慟哭の刻
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:10月10日〜10月16日
リプレイ公開日:2004年10月15日
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●オープニング
あの夜、どこから現れたのかズゥンビの群れが私達の村を襲った。
既に月は真頂点に上っており人々は静かに寝息を立てて熟睡していた頃、で多くの人々が犠牲になった。
私の家族も無論例外ではなく妻と一人娘が亡くなり、私と私の父だけが何とか生き残って近くの村に逃げ込んだが着いた時には全身血だらけでボロボロだった。
だが父は私より酷く、右腕を失い孫である私の娘が亡くなった事に精神的にも堪えていた様で、翌朝起きて見ると一枚の書置きを残してその姿を消していた。
「孫を探しに行く」
そう書かれた一枚の紙片を見て、父はきっと村に戻ったのだろうと思った。
ズゥンビが蔓延る私達が住んでいた村に避難してきた隣村の若者が様子を見に行ったが状況は燦々たるもので、生存者はいないだろうという話だった。
「そう言う事で今回の依頼ですが‥‥」
「その孫を探しに行った爺さんを探しに行けばいいのか?」
依頼の前置きから、いよいよ本題を言おうとした受付嬢の言葉を遮るのは一人の冒険者だったが、そんな彼に彼女は首を横に振ると続きを語り出す。
「今回の依頼ですが、その村に突如襲い掛かったズゥンビ達の駆逐とその村に生存者がいないかの確認です。近隣の村にも被害が及ぶ事を懸念して、被害に遭って生き残った村人達と近隣の村がそれに便乗しての依頼になります」
悲しそうに呟く彼女、状況が状況だけに亡くなった人達へ冥福を捧げているのだろうか。
そして落ちる沈黙に、一人考え込んでいる事に暫くして気付いた彼女は慌てて言葉を紡ぎ出す。
「生存者がいる事を前提にまずは作戦とか考えてみて下さい、ズゥンビ達はまだ最初に襲撃した村から移動していない様ですが、もし何処かの村に向けて移動しているのであれば‥‥その時はまずはズゥンビ達を倒す事に専念して下さい。これ以上の被害を出す訳には行きませんし」
伏目がちで言う彼女の言葉は、珍しくどこかしら悲しさを帯びている。
そんな受付嬢の様子を心配そうに見る君達ではあったが、そんな事を振り払ってか彼女はいつもの様に元気に言うのだった。
「困っている人達を助けてあげて下さいねっ!」
●リプレイ本文
●プロローグ
「地図はギルドで保管している物だからちゃんと返してね、それと馬車だけど‥‥台車だけでもそうなんだけど手配が遅くなっちゃって間に合いそうにもないの、ごめんね〜」
「ならば致し方ない、それでは急ぐ故失礼する」
受付嬢はそう言って目的地近辺の地図だけをカウンターに置くと、彼女の申し訳なさそうな言葉に落ち着き払って返す王零幻(ea6154)と、それを手に取り素早く駆け出すフルーレ・リオルネット(ea7013)。
踵を返して外に出る王の後に続く彼女は銀髪を靡かせながら振り返らず
「済まない、これだけでも助かる。では行ってくるよ」
言葉短に受付嬢へ礼を言い、扉を開けて舞う風にマントをはためかせながらエレガントに冒険者ギルドを後にした。
「今回もズゥンビ、かぁ‥‥死者に縁でもあるのかしらね」
「ズゥンビは幽霊じゃない。ダイジョブ、きっとダイジョブだ」
フルーレが冒険者ギルドで地図を借りている頃、残る一行は慌しく目的地へ向かう準備に勤しみながらまだ心持ち気楽に雑談にも講じるラフィス・クローシス(ea0219)に、お化けなどが滅法苦手なハーモニー・フォレストロード(ea0382)は震えながらも拳を握り頑張ろうと自らに誓う。
そんな時、地図を抱えて戻ってきた王とフルーレに呼びかけるリオン・ルヴァリアス(ea7027)。
「馬車はどうだった?」
彼の問いに二人は首を振るとイリス・ローエル(ea7416)初めて受ける依頼にも拘らず
