【何でもござれ】 〜お手伝いさん募集〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月05日〜11月10日
リプレイ公開日:2004年11月11日
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●オープニング
「やぁ、今日も元気にしているかいお嬢さん?」
「今日も元気ですけど‥‥」
豪華なマントをたなびかせて颯爽と冒険者ギルドの扉を開け放ち現れた一人の魔術師。
微笑む彼の歯は秋晴れの陽光の下でキラリと光る。
いやまぁ、それはどうでも良いとして受付嬢は彼を見るや溜息と一緒に返事を紡ぎ、一瞬の間をおいて続きを言葉にする。
「此処最近、こちらに顔を出してばかりですけど」
「はっは、そんな細かい事を覚えているのか」
「日に何回も来れば当然かと思います‥‥」
アシュド・フォレクシーはそんな彼女の言葉など意に介さず、相変らずマイペースに話を進めそんな彼に受付嬢は頭を抱える。
以前の依頼から時折この冒険者ギルドに顔を出す様になったのだが、此処最近その頻度は日に数度とおかしな位多くなっている。
「何かありました?」
なんとなくだが何かあるのだろうと勘繰って尋ねてみると、彼は顔を真っ赤にしながら受付嬢の手を握ると
「実は(ゴーレムには負けるがそれなりに)美しいキミにお願いが‥‥」
余計だと思う所は小声で呟き、そして真実を告白した。
「以前の依頼からそう間が開いていないのですが、アシュドさんから依頼が来ました」
「ゴーレムの捕獲とか捕獲とか捕獲とかじゃないのか、また?」
彼女の話に一人の冒険者が以前あった依頼を思い出してか『ゴーレムの捕獲』を強調して言うが
「いいえ、彼の家が主催して行うパーティのお手伝いをして来て下さい」
「なんだそれ‥‥」
「近々彼の誕生日を迎えるそうで、そのパーティを開催する様なんですが見込んでいたお手伝いさんの数が確保出来なくなって、こちらにもお鉢が回ってきたんです」
そう言いながら依頼書を執筆する彼女は一拍置いてからまた話し出す。
「ちなみに三食昼寝‥‥あぁ、昼寝はつかないけど寝食を心配する必要はないよ。でも‥‥」
「でも?」
「パーティ当日は貴族の方々を相手に給仕を行って貰いますので、それなりに礼儀作法に長けている方じゃないと大変かもね。まぁ他にも料理作ったりとか掃除するだとか沢山あるだろうけどね」
つらつらと筆を走らせながら依頼の内容を語る彼女の話を聞いて、複雑な表情を浮かべるその場にいる一同。
「ちょっと難しく言い過ぎたかな? まぁ持場についてはアシュドさんと応相談で問題なさそうだから余り難しくて考えなくていいよ。とにかく、暇な人がいたら手伝って欲しい、って事だから宜しくね♪」
言い終わると同時、筆が止まるとカウンターを出てその依頼書を貼り付ける。
その張り出された紙には大きく『貴方も社交界デビューしませんか?』と書かれていたり。
‥‥主旨違うでしょ、と内心突っ込む冒険者達であった。
余談だが、最近アシュドが頻繁に冒険者ギルドに顔を出したり顔を真っ赤にしてその依頼を切り出したのには訳があって、御付のルルイエがいないと恥ずかしがり屋になるらしく(此処最近、旅に出ているらしい)中々切り出せなかったとの事であるが、それを知るのは受付嬢だけである。
「ずーっとあれなら可愛いんだけどなー」
依頼の内容を聞き終わった後にそんな話を聞いて、彼の後姿を見送りながら彼女はそう呟いたとか。
なんだかんだで気になっている様であるが、そんな事は当然ながら冒険者達は知る由もなし。
●リプレイ本文
「あわわ。に、逃げてもいいですか?」
「何もそこまで、まずは落ち着いて」
落ち着かないカノ・ジヨ(ea6914)の様子に苦笑を浮かべ宥めるリカルド・シャーウッド(ea2198)を見て、微笑を浮かべてアシュド・フォレクシーは一行に簡単な説明を始める。
「面接とは言っても希望を聞いて、実地を交えて簡単に確認させて貰うだけだから余り堅苦しくなる必要はない。気楽に色々と言ってくれて構わない」
「それでは‥‥ノース・ウィルと申します、此度はよろしくお願い致します。私は当日、救護の担当をしたいと思っております」
「あたしの名は梁・明峰(リャン・ミンフォウ)、武道家だね。で、早速だけど警護役を希望する、気にいらなかったら門番でも良いよ」
