伊勢、これまでとこれからと

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月04日〜05月10日

リプレイ公開日:2008年05月14日

●オープニング

●斎宮にて、これまでを振り返る
「はぁ〜〜〜〜‥‥」
 伊勢、二見の海岸沿いにある斎宮‥‥妖の手から奪還を果たしてより一月は経ったろうか。
 その中枢である斎王の間にて、その主が斎王こと祥子内親王は頬杖をついてはながーい溜息を漏らし、傍らに何時もいる側近の方を見やっては尋ねるとその問いに対し彼女は首を縦に振れば
「やっと、一息?」
「そう見て、問題ないでしょうね」
「全く‥‥伊勢神宮がジーザス会の教徒に包囲された際、誰だか知らないけど連絡手段が断絶して来るなんてね」
 斎王はもう一度、今度は短く息を吐くと斎宮の奪還を果たしてより後の事を振り返ってぼやく。
「飛んだ所に盲点があったものだな」
「確かに‥‥脆弱でしたが現在、重点を置いて強化を行っておりますので今後、同じ様な事は」
 そんな彼女のぼやきに対して果たして応じたのは斎宮が誇る五節御神楽の部隊長であるレイ・ヴォルクス‥‥奪還の直後、伊勢神宮にて起きたジーザス会の教徒達が蜂起とその混乱に紛れて生じた、何者かの干渉による情報網の断絶を指摘すれば側近はそれを肯定しながらも今、その進捗の程を告げるが
「他にもまだ、挙げておかなければならない点はある」
「それは‥‥田丸城の事か」
「あぁ、大きく言えば戦全般に関する事だろうか。次にあるだろう動きを読み、そちらへ兵力を集める所までは問題なかったが‥‥あの直後、尾張藩が攻め入って来ても直ぐには対応出来ず後手後手を踏んだ点はマイナスだ」
 しかしそれでもまだ、レイの指摘は終わらず‥‥それを自身でも把握しているからこそ伊勢藩主の藤堂守也が応じると、やはり首を縦に振ってレイは脆き部分について再度挙げ連ねる。
「何とか『彼女』が間に合ったから良かったが‥‥あのまま戦が続いていれば田丸城は間違いなく突破され、伊勢神宮はおろか斎王らまでも尾張藩の兵達に抑えられていただろう」
「そう守也ばかりを責めおるな」
 そして事実、その通りであるからこそ守也は何も言える筈はなく‥‥レイは珍しくも饒舌に振る舞うが、それ以上はしゃがれた声が口を挟んで言葉を続かせない。
「‥‥収穫もあった以上、責めてばかりはいられないか」
 その声の主、伊勢国司が北畠泰衡の干渉にレイは暫しの間を置いてから肩を小さく竦め応じると‥‥国司は場に集う皆を見回し、頭を垂れては言葉を紡ぐ。
「疑って、済まんかったの」
「‥‥こちらこそ、事の細事を把握せず独断にて動いてばかりで申し訳ありませんでした」
 斎王だけでなく、国司もまた伊勢を想うからこそ今までに取った行動ではあったが田丸城にてあった戦乱の際、響いた『彼女』の言葉から互いの信念が同じである事を互いに知る事となり、また何時からか抱いた斎宮への疑念故に自身が暴走の憂き目にあっていた事と気付いたからこそ、詫びる彼に斎王もまた頭を下げて自身の非礼を詫びる。
「雨降って地固まる、とは正にこの事ですか」
「ふん、それもこれも全て誰のお陰じゃと思っておるのかの」
「‥‥どちら様でしたっけ」
 その光景を前、微笑んだのは天津神が一体である猿田彦神であったが‥‥その逆、不機嫌そうに呟く『彼女』へ斎王が問い掛ければ、鋭い眼光でねめつけては長身に纏う衣を翻し立ち上がる『彼女』に斎王は苦笑を浮かべつつ、改めて礼を告げる。
「天照様のお陰です。あの場にて公言してくれたからこそ尾張藩が引いて戦が収束し、国司様とも漸く」
「分かれば良い」
 すればその『彼女』‥‥艶やかな黒髪、凛々しき主立ち、蒼と紅の双眸を携える天津神の頂点に立つ一体の天照大御神は鼻を鳴らすと一先ず満足してか、視線を彼女から国司へと向けて口を開く。
「‥‥そう言えば、ジーザス会の者はどうしたか?」
「未だわしの懐の内ですじゃ」
「ふん、とっとと野に放せば良い物を」
「他所の状況も考えれば、それが賢い手とは思わんでの」
 そして紡がれる問い掛け、彼女が言う『ジーザス会の者』とはアゼル・ペイシュメントの事だろう‥‥だがその問いに泰衡が答えるとまたしても鼻を鳴らす天照に、しかしその判断を下した根拠を告げる彼。
 ジーザス会が伊勢神宮を包囲した件、それ自体は彼ら独自の行動ではなく国司の大義名分‥‥即ち、反乱分子と予見された斎宮に属する者らの捕縛の意を受けての行動であり罪がない事と、完全に把握し切れてこそいないが何処かきな臭いからこそジーザス会の集結を防ぐ為。
 その意を含めて国司が告げれば、それに言葉を返してくる者はいなかったが
「けれどまだ、悪い知らせがある」
 新たに場に加わり、報告をする者はいた‥‥今は伊勢藩主に仕える、十河小次郎。
「‥‥何かあったか」
「黒門の一派が戦の混乱に紛れ、逃げた事がついさっき分かった」
 その彼へ主は即刻、報告を促すと小次郎は端的に言葉を紡いでは主へあった事を伝える。
 黒門絶衣、伊勢にて大手の卸問屋を営んでいた青年‥‥もうかなり前になるが、何らかの意図を持って伊勢の転覆を図り、そして捕らえられた人物。
「奴らに関しては‥‥何が狙いか、未だ持って皆目見当が付かん。だが、何かに噛んでいる可能性は十分に考えられる。生じた混乱の隙とは言え、それでも厳重だった警備を全員が揃い抜け出した‥‥やろうと思えば何時でも、逃げる事が出来た筈。またこれから、何か行動を起こすのは間違いないだろう」
 そして今まで、それを明らかにする事なく投獄されていた彼が逃走の報に守也が渋面を湛え呟けば果たして水を打ったかの様、沈黙する場ではあったが
「‥‥パーッと行きましょうか、何時もの様に」
 その沈黙を払い、言葉を紡いだ斎王は笑顔を持って皆へ一つの提案を掲げるのだった。

