あれから、伊勢

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 17 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月06日〜06月19日

リプレイ公開日:2009年06月17日

●オープニング

●伊勢、斎宮前 〜ほんの少し前〜
「‥‥終わった、か」
「そう判断して問題ないだろうな」
「とは言え、この有様は」
「‥‥酷い、ね」
「早急に、状況を調べる必要があるのぅ。街道はどうなっておる?」
「最低限の修復こそ済んでいますが、多数の人員が移動するには今暫くの時間が必要です」
「ふむ‥‥だがそうなると人手が恐らく、足りんな」
「なら少しだけでも、俺が京都まで馬を飛ばして冒険者を集めてくるか」
「それなら私が行くわ」
「何も自ら出ずとも、それに‥‥」
「時間が余りに経ち過ぎているから、上が直接出向いた方が早く事が済むでしょう?」
「そうじゃな、護衛に妾がつけば単騎でも問題ないじゃろうし」
(『その組み合わせが一番心配だ‥‥』)
「ともかく、そうと決まれば早く行動しましょう!」

●京都、冒険者ギルド 〜再会〜
「久し振りね」
 その門扉を開け、果たして冒険者達の集う視線も気にせず軽やかな声を響かせたのは伊勢の斎王だった。
 一年もの間、仔細の連絡が全くなかった事からギルド員達はおろかその場に居合わせた冒険者達も久しく見たその姿には色々な意味で動揺を隠し切れず、ざわめく。
 この異常な事態に救援も、と言う話はあったのだが‥‥実際には悪魔達の大規模な行動をも前にすれば、それは為されずに今に至る。
「‥‥これは斎王様、伊勢との連絡が取れず皆不安視しておりましたがご健在なら何よりで」
「まぁね、でも‥‥」
 だが、それらの事は一切に気に留めた風も見せず皆の反応に満足してか斎王は笑むと応じたギルド員へと視線を向け、頷き‥‥だがすぐにその表情を曇らせれば今に至るまでの事の次第を簡潔に語る。
「その様な状況だったのですか、それならば全てに道理が行く」
「そ、大変だったのよー」
「それでも、妾がおった故に何とかなったんじゃがな」
 尤も声を潜めての話に、冒険者達はその仔細を聞く事は出来なかったがギルド員だけはやがて納得すると頷く斎王の傍らにいた少女の発言から初めて彼女の存在に気付き、斎王へ尋ねる。
「‥‥こちらのお子は誰ですか?」
「あぁ、そう言えば初対面だったかしら? と言うか私とも貴方とは初対面よね。まぁ私は面が割れているから良いけれど‥‥えーとね」
 その質問を前、斎王は遅れて気付くと初めて話した再び彼の耳元でその事実を囁く‥‥彼女の存在は余り、公には出来ないからだ。
「あぁ‥‥彼女が! それは大変な無礼をっ!」
「まぁ、分かれば良い」
「折角ですからお茶菓子はどうでしょう? 此処まで来るのも大変だったかと思いますし」
「‥‥ふむ、美味いのならば頂こうか」
 そして直後、恐ろしい勢いで平謝りするギルド員の彼を前に不満こそ表情に出しながらも嗜める少女だったが‥‥それでは自身が納得せずか、彼は慌て今朝貰ったばかりの取って置きの茶菓子を彼女の前に差し出しお茶も準備しようとして
「‥‥で、こちらまで足を運んだと言う事は」
「久々の依頼、可能なだけ人を集めて頂戴。その内容は‥‥伊勢の被害確認の調査と報告」
「甚大、なのですか?」
「始めたばかりだから何とも言えないけど、見た目は酷いかなぁ?」
 急須へお湯を注ぎつつ、振り返って斎王へ改まって冒険者ギルドにまで来た用件を尋ねると‥‥物騒な彼女からの話に思わず喉を鳴らすギルド員だったが、その問い掛けには平静に応じる彼女。
「分かりました、早急に手配します。とそう言えば伊勢にて主たる方は皆、健在でしょうか?」
「そうね、まぁ何とか。心配されていたルルイエも取り返したけど‥‥」
 その反応を前にして、自身だけが浮き足立つ訳には行かず彼は湯飲みへお茶を注ぐと漸く少女へお茶を出し、応じながら更に斎王へ問い掛ける。
 伊勢を束ねる者ら、そして英国から来たと言う客人達の事を指したその疑問に彼女は複雑な表情を浮かべるも
「まぁ、それら含めて詳細は伊勢でね。見て貰った方が早いし、生憎とこっちも無理を言って此処まで来たからすぐに戻らないと」
「むぐ、まだ茶菓子が‥‥」
「帰ったら赤福準備しますからねー」
 自身、置かれている状況を思い出せばお茶菓子を頬張ったばかりの少女を嗜め手を引けば早々に踵を返し、その場を後にするのだった。
「じゃ、そう言う事でよろしくっ!」
 来た時と変わらず、軽やかな声に軽やかな足音だけ残しては場に居合わせる一同を唖然とさせたままに。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:伊勢の現状把握に斎王との会談(と言う名の宴k)

