【何でもござれ】 〜借金を返そう!〜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月06日〜10月21日

リプレイ公開日:2004年10月12日

●オープニング

 冒険者ギルドには日々、様々な依頼が飛び込んでくる。
 小さなものは探し物から、大きなものだとモンスターの退治。
 そんな大なり小なりの依頼があるからこそ、冒険者ギルドも成り立っているのだが。
 ちなみにこの依頼は大か小かと言えば、どちらかと言うと小の部類に入るだろうか?

「後半月少々の間に借金を返したいんだ!」
「はぁ‥‥」
 とある日の冒険者ギルド、そんな悩みを受付嬢に打ち明ける一人のおじさん。
 しかし事情を飲み込めない彼女。
 それも当然、おじさんの最初の一言がそれでは依頼だとは思うまい。
 彼女は少し考えた後
「頑張って下さいねっ!」
 こぼれる笑顔にぐっと親指を突き出しておじさんを励ました。
「おっし、おじさん頑張るぞ!」
 おじさんも受付嬢の笑顔に応えて言い、その場を後にしようとして思い出した。
「‥‥じゃなくて依頼なんだー!」
「えー、最近少し忙しかったからたまには休暇を取ろうかなぁ、なんて思っていたのにー」
 待ちたまえ、それは君の個人的事情だ。
 それ見ろ、おじさんがカウンターに突っ伏してしまったではないか。
「‥‥‥どんな些細な事でもお気軽に、って表看板に書いているじゃないか‥‥‥」
「う、嘘ですよ。困っている人を見捨てて私が休暇を取るなんてそんな訳ないじゃないですかっ! それでそれでどんなご用件ですかっ?!」
 おじさんの言葉に慌てて受付嬢は両手をバタバタ振りながらフォローに入る。
 「本当にいいのか」と表情で訴えるおじさんに、コクコクと何度も頷く彼女を見てやっとおじさんは本題を切り出した。
「後半月と少しで借金を返せないと、経営している肉屋を追い出されるんだ。それで販売の為の手伝いと警護をしてもらいたいんだよ」
「販売の手伝いだけならまだ分かりますが、警護って言うのは?」
 受付嬢の疑問も尤も、借金を返す、と言う事なら売ればいいだけなのだが。
「実は最近嫌がらせを受けていてね、人手が少ない事をいい事にほんの少し売り場から目を離した隙に売り物がなくなっていたり、商品に虫がついていたり、その事がいつの間にか人の耳に入っていたり‥‥今までそんな事がなかったのに、最近になって急にだ。土地柄、結構人通りが多いから借金取りがそこに目をつけての行為だと思っているんだが‥‥」
 苦々しげに呟くおじさんだったが、言葉の途中で思わずビビる。
 受付嬢が泣いていたからだ、相変らず人情話には弱い。
「うぅっ、なんて酷いお話‥‥金のために真っ当な人を追い出そうとするなんて」
 いつの間にか手に持つハンカチで涙を拭いて、顔を上げおじさんの瞳を真正面から見据えると
「任せて下さいっ! この依頼、引き受けます!! そして必ず悪徳借金取立て屋をボコボコのギッタンギッタンにのしてみせますっ!!!」
 ‥‥いや何もそこまでしてくれと言ってないぞ、おじさんは。

 そんな事で気合の入った彼女は休暇の事など忘れて早速依頼書を書き上げると、今日もまた一つ困った人を助ける為の依頼を張り出すのであった。

●今回の参加者

 ea0693 リン・ミナセ(29歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea4099 天 宵藍(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4109 ヴィルジニー・ウェント(31歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5420 榎本 司(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5459 シータ・セノモト(36歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea6686 鳳 蘭花(28歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea7332 ヴィレノア・ディタフト(30歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

『ありがとうございました〜』
 サーシャ・クライン(ea5021)とシータ・セノモト(ea5459)、鳳蘭花(ea6686)達、店頭に立って接客をする女性陣は声を揃えて一人のお客様を見送る。
「しかし、話通り客足はあまり良くないようですね」
 上品そうな容貌を曇らせ呟くヴィレノア・ディタフト(ea7332)の言葉は確かに、人通りが激しい界隈ながらも客足はさっきからほとんどない。
「話と違っていれば依頼なんて来ないし、逆にそれを打開する作戦を練っているんだから私達はまずお仕事に慣れる事にしましょう。経営回復と借金返済の為に、何が何でも頑張るよー♪」
 言って握り拳を振り上げると、その場にいた皆も彼女に倣う。
 初日、店に来る客はまだ片手でも数えられる位しか来ていなかった。

