斎宮奪還
|
■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月24日〜03月01日
リプレイ公開日:2008年03月02日
|
●オープニング
●決断する、藩主
「まだ、敵対の意は見せていないが‥‥故に下手な動きは見せられず。だが、これに関してはその限りではないだろう」
「まぁそれでも独断に関しては変わらず、今までの独断をも帳消しには出来ないでしょうね」
「止むを得ないだろう、今はそれよりも」
伊勢神宮、相変わらずに国司を除く伊勢の主要幹部は今日も仮拵えの斎王の間に集っては頭を寄せ、何事か話していた‥‥国司の動向も考慮し、建前を先ずは検討していた今日の議題とは、一体。
「確かに、斎宮を取り返せれば憂いの一つは多少解決ね。根本までは解決出来なくても」
「今後の動向が不安だ、可能なら早く取り除くべきだろう」
「まぁね」
伊勢藩主、藤堂守也と斎王が祥子内親王を中心としてのそれは‥‥果たして斎宮の奪還。
時期尚早、と言えば否定は出来ないが今後の展開がどう流れるか分からない以上、早急に憂いの一つは断ちたいと彼らは口を揃え言えば、それを機に早く話を纏め始める。
「そうなると、こっちからもある程度の派遣はしないといけないわね」
「とは言え、この機に乗じて何かあっても困る。少しで構わないが、そうだな‥‥レイ殿を筆頭に幾許かの兵を貸して貰えれば良いだろう」
「‥‥まぁ、適材となるとその辺りしかいないわね。当分は五節御神楽も待機だから良いけど」
斎宮の奪還、それに際して斎王は自身らも動かねばならない事を当然として言えば様々に起きうるだろう事態を考慮する藩主は暫しの思考の後、それだけ告げれば伊勢の藩士達とは力も練度も違う斎宮の兵の力量を理解するからこそ頷いて斎王が応じれば、
「忝い、こちらからは‥‥私と京香を」
「で、具体的な作戦は?」
「速やかに斎宮中枢を押さえる、倒せずとも退けられれば後は先日の偵察の限りでは烏合の衆。私に従う意思のある伊勢藩士を前線にて囮とし、その間に内部へ潜入。中枢を撃退出来れば後はこちらで全て薙ぎ払おう」
伊勢藩からの代表者を守也が告げると、それに納得して頷きながらも斎王は次に斎宮の奪還に当たり、具体的な作戦を尋ねると果たして応じた藩主が上げた作戦は電撃戦か。
「‥‥ま、内部の状況が分からなければ時間も惜しいし、それで行きましょうか」
こちらとは違い妖、連携こそ取り難いだろうからこそ頭を先ずは潰しに掛かるその作戦に斎王は先日、斎宮の偵察にて得られた情報が認められた巻物へ視線を配しながら危険が付き纏うそれには、渋い表情を湛えながらも頷くが
「因みに伊勢藩士達はそれから後、どうするつもりだ? 確かに斎宮の奪還と言う大義名分こそあるが、戻って来れば」
そこで一つ、疑問を響かせたのは十河小次郎。
斎宮の奪還を果たそうと果たせずともその後、待っているだろう国司との対面について珍しく的を射た疑問を響かせれば
「民衆へ私達の意を告げたくあるも‥‥田丸城へ赴くつもりだ。今、何らかの外敵が来られても困る故、防衛線を敷く」
「なら、柄じゃあないけど皆へは俺から伝えよう。斎王に何かあっても困るし、その連絡係ついでにな」
「済まない。それでは‥‥京香とレイは共に、これより斎宮の奪還に臨む」
そこまでも考えていた守也はすぐに彼へ応じると、その早くの断言に対して小次郎は彼の意を汲むからこそ笑顔でそれだけは告げると頭を垂れては藩主、一先ずの憂いがなくなったからこそ早く斎宮の奪還へ臨むべく今回の作戦の先を駆る二人を促せば、その場より足早に去るのだった。
●
さて、その頃の斎宮はと言えば‥‥。
「アドラメレクはどうした?」
「爺ちゃんの所に行くってー」
「ふむ‥‥」
「どうかした?」
伊勢陣営の密かな動きは未だ気付かず、しかし何かは確かに感じて斎王の間にて焔摩天は疑問を響かせれば、それには妖狐の七枝が応じると‥‥眉根を顰めた主の珍しい反応に狐は小首を傾げれば
「‥‥周囲の警備を厳に。いずれ近い内、何か起きるぞ」
「それって戦い?」
「だろうな」
それに明確な答えは言わず、指示だけを出す焔摩天だったがやはり珍しく察しがついた妖孤が一匹は明示されなかった答えを尋ねると口元だけ僅かに揺るめ、応じる天魔。
「どう出て来るか、その手を明かして貰ってからでも動くのは遅くないか。後はアドラメレク次第か、それだけが癪だが‥‥今は止むを得まい」
無論、仔細は分からないものの未だ状況はどう転ぶとも知れないからこそあえて慎重に立ち振る舞おうと決め、いずれ鍵の一つとなるだろう存在に干渉している悪魔の存在こそ疎ましく思い内心にて舌打ちこそするがやがて、嘆息を漏らせば市街がある方を見つめては呟くのだった。