●冒険者ギルドにて、これからを望む
 それから数日後、京都の冒険者ギルドにて普段とは違う装いに顔もしっかりと隠した斎王が現れたのは言うまでもない事。
「久しいな」
「本当ね」
「‥‥一先ず、混乱は収束したと見て問題ないか?」
「問題はまだあるけど、とりあえず目前の事はね」
 一先ず、簡潔且つ形式的な挨拶を交わして後に斎王は早速本題を切り出す。
「となると今回は‥‥」
「分かっているなら話は早いわ、場所は前と同じで手配は済んでいるから案内だけお願いね。それじゃ、まだ忙しいから後は宜しく」
「待て、まだ話は‥‥」
 がその前、何となく今までの経験と流れからギルド員の青年は彼女が言葉を紡ぐより早く口を開けば、覗く口元に緩やかな孤を描いて斎王は微笑むと一枚の何事か書き記された和紙を差し出し、早々と踵を返せば青年の静止は聞かずに颯爽とその場を去る。
「‥‥とりあえず現状、心配は要らないと見て問題なさそうか。とは言えこれから果たして、どうなる事か」
 その彼女が去った方を暫く見つめたまま、彼は嘆息を漏らし‥‥そして表情は変えないまま、伊勢の今後を憂うのだった。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:今後の相談と、大騒ぎ?

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要、依頼人負担となります。
 また、必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 対応NPC:OPに記載のある、全NPC
 日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は二日。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5301 護堂 万時(48歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)/ 久方 歳三(ea6381

