【伊勢巡察隊】光臨武装.2

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 22 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月07日〜02月16日

リプレイ公開日:2008年02月16日

●オープニング

●会談、斎王と伊勢藩主
 年も明け、既に何時もの静かに日常へ戻る伊勢の厳かなる雰囲気に包まれている神宮が本殿前、仮拵えの斎王の間にて‥‥そこの主、祥子内親王と伊勢藩主藤堂守也が話を交わしていた。
「‥‥宝具の回収にもう一度、伊勢巡察隊を動かしてくれないかしら?」
「それは構わないが‥‥後の一箇所はどうする?」
 その内容、言うまでもなく昨年の末より密かに始められている宝具の回収についての話で、一先ずは五つある内の三つまでを手中にこそするもこれからが肝要と言わんばかりに斎王は伊勢藩主へ詰め寄り頼めば、果たして応じる守也だったが未だ残る最後の宝具について尋ねれば
「場所については大まかに絞込みが終わっているけど人員は‥‥国司様に動きの予兆が僅かとは言え見受けられる以上、まぁ暇そうな人間を捕まえて何とかするわ」
「そうか。そしてとりあえず‥‥此処までは無事、宝具が回収されていると」
「えぇ、でも此処からが大変だと思うわ。出来れば早く片付けたかったのだけど、あちこちに手を付け過ぎて一月近くの時間も経っちゃった以上、ある程度の情報は向こうにも流れている筈だから」
 天井を仰ぎ見つつ斎王は応じると、苦笑を湛える藩主に笑顔だけで応じて彼女は次に頷くも懸念されるに十分な不安材料を挙げると藩主。
「とは言え、今までの動き如何だろうと思う」
「そうね‥‥でもこれからが本腰を入れて干渉してくる可能性が一番、高いと思うわ。敵勢を統べている焔摩天は慎重な筈だから動く為に決定的な要素が揃っていない限り、大丈夫だとは思うけど」
 今までに行われた宝具回収の依頼を概要だけ思い出しながら呟けば、それの途中で割り込んで斎王が言葉並べると
「相手の動きが分からない以上、気を付けて事に臨めと言う事か」
「えぇ、アドラメレクやらも出てくると厄介なんだけどね‥‥」
「それでも現状を打破する為には何とかする他、あるまい」
「そうね、天照様の存命も確認されたし此処まで来て阻まれてなるものですか」
 一先ず、今までに交わされた話を総括して守也が纏めれば暫し話を交わして後に立ち上がると、伊勢藩主はその最後に約束を確かに交わして場を辞するのだった。
「一先ず了解した、統括する者に当てはあるので呼びつけてすぐに動かす事にしよう」
「ありがと」

●伊勢藩主邸宅にて
 その会談が終わってより一刻も経たない内に伊勢藩主は自身の屋敷に滞在する、殴られ屋の京香を呼びつけては先に斎王と交わした話をし、その任を彼女へ託す。
「あぁ、良かった。監視だけ、って言うのも飽きていてね‥‥」
「内容として先に行った任とはほぼ同じとなる。伊勢藩士も必要に応じて手配しよう」
「まぁ、そうね。その方が正直、助かるし」
「故に今回、敵の干渉が十分に考えられる。前回よりも腕を立つ者を揃えた方が無難だろうな」
「その辺りは?」
「手配から、頼む」
「‥‥まぁ、それ位はやりますかね」
 するとあっさり了承する答えが返ってくればそれには苦笑を返し、しかしすぐには普段の表情を取り戻すと次に響いた藩主のアドバイスへ京香は疑問を口にするも直後、彼から返って来た答えを聞くとそれは内心でだけ面倒と思いながら、しかし表向きは素直に応じて立ち上がるが
「そう言えば今回、向かうべき場所は何処なの?」
「七洞岳だ。今までの中では一番に標高は高く、環境も厳しい」
「ふぅん‥‥」
 今回、回収すべき宝具‥‥腕輪『紅陽』の所在について尋ねると藩主から返って来た赴くべき場の詳細を聞いた京香は、果たして最初こそ考え込む様に掌で口元を覆うが
「面白そうで良いじゃない、それじゃあ新年初めてのお勤め‥‥頑張ってきますか」
 やがて不敵な笑みを湛えると、ふてぶてしいままの態度で踵を返し近くに立てかけていた細身の刀を手にすれば、京都の冒険者ギルドへ先ずは向かうべく動き出すのだった。
「そう言えば‥‥近々、伊勢神宮に直接赴いて探りを入れるみたいよ?」
 最後に一言、国司の今後の動向について知る事が出来た情報を付け加えて。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:五つあると言われる天照の宝具の一つ、腕輪『紅陽』を手に入れよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 また、屋外での行動になるので防寒着も必要な時期なので忘れずに持参して下さい。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 対応NPC:藤堂守也(同道せず)、殴られ屋の京香(同道)
 日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間は四日。
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●今回の参加者

