【何でもござれ】 〜劇団を救え!〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月26日〜12月11日
リプレイ公開日:2004年12月05日
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●オープニング
「どうしたんだ皆! 今度の演目にそんな演技内容はないのに何故悶絶したり口から泡を吹いたりしているんだ! それとも只単に今後に備えて熱心に練習をしているだけなのか!」
熱い口調で叫ぶ劇団長に、皆は喋る事すら間々ならない様で何とか首を横に振る事で返事の代わりにする。
「‥‥違うのか、じゃあ一体なんだ?」
ちょっと残念そうな団長に、テーブルに突っ伏している一人の男性が顔を上げて何とか口を開く。
「‥‥何か、食べ物に当たった様で‥‥うごけ‥‥ませ‥ん」
それだけ言うと力尽き、上げていた頭をカクンとテーブルに落とした。
「むぅ‥‥しかしそうなると困ったな、次の村で劇を見せるのまであと少しだと言うのに」
呟き困った表情を浮かべる団長。
そう、彼らはイギリスのあちこちを回り演劇を普及させる為に活動してる数少ない劇団なのだ。
しかしどうやら、先程食べた夕食に当たった様で団長を除く皆は当分の間動く事さえままならない感じである。
「まだ何をするか、脚本すらまだ考えていないと言うのに」
部屋の奥で転がる脚本家をちらりと一瞥、もはや虫の息である。
「こうなれば、奥の手しかないな‥‥」
そう決意すると部屋を出る団長だった。
「オレ達は‥‥?」
置いて行かれた団員は既にいない団長に尋ねてみるも、勿論返事はなく只泣く他なかった。
団長、まずはやる事やってから行動しようぜ!
「そんな事で今回は演劇をして来て下さい」
「平和なのはいいけど、本当に最近そう言った依頼が多いな」
微笑んで言う受付嬢に、思った事をズバッと言う一人の冒険者。
「この前は平和でいいじゃないか、なんて誰か言ったじゃないですかー! 苦情は一切受け付けません!」
飛んで来る言の葉に彼女はふいと顔を背けてそう言うと、反撃の暇を与えずに内容について語り出した。
「食中毒で団長を除く人が皆倒れてしまった様で、更には今度やる演目の内容すらも決まっていないと言う話で、且つ次の村で演劇を行うまで後半月しかないそうです。皆さんには本番までの期間中に行う演目を決め、実際にそれを演じてもらう所までお願いしたいそうです。未経験者の方がほとんどだと思いますが、団長が時間の許す限り特訓をするそうなのでその点は大丈夫かな?」
一通り内容について喋り終わると彼女は微笑んで、先程書き終わった依頼書をカウンターの上に置くのだった。
●リプレイ本文
「ったく、胃袋位鍛えておけよな」
「全くだ、これしきの事で」
「根性が足りないって」
「ほう、お前とは気が合いそうだ。ビシビシやれそうで安心したぞ!」
「だが、素人だからそれなりに‥‥」
依頼人との初顔合わせにも拘らず思った事を言葉にしたライラック・ラウドラーク(ea0123)に賛同する劇団長が張り切れば、それを見て琥龍蒼羅(ea1442)は慌てて彼を宥めるも少しばかり遅かった。
「よし! それでは今すぐ頑張る事にするぞ!」
「‥‥私は遠慮する」
そう意気込む団長と裏腹に拒否するサリエル・ュリウス(ea0999)だったが、いの一番で捕まった。
素養を認められて、と信じたい所だが劇団長にそれを見抜く目があるのかは怪しい。
「おっし、張り切ってこー! 演劇でも何でもやったるぞー」
次々と一行が捕まる様子を見て、それでも持ち前の明るさか今までの経験から来る自信か、張り切るハンナ・プラトー(ea0606)が叫べば
「この短期間で何処まで出来るか‥‥」
頭を振りつつ呟く琥龍の疑問はご尤も、日が少ないのもそうだが演劇を行う人数としてもギリギリ、こんな調子で大丈夫なのだろうか?
