず臭いのはそこですか」
「後は以前の報告も考慮するなら、山頂の方へも足を運ぶべきでしょう」
多く上がっている情報故、万時が言う様に水穴へ意識が注がれるが頷きながらも貴次が先に回収が果たされた宝具の見付けられた場についても上げると最後の纏めにと口を開いて沙羅。
「そやな。なら怪しいとこはうちらで探して、後は全体的に藩士に任せるのがいいかと思うんやけど‥‥どない思う?」
「ふむ、賛成だ。しかし、もう少し確かな情報が欲しかったな‥‥」
皆を見回してはそれだけを言うと、漸く突き合わせていた顔を最初に離せば弾正も頷くが‥‥しかし、渋い表情を浮かべながらに口を開くと
「しょうがあるまい、話だけでしか伝わっていない以上は。それでは時間も限られている故、方針も決まった以上は早く現地へ行こう」
その彼を宥めるべく、康貴が口を開けばその最後には皆を促すとそれぞれに卓を立てば伊勢から鷲嶺を目指し、動き出すのだった。
●鷲嶺へ 〜目指すは水穴〜
「今回の探索、力を貸して貰いたい‥‥宜しく頼む」
「こちらこそ、宜しくお願い致す」
やがて予定通りの日数を経て鷲嶺へと無事に辿り着いた一行と伊勢藩士達、その総数は大よそ三十程度が今は眼前にそびえる山を前、改めて互いに協力の旨を交し合うと
「それじゃ、一先ず此処で散開。伊勢藩士の皆は山頂を目指しつつも山中の捜索を‥‥俺達は水穴の方へ向かうか」
「えぇ」
さっさと隼人、それぞれへ先の相談で纏めた指示を改めて反芻して発すれば頷く皆だったが‥‥この時にして漸く、失念していた事を伊勢藩士が一人の質問によって気付く。
「そう言えば、互いの連絡手段や情報の交換についてはどうされるおつもりか?」
『‥‥あ?』
そしてその問いを前、一行は揃いも揃って間抜けな声を発すると‥‥溜息をつきながらも京香、珍しく皆へ提案しては肩を竦めるのだった。
「はぁ‥‥とりあえず今の時期、山中で夜を過ごすのは得策じゃないから適当な頃合に此処へ戻ってくれば良いんじゃない?」
そして探索場所に集合地点と場所を決めた一行と伊勢藩士達、それぞれに動き出せば水穴を目指す一行。
「ふぁ、山登りなんて退屈で性に合わないんだけどねぇ」
「とは言え、良い鍛錬になるのではなかろうか」
「‥‥さんざ飽きる程やったよ、っと」
「その様だな」
退屈な登山にぼやきながら皆の前を進む京香を宥めながら康貴、確かに言うだけの事はあって軽やかな足取りで険しくないながらも、それなりに勾配のある山道を軽々と登っていく彼女に感心するも
「まぁしかし、最近は暇だねぇ」
「そう、なのか?」
「個人的に、だけど」
「あぁ‥‥」
その途中、ボソリと囁かれた彼女の言の葉を康貴が聞き止めるとその後に返って来た京香の答えを聞けば、暗にそれが何を指すか察して彼は相槌だけ返すと
「今の所、どやの?」
「特にこれと言った反応は‥‥」
「ありませんねぇ」
その一方で山道を進みながらも話を聞いて拵えた鷲嶺の非常に簡単な地図の上、ダウジングペンデュラムを垂らす二人の陰陽師だったが‥‥それは大きく動く事なく、ただ静かに揺れるのみ。
「なんや、役に立たんのなぁ」
「そんな事はありませんよ、過去にこれを用いて天照様を見付けた事だって‥‥地道に探す事も大事ですね」
その様子に沙羅が嘆息を漏らすが過去の確かな実績がある事を万時は口にし掛けて、しかし途中で折れると
「そうだな、例えそれで指針が立ったとしても必ずその通りでないのなら参考にこそすれ」
「えぇ、康貴さんが仰る通りです」
それに頷いて康貴が言葉紡げば、貴次も彼に同意するとまだ遠い穴水へ至るべく伸びる細い道を見上げ‥‥そしてその視界の片隅に漸く、水穴らしき洞の口を見付ける。
「罠なんかないやろうな」
「そればかりは‥‥ともかく、慎重に行きましょう」
すると皆もまたそれを見止めれば、未だその内部へ至っていないながらも警戒する沙羅へ貴次は曖昧な答えしか返せないながら、決して気は抜かずに水穴へとまた一歩迫るのだった。
