見えない暗殺者
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月14日〜11月21日
リプレイ公開日:2004年11月22日
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●オープニング
とある屋敷の一室。
ベッドに横たわる老人が咳き込み、その音だけが静かに響き渡る。
やがて咳が治まると老人は近くの机に置いてある鈴を何度か鳴らした。
それから暫く、ドアを開ける音の後に一人の青年が入ってくるのを老人が確認すると身を起こして静かに語り出す。
「つい最近、この屋敷に来たにも拘らずお前さんはよくやってくれるの」
「そんな事はありませんよ」
老人のいきなりの礼に、青年は落ち着いて返す。
「年を取るのは嫌なものだ、最近では日に日に体が弱っている事も実感出来る‥‥」
呟く老人に、青年は前々から思っていた疑問を投げ掛ける。
「旦那様は確かに年でしょうが‥‥だとしてもここ最近、衰弱が激し過ぎる様な気が私はしますが」
「あぁ、私もそう思う。何か‥‥盛られているのかもな」
青年の言葉に同意する老人、その言葉に青年は一瞬何を言っているか分からず暫く考えを巡らし、遅れて言葉を紡ぐ。
「ご存知ならば、手を打つべきではありませんか?」
「正直、どうでもいいのだが‥‥まぁ確かにあ奴らの思う通りに死にたくはないの」
半分興味なさそうに、だが青年の言葉に頷き僅かながらに抗う意思を見せた。
「最近、旦那様を殺す為に誰かが暗殺者を雇ったとか言う噂を耳にします」
「そうなのか、それは初めて聞いたぞ。するとなると‥‥いや、しかしこう言ったお家事に彼らを巻き込むのも」
青年の言葉を平然と聞きながら、どうすべきかと逡巡する老人に青年は提言する。
「手早く短時間に事を済ませるには冒険者に頼む、それ以外に手はないと思います」
「‥‥分かった、手配は君に任せる」
彼の言葉に賛同すると老人はまた眠りに入ろうと目を閉じるのだった。
「そう言う事で今回はある貴族のお家事に首を突っ込む事になります、内容はザシュフォード家の主の護衛と彼の命を狙う暗殺者を捕まえて下さい。その方は外に出られる程の体力はないので屋敷内の警護が主になるかと思いますが、それにも拘らず大々的に襲撃を掛けてくる可能性も在り得ないと言い切れないので、そちらにも対応出来る様に心構えをしておいて下さい。尚、寝食に関しては提供するそうなので今回はそちらについて準備する必要はありません」
一言でそれらを言い切る受付嬢は、一息ついて手近にあった水を飲むといつもの様に君達を見るや微笑んで、こう言うのだった。
「それではよろしくお願いしますね♪」
●リプレイ本文
「人づてでそんな話を聞いた時はあるけど‥‥良くある噂だと思ってたわ」
依頼人の家に向かう前の準備に勤しむ一行の中、その隙間を縫って手近な所で情報を集めるプリム・リアーナ(ea8202)の問い掛けに、とある酒場で昼間からワインを飲んでいる女性は目の前に浮かぶシフールにそう答えた。
「まぁそうですよね、人づての話なら真偽の程は分かりませんから。でその他に何か変わった事とか聞きました?」
「んー、よく分からないけどそこの貴族の息子娘については余りいい話を聞いた記憶がないな〜」
更に突っ込んで聞く彼女に、ワインを飲みながらその女性が小首を傾げながら答えた時
「そろそろ依頼人の屋敷に行くそうですよ、後は向こうで集める事にしましょう」
ギルドの扉を開け放ってスティーヴン・ハースト(ea0341)がやって来くるなりプリムにそう言うと、彼女も頷き彼の元に飛んで行くと
「もうそんな時間なの、まぁそうしよっか。ありがとうね」
その女性に礼を言うと二人は酒場を出て、仲間達と合流する為に歩き出した。
「ザシュフォード家の当主、ロレイヌだ。この様な依頼を出してしまって済まんな」
「無礼なお言葉で失礼しますが、生命が掛かっている依頼に上も下も無いのではないですか?」
それから一行は屋敷に着くと、屋敷の主であるロレイヌ・ザシュフォードに挨拶を交わすも依頼人の弱気な発言に無礼を承知で諭すフィルト・ロードワード(ea0337)にロレイヌも自らを恥じる様に苦笑を浮かべ