立ち上がるや簡潔に、だが礼儀正しく喋り出すノース・ウィル(ea2269)と、ざっくばらんに梁明峰(ea8234)が話し出すと、それを皮切りに他の皆も希望を伝え始めた。
「私は何でも出来ると信じて‥‥ゴメンナサイ、小間使いにでも使って下さい」
夕刻時の鴉が鳴く頃、実地の最後に梁とアシュドの御付を賭けて(?)模擬戦闘に望んだ市川綾奈(ea0680)だったが、彼女の的確な攻撃の前に膝を屈して小さく呟いた。
「まぁ、少しは近い所を検討させて貰う事にしよう」
「あ、でも因みに夜のお相手とかはしませんので悪しからずにー♪」
「それは大丈夫だ」
苦笑を浮かべるアシュドの言葉に早々に立ち直って市川が冗談を言うも、平静に受け流すアシュド、そんな中アルラウネ・ハルバード(ea5981)が問い掛ける。
「まさかとは思うけれどアレ、お客様に見せたりしないわよね? ゴーレムとかゴーレムとかゴーレムとか。アシュド君にとっては宝物かも知れないけど、一般人にとってはモンスターなのだから絶対駄目よ」
「その点は大丈夫だ、まだ人前で見せるにはリスクが高過ぎる」
「ならいいけど‥‥ま、今回もよろしくね」
彼について予備知識のある彼女が予め釘を刺すが、真面目な表情で断言する彼を見て彼女は頷くと改めてアシュドと挨拶を交わす。
「パーティかぁ〜。どんな人が来て、どんなパーティになるんだろうね☆」
そんな事で取り敢えず全員の配置が決まる中、シャロン・リーンハルト(ea0387)が楽しそうに言うが
「この様なパーティに参加するのが初めての者も多いかと思う、浮かれる気持ちも分かるが相手に失礼があってはならないから、礼儀作法の基礎等が分からない者には付焼刃でもある程度は覚えて貰いたいし、準備する事も沢山あるので君達には頑張って貰うよ」
微笑みながらも厳しいアシュドの言葉にそれでも一行の覚悟は決まっており、皆は一様に力強く頷いた。
そして翌日の朝早くから早速準備のお手伝いに加わる一行。
「急いで下さい〜、夕方頃までにこちらの部屋の内装を始めたいとの事でしたので、迅速に掃除を終わらせましょう。他にもお客様が泊まる部屋の掃除もありますしね」
そう言って手隙な冒険者達にアシュド家のメイド数人に指示を出していたのはリース・マナトゥース(ea1390)、実地の際にメイド長といい勝負を繰り広げた彼女の腕を見込んでの配置に、彼女も孤児院の手伝いで培った腕を存分に振るっていた。
しかし張り切る者も居れば、その逆もまた然り。
(「それにしても‥‥超絶美少女シフールのあたしに小間使いの真似事をさせるなんて‥‥腹立つわね」)
内心ぶつくさ言うのはプリム・リアーナ(ea8202)、依頼人から小間使いと任命された以上やる他ないのだが。
「それでは頑張りましょう!」
リースの掛け声に、はと我に返った彼女は一人慌てながらも掃除を開始するのだった。
そのもう一方では、シャロンがフライングブルームを使って屋敷から出る不要なゴミや商人が運んできた荷物の運搬に精を出す。
「力仕事は苦手だけど、これがあれば重いものでも運べるから便利だよね〜☆」
「いいな〜」
楽しそうに仕事をする彼女の様子を手伝いながらも羨ましそうに見るのは市川。
「よーし、この調子で頑張っちゃおー!」
「元気があっていいな、じゃあまたこれ頼むわ」
「サー! 了解であります!」
張り切るシフールの元にまた新たな商人が持って来た一つの大きな荷箱を見て、市川が明るく返すと荷を箒に括り付け、シャロンは再び箒を従えて屋敷へと飛翔を始めた。
そんな様々な仕事をしながらも、合間を見ては各々アシュドから礼儀作法の基礎について学んだりと慌しい中、時間はあっと言う間に過ぎてパーティ当日を迎えるのだった。
「うわ‥‥」
いざ当日、少し遅れて受付前に駆けつけるカノはそこに居並ぶ人の多さと独特の雰囲気に圧倒される。
人見知りする彼女であればそれは尚更の事だろう、貴族とは言えまだ若いアシュド一人の為に着飾った人が何十人来ている事か。
「ふふ、これ位は居ないとやりがいがないわ」
その光景に青褪める彼女の隣にいつの間にか立って平然と、むしろやる気満々に呟くのはサリエル・ュリウス(ea0999)。
道化師として(多分)名が通っている彼女はパーティの余興にと大道芸を見せる事になっているが、彼女が目指す高みはこんな所で満足はしない。
震えるカノとそんな己が野望に浸るサリエルであったが
