羽根突きファイト、レディ‥‥ゴーッ!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月09日〜01月12日

リプレイ公開日:2008年01月17日

●オープニング

●ただ、そこの路上だけが今は戦場
 元日も過ぎ、しかし正月気分はすぐに抜ける筈もなく‥‥京都市街はただ平穏に時間を刻んでいた。
「そこな主っ、勝負じゃ!」
「は、何を‥‥」
 ‥‥のだが、それは唐突に老人の叫び声によって掻き消されるとその老人に指を突き付けられている一人の青年は暫し辺りを見回すが、それは間違いなく自身を指している事に今更ながら気付けば老人の方へ向き直り一つ、問う
 すると答えの代わりか、老人は懐から取り出した何かを青年目掛けて放ると‥‥彼の手元へ過たず飛んで来たのは一つの、羽子板。
「無論、この羽子板を用いての羽根突きでじゃ」
「いや、いきなりそんな事を言われても‥‥」
 そして直後、老人が厳かにそれだけ告げれば当然ながら戸惑う青年だったが
「問答むよーぉっ! わしの領域に踏み込んだ主が悪いのじゃ‥‥諦めいっ!」
「そんな勝手に‥‥」
 それはすぐ、一喝によって掻き消されると老人の喝を前に萎縮して後ずさる青年だったが、次に老人より発せられた一言には流石に顔を上げる。
「因みにわしに勝てたら一両、やるぞ」
「‥‥ほぅ」
 そして不敵な笑みを湛えては言い放った老人は確かに彼の眼前へ一両の小判も放ると、表情を変える青年‥‥現金な奴、と突っ込んではいけないぞ。
「但し、負けたらその顔を墨で真っ黒に塗りたくるがのぅ!」
「ふっ、悪いがこう見えても昔は出身の村で年初めに行われていた羽根突き大会で『疾風の隆二』と言われ、恐れられていたんだぜ‥‥」
「そうか、ならば尚も良し」
 但し、その対価をも老人は突き付ければ持参する墨壷を掲げるが、お年玉とも言える一両と顔面真っ黒‥‥比べればどちらを取るかは知れたもので青年、初めて笑いながら応じれば本気になってか晴着を脱ぎ捨て、その過去を明らかにすると初めて老人は顔を綻ばせるが‥‥それも束の間。
 すぐにまなじり上げて青年を睨み据えれば、二人の周囲に乾いた風が吹く中‥‥二人の掛け声が重なる中で遂に勝負が始まった!
『いざっ、尋常に‥‥勝負っ!』

 その翌日、京都の冒険者ギルド。
「て訳じゃ‥‥最近は手応えのある者が少なくてのぅ」
「はぁ‥‥それで、こちらへは何用で?」
「おう、肝心な話がまだじゃったな!」
 昨日、辻羽根突き(?)を重ねていた老人がその場へ訪れては語られる武勇伝を聞く羽目となっているギルド員の青年は新年早々に戸惑いを覚え、漸く一区切りついた老人の話の間に割り込んでその真意を尋ねると‥‥此処で漸く、肝心の用件を思い出した老人。
「羽根突きの猛者を探しておる、何処かにいるだろう兵(つわもの)を募って貰えんかの?」
 その口を開いては本題を切り出すと一瞬だけ考え込んだ青年は年が明けてより後、最近町で良く耳にする話の一つに辻羽根突きの老人がいると言う話を思い出せば
(「多少なりとも迷惑と言う話は聞くし、捌け口になるのならこれもまた一興‥‥か?」)
 今度は判断の為にまた一瞬、思考を重ねてから‥‥確かな結論を下す。
「‥‥あぁ、分かった」
「おぉ、そうか! それならば宜しく頼むぞぃ」
 すれば青年の答えを前に老人は人懐こい笑みを浮かべると上機嫌に鼻歌を歌いながらその場を去っていく。
「‥‥とは言え、このままではこれから毎年の年始は必ず依頼として上がりそうだな。ならばその点も踏まえ、依頼書を書かなければならんな」
 そして、その背を見送りながらギルド員の青年は再び考え込むとただ勝つだけでは駄目だろうと言う事に思い至り、それも踏まえた上で今年初めての依頼書を認め始めるのだった。

