見習い鍛冶師の憂鬱

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月09日〜11月15日

リプレイ公開日:2004年11月16日

●オープニング

「はぁ〜あ、どうしたもんかね一体」
 とある武器屋の一室にある工房で頭を抱える少女が一人、溜息をつきながら今出来たばかりの武器を見てぼやく。
「どうしました、お嬢‥‥ってまたですか」
 ちょうどそのとき工房に入ってきた一人の青年が何事かと尋ね、彼女の近くに転がる物を見て嘆息を漏らす。
 武器とそれをそう呼ぶには少しばかり形がおかしく、その剣の所々にスパイクの様な棘があちこちに生えている。
 色々な意味でやばそうな武器だが、鞘に収められない以上それは商品として店で売る事は出来ない。
「いつもの事、と言えばそれまでですが流石にこうも続けてだと親父殿も怒りますぜ」
「分かっている」
 彼の説教にふいと顔を背ける彼女、そんな様子に呆れながら彼はその剣を振るって再び彼女に話しかける。
「まぁ、材料が悪いのもあるかも知れん。お嬢が武器を作るのに使っている鉄は古くなった剣とかをかき集めて溶かし直し、鉄にしているから不純物が多く、その影響でこんな物ばかり出来るのかもな」
 振るった直後、その剣は真ん中からボロっと崩れる様に折れる。
「‥‥それだ」
「え?」
「それ以外にこんな物になってしまう理由が考えられない! 親父ばかりいつも新しい鉱石を使ってトンテンカンテン‥‥僕だって頑張っているんだから少し位分けろって!」
 崩れ落ちる武器を見ながら耳にした彼の言葉に今更ながらそうなのかも知れない、と感じると営業中の販売所にまで響く様な大きな声で叫び、直後に考え込む。
「掘り出したばかりの鉱石か、何処か知らないか?」
「知らない訳じゃないですが親父殿に‥‥」
 彼女に尋ねられ言い澱む青年だったが、真っ直ぐな瞳で見つめられ紡ごうとした言葉が止まる。
「‥‥分かりました、未調査ですがこれから発掘しようと言う所を一箇所知っています。そこで鉱石を取って来て貰う様、冒険者ギルドに依頼しましょう」
「こっそりやるんじゃないの?」
 頭を掻きながら観念して言う彼に、不服そうな声を上げるお嬢様。
「こっそりやるとしたら我々だけになりますが、それでも構いませんか? どんな危険があるか全く分かりませんし、お嬢をそんな目に合わせる訳には行きません。それならいっそ正直に親父殿に話して、この事をお願いすべきですぜ」
 言って彼女を見やると、ぐうの音も出ない様子だった。
「そうだな、確かにお前の言う通りだ‥‥分かった、親父には僕から言ってくる。その後の冒険者ギルドへの手配は任せた。但し、現場には僕も行くからな!」
 一瞬の沈黙、少しの間を置いて彼女は決断してそう青年に言うと踵を返して工房を後にするのだった。

●今回の参加者

 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1865 スプリット・シャトー(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2261 龍深 冬十郎(40歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2998 鳴滝 静慈(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3418 ブラッフォード・ブラフォード(37歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 ea5868 オリバー・ハンセン(34歳・♂・ウィザード・ドワーフ・フランク王国)
 ea8015 ルース・アトレリア(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 冒険者ギルドにてこの依頼が貼り出されて早々、一人のドワーフがそれを見るやカウンターに座る受付嬢に声を掛ける。
「鉄鉱石の採掘依頼ですか、私も鍛冶師として少々興味がありますので是非同行させて下さい」
 ブラッフォード・ブラフォード(ea3418)の言葉に彼女は微笑むと
「はいー、ありがとうございます。頑張って下さいね」
 そう言って帳簿の一人目に彼の名前を記した。