●リプレイ本文

●第一部 〜色々深刻、まだまだ複雑、難題山盛り〜
 伊勢市街の某所‥‥斎王こと祥子内親王がお忍びで良く来るとか来ないとかで有名らしい酒場を今日は丸々借り切って、伊勢の重鎮と冒険者の一行が何事か集っていた。
「‥‥宜しく頼む」
「ん〜‥‥以前に来たのが二年前ですから私は初めまして、ですねぇ〜。他の人にとっては久し振りになるでしょうか〜♪」
「あぁ、それ位になるか‥‥元気そうで何よりだ」
「おっ久し振りだねー、シェリルちゃーん!」
「ハンナさーん、相変わらずですねぇ〜」
 その中で何時もの様に開口一番、挨拶を切り出した東雲八雲(eb8467)に果たして最初、応じたのは随分とちんまいエルフのシェリル・シンクレア(ea7263)で、その彼女の挨拶には馴染みのガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が頷くと次いで過去、シェリルと肩を並べて戦った事もあるハンナ・プラトー(ea0606)とも再会を果たせばちょっとした同窓会が始まる、その傍ら。
「うむ、とりあえず宴会ってのが実に伊勢らしいな」
「そうでもしなきゃ、やってられな‥‥コホン」
 場を見回して鋼蒼牙(ea3167)が率直に呟くと、それを聞き留めた斎王は思わず本音をポロリと漏らし‥‥何処からか鋭い視線でも飛んで来たのだろう、咳払いを一つすると苦笑を湛えながら天城月夜(ea0321)。
「ともかく、皆が無事である事には安堵したでござる‥‥一時、音信が途切れた時にはどうした物かと」
「ま、何とかね。でも色々と迷惑ばかり掛けて申し訳ないわね」
「それは気にする必要はないかと思いますよ、むしろこちらも力及ばず」
 場に集う、伊勢の重鎮がそれぞれの姿に言葉のまま安堵したからこそ言葉紡げば、それには応じながらも皆へ心配を掛けた事からか斎王、頭を垂れるが‥‥それには陰陽師の護堂万時(eb5301)が笑顔にて応じるも、それを端にして場の空気は微妙なものに変わる。
「んー、確かに何時の間にやら何だか色々凄い事になってるよね。でもそれはそれ、頑張って騒ぐぞー‥‥オー!」
「‥‥まぁ一応、やる事をやってからね」
 だがそれを察して‥‥と言うよりは本能で感じ取ったと言った方が正解か、ハンナが直ぐに明るい声音を発し場の空気を和らげると、確かに苦笑を浮かべながら斎王はしかし彼女へ釘を刺せば漸くそれぞれ、場に誂えられている椅子へ腰を下ろし始める。
「それでは、これからの斎宮の事について打ち合わせるんですよね」
「そう言う事」
「それならばやっぱり‥‥」
 そして始まろうとした話し合いのその最先に口を開いたのは珍しくもおっとりのんびりマイペースな大宗院鳴(ea1569)、一応の確認をして後にいよいよ本題を切り出す。
「名産品として伊勢海老は外せないですから、これを何とか保存食に加工出来れば良いと私は思うのですが‥‥」
「‥‥今回の話は名産品に関する話ではなく、伊勢の内情整理が主だぞ」
「あ、そうでした?」
 かと思いきや、彼女の口から紡がれた話は方向性としては大分にずれているもので、それは伊勢藩主の藤堂守也によって丁寧に宥められると、今更ながらに首を傾げる彼女。
「‥‥では改めて、始めましょうか」
 何となくではあるが、鳴が口を開いた時点でそうなのではと思っていた斎王は期待を裏切らなかった彼女の様子を眺めつつ、まだ出だしにも拘らず疲労感を覚えながらも仕切り直すのだった。

●伊勢の状況
 そして始まる、状況整理のその最先は伊勢の状況について‥‥伊勢に深く関わって来た冒険者達を主として話は進められる。
「先ずは‥‥天照様復活の鍵である宝具なのだが、全部集まったのか?」
 その最初、残りを一つとまでしておきながら先の混乱から頓挫しているだろう宝具についてガイエルが切り出せば、応じたのは長身痩躯ながらも出る所はしっかり出ている一行の皆が初見である女性から答えが返される。
「‥‥全て集まらねば、妾が此処にいよう筈もないわ」
「仰る通りで‥‥となると残りの一つは誰が?」
 その彼女、小さき頃の面影を残している天照大御神に果たして応じたのは月夜で‥‥凛としたその御姿にひれ伏す様、低く頭を垂れながら次いでそれを手に入れるまでの詳細を尋ねれば
「明らかにされていなかった短槍『碧閃』は俺と、一部の伊勢藩士の力を借りて回収する事が何とか出来た。苦労こそしたがな」
 天照の代わり、応じたのは五節御神楽が長のレイ・ヴォルクスで簡潔だが部下の月夜が疑問に応じれば、彼女こそ頷くも
「して、その後の扱いは?」
 厳しい表情は変えぬままにガイエルの質問が再び場に響けば、鼻を鳴らして天照。
「妾が直接、管理しておる。問題はなかろう?」
「あ‥‥はい、それでしたらもう何の心配もありませんね」
 何処に潜ませていたのか、槍を彼女が鼻先へ突き付け答えれば眼前にある伊勢海老が気になってしょうがなかった鳴ですら、その突然の行動を傍目に鼻白むが‥‥しかしガイエルは別段表情を揺るがせなければ、やがて詰まらなそうに太陽神は槍の穂先を引っ込めるとそれを機に彼女は伊勢国司が北畠泰衡へ視線を投げ、口を開く。
「所で国司殿が視察の折、持ち帰られた黒い箱は‥‥あれから、どうなったろうか? 中身は良からぬ物が封じられている可能性が高い故、手元にあるならば厳重な保管に戻さねばならないのだが‥‥」
「ふむ、それなのじゃが‥‥」
 そして響いたのは伊勢にとって重要だろう器物の『黒き箱』が所在についてで、やがて国司は口こそ開くが顔は顰めたまま、言葉を淀ませつつその解を吐く。
「音信が不通だった一時、伊勢の神宮のみならず各所が不穏での‥‥その際、管理していたアゼルが紛失してしまった様じゃ。故にそちらについて捜索は続けておる、尤も未だ見付からぬがな」
「‥‥厄介な事にならなければ良いが」
「何とかなるなる、大丈夫だよきっと!」
 果たして響いたその解、ガイエルは伊勢を思うからこそ益々に表情を厳しくするが長い付き合いから彼女の性格を良く知るからこそあえて、と言うか普段通りに接してハンナが前向きな思考を持って宥めれば、嘆息を漏らしながら白き僧侶は言葉を続ける。
「とは言え、不安要素が未だ多過ぎる。脱獄した黒門絶衣とその一派もそれに類されるが‥‥脱獄時の状況やその後の捜索の経過が如何か気になっているのだが。それと共に焔摩天や妖達に動きは?」
 変わらず辛辣なまま、だが自身が抱く最後の疑問を吐くとその捜索に今まで当たっていただろう、何処となく頬がこけた十河小次郎と斎王が立て続けに答えを響かせる。
「早急に追跡は始めたのだが、奴らの足取りは完全に途切れている‥‥」
「妖達の動きに関しては斎宮奪還から後、今に至るまで主だった動きは見られていないわ」
「根本は相変わらず、か。足場こそ固まったのが唯一の幸いとは言え、まだ厳しい事には変わらないと」
「お前も相変わらず、厳しいな」
「今と言う現実は見据えなければならない。目を逸らしても‥‥時間は戻って来ないのだから」
 一派丸々、脱獄したと言う事は彼の父もまた然りで当の息子の心情こそは察しながらも一先ずガイエルは今までの話を端的に纏めると、響きこそ先より丸いながらも厳しい評価にレイは感心か嘆息か、応じるが‥‥最後に響いた彼女の独白には誰も、答えは返せなかった。

