思いよ走れ、真っ直ぐに

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月28日〜11月03日

リプレイ公開日:2004年11月05日

●オープニング

「彼を助けてあげて下さいっ」
 慌てて冒険者ギルドに駆け込んできた一人の女性、その身形からするとクレリックだろう。
 入ってくるなり、受付嬢が座っているカウンターに駆け寄って机をへし折らんばかりに叩く。
 実際の所、彼女が痛がっているだけで机には何の損傷もなかったが。
 それはさて置き
「ま、まぁ落ち着いて‥‥とりあえずお話を聞かせて下さい、ね」
 慌てる彼女を受付嬢は窘めるも、彼女は口早に依頼について捲くし立てるのだった。
「盗賊団に囚われてた私を助けてくれた人の手助けを手伝って下さい、一目惚れしたんですっ! 私が助けないとっ!!!」
 そう言うクレリックの瞳は紛れもなく恋する乙女のそれだった。

「‥‥それで今回の依頼なんですが‥‥」
「偉い疲れているなぁ」
 喋る事すら億劫そうに、それでも依頼について喋りだそうとする受付嬢にそんな様子を悟って冒険者の一人が茶々を入れる。
「まぁ仕事ですから‥‥で、その内容なんですがここから離れた所に巣を張っている盗賊団にいる、ある男性を連れ戻して欲しいと言う事です」
「ある男性って?」
「前々からその盗賊団は人を攫っては人買いに売ってたりしていて、討伐しようと言う話が上がった直後に依頼人が攫われたそうです。所が牢から助けてくれた方がいたそうで、その彼に一目惚れしてとか‥‥只、肝心の彼は彼女をこっそり逃した後そのまま盗賊団に残っているみたいです。何か訳があってそこに居るのだろうって彼女が言い張って‥‥」
 そして溜息をつく受付嬢。
「そう言う事で、依頼人である彼女の手助けをしてあげて下さい。その際、盗賊団との戦闘は避けられないと思います。森自体を根城にしていますので地の利はあちらにありますが、人数はそう多くない話なので何とか頑張って下さい」
「きっと両親を人質に取られているとか、そう言うので盗賊団に使われているんですよ! そうに違いないから、今度は私が彼の事を助けてあげないとー!」
 恋は盲目、とはよく言ったものである。
 詳細を述べ終わった受付嬢の言葉に続いて、彼女の隣に立って熱弁を振るう依頼人に一同は首を傾げながらその依頼を受けようか悩み始めるのだった。

●今回の参加者

 ea1303 マルティナ・ジェルジンスク(21歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea1922 シーリウス・フローライン(32歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3224 エリス・ロンドフィート(28歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea7440 フェアレティ・スカイハート(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「どう言う理由であれ、悪行が正当化される理由には成り得ぬぞ!」
「生きる為にしただけだ‥‥」
 真面目な表情でフェアレティ・スカイハート(ea7440)が一言言わねば気が済まない、と言った厳しい口調で問い詰めるも、その剣士は表情を全く変えずに呟いた。
「確かにそうでしょうけど、生きる為なら何をしても構わないと言う事はないでしょう?」
「‥‥何も知らないから、そんな甘い事が言える」
「それならそれで構わん、だが真っ当に生きる道を歩まぬと言うなら‥‥いずれお前の前に刃携えた私が立ち塞がる事、覚えておくがいい」
「‥‥そうか」
 エレーナ・コーネフ(ea4847)の問い掛けをあっさり突き放し、シーリウス・フローライン(ea1922)がフェアレティ同様に厳しい口調で言った時、素っ気無い言葉とは裏腹に膨れ上がる剣士の殺気を微かながらに感じて思わず抜剣するシーリウスは、直後振るわれる刃を辛うじて受け止める。
「っ、迅い‥‥」
「次は‥‥ないぞ」
 経験が浅いとは言え、目で追う事が出来なかった剣閃に呻く彼へ剣士が最後通告を告げた時
「やめてーっ!」
 馬を走らせ一行に駆け寄るクリアス・セイファードの叫びが響き渡ったのは。

