想い出の花畑

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月30日〜10月05日

リプレイ公開日:2004年10月07日

●オープニング

「三年だけ待ってくれ、必ず帰ってくる」
 彼はそう言って旅立った、それが大よそ三年前の出来事。
「戻って来たら他の誰よりも先に、ここに君に会いに来る」
 その場所は、私の村の近くに広がる広い草原。
 どこまでも遠く、どこまでも広がり、私達を抱きしめてくれた母なる大地。
「約束の誓いに」
 彼はそう言って、私に一つのネックレスを手渡すと頬へキスするなり身を翻して恥ずかしさを隠すかの様に、私の前から走り去っていった。
 二人で昔から色々な想い出を築いた花畑を前に、三年前から二人は離れ離れになった。

「もう‥‥あれから三年が経とうとしているのね」
 でも、私の心は彼に会えると言う待ち遠しさ以上に悲しみで一杯だった。
 最近になって、その草原にゴブリンの群れがどこからともなく現れたから。
 どこかしこでモンスターが現れては、小さな村を襲撃しては略奪や破壊の行為を楽しんでいると言う話も数ヶ月前からチラホラと小耳に挟んでいたから、この件に関してもきっとそうなんだろうと思う。
「でも、彼が‥‥彼が帰ってくる前に」
 そして私は決めた、これから成すべき事を。

「って言う話でねー!」
 今回の依頼について経緯を話すお姉さんは既に涙声で一同に訴える。
 人情話となると途端、いつも以上にその表所がコロコロ変わる彼女は
「健気じゃない! 三年待ってくれ、って言われて待っていたのよ彼女はっ! 所が約束の日まであと少しと言う所で舞い降りる災難! 神様ってなんて酷いんでしょう!」
 ‥‥終いには泣き出し、その場にいる一同はどうしたものかと大いに困る。
 そんなうろたえる一同に、今度は両手を机にバーン!と叩きつけ
「そう言う事で、彼と彼女の為にもこの畜生どもなゴブリンの群れを追い払うなり殲滅して来て下さいっ!!!」
 いつの間にかその表情を真っ赤にして頭から煙を噴出さんばかりの勢いで怒りを露わにして叫ぶ。
「誰しも想い出の場所ってあるでしょう? それを踏み躙られて皆は黙っていられる?」
 そしてまた一点、いつもの調子に戻ると一同に言い聞かせる様に静かな声音で呟く彼女に応える様に、誰かが椅子を引いて立ち上がった。
「宜しく‥‥お願いしますね」
 立ち上がった冒険者を見て心の底からそう言わずにはいられなかった受付嬢は、一筋涙を流しながら誰にも聞こえない様に最後に一つ呟いた。
「どうしても‥人事に思えないんだよね」

●今回の参加者

 ea1049 カーク・ウィリアム(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1706 トオヤ・サカキ(31歳・♂・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea2155 ロレッタ・カーヴィンス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3803 レオン・ユーリー(33歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea5695 セレスティ・アークライト(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea5738 睦月 焔(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6552 レン・タツミ(36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「取り敢えず言われた物を渡しますね。スコップに適当に選んできたので悪いけど花の種、っと」
 そう言って冒険者ギルドの受付嬢はカウンターに五本のスコップと小奇麗な袋に入った花の種をいくつか置いた。
「手早い対応、助かる」
「これ位、当然でしょ!」
 睦月焔(ea5738)の堅苦しい一礼に彼女は当然だと言わんばかりに胸を反らす。
「取り敢えず、これだけあれば大丈夫そうですね」
 軽やかに微笑むセレスティ・アークライト(ea5695)に頷く一同の中
「保存食までは何とかなりませんでしょうか?」
 マイペースに現実的な質問をするロレッタ・カーヴィンス(ea2155)に受付嬢は首を横に振って
「御免ねー、ちょっとそこまでは。自前で出発前に調達して下さい」
 比較的必需品でもあるから当然と言えば当然な彼女の答えに、少しションボリするご令嬢であった。
「私も花畑って言うものに思い入れがあるから、出来るだけの事はしたいわね」
「思い出の花畑、きっと取り戻しましょうね」
 レン・タツミ(ea6552)が過去を思い出してか呟き、セレスティが彼女の言葉を受けて言う中、ノース・ウィル(ea2269)は
「しかし、羨ましいものだな。私もその様な殿方がいれば‥‥」
 一人溜息をつき、皆の苦笑を誘うのだった。

