【何でもござれ】破砕しようぜ!
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 84 C
参加人数:5人
サポート参加人数:5人
冒険期間:04月26日〜05月01日
リプレイ公開日:2008年05月03日
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●オープニング
●小さな、壊し屋
さして大きくもない、何処にでもありそうな風体の一件の家‥‥どんな物でも、物であれば必ず壊すと言う仕事を請け負っている壊し屋があった。
一部の例外こそあるもののその大小に関わらず、壊す物があれば何でも引き受ける変わった家業ではあったが‥‥その特殊性故か、お世辞にも儲かっているとは言えず数少ない従業員は当然の事ながら、代々この仕事を受け継いでいるこの家業の長までもが些細な事でも仕事がないかと探す日々が送っていたのだが。
「仕事、取って来たー!」
「‥‥またですか」
「や、暇よりは良いと思って」
出入口の戸を勢いよく開けるなり見た目、大分年若い家業の長が何時もの元気を持って声高く言葉を発すれば‥‥しかし何故か嘆息を漏らす年の頃、彼と同じ位の女性へしゅたっと手を掲げてはその理由を明示するが
「まぁ確かに、その通りではありますが」
「‥‥それでも、物には限度があります」
「ん、そんなに沢山だったか?」
「‥‥‥」
「ひのふのみのよの‥‥」
次いで響いた、場に介する三人の中で一番に年を経た三十代位だろう男性の肯定の更に後、彼女の声が再び響くと首を傾げる長へまたしても彼女が溜息を漏らせばその反応を前、彼は漸く最近の中では一番に多く抱えている仕事の件数を改めて指折り数えてみる。
「あれ、二十?」
「はい、二十です‥‥これを全て、五日間の内に破砕しなければなりません」
「やー、大変ですねぇ」
「えーと‥‥」
すると直後に素っ頓狂な声を発し、答えを出した彼に女性が頷けばその期限をも明確に涼しげな声音で告げると、別の男性が至って呑気に肩を竦めては呟くとやっと事の深刻さに気付く。
「全部、俺がやるのか?」
「他に誰がいると言うのですか?」
「すいませんねぇ、まだそう言う年でもないと思った矢先にぎっくり腰を患ってしまって」
そして響いた長の疑問に彼女は首を縦に振れば、男性は男性で身動ぎせずに腰だけを叩き華やかな笑顔で二人へ詫びると‥‥暫く後に誰のとは言わずとも分かる絶叫が辺りに木霊するのだった。
「‥‥無理だー!」
●
「‥‥と言う事でして、非常にお恥ずかしいお話ではありますが」
京都の冒険者ギルド、先の壊し屋に属する壊し屋の運営を一手に切り盛りする女性が止むを得ずに足を運んだ先は当然ながら、ここしかなかった。
「余り聞かない話ではあるが分かった、引き受けよう。しかし‥‥大変だな」
「何時もの事です、余り気にしてもしょうがありません」
無論、多少に関わらず依頼を持ち込まれればそれを無碍に断わるギルドである筈もなく、率直な感想こそ漏らしつつもギルド員の青年は微かに彼女へ同情の念を抱くも、当の本人は至ってあっさりとした答えを返せば
「‥‥では改めて確認となるが五日の内に京都市街にある古い家屋を二十棟、潰せば良いのだな」
「はい、但し固まって壊すべき家屋がある訳ではなく人々が住む家の中に点在しておりますので先ずは回りの人へ一言断わりを入れ、その上で破砕して下さい。またその際、周辺の住居へは軽微でも被害を出さない様にお願いします」
自身より年若い彼女の、淡々としたその態度に内心で舌を巻きながらも改めて依頼の内容について反芻しては確認を取ると、頷きながらも細部に至るまでを懇切丁寧に再び説明する彼女の様子にはやはり、唖然とするが
「‥‥因みに、魔法は使っても構わないだろうか?」
「効率の点で言えば推奨されますが、今回破壊する住居の殆どは人の住んでいる家が距離の多少こそあれ隣接していますので、先にも言った通りに周辺の住居や人へ被害を可能な限り出さない事を考えるのなら、お勧めは出来ません。尤も優れた術者であるのならその限りではないのでしょうが‥‥」
