ハウリングケイブ
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月30日〜08月04日
リプレイ公開日:2004年08月04日
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●オープニング
「最近暑いわねぇ〜」
上着の襟をパタパタさせながら、受付のお姉さんがだるそうに呟く。
「こんな時は涼みに行きたい‥‥なんて思わない? そんな君達にうってつけの依頼があるんだけど、どうかな?」
キャメロットから少し離れた所にある村、その近くには涼気漂う鍾乳洞がある。
この時期になると、その涼しさを求めに人が押し寄せる避暑をするのに持って来いの場所でもあったりする。
が最近、どこから入り込んだのか鍾乳洞内部の奥でゴブリン達が住み着いている事に様子を見に行った村人が発見した。
このままでは避暑を目当てに来る人達を内部に通す事が出来ないため、数少ない収入源の一つを失ってしまう。
そうなる前に、とその村の長が冒険者ギルドに依頼をしてきた。
「ゴブリンの数は多くないみたいなんだけど、鍾乳洞を開放する日まで余り時間がないと言う話なので内部での戦闘は止めてくれって言われています。鍾乳石が傷付くかもしれないし、ゴブリンを殺しちゃったりしたら汚れちゃうでしょ? それは何とか避けてくれ、って。」
彼女の話を聞いて少し難しそうな表情を浮かべる君達に、一つ思い出したかの様に彼女は再び喋り出した。
「そうそう、そのゴブリン達はどうやら鍾乳洞を管理している人も知らない入り口から入ったみたいなの。唯一の入り口は普段柵を立てているんだけど、壊された形跡はなかったって。だとすると何処か、別の所から入ってきたって考えられるよね? ゴブリン達が鍾乳洞の奥にいる事を考えると、ゴブリン達が見つけた別の入り口を見つけてそこに誘導した方が事が簡単に済むかもね」
それでもまだ少し悩んでいる君達を優柔不断と見てか、彼女は溜息を一つついて最後に一言だけ言った。
「困っている村の人達の平和を取り戻したら、いの一番で涼んでもいいんだって! 暑い夏にしか出来ない、一番の贅沢だよ!」
‥‥止めと言うには、少し微妙ではある。
が、それがあってもなくても最後に決めるのは君達である。
●リプレイ本文
「紅月旅団のニル・ルーネーメンダー‥ニルって呼んで下さいね♪」
村に着いて村長に会うと自らの通り名だろうか、を紹介をするニック・ウォルフ(ea2767)に村長は
「これが鍾乳洞の地図です、何卒よろしくお願いします」
頷くと一年前の地図と、わざわざ準備してくれていたのか一日分の食料を彼に手渡した。
「任せて下さい。必ずゴブリンを鍾乳洞から追い出しますよ」
容姿とは裏腹に、彼の力強い言葉を聞いて村長は表情を和らげる。
「涼める様な場所を、ゴブリンに独占させる事は出来ません。ええ‥人間だって暑さに苦しんでるから」
そんな村長の表情を見て決意したのは双海涼(ea0850)。
彼女の言葉に、村長は改めて依頼を受けてくれた一同に深く礼をした。
「また若者ばかりの依頼か、私も間が悪いな」
それから暫く、鍾乳洞に向かう一同を改めて見回してブラッフォード・ブラフォード(ea3418)は何気なく呟く。
「そんな事ないですよ、人生の先輩として色々教えて下さいね」
「よろしくお願いしますね、ブラッフォードお兄ちゃん♪」
そんな彼の言葉を受けて、でも明るく言うミカエル・クライム(ea4675)とチカ・ニシムラ(ea1128)に
「お兄ちゃん、と言われる年ではないんだがな‥よろしく頼む」
苦笑いを浮かべるブラッフォードだった。