「あー、話の通り見晴らし良過ぎだねこりゃ」
「話が来てからそれなりに時間も経っているし、村を襲うのも時間の問題かもな」
「だとしたら、今夜にでも闇に紛れて罠を作る事にするか?」
 目的の花畑近くにある依頼人の村で話を聞きながらトオヤ・サカキ(ea1706)は額に手を当て遠くを眺め、カーク・ウィリアム(ea1049)は時間と状況からそう判断するとレオン・ユーリー(ea3803)は他の皆を見渡して、相談で話の上がった罠作成について改めて提案し直す。
「敵の数が多い以上、そうした方がいいのだろうな。夜通しの作業になるかも知れないのが不安ではあるが」
 女性陣を一瞥してそう呟く睦月だったが
「大丈夫ですよ、任せて下さい〜」
 胸を張ってエヘンと言うレンだった、だが彼女の後ろに居る女性三人は苦笑を浮かべるだけ。
「ま、今夜はそれなりに頑張ろうぜ」
 そんな女性陣の反応を見ながら気楽にカークは言うも、自身はスコップを片手で振り回して気合を入れるのだった。

 そして村に到着した日の夜。
「ん〜、こんな感じかしら?」
 胸を張って言うだけあって、夜に強いレンがゴブリン達の居座る花畑から少し離れた場所に穴をまた一つ掘り終え、それを隠すと同じくまだ起きているレオンと睦月に尋ねる。
「そんなものだろうな、じゃあ続きは明日で今夜は俺達も寝る事に‥‥」
 まぁまぁの出来栄えにレオンは頷いてそう言い掛け、自らそれを遮る。
 レオンの察して睦月も月明かりだけを頼りに辺りを見回すと
「村の様子見か? 馬鹿なりには考えている様だな」
 彼の視界に映ったのは数匹のゴブリンの群れ、まだ幾分距離はあるが確かにこちらに向かって来ていた。
 二人の言葉にレンは静かに
「起きて下さいー、ゴブリンですよー」
 お休み中の五人を起こし、急いで罠の場所を教えるレオンに何とかそれを頭に入れて動き出す四人と
「クソが‥‥とっととぶっちめて寝直すぞ!」
 寝起きが悪いトオヤは柄悪くそう叫び、本能だけで罠を飛び越えゴブリン目掛けて駆け出すと残る皆は慌てて彼の後を追い駆け始めた。
 確かにゴブリンが五匹、様子見と言った感じの数だとそれを見ながらレオンはまず、寝起きで切れている友人のトオヤを何とか捕まえ宥めながら、一つの提案を彼に耳打ちしてロープを取り出させると
「そのまま身を屈めて真っ直ぐ走れ、皆はその後から‥くれぐれも静かに」
 言うや駆け出すレオンに遅れてトオヤと残りの皆も駆け出す。
 やがてトオヤが追いつくと彼らは徐々に離れ、手に持つロープを徐々にピンと張り五匹のゴブリンの足に引っ掛けて転倒させると、後続の六人が静かに起きる暇を与えずにその息の根を断った。

 翌朝。
 取り敢えず簡単に昨夜の事を整理して寝た一行は然程寝ていないにも拘らず朝から精力的に罠作りに励んでいた。
「奴らが様子を見に来た、って事は多分今日にでも村に襲撃を掛けようと考えているのかな」
「そうだろうな。昨夜の件がどうあれ、時間も経って動き出して来るだろう」
「じゃあ準備も出来た事ですし、私達が先手を打ちましょう」
 日が真頂点に昇る頃、罠作りを一通り終え昼食を口にしながら相談するカークとレオンに割って入るロレッタの言葉に
「やるか‥‥」
 保存食を食べ終え、親指を舐めて立ち上がった睦月の言葉に他の皆も立ち上がると花畑の奪還に向かうのだった。

 花畑の真ん中に居座るゴブリン達、その理由は定かではない。
 見晴らしがいい分、敵が来た時には分かり易いと言う地理的なアドバンテージを確保する為だけの理由だろうが。
 そして昨夜、そろそろ頃合だろうと言う事で村の様子を探りに五匹のゴブリンを偵察に出したが朝になっても帰っては来なかった。
 痺れを切らしたリーダー格のホブゴブリンが立ち上がり、一つ雄叫びを上げようと立ち上がった時。
 その視界に映る、皮鎧に身を包んだ短い金髪の女性と腰に大振りの刀を下げる異国から来たと思しき男性。
 不意にその女性が何か言ったかと思えば、次には刀を抜いて振るうなりこちら目掛けて衝撃波を放って来たではないか!
 何度かそれを繰り返す男性は暫くして女性を伴って踵を返す。
「ウガーーーァ!」
 そんな彼らに怒り心頭なリーダー、その場にいるゴブリン達にすぐさま命令を下すと彼らを追い駆けるのだったが、それこそが彼らの狙いだとはまだ気付いていなかった。