 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4756 六条 素華(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●宝具を求めて 〜伊勢巡察隊〜
「何だかここの所、雪山に上る事が多い様な‥‥季節柄、仕方ないかな?」
 伊勢からの依頼、昨年の末を端にして目下の命題として掲げている天照大御神の宝具回収‥‥その四つ目も手にするべく現地へ赴く前、伊勢市街にて今回同道する殴られ屋の京香と合流を果たせば赴くべきその場、七洞岳へ想いを馳せるマキリ(eb5009)は半ばぼやく様に呟いた言葉の割、自身が生まれた故郷の風景を脳裏に過ぎらせるも
「京香さんもお久し振りだけどよろしくー」
「あぁ、見た奴も初めてのも宜しくな」
 僅かな間ですぐ、眼前に立つ京香へ再会の挨拶を交わせば不敵に笑んで彼女もマキリに応じ、皆をも見回しては掌を掲げるとそれに応じたのは彼と同じく京香とは顔見知りの六条素華(eb4756)。
「あれから御息災な様で何よりです。何時ぞや以降、悪魔の気配は?」
「あぁ、今は別段何も。諦めたんじゃない?」
(「‥‥果たして、そうだと良いのですが」)
 その出会いの端となった依頼から大分経った今になって、その後の調子を聞けば鼻を鳴らしては答えた彼女にしかし、素華の疑念は晴れない‥‥そもそも何者が何を狙っての行動なのか、その一切が未だに不明なのだから。
「しかし、宝具探しでござるか。雪も深い七洞岳、厳しそうでござるな」
「全くだ。それにしても暫く来ない内に中々、ややこしい事になってたんだな‥‥」
「以前より色々と騒がしいのは確かですが」
「‥‥それにも同意だな」
 だが、それを知る者はこの場には多くなく話題はすぐに宝具へと移れば完全に詳細は把握せずとも香山宗光(eb1599)がこの依頼の難しさ、厳しい山の環境を改めて口にすると頷きながら月代憐慈(ea2630)は久しく来た伊勢の変わり様に未だ閉口もままならず、だが次に続いた一条院壬紗姫(eb2018)の苦笑と共に紡がれた言葉には苦笑を湛え、返すと
「だが、これもこの国の混乱を収める事に繋がると言うのなら手を貸さぬ訳には行くまい」
「伊勢の混乱を端に、ジャパン全土までも巻き込んでの騒乱など許せる筈もない」
 真幌葉京士郎(ea3190)が毅然と、次に自身の固き意思を響かせれば最初に応じたガイエル・サンドゥーラ(ea8088)を筆頭に、皆は頷くもガイエルの表情は意外にも冴えない。
「正直、次の依頼に備えるべきか悩んだのだが‥‥宝具の事も気懸り故、やはり同行する事にした次第だが」
「そう言えば伊勢から新しい依頼があったねー、宝具を無事に回収出来ても神宮へは様子を見て届けないといけないかな」
 その理由、彼女が明らかとすれば草薙北斗(ea5414)が継いで言葉紡ぐと益々表情を厳しくするガイエルではあったが
「そう言えば、後一人いる筈だけど‥‥どうしたんだい?」
「あぁ、それなら」
 京香はそれを気にせず、皆の頭数を数えては足りない事に気付いて今更ながらに問えば、それには彼女と随分長い付き合いである榊原康貴(eb3917)が応じようとして、視界の片隅にその人物が映るとそちらの方を指差しては彼女、水葉さくら(ea5480)へ声をかける。
「ようやっと、戻って来たが‥‥どうだったろうか?」
「はぁ、はぁ‥‥自身もまだ、良く解していないので宝具そのものについてから改めて‥‥話を伺って来たのですが‥‥」
 すると康貴の問いに対し、彼女はまず息を整えて後に人見知りもする事からポツリポツリ、言葉を紡ぐと一度の息継ぎを挟んで後に皆へその明確な解を吐き出した。
「自身、今までの事は‥‥掌握こそしましたが、今までの調査から大きな進展は‥‥見せていないそう‥‥です。皆さん、頑張ってこそ‥‥いましたが」
「‥‥それでは、未だ行方が分からない最後の宝具も?」
「すると現状で分かっている事は四つ目までの大まかな所在と、その用途だけか」
 すればそれを受けて、素華が以前に聞いた最後の宝具についても尋ねるが‥‥それには頷き返すさくらの反応からガイエルは顎に掌を当てては思案するが
「まぁ、ここで立ち止まって考えてもしようがあるまい。先ずは手近にある村へ向かって情報を集めてみようか」
「全く同意だね、時間も限られているしとっとと行こうさ」
 それに倣って皆が考え込むより早く、康貴が声を響かせ皆を促すと京香も頷き言葉を続けると全員も揃った事から漸く、一行は七洞岳の先ず麓を目指し歩き始めた‥‥天照を完全に目覚めさせる事が叶う、希望の鍵を揃える為に。

