華国より来たる物
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月18日〜10月25日
リプレイ公開日:2004年10月25日
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●オープニング
「とある貴族が海路や陸路、果ては月道までを使って華国からとある物を輸送したそうです。が、キャメロットを目前にその荷を運んでいた馬車が盗賊団の襲撃に遭い、奪われてしまったそうです」
「じゃ、今回の依頼はそれの奪還って事か」
今回の依頼に当たって、事の顛末を簡潔に伝える受付嬢に主題を切り出す冒険者。
それに今回は珍しく頷くと改めて彼女は話を続ける。
「それで今回の依頼なんですが、仰る通りその荷の奪還になります。最近になってその付近に出没する様になった盗賊団を退治する事も併せてお願いします。但し‥‥」
「但し?」
「その荷について木箱で頑丈に梱包している様なんですが、中身を見る事はせずに送り届けて欲しいとの事でした」
「よっぽど大事なものなのか、見られたくないものか?」
腑に落ちない事が多く、質問を繰り返す冒険者達に
「さぁー、なんでしょうね? セルアン・シェザースさんと言う貴族からの依頼なんですが、変わり者と言う噂で通っている方で‥‥こう言った依頼なら荷を確認して被害の状況も一緒に報告しますよ、って言ったんですが断固としてそれは断る! って聞く耳持ってくれなくてねー。でも彼についての悪い噂は聞かないので危険なものではないと思いますけど」
小首を傾げて呟く彼女に、君達はそれ以上の追及をやめる。
「そう言う事で開いている木箱については止むを得ませんが、未開封の物についてはその状態のままで送り届けて下さいね。その荷を奪還した直後に中身を見たら報酬無しって言われてますので」
そうしてカウンターを出て依頼を貼り付けている板にその依頼書も貼ると、くるりと君達に振り返って今度は状況の説明を始める。
「荷が奪われた現場はキャメロットから三日程離れた街道で、その付近の森にある洞窟に潜伏しているのではないか、と言う近隣に住む人達の話がありますので恐らくはそこで間違いないかと思います。また襲われた荷を運んでいた馬車の業者の話では盗賊団の数は九人だったと言う話でした」
ふむふむと頷く君達に
「荷の中身が気になるなら、直接依頼人に交渉してみて下さい。変わり者と言うか変わった趣味をお持ちの様なので、それを見て後悔しても知りませんけどね‥‥」
ふっ、と溜息をついて首を振る彼女。
何かを知っている様な口振りではあったが、百聞は一見にしかずである。
それから君達は葛藤しつつ、この依頼を受けようか悩み始めるのであった。
●リプレイ本文
「馬車は貸して貰えないんですか?」
「ごめんね、また手配忘れちゃった」
エクリア・マリフェンス(ea7398)の問いに、苦笑いを浮かべながら頬を掻く受付嬢。
「依頼人の方が待ちに待った物がなんですよ」
「可能なら何とかしたいけど、馬車借りるのって色々手続きが要るから大変なの。これからでも良ければ手配するけど、何日掛かるか」
受付嬢にそこまで言われては、彼女は引くしかなかった。
「まぁ我が愛馬に他の者も馬を持っているから、それで何とかしようではないか」
そんな事でちょっと落ち込むエクリアを慰めるノース・ウィル(ea2269)の言葉に、サイ・ロート(ea6413)は一つ思い出して受付嬢に尋ねる。
「そう言えば荷物の数や重さはどうなんだ?」
「それなら事前に聞いてますよ、箱自体は小さくて数も五個程度。封だけが厳重で、そう重くないって」
それを聞いてふむ、と一つ頷いてノースは踵を返して皆に告げた。
「これ以上時間を潰す訳にも行くまい、そろそろ行こうか?」
頷いて歩き出す一行の背中に「ごめんねー」と受付嬢は申し訳なさそうに呟くのだった。
それから暫く、一行は街道を辿り盗賊団が潜む森の近くにある村へと到達した。
「荷物の中身はなんだろうね」