「分かった。早急に面子を集めよう」
「こちらの不手際で本来であれば冒険者の皆さんがする筈のない仕事をお任せする事となり、また財政も厳しい事から報酬が少なくて誠に申し訳ありませんが‥‥宜しくお願いします」
それでも覚えた疑問だけは忘れずにギルド員の青年が尋ねれば、それにもまた的確な回答を返す彼女の、最初から変わらない凛とした雰囲気に何とか飲まれず首を確かに縦に振っては平静を保って応じると、丁寧に頭を垂れては形式的ではあったが感謝の意を述べると早々と踵を返し、ギルドを後にする彼女がその場から立ち去れば
「‥‥確かに、変わった依頼ではあるがこれはこれで面白いか?」
何となくではあったが安堵の息を漏らし青年、久々に請け負った依頼が風変わりであるからこそ僅かにではあるが笑んで、呟くのだった。
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依頼目的:京都市街の中に点在する、老朽化した二十棟の家を全て潰せ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要、依頼人負担となります。
また、必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
日数内訳:五日間、全て依頼期間。
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●リプレイ本文
●邂逅、壊し屋
自称か他称か、ともかく壊し屋とそう呼ばれている彼らの依頼を引き受けたのは五人の冒険者‥‥果たして依頼内容である二十もの家屋を五日の内に潰すには多いか少ないか、数だけで考えれば間違いなく少ないだろう彼等はしかし、その事は気にも留めず依頼人の居へと足を運んでいた。
「志士の東雲八雲だ‥‥宜しく頼む」
「にゃっす! あたしパラーリア、うさみみの良さを世界に広める為に頑張ってまっす! 今回はよろしくっよろしくなのっ!」
「おう、宜しくな」
そしてその門扉‥‥と言うにはちゃちな引き戸を前にすればやがて開け放つと冒険者が東雲八雲(eb8467)と、その彼の胸元位までの背丈しかないパラのパラーリア・ゲラー(eb2257)が兎の耳を象ったヘアバントを揺らしては揃い声を響かせれば壊し屋、面立ちだけ見れば皆よりも若い長が威勢良く応じる。
「しかし‥‥六人で五日の期間、二十もの家屋を潰すとなるといささか厳しいですね」
「何、一棟を六分で潰して見せよう」
「非現実的です、どれだけ優れた冒険者でも魔法の行使もなしに単独で六分は」
「‥‥随分と夢がないでござるな」
だが、現れた冒険者達の頭数だけを先ず数えては壊し屋の一切を掌握する女性は普段からそうなのだろう、冷静にこれからの苦難を容易に思い浮かべ呟くが‥‥場に居合わせる者の中で見た目、一番に年を経ているアンリ・フィルス(eb4667)は至って気楽に目立つ容貌を綻ばせ、直ぐに彼女より返って来た嘆息にも肩を竦めながらしかし笑みは緩めず応じる。
「大工に頼んで出来ん事もないのだろうが‥‥専門家の方が確実で安上がり。事業としては特殊だが存在意義はあるな」
「そこに目をつけた先代には感服します。今の頭首を見て貰えれば分かる様に、先代も未だ若く‥‥」
それぞれ、単なる解体作業であるとは言え思う所がある中で京都見廻組の一員でもある浪人の備前響耶(eb3824)‥‥彼もまたやはり内心で思う事があるからこその参加ながら、それはおくびにも出さず初めて聞く名だからこそ彼らの着眼点に感心すれば、それには女性が反応して僅かながらだが先とは違い言葉に抑揚をつけ誇らしげに応じると、頭首の父なのだろう先代の話を始めるが
「‥‥こほん、そろそろ宜しいでしょうか。人数も心許ないので、時間は少しでも有益に使わないと完遂は厳しいです」