 と言う事で辿り着く、七洞岳に一番近い村‥‥とは言え件の山は未だ遠い。
「それでは、本題は伏せたままにそれとなく七洞岳の情報を集めましょう」
 それでも毎回、都合よく村があるのは偶然だろうが‥‥それはともかく、村へ辿り着いた一行は素華が先に打ち合わせた通りの案を響かせれば、それぞれに情報の収集や必要な資材を集めるべく動き出す。
「魔物が迷い込んだので退治に行きたい山の中で危険な場所、行かない方がいい場所は無いか」
「‥‥あぁ、そうだねぇ」
 その中で村人の一人から雪山を登る為のかんじきを借りる傍ら、憐慈は早速探りを入れれば人数分のかんじきを親切に村中から掻き集めてきた中年の彼はそれを置きながら暫し考え込むも
「特に何もないよ」
「‥‥ん?」
「名前こそ何かありそうだなー、って感じだけど良くも悪くも普通の山さ」
 やがてはっきりと、その答えを憐慈へ明示すれば首を傾げる彼へ再度告げると肩を竦めて彼、次いで右の掌を志士の眼前へ出せば笑顔を湛えて言うのだった。
「この時期、やりくりが大変でね。気持ちで構わないから少しばかりかんじきの貸し賃、貰えるかい?」

「事を成す前に雪山に返り討ちにあったのでは意味がないのでな、色々ご教授願えると助かる」
「そうだなぁ、元より人が踏み入らない山だからこの時期の雪質は柔らかい筈。雪崩とかには先ず、気を付けた方が良いだろうな。後は‥‥山全般に言える事だが天候が急に荒れる時もあるから、気を付ける事と言えばそれ位かな」
 また、その一方で京士郎も憐慈と同じ話題の切り出し方から七洞岳について別な村人から話を聞いてみるが‥‥返って来た答えはやはり同じもので
「七洞岳について、何かご存知のお話があれば伺いたいのですが‥‥」
「うんにゃ、あそこは何もねぇど」
 人遁の術まで行使して、普段とは違った凛々しい青年のいでだちにて意気込んで話を聞き回る北斗にしてもやる気とは裏腹なその結果に皆と再び落ち合って後、うな垂れるが
「恐らく、事実だからこその答えだった訳で北斗殿の責ではありませんよ」
「そうだね、それに七洞岳とも結構離れているから知らない事の方が多いのかも」
「‥‥うん、そうだね。ともかく、現地に行ってみないと分からないのかぁ」
 壬紗姫とマキリの慰めを受ければ、やがて立ち直るもヤマが外れたに等しい事と気付く皆ではあったが、それでも登山の準備だけは整ったからこそ情報を纏め終えた後。
「‥‥それじゃ、そろそろ行こうか」
「待っているでござるよ。拙者は何時も通り、無事に帰るでござる」
 日がまだ変わらない内、京香に促されれば宗光は愛馬へ律儀に一時の別れを告げるといよいよ一行は村を発ち、伊勢にて一番高く聳える山へ向けて歩を進めるのだった。