「華国からやって来たんだって、興味有るなー。是非とも見ねば」
「ダメだと言われると気になるのは人間の性だな」
村で情報を集めつつ、荷の中身が気になって皆に尋ねる真慧琉(ea6597)にごつい両手剣を携える女騎士のハンナ・プラトー(ea0606)も同様の様子。
そしてそんな彼女達に賛同する様に頷いたのはジャスパー・レニアートン(ea3053)。
ウィザード故、彼の言葉には重さがあった。
「おーい、洞窟の場所とかについての情報はどうやら間違いなさそうだぞ」
三人で休憩がてらそんな話をしてた時、少し離れた場所からサイの声が聞こえる。
「‥場所も割れたし、森に行ってみようか?」
サイから詳細を聞いてイェーガー・ラタイン(ea6382)はそう提案すると、皆は頷き早速森に向けて出発の準備を始める。
「あ、それとこれ。俺が持っているより、真さんが持っていた方が良いでしょうから‥」
そんな中、シフールの武闘家に小さな礫を託すイェーガーに彼女は微笑んで
「ありがと、借りるね♪」
そう彼に応える真だった。
そんな一行の中、一人だけ浮いているのはアーディル・エグザントゥス(ea6360)。
何故かと言えばイギリスにいるにも拘らずイギリス語が喋れないからである、郷に入っては郷に従えと言う言葉もあるのに。
「ラテン語は世界共通言語だー!」
それでも彼はラテン語で叫ぶもしかし近くにいる人々は彼の叫びに反応こそすれ、馴染みのある言葉を投げ掛けてはくれなかった。
西洋に居る限り会話は全てラテン語のごり押しで通してきた彼、その信念は認めよう。
しかしそれも時と場合による、そんな彼の叫びだけが虚しく村中に木霊した。
「ま、まぁ落ち着いて」
少し泣きそうなアーディルに、彼がラテン語以外に唯一解せるゲルマン語で宥めるジャスパーに、それでもラテン語で話す彼だった。
前途多難かも?
それから一行は盗賊団の根城を目指して森へと入るが、しかし日は西へと傾きかけ徐々に辺りが暗くなって来た。
「まずは偵察かな? 襲撃は事前の打ち合わせ通り、明るい内に掛けるって事で」
「‥じゃあ今の内に男手で洞窟の場所とか簡単に様子を見てくる事にするよ」
ハンナの提言にイェーガーが立ち上がって、一行の丁度半分である男性陣を集める。
「気を付けて」
静かに彼らに声援を送るノースに、男性陣は手を上げて応えると森の奥へ姿を消した。
「ならその間に私達は野営の準備でもしましょう」
「そうだね、じゃあ薪に使えそうな枝でも探してくるよ」
「私も手伝うよー」
彼らの後姿を見送ってからエクリアが言うと、真にハンナは枝を集め始める。
冬も間近で最近徐々にではあるが冷え込んできていたが、一行の準備と心構えは万端で偵察から戻った男性陣を暖かい火で迎え、翌日の作戦を練るのだった。
「こんなものか?」
そして翌日、昏倒する二人の盗賊を引き摺りながらサイは呟いた。
途中エクリアが洞窟内の様子を探る為にブレスセンサーを唱えようとし、重い装備で魔法が使えない事に気付いて皮鎧を外すと言うハプニングこそあったが、一行は明るい内に昨日イェーガー達が見つけた洞窟へ来ると、見張りの二人の盗賊を打ち倒す。
「‥でも何で奴ら出てこないんだろう?」
昏倒する盗賊をロープで近くの木に縛るとイェーガーは呟く、それもそのはずで一行は気にしてはいたものの盗賊を気絶させる際に結構大きな音を立てたり、助けを呼ばれたからだった。
一行は残りの盗賊達と対峙する事を覚悟していたが、その予想は外れた。
「もしかしたらまだ寝ているのかもね」
「だといいが‥」
「まぁ、行ってみよう。荷を守らなければならないしな」
ハンナの前向きな考えに何か拭いきれない不安を覚えるノースだったが、まずは行動とジャスパーの発言に皆は頷くと、洞窟へ明りを灯して踏み込むのだった。
「ぬ‥‥」
洞窟を駆ける一行は程無くして最深部へと辿り着くと、そこで展開される光景に絶句した。
首領らしき一番いかつい男性とそれを取り囲む六人の盗賊達、そして彼らの近くに転がる一つの箱は既に空っぽ。
「ん?」