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 依頼目的:羽根突き爺さんを満足させろ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要、依頼人負担となります。
 また、屋外での行動になるので防寒着も必要な時期なので忘れずに持参して下さい。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 日数内訳:依頼実働期間のみ、三日
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●今回の参加者

 ea4630 紅林 三太夫(36歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1065 橘 一刀(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 穂村 猛(eb0466)/ 拍手 阿義流(eb1795

●リプレイ本文

●邂逅、羽根突き爺さん
 京都、冒険者ギルドを前に邂逅を果たしたのは最近京都で一寸とだけ有名らしい、辻羽根突き爺さん(御年多分八十三歳)と暇じゃないけど興味本位等々から集まった冒険者。
「ふむ、漸く揃った様じゃの」
「宜しくお願いしま〜す」
 そんな彼らを前、老人はあごに蓄える髭をしごいては幅広い年齢層の冒険者達を見回すが、その視線にたじろぐ風も見せずに彼より一回り小さなパラの紅林三太夫(ea4630)が応じると他の皆もそれぞれに応じるのだが
「忘れもしねぇ! 十年位前、あの爺は俺からお年玉を取り上げやがったんだ‥‥」
 拍手阿邪流(eb1798)だけは明らかに他の皆と違う反応を示すと一人、老人に迫りつつ回想に耽る。
『ううっ』
『‥‥泣いてますね』
『泣いてなんかないやー』
『墨で真っ黒な顔で、涙の所だけが流されて落ちてますよ』
『‥‥こんちくしょー!!』
 それは子供の頃、羽根突き爺さんと相打っては無残にも敗北を喫し兄に慰められた昔の話で
「今度は負けちゃいられねぇ!」
「あの時は阿邪流から絡みましたし、完全な逆恨みだった様な‥‥」
 その回想が終われば握り締めた拳を戦慄かせ阿邪流は叫ぶ、気付けば同道していた兄の密かな突っ込みは聞き流しながら。
「爺! あの時は世話になったな‥‥と言っても覚えちゃいねーだろーけど俺はあの時に悟ったんだ、力こそ全てだとな! だから今度こそ、お前を倒すっ!」
 そして次には羽根突き爺さんへ指を突き付ければ間違いなく断言すると、それに侍の結城弾正(ec2502)も続いて口を開く。
「爺さんと言えども挑まれたからには全力で戦うのが筋ってもんだ。例えそれが‥‥羽子板だとしてもだ」
「まぁまだ始まってもいないのにそう熱くなるな。その熱さ、爺にはたまらんわい」
 亜邪流の勘違いには突っ込まず、だが彼の意には同意して弾正もまた老人へ告げる‥‥が彼はそんな二人の熱い意気込みを紡いだ言葉の割、笑顔と共にさらりと流す。
「うむ、丁度柚那も退屈していた所じゃ。いざ勝負じゃ!」
「望む所じゃ‥‥」
 しかし、その話を聞きながら尚も一行の中で一番に幼い緋月柚那(ea6601)‥‥本人はめかしこんでいるつもりでもしかし、白塗りでカチカチに面立ちを固めた恐るべき彼女(+連れてきている愛犬まで白塗り、正直怖い)が彼へ迫っては告げると、柚那には様々な意味で苦笑を湛えつつも応じる老人。
「と言いたい所じゃが、今日も寒いのぅ。少し体を解した後、始めるとするか」
 が、寒さの厳しい今日の環境を考慮してか老人は一行へそれだけ言えば、皆を今日の戦場へ案内すべく踵を返すのだった。

 と言う事で京都冒険者ギルドより然程離れていない、街中の一画にある空き地へと導かれた一行はその場で本戦を前、羽根突きにてその感覚を確かめながら体を解し始める。
「一刀殿、御手合わせして頂いても宜しいですか?」
「あぁ、そうだな」
 殺気立っている気がしなくもない一行のその中に置いて和泉みなも(eb3834)と橘一刀(eb1065)が二人の間に漂う雰囲気だけは至って穏やかなもの。
「幼き頃を思い出しますね」
「確かに、羽根突きなど以前にやったのは何時だったか‥‥」
「懐かしいです」
 その婚姻関係にある二人、響く言葉の通りに穏やかな笑みを湛え緩やかに弧を描いては宙を舞う羽根を打ち合いながら昔の事を思い出しながら暫し、羽根突きに興じる。
「あぁ、あのお二人様も愛らしい‥‥はぅ」
 その傍ら、羽根突きからは完全に気を逸らしてその光景に魅入る一条院壬紗姫(eb2018)だったが、それでも自身の間合いに入ってきた羽根は視線を逸らしながらも辛うじて打ち返すと‥‥今は彼女と対峙する老人、非常にのんびりとした速度で舞い降りる羽根を打ち零す。
「まさか、それが本気だとか言わないよな?」
「ふ、言うておくが未だ、本気ではないぞ」
「ならいいけどよ」
 するとそれを前、弾正と打ち合っていた阿邪流が噂とは裏腹なその腕前を訝って尋ねるも老人は果たして断言すれば、応じながらもやはり話で聞いた老人の腕前を疑問に思うが
「では、そろそろ頃合かの。問題がなければ始めるとするか」
 彼が考え込むより早く、羽根突き爺さんが皆に呼び掛けると‥‥いよいよ一行は恐るべき腕を持つ老人に得物としては何時もより頼りない羽子板を掲げ、応じるのだった。