「さて、間に合えば良いが‥‥」
――――――――――――――――――――
依頼目的:斎宮のその中枢を速やかに押さえろ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
また、屋外での行動もあるので防寒着は忘れずに持参して下さい。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
対応NPC:藤堂守也、殴られ屋の京香、レイ・ヴォルクス
日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は二日。
――――――――――――――――――――
●リプレイ本文
●斎宮奪還 〜反撃の狼煙、昇る〜
京都を発ち、伊勢へ辿り着けば一行を待っていたのは五節御神楽が長のレイ・ヴォルクスと、最近は伊勢藩主の元へ身を寄せている殴られ屋の京香。
「‥‥藩主は?」
「今回の任を達する為に早く、現地へ兵と共に入っている」
何時もの様に正しく挨拶を交わして後、東雲八雲(eb8467)は見ない彼の姿を探しながら尋ねれば、それに応じるレイは直ぐに踵を返す‥‥一刻も争う、と無言で皆へ訴える様に。
「斎宮の奪還か‥‥待ち受ける相手も強敵の様だ、心して掛からねばな」
そして歩き出した彼の後、その意を察したからこそ次に榊原康貴(eb3917)も続くが‥‥その今回の任を改めて明確に発すれば、次々に歩き出しながらも痛いまでに緊張感が高まる場の雰囲気。
「所で妖さん達は神のお膝元である斎宮にいて、気分は悪くならないのでしょうか?」
「さてねぇ、鈍いんじゃないの?」
「その手の加護を斎宮は受けていない筈、そこまでは期待出来ないな」
「そうなのか‥‥良くは分からないがしかし、厳しい戦いになるのは確かか」
だったが、それもマイペースな巫女の大宗院鳴(ea1569)が小首を傾げての発言を前にすれば霧散とまでは行かずとも和らぎ、その問いには苦笑を湛え京香が冗談交じりに応じればレイはしかし真剣に答えると‥‥その話を傍らに、八雲は肩を竦め呟くが仕草の割にその表情は漸く冒険者として高みの一端に立ったばかり故か、普段よりも固い。
「そう言えば、わたくしは戦神である建御雷之男神様の巫女ですので戦いで頑張らないと行けませんね」
しかし一方、鳴は経験の差から呑気に掌を叩きつつ彼に応じ自身の意気込みをも珍しく紡ぐと
「そうでなくとも、この戦いに伊勢の未来の一端が掛かっているのなら」
「この場にいる皆が皆、引くべき場面ではないでござるな」
彼女の後に続き、真幌葉京士郎(ea3190)と天城月夜(ea0321)が歩を進めながらも揃い、一文を編み上げれば彼らの剛胆さを前に舌を巻くしかない八雲ではあったが
「‥‥それでも、何時かは」
自身の未熟さを確かに知るからこそ、前を行く彼らを見つめながらしかし歩は決して止めなかった。
●
そして至る斎宮‥‥それを遠目に見る、小高い丘の上にて陣を張り斎宮の奪還に動く伊勢藩の中枢へ辿り着いた一行は伊勢藩主、藤堂守也と無事にまみえれば
「やるべき事は大きく分けて二つ」
改めて一行、六条素華(eb4756)が確認の為に紡ぐ言の葉へ耳を傾けていた。
「敵陣を突破して斎宮へと侵入する事、そして斎宮内部を制圧する事‥‥中で待ち受ける敵の詳細が未知である事を考えれば、後者の方が難しいと言えるでしょう」
そして言葉を続ける彼女は口を開きながら、自身の魔法にて編み上げた灰の地図をそのままに書き写したものを皆の前に差し出せば、それを食い入る様に見詰める一行の中。
「備えあれば憂いなしと言うが‥‥さて、どうなるか」
思っていたより単純なその構造から‥‥と言うよりは自身、閃いた直感から京士郎が呟いた言葉のその真意は、果たして密かな不安を抱いたからか。
「‥‥それにしてもあれからもう、半年以上経ったんですね」
「あぁ、もうそんなにも経つでござるか」
しかしそれよりも何よりも、斎宮の改修等にも携わった緋芽佐祐李(ea7197)が視線の先にあるそれを見つめれば、ここに至るまで短かったのか長かったか‥‥刻を振り返るからこそ感慨に耽れば、月夜もまた遠くを見るかの様に瞳を細めれば
「斎宮を奪還しましょう、必ず」
「そして然るべき人にこの場所を返す為に‥‥それじゃ、行きましょうか」
次に響いた佐祐李の厳かにて確かな言葉が響くと後、藩主の側に残るステラ・デュナミス(eb2099)が場の纏まりを察したからこそ彼女の後に続けば、その最後は皆を促し‥‥そして、斎宮を奪還する為の戦いが始まるのだった。
●激突!