●白き闇、七洞岳
「七洞岳‥‥洞窟が七つあるのだろうか?」
 果たして一行だけが目的の山を登り始めた時、そんな疑問を呟いたのは京士郎だったか。
「さて、どうなのかねぇ」
「‥‥天照の宝具で有るなら、民には恐れ敬う対象となっていてもおかしくはない。それならば立ち入らせぬ為、禁忌の一つも伝わっている筈だったが」
 真剣な面持ちの割、少し間の抜けた疑問へ周囲を覆う白き雪を踏み締めながら京香がにこやかな笑みを湛え応じれば、その反応を前にした彼は途端に気恥ずかしさを覚えてか眼前だけを見つめ、歩く速度を上げては集めた情報の一端を反芻して渋面を湛えると
「別に、これと言った話は‥‥聞きませんでしたよね」
「‥‥今までの事例と同じではないか。そうなると面倒ではあるな」
 その後はさくらが継いで言葉響かせれば、今までの経験則からガイエルは神妙な面持ちにて考え込むとその時、言葉紡いだのは宗光。
「先ずは何らかの‥‥そうでござるな、例えば洞窟等を探してみるのは如何か?」
「確かに前例こそあるが、洞窟だけを探すと言うのもどうか」
「一先ずの指針と言う事で雪山を無闇に探しても見付からないでござる故、他に当てが無いのなら調べてみる価値はあると思うでござるよ」
「まぁ、その通りだな。そうなると‥‥探し漏れがない様に注意して探す他にないだろう」
 それに対し康貴は自身の経験と今までの関連する依頼から彼へ尋ねるが、穏やかな声音にて彼が答えを返せばやがて憐慈が穏やかに場を纏め上げると歩は進めながらも一行は注意深く、白に埋もれた山へ注意深く視線を走らせるのだった。

 そして一行の探索はそれより七洞岳の全てに及ぶ。
 目立つからだろう、今回は伊勢藩士を登用する話が出なかった事から一行のみで行われたその捜索は周囲を覆う雪もあって困難を極め、時間をただただ浪費していく‥‥だけだったのだが、思いもしない所でそれは起きた。
「やはり、雪山の捜索は骨が折れるな」
「へぇ、ここに張り込んでいて正解‥‥だったのかな」
 お世辞にも効率は良くないながら、それでも目星を付けては捜索に励みながら休息を挟んでいた際、直上より振って来たその声に皆揃って頭上を仰ぎ見れば‥‥果たして雪に塗れた一本の樹が枝の先に乗っていたのは妖孤の三匹の内が一匹、名前はどれだか相変わらず分からないながらも不敵な笑みを湛えるそれは口元を緩めると、率直に一行の行動の意図を尋ねる。
「何を探しているの?」
「あ、実はですね‥‥」
「大人しく引くなら良し、引かぬなら‥‥その身を持って知れば良いが、それでどうか?」
「ぶー、けちー! ばーかばーか、お前の母ちゃんでーべーそー!!」
 すると妖孤とは初見であるさくらは見た目、それなりに可愛らしい(?)狐へ思わず答えようとするが康貴が抜刀しながらもその途中で響かせた徹底抗戦の意に遮られると直後、その抵抗に切れた妖孤は暴言を吐くが
「‥‥なぁ、ボコっていいか?」
「いえ、ここはなます切りにすべきかと」
「え、えと‥‥とりあえず、一思いにやってあげませんか?」
「むきー! 皆、殺っちゃえー!」
 それを前に少し、本気に怒った憐慈と壬紗姫がひそひそと言葉を交わす中に混じってさくらもあっさりと掌を返せば、それが聞こえた狐はいよいよ本格的に憤慨して叫ぶとどれだけ連れて来たか以津天津を数多呼ぶが、怯む風も見せずその圧倒的多数を前に妖孤に呼応してか大人気なく切れる京香。
「それは、こっちの台詞だよ‥‥この子狐がぁっ!」
 飛来した一匹を何時抜いたか細身の刀で両断するとそれを合図に混戦は始まる。
「‥‥とりあえず、未だ敵も宝‥‥は見付けていない様ですね」
「あぁ。それならば早く追い払い、捜索を続けねば‥‥!」
 多勢に無勢、彼我戦力の差は果たしてどれだけか考える暇すらなく‥‥それでも落ち着き払って雷撃の鎧を纏ったさくらは狐へと視線を配し、鋭き魔剣を振るいながらもそれだけは判断すれば強固な結界を展開して後衛に座する者達を群がる以津天津より守るガイエルも応じるが、その時。
「あ、九重‥‥何それ?」
「腕輪、真っ赤な」
『なっ!』
「‥‥良いなー、何処で見付けたの?」
「へへー、秘密ー。そしてあげないよー」
 また別な一匹の妖孤がその場へ飛来すれば至って呑気に先にいた妖孤へ話し掛けると、その尻尾にある円環を見止めれば応戦しながらも呻く一行は未だ呑気に言葉を交わす妖孤らを視線だけで揃い、射抜く。
「‥‥何か、怖いんだけど」
「‥‥僕らだけ先に帰ろっか」
 すれば一行の鋭い視線には流石気付いてか、二匹の妖孤も揃い呻くと判断も早く踵を返してはその場より飛び去ろうとする。
「そのまま、返す訳には行きません!」
「逃がさないよ!」
「馬鹿ー、危ないじゃないか!」
 だがそのまま見送る筈もない一行、素華が放つ不可視の波動にて真紅の腕輪持つ狐を絡め取ればその間隙を見逃さず、マキリも瞬時に二本の矢を弓へ番え放つと果たしてそれは寸での所で避けられるが、バランスを崩した拍子に腕輪は地へ向けて落下する。
「あー! 何だか分からないけどそれ、取り返せー!」
「生憎だが、ここで引く訳には行かんのでな‥‥燃え上がれ、俺の命のオーラよ!」
 その光景の中、同時に響いたのは妖孤の叫び声と京士郎の雄叫び。
 それを詠唱の代わりとして彼は内在する闘気の全てを己の内にて炸裂させれば、真紅の腕輪を取り返さんと今正にそれへ群がらんとする以津天津の只中へ果敢に突貫し‥‥。