●いざ、羽根突き! 〜前半戦〜
 寒風吹き荒ぶ中、老人の掛け声を持って場の空気も一変すると‥‥厳粛なるその場へ先ず響いたのは羽根突き爺さんの声。
「さぁ、誰からでも掛かってくるが良い」
「それでは」
「あ、ちょ‥‥」
『せーの!』
 するとそれに応じたのは柚那だったが‥‥直後に皆を見回しては目配せすると、その合図が何か察して老人、慌てて羽子板を眼前に掲げれば羽根を宙へ放った皆を制止せんと声響かせるが、時既に遅く一行はほぼ同時に七つの羽根を老人目掛け打ち込んだ。
「‥‥全員纏めてとは言っておらんわっ!」
「試合前の軽い冗談じゃ」
「全く、今時の若いもんは」
 そして緩急様々な速度を持って羽根が飛翔すれば、それを甘んじて受けた羽根突き爺さんは言うまでもなくいきり立って皆を叱り飛ばすも、言葉の割には懲りていない柚那の表情を見止めれば鼻を鳴らすが
「ごめんなさい」
「まぁ良い、で最初は主か?」
「そうだよ、宜しくお願いしますっ」
 皆を代表して三太夫が一歩前へ出ては詫びると老人、その意も察して尋ねれば彼より返って来た答えに笑みを湛えると礼儀正しく頭を垂れた彼へ頷くが
「試合途中でポックリ逝かないでね?」
「この若造‥‥後で吠え面かいても知らんぞ」
 その後に響いた、三太夫の余計な一言には笑みこそ湛えたままこめかみに青筋を一つ立てつつも、携える羽子板を掲げては彼へ向き直った。

 そして打ち合う事暫し、鋭く真直ぐに打ち込んでくる老人に対して三太夫は高く遠くへ打ち返して老人を走らせるも一戦目、予想だにしない老人のタフネスさを前に手傷こそ負わせるも三太夫が墨だらけの結果で終わる‥‥だが疲弊させる事に重きを置いていたので彼はその結果に付いて気にしなかったのだが
「ふぅ‥‥流石に疲れたわい、少し休憩じゃ」
「えー!」
「立て続けにやるとは言っておらんのだが‥‥と言うか、若いお主らを全員相手にそこまでやられては流石のわしでもポックリ逝くわ」
 次に発した羽根突き爺さんの言葉には驚き隠さず叫ぶが、それでも老人は軽く肩で息をしながらもその理由を発すれば一行とて彼の年齢を考慮すると無理は言えない。
「では次はうちじゃ、良いか?」
「無論、構わぬよ」
「しかし懐かしいの。良くじいに羽根突きの相手をして貰ったものじゃ‥‥」
 そして空き地の一画へ腰を下す老人へ、次に名乗りを上げた柚那‥‥自信があるのかないのか分からないが、ふてぶてしい表情を浮かべては尋ねると片手を上げては応じる老人へ頷き返せば昔の思い出を脳裏に蘇らせる。
「年末年始は家内が慌しくての、母上も姉上らも‥‥誰も柚那の相手をしてくれぬ。そんな時、じいが羽根突きを教えてくれたのじゃ。以来、毎年正月には羽根突きをして遊ぶ。それが柚那の正月じゃっ!」
「良い正月、良き腕前と見た。じゃが、わしは主のじい程甘くはないぞっ!」
 その良き思い出を反芻すれば自身の実力を明らかに誇示すると、持参したちょっと豪華な羽子板を羽根突き老人へ突き付けて声も高らかに柚那は告げるが、老人はそれを厳粛に受け止めつつも息も整え終わって立ち上がれば手加減無しの旨を伝えてから、彼女と相打つのだった。

