式年遷宮

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月29日〜10月04日

リプレイ公開日:2009年10月13日

●オープニング

●伊勢よりの使者 〜久々に見た顔〜
 京都にある冒険者ギルド、その片隅でギルド員の一人と何事か話を交わしていたのはアシュド・フォレクシーと言う名の英国から来た、今は伊勢に居を構えている魔術師だったろうか。
「式年遷宮?」
「あぁ‥‥知らないか?」
「出は北の方で、そう言った神社仏閣にも余り縁がなかったので‥‥」
 その彼、久々に足を運んだ事からか辺りより飛ぶ視線を何となしに気にしつつも今回の要件に絡む話を一つ、切り出すがしかし生憎とまだ年若いギルド員の青年は首を傾げる。
「そうか、とは言え私も最近までは知らなかったんだがな」
 だがそれでも、アシュドは話題に挙げた『式年遷宮』について把握している知識はそう変わったものではない、と苦笑めいて告げればとりあえず依頼の内容よりも『式年遷宮』について簡単にだけ説明を始める。
 恐らく今回持ち込んだ依頼、その『式年遷宮』に関わる事なのだろう。
「まぁ簡単に説明すれば遷宮(せんぐう)とは神社の正殿を造営、修理する際や正殿を新たに建てた場合に、御神体を遷す事を言う」
「では式年とは?」
「式年とは定められた年、と言う意味で伊勢神宮では二十年に一度の周期で遷宮が行われている話だ」
「成程‥‥となると今年が?」
「いや。正確には次の『式年遷宮』は四年後になるのだが、新たに正殿を建て今の正殿にある御神体を移す故に大掛かりとなる事から、事前の準備は既に始まっている」
 要点だけ掻い摘んだ説明故にギルド員の青年でも一通りの話を聞いて後に『式年遷宮』について解すると、本題についていよいよ尋ねる。
「それでは、アシュドさんが持ち込んだ今回の依頼はそのお手伝いですか?」
「まぁ、遠くはないな。今回は正殿の警備だな」
「‥‥でも、御神体がある正殿はさて置き新しい正殿の建造はまだでは?」
「まぁ、途中だな」
 すればアシュド、微妙な回答ではあったが頷き応じればまたしても首を傾げるギルド員から放たれた疑問には首を縦に振るも、やがてその口から伊勢としての本意を紡ぐ。
「伊勢も漸く状況が落ち着き、最近になって式年遷宮が再開されたばかりだ。どちらの正殿も先の戦いで大きな被害なく無傷で済んだが‥‥今後の動向が読めない故、やっと活気を取り戻して来たばかりの所を万一にでも叩かれると厄介だから念の為にな。まぁ杞憂とは思っているが」
 まぁ要約すれば備えあれば憂いなし、と言う事か。
 言われてギルド員は最近になって漸く纏まった伊勢の昨今の情勢含めた、今に至るまでの経緯を思い返せば少なくとも大規模な戦いがあって後から、復旧に向け動き出した今日まで大きな動きが特にない事を思い出す。
 故に今の機、万が一にでも伊勢神宮が直接叩かれ有事が起きる事を考えれば‥‥果たして伊勢はどの様な状況に陥るか、想像に難くはない。
「ともあれ、そう言う事で手配を頼む」
 そう考えてゾッとする青年ではあったが、依頼を持ち込んだ当の本人は淡々とした調子で最後にそれだけ告げると踵を返し、冒険者ギルドを後にするのだった。