●
そして鷲嶺が水穴へと至った一行は暗がりの中、提灯を翳しては宝具の捜索を開始すると‥‥魔法での調査こそ芳しくなかった物の、暫くして貴次がその最奥にて非常に分かり辛くも不自然に並んでいる岩の群れを見付ければ皆を呼び、それを徹底的にどかすとやがてその奥から出て来たのは確かに一組の具足。
「‥‥もしかして、これでしょうか?」
「その様だな、見た所は普通の具足に見えるが」
「確かに見た目、そうですが‥‥只ならぬ雰囲気を感じます」
「ふむ‥‥」
頭上の岩盤を見上げ、崩落した跡がある事を確認しながら貴次が誰へともなく尋ねると最初こそ興味津々に見る弾正、嘆息を漏らしては呟くが‥‥次に響いた万時の、断定ではないながらも率直に感じた事を言葉にすればしげしげと眺める康貴の傍らにいた京香。
「ま、それならそいつをお持ち帰りしようか。で、とっとと撤収」
「あぁ、此処からが本番や‥‥あたいが悪人なら、見付けた者を襲う方が簡単やと考えるで」
早く皆を促して水穴からの撤収を告げれば、沙羅もまた頷き応じると踵を返して水穴を後にする一行‥‥だったが、直後に入口の方から物音がすれば皆はそれぞれに得物へ手を伸ばし、また詠唱を織っては眼前に現れた影と対峙するが
「済まん、一人じゃ手に負えなかったわ」
「まさか‥‥?」
その影が隼人である事に皆、すぐ気付き‥‥しかし水穴の入り口で待っていた筈の彼が此処へ来る事情を察すれば、彼が次に呟いた言葉を聞かずとも一行は揃い警戒を強くすれば同時、入口から降り注ぐ陽光を遮っている存在を見上げて康貴は呟く。
「‥‥熊か」
「ばっか、強いって」
「大月輪熊ですね、中々に大きいですが‥‥もしかして此処が寝床でしたか?」
その平然とした物言いに隼人、多少交戦したからこその感想を言う中で万時は眼前に表れた熊の種類を何とか見抜くと、この場に現れた理由まで察するが
「まぁともかくや、此処から出る事を優先して動かんとね」
「あぁ‥‥!」
それよりもこの場を脱する事を第一として沙羅が言葉紡げば、一言で弾正が応じると一行は立ちはだかる熊が放った方向を合図に、地を蹴った。
●具足『黒焔』
そして、その日の夜。
「一先ず、何とかなりましたね‥‥」
鷲嶺の麓、目立ち辛い場に簡素な陣を張る伊勢藩士達の傍らで一行はあの状況も無事に脱し、入手する事が出来た宝具『黒焔』を前に疲労交じりの嘆息を漏らしていた。
「しかし冬眠の遅い熊もいるんだなぁ」
「確か熊の冬眠は睡眠に近いもので、結構簡単な刺激で起きると‥‥うろ覚えではありますが、何処かで聞いた記憶があります」
「へぇ」
そしてその中で隼人、今更の様ではあったがこの時期に活動している熊の存在を目の当たりにした事から感心すると、多少ながらある知識を講じる万時の話を聞けば今度は素直に驚きを覚える。
「しかし‥‥年を越しちまったねぇ」
「その様でござるな」
だが予定より早めに宝具こそ回収出来たものの、既に新たな年を迎えている事を何となく察した京香が囁けば、応じて康貴は頭上に浮かぶ月を見上げる。
本来ならば年の瀬、酒場で大勢の者と過ごしていたかも知れない事を考えたからこそ彼女の口から吐いて出たのだが改めて考え直すと、少々違う事に気付いて彼女。
「まぁでも、待っている人なんかいやしないから良いけどさ」
「そうだとしても‥‥」
「‥‥ん?」
「そうだとしても、簡単にそんな事は口にするものではないと思うが」
嘆息交じりに言葉を紡ぎ、自嘲の笑みを湛えるが素っ気無いながらも八雲が彼女を諌めると
「保存食で味気ないが、あけましておめでとう‥‥」
それに彼女が反応するよりも早く、皆を見回しながら手にする保存食を掲げると彼は改めてその場で新年の挨拶を告げれば皆が応じる傍ら、確かに彼女も皆に倣って応じるのだった。
「あぁ、おめでとう」
〜一時、終幕〜