「そろそろ始まるからお二人とも持ち場について下さいね」
受付で人を捌きながらも二人に呼び掛ける冒険者ギルドの受付嬢の言葉で我に返ると、依頼を全うする為に動き出した。
「おーい、そっちはどうだ!」
「もう出来ますよ、っと」
慌しいかと思いきや意外に平穏なのは厨房、貴族はガツガツしないのである。
良く考えてみれば至極当然、そう考えながらアシュドお抱え料理長の問い掛けに一つの皿に盛付けを終わらせたリカルドは料理長の味見を待つ。
「‥‥よし、中々やるな」
「いえ、まだまだですよ。僕の方こそ色々と勉強になっています」
「まぁいいさ。取り敢えずこの調子で今日一杯頼むわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
物腰柔らかく対応する彼に腕は勿論、性根も気に入った料理長は頭を下げるリカルドの肩を軽く叩くと再び調理に戻り、彼がその背中を見送ると同時に厨房に入ってきたカノへと出来たばかりの料理の皿を手渡した。
「よろしくお願いしますね」
「はいっ!」
そして今度は彼女の背中を見送りながら
「ダンスパーティの埋め合わせ、どうしよう」
とある女性の顔を思い出し、今更ながら誘いを断ってしまった申し訳なさに顔を歪めるも職人肌な彼は今だけその想いを断ち切ると、今度は野菜の山へ向かうのだった。
カノがリカルドから託された料理を持って会場に着くと、アシュドが座るテーブルの料理が丁度尽きている事に気付き、慌てて持って行くと
「‥‥この格好で警備しなければならないのか?」
「あの格好だとここでは目立つからな。だが良く似合っているじゃないか」
彼の近くに立つ梁は借物の礼服に戸惑いながら、だがアシュドの感想に満更でもなさそうだった。
「今の所、大丈夫ですか?」
「まぁ問題ないね」
そんなやり取りの間にテーブルへ料理を置き、小声でアシュドに尋ねると彼は周囲に目線を彷徨わせたのでカノも辺りを見回す。
「それじゃ、ご要望にお答えして♪」
(「ふふん、まだまだこの程度のステージじゃ緊張も出来ん。私はもっと上を行く道化師になるんだ」)
竪琴を鳴らすシャロンがある貴族のリクエストで奏でる、ややアップテンポな演奏を聞きながらサリエルは野心を胸に、だが表情は笑顔のままで小さな舞台にも拘らずジャグリングを披露して拍手を受ければ、その傍らでは
「社交界は紳士淑女たれ、ではないのか?」
雑談から揉めそうになる二人の若い男性貴族を見て仲裁に入るノース、いつの間にか箒を片手に怯む事無く二人を見据え、やがて素直に詫びる彼らに彼女が笑顔で応え
「取り敢えず落ち着いて、飲物でも如何です?」
その場の雰囲気を察して飲物を差出すアルラウネに、彼らもやっと笑顔で応える。
「あ、やっと見つけましたわ。先程やって頂いた占い、私の友達もやってみたいと仰られたのでお連れしましたけど、今大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ、少しお待ち下さい」
物静かに尋ねる婦人の要望に頷き、はしゃぐ婦人達の様子に彼女は笑顔を浮かべ占いの準備を始める。
そんな彼女達に貴族達の目線が注がれる中、小間使いの市川とプリムはいつもの服装で人の隙間を縫ってはテーブルにある料理を少しずつ抓んでは、徘徊していたり。
「不審人物が居ないか見回りをしている訳で、別に仕事をサボってる訳じゃナイわよ?」
「そうそう、それに万が一料理に毒が入ってたら大変だからね」
そう呟いた次の瞬間、市川の視界に突然現れた貴族を避ける事が出来ずにバランスを崩すと、手近なテーブルを盛大にひっくり返すのだった。
「‥‥よくやる」
「い、行って来ますっ!」
その光景を見て顔を伏せるアシュドに、慌てて現場へ駆け出すカノであった。
それから最終日まで何事もなく仕事をこなした一行は、アシュドの誘いで身内だけの小さなパーティへ招待される。
「君達の力添えもあったから、パーティも無事に終える事が出来たよ」
「そう言って貰えるとこちらとしても嬉しいわね。あ、そうだ」
アシュドの感謝にアルラウネが付焼刃の礼儀作法で一礼すると、何かを思い出して彼に身を寄せるとその頬に軽く口付けをした。
「遅くなったけど誕生日プレゼント、おめでとう」
アルラウネの行動に固まるアシュド、そんな彼に
「ゴーレムじゃないけどね」
彼女の言葉はその場にいた全員が笑い、そして宴の幕は閉じるのであった。