「この前来た台風でガタ来ていた店が所々壊れてな、早急に直さないとオレ達が食えなくなるから慌てて金を借りたら‥‥この様さ」
 依頼人である肉屋の店主は、特に聞かれてもいないのに借金の理由について語ると一つ溜息をついた。
「これから頑張ろう、って言う時に溜息なんかついちゃダメですよ。これ、お花です。お店の前にでも飾って下さいな」
 そう言ってヴィルジニー・ウェント(ea4109)は柑橘系の香りが強い花の束を店主の前にそっと置くと、涙ぐむ店主を見ながら
「ともあれ今は滞りなく返済する事に専念せねば」
「それにはまず、失った信用を取り戻す事が必要だろうな」
 天宵藍(ea4099)と榎本司(ea5420)は揃ってクールに現実的な話題に話を戻すと、やはりうな垂れる店主。
「色々やれる事、出来る事は沢山ある様に思います。ご主人、頑張りましょうねっ」
「とは言ってもなぁ‥‥どうやったもんか、すっかり頭が固くなっていいアイデアが何も思い浮かばないんだよなー」
 余り感情を表に出さないリン・ミナセ(ea0693)が明るい声音でそう励ますも、店主は頭を掻きつつ弱音を溢す。
「大丈夫、ちゃんと私達も考えてきましたよ。それで許可が貰えれば試してみたいんですけど‥‥」
 そう言ってリンが皆で出してまとめたアイデアの数々を店主に打ち明けるのだった。


● 作戦その1、これが目玉だ!
「兄貴ー。例の肉屋、何か凄い事になっていますよー」
「今更一体なんだ?」
「ともかくー、来て下さいよ〜」
 愚鈍で頭が悪そうな弟分に連れられて、依頼の発端を起こした借金取りの兄貴はずるずると引き摺られながらあの肉屋へと向かった。

「何か凄い事になりましたねぇ」
「珍しいものは皆さんの気を引く様ですね。それに男性の一人暮らしの方にこう言うのは持って来いかと」
 次の日、早速店主から許可が降りた作戦の一つ目を発動させる一行は店頭で料理が得意な面子が考えてきたメニューを実演しながら、細かく切ったお試し品をお客様に渡しつつ販売していた。
 最初は遠巻きに見ていた人達も、一人が買うのを見るやそれからは芋蔓式に人が来る事来る事。
 そんな様子を慌しく故郷である華国の民族衣装を着て、これまた故郷の名物料理である肉饅頭を作りながらビックリするこの日の当番になった鳳に、彼女を手伝いながら一つ目の作戦が的中した理由を改めて分析するサーシャ。
「でも、店内は相変らず人の入りがまばらだねぇ〜」
「悪い噂はこの程度じゃなくならないですよ。でもまだ始まったばかりですし、大丈夫ですよ」
 店内の様子に今度は不安そうな表情を浮かべる鳳に、お試し品とビラを取りに戻ってきたヴィレノアの言葉に頷くと再び肉饅頭を作り始めた。

「兄貴ー、中々美味しかったですよー」
「馬鹿がっ、様子を見て来いって言ったろうがー!」
「だからこうして‥‥って!」
 頼りない弟分を引っ叩く借金取りは舌打ちをすると、ふと妙案を思い付いた様で踵を返す。
「まぁあの程度なら簡単に邪魔出来るな、戻るぞ」
 そう弟分に言うと来た道を引き返していく、足元に舞い落ちたビラを見る事無く。
 彼らがそれを読んでいればちょっとだけ未来が変わったかも知れない。

● 作戦その2、雨が降ったら安くなる?
数日後。
「じゃ、お願いしますぜ旦那」
「あまりこう言う事は気乗りしないが‥」
 借金取りと一人の男、肉屋を遠目で伺いながら話し終わると旦那と呼ばれた男は不機嫌そうに呪文の詠唱を始め、やがてそれを展開した。

「ありがとうございましたー」
 今日の店頭当番はシータ、彼女の考えたメニューは店の肉や買ってきた野菜を使ったサンドイッチや自家製のハム、香草等をまぶして味付けした肉の塊までも直接店頭で焼いて好調に売っていたその時、不安定な天候で曇っていた空から水滴が零れ落ちる。
「あ、あれれ? 雨?」

「これで付け焼刃は使えまい。今日から安心して眠れそうだなっ! じゃあ金は後で取りに来てくれよ」
 雇ったバードのウェザーコントロールの効果に慌てて店頭に並ぶ商品を片付けるシータの様子を見て、満足そうに借金取りは零れ落ちる雨の中踵を返す。
 その背中を見送りながら男は自らの行動の結果を見届けようとその視線を再び例の肉屋へと戻し、呟いた。
「向こうが一枚上手だな」
 足元で濡れるビラを見て、そう呟く彼は借金取りとは逆に人で賑わう肉屋の前を横切り消えていった。