現地に着くや、中空を舞い鍾乳洞の外の様子を伺っているのはシフールのラギシエル・ラフ(ea5469)。
「結構大変だなぁ」
独り言を言いながらも地下にある鍾乳洞、その地上部分の様子を伺う為に飛行を続けるラギシエルに、皆が待っている出入口とは違う出入口が目に止まる。
「ここから入ったのか?」
その場に浮遊しながら腕組みをして呟くと他に出入口がないか確認する為、再び目を凝らすのだった。
ラギシエルは戻るなり見つけた一つの新たな出入口の話をした、その後一同は鍾乳洞に足を踏み入れる。
「これで外への誘導はし易くなりますね。お疲れ様です、ラギシエルお兄ちゃん♪」
今はニックの肩で休んでいるラギシエルに向けてチカが微笑み、労いの言葉をかける。
彼女の言葉にラギシエルも笑顔で返す。
そんなやり取りの中、人々が涼む場所であろう広場に一同が出るとブラッフォードはニックが持つランタンを見やる。
「煙が流れておるな、出入口があるのは間違いなさそうだ」
彼の言葉の通りに煙は確かにたなびいており、それはラギシエルが見つけた出入口のある方角へと流れていた。
チカも続いてエアインワードを唱えようとするも
「見て来れば済む、出入口は私が確認をしてくるからゴブリンの位置確認をお願いする」
涼の一言に詠唱を止めると改めてブレスセンサーの詠唱を始める、彼女はその様子を見届けてから静かにその場からもう一つの出入口がある方へと向かった。
直後、完成するブレスセンサーはその効果を完全に発揮する。
「地図で示された位置より少し離れた場所に‥この大きさだとゴブリンに間違いないと思いますが、6つ‥纏まっています」
「離れた場所? 地図を見る限りだと行き止まり、だよなぁ‥」
「行って見ない事には分からないな、涼殿が戻ってきたら早速行ってみる事にしよう」
彼らの言葉に冷静に判断するブラッフォード、彼の提案にその場にいる一同は頷いた。
それから少し、戻ってきた涼の話では確かにもう一つの出入口があり、そしてその外には平らな荒地が広がっていたと言う。
「そこまで誘き出せれば問題なく戦えそうです」
彼女の話を聞いた後、今度はゴブリン達がいると思しき部屋に向かうそんな彼らの耳に、何かを砕く音が飛び込んできた。
「なんでしょう?」
ミカエルが首を傾げて呟く中、ラギシエルは音の正体を判別すべくサウンドワードの呪文を唱える。
程無くしてそれは完成し
「ここから‥100mも離れてない、でもやはり地図のポイントから少し離れた場所で鍾乳洞の壁面を掘っている様だ」
呟く彼の言葉に、一同は見付からない様にこっそり隠れながら様子を伺うとそこにはゴブリン達が6匹、何故か壁を掘り進めている姿が目に映った。
「鍾乳石を傷つけている訳じゃなさそうですけど、早く外に誘い出した方がいいですね」
「6匹纏まっているんじゃあ、チャームで1匹だけ誘き寄せて外に誘導する手はまだるっこしいな」
「それじゃあ挑発しかないよね。一番行って来ますー」
チカの言葉にラギシエルは事前に練っていたアイデアに自らダメ出しをしたその時、ニックがそう言うとゴブリン達の前に躍り出る。
響く足音に何事かと振り返るゴブリン達にニックは
「すっごく美味しい‥このチーズ♪」
と言い、チーズを口にして幸せそうな表情を浮かべた。
ゴブリンの一匹はそれに釣られ近寄ろうとするも、彼はチーズが入っていた空袋をそのゴブリンに投げつけて
「欲しければ力ずくで奪ってごらん」
言うなりニヤリと笑う彼に地団太を踏むゴブリン、その様子を見て隠れていた5人もゴブリン達の前に姿を現して暴言をぶつける。
「アンタ達なんて虫ケラ以下ね!」
「落ち着け‥ゴブリンは馬鹿で通っておるから、言葉が通じるか分からんぞ」
ミカエルにブラッフォードの言葉が理解出来たかは分からないが馬鹿にされている事だけは察し、ゴブリン達は叫び「馬鹿にするな!」と言わんばかりに6人目掛けて走り出す。