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●伊勢神宮〜健在だからこそ
「また久々だな‥‥と言うのはとりあえず置いておこうか」
「まぁ口に出している訳だが」
「あれ?」
 伊勢神宮、表参道火除橋の袂にて一行は一先ず今回の依頼人である魔術師がアシュド・フォレクシーと合流を果たすと眼前に見える一の鳥居を見上げながら鋼蒼牙(ea3167)が意識せず呟くも、それは確かに発せられたもので魔術師から当然の様に窘められれば首を傾げる彼へ、場に集う他の皆は忍び笑い。
「一先ず皆、元気そうで何よりね」
「そう言えば秋緒とは久し振りだな」
 そんな光景を前に神木秋緒(ea9150)もまた、他の皆と変わらない反応を取りながらも久々の再会故に手を差し出せば、それに応じてガイエル・サンドゥーラ(ea8088)も吹く秋風に銀髪をたなびかせては秋緒の手を握り返す。
 とは言え何時までも再会の感慨に耽っている場合ではない。
「何があるか分からない、かぁ‥‥」
「でもまだ、特に仕掛け時って訳でもないから大規模な攻撃を掛けて来るとは思えないけど‥‥まぁ、守りを固めてるぞって見せ付けておけば、それこそ余計なちょっかいも防げるでしょうね」
「まぁ、そうだな」
 ミリート・アーティア(ea6226)がその睦まじい光景に顔を綻ばせながらも、今の伊勢に於ける状況に考えを巡らせれば志士としての御姿も板についてきたステラ・デュナミス(eb2099)が先を見越して今回の依頼が狙いを言い当てると、頷くアシュド。
「守りを固める、と言えば五節御神楽についてその投入は任せると言う話で既に纏まっていて現在、神宮の近くで待機させている」
「手早い対応、ありがとうございます」
 そして思い出し、五節御神楽に属する五人へそれだけは確かに伝えると巨躯の騎士がミラ・ダイモス(eb2064)は笑顔を持って彼へ応じ、次いで恭しく頭を垂れるも
「とは言え、今までと比較して見栄えが重々しくなるから配慮もしてくれとも言っていた」
「それについては重々、承知しているでござるよ」
 警備とは言え、いささか大仰に部隊を配する事から考えられる懸念をアシュドは告げればしかし、天城月夜(ea0321)にとってそれも考慮すべき範囲の事で、力強く首を縦に振って応じる。
「そう言えば天照様はあれから‥‥」
「健在だ、まぁあちこちをふらふらしているが」
 が別に懸念している事を口に出して問うと、果たして返ってきた答えに皆はどう思った事か‥‥とりあえず伊勢の柱がそう言う調子なら案外、変に気を払い過ぎる必要はないかもしれない。
「それにしても」
「ん?」
 そんな事を考えていた折、初めて口を開く茉莉花緋雨(eb3226)。
「お引越しに二十年、ですか。気の長い話ですね」
「まぁ、そうだな。神事でもあるし、神様が絡んでいるからなのかも知れないが」
 気の遠くなる、式年遷宮について思った事を口にすれば苦笑を湛えながらもアシュドは確かにと応じ、正殿がある方を見れば
「神皇様の事も心配でござるが、伊勢参拝‥‥少なくなっていなければ良いが。祈りが力である事は、重々故に。」
「えぇ、ですから平和への祈りを篭めて、正殿警備を無事に行い人々の明日を祈りましょう」
 皆もまた、倣う様に伊勢神宮が中枢を見つめると最後に響いた月夜とミラの言葉を皮切りに皆、正殿の警護へと臨むのだった。

●正殿警護〜開始
「はい、これっ」
「わざわざ済まないでござるな」
 その最初、予め準備していたのだろう小さな笛をミリートは皆へと配る。
 危険等、何らかの不味い自体が生じた時に即時対応が取れる様にとの配慮に笑んで月夜が応じれば
「それじゃあ一先ず、鳴子でも張りましょうか」
「ならばその間の警戒はこちらでしておきますね」
 警戒の為と正殿周辺に仕掛けを講じるべくステラが周囲を覆う森の方へ歩き出せばミラがその様に申し出るとそれぞれに動き出すが
「そう言えば蒼牙さんの姿が見えないのですが、何処へ?」
「そう言えば自身が隊へ指示も早く、消えたな」
 此処で緋雨、何時の間にか姿を見なくなった侍の事に目敏く気が付いたからこそ尋ねるとアシュドもまた応じつつ首を傾げる。
「‥‥まぁ、肝要ではあるんだがな」
 その事実、他の者は大よそ察しているからこそ溜息を漏らしながら皆を代表してガイエルがその解を遠回しに紡いだ。