「娘さんの事は俺達が責任を持って預からせて貰う。心配する気持ちは解るが、信用しては貰えないか?」
 それから数日後、無事に依頼を実行出来る人数が集まると一行は揃って依頼人がいるゼズトース武具店に向かい、まずは依頼人の父親を説得しようと鳴滝静慈(ea2998)が店頭に立っている彼に話し掛けたが
「あ、勝手に連れてけ。いきなりの事ですこしゃ怒っちゃいるが、やる気がある分には全然構わん。色々と教えてやってくれ」
「分かりました、それで坑道内での注意等は以前の依頼で聞いたのが、採掘に関しては素人なので鉱山周辺の事も含め、事前に教えて欲しい」
 ぶっきらぼうに言いながらも、頭を下げる依頼人の父親にスプリット・シャトー(ea1865)はその気持ちを汲んで頷きながらも肝心の事について尋ねた。
「ま、そりゃ当然だな。おいカツース、ついて行ってやんな! お前も共犯だからな。それとしっかり新しい鉱山の調査もして来いよ!」
「分かりました、説明は道中でもよろしいか?」
 親父の檄に反応してカツースと呼ばれた青年は苦笑と共に返事をすると、一行が頷くのを見届けてから頼まれた採掘道具を揃える為にその場を後にする。
「腕はかなりのものなんだが、余り愛想が良くなくてな。それと他にも迷惑を掛けるかも知れんが二人の事をよろしく頼む」
「その為にオレ達がいるんだから大丈夫だ」
「その通りです、お任せ下さい」
 なんだかんだ言っても心配している親父に、鳴滝と深螺藤咲(ea8218)は東西の血が混じった独特な顔立ちに温和な表情を浮かべ、彼の言葉に賛同して断言した。

 そして道中、借りた採掘道具にそれと鉱石を運ぶ荷馬を連れた一行は日が沈むと街道の端にキャンプを張って夜を過ごす。
 夕食も終えて、焚き火を囲んで依頼人のリエラ・ゼズトースと談話に励むそんな一時
「今までにない武器を作りたいか‥‥つまりは発展した物を作りたいって事だよな、でもそれなら基本の普通の物が出来ないといけないんじゃないか? 剣の技だって鍛冶だってなんであれ、それは同じだと思うんだが」
「それに解っているとは思うが‥‥どんなに優れた武器を作れる様になったとしても、それに見合った使い手が居なければ意味は無いし、その逆も然りだ。優秀な鍛冶師を目指すなら、自らの技術も去る事ながら、使い手の事も疎かにしない様にな」
「それは勿論! だから『今までにない武器を作りたい』って言っても、今すぐに出来る話じゃないのは自分でも理解しているし、でも朧げでも目標は決めておきたいからな」
「なるほどね」
 彼女が今回の依頼の主旨と夢を語ると、それに乗ってきたのはルース・アトレリア(ea8015)と鳴滝が各々に感じた事を口にすると、彼女は頷く。
 特にルースの言葉にはまだ駆け出し冒険者の感が否めないながらも、だからこその発言に強く頷いて自らの進む道を言うと彼も頷き返す。
「己の目で様々な物を見、様々な事を学ぶ事だ。この経験も必ず後の役に立つだろう。俺が魔法を学んだのも、何れ最高の剣を作る上で必要だと思ったからだ」
「そう、だね。よし‥‥僕も頑張るんでよろしく頼む!」
 ルースに続いてのオリバー・ハンセン(ea5868)の話にも素直に頷き、立ち上がっては皆に改めて頭を下げた。
「まぁ程々にな、お嬢。お嬢がそうかしこまっている時は大抵、何らかのトラブルが起きるからな」
「余計な事を言うな!」
 カツースが溜息交じりにそう呟くと、リエラは両手を挙げて猛抗議すれば一行から上がる笑い声に星は瞬くだけで、そして夜は更けていった。


 翌朝、目的の場所がある山に着くと、カツースと僅かながらの知識でもそれを補佐するオリバーの案内で一行は、口を開けて待っている行動の入り口へと無事辿り着いた。
「鉱山に入るのも久し振りです、良い鉱石が見つかるといいですね」
 ブラッフォードの言葉に、彼女自身も鉱山に来るのは初めてでいささか緊張した面持ちながらも返事の代わりに一つだけ頷くと、そんな彼女の気持ちを察してかハンナ・プラトー(ea0606)が紛らわすかの様に彼女の頭を撫でながら
「大丈夫大丈夫、私達がいるからね〜。と言う事で早速張り切って掘ろー! でも、掘るって言っても、別なもの想像しちゃ駄目だぞー」
「‥‥行くとするか」
「うわ、寂しいなー。もうちょっと突っ込んでくれるとか、乗って貰わないと!」
 冗談を言ったりするも、龍深冬十郎(ea2261)のあっさりした対応に頬を膨らませると直後に起こるのは皆の笑い。
 リエラもまた同様に笑っているのを見てハンナは微笑むと
「そうそう、それ位気楽に行きましょう」
 彼女の手を握って、鉱山へと歩を進め始めた。