「よし‥じゃあ私に着いて来て」
先頭を切って駆け出す涼の言葉に一同は頷きだけ返し、彼女の後を追った。
「火炎を纏い、我争いの渦中へといざ飛翔せん!」
彼らの挑発に乗り、まんまと地上に誘き出されるゴブリン達の出鼻を挫いたのはミカエルが予め詠唱していたファイアーバード。
6匹が外に飛び出してきた事を確認するや炎を纏い天空に舞っていたミカエルは突撃し、瞬時に4匹のゴブリンが吹き飛ばす。
その光景を見て残った2匹は慌て再び鍾乳洞に逃げ込もうとするが、出入口の影に潜んでいた涼が唯一の逃げ道の前に立ちはだかり、それを許さなかった。
「ここにはもう、立ち入る事は許しません」
彼女の静かな口調とは裏腹に背後から立ち上る怒気を察してか、逃げる事を諦めてニックに踊りかかるも、またしてもそれは阻まれる。
ニックの前に躍り出るブラッフォード、なんとかその攻撃を受け流す。
「外に出れば問題はない。全力で相手しよう」
そして闘気を刃に纏わせて2匹と対峙する、その隙にとニックは後ろに跳び退りダーツを投げつける。
それは、狙い過たずブラッフォードと対峙するゴブリンの一匹の胸に吸い込まれると咆哮を上げさせた。
「遅れは取りませんよ」
呟き周囲を見回すニックの目に、ミカエルのファイアーバードを喰らい転倒していたゴブリン達もよろよろと立ち上がる様子が映るが、それ以上の行動はやはり許されなかった。
「雷よ、我が声に従い、目の前の敵を撃て!ライトニングサンダーボルト!」
涼の背後でチカの詠唱が完成すると、途端に迸るのは雷撃の束。
それは起き上がろうとしていたゴブリンの2匹をまとめて貫いた。
戦いはミカエルの初撃で既に決していた。
完全に戦闘の主導権を奪われたゴブリン達は、その後ラギシエルのスリープで眠らされた挙句に涼にしこたま殴られたり、ブラッフォードの闘気が宿るロングソードで刻まれたりと弱い者虐めにも見受けられる一方的さに、ゴブリン達も遂には脱兎の如く逃走を始める。
逃げ出すゴブリン達の背中をゆっくりと見送りながら、彼らは依頼を無事成功させたのだと理解した。
戦い終わって再び鍾乳洞へと足を運ぶ一同、報酬の一部である「涼」を味わう為に。
「戦ったら暑くなっちゃったよ〜、早く涼む〜」
チカは駆け出して、いの一番に鍾乳洞に入ると一陣の風が舞い込んだ。
風が運んで来た爽やかな涼気が戦いの熱気で火照った体を芯から冷やしてくれる。
「う〜ん、涼しいやね〜」
「兄上と一緒に来たかったな‥」
ラギシエルは涼しい風を堪能し、ミカエルはこの場にいない兄のルシフェルに想いを馳せる。
そして一同は広場まで戻ると各々、戦いの疲れを癒す為流れてくる風に身を委ねた。
「前に涼みにいった倉庫整理は結局あまり涼めなかったから、今回はゆっくり涼むよ♪」
「倉庫整理で涼むって‥でも自然にこんな所が出来るなんて、ちょっと不思議だよね」
チカの言葉にミカエルは苦笑を浮かべ、ふと思いついた事を口にする、それに涼が
「長い時間を経て出来たのは間違いないから‥無事に守れて良かった」
難しい事は言わず、思った事をそのまま口にする。
一同がその言葉に頷くそんな時、笛の音が広場に響き渡った。
それはラギシエルが奏でる笛の音、宙より舞い降りる静かな旋律に一同が耳を傾ける中、ニックは他の出入口がないか見回りをして戻ってきたブラッフォードに村長から貰った弁当の一つを勧めつつ、自分もそれを抓みながら
「夏の間だけここに住んじゃおうかな‥」
呟く、途端旋律鳴り響く広間に一同の笑い声が重なる。
皆が皆、彼と同じ事を考えていたから。
そして暫くの間、笛の音と笑い声だけが涼しい風が流れる鍾乳洞に木霊したのだった。