 さて、その当人である蒼牙はと言えばたまたま伊勢神宮に足を運んだ斎王こと祥子内親王に謁見を求めてはその折、警護の旨を申し出ていた。
「む‥‥何か不都合がある様なら離れるが」
 五節御神楽、と言う信頼たる人物でもあり今まで伊勢に貢献した事も考慮すれば否と言う筈はなく、しかしその割に蒼牙は落ち着かず斎王の挙動を伺ってはもう何度目か、同じ質問を繰り返す。
「‥‥そう言っても無駄でしょうに」
「ふむ、良く分かっている」
「全く」
 そんなやり取り、慣れた斎王は溜息こそ漏らしながらも走らせる筆は止めずに応じれば、こっくりと首を縦に振る彼に飽きる程吐いた溜息を禁じ得ずにはいられなかった。
「言っただろ。好きだから守る、傍にいる‥‥ってな」
「‥‥わざわざ此処で言う事じゃないでしょうに」
 しかし彼女から返ってくる反応にも、蒼牙にとっては予想出来た物で改めてそれだけは言葉にして伝えると、ふいと顔を逸らす彼女に苦笑だけ浮かべると
「一先ずは‥‥傍に置いてくれるかどうかで、判断しますよっと」
「まぁ、それだけでも十分過ぎる配慮よね?」
 漸く立ち上がれば踵を返しながらも告げると、斎王からやっと遠回しながらも肯定的な返事を貰えば蒼牙は掌だけ掲げ応じた。
 そんな暢気なやり取りが出来る程、今日は長閑で穏やかな日だった。

●閑話休題〜あの天使は何処へ?
 ともあれ正殿警護が始まる‥‥時に魔法こそ行使しながら主には人と接しつつ、かたやでは神宮内の巡回に励む一行。
 そんな折に上がる話は、伊勢に何時の間にか携わっていたとある男の話だった。

「レイが不在、と聞いたが?」
 正殿前にて訪れた人達へ記帳を促すガイエルは人足が途絶えた合間にアシュドへ一つ、気になっていた問いを投げかける。
「事実だな、行く先も知らない‥‥気付いたら置手紙が一枚だけ残されていた」
 その問い掛けに果たして魔術師はすぐに首を縦に振れば肝心のその内容について、口外した。
「武士道を極めてくる。レイ・ヴォルクス‥‥と書かれていたそうだ」
「‥‥何を考えているのだか」
「全くだ」
 いかにもレイらしい、良く分からない内容の置手紙にガイエルは呆れればアシュドもまた同意すると揃い、溜息を漏らすのだった。

 一方では秋緒、偶然にも皆と同じく手伝いに借り出されていた矛村勇へ大鳥居の下でやはり同じ質問をしていたのだが
「知らん」
 素っ気無い一言で一刀両断の憂き目に遭う、相変わらず無愛想の様相にしかし時間の経過からか以前に会った時とは多少、雰囲気が変わっている風にも見えて思わず苦笑を湛える彼女。
「‥‥何が可笑しい?」
「いいえ、何でも」
 以前と変わらず棘がある様に聞こえる響きではあったが、時間の経過かはたまた‥‥ともあれ、良い方へ転がっているのだろうと察して秋緒は自身も知らず顔を綻ばせた。

 その話はこちらでも。
「そう言えばレイさんがいなくなったと聞いたんですが」
「悪いが妾も知らんぞ」
 中空を彷徨い、気ままに散歩していたのだろう天照大御神を大声で呼び止めればミリートが発した質問へぞんざいに応じる彼女。
「じゃが十二神将、その存在は気になるな」
「レイさんと関連性があるのかな?」
「さぁな、それに関する仔細は妾も知らん故に何とも言えんが」
 だがその急な動向に彼女自身も思う所があった様で昨今、話で聞き及んだのだろう十二神将が名を挙げるも詳しくは彼女でも知らぬ様で最後には肩を竦めると
「ともあれ、食えん男じゃと言う事は妾でも良く分かったわ」
 今更の事実を改めて天照の口から聞けばミリート、頭上を仰ぎ見ては広がる蒼穹に果たして何を思ったか。