そして入念な準備が終われば、果たして戦場を目前にする一行ら。
未だ場は小競り合いと互いに積極的な交戦はされておらず、だがそれ故に妖らの方でも積極的な指示が出ていない事を察する事が出来、一行が仕掛ける機は容易に図れる。
「電撃戦は速度が命、今回は最初から全力で行かせて貰う」
「ご随意に、しかし突出のし過ぎだけは避けます様に留意して下さい」
果たしてその最先、翼持つ獣に跨りながら京士郎が早くも宙へ浮きつつ意気揚々と刃抜き放っては言うも、あくまでも普段通りに素華は釘こそ刺し‥‥改めて眼前、伊勢藩士達と小競り合いを続ける数多いる死兵やら妖の群れを見つめ、瞳すがめる。
「さて、それじゃあ‥‥露払いをしないとね」
「右翼、左翼は速やかに中央を開けよ!」
だがそれでも、眼前の光景は余り気にしていないのか肝要な出だしにも拘らず気負いは一切見せず、ステラが凛と声響かせれば藩主も速やかに全軍へ指示を下すと広がっていた伊勢藩士達はその命を確かに受け、中央を開くと‥‥直後。
「‥‥吹き荒れよ、氷嵐。眼前にいる悉く、全て薙ぎ払え!」
確かな詠唱から間も無くステラの掌より放たれた氷雪の刃は敵陣、その奥深くまでを微塵に切り刻む。
「流石、これでも小揺るぎしない数と頑丈さには感心するわ」
「感心している場合じゃないでしょ! ほらっ、とっとと行くわよ!」
だがそれでも、倒れ動かなくなった数より緩慢ながらにも未だ蠢く数の方が勝る様を目前にすればステラ、あくまで悠然と笑みを湛え言うがそれには叱咤で京香が応じると次には皆を言葉にて打ち据えれば、斎宮へ突入する一行は一斉に動き出す。
「斎宮までは必ず、送り届けるでござるよ‥‥!」
「全軍突撃。斎宮近隣に蔓延る妖の悉くを全て、打ち払えぃっ!」
そしてその彼らよりも前、天馬が白夜を駆って皆を斎宮へ導かんと意気を吐いては白い軌跡を描くと、彼女に呼応して守也もまた伝令を飛ばして出鼻を挫いた今を機に全軍へ指示を下すのだった。
●
「よらば斬るぞ‥‥真幌葉京士郎、参る!」
果たしてそれより暫く、初めて大きく動いた戦場の只中を突っ切り斎宮の内部へ至った八人は取り急ぎ、斎宮の間を目指し回廊を駆けていた。
「とは言え、斎宮内にもこれだけの敵を配しているとは」
「もしかすれば、上は手薄なのかも知れないでござるかもな」
しかし斎宮の内部においても妖らの影は多く、素華は言葉だけ呆れるが‥‥その彼女へ意外にも康貴が楽観的な答えを返すとクスリ、小さく笑い声を響かせたのは京香か。
「とは言え、先ずはそこまでの道を切り開かねば」
だが仮にそうだとしてもそこまでは血路を開かねばならず、駆けながらも一行を先導する役を勤める八雲が言いながら、左右から飛び掛り行く道を阻まんとする妖を土の魔法にて直上へ打ち出し言えば
「所で、今更な話になりますが‥‥」
「何でござろう?」
「多少の破損は、目を瞑ってくれますよね?」
その光景を前、言葉響かせたのは佐祐李で応じる康貴へと遂に疑問を響かせれば‥‥先程、八雲が打ち上げた妖が天井に食い込んでいるのを見つめて彼は直後。
「伊達に烈風と呼ばれた訳ではない‥‥」
「‥‥恐らくは」
「一応は正当防衛が成り立つんじゃない?」
京士郎が外部より迫らんとする妖へ刀振るい、衝撃波をぶつければ舞い散る木の壁の欠片を見つつ自信なさげに応じるも、果たして次に京香が断言すれば惑う佐祐李ではあったが‥‥斎宮奪還と言う至上の命を思い出すとやがて、微塵の躊躇いも捨てて急ぎ駆け出すのだった。
早く、この戦いを終わらせる為に。
●