 それから一行はゼズトース家から借りたスコップや予め準備してくれた荷車を持って、意外に広い坑道へ入ると早速採掘作業へと取り掛かる。
「くっ、鉱山夫達の苦労が少し身に染みるな‥‥思ったよりも衝撃が身体に響く」
「全くだ。思っていた以上に岩盤は堅くて安心こそすれ、これ程に重労働だとは思わなかった」
「コラー、弱音を吐くな男の子! 私だって頑張っているんだから頑張れー!」
 戦士系が中心になってカツースの指示の元で採掘を行いながらも弱音を吐く鳴滝とルースに檄を飛ばすハンナだったが、それでも慣れない者が多いだけあって難航を極めた。
「それでも少しずつ、やっていく事にしよう。まだ時間はあるのだからな」
 そんな肉体労働に励む彼らをオリバーは手伝いつつも、ヒートハンドを唱えて鉄鉱石を溶解させ、その純度をカツースに調べて貰いながら良い鉄鉱石が出る地層を調べたりと、忙しそうに辺りを駆け回っていた。
 だがそんな中で龍深は
「自分が使うもんだろ。自分の眼で見て、これなら良い物が作れるって石を選んでみろよ、それで納得出来るモンが出来なきゃマダマダって事なんだろさ」
 いささか手持ち無沙汰にしているリエラに、六尺棒の両端に垂らしたロープで毛布を括った簡易的な天秤から掘り出したばかりの鉄鉱石を出すと、目の前に広げ品定めをさせていた。
 依頼人に対してその行動は厳しいと言えば厳しいが、彼の言う事も確かに事実。
「それもそうか‥‥採掘作業は任せているから、これ位は自分でやってみるよ」
 彼女もまた彼が言わんとする真意に気付き、熱心に鉄鉱石を鑑定し始める。
 そんな彼らの行動に気付いたオリバーとカツースが静かに見守っていた時、ブラッフォードが坑道の奥から戻ってくると作業中の一行に呼び掛けた。
「暫く進んだ所にぶよぶよとしたものが沢山いましたよ、目視出来るだけでも私達だけでは対応出来ない程の数なので後日、改めて部隊を編成するなりして完全に駆逐しない限り此処の坑道は使い物にならないと思います」
「分かった、後で親方に相談してみる事にする‥‥となると、此処を中心に今日一杯採掘する事にするか」
 ブラッフォードの発言にカツースは首を傾げながらそう判断して、再び作業に取り掛かろうとした時だった。
「危ないっ、カツース殿!」
 飛来する土の塊に気付いたブラッフォードが、手荒ながらも突き飛ばして何とかそれを回避すると、着弾したそれはぶよぶよと蠢き出す。
「確かあれは‥‥クレイジェルだな」
 倒れながらもそれを見て、冷静に呟くカツースより早く一行は予め決めていたポジションに着くと戦闘を始めた。
「あれだけ大見得を切った手前、無事に送り届ねばならんのでな‥‥邪魔をするな!」
 鳴滝の怒号と突き出される拳に目に止まった一体を打ち据え、その形を崩す。
「やらせません」
 そしてリエラの近くにいる一匹の前に立つ深螺は、スプリットが放つ風の刃が飛び交う中で静かに日本刀を抜くと、恐れる事無くクレイジェル目掛けて飛び掛った。


「日本刀は鉱石の違いを見極める事から始め、芯棒と刀身には別の鉱石を使うと聞いた事が有りますよ」
「それは初耳だが刀といやぁ、武士にとってそれは只の武器じゃない。己の心情が現れる‥‥一心同体になればこそ、思う存分戦える。だから刀の事を『武士の魂』と呼ぶんじゃねぇか、あんたにはそう呼べるだけの刀を作って貰いてぇな」
 あれから暫く、一行は無事に必要な鉱石を確保するとゼズトース武具店へと舞い戻り、幾許か時間に余裕がある事から一行はリエラに武器について、色々な事を語っていた。
 志士に浪人、二人の刀使いの言葉に頷くリエラに今度はスプリットとブラッフォードが落ち着いた声音で語り掛ける。
「鍛冶の経験はないが、草木染めに挑戦した事はあるよ。色々な植物で試して思い通りの色が出せた時は嬉しかったな。それと鍛冶も同じで、今ある材料で良い物を作る為の工夫をするのも大切だと思うよ」
「その通りです、それと古鉄を鍛える事の意味を良く考えて下さい」
「‥‥そうだね、もっと色々と考えてみないと親父には追いつけそうにないね」
「武器を作るのも大変だろうけどさ、頑張ってね。良い剣が出来たら、買いに行くからね」
「ありがと、いつになるか分からないけどその日が来たらこちらこそよろしくな!」
 二人の言葉に少し落ち込んだリエラだったが、ハンナの激励に彼女は笑顔を浮かべると一行を見回して感謝の変わりに微笑むのだった。