「まぁそうだな‥‥最近は考えるのも億劫になってな。先の発言は取り消そう、改めてよろしく頼む」
一行に頭を下げるロレイヌに皆も倣って頭を下げると席を辞し、各々が成すべき事に取り掛かり始める。
「セラ君、まずはこの辺りにでも作ろうか?」
屋敷の外で侵入者用の罠を張る為の場所を探す孫龍鈴(ea8387)は、敷地の外と内を分ける壁の変わりにある林の前でセラ・インフィールド(ea7163)に呼び掛けると、彼も頷いた。
「流石に広いですね‥‥結構骨が折れそうです。しかも相手はいつ襲って来るか分かりませんし」
「始める前からそんな調子でどうする! 頑張ればきっと大丈夫だから、まずは出来る事をやりましょう」
弱気な彼に檄を飛ばす孫の言葉を受けて、逡巡しながらもセラは先程より強く頷くとバックパックからロープを取り出し、その様子を見て彼女も枝を集めに木立の中へと消えていった。
そして初日の夜遅く、一行は屋敷内の極一部の人間のみだけ報せた通りロレイヌを冒険者達の為に宛がわれた部屋へと密かに移動させる。
「これが裏目に出なければいいのですが‥‥」
「それを今考えては何も出来ません、まずは動く事が大事じゃないですか?」
「そうですね、何事も前向きに考えて行きましょう」
経験豊富故にふとそんな考えに至って呟くユリアル・カートライト(ea1249)に、経験が少ないからこそのエレイシア・ティアハート(ea7195)とクロノス・エンフィード(ea7028)の発言に、エルフの魔術師は苦笑を浮かべる。
「これで暫くは大丈夫だろう、後は相手の出方次第で黒幕まで突き止められればいいが。まぁ夜も遅いし、今日は休む事にしよう。ロレイヌ卿も夜分遅くに失礼しました」
「構わんよ、然し皆に隠し事をすると言うのも久し振りだな。童心に帰った気がする」
フィルトがそう取り仕切る中、彼の言葉にロレイヌが微笑を浮かべると皆も釣られて微笑を浮かべる。
だが依頼は始まったばかりで、行先はまだ見えなかった。
「今度は何をすればいいでしょうか?」
翌日、クロノスは最近この屋敷に入ったと言うロレイヌの執事を務める青年ハルトの手伝いをしつつ、怪しい動きが無いか見張りをしていた。
物腰柔らかく、常に微笑んでいるクロノスは万が一ハルトが犯人だったとしても疑われない自然な態度で彼と接し、そんな彼と話すハルトもまたそう言った考えが一行にある事を持っている気配は見えなかった。
「そうですね、次は庭園の手入れをしましょうか」
「ここの執事さんはそんな事もやっているのですか」
そう提案するハルトに微笑を苦笑に変えて尋ねるクロノス。
「いえ、草木を触るのが好きなのでロレイヌ様に頼んでやらせて貰っているんです」
「そうですか。所で不躾ながらお聞きしたいんですが、暗殺者に心当たりとかはないんですか? それと他に何か、怪しい話を聞いたとか」
「残念ながら。ロレイヌ様からご相談を受けるまでは私も噂程度だと思っていたので」
雑談から不意に尋ねるクロノスに答える彼の表情を見て、嘘はないと感じて先を進むハルトの後に続いて庭園へ向かうだった。
「私が見た所大丈夫だと思うんですけど‥‥」
「そうですね、問題ないと思います」
一行の部屋にハルトが運んできた食事に毒が無いか、少ないながらもそれについての知識を持つエレイシアとユリアルが確認をして、やっと一行の前に食事が並ぶ。
「何か新しい情報があったら報告をお願いする」
先程までロレイヌとチェスをしていたフィルトは、負け戦を隠す様にそれを片付けながら尋ねるも、真新しい情報は何もなかった。
「まだ一日だけでは流石にね。でもそう余り焦らずに行きましょう、ね」
情報集めに専念するプリムが皆を諭すと、ユリアルは気になっていた事をロレイヌに尋ねた。
「そう言えば、どうして命が狙われている事に気付いたんですか? それと思い当たる節とか無いんでしょうか?」
「体が急に弱ってな、年は取ったがまだ元気に動けたのが最近少しずつ言う事を聞かなくなった、ただそれだけだよ。思い当たる節か‥‥息子に娘も余りろくな奴ではないから家族仲も悪いし、あ奴らについては未だにいい話を聞かんからそうではないかと睨んではいるが」