●正殿警備〜一先ずは何事もなく
「ふむ、今日も励んでいるな」
 三日目の昼だったか、一行が伊勢神宮に足を運んだ初日から滞在する時間こそ長くはなかったが足繁く正殿へやって来る、一見は巨躯の大猿。
「あ、猿田彦神様」
「調子はどうだろう?」
「一先ずは何事もなく推移しているでござるよ」
 しかし一行にとってそれは見慣れた姿で、初めて見た時こそ驚いていた緋雨がその名を呼べば口元を緩める神に応じたのは月夜。
「でもこれから、天気は崩れそうかしら?」
 しかし頭上に浮かぶ、大きくも深く濃い雲の様子を見上げてはステラが朗々と判断すると、猿田彦神が頷いた丁度その時だった。
「‥‥っ、揺れている?」
「大きくはない様ですが、周囲の状況は調べる必要がありますね」
 それは大きくなかったが、しかしミラが言う様に確かな地震であり場にいた人々はそれぞれに狼狽すればその最中、人々を宥め落ち着かせながら緋雨が言うと早く動いたのはステラとミラ。
「辺りは私達が見てきますので、お二人は正殿周辺の整理をお願いします」
 月夜と緋雨にそれだけ告げれば颯爽と踵を返す二人。
「慣れたものだな」
「まぁ久し振りでこそあるが、この程度であれば。それに皆、旧知の仲でもあるしの」
 その背中を見送りながら感心した巨躯の大猿に、参拝に来ていた人々へ落ち着く様にと呼び掛けつつも笑んで返すが、そんな折。
「‥‥和んでいる所で悪いが、何でこの場に俺も呼ばれている訳だ?」
「まぁ、緋雨殿の申し出でもあったし余り細かい事は気にしない方が良いでござるよ?」
 今更な疑問を響かせた声の主にも応じれば果たしてその男、十河小次郎はどう思った事か。
「ともかく、伊勢の内情については先に話した通りだが‥‥他に何か話があるとか」
 一先ずは皆の手伝いこそしながら、自身を呼んだ張本人である緋雨へ改めて問えば少しずつ落ち着いてきた場の中、漸く気になっていた話を切り出す。
「小次郎さんの、お父さんの事です」
「あぁ‥‥すっかり忘れていたな」
「え?」
「深い意味じゃないぞ、最近まで慌しかったからな。まぁ、今にして思えばそんなに器用じゃあなかったな‥‥」
「でも今は‥‥」
「何をして、何を目指しているんだかな」
 その問い掛けを前、彼は今になって思い出したかの様に答えれば首を傾げる緋雨へその理由を明確に告げると見た目では小揺るぎもしていない彼の代わりか、不安げに口を開くもそれは途中で遮って小次郎は自嘲めいた笑みを浮かべるが
「小次郎さーん、男手が必要だからー‥‥少し手伝って頂戴ーっ!」
「ふむ、やはり呼んで良かった様でござる。役に立てる様で」
「混ぜっ返すなよ、ともあれ見てくる」
 先にステラ達が向かった方から甲高い声が聞こえてくれば月夜が遠回しの催促に苦笑を浮かべながらも応じれば、その話は途中で終わった。
「え‥‥と、私も少し行って来ます!」
 だが、だからこそか心配を覚えた緋雨は彼の後を追って駆け出すのだった。

●閑話休題〜何と言うか色々とやってられない
 と果たして誰が呟いたか、それは定かではない。
 依頼の内容からして、流石に本殿の警備もそっちのけに‥‥と言う程ではないが秋めいてきたにも拘らず、所々で甘ったるい花の香りが漂っているのは錯覚として先の蒼牙もそうだが、そう感じずにはいられない光景が所々で広がっていたのは言うまでもなく。