「来たな」
 レオンが目を細めて遠くを見ると丁度、睦月とノースがレオン指示の元作製した冒険者お手製の罠を飛び越えてその近くに残っていた一行と合流を果たす。
「見ての通り、もう暫くすればゴブリン達がここに来るだろう」
「の様ですね、それでは皆様手筈通りに」
「回復は任せて! 皆さん、頑張りましょう!」
 ノースの改めての報告にロレッタが頷き返すと、容姿からは想像出来ない大きな声で檄を飛ばすセレスティにその場にいる皆はビックリしながら戦いの準備を始めた。

 そして数匹のゴブリンが足元の草の環に転んで落とし穴に嵌るのを合図に、戦いが始まった。
「何とか半分程度‥‥残っている落とし穴も使ってうまく追い払おう!」
 そう言って罠を越えて来たゴブリン達にウィンドスラッシュを放ち、一匹を落とし穴へと叩き落す。
 それでも果敢に罠を越えて来るゴブリンの群れを睦月と神聖騎士三人を中心に迎え撃つ。
「ゴブリンでも数が揃うと厄介ね〜」
「確かにね」
 ぼやいて一匹のゴブリンに切り掛かるレンに相槌を打ち、彼女の刃を追うロレッタの斬撃が一匹を切り倒して、先を行く睦月達を追い駆けながら確実にその数を減らしていく。
 そしてほんの少し先でホブゴブリン二匹と対峙するのは睦月とノース、その攻撃をあしらいながらも攻め手を欠いていた時、ホブゴブリンの一撃が睦月を襲う。
「っ‥‥」
 苦痛に顔を歪めながら踏ん張るが、もう一匹が振るう斧が眼前にまで迫っていた。
 だがそれはノースの剣に弾かれて僅かに軌道を逸らし、睦月のすぐ横の土を抉るだけで済んだ。
「一人ではないぞ、睦月殿」
「そう言う事だ」
 ノースの言葉に続いて、ゴブリン達に手間取っていたレオンが一匹のホブゴブリンに切り掛かると睦月の肩口に誰かの手が触れる。
「聖なる癒しを、リカバー」
 敵を掻い潜って小まめに回復を続けるセレスティに先程負った傷を癒され立ち上がると、既に他の皆が二匹のホブゴブリンと戦っていた。
「あぁ、そうだったな」
「お前らみたいな汚い足で花を汚すなー!」
 そう呟くと同時、叫ぶカークのウィンドスラッシュとレンのディストロイが残る一匹のホブゴブリンを昏倒させると、まだ何とか動けるゴブリン達は一目散に逃げ出して行った。

 ゴブリン退治を終えた一行、本来ならここで依頼は終わりなのだがギルドの受付嬢にお願いされた花畑の修復に早速取り掛かる。
 頼まれなかったとしても彼らは依頼人の為にやる気は満々だったが。
「まあ、なんだ‥‥綺麗なもんはいつまでも残しておきたいじゃん♪」
 少し照れ臭そうなカークの言葉に、トオヤとレオンも小さく頷きながら黙々と折れた花々を丁寧に取り除いて軽く耕すと、その上から女性達が花の種を蒔く。
「そう言えばノース様は?」
 ふと、一人の神聖騎士がいない事に気付いたセレスティの問いに誰も答えられなかった。

「二人の再会はやはり綺麗な花畑であって欲しいので、お節介だったかも知れませんが花畑の修復をしておきました」
 日が沈み掛けた頃、姿を消していたノースが依頼人の女性を伴ってやって来ると花畑の荒れた様子に慌てるも、ロレッタの報告に安堵して顔を綻ばせた。
「後は時間がこの土地を元に戻してくれるだろう、彼も早く帰って来ると良いな」
「彼、帰ってくるといいわね」
 睦月にレンが彼女を励ました。
「皆さん‥‥ありがとうございます」
 目尻に涙を浮かべ言う彼女のお礼の中、依頼人から話を聞いていた想い人と別れた際に咲いていた野薔薇の苗を探す為、姿を消していたノースが静かにそれを花畑の中心に植えると
「今年は厳しい冬かも知れないけど、来年の春はお二人で花畑を眺められる様に。何年も土の中で待ち続けた想いの種が、再会によって綺麗な花を咲かせられます様に‥‥」
「きっと想いは届くから」
 セレスティとノースの願いに、その場にいる皆もそれが叶う事を祈るのだった。