その一方で斎宮内部へ突入した面々とは別の、陣頭での指揮を執る伊勢藩主が護衛についている月夜とステラはと言えば敵の手、本陣にまで伸びる事はなくのんびりとしていた。
「‥‥そう言えば藩主様の所には女装集団がいた筈じゃが、今回は?」
「あそこだ」
さて、その本陣‥‥月夜が従える天馬の白夜が張り巡らせる聖なる結界にて覆われる中、ピリピリとした周囲の喧騒とは裏腹に彼女、呑気に最近見なかった元女装盗賊団について尋ねれば彼方を指し示し、端的に応じる藩主のその指先が先を視線にて辿れば確かにその辺りだけ、周囲と一線を画している事に気付いてステラ。
「あぁ、何か戦場の一角だけ可笑しな色合いになっているわね」
「あ、圧されておるのぅ」
「問題あるまい、頑丈さだけは他の追随を許さないからな」
率直に思ったままの事を言えば、うっすらと見えるその戦いっぷりを解説する月夜であったが、藩主は心配する素振りも見せずに唯一褒められる点を上げると‥‥それが聞こえた筈もなく、しかし戦場の片隅にて再び立ち上がった彼らを見止めれば微笑む月夜だったが
「でも、この調子だと今回も比較的数に任せての勝負みたいね」
「そうでござるな、さもなくば此方へもいずれ何らかの手を打って来る筈」
「遠慮したい所ではあるがな」
改めて戦場を見回したステラ、場の全体的な動きが未だ変わらない事に一先ずの状況を察すれば思考を巡らせる月夜もまた、それ故に警戒だけは緩めず呟くと大仰に溜息を漏らす守也へステラはクスリ、口元に手を当て微笑むと
「その為にも、中の方が上手く行っていると良いのだけれど」
今正に斎宮へ乗り込んでは斎王の間を目指し進んでいる皆の無事と、敵中枢の打倒を戦場の片隅より祈れば再び、戦場の只中へ巻物に織り込まれたマグナブローを打ち込んで伊勢藩士達の支援を行なうのだった。
●
再び場面は斎宮内部へ戻り、八人は漸く回廊にひしめき合っていた数多の妖を振り払っていよいよ斎王の間に辿り着いていた。
「斎王の間、ですね」
「それでは、良いでしょうか?」
ボソリ、最初に囁いたのは誰か知れず最後に一度だけ皆を見回しては佐祐李が問うとそれぞれの表情を確かに見て後、目前の襖を開け‥‥そして、それとほぼ同時に八雲は懐の小さな袋から何とも言えぬ強烈な臭い放つ保存食を取り出し、僅かだけ部屋の中へばら撒いてから残りの全てを手近にあった窓の外へ放る。
「肉だー!」
「にくにく〜♪」
「俺んだー!」
『‥‥‥』
「狐払いだ」
すれば響く、絶叫にも似た叫びと同時に三つの影が外へ落ちて行ったそれを追って窓の外へ飛翔すると、余りにも思った通りに動く妖孤へ唖然とする一行だったが勤めて冷静に言葉を八雲が紡ぐとレイは直ぐに斎王の間へ視線を投げ、唯一つだけある影へと問い掛けた。
「此処にはもう、貴様だけか?」
「狐らが出て行ったのなら、そうなのだろうな」
「‥‥その割、随分と余裕だなっ」
するとそれに焔摩天は余裕を持って応じれば、その間隙を見逃さずに京士郎は一足にて天魔の懐へ入り、既に闘気が付与されている刃を振るい‥‥次いで、自身の直感から危険を察知して振り抜こうとした刃を唐突に止めては身を後ろへ仰け反らせる。
「ちっ!」
「とは言え予め伏せていた手は、この程度だ!」
そして同時、床から半透明の女性が姿を見せるとその進行方向にいた京士郎の体躯を舐める様に触れれば、ただそれだけで体を揺さぶられた様な衝撃を覚えた京士郎は舌打ちと共にそのダメージから膝を屈すると、微かに口元だけ歪める焔摩天へ彼を援護すべく槍携えるレイが飛び掛ると天魔もまた、腰に挿す大刀を抜き放っては迎え撃つが