●引き下がる気なし!
「アリッサ・クーパーと申します。お相手の方には必ず再会させて見せますのでご安心下さい」
「こちらこそよろしくねー!」
 冒険者ギルドにて依頼人と顔を合わせる一行の中、いつもの挨拶に(営業用の)微笑を浮かべ、依頼人であるクリアスに断言するアリッサ・クーパー(ea5810)。
 そんな彼女が硬そうに映ったのか、はたまた地か、気楽にそう言ってアリッサの肩を叩くクリアス。
「盗賊のアジトの場所を教えて貰えませんか? はっきり覚えていないと思いますので、大体で構いませんから」
「っと、そうでした。えーと、こんな感じだったかな‥‥?」
 肩を叩かれた当のアリッサが咳き込む中、エリス・ロンドフィート(ea3224)が本題を切り出すとクリアスは頷き、説明をしながら持っていた紙と筆記用具で森の鳥瞰図らしきものを描き始めた。 

 それから暫く。
「これはまた‥‥」
「‥‥近くの村で情報を集めた方が早いか」
「えー、なんでよっ!」
 それなりに絵を見る目があるフェアレティが絶句すれば、素人目のシーリウスですら思わずそう口にすると、依頼人は異議有りとばかりに叫んだ。
 そんな彼女の叫びに一行は首を横に振る、その紙の上には絵と言うにはおこがましい線と記号の羅列としか見えないものが踊っていた。
 それはさて置き
「貴女が行かれる事でお相手が危険になるかも知れません。ここは我々に任せて頂けないでしょうか?」
 依頼人の身を案じてか、お荷物と判断したかは分からないがクリアスにキャメロットで待っていて欲しいと先程からアリッサが説得を試みるも
「私が行かないと始まりません! 例え依頼を引き受けてくれた貴方方でもこの思いは譲れません!」
 頑固者らしく、何度目かの同じ発言にも負けず譲らない。
「でも物事には順序もありますし、まずお姉様にお兄様宛の手紙を書いてそれを読んで貰ってからでもいいんじゃないですか?」
 そんな頑固者にシフールのマルティナ・ジェルジンスク(ea1303)が彼女の周囲を飛びながら提案すると、ふむと一つ頷いて思案する。
「‥‥それもそうね、うん、そうしましょう。でも近くまでは私も行くよ、それでいいかな?」
 意外な答えに一行は肩を落としながらも、だからこそちょっと肩の荷が下りた様な気がして内心安堵するのだった。

●静なる剣士
 キャメロットを出た一行は、依頼人の案内で盗賊達が蔓延る森近くの村へと到達する。
「それじゃあこれ、お願いしますね」
「確かに預かりました、それでは後はこちらでお待ちに。必ず連れて来ますので」
 クリアスは書き上げた手紙をアリッサに渡すと、彼女はいつもの調子で答え受け取ると依頼人に馬や荷物を預け、歩き出した。
「それでは、手筈通りに」
 フェアレティの手短な言葉に皆は頷くと五人と一人は別れ各々の役割を果たす為、森に向けて駆け出した。

 手紙を携えクリアスから聞いた特徴を元に剣士を探してそれを渡し、彼女の元に連れ戻す役目を担うのは碧髪を靡かせて飛ぶマルティナ。
 森に慣れているものの、視界を阻害する木々といつ襲ってくるか分からない盗賊達の襲撃に備えての警戒で、中々速度を上がらない。
「それでも‥‥届けないといけません」
 マルティナの瞳に宿る決意の光は消えず、ゆっくりとした速度ながら森を飛び回っていた。