それから三日が経過した。
一行は演劇を行う村に着くなり日々基礎体力の向上を図る為に体を苛め抜けば、発声練習から演劇における一挙手一投足の動作等の基本訓練を朝から晩までみっちり行っていた。
とは言え、特訓だけで演劇は成り立たない。
「田舎者には取り敢えず派手な衣装見せとけばOKなのさ」
「何もそこまで‥‥でもここにある衣装も少しくたびれているのが多いですし、手直しした方がいいんでしょうね」
いささか荒い語調のライラックを宥めるマルティナ・ジェルジンスク(ea1303)は、村人達の好意で借りている小さな小屋を占拠する小道具や衣装の山を飛び回って呟いた。
付焼刃で演劇に挑む彼らには情景を観客に想像させる為の手助けとなる小道具や、マルティナが言う様に衣装も少しばかり補修する必要がありそうだった。
「寝る間も惜しんでやらないとダメそうですね、これは」
「大丈夫ですよ、頑張れば何とかなるです!」
「楽観は出来ませんが、やれる事はやってみましょう」
そう嘆息を漏らすマルティナに、女性に間違われる事請け合いな容姿の年若い浪人の土方伊織(ea8108)が明るく言えば、深螺藤咲(ea8218)も微笑を浮かべて前向きに彼の意見に賛同した。
「そうですね、まだ時間もありますし少しでもいい劇に出来る様努力しましょう」
「だね、じゃあまずは‥‥」
二人の言葉を受けて何とか微笑んだシフールの様子を確認してから、その場を仕切る様に赤毛の戦士が皆に声を掛けると月が頂点にあるにも係わらず動き出した。
そして時間はあっと言う間に過ぎ去り、いよいよ本番当日。
久々の娯楽と言う事で村中の人と言う人が集まる中、遂に舞台の幕は上がった。
「本日の劇は人の道、人の世故のタペストリ。この道化、サリエルが皆様をご案内致します」
上手に現れては一礼して仰々しくサリエルは挨拶をすると、暫くの間を置いて今度は道化らしく少しおどけながら
「最初に見たのは世の非常識、じゃなかった非情式。誰の声だか知らないが、嘆きの声が聞こえます」
言うと幼いからこその小悪魔の様な笑みを浮かべて、舞台袖へと消えていくのだった。
「そろそろ、なのかな?」
実際にも雪が降りそうな寒気の中、青年こと主人公(ハンナ)は橋の欄干に寄りかかって空を見上げている、雪が好きだった彼女の事を思い浮かべて。
その雰囲気を補佐するのは琥龍の竪琴、それを弾く指は留まる事無く琴線から悲しげな音色を奏で出す。
そんな中、たどたどしい所がありながらも演劇は順調に進む。
今はもういない、大好きだった雪の中で彼女は一人死んだ、雪崩に巻き込まれたと。
「今でも彼女に会える。入道雲が泳ぐ暑い夏と、雪が白く染める冬。雪に覆われた彼女が見た最後の光景とそっくりな真っ白な‥‥」
彼女の言葉を呟いて、そして涙が零れそうになり空を見上げたままそれをぐいと拭う。
(「いいですよー」)
そう小声で呟き舞台袖でハラハラと見守るのは、この部分の脚本を担当したマルティナでそれが採用されて嬉しいのか悲しいのか、その面持ちはちょっと複雑。
「雪は、死んだ人の魂。夏に生きてる人と遊んで帰っていった魂。でもまた遊びたくて氷の粒になって帰って来る」
その時、不意に女性の声が聞こえた。
「雪が解けて川に流れて夏まで待って、夏になったら風になり好きな人の所で一緒に楽しい時を過ごす。その人達は空に帰っても大きな雲になって羨ましそうに見てるんだって」
「‥‥貴女は?」
続く言葉に記憶を揺さぶられながら、彼が問い掛けると
「私は私ですよ」
微笑んで、主人公と邂逅する女性(深螺)は言った。
「父がいなくなってから西洋人との混血と言う事だけで虐げられて来ましたが、それでも父に会いたくて旅に出て‥‥気付いたらここまで来ていました。そんな折り、貴方の悲しそうな顔を見て‥‥」
志士の装いに大よそ似合わない金色の髪を撫でながらの彼女の話を聞いて、だがそれだけでは無い何かに惹かれる青年は暫く一緒の時を過ごす。
しかしそれもまた長くは続かなかった。
「世の悲しみとそれを拭い去る出会い。しかしそれを見た後で反転事象の喜劇的、悲し泣きなら誤魔化すな、すぐに笑いと声に消えるさ」