「そうですね」
誰からか突っ込まれるより早く、先とは裏腹に饒舌となった自身を咳払いの後に直ぐ戒めれば皆を促すと、それに応じて巨躯の騎士がミラ・ダイモス(eb2064)も直ぐに応じれば
「破壊するだけなら兎も角、周りに被害を与えない様に破壊する事は難しいと思いますが‥‥必ず、依頼を果たしましょう」
浮かべる表情こそ穏やかなまま、瞳に真直ぐで鋭い光を宿し断言するのだった。
●下準備は大事
そして一行は早速、京の街中へと歩を進める‥‥その前。
「‥‥とまぁ、こんな感じか」
「問題ありません、その案が最善で最適かと」
壊し屋の居にて、綿密に打ち合わせを行う一同。
実際に何処の家屋から、どの様な手段で、どう言った手順で壊すか‥‥それを前以って確定させる事が彼らにとってのきまり。
「成程、意外に緻密で繊細なのだな」
「えぇ。そして時には大胆に思い切り良く‥‥壊し屋に限らず物を壊す際、大きければ大きい程に事前の準備は必要です」
「覚えておくとしましょう」
名前の割、その細かな打ち合わせに頷きながら響耶が感心すれば、壊し屋の参謀が女性は眉一つ動かさず応じるとミラはその言葉をしっかりと胸の内に留めてから一人、屋外へと出て改めて眼前に広がる街並みを見回して呟く。
「しかし、京にまだそれだけの古い屋敷があるのですね。破壊するべき対象とは言え、こうして京の街並みを見回してみると新鮮な気持ちです」
「あぁ、だが探せばまだある筈だ‥‥多分な」
「それなら余計、頑張らないとねっ!」
するとその背へ壊し屋が頭首の青年は彼女に頷くと、その言葉を聞いて尚も明るい声を発しパラーリアが最先に歩き出せば、それを切っ掛けにして面々はいよいよ町の方へ向け歩き出す。
「‥‥どうかしたか?」
「いや、気になる事があってな」
しかしその中、青年の言葉を聞いて微かではあったが眉を顰めた響耶の変化に気付いた八雲、何事かと尋ねるが‥‥彼もまた今の時点では断言出来る筈もなく言葉を濁して答えを返せば、皆の背を見つめながらその殿を歩き出した。
●破砕しようぜ!
「済まないがこれから、隣接する古い家屋を潰させて頂く。こちらも十分に気を付ける故、協力して貰えればと思う‥‥」
「あいよ、何かあれば遠慮なく言っておくれよ」
先ずは一件目の潰すべき家屋へ辿り着いて一同、家屋の破砕を準備する傍らで近くに住む人への声掛けも忘れず八雲が周囲の一軒一軒を尋ねれば、別段不安の声も上がらないままにそれを終えて戻る彼。
「ご苦労様でした」
「‥‥実際、本番はこれからだろう」
「とは言え、周りに住む人々へ予め声を掛ける事も大事です」
そして直後、八雲を労う女性へ彼は簡潔に応じるが首を縦に振りながらも彼女は声掛けの重要性を述べれば、手元にある薄い冊子へ視線を落とす。
「ですが、旅のしおりが必要なのかと言えば‥‥」
「一応、纏めておいた方が良いかなーって思って!」
それは詳細が決まってから一件目の家屋に辿り着くまでの間、どうやって時間を作りこさえたのか分からないがパラーリア作、家屋の破砕に当たって注意事項等を簡潔に纏めた『旅のしおり』でそれを見つめ溜息を漏らしつつ女性は呟くが、それを作ったパラの彼女が言う事もまた事実。
「此処は手順『い』の通り、四方の柱を同時に砕いて地面と垂直に潰す‥‥ただそれだけとは言え、タイミングがずれれば何処かへ傾いで倒れるから注意してくれ」
と言う事で女性だけは溜息こそ漏らすが、一方の頭首はそれを何の気なく受け入れており家屋が四隅の一つへ立ち、予め決めしおりに記されている手順が一つを上げて皆へ指示すると、残りの三方に配する冒険者達。
「最初から厳しい条件だが何処も似た様な物であるなら先ずはこの場、必ずや成すべき事を成そう」
「まぁ暇潰しにござ候、だが‥‥手抜きはせん! 本気で叩かせて頂くでござる」
「確実に、壊してみせましょう」
響耶にアンリ、ミラが続けて応じれば緊張感が高まる中で頭首は先までと調子を一切変えず、手を掲げては彼らに応じると次いで大凧を用いて上空へ配する八雲へ声を響かせる。