そしてその中身と思しき服に着替え終わった首領の間抜けな声が洞窟内に反響する。
「‥‥‥‥」
まだ時が止まったままの一行。
それもそのはず、今その首領が着ている服はどこをどう見ても女性物のそれだったから。
「あたいの着てる服と同じ、だよね?」
肩ははだけながらも全身を覆い、下半身を隠す左右の切れ目から男らしく毛が生えた筋肉質の足を覗かせているその服は間違いなく真が今着ている服と同じだった。
それと同じものを着ている彼女が呟くと一同は固まりながらも何とか頷く。
そして首領は同じ服を着ている真を指差すと
「我輩とどちらが美しいか競いに来たのか? わざわざご足労頂きありがとう! しかーし申し訳ないが、我輩には負けるだろう? んー?」
両手を頭の後ろに組んで、何か間違ったポージングを取り一行に美しさをアピールする首領と拍手する手下達。
(「ま、まあ‥人の趣味はそれぞれであ、あるしな、な」)
そんな彼らを見て自分に言い聞かせようとするノースだったが、心の声ですら震える。
他の皆も反応こそ様々だが怒りとも嘆きとも憐れとも言えない感情を抱く中、ジャスパーは何とか思考を回転させて答えを見出すと途端、呪文の詠唱を始めた。
「英国は紳士の国じゃなかったのか‥‥何でこうも変な奴ばっかりなんだよ」
彼ら盗賊団は女装癖のある集団だ、と悟り嘆息しながら呪文を完成させ水の塊を生み出すと即座に見るに耐えない姿の親玉にぶつける。
「ぶぎゃー!」
それをモロに喰らう首領は倒れてじたばたと地面を転げ回る。
その姿は益々持って見苦しいと言うか非常に危険で、激しく転がり太腿を露わにする彼を見て何かが弾けた一行は、その変態集団を取り押さえに掛かるのだった。
その後盗賊団は感情に駆られた一行に抵抗する暇も与えられず、袋叩きに遭い捕縛されると騎士団へと連行される。
「覚えてろー、今度はもっと美しくなって見返してやるー!」
首領の捨て台詞に違うだろうと心の中でツッコミながら溜息をつく一行だったが、荷の事を思い出すと依頼人の屋敷へと向かうのだった。
「‥セルアンさん、箱の中身は何でしょう? どうしても知りたいんですが‥教えて頂けないでしょうか?」
「一つだけ拝見しましたが、他の物は何か教えてはくれないか? 華国から取り寄せた物だけに、気になるのですが」
「中身、おしえてぇ〜ん」
依頼人であるセルアン・シェザースの目の前に荷を置き、やはり中身が気になる一行を代表してイェーガーとジャスパーに真の説得に
「見せるも何も、あの服だけだよ。柄違いだけどね」
そう言うと彼女は一つの箱の封を手に持ったナイフで開ける。
一行の後ろで興味なさそうに見えたエクリアだったが、待っていましたと内心喜んでそれを見るも、確かにその中は盗賊団の首領が着ていた服と同じ物が一着入っていた。
「わぁ、その柄いいなぁ」
「服だけの為になんともはや」
全ての箱を開ける依頼人に先程と違い、普通に見る同郷の服を欲しがる真と少し呆れるジャスパー。
「ちなみに私じゃなく、他の人に着せる為に取り寄せたの。凄い楽しいんだからー!」
そんな彼に変わった考えを言う依頼人は直後、目を光らせて一行を見回す。
「そうですよね〜、素敵な服だし着て貰おうよ。折角だし‥‥男性諸君に!」
「それ、面白そうねぇ」
不意に、とんでもない提案をするハンナに不敵な笑みを浮かべ同意するセルアンは改めて男性陣を見回す。
皆一様に「いやだー!」と叫ぶのだがそんな中、一人だけ何を言っているのか分からない男性に目を留めて
「何を言っているのか分からないから彼にしてみよー!」
依頼人の言葉が分からなくとも、絡む依頼人の視線に何かを悟って逃げ出そうとするアーディルだったが、僅かに遅く依頼人と近くにいた使用人にまで拘束されて別の部屋へと連行される。
「世の中ってまだまだ知らない事で一杯だね、これだから冒険者は楽しいな〜」
そんな彼の背中に微笑みハンナが言うと、暫くして断末魔が聞こえた。
ちょっと違う気もするぞハンナ、そしてこれを機にイギリス語を覚えてくれアーディル。
どんな事があっても頑張れ、冒険者の皆!