●閑話休題? 〜エキシビジョンゲーム〜
「きゅう‥‥」
 と言う事でまた暫し‥‥負けん気だけでは誰よりも優れていた柚那だったが、気迫だけで実力の差を埋めるのはやはり厳しく、今はひび割れた白塗りも黒く染め直されれば疲労困憊、地に伸びて愛犬に心配される有様。
「ふむ、言う程に腕前は優れてはおらぬ様じゃが大丈夫か?」
「勿論だぜ!」
「その意気や良し、とは言えどうにも一つ詰まらんな」
 そんな彼女を前、一行へ再び問い掛ける羽根突き爺さんだったがそれにはすぐ阿邪流が未だに強気で応じれば頷き返しこそするも、どうにも盛り上がりに欠けてか暫し考え込む。
「そうじゃな、そこな二人。同時に相手をしよう」
「‥‥それは構いませんが、良いのですか?」
「問題ない、昔は良くやったもんじゃ」
 やがて、一つの結論を導き出せば一刀とみなもを指名してはそんな事を言うと‥‥老人の身を案ずるからこそ小さき浪人は逆に尋ね返すが、一刀へ笑みを浮かべて応じれば
「但し、これでやらせて貰うがの」
「二刀流?!」
 腰に挿していたもう一枚の羽子板を抜いては構えると流石に驚いて三太夫は目を剥くが、羽根突き爺さんは鼻高々に胸を反らせるだけ。
「‥‥ならば、いざ尋常に」
「勝負、ですね」
「応!」
 その様子を前に一刀も漸く首を縦に振るとみなももまた、彼に続いて応じれば‥‥老人が放つ気迫と共に、轟と風が吹いた。

●いざ、羽根突き 〜後半戦〜
 昼も過ぎ、昼食を食べた後に一行と羽根突き爺さん。
「‥‥流石に無理じゃったか」
「当然かと思いますが‥‥それでも勝負は勝負」
「遠慮なく、墨を入れさせて貰います」
 先の二対一の結果を思い出しては老人が嘆息を漏らせば、彼と対した一刀とみなもは揃い筆を手にすればそれぞれに一筆ずつ、老人の顔へ墨がたっぷりと含まれた筆を一筋ずつ走らせぺけの字を描くと皺だらけの老人の顔に益々皺が寄るが
「心頭滅却すれば火もまた涼しと言うが、逆も真なりだ‥‥さぁ爺さん、そろそろやろうぜ?」
 心情的に落ち着かないだろう今の機を見逃さず、弾正が羽根突き爺さんへ勝負の旨を告げると
「勝ちは貰うぜ。もう直ぐ、その顔を墨で真っ黒に塗り潰してやるからな」
 尚も老人を煽り急かせるが、羽根突き爺さんはたじろがず悠然と腰を上げれば侍と対峙すると不敵な笑みを湛えては弾正へ告げるのだった。
「主ら童、束になっても‥‥までは言わんが、一対一なら容易く負けん事を証明しよう」