 夜、神宮内を流れる五十鈴川の辺でミリートと、彼女とは別のもう一つの影。
 先に天照を捕まえた折、一つの願いを託せば程なくして伊勢神宮にやって来たエドワード・ジルスと共に今は川のせせらぎに耳を傾けていた‥‥ご都合主義とか言わない、そこ。
 ともあれそう言う事で、文句を言っていたらしい天照の事はすっかり忘れてミリートは彼の肩に身を寄せる。
「その‥‥外は寒いし、抱きしめられて寝たいかも‥‥暖かくて気持ちいいし」
 十月とは言え夜ともなれば流石に肌寒く、だからこそ言った彼女の我侭に対して少年の表情こそ夜の帳で見えなかったが、答えはなく無言のまま。
「その、ダメ‥‥かな?」
 ふるり、ミリートは何となしに覚えた不安も重なれば身を震わせるも‥‥暫しの間こそあったが、やがて首を縦に振っては応じた。
「寒い、よね‥‥」
 こうして四日目は緩やかに過ぎていく。

●終わり良ければ?
「一先ずは無事に終わったな」
「今後も無事であれば良いが‥‥」
 最終日に至り、目立っての大事がなければ胸を撫で下ろすアシュドだったがそれでも油断なくガイエルは今後の伊勢を案じる。
「まだ暫くは向こうの出方次第だろうな」
「だが何か仕掛けてくるならば応じるだけ」
 これからはまたどうなるか分かる筈もないからこそ蒼牙は考えを巡らせるも、一行の代わりにか伊勢神宮へやって来たレリア・ハイダルゼムが端的に応じればミラ。
「とは言え、その兆候は今回もありませんでしたし、そもそも今の伊勢に襲うだけの道理が彼らにとってはありません」
 たったの五日だけではあるがその結果を口にする彼女、天岩戸は天照の力を持っていまや完全に封印に縛られ、猿田彦神もいる伊勢に最早干渉する理由は見出せない。
「道理があるのなら、禍根や復讐‥‥ただそれだけの詰まらない理由だろう」
 すれば続く巫女騎士は果たしてそれだけで動くか、思案を重ねるも無論すぐに答えなど出せる筈もなく。
「一先ず、伊勢神宮にもアシュドさん謹製の埴輪配備こそ検討される様ではありますが、それでも気は抜けませんね」
「その通りだ、だから召集があれば応じて貰えれば」
 故にミラがとりあえずの結論を口にすれば、応じてアシュドが場にいる皆を見回すとそれぞれに応じる一行。
「否は有りません。未だ各地で戦乱が相次ぐ今、伊勢神宮の健在を示す事は人々の心の縁となる事でしょうから、その時は必ずや馳せ参じます」
「そうだな」
 果たしてその最後、真面目な面持ちで確かに秋緒が誓えば同意と首を振る蒼牙にだけは皆、訝しげな視線だけ送るのだった。
 そんな暢気なやり取りが出来る程、最後の日もまた穏やかな日だった。
「こんな日が何時までも続けばいいのだけどね」
 果たして呟いたのはステラだったか、しかしそう呟かずにはいられない程に空は青く遠くまで澄んでいた。


 しかし、ステラの呟きなど知る筈もなく塗り固められた黒一色の中で蠢く者達がいた。
「ねぇねぇ、これからどうするのー?」
「僕らもイザナミ様の所に行くー?」
「お腹空いたー」
 その闇の中、何時もと変わらず陽気にあどけない調子で三匹の妖狐の声が響くがしかし、それに対しての答えはない。
「どちらにせよ決めるなら、今でしょう」
 だがその代わり、落ち着いた調子で今後の動向だけは決めようと促したのは誰の声だったか。
「‥‥だ」
 それに対して漸く口を開いた焔摩天はその時、一体何と口にしたのだろう。
 ただ、歯噛みして最後に舌打ちを響かせたのは間違え様のない事実であった。

 〜一時、終幕〜