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要、必要な食事は依頼人が負担します
 但し、必要だと思われる道具は各自で予め準備しておいて下さい

 日数内訳:移動(往復)6日、依頼実働期間7日(調査6日、報告1日)
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

雪切 刀也(ea6228)/ シェリル・シンクレア(ea7263)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035

●リプレイ本文

●あれから、伊勢 〜精査〜
 伊勢、此処一年の間ぱったりと連絡が途絶えた地。
 何事があってか、それは誰も知らず。
 だが最近になって斎王が京都へ足を運んだ事から久しく動きを見せる、深い事情こそ伏せたまま。
 果たして何があったか、ただ知れているのは悲惨な状況になっていると言う事だけ。

 故にその状況を精査すべく、冒険者達に協力を仰ぐ。
 そして冒険者達は一年振りに伊勢の地を訪れ、以前とは変わり果てた風景を目の当たりにするのだった。


 二見、海沿いにあり斎宮の袂に広がる町へと足を運ぶシェリル・オレアリス(eb4803)。
「思っていた程、ではありませんがそれでもこれは‥‥」
「とは言え主戦場は町ではなかった分だけ、この辺りはまだマシだと思うが」
 伴うレイ・ヴォルクスの傍らで目前に広がる、くすんだその光景に強張る表情を晒す彼女ではあったがそれでも冷静な彼は言葉を紡ぐも
「それでも、このままにはして置けませんわ」
 彼女にとって色々と思い出のある地である以上、いても立ってもいられる筈はなく事前に買い込み準備していた薬草の束を携え駆け出すと
「ふむ、シリルを呼んでおいて正解だった様だな。もう暫くすれば、来る筈だ」
 その背中に彼が言葉を掛ければシェリル、微かにだが表情に笑みだけ湛えると改めて崩れた家屋の下でうずくまっている母子の元へと歩み寄った。

 その一方、牛草山の最奥に足を運んでいた東雲八雲(eb8467)は会得する魔法を用い、周囲の深い緑へ言霊を掛けてはその話に耳を傾けていた。
「意外と、思っていた以上に動きはないか‥‥どう言う事か」
 果たして自然が語る話は非常に抽象的で判断が及ばない所も多々あったが、それでも何とか要約すれば一先ずこの場に限って変わった事象は何ら起きていない事が分かる。
「今となってはもう、伝承だけか?」
 そこまでに至り、首を傾げる志士であったが‥‥明確な解は一人では出る筈もない。
「とは言え此処も、手酷い傷を負った様だな。もう少し情勢が落ち着いたら出来る事を探して必ずまた此処へ足を運ぼう」
 だがそれでも八雲は周囲を見回し、大きな戦闘があった影響だろう傷跡だけははっきりと分かったからこそ、木々の群れへ一つだけ約束を交わせば市街へ赴くべく踵を返した。

 深谷水道‥‥要石の一つがあり、また『何か』が潜んでいると思われる趣の変わった遺跡。
「大丈夫か?」
「この程度、問題ないわ」
 潮の満ち引きで内部の構造を変える厄介な遺跡に鋼蒼牙(ea3167)は斎王を伴いその足場を配慮しながら要石を目指し、また潜っていたが
「それにしても事情は分かっているつもりだが‥‥多過ぎやしないか?」
「しょうがないじゃない、光が来られない訳だし」
 不意に足を止め、彼女の背後へと視線を投げればその後をついてくる斎王付きの側近が八人を見て密かに溜息こそ漏らすが
「しかし何かがいる様な感じは‥‥しないな、以前のあれは気のせいだったか?」
 仕事である以上、今は個人的な事情を置いて彼はそこそこ潜ったにも拘らず、いると踏んでいた存在を察知出来ず先とは違う意味で溜息を漏らすと斎王。
「かもねー。この一年の間、深谷水道で何か起きたって言う話もないし」
「ふーん。杞憂なら良いんだけどな、とりあえずもう少しだけ探らせてくれ」
「どうぞ気が済むまで」
 今までの状況を説明すれば、生返事で応じて暫し思案する蒼牙だったがやはりすっきりはせず改めてその旨を告げると何を思ってだろう、返って来た素っ気無い言葉の割に斎王は笑んで応じるのだった。