「どうぞ、これで濡れたお体をお拭き下さい」
 店内に雨の中駆け込んできた新たなお客様に天は少々硬い笑顔を浮かべながら手に持つタオルを渡すとやっと一息ついたらしく、人の波はやっと収まる。
「これしきが読めぬとはまだまだだな、予め準備していたからこそ何とかなったが」
「落ち着いたら今度はこっちを手伝って下さい〜」
 独り言を呟く彼の目には、店内一杯に溢れかえるお客様の姿に埋もれ会計におおわらわなシータの声が聞こえると、今度は慌てて彼女達の手伝いに向かうのだった。

 雨が降った時と週末の夕刻限定に割引を実施すると二日目以降にビラで告知した一行の狙い。
 流石に毎日は勘弁してくれとの店主の発言を踏まえて行ったこれもまた見事に当たり、その夜弟分から報告を受けた借金取りは甲高い声を上げて地団太を踏んだとか。
 収支は順調に上り調子である。

「この調子が続けば借金は何とか返せそうですね」
 会計簿を確認し、借金取りとは真逆に笑顔を浮かべて言うジーニーに店主は胸を撫で下ろすのだった。

●作戦その3、足を使おう!
「じゃあこれ、お願いしますねお兄ちゃん♪」
 久々に榎本と話すリンの表情をとても嬉しそうで、そんな彼女の様子に表情を綻ばせながら彼もまた笑顔を浮かべると
「行ってくるな」
 託された木箱を受け取って馬に跨ると駆け、リンは彼を見送ると落ち着いた昼時の店頭を掃除し始めると、サーシャが入れ替わりに町から帰ってきた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様ー、こっちも売り上げ好調! この調子なら問題なく借金は返せそうだよー」
 馬を連れ、自らの足を使っての売り歩きに手応えを感じてサーシャは嬉しそうに微笑んだ。

 これまたビラに書いたサービスで家から出る事が厳しい人達の為、天候が不順な際にも売り上げを伸ばすべく始めた売り歩き。
 ジーニーや榎本が使えるクーリングで作った氷を木箱に敷き詰め、肉が傷まない様に配慮した上で馬を使ったそのサービスもまた売り上げに上乗せされていた。


「‥‥で、結局後三日か。諦める所か売り上げを確実に伸ばして借金を返せそうな所まで来たか」
「ですねー、どうしましょう兄貴ー?」
 小さな家の一角、暖炉の薪が火で爆ぜる中椅子に掛けて呟く借金取りに困る弟分。
「こうなれば、実力行使しかないだろ? 売上金を奪っちまえばそれまでさ」
 ニヤリと微笑み、借金取りは立ち上がると静かな闇に沈む町へと向かった。

「で、これからどうするんで?」
「今考えている」
 肉屋の外、金を貸す際に間取りを把握し売上金が置かれると思われる部屋の位置を覚えていた二人は窓の端から様子を伺うも、その部屋に陣取る天を見つけどうしたものかと考え込んでいる。
「お取り込み中申し訳ありませんが、早々にここから退いて貰えますか?」
 その時、彼らの背後から飛んでくる声に振り返ると金髪のエルフが弓を構え狙っていた。
 そう気付いた次の瞬間、二本の矢が彼らの背後の壁にわざと外して突き刺さる。
「言っておきますが、次は外しませんよ」
 ヴィレノアの最後通告、そしてまた二本の矢を番え弓を引き絞る彼はニコリと微笑んだ。
「くそっ、覚えてろっ!」
 お約束な台詞を吐いて駆け出す二人の後姿を見送って、ヴィレノアの後ろから姿を現す榎本。
「これで決まり、だな」
 これすらも見越して午前と午後の二交代制を取って昼は店番、夜は売上金の見張りを立てていた彼ら。
 勝利を確信して呟く榎本にヴィレノアも頷くと、雲の隙間から姿を現した月を見上げた。

「最初は冷や冷やしてたがなんとか借金を返せたよ、ほんのちょっとの追加報酬と夕餉の持て成しで申し訳ないが受け取ってくれ」
 十五日目、肉屋を訪ねた借金取りに指定ぴったりのゴールドを払って遂に借金から解放された店主は少し申し訳そうに、だが満面の笑みで彼らを肉料理満載の夕餉に招待する。
「旨そうだな‥‥」
「はしたないですよ、お兄ちゃん」
 様々な肉料理を前に率直な感想を述べる榎本に、隣に座るリンはそれを窘める。
「それじゃあお疲れ様〜!」
 そんな中響くサーシャの音頭に皆は掲げた杯を重ね、この依頼を無事に終えた充実感に包まれた。

ヴィルジニー・ウェントの豆知識?
「生肉を扱う仕事で手につく匂いを消すには、柑橘系の果物の皮を両手で揉む様に擦り付ければいいそうですよ、やってみましょう」