●伊勢外の状況
「『天下布武』のお話はご存知で?」
「まぁ、一応何となくは耳にしているけど」
 暫しの間を挟んで後、場が落ち着いてから話は再会される‥‥今度は伊勢の情報網が断絶の間に果たして何が起きていたか、その情報のやり取りが行われるとこの場は万時が中心となって話が進められる。
「京都ではジーザス会が延暦寺勢力により弾圧に近い目に遭っていますが、尾張藩はジーザス会とは懇意故に上洛した場合、乱が起こる可能性があります。市様や他の方々は止めようとすると思われますが、虎長様が止まるかどうか‥‥」
「‥‥うーん、警戒しておく必要はありそうかしらね」
「先日の一件もあります。余り良くない印象も与えていますのでそれが実際に起きた際、ある程度の影響もあるでしょうから警戒は必要かと」
 その最先に挙がった話題と言えば、言うまでもなく尾張藩が主の平織虎長が掲げた『天下布武』の一件で、それにより生じる影響を細かく伝えれば斎王は困惑しながらも周囲に意見を求めれば応じた側近の言葉の中から一つ、引っ掛かりを覚えて尋ねたのは八雲。
「先日の一件?」
「尾張藩に応援を要請したのじゃよ。神の力を行使し何事か目論んでいるかも知れない斎王以下、反乱分子の捕縛に協力してくれとな」
 率直で端的なその問いに対し、答えたのはその引き金たる伊勢国司‥‥その詳細を簡潔ながらも告げれば、呻いたのは月夜。
「それでは、もしや」
「田丸城で尾張藩と激突した、虎長殿がいないとは言え流石に手強い物だった」
「尤も天照様が復活し、己が伊勢にいる意を自ら公言され双方に矛を引かせたが‥‥それでも今回の伊勢藩内の混乱に関わった事から少なからず人死が出ている故、尾張藩としてはわしらに良い印象は抱いておらぬだろうな」
 そして彼女が響かせた声も途中に、詳細を守也が語ればその解は泰衡が紡ぐとここでも明らかにされる、尾張藩との関係。
「それにしても虎長、か。話は聞き及んでおるが‥‥どうにも胡散臭いの」
「と言うと‥‥?」
「復活等と、そう容易くない事を成し得た上にジーザス会が一枚噛んでおる。杞憂ならば良いのじゃが、どうにもそれが気になってしょうがない」
「確かにな、それには俺も同意する。とは言え、その真意は伺えないからこそ今の状況を考えれば確証もないまま、下手には疑いたくないな」
 それにガイエルが疑問を響かせるより早く天照が溜息を漏らせば、今までの経緯を知ったからこそ紡いだ印象には蒼牙も共感しては頷くも‥‥だからこそ確かな判断を下して言葉にすれば、『天下布武』と虎長の話は一先ず此処まで。
「そう言えば京都へ埴輪大魔神が襲来した事は、ご存知ですか?」
「‥‥は? 何それ?」
「そう言う事があったのですよ、どうやら埴輪の出所は丹波藩らしいのですが」
「‥‥それはまた、何と言うか」
 次に万時の口から響いた、先までとは真逆の素っ頓狂な話には思わず斎王も間の抜けた返事で応じれば、その続きを聞いて何となしに頭を抱えずにはいられなくなる彼女。
「アシュドがこの場にいれば、興味津々と話を聞いただろうがいないのは‥‥幸いか」
「そうだねぇ〜」
「まぁ片隅に留めておく必要はありそうだけど、管轄内での処理となるでしょうから‥‥この件については静観ね。それ以外に、何か面白い話は?」
 下手をすれば伊勢も二の轍を踏む可能性が少なからずあるからこその反応で、その可能性と成り得る人物が名をガイエルが挙げれば、ハンナもまた呻き応じると斎王はその剣には直ぐ決断を下して、万時に次なる話を促した。

●考察
「しかし振り返れば振り返る程に改めて、神宮が包囲された時に駆けつける事が出来なかった事が悔やまれる」
 やがて長くを掛けて話は大筋に纏まり、互いに情報の整理がつくと(珍しく)真面目な表情を保ったままの蒼牙が歯噛みして呟く。
「それは今更ね」
「だが‥‥」
「それを貴方達が言ってしまえば、私達だって‥‥」
「済まん」
 だがその反応を前にしても斎王は涼しく肩を竦めて見せれば、言い淀みながらも食い下がる蒼牙だったが次に彼女が垣間見せた表情と淀み響いた言葉を聞けば漸く、彼女の心中を察して詫びる彼。
「この前の斎宮奪還時、伊勢神宮が襲われたのは‥‥斎宮になくて伊勢神宮に目的の物があったからなのでしょうか。それとも、また他に目的があっての時間稼ぎなのでしょうか」
 しかしそんな折に響いたのはある種、無邪気にも聞こえる鳴の考察。
「前者である場合は守り易いですが、後者の場合は目的を探るのが先となるので困難ですね」
「もしかすれば『黒き箱』を奪うべく、動いた可能性も‥‥?」
 腹が減っては戦が出来ぬ、と言う事で並べられていた簡単な料理を既に平らげ、次なる本格的な料理を口にしたいのだろう意思からか普段以上に真面目な面持ちにて自身の考えを呟くと、それに感心しながら思考を巡らせるガイエル‥‥だったが、鳴の根気もいよいよ尽きる。
「兎に角、全ての事象に目を向けなければなりませんね」
「そうだな、いい加減に奴らの目的もそろそろ絞り込まなきゃな‥‥」
「でもさっぱり皆目、検討が付かないねー」
「伊勢で起きている殆どの事象は天岩戸が絡んでいる事に間違いない筈だから‥‥」
「んん〜、そう言えば‥‥以前、天岩戸に手を触れて怪我をした方がいたのですが、あれは何だったのでしょうか〜?」
 そして響いた彼女の言の葉に、蒼牙とハンナは揃い応じると斎王が紡いだ言葉を端に彼女を中心として議論は再開されるが、皆の疲労と未だに少ない天岩戸の情報を考えればやがて頓挫するのも目に見える。
「そう言えば、五節御神楽の皆は元気?」
「ふむ、聞くまでもない事だな。そして無論、お前達がいない間も鍛錬は欠かさず行わせているぞ」
 と割り切った訳ではないのだがハンナは一人、輪の端にいる己の長へと視線を向ければ自身の部下の安否を尋ねると‥‥返って来た答えには顔を綻ばせて彼女。
「真面目な話、伊勢が危機だった時に何も出来なかったって言うのは、ちょっと‥‥ううん、かなり悔しいな。異国の生まれではありますが五節御神楽が一人。それに関してはちゃんとプライド持ってるんだからね」
 先に蒼牙が紡いだ言葉と同じ事を語り、自身が立ち位置を理解するからこそ旨を張って次に断言すれば、レイも表情を緩ませて応じるのだった。
「音楽によって、皆の心を守るよ」
「頼もしい限りだな‥‥また暫くしたら召集が掛かるだろう、その時を期待して待つとするか」

●第二部 〜飲めや歌えや、踊れや脱げや‥‥ってあれ? (脱衣はありません)〜
「それにしても‥‥」
 果たして大まかにではあるが一通りの情報整理や懸念事項等(なのかは余り細かく聞かないで欲しい)が皆の内で纏まると、夜も遅くながら始まる宴‥‥その中でちびちびと杯を煽りながらボソリ、呟いたのは蒼牙。
「どうかした?」
「神が参加する宴会って凄いよな」
「余り気にする必要はありませんよ、私達だって酒は嗜みますのでね」
 その彼へ問う斎王に直ぐ、答えを返せば場の片隅にて何やら物々しい形の面をつけ表情を隠す巨躯の男性‥‥ではなく、導きの神とも呼ばれる猿田彦神が蒼牙へと言葉を返せば苦笑だけ返す彼の傍らにて宴は大騒ぎ。
「何だ、鳴は酒を飲まないのか」
「はい、何時の間にか『酔雷乱舞』なんて呼ばれていますし‥‥だからこそ余計な事をして、大きくなった天照様にしばかれたくありませんから」
 しかし一方では意外と静かな界隈もあり、今までの話し合いも比較的聞く側だった小次郎が辺りの料理を片端から突き捲くっては口に含む鳴へ尋ねると、しっかりと口に入れた食べ物を飲み込んだ後に彼女が答えれば、月夜と語らっている結構に短気なその神へと視線を配する。
「しかし天照様‥‥」
「何じゃ」
「随分と‥‥大きくなりましたな」
「元から、これが本来の姿‥‥って何処を見ておる」
「何処、と言われると‥‥」
「えぇい、気色が悪いっ」
「そんな、折角の目の保養を!」
「妾で目の保養等するでないわっ!」
 すればその二人、仲も良さげに話に興じ‥‥ていると言うよりは会話の端々を聞くだけでも何処となく漫才を繰り広げている様な気がしてしょうがないのは気のせいではない筈。
 尤も、会話だけで済んでいる辺りはまだ平和とも言えよう。
「ゴフゥ‥‥み、水を‥‥」
 そんな光景を鳴が見つめていた折、咀嚼していた大振りな伊勢海老の身を喉に詰まらせたらさぁ大変、慌てて手に触れた器に注がれている無色透明の液体を飲み喉に詰まる伊勢海老の身を飲み下したのだから。
「あ、それは酒‥‥」
 さて、此処で何が大変なのかと言えば鳴がお酒を飲んだ事。
 小次郎が遅く彼女へ告げるも、その間に見る見る内に頬を朱に染めて鳴は暫しの沈黙の後に卓を掌にて打ち据えれば立ち上がると、声も高らかに場へ宣言する。
「ひっく‥‥大宗院鳴、建御雷之男神の巫女として神楽を舞います!」
(『‥‥嘘でも、此処は天照様と言うべきでは‥‥』)
 明らかに酒に酔っている様子なのだが、その口調は意外としっかりしており‥‥皆の内心から上げた突っ込みには気付かないままに舞を始めれば、途中の口上を詠唱代わりに雷を己が身に纏いながら舞う鳴は傍迷惑な事、この上ない存在と化す。
「‥‥五月蝿いっ、店の者に迷惑じゃ木瓜がぁー!」
「ぷげー!」
 そして誰彼構わず雷撃の鎧にて駆逐し始める鳴に、最初こそ傍観を決め込んでいた天照がやがて雄叫びを上げれば制裁を下したのは言うまでもない事。
「‥‥何か鳴、最近あんな役回りばかりじゃね?」
「誰が弁償するのかしら」
 上がる咆哮と共に店の一角を見事に吹き飛ばした光の制裁に果たしてどちらが迷惑か、とは誰も言わず‥‥言える筈もなく、だが蒼牙が嘆息を漏らせば斎王は果たして他人事の様にボソリ、呟いた後にそっぽを向いて口笛を吹き始める始末。
「酒は飲んでも飲まれるな、と言う事だな‥‥俺は少し、酔いが回った故に中座する」
「‥‥やれやれ、何時もの光景だな。とは言え今日は平和‥‥」
 その光景を前、頬が引き攣っているのを覚えながらも何も言える筈がない八雲は有名な格言を呟いて後、その場から逃げる様に席を辞すれば珍しくこの手の催しの中、未だ弄られていない小次郎は嘆息を漏らしながらボソリ、初めてだろう事に安堵するが‥‥それも束の間。
「小次郎さん、宜しければ以前に舞った『護堂家に伝わる唄と踊り〜伊勢ばあじょん』をお教えしますが‥‥どうでしょう?」
「‥‥じゃあないんだよなぁ、やっぱ。まぁ期待していなかったと言えば嘘だが、そう言う考えが自然に身に付いた辺り何とも」
 やはりどちらかと言えば弄られ担当ながら、今日は小次郎と同じく標的にされていない万時が暇を持て余してか、彼へ一つの提案をすると‥‥覚える切なさを堪えながら、あえてそれに乗るのだった。

●友よ
「あらあら、何か賑やかですねぇ〜」
 そんな明らかに器物破損で訴えられてもしょうがない光景に珍妙な踊りが舞われる傍ら、英国から着たばかりのシェリルはと言えば‥‥数少ない知り合いであるレイやハンナ、ガイエルらと久方振りに談笑を楽しんでいた。
「それで今はアシュドさんと‥‥ルルイエさんもこちらと聴いてイギリスから足を運んだのですが今、お二人はどうなっているんでしょうか?」
 その折、シェリルが辺りを見回しながらポッと出た疑問が場に響くと‥‥無邪気に響いた言葉だからこそ、唐突に静まる場。
「‥‥話し辛い事を尋ねてくるな」
「??? どうかしたんですかぁ?」
「うん、実はねー‥‥」
 その反応に只ならぬ悪い予感を内心にだけ覚えると同時、ガイエルがそれを肯定するかの様に渋面を湛えればその彼女の後を継いでハンナも表情に微妙な影を宿しながら、シェリルの問いへ応じる。
「‥‥また攫われたと? あらあら〜、どうしましょう‥‥奪還する為にはまず場所を突き止めませんと、ね〜?」
 かくかくしかじか‥‥と詳細は此処では割愛するとして、京都へ至ってからのルルイエは経緯を聞けば何時もと変わらない明るい響きを含ませている割、その表情は意外にも真剣みを帯び‥‥紡いだ言葉の途中で酒場に唯一ある、開け放たれた扉の方を見つめては首を傾げると遅参した『彼』は確かに断言した。
「あぁ、分かっている‥‥分かっているさ」
「アシュドさーん、お久し振りですぅ〜! また落ち込んでいないのは、偉いですねぇ」
「‥‥シェリルか、久しいな」
 半ば、自問自答しながらも応じたその主がアシュド・フォレクシーへ次いでシェリルは表情を綻ばせ、からかう様に言葉を紡ぎながら彼の表情を覗き込み宙を頼りなく漂いながら近付くと、頬を引き攣らせながらも彼は久々の再会には素直に喜び何とか笑みを湛える。
「‥‥そう言えば、レリア殿やエド殿はどうしているだろうか?」
「元気にしていると良いんだけど」
 そんな彼の何時もと変わらない様子を見つめ、二人の傍らにて自責の念に駆られるのはガイエルだったが、だからと言ってルルイエが戻って来る訳ではない事も理解しているからこそ努めて平静を装い、無難な話題を振る彼女‥‥果たしてそれは逃避か。
 しかし彼女の揺れる内心には気付く筈もなく、普段と良くも悪くも変わらないハンナがガイエルの問い掛けに頷きながら、今は此処にいない二人の身を案じるとそれに応じたのはレイ。
「今、皆には休んで貰っている。いずれまた、慌しくなる事が目に見えているからな‥‥とは言え、それぞれ鍛錬こそ欠かしてはいない様だ」
 春も既に半ば以上が過ぎかけている中にも拘らず、相変わらずの暑苦しい格好のままでレイが応じれば、それだけでも吉報が聞けた事に笑んでシェリル。
「でも残念ですぅ〜。子供が生まれた報告をルルイエさんに直接、したかったのですが〜」
「‥‥ちょっと待て、今何て言った‥‥?」
「え、だから女の子が生まれたんですって言ったのですよ〜」
 次いで自身の報告を簡潔に済ませれば‥‥それには思わず聞き返すアシュドへ再度、彼女が肝要な部分のみを改めて告げると場に居合わせた全員は揃い、彼女を祝福する。
「‥‥そうか、それはおめでとう」
「おめでとうっ」
「ふむ、目出度いな‥‥」
 そして暫しの間を置いて全員、やはり揃って呼吸を止めると彼女が先に響かせた報をもう一度、それぞれが振り返れば再三に渡って揃い絶叫を響かせたのは当然と言えば当然だったろう。
『えー!』

●想い人‥‥?
 と宴の場が盛り上がる中、夜の静けさに浸る人達の姿もまたありけり。
「えっと、そろそろ誕生日の筈だろ?」
 その一組が良く見受けられると言えば見受けられる、蒼牙と斎王の組み合わせで酒場の盛り上がりを傍目に彼、眼前にて背を向けている彼女へと尋ねれば‥‥暫しの間を置いて後。
「あー、そう言えば‥‥今日だったわ」
「やっぱ、そっか。って事で、これ‥‥プレゼント」
 間の抜けた声音で応じる彼女の反応に思わず頭を掻く彼は自身に困惑しつつ、だがやがて意を決して懐から、彼女へ贈ろうと思っていた装飾品を掴むが
「そう言う柄でもない事、別にいいわよ」
 しかしその途中、くるりと踵を返して斎王は掌を翳したそれを圧し留めるもそれは気にせず取り出そうとして‥‥何も言わず手は翳したまま、笑顔を浮かべる彼女を前に何か思う事あっての行動と察して彼は懐から己の手を取り出せば、嘆息を一つ漏らすと
「なら‥‥今は今出来る事で護り、支えるさ」
「‥‥やっぱり、今日は何か柄にもないわねぇ」
「別にこれ位言っても、罰は当たらないだろう?」
「さぁね」
 今言える事だけは確かに告げると蒼牙を見つめては斎王、肩を竦めては応じるとそれでも侍の彼は気丈に振舞うが‥‥暖簾に腕押し、クスリと笑い端的に応じれば再び身を翻して夜空を見上げ、それに倣って蒼牙もまた頭上に煌く星の輝きに視線を投げる。
「‥‥じー」
 とその光景を盛り上がる酒場の窓が隙間から擬音付きで見守る‥‥と言うより覗くのはこの面子の中では言うまでもなく、月夜ただ一人のみ。
「覗き見とは、余り良くない趣味じゃのぅ」
「これ以外に楽しみと言うのが、中々にないのでござるよ」
 そんな彼女へ釘を刺すのは既に空となったお銚子を弄んでいる天照だったが、その彼女を持ってしても月夜は悠然と笑みを湛えれば呟くのだった‥‥それが独り身であるが故、どんなに寂しい言葉として場へ響いたとしても。

 その一方、酒場の裏口辺りにて密やかに響く話し声あり‥‥その声の主は果たして八雲とたまたま行きつけの酒場だった此処へ運良くか、運悪くか足を運んだ殴られ屋の京香。
「‥‥成程な」
 八雲が中座しようとしたタイミングと時をほぼ同じくして彼女が来たものだから挨拶がてら話し込めば今に至る‥‥因みに肝心のその内容はと言えば斎宮奪還から後の話の詳細。
「ためになったかい?」
「あぁ」
 斎宮奪還から直後、伊勢神宮が包囲されれば機をほぼ同じくして尾張藩が伊勢国司の懇願から伊勢の混乱を収めるべく侵攻を開始、田丸城で伊勢藩主が軍とぶつかればその中でレイが最後の宝具が回収を果たして天照大御神が復活を遂げ、両軍を前に今まで公にされなかった自身の存在とそれを振るった斎王の意を告げて戦いを諌めたと言う話を。
「しかし一歩間違っていたら、とんでもない事になっていたのだな」
「田丸城が落とされていれば伊勢神宮まで尾張藩が侵攻していたでしょうし、そう考えるとねぇ」
 彼女なりの視点で語られたその話が至るのは結局の所、先に聞いた話と同じな訳で‥‥しかし話の最後、髪を掻き揚げ尋ねる京香に八雲は素直に頭を縦に振ると懐から一つのかんざしを取り出し、それを彼女へ差し出す。
「ん、何だいこれは」
「‥‥面白い話を聞いたからな。これは、話を聞かせて貰った駄賃として受け取ってくれ」
「まぁ、そう言うのなら貰うのもやぶさかじゃあないんだろうけど‥‥」
 すると当然と言えば当然の反応を返す京香へ彼は暫し答えに逡巡するが‥‥やがて何時もと変わらない、少し愛想のない表情にて応じると艶っぽく笑んで呟く彼女だったが
「何かしらね、生憎とそう言う気分じゃないのかしら?」
「‥‥?」
 次いで自身も分からず、肩を竦めながらその答えを返すと八雲もその不明瞭な回答に沈黙したまま、僅かに首を傾げるが
「ま、今は遠慮しておくわって事で」
「あぁ、それならばそれで構わない。こちらも他意があっての事ではないからな」
 彼が見せた様子が余程可笑しかったのか、先までとは違う質の笑みを表情に宿して言えば‥‥次に言葉を響かせた八雲へ、はっきりとこれだけは告げるのだった。
「‥‥あんた、そんなんだともてないわよ」

●それからこれから‥‥
 そして夜はあっと言う間に更け、月が沈んではその代わりに太陽が浮上すれば辺りを眩しく照らしつける翌日の、昼も目前に差し迫る頃。
「流石に少し、飲み過ぎたかしらね‥‥」
「それは秘密だ」
「秘密にしても、しょうがないじゃないですかぁ〜‥‥けんらけら」
 話し合いの後、疲労にも拘らず朝方まで続いた宴のお陰で酒の飲み過ぎ、騒ぎ過ぎでそれぞれに悶え呻き、また平然としていたり妙にテンションが高かったりと様々な様子を見せていた。
「‥‥ともかく、伊勢海老も食べる事が出来たので私としては満足です」
「それは違う様な‥‥」
 散々暴れ、黒焦げにまでなった鳴が今はピンピンと笑顔を湛えては断言すると今回の趣旨が情報交換であった事から、密かに突っ込んだのは万時だったがそれは彼女の耳に入る筈もなし。
「ともかく皆、ありがとうね。これからもまた力を借りると思うけど‥‥その時は」
「分かっている、その時が来れば直ぐにでも‥‥」
「駆けつけよう、約束する」
 そんな長閑な光景の中で微笑んで斎王は皆へ最後に礼だけは告げると、蒼牙と八雲がそれぞれに応じる傍らで何を思ってか、溜息を漏らすガイエルだったが‥‥次には顔を綻ばせて彼方の空を見上げては想いを馳せ、誓う。
「挫けてはいられない‥‥幾度心折れようとも、歩き続けて見せる」
「そうだね、それでも『これから』を理想通りにするのは難しい事だね。だからこそ過ぎ去った『これまで』の為にも‥‥私達が頑張らないと」
 そしてガイエルが誓いの後、頷いてハンナも応じる代わりに抱えるリュートベイルを奏で出すとその連なる音色に合わせ、己が決意を紡げば場に響いた言霊には皆一様に頷くのだった。

 それより一行は次なる依頼に備えてそれぞれ帰路へと着くが、それから直ぐにまた伊勢からの使者が冒険者ギルドへ足を運び何事か急務を持ち込んで来るもそれはまた、別な話である。

 〜続く〜