「爺さん、年寄りの冷や水はそろそろ止めた方が良いんじゃないのか‥‥」
「さて?」
 そして今、阿邪流との打ち合いに応じる老人へ先の打ち合いと同じく煽る弾正だったが、またしてもするり避けられると彼は墨で酷い落書きを施された顔に渋面を浮かべる。
 先の勝負、弾正は力押しの一手で臨めばそれこそ老人にとっては辛いもので一進一退の攻防を見せるも、僅差で弾正が負けたからこそのその結果に柚那が傍らで笑い転げるが先の勝負が疲労も完全に抜けていないからこそ、阿邪流との打ち合いでは機敏だった動きに初めて淀みが見え、何て事のない軌道を描き飛んできた羽根を打ち損ねては阿邪流へ絶好のトスを上げてしまうと
「っ、しまった」
「武はなく、苦は棄て、末は朱に染まれ‥‥食らえっ、必殺! 武零苦棄末朱(ぶれいくすまっしゅ)!!」
 それを前に阿邪流は容赦なく、大仰な動作に口上を述べては絶好の位置に来た羽根を全力で思い切り引っ叩く!
「どうだ、爺! 見たか、この俺の力を!! そして心置きなく‥‥死ねぃ!!」
「死ぬのは‥‥己じゃあっ!」
「んなっ!」
 すれば乾いた音が響き、その勢いをそのままに受けた羽根は阿邪流の物騒な言葉に押されて恐るべき勢いを持ち老人へ迫るが、その軌道だけは見切っていたからこそ羽根突き爺さんは羽子板を両手で持ち、全身を使って猛烈な勢いを持つ羽根をやはり全力で打ち返せば、それは驚く阿邪流の額にクリーンヒットし直後に彼を悶絶させる。
「勝負あり、じゃな」
「うわん! 俺の十年を返せー!!」
「‥‥それは知らん。しかし流石に若いとその球筋も真直ぐで剛直、羨ましいの」
 そして肩で荒く息をしながらも羽根突き爺さん、敵ながらも健闘を褒め称えながら彼の駄々は無視して目の周囲だけ丸で囲ってやるも次いで、弾正に阿邪流との打ち合いから見た彼らの球筋を羨ましく思うからこそ嘆息を漏らすが
「いえ、それだけの歳にも拘らず皆さんと同じく動ける様には感服します」
「そう煽てるな」
「いいえ、本心からです。それでは改めて‥‥夢想一条院流、一条院壬紗姫と申します。一戦交える前に、御名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「ふむ、そう言えば名乗りはまだだったか」
 暫しの間を置いて後、壬紗姫が凛と声響かせればそれには苦笑を湛えて老人は応じるも穏やかな笑みを携えたままに彼女が言葉連ねれば、名乗りの後に未だ聞いていなかった老人の名を尋ねれば今更の様に思い出して彼。
「雷蔵じゃ」
「では雷蔵殿、いざ尋常に‥‥勝負!」
 改めて自身が名を紡ぐと、敬意を払うからこそ壬紗姫は先の二人と同じく鋭い剣気を放ちながらも言葉紡げば、携えていた羽根を虚空へ高々と放った。

 朝も早くから始めていた羽子板対決も夕日が落ちるまで続けられれば、休み休みとは言え流石の羽根突き爺さんでもその腕を遂にはおろし、老人も含めて誰一人の例外なく皆が墨に塗れた羽根突き大会は終わりを迎える。
「楽しませて頂きました。また、何れ再戦を‥‥」
「こちらこその、十分に楽しませて貰った故に次の機会があれば‥‥その時じゃな」
「ならばこちらも、来年の楽しみとさせて貰おう。その時こそは」
「今度こそ勝ぁーーつ!」
「ふん、貴様如きにはまだ負ける気はせんわい」
 夜を迎える目前に暗がりが広がる中、壬紗姫が雷蔵へ深々と頭を垂れては礼を述べると疲労こそ拭えないながらも笑顔で老人も応じれば、次いで響いた弾正と阿邪流の決意には鼻を鳴らして応じると羽根突きを通して育まれた、老人との絆を感じて一行はそれぞれに彼と暫しの別れを告げるが
「ふむぅ‥‥辻羽根突きか」
 その中、首を傾げては何事か考えていたのは今ではすっかり白塗りと墨が落ちた柚那。
「おぅ、そうじゃ! 辻羽子板なら伊勢ですれば良いぞ」
「伊勢なら良いと言うか?」
「うむ、問題ないぞ?」
「ほぅ、そうかそうか。それならば早速伊勢にで伊勢へ行ってみるかの」
 果たして直後、脳裏に閃くものを感じてはそれを言葉にして老人へ言うと疲れも忘れて彼が尋ねれば、またしても首を捻る彼女の答えにしかし雷蔵爺さんはすっかり乗り気。
「それ、本当なの?」
「これも試練じゃ、許せよ‥‥」
「‥‥大丈夫でしょうか?」
 喜び勇んではさっさと一行へ別れを告げれば駆け出すと、その余りの勢いに唖然としながらも柚那へ問う壬紗姫だったが彼女からの答えを聞けば、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。

 そして一行と別れてより後、伊勢へ赴く事を決める老人だったが
「そう言えば‥‥お年玉をやるのをすっかり忘れておったわ」
 勝負云々は抜いて、どの様な形であれ皆に配るつもりだったお年玉の袋が未だ懐に入ったままである事に漸く今、気付けば嘆息を漏らして呟いたのは皆も知らない、此処だけの話。
「いかんの、よる年波には勝てんな」

 〜終幕‥‥?〜