【何でもござれ】 〜去り行く秋に〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 96 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月23日〜10月30日
リプレイ公開日:2004年10月28日
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●オープニング
「秋ももう終わりだで〜、茸やら狩って去り行く季節を惜しもうかと思うたんじゃが、昔からよく行っていた山にゃあ最近熊が良く出没するそうで‥ワシら年寄りだけじゃあ怖くて行けんのよ」
冒険者ギルドのカウンターに押し寄せる老人達の話を聞きながらふむふむと頷くのは一応看板娘の受付お姉さん。
「冬を前にしているから熊もそれに備えて活発に動いているのでしょうね。分かりました、こちらのお金とその後のパーティのご招待を今回の成功報酬として、この依頼をお受けしますね」
老人達の気持ちを汲んで、笑顔でそう答える彼女に皆は諸手を上げて喜んだと言う。
「はい、そんな事で今回は茸狩りツアーです」
「なんだそれー」
翌日、新しい依頼書を貼り付けそれについてざっくりと説明する受付嬢にその場に居合わせた冒険者達はどんな依頼だとブーブー垂れ始める。
「シャーラーップ! 去り行く秋を惜しんでお爺ちゃん達が茸を食べたいんだけど、冬眠を前に活動始めた熊達が怖くて狩りに行けないから代わりに狩ってくるってだけの依頼なのに、そんなに何が不満なのー!」
そんな君達を一喝し、依頼内容をさっきより少し詳しく説明しながら不満を尋ねる彼女に
「何か最近、こう言った依頼多くね?」
「売ってるものを買うとかな」
「と言うか、爺さん婆さん相手か‥‥」
「‥‥何か言ったかな、そこの君達?」
『何でもありません‥‥』
ボソリと歯に衣着せずに呟いた冒険者達、しかし直後彼女にねめつけられ前言を撤回する。
怒らせると意外に怖いかも知れない。
「君達には老人愛護の過ぎる季節を惜しむ精神がないのかなー、もしそうだとしたらお姉さんは悲しいよ」
そう言って今度はよよよと泣き真似、切り替え早過ぎですお姉さん。
「そう言う事でよろしくねっ、っと依頼人達がいる村までの道と茸狩りをして貰う山の地図は準備しているから安心してね。それで無事に依頼が成功したらなんだけど、君達が採ってきた物でパーティを開くから折角なのでどうですか、ってお招き頂いていますのでご馳走になって来るといいよ。勿論報酬とは別だから安心してね」
そして早速立ち直ると必要な情報をつらつら述べる彼女に君達は唖然としながら、しかしそのコロコロ変わる表情に女性は怖いものだと改めて実感する。
「まぁいいんじゃないか、こう言った依頼だけの方が。平和だ、って感じるしな」
誰かの呟きに、受付嬢のお姉さんは何も言わず微笑んだ。
●リプレイ本文
●いざ山へ、準備万端?
なんとか依頼をこなせる人数が依頼開始日の直前になって集まり、慌しい中キャメロットを出発した七人。
「茸狩りですか〜、こう言う依頼もたまにはいいですね。折角の秋の味覚、お年寄りの方達に喜んで貰える様、沢山持ち帰りたいですね」
街道を目的の村目指して進む一行の中、ユリアル・カートライト(ea1249)は握り拳を握って決意する。
勿論他の皆の考えも同様で、若干人数は少ないながらも心強い事この上ない。
そんなやる気満々の一行が街道を歩く事三日、依頼人である老人達が待つ村へと辿り着くと村長の元へと案内される。
「えっと、皆さん宜しくお願いします〜♪」
「こちらこそですじゃ、此度は依頼を引き受けて頂きかたじけない。例年であれば我々だけでも何とかなるんですが、今年はいつもより熊が活発で‥見ての通り若者はキャメロットやその近辺の町にほとんどが移住してのぅ。大したお金も出せず、この様な依頼で申し訳ないんじゃが」
「大丈夫だよ、僕達の方こそお金貰った上でパーティに誘って頂いているんですからそんなに気にしないで」