「ならこれ以上時間を無駄には出来ん、村までよろしく頼む」
気負いなく一同に頼むと、頷く皆は彼女の言葉を合図に持っている馬に乗り目的地に向かうのだった。
●響く慟哭
それから駆ける事二日、休みを入れながら何とか馬を潰さない速度で一行は目的の村付近にまで到達する。
「着きましたね‥‥しかし酷い様子ですね」
トリア・サテッレウス(ea1716)は自ら駆る馬から降りて遠めに見える村の様子にいつもニコニコと微笑を浮かべているはずが、今回ばかりは緊張した面持ちを浮かべ呟く。
「さーて、奴等に死ってのを体感させてやろうぜ」
「その前に少し休息を入れる、俺達はいいが馬が疲れている」
そんな彼の馬に便乗していたライラック・ラウドラーク(ea0123)も馬から降りて気合十分にそう言うと、フィルト・ロードワード(ea0337)は自らの馬を撫でて皆に呼びかける。
「なら適度に休んだ後、まずは近隣の村にズゥンビが移動していないか確認してから行動するとしよう」
彼の言葉に頷きながら、道中細かな気配りを見せたジーン・グレイ(ea4844)がそう提案すると友人のシフールを肩に乗せたまま地に腰を下ろし、彼に倣って他のメンバーも一時の休息を始めた。
「死人がいられる場所はここにはないっ!」
知人がズゥンビの群れに切り込む中、叫んでオーラパワーが付与されたダガーでイリスは振るわれる腕を切り付けてその攻撃を止めると、続けざま左手に握る銀の短剣で足を切り飛ばして転倒させる。
村の様子を見に行った一行は、ズゥンビはまだ村の外には出ておらず内部で徘徊していると判断する。
「奴らは動く者に反応して襲い掛かってくる。まだ村に生存者がいる事を考えると、馬が使える者を囮にして村の外に出来るだけ多くのズゥンビを誘い出した方が回りを気にせず、心置きなく戦える」
「その後、村内に入って残る死者を倒しながら生存者を探すと言う事でいいのであろうか?」
傍に浮かぶ知人の受け売りながらそう提案するジーンに、王が確認を取ると彼が頷くのを見て皆と視線を合わせる。
「異論はない、急ぐ事にしよう」
異論なく他の皆も頷く中、簡潔にリオンが言うとそれを皮切りに囮役となる騎士達は一斉に馬に跨って村へと駆けるのだった。
そして夜の帳が落ちる中、村内で見つかる限りのズゥンビを誘き出す事に成功した騎士達は外で待つ他のメンバーと合流して、その存在を抹消する為戦闘を始めていた。
だがその数はまだ半分にも満たない、それにフィルトは舌打ちしながら
「キリがないな‥‥また村に行って誘い出して来る」
手綱を引いて速度より正確さを重視し、ゆっくり駆け出す彼女に迫る一体のズゥンビだったが
「望まぬ生に終焉を、歪んだ命に安息を‥‥Anaretaが番犬、『狗』のトリア‥‥参ります!!」
お守り代わりの勾玉にキスしながらその行く手を塞ぐトリアは、やはり同様に足を切りつける。
動きが鈍いながらもタフネスなズゥンビに一行は、その動きを止めてラフィスのファイアーボムで一掃する手段を講じていた。
そしてその終局
「我はAnaretaの『炎』、哀れな死者達に滅びを与え焼き尽くす者! 離れなさい、寧ろ退きなさい‥‥纏めて吹っ飛ばすわよ!」
赤きオーラを背負い、詠唱が完成すると紅蓮の猛る火球を身動きの取れないズゥンビ達の群れの只中に放り込み、炸裂させるとまずは最初の群れを天上へと葬送する。
「今度こそ、安らかに‥‥」
中空に漂い、十字を切って呟くハーモニー。
「弥勒の慈悲だ、滅せよ!」
しかしささやかながらの感傷ですら今は浸る暇はない、彼の言葉を途中で打ち消す王が次なる群れをあしらいながら連れて来るフィルトの姿を確認すると、放たれるピュアリファイが彼を追い立てる動く死体を浄化した。
「行くぞ、早く生存者を探さねば」
馬に乗りながらジーンが放つビカムワースでまた一体のズゥンビは足を吹き飛ばすと、直後に飛ぶラフィスのファイアーボムが炸裂するのを見て、一行は再び群れへと突撃する。