ある日青年の前で彼女と似た、それより豪華な装いを纏ったいかにもボンボンそうな敵役、にはちょっと見え難い侍(土方)に連れ去られる。
「気に入ったのでこの子は貰っていくのですよ」
止めようと男に掴みかかる青年だったが、彼に付き従ういかつい侍(団長)の前に昏倒する。
響く彼女の叫びを聞いて。
それから青年は仕舞って久しい武器に防具を出し、知人の戦士(琥龍)を連れ立つと彼女を追い駆ける為に情報を集めた後に旅に出た。
「まだ、そう遠くには行っていないなら‥‥」
街道を青年が呟きながら歩いていた時、前方から着物に身を包んだ女性が駆けて来るのが目に留まる。
「たーすーけーてー」
ちょっと棒読みっぽい所がある和装の女性(ライラック)と、そして何故か彼女を連れ去ったあの侍二人に追い駆けられていた。
それを見て青年は庇う様に和装の女性が前に立つが、しかし
「どーん!」
「うわっ」
その女性は青年を背後から思い切り突き飛ばし、舞台の奥へと追いやると続いて追い駆けてきた舞台に居合わせる人達も同様に突き飛ばす。
慌てて駆け寄るハンナこと青年は小声で彼女に耳打ちする。
(「いきなり何? これが喜劇なの?」)
(「『喜劇って言ったらこれやー』って、この前話したジャパン人が教えてくれたぜ」)
なんか違うぞそれは、と思いハンナは何も言わず首を振ればお客も引いてこそいないが反応に悩んでいるのをライラックも見て取ると、いささか残念そうではあったが話を本筋に戻す。
「あ、あ、あいつらが‥‥わたいの事を‥‥」
「なら、力尽くしかありませんです!」
どもりつつ青年の背に隠れる彼女を見て刀を抜く敵役二人、それを一瞥すると青年の知人もまた剣を抜き放って宣告する。
「無駄な争いは好まんが、戦うと言うのなら容赦はせん」
「始まりがあるなら終わりがあるのも世の常で、然しそれを終曲と見るか序曲と見るかは貴方達次第。さて、終幕です。」
知人の力を借りながら久し振りに扱う大剣を振るい、やがて悪徳侍達を打ち倒す青年は倒れる親玉の耳元近くに大剣を突き刺し
「彼女はどこですか?」
丁寧な言葉遣いだが、その静かな怒りに彼は口を噤む勇気はなかった。
彼女がいる場所を聞きだした青年はそこに駆けつけると、疲れた表情ながらもまだ元気そうな様子の彼女を見て安堵して、そして抱き締めた。
「どうしてここまで惹かれるか分からないけど‥‥僕は君の事を一生護り続けたい」
「言葉がなくても、此処に来てくれた貴方のその気持ちだけが私には嬉しい‥‥」
そう言って強く抱き締めあう二人を祝福するかの様に、頭上からあの時とは違った眩しい雪が舞い落ち、その眩しさに青年は目を細めて泣くのだった。
「分かった様な分からぬ様な、人の世だから難解で極彩多色があるのです。虚ろの劇を終えたなら、次は貴方達の幕劇を」
言い終わり、不敵な笑みを浮かべると手に持つ道化の仮面を付けて恭しく観客に一礼するサリエルに観客達は拍手を手向けるのだった。
「最後は駆け足気味だったけど、一応何とかなったのかな?」
再び着物を着ては村人達を追い掛け回しているライラックを見て、苦笑いを浮かべながらの受付嬢の感想に他の七人は皆一様に疲れこそしているも安堵の笑顔を浮かべた。
止むを得ずの慣れない脚本作りに所々のドタバタ劇で、いささか疲れた面持ちの団長だったが
「色々あったが、取り敢えず何とか成功したと見ていいんだろうな‥‥と、折角だし打ち上げでもするか」
「宜しいのですか?」
「構わんさ。団員が倒れて劇が出来ねぇ何て事になるよりゃ全然ましだし、お客もあれはあれで楽しんでいたみたいだしな」
尋ねる深螺に劇団長がそう言えば、一行はそれ以上尋ねる事なく先を歩く彼に着いて行く。
「やっぱり、演劇は楽しいな。冒険して色々と面白いものを見るのも良いけど、また演劇やりたいなー」
「ですね。結構面白かったのですし、機会があればまた是非!」
ハンナに土方が明るく言い、先を行く皆を追い駆け‥‥そして今日初めて土方が転ぶとその光景に微苦笑を浮かべる一行は、背後に沈む夕日の祝福を受けて一時の安らぎを得る為に再び歩き出したのだった。