「東雲さんも、準備はいいか? 此処であればまぁ、魔法を使う程の問題はない筈だが」
「おけーだよー」
「よし、それじゃあ決められた掛け声の最後、皆で言うと同時に破砕するぞー」
すると頷いた彼の様子を見て、大凧を操るパラーリアが八雲の代わりに応じると頷いて頭首の青年‥‥いよいよ一件目、家屋の倒壊に臨むべく掛け声を発する。
「さーん、にー、いーちー‥‥」
『どっせーい!』
するとその最後、皆の声が重なれば同時にそれぞれの得物がその家屋の支柱へと突き刺さり‥‥。
●予想される不安
「それじゃあちろ、お願いねっ」
果たして一件目の破砕は無事に成されるとすぐにパラーリアはやはり予めの相談通り、辺りに人がいない事を確認してから自身の愛鳥‥‥と言うにはいささかサイズが桁違いで名前も不釣合いなロック鳥を呼ぶと、木材等の瓦礫撤去を始める‥‥此処までが終わって無事、家屋の破砕が終了となる。
「東雲殿、少し余裕はあるか?」
「‥‥多少なら、何か」
その瓦礫撤去、パラーリアのロック鳥を中心に皆もそれぞれ行う中で響耶は戦闘馬を手繰り、木材を運ぶ八雲へ声を掛ければ振り返りつつ彼は言葉少なくその真意を問う。
「次に壊すべき家屋を中心に探査の魔法を試みて貰いたいのだが」
「‥‥?」
「この空き家‥‥いや、これから潰す空き家とその周辺に何か潜んでいなければと思ってな」
「‥‥成程、そう言う事であれば手を貸すのが道理か」
そして八雲の疑問を受け響耶は京都見廻組として、不安視しているその真意をやがて紡げば‥‥土の志士はその真意を汲んで応と頷くと撤去作業に大まかな目処が立っている事を確認してから後、先行して響耶と二人で先に次なる場へ赴くのだった。
「大丈夫、とは言えない昨今の情勢を考えればこの機会に治安の維持も確かに行うべきなのでしょうが」
治安維持、響耶の考えは果たして間違いではなかったが‥‥お世辞にも人手が多い訳ではなく、ミラが紡いだ不安は確かにその通りだったが
「‥‥どうやら杞憂ですか」
直後、何度目か上空へ羽ばたいて大きな瓦礫を苦もなく抱え飛翔する巨大な鳥を見れば彼女、考えを改めたは必至だった。
●
やがてそれからも順調に古き家屋の破砕は進む‥‥尤も、時間的には厳しい物だったが治安の確認をしつつも一同は善戦していた。
「所で、六分の件はどうなったのですか?」
「‥‥何だ、しっかり覚えていたでござるか」
そして潰すべき家屋の半数を終えて後、次なる家屋を前にして果たして壊し屋の参謀が女性はアンリが最初の告げた挑戦について今更だが尋ねると‥‥呆れていた割、しっかりとその事を覚えていた彼女へ苦笑を返して騎士。
「一応、行う条件を設定している故にそれと相応しい場所になったら試させて貰うつもりだが‥‥比較的、此処は空間的にスペースがある様でござるな。試させて貰ってもよろしいでござろうか?」
「まぁいいけど、六分で終わらなければ介入するからそのつもりで」
「応!」
次いで辺りを見回してから暫し考え込んで後、頭首の青年を見つめ尋ねると意外とあっさり応じる彼から視線を家屋へ向ければアンリはすぐさま得物を抜き放ち、今までの中では大きい部類に入る家屋へ立ち向かう。
「ふむ、いささかに大きいが‥‥それでも!」
「ねぇねぇ、お兄さん。ちろ使ってもいい?」
「‥‥町の外れだし、問題はないか」
そして無機物を砕く為の技を駆使する彼だったが、その大きさ故に一筋縄では行かない事を直ぐに察し、それでも毅然と臨むがその光景の傍らで果たしてパラーリアがアンリに続いて尋ねると、何をするかは聞かないままに応じる彼は直後に後悔を覚えたのは公然の事実。
「じゃあちろっ、ぷれすだよーっ!」
しかし未来の事には皆、気付く筈もなく‥‥彼女はやがて上空で待機している、巨大な愛鳥を口笛で呼べば次には巨鳥へ取るべき指示を下すと果たしてロック鳥は主からの命令を忠実に行動へ移す。
未だ家屋の単独倒壊に望むアンリがその事に気付かない中で。