身振り手振りを交えながら一礼するシフールのユーリユーラス・リグリット(ea3071)の元気な挨拶を受けて、だが寂しそうに呟く村長に依頼が無事達成された後で開かれるパーティを家族に祖父母がいないからこそ楽しみにしているキリク・アキリ(ea1519)が笑顔で答えると、村長とその周りにいた老人達も釣られて笑みを溢す。
「ま、私の弟分がこうもやる気なら頑張らないとね」
キリクの後ろで姉の様に振る舞い、彼の頭を撫でながらエルザ・デュリス(ea1514)が微笑むと一行も力強く頷いた。
「何卒よろしくお願いしますじゃ」
村長の村で色々と話を聞き終わった後、一行は早速山へ入る準備を始める。
そんな中、ジェラルディン・ムーア(ea3451)は村に住む一人の老婆からカウベルを借りる事が出来た。
「しかし大丈夫かい、この時期の熊は手に負えないのが結構いるからねぇ」
「大丈夫、何てったってあたしはこーんな高地の生まれで山に囲まれて育ってきたんだから♪」
その老婆が彼女に心配そうに言うも、自分の腰程しかない老婆の視線と同じ高さまで屈んで言うと明るく笑いかけた。
それから一泊だけ村で宿を取って翌日、一行は山へと入って行った。
●さぁ狩れ、秋の味覚
「キノコを食べる子、元気な子〜♪」
早朝ながらも元気な一行は、熊避けにと賑やかに歌を歌いながら行進していた。
ジェラルディンが腰にぶら下げるカウベルの音に、ユーリユーラスは自ら飼っている驢馬の頭上に座り竪琴を引きながら昨夜老人達から教わった歌を歌っている中、異彩を放つ人物の歌声が何故か一番響いていた。
初めての依頼で緊張しているのか、しかしちゃんと視界を確保出来る様にと目のがある箇所に穴を開けた麻袋を被るウィザードのワーフ・リオルング(ea7318)。
‥‥緊張とかそう言うレベルではないのだろう、しかし気になる。
「熊‥‥熊は勘弁して下さい。茸は食べたいけど、熊はいいです!」
そしてそんな彼女の歌声に紛れて叫んだのは彼女と同職のバルタザール・アルビレオ(ea7218)、品の良さそうな顔立ちとは裏腹に上がる悲痛な叫びに過去に何かあったのだろうと察する事が出来、これまた気になる。
まぁそんな事で色々と騒がしい一行だったが、それでも順調に進んで行くのだった。
やがて気さくな老人達の話に聞いていた、茸が沢山生えていると言う丘の上にある森へと到着する一行。
森に慣れ親しんでいる竪琴を弾いて歌うユーリユーラスに、彼女が乗る驢馬を引くユリアルの二人が一行の先頭に立って進むと、少し木々が開けた所へと出た。
「ここら辺、いい感じかもね」
周囲の高い木を見上げ、腰のカウベルを鳴らすジェラルディンに植物の知識に長けているバルタザールも周囲の程好い湿気を感じて
「茸、秋の味覚‥‥いいですね」
真面目な表情のまま、うっとりと呟いた。
「それじゃあまず、此処で探してみましょう。茸の事は全く分からないけどね」
彼の知識を確かと感じたエルザが提案すると、一行はお互い離れ過ぎない様に散らばって木々の根っこ等を探し始めた。
それから一行は道中と変わらず賑やかに茸を探していた。
「そう言えば、ユーリさんはどこに行ったんでしょうね?」
「うわーん!」
ワーフのふとした発言に皆が辺りを見回すと同時、当の本人が叫びながら木立から飛び出して来ると、次いで彼女を追い駆けて来たのだろう小熊がひょっこりと姿を現した。
「小熊じゃないですか、ビックリさせないで下さいよ」
「それでも私から見れば十分ビックリしたのー!」
そう言いながらもユーリユーラスを宥め落ち着かせるユリアルだったが、余りその効果はなく彼女はユリアルの頭上を騒がしく飛び回る。
「可愛いですねー」
「‥‥まずいですね」
不意に現れた小熊を撫でようとするも、顔に被る麻袋を怖がってか威嚇されて中々思う様に近付けないワーフに、バルタザールは何かに気付いて静かに呟いた。
直後、僅かに地が揺れるとユーリユーラスと小熊が出て来た木立をへし折って、身の丈三メートル程のブラウンベアが姿を現す。
ワーフを威嚇する小熊の親だろう、それを見て雄叫びを上げるや一行に向け一歩踏み出したがしかし、エルザが咄嗟に高速詠唱で完成させたファイアートラップを踏みつけ、足元で荒れ狂う爆炎に大きな地響きを立て倒れる。