 要石、天岩戸を守ると言われるその岩塊が崩れている事に天城月夜(ea0321)は呻き声を漏らす。
「‥‥壊れている。まさか、天岩戸が開け放たれたとでも」
 此処に至るまで、所々で大地に刻まれていた傷跡を思い出せば月夜でなくとも伊勢を知る者ならそう思うのは必然かもしれない。
「いや、まだ一つだけだ。その考えは早計でござろう」
 だが確かに、未だ眼前の一つしか見ていない彼女はそれだけ判断すると与えられた期間を注ぎ、全ての要石を巡れば目の当たりにした結果に眉根を潜める。
「四つも壊れていたか。この状況、ステラ殿が赴いている天岩戸は一体どうなっているか」
 果たして至った最後、斎宮の要石が健在である事を確認して月夜は天岩戸がある方を見つめるも
「一人で考えても止むを得ぬか、一先ず出来る事を確かに為さねばな」
 すぐに顔を上げ、眦上げては市街の方へ視線を投げると僅かに残された時間は復旧作業に勤しむ人々の為に費やそうと駆け出した。

 さて、月夜が懸念する天岩戸。
 伊勢での戦いの中心である地へ天照大御神を連れ、やって来たステラ・デュナミス(eb2099)。
「ここも‥‥それに天照様も、そんな目に晒されたのかと思いまして」
「いや、奴らの狙いはあくまでこの奥に眠るものじゃった。あぁ、それが一体何じゃと聞かれても、言い様がないから困るがな」
 その天岩戸を見上げながらこの一年の間に各地で見てきた、神を狙う悪魔の行動を知る彼女はそれを説明した上で天照に尋ねるが‥‥返ってきた答えからステラは天岩戸に眠るものが形容し難い何かと察すると
「それでは、体が元にお戻りなのもそのせいで?」
「いや、あれを見れば主なら分かるじゃろう」
 今度は切り口を変え、再び尋ねれば少女は顎だけで天岩戸の方をさすなりすればステラはその周囲には以前までなかった五つの岩塊の存在に気付く。
「もしかして宝具、ですか?」
「あぁ。宝具を媒介に要石とは別、妾が存在する限り在り続ける結界を構築した。これで奴らはほぼ、天岩戸に手が出せん」
「ですが、そうなると‥‥」
「ふん、この程度を失ったとて遅れを取るつもりはないわ。戻るぞ」
 果たしてその疑問にも天照から返って来た答えを聞き、そして明示されていない別の答えにも気付く彼女だったが意地っ張りな少女は決してそれを口にせず鼻だけ鳴らしてそっぽを向けば、ステラを促し歩き出すのだった。


 伊勢市街、人々の住む中心だからこそ世話になった事が多い冒険者達もその多くがその足を運ぶ。
「良かった‥‥無事でっ」
「お陰様で何とか」
「まだこの辺りは被害も少なかったしな、とは言え‥‥」
 その足を運んだ冒険者の一人、茉莉花緋雨(eb3226)は真っ先に十河邸へ向かえば主の二人が姿を見止めて安堵の余り、妹のアリア・レスクードへ抱き着くと彼女も笑顔で応じるその傍ら、十河小次郎の表情はその微笑ましい光景にも拘らず市街の状況から厳しいまま。
「‥‥家を失った方は多いんですか?」
「伊勢全体で言えばまだ全部を洗い切れていないが、結構な数に昇ると思う」
「ならば伊勢神宮等、まだ環境が良い場に仮設村を立てては?」
 そんな珍しくも真面目な雰囲気を湛える彼に向け、緋雨が問えば返ってきた答えに彼女は一つの提案をする。
「そうだな。一応打診はしてあるがまた今度、言ってみよう」
 以前にも少ないとは言えあった話、既に提案こそしている様ではあったが彼女の話を聞いて改めて意思を固めると緋雨に呼び掛けるのだった。
「とりあえず、この辺りの状況は大よそ掴んでこそいるが‥‥見て回るか?」
「はいっ」
 そして此処で漸く、アリアから離れて緋雨は小次郎の近くに立つと並び市街の方へとその状況を目の当たりにすべく、歩き出した。