●腕輪『紅陽』
 情報収集に足を運んだ村へ戻って来た一行は漸く妖達も追い払い、白い山より離れて一息をついていた。
「さぁさぁ、遠慮せず。遠慮もお代もいらないでござるよ」
「ふむ、そうだな‥‥余り機会もないから頼むでござる。京香殿は?」
「そうね、たまには良いかも」
 その中、未だ元気に振る舞っては皆へ声を掛けていた宗光が先ず、自身の刀を皆の前にて打って見せればその光景を前に康貴が決断を下し、京香にも話を振って見ればやがて頷く彼女の笑みを見れば今更に安堵を覚える康貴。
「全く、無茶をする」
「‥‥そうでもせねば、逃げられると思ったのでな」
「確かに。ギリギリだったな」
 その傍ら、オーラマックスを唱えた為に一時瀕死となった京士郎は命を繋いでくれたガイエルがその後の様子を見ながらも呆れる中、笑んで応じると憐慈もそれには納得して‥‥今は素華が持つ宝具へと視線を注ぐ。
「一先ずは無事、手に入る事が出来ましたか」
「えぇ。これが『紅陽』‥‥」
 紅に染まるその腕輪を掌に置いては見つめ、呟く素華に壬紗姫も応じるが‥‥しかし今まで、不安だけだったものは今回こそ現実となって一行を阻んだからこそ確かにそれをも直視してさくらが口を開く。
「とは言え‥‥用途こそ、知らない様でしたが‥‥少なからず勘付いて、いますね」
「後、たったの一個だけど次こそが厳しいかもね」
「ま、その時はその時だ。今回みたいに先を越されない様、手を打つ必要こそあるかも知れないが‥‥俺らにだって意地や信念がある。それを見せ付けた上で今度は徹底的に追い払えば良いさ」
「‥‥そうでござるな」
 すればそれに応じるマキリもまた、渋面を湛えては彼女が紡いだ言葉に頷くも‥‥その事実こそ受け止めながらも尚、決然と憐慈が一行を前に言い放てば康貴を筆頭に皆も頷くと、伊勢がある方を見つめてはそれぞれに想いを馳せるのだった。

 ともかく、一時こそどうなるかと思われた宝具『紅陽』の回収は今回も最終的には無事、果たされた‥‥最後の宝具を回収に臨む前、今までは形のなかった不安が具現化しながらも。

 〜一時、終幕〜