「何とか間に合ったわね」
突然の事にも落ち着き払って彼女が呟く中、一行は親熊が倒れている間に体勢を整え起き上がったブラウンベアと改めて対峙する。
「さっきの一撃である程度動きは鈍ったでしょうが、余り近付きたくはないですね」
「でもこの面子じゃ、近付かない訳にも行かないでしょ。じゃあ頼んだよっ!」
バルタザールの判断は尤もだったが、数少ない一行の前衛を務めるジェラルディンがそう言うより早く駆け出すと、親熊目掛けて長剣を叩き付ける様に振るう。
「あぶな‥‥っ!」
遅れてキリクも駆けつけ、ジェラルディンの斬撃を左腕で受けるブラウンベアがカウンター気味に彼女目掛けて振るわれる右腕を変わりに何とかシールドで受け止めるが、手負いながらもその膂力に数メートル後ろへと飛ばされた。
だが、その瞬間に動きが止ったのを見逃さず三人のウィザードは一斉に魔法を発動させた。
「かの者を焼き尽くせよ、紅蓮の爆炎」
「我が言葉に従え地の精、荒ぶる者に鉄槌を」
「吹っ飛べー!」
三様の呪文に手負いの熊はまた地に倒れ伏し、直後にエルザのファイアートラップが炸裂。
ちなみにユーリユーラスはこの時も歌っていた、他に自ら出来る事を見出せないでいたからそれはまぁしょうがない。
そして倒れるブラウンベアに止めを刺そうと親熊に近付いたが、そんな一行を近付けまいと健気に威嚇する小熊を前にして立ち尽くす。
「‥‥行きましょう、彼らも生きる為に精一杯なんですから。それに私達の目的は茸狩りですからね」
バルタザールの言葉に一行は誰からともなく、静かにその場を後にするのだった。
そう、まだ茸が採れる場所はここ以外にも沢山あるのだから。
●去り行く秋に
日もそろそろ沈もうかと言う頃、ワーフのプラントコントロールで険しい道を辿り獲得した沢山(とは言ってもバルタザールの提言で、全ての茸を収穫したと言う事態にはなっていない事を付け加える)の茸に、ユーリユーラスの提案で森に実る秋の果実を携えて村へ戻って来た。
老人達も帰還する一行に合わせたかの様に、準備を済ませているのを確認すると今までの疲れもどこへやら、早速老人達の手伝いに駆け出した。
「うや? これ、毒キノコだったです?! うぅ〜、綺麗な色してるのに〜」
「案外外面はまともそうに見えるがの、昔にこれを食って死に掛けたもんじゃ」
「なるほど、ってそれはまた」
「経験も大事なんですね‥‥余りしたくはありませんが」
皆が採って来た茸を、自分達も口にするからとそれに詳しい老人達に見て貰う中、ユーリユーラスの収穫して来た茸の中に毒茸があるのを見破る一人のお爺さんは彼女にそう言って豪快に笑い、その話を聞いて知識を得ながらも苦笑を浮かべるユリアルにバルタザール。
そうやって話しながらも彼らの厳しいチェックを通った茸が、調理場になっている家へと運ばれる。
「これは焼いた方が旨いぞぇ」
「それじゃ、これはこちらで焼いて‥‥こっちの鍋はいい感じですね。毒味も兼ねて少し頂きますね」
その調理場でお婆さん達に囲まれながらその手伝いをするキリクがそう言うと、鍋の中で煮立っている茸を煮汁と一緒に一口啜る。
彼を見守るお婆さん達の視線、その中キリクは親指を立てて問題なしと合図すると彼の姉貴分も続いて一口。
「‥‥まだまだ精進しなさい」
「まぁまぁ、こんなものだと思うよ、うん」
エルザの辛口なコメントにうな垂れるキリクを慰めるジェラルディン、そんなやり取りに老婆達が浮かべた笑顔はとても素敵に彼らの目に映った。
それから暫く、去り行く秋を惜しむパーティは始まった。
既に日は落ち、満天の星空の下で開かれる宴に時折吹く風は少し肌寒く冬が近い事を感じさせるも、一行は老人達と楽しい一時を過ごす。
そんな中、初めての依頼を終えたワーフは老人達との会話を楽しみながら星空を見上げて呟いた。
「これからも皆の笑顔を守れるといいです〜♪」
立派な台詞、しかし顔を覆う麻袋がそれを許さずその場に居合わせる皆は暖かいながらも苦笑を浮かべて彼女を見守るのだった。