 一方、既に市街へ足を運んでいるミリート・アーティア(ea6226)はエドワード・ジルスを伴い、結局初日に見付けられなかったレイ・ヴォルクスを漸く見付け頭を垂れていた。
「悪魔が至る所で暴れているの、知っていますよね‥‥人の力だけじゃ無理だからレイさん、どうか天使の力もお貸し下さい」
「面倒だから断る」
「‥‥え、いやその‥‥普通、そんな理由で断ります?」
「俺は普通の枠には収まらないからな!」
「あー」
 しかし、返ってきた答えはとても素っ気無い物で唖然としながらも何とか突っ込むミリートだったが次いで返ってきた答えを聞けばそれなりに彼の人となりを知るからこそ、納得せざるを得ない。
「それにこう見えても下っ端だから特別な何かが出来るとも、とは言え無碍にも出来んか。まぁ善処はするが期待はするな」
 だがそれでもレイなりには比較的真っ当な答えが返ってくると彼女はまた頭を下げ、話こそ分からないも何故かエドも遅れて頭を下げるのだった。

 誰もが回っていない宝具があった場等に英国からの客人であるアシュド・フォレクシーと共に赴いていたガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は今、市街の一角にある小奇麗な家屋にいた。
「何か以前にも見た光景だな」
 その目前、ガイエルが言う様に敷かれた布団で静かに寝ているルルイエ・セルファードの姿があれば彼女は既視感憶えるその光景にポツリ漏らすも
「あぁ、だがその時と明らかに違うのは‥‥どう言う状況か、分からない事だ」
「それでは」
「今の所、手の施しようがない。生きている事だけは間違いないが」
 それは否定せずにアシュド、その時とは違う事柄も補足すれば至って落ち着いた表情のままガイエルは彼を見据えれば、それを避けもせずに魔術師は事実だけ告げる。
「何時、誰が見付けた?」
「天岩戸に妖が押し寄せて来た時、天照様が新たな結界を構築する際に発見したと言う話だ。その時点で、既にもう彼女の意識は」
 寝息こそ聞こえないが、ルルイエの胸の動きだけ見れば彼の言う事は確かで‥‥その、静かに流れる空気の中でガイエルは一つ、問いだけ投げると視線は揺らさず動かさずに答えたアシュドは固く手を握り締め、呟いた。
「‥‥だが、いずれ」