「ん‥‥貴様、どうにも臭いと思えば」
「何の事か?」
「ふん、余所見とは随分と余裕だなっ!」
「全くだね‥‥落ちなよっ!」
ただ一瞬のやり取り、それだけで何かを察した焔摩天は密かに狼狽するもレイはお構いなしに首を傾げれば出来た一瞬の隙に京香が刀振り翳し、飛翔すれば八雲は焔摩天の体勢を崩そうと魔法にて天魔の周囲が重力を反転させ、浮き上がったそれへ京香とは反対の方から切り込む鳴と佐祐李だったが‥‥直後、窓の外から再び妖孤の三匹が姿を現すなり怒りを露わにその只中へと突貫す。
「一切れしかなかったじゃないかー!」
「死んじゃえー!」
「食べ物の恨み、思い知れ!」
「‥‥その気持ち、良く分かりますよ」
その理不尽かつ無意味な怒りにて殺到する狐らを前、果たして進むべき歩に急制動を掛けて立ちはだかったのは鳴、その怒りには賛同しながらも雷撃の鎧にて激しく彼らを諌めればそれを機としてそれぞれ、距離を置き静まる場。
数で言えば十対五、力量の差を考えても倍に当たる冒険者達と果たして妖らは対するか‥‥暫く緊張に包まれる場に気を緩めず一行は天魔らの動向を伺うと漸く、焔摩天が口を開く。
「‥‥やる気が失せた、今の手勢も手勢故に此処は退く」
「逃がすか‥‥っ!」
そしてそれが掻き消えるより早く天魔が畳を蹴り、宙へと飛び出せばそれに倣い亡霊は再び音もなく天井を抜け、姿を消すと妖孤らは相変わらず一行へ毒づきつつも天魔の後を追えばすぐさま、京香が追い縋ろうとするが
「これ以上の追撃は不要でござる」
それは康貴によって宥められれば彼女は舌打ちを響かせると彼を一瞥だけすれば、未だ戦いが続いている屋外のその空の高みを悠然と、何処へ向かってか焔摩天らは飛び続ける様をただ、見送るのだった。
●斎宮奪還 〜妖の目論み〜
やがて斎宮を中心とした戦いは伊勢藩側の勝利にて終わる、やはり幾ら数で勝ろうとも統率されていないそれはただの有象無象に他ならないから。
「心のない戦いは、不幸しか呼び寄せません‥‥」
「全くだな」
「美味しい物も食べられませんしね」
「‥‥そっちか」
そしてその戦場跡を眺め、珍しく真剣な面持ちにてボソリと呟いた鳴へ確かに同意を覚えたからこそ八雲も頷くが‥‥直後、彼女の口から紡がれたその続きには苦笑を持って月夜が応じると、笑顔で頷き返す巫女。
斎宮の奪還が今正に叶ったのだから。
「しかし、取り戻す事が出来たとは言えどうも、しっくり来ない終わり方よねぇ」
「こちら側の手、決して読めなかったとは思えません‥‥未だ、隠し通すべき何かがあってこの場ですらも引いたのでしょうか?」
「そうねぇ‥‥」
とは言え、その幕引きが余りにもあっさりした物から京香が果たして疑惑を言葉で露わにすると、佐祐李も彼らと何度か対した経験があるからこそ同意すれば一通りの話を聞いて検分するステラではあったが‥‥やはり、毎度の事ながら決定的な情報が欠けている事から呻きを漏らすのみに留まり、しかし推測の域は出ないながら素華は彼女の代わりに口を開く。
「時間稼ぎ、でしょうか」
「ないとは言い切れないが、だとしてもやはりあっさりとし過ぎてはいるな」
「ともかく、斎王とは此方で連絡を取って斎宮への帰還を促しておく。その間、私達は万が一の外敵に備え‥‥」
「藩主様、伊勢神宮が‥‥!」
するとそれを聞いて柔らかくも異を発する京士郎ではあったが今はこれ以上、問答の無駄と察して守也が皆へ呼び掛けた、丁度その時‥‥皆の前に現れた伝令の一人は果たして、皆の元へ驚愕の情報をもたらすのだった。
〜一時、終幕〜