グレイブディガー

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2004年11月26日

●オープニング

 ザク、ザク。
 真夜中、土を掘る音だけが静かに墓場に響き渡る。
 ザク、ザク。
 その音は止まず、闇の中に響き渡る。
 ザク‥‥。
 やがてその音は止み、土の中からある物を掘り出す。
 人として最近まで生きていたそれを掘り出し、その新鮮さを確認するとそいつはニヤリとほくそえみ、やがて掘り出したそれを引き摺り出すのだった。
 ズルッ、ズルッ‥‥。
 そしてそいつはその音だけを残して、遂には闇に消えるのだった‥‥。

「最近キャメロット近郊にある墓場で夜な夜な墓地が荒らされ、死体が持ち出されている様です、時期外れながら怖いですね‥‥」
 そう言って今回の依頼を伝えながら震える受付嬢、苦手なものは怖い話。
「なんだってそんな真似を」
「それは犯人しか分かり得ません‥‥そして依頼の詳細ですが、依頼人はその墓を管理する墓守さんからで、その死体を盗んでいると思われる犯人を捕まえて下さい、だそうです。現場には一つの決まった足跡しか残っていないので単独での行動だと思われます、初めてそれが行われた夜に元冒険者だった墓守さんが駆けつけたんですが何らかの魔法で撃退されたようで‥それなりに手練の方かと思います、十分気を付けて行動して下さい」
 疑問を投げ掛ける一人の冒険者に彼女も首を傾げながら詳細を伝える。
 しかし反応のない冒険者達を見て彼女は不意に叫んだ。
「とにかく、そんな怖い話はそのままにはしておけません! 当ギルド‥‥いえ、私の沽券にかけても!」
 何か私情を挟んでいる気がするぞ、と内心思う君達だったがそんなツッコミをすれば何が帰ってくる事か察し、沈黙を守る。
「そんな事でこの依頼、早急に片付けて下さいー!」
 遂には叫ぶ彼女はカウンターから駆けて飛び出し、並ぶ依頼書の板の一番目立つ場所にその依頼書を貼り付けるのだった。
「やれやれ‥‥」
 彼女に聞こえない様に嘆息を漏らしながら、それでも異常成らざる事態に幾人かの冒険者達がその依頼書に目を通し始めるのだった。

●今回の参加者

 ea0396 レイナ・フォルスター(32歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2998 鳴滝 静慈(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5630 喪路 享介(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7598 白野 弁十郎(39歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8234 梁 明峰(39歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 ゆらり。
 半分程枯れた柳の下で墓守の近くに、着流した和服から見える青白い肌で髪の長さゆえその表情すら分からない男が佇んでいるのを見かけた鳴滝静慈(ea2998)は一瞬ビックリするも、それが喪路享介(ea5630)だと分かると少し安堵し、彼の元に近付いていった。

 それからほんの少しだけ時間を遡り。
 墓守から襲われた時の状況を聞こうと喪路が墓荒らしの現場を見たと言う墓守の男性に話しかけると、鳴滝同様に驚かれたものの雇われた冒険者だと言う説明をしてなんとか話が進む。
「魔法で吹き飛ばされた、と言うお話を伺いましたが何色の光が見えましたか?」
 敵がどんな魔法を使うのか、それが分かるだけでも実際の戦闘に置いて十分に役に立つ情報である。
 それに思い当たった彼はまずはその話から尋ねると墓守は
「そうさな‥‥光は見えた気がするんだが、見えなかった。真夜中だったから闇に紛れたって考えるなら黒かもなぁ、見間違えじゃなければな。」
「成程‥‥」
 墓守の言葉に喪路は、長い髪で見えない表情を隠したまま一人頷くとその時鳴滝が声を掛けてきた。
「そっちの調子はどうだ?」
「まだ聞き始めたばかりですよ、ただ内部に犯人がいる事も考えられますので墓守さん以外からは話を聞かないつもりなので、犯人の核心に迫る情報は期待しないで下さいね」
 喪路の言葉に鳴滝が頷き、来た道を引き返す様に再び歩き出すと一つ呟いた。
「じゃあ俺も俺がやるべき事をしてくる。しかし墓荒らしが相手か‥‥目的が何であれ、見過ごせる内容ではないな」
「全くです‥‥墓場は静寂に包まれているのが一番ですからね」
 鳴滝の言葉に、やや方向性が違うものの喪路も賛同すると彼の後姿を見送ってから改めて墓守と話し始めた。

「私達を呼んだと言う事は来そうなアテがあるのよね、墓守さん?」
「来るには来るんだがその間隔は不定期で、依頼を出したものの本当に君達がいる間に来るかどうかは怪しいかも‥‥」
 喪路との話が終わって小屋に戻って来た墓守さんをロア・パープルストーム(ea4460)は捕まえ早速尋ねると、自信なさげなその回答に「煮え切らないわね」と言わんばかりの表情を浮かべたが、白野弁十郎(ea7598)が彼女の後に続いて
「掘り出されたご遺体の傾向や出没時間等など、ご存知であれば教えて貰えると助かる」
 そう言って話し出す墓守の話に頷けば今度は、その条件に近しい葬儀がないかまで調べ出す。
 犯人が掘り出す墓を予め絞り込もう、と言うのが彼の狙いだったが墓守の話から分かった比較的新鮮な死体を狙っている犯人に対し、依頼期間中は珍しく葬儀が一件もなかった。
「なら‥‥都合のいい場所にお墓作ってプチお葬式でも開きましょうか。あ、棺桶は空よ?」
 無いならでっち上げればいい、ダメで元々ながらもそう考えたロアは白野と相談するとその日の内に墓守と手隙な冒険者の手を借りて、一件の葬儀を済ませ犯人に対しての罠を張るのだった。

「然しまぁ、殺風景だな」
 喪路と別れてから墓場を見回って地形を頭に叩