「集いし不可視の力よ、眼前に立ちはだかるもの全てを吹き飛ばせ‥‥グラビティーキャノン」
 もう一方の五人は単独行動するマルティナから盗賊団の目を逸らす為、クリアスの情報とエリスのブレスセンサーで掴んだ根城と思しき廃屋をエレーナの高速詠唱を絡めた二発のグラビティーキャノンを初撃に強襲し、然程の間を置かず即座に離脱する。
 いきなりの襲撃に何事かと盗賊達はアジトから離れて行く一行を追撃、そこまでは予定通りではあったが
「くそっ!」
 今はまだ追い着いて来ている数こそ少ないものの、地の利に加えいづれは数でも劣る一行の中、威力こそある攻撃を振るいながら地形を利用して攻撃を避ける盗賊の一人にまたしても木を穿つフェアレティは舌打ちをした。
「落ち着いて下さい、目的は時間稼ぎです。無理をして前に出過ぎない様に」
「分かってはいる、だが」
 一行の中で冒険者としての経験が豊富なアリッサの指示にシーリウスも頷きながら、しかし森に慣れた盗賊達の見えない位置からの攻撃に少なからず浮き足立っていた。
「とにかく、今は出来る事を致しましょう」
 そう言いながらエリスは掛けたバキュームフィールドをまた完成させると、追撃してくる盗賊達の足止め用の罠として適当な場所にそれを設置し、後退するそんな中でシーリウスの耳に微かに木々の枝葉を揺らす音が飛び込んで来る。
「気をつけろ、徐々に増えている」
「そこっ」
「退いて下さい」
 警告する彼の言葉に続いて、先程張ったバキュームフィールドに掛かる盗賊の一人に風の刃を飛ばすエリスと、それに合わせて即座に詠唱を完成させたエレーナの重力の波がそれを打ち据える。
 しかし
「危ない!」
「っ‥」
 状況を冷静に見据えていたアリッサの死角に忍び寄るまた一人の盗賊を、振り返った女騎士が見て叫ぶが身代わりになって彼女を守るには、後半歩届かない。
 アリッサもまたそれを察し、振り下ろされる短剣の一撃を受ける覚悟で眼前に腕を交差させ衝撃に備えたが、それはいつまで経っても来なかった。
「お待たせしましたっ!」
「‥‥‥」
 変わりに耳に飛び込んで来た、何かが倒れる音とマルティナの言葉に目を開けると血に濡れる長刀を持つ青年と、その近くに浮いているシフールの姿が映る。
「戻りましょう、これ以上は危険です」
 ふぅ、と息を整え言うアリッサに皆は頷くまでもなく、森を抜ける為に駆け出した。

「討伐隊の囮と言う可能性がある以上、追撃は危険だ。それより状況を確認しろ」
 指示を下す首領格と思しき男性の冷静な指示に盗賊達が森の中へと姿を消す中
「しかし惜しいな、奴程剣のたつ腕前は早々居まい」
 静かに呟き、彼もまた再び森の中へ消えていった。

●求めるモノ
 やがて森を抜けた一行の視界に、村の門と馬に跨り迎えるクリアスの姿が見える。
 そして彼女が大きく息を吸い込んだのを皆が視認すると次の瞬間、彼女の叫びが木霊する。
『大好きですー!』
(『はや!』)
 そんな事を一行が思いつつ、しかし盗賊達に加担した理由について何も語らない剣士にフェアレティは激昂、それでも冷やかな彼の言葉を端に場は一触即発の様相を呈すそんな中で一行に駆け寄りながら再び彼女が上げる、今度は悲痛な叫び。
 暫くの沈黙、剣士は剣を納めると一行に背を向けて歩き出す。
「貴方はそれでいいんですか、自分が見て来た世界が全てだと思っていませんか? でもそれを変えたくてここに来たんじゃないんですか?」
 皆が黙って見送ろうとする中、マルティナの呟きに彼は足を止めた。
「貴方の過去に何があったかは分かりません、それでもあの手紙を読んでいた時に浮かべた表情は忘れていませんよ」
「知らないな、オレは失くした物を探して旅をしているだけで奴らの所に居るのも飽きた時にお前達が来ただけだ。だからここに来た、そしてこれからも旅を続ける」
 続く彼女の言葉に、剣士は立ち止まったままそう返す。
「それじゃあ、私は貴方について行きます。貴方の失くした物を探すお手伝いがしたいです!」
「だそうですよ。興味があるなら、連れて行ってはどうですか?」
 クリアスの宣言にエリサが後押しすると、剣士は
「‥‥勝手にしろ」
 それだけ言い再び歩き出すと、彼女は満面の笑みを浮かべて馬を走らせ彼の隣に並んで一緒に歩き出し、振り返って「ありがとー」と皆に手を振るクリアス。
「クリアス殿の身につけている紋章‥‥確か有名な貴族だったような気がするが、大丈夫なのだろうか?」
「まぁ、一人を悪の道から救ったと思って良しとしましょう」
「盗賊団の方は処置出来なかったけどね」
 それを見送りながらシーリウスが気付いて呟いたが、彼女達の様子を淡々と見つめながらそんな事は気にせず、とアリッサの言葉に残った課題に苦笑を浮かべるエレーナ。
「何にせよ明日があるさ、まだ私達は生きているのだから」
 初めての依頼を終えて意味ありげに呟くフェアレティの言葉に一行は頷きながら、彼女達が豆粒程になったのを見届けると次なる依頼を受ける為に踵を返すのだった。