「後、少し‥‥っ!!!」
『‥‥‥』
その彼、上手く家屋のバランスを保ちながら後少しで盛大にそれを崩せる所まで至っていたが‥‥直後、空の高みから巨大な質量持つ鳥が眼前に舞い降りて来れば狼狽の声を上げる間も無く全て手柄を奪われた上、余りの衝撃に吹っ飛ばされる。
「あ、あははっ‥‥すこーし、やり過ぎたかなぁ?」
「少し、と言うにはいささか当て嵌まらない気がしますが‥‥」
そして騎士が地を勢い良く転がり、濛々と砂煙が立ち昇る中でパラーリアは乾いた笑みを浮かべ呟くが、舞う砂埃を払いつつミラは的確に砂煙が晴れて後に見えた光景を目の当たりに、それなりに保護されていたからこそ周囲の家屋へ被害がない事を確認してから安堵の溜息を織り交ぜながら、応じるのだった。
●破砕、終了
そして、依頼期間である五日間を終えて一行は壊し屋と改めて向き直っていた。
「流石に‥‥疲れたな」
時間的猶予もない事から限界まで家屋の破砕に臨んでいた皆を代表して八雲は呟くも、それでも破砕すべき二十棟の家屋は全て潰す事に成功こそし、一先ず依頼としては無難に終えていた‥‥しかしその実、被害状況の細部等を知るのは壊し屋の参謀を担う女性のみ。
「よくよく考えてみれば、被害を一切与える事無く今回の破砕は無理でしたので周囲の人達から訴えのない、軽微なものに関しては一切を不問とします」
「そうなると‥‥どうなるのでしょうか」
故に彼女の口が開いた時、最終的な結果を聞けるものと思っていた一行はしかし最初の依頼内容を差し替えるのみに留まる彼女の話を聞いて驚けば、益々首を傾げる皆の中でやがてミラが問い掛けを口にすると
「まぁ、問題はなかったと言う事になりますか。尤も、私から見れば頭首の現場での指示や采配こそ、まだまだではありましたが」
「うっ」
「しかし急遽、お手伝い頂いた皆さんは良く頑張って貰いましたので当初のお話通り、提示した額をお渡しします」
「やったー!」
思い出したかの様に近隣の家屋への苦情の類はなかったのだろう、それだけは告げればしかし頭首の青年を見つめ厳しい眼差しと言葉を送れば呻く青年を傍ら、彼女は皆を見回し漸く最終的な結果を告げると今までの苦難を思い出したからこそ、満面の笑みを湛えてはしゃぎ喜ぶパラーリア。
「京の治安の為にやった事。見廻組から貰っている給与範囲内故に報酬は受け取れん」
「そうですか、でしたらそれはそれで」
そして皆へ今回、提示していた報酬をその場にて渡すがしかし響耶だけは彼女の申し出を素っ気無く断わると、懐事情の厳しい壊し屋故に女性もまた渡そうとした報酬を直ぐに自身の懐へと戻し、これにて一件落着。
「‥‥しかし、静かですね」
「まぁ、今までが今まででござったからな」
「何時までも、この平穏が続けば良いのだが」
しかしその中で昇ったばかりの月を見て思わず呟いたのはミラ。
街の外れであると言う事もそうだが今までの作業が騒音塗れだったからこそ、と暗にアンリが苦笑を湛え彼女へ声を掛けると頷きながら響耶も真剣な面持ちにて街並みを見つめ、呟く‥‥未だ、京都だけと言わずジャパンの各所で混乱が絶えないからこそ。
「‥‥それはこれからの、俺達次第だろうな」
「少なくとも、一端は握っていますね」
そんな彼の言葉を聞いて言葉を返す八雲だったが、少しばかり彼の大仰な言い回しに訂正をミラが加えれば一瞬、空白を挟んだ後に彼女は改めて口を開く。
「これからも、依頼内容の大小に関わらず頑張りましょうね」
「おーっ、全てはうさみみの為にっ!」
「‥‥それは関係ないと思う」
そして騎士が紡いだその言葉に、パラーリアも元気良く応じて腕を掲げ嬌声を上げれば‥‥唐突に傍らから上がったそれに思わず渋面を浮かべつつ、八雲はしっかりと突っ込むのだった。
何はともあれ、無事に京都の街並みを整然とし治安の回復をも図った今回の依頼は成功したと言えよう‥‥しかし築いたこの平穏が何時まで続くか、それだけは誰もが知る筈はなかった。
全ては、これからである。
〜終幕〜