「グールは‥‥いないよな」
一行の援護に馬を切り返して長剣を振るいズゥンビの腕を切り落とすフィルトに並んで、振るわれる鋭利な爪を避け損ねながらも闘気の宿る刃でスマッシュを繰り出し、両断すると辺りのズゥンビ達を見回して安堵する。
「いてたまるものか」
うっかり前に出過ぎたラフィスに齧り付こうとするズゥンビを騎乗から細身の剣で串刺しにし、一瞬動きを止める間に彼女を素早く抱えると後ろに下がる。
「ごめんね、うっかり」
「気をつけ給え」
詫びるラフィスを降ろしながらフルーレ。
口調こそきついものの、その表情は柔らかく彼女に言うと闘気を調整して自らの士気を高め
「何事にもエレガントさが必要さ」
颯爽と再び群れの中へと駆け込んで行った。
それから二十体程のズゥンビを駆逐してから一行は村の中に入ると、残存する生きる屍を倒しつつ生存者がいないか村中を駆け回る。
「オラッ、男の癖にこの世に未練持ち過ぎだぜっ! ‥あ、男? ‥それとも女か? ‥まぁ男で良いや!」
「そんな事気にしなくても」
村に入っても変わらず集団で動く一行の中ライラックは、豪快に日本刀で生き残っていた村人を襲うズゥンビを切り伏せるとニコニコしながらツッコミを入れてくるトリアに苦笑いで返し
「第一村人発見‥‥ってか」
そして未だ戦慄に震える少女をそっと立ち上がらせると、ハーモニー達クレリックが待つまだ比較的頑丈な一軒の家へと向かう。
「もう大丈夫‥強い仲間が助けてくれるし、慈愛神は皆を見捨てたりしないから」
ライラックが連れて来た少女をハーモニーは優しい言葉を掛けて落ち着かせると、手伝いで彼に着いて来た友人が彼女の外傷を癒す。
彼女の肩に止まるハーモニーはその間にもう何度目かのデティクトアンデットを唱え、辺りにズゥンビがいない事を確認するとライラックに外の状況を尋ねた。
「捜索の方は順調ですか?」
「ほんの少しだけ、遅かったかも。守れなかった人も‥‥いた」
聞かれた彼女は悲しそうな表情を浮かべて小さく呟き、ハーモニーも静かに十字を切って
「天に召されし者達よ、願わくば天上で神の御元において平穏なる時を過ごさん事を‥‥」
それだけでも、願わずにはいられなかった。
●エピローグ
「はぁ、しばらく肉は食えねーぜ」
ズゥンビの駆逐も終わり、近くの村に生存者と一緒に移動し終わって休む一行の中、そんな事を言いながらもしっかり保存食の中にあった干し肉を食べながら皆を和ませようとするライラックだったが、彼女の言葉に反応する者はいない。
依頼は確かに達成した、だが救えたかも知れない命があったはず、けれど救えなかった命もあった。
孫を探しに村に戻った老人も見つける事が出来なかった、恐らくは倒壊した家屋の下敷きになってしまったのだろう。
それらは今、悔やんでも仕方ないがどうしても拭い切れずフィルトは呟く。
「俺はあの村の光景を忘れない、いや‥‥忘れるものか」
突然だったズゥンビの大量発生の原因も気にはなっていたが、それ以上に今回の結果が頭から離れない。
(「自分と同じ境遇の者をこれ以上‥‥出したくはなかった、だが‥‥」)
「だが、それだけに縛られては前には進めぬぞ。苦しくてもそれを乗り越えなければならないのだ、我々は」
皆に、依頼主の一人である青年の父と同じ境遇な自分に言い聞かせるかの様に呟く王にフルーレも頷くと
「まだ私達の助けを必要とする者もいるであろうしな」
「‥‥ですね。いつまでも皆で落ち込んでいる訳には行きませんしね、じゃあそろそろ帰りましょう。次の依頼に備えて、ね」
言って立ち上がる彼女に続いて、トリアも自身が言う程落ち込んでいる様には見えなかったがいつもと変わらず微笑を浮かべて立ち上がると、皆も釣られて微笑を浮かべて帰路の準備を始めるのだった。
誰しも全てを救う事は出来ない、だが必ず何かを守れる事を信じてまた冒険者達は歩き出す。
強き意思こそが未来ですら変え得る事が出来るのだから、迷う事なかれ。