そう答える老貴族の言葉をセラに通訳をしながら
「それじゃあ情報はその線で追い駆けた方が良さそうだね」
孫の提案に一行は頷くと、僅かながらに落ち着ける夕餉の一時を楽しみ始めた。
「ザシュフォード家の事について、何か知っている事はないですか?」
その翌日、ザシュフォード家の屋敷から少し離れた所にある町の酒場にて、町から町へと旅をしている装いでスティーヴンが何らかの情報が得られないかと奮戦していた。
「まぁ遺産目当てで息子だか娘だかが殺し屋を雇ったとか、ここらでもそう言った話しか聞かねぇな」
「他に息子や娘の事で変な話を聞いたりとかは?」
「そうさな‥‥余り聞いた記憶がねぇな」
(「本当にそうなのでしょうか、もしかすれば緘口令が敷かれている可能性もあり得ますが」)
カウンターに座って酒場のマスターに尋ねる彼だったが、そう考えながら今まで聞いた話とそう大差がない事に頭を垂れると踵を返して酒場を後にする。
「ちっ、最近の冒険者はしけてんな。情報と言ったら金は付き物だろうに」
そして何も頼まなかった彼が去った後、マスターは舌打ちすると寂しい酒場のカウンターに一人頬杖をついて次の客を待つのだった。
そんな彼とは別に、屋敷内を飛び回って情報を集めているプリム。
その勢いは屋敷内にいる人間全てから話を聞かんとする程で、物凄い速度で飛ぶ彼女と擦れ違う人々は皆一様に目を見張っていた。
「推理すると言う事は疑う事‥‥けれど疑う為には全てを信じないといけない、変な話ね」
そう呟きながらもプリムは答えを確実なものにする為、廊下を疾駆するのだった。
それから二日程が経ち、一行は集めた情報から犯人へと近付いていた。
「情報を集めてみてロレイヌさんの息子さんや娘さんの事以外に目立った話が聞けなかった以上、犯人はどちらかか又は共謀しての犯行が有力な線かな?」
取り敢えずの結論に至ったプリムからそんな話があった日の夜、いつもと変わらず屋敷の敷地を見回っていたセラの耳に微かだったが鳴子の音が聞こえた様な気がし
「気のせいならいいのですが‥‥」
デティクトライフフォースを唱えると、鳴子の音がしたと思われる方向に人と思しき大きさの生命が三つある事に気付き、孫に呼び掛ける為口笛を鳴らすと途端草むらから飛び出してくる三つの影に応戦しようとするも、その影達はセラの脇を擦り抜けて屋敷へと向かう。
だが木立の影から飛び出した孫に一つの影は対応出来ず、トリッピングで転倒させられると続く二発の打撃をたまたま頭部に貰って昏倒する。
「向かう先は寝室ね、でも急ぎましょう。まだ何かあるかも知れないしね」
自身にビックリしながらもセラにそう呼び掛けると、残る影を追い駆けるのだった。
「いよいよ来たか」
客室に残ってロレイヌを警護するフィルトは、遠くから響く剣戟の音を聞きながらも落ち着いてそう言った矢先、窓が割られ一つの影が飛び込んで来る。
「用意周到ですね、敵ながら感服しますよ」
ハルトに付き添って、客室に来ていたクロノスは微笑みながらも静かに剣を抜くと二人の冒険者は静かに佇む暗殺者の出方を伺う。
そして誰かがふ、と息を吐いた瞬間だった。
「‥‥‥」
暗殺者は黒衣を翻し、両手に数多握るダーツを放ると再び窓の外へと姿を消した。
「くっ」
フィルトは飛来するダーツから依頼人を庇うべくその前にシールドソードを構えて立ちはだかるが、その一本は無情にも彼を擦り抜けロレイヌの肩口へと突き刺さるのだった。
今回の依頼の真相は、プリムが予想した通りロレイヌの息子と娘が共謀しての犯行だった。
動機は遊びに励み過ぎた二人が抱えた借金を返す為、ロレイヌ氏の遺産を狙っての事だったと言う。
尚、ロレイヌ氏は戦闘の際に当たったダーツに塗られた毒で命が危ぶまれたが、その後ユリアルとエレイシアがそれを鉱石毒と判別し、解毒剤を調合した事で一命を取りとめて今は元気に過ごしているが、ハルトについてはその事件以後姿を何処かへと眩ましたと言う話だった。
彼が隠れた暗殺者だと言う事には誰も気付く事無く、しかしこの依頼はロレイヌ氏の命を守った為、無事に達成出来たと言えよう。