●宴会じゃないよ?
 伊勢滞在の最終日、斎宮に再び集った一行と伊勢の要人らは顔を突き合わせて各所で収集された一通りの情報に耳を傾けていた。
「以上が報告です」
 その最後、冒険者達の報告をステラが締め括れば一先ずの話は終了、となる筈だったが
「ある程度の予想こそつきますが一体、何があったのですか」
 依頼である報告を終えれば、今度は一行が今日に至るまでの事実を確認する番でシェリルが率直にその話を切り出せば、応じるのは斎王。
「何を機としてかは分からないのだけど今までにない程、悪魔が大量に伊勢へ投入されてね。後は天岩戸を巡って大規模な攻防戦があった訳よ」
「それ程、天岩戸に眠るものを欲しているのだろうな」
「だが肝心のアドラメレクは一時だろう、連れてきた大量の小間使い残して伊勢から撤退した様だ」
「黙示録の影響か?」
 回答こそ簡潔ではあったが、数の差があって伊勢側が後手に回ったとなればその分断や内外の監視は恐らく、容易に行える‥‥それを察して八雲は頷き、改めて天岩戸の存在に脅威を覚えるが、レイの続く話を聞けば首を傾げるガイエルの疑問に彼は曖昧に肩だけ竦めると
「焔摩天ら、妖の中心こそ倒せなかったが深手は負わせた。継続して捜索しているが上手く姿を眩ませているな」
「後もう少しじゃったんじゃがな‥‥いかんせん、悪魔とは相性が悪い」
「まぁまぁ天照様、お菓子でも食べて落ち着いて下され」
 悪魔以外に、伊勢を掻き乱していた妖の状況についても先んじて皆へ説明するが‥‥その時の戦いが端なのか、未だ不機嫌な面持ちを露わにしたまま天照大御神は月夜に宥められながらも鼻を鳴らす。
「そう言えば、アゼルが市街にいなかったのだが関連性はあるのか」
 その光景に苦笑を浮かべながら、八雲は市街で知人を巡った折に唯一いなかった者の名を上げ尋ねると、それを機に始まる質疑応答。
「確証は掴めてないんだけど、他所の状況を考慮すると濃厚ね」
「一先ず現状、姿を消した者は一連の事象に絡んでいると判断して伊勢藩として全力で探している」
「では黒い箱の所在は?」
「失せ物出て来ず、今までの状況から考えるに黒門が持っていそうなんだけど‥‥」
 とはいえ未だ、満足に内部の情報網が構築されていない事からその答えは歯に物が詰まった感も否めず
「とりあえず、現状が現状故にこちらからも動ける筈はない。それは分かるな?」
「復興が先、って言う事? でもそれじゃあまた‥‥」
 だが月夜の膝上にいたまま撫でられるまま、努めて平静に天照は皆へ呼び掛ける天照ではあったがやはり言い淀みながらも告げたミリートの想いは皆も同じ物。
「じゃから、奴らの前で妾が手を打ったんじゃ。今はそれで納得しろ」
 その気持ちを汲むからこそしかし少女は素っ気無く、何処か疲れた響き含ませた声を発すればそれ以上は誰も何も言えず、なし崩し的に宴会へ雪崩れ込んだ。


 とは言え、それぞれに想う事があるからこそ何となく何時もよりは静かな斎宮での宴。
「勿論、伊勢での宴会と言えば小次郎先生の女装ですよね。最近、世間では素敵なアイテムが出たんですよ。さぁ、これで身も心も女性化しましょう♪」
「はっはっは‥‥だが断る!」
「えい」
「ぎゃーっ、勝手に嵌めるなぁ!」
「‥‥あれ位はすべきか、ふむ」
 と決してそんな事はなく緋雨と小次郎を中心に宴の場はやんやと盛り上がっていた。
 そして八雲、真面目だけが悪いとは言わないので彼だけは見習わない様に。

「‥‥寂しかった分、穴埋めして貰ったから良いけど側にいてくれないのは辛いんだよ?」
「うん、ごめん」
 そんな喧騒の最中でもまったりと盛り上がっている所もある訳で、久しく再会を果たしたミリートは伊勢に来てからエドを四六時中、満足するまで引き回してすっきりこそしていたがどうしても言いたかった事だけは満月の下、伝えると何時も以上に小さな声で詫びる彼にミリートはそれ以上、叱責出来る筈もなく‥‥彼を強く抱き締め、囁いた。
「今でも大好き、なんだからね」

 そしてそんな光景はこちらでも。
「んー‥‥しかし、こう言う宴会も久し振りだなぁ」
「まぁね」
 何だかんだで同道こそして貰いながら、数多いた側近のお陰でろくに会話も出来なかった蒼牙は漸く祥子との対話に至っていた。
「しかし何だ、色々と情勢やらの問題もあった訳だが‥‥伊勢が大変なら頼って欲しかった訳だ。護ると誓ったしな」
 そんな最初こそ、取り止めのない雑談から入る彼だったが咳払いの後、月が雲に隠れる中で紡がれた不満とも切望とも言える話に彼の表情が見えないからこそ、覗き込む祥子へ蒼牙は確かに、その想いを口にした。
「‥‥俺はさ、祥子さんが好きだから」
 直後、きっと照れてだったり諸般の事情等からは不明だが彼の顎へ祥子は綺麗に拳を打ち込み昏倒させたと言う話があるが‥‥それが事実か否かは当人らしか知らない。

 伊勢の混乱は収束しつつある、だがそれは不安要素を増やしながら完全な解決にも至っていない。
 この状況下、相手の動きがはっきりしない以上はいずれ雌雄を決する戦いが来るのは恐らく必然‥‥それを考えればまた近く、冒険者達は伊勢に招かれる筈。
 その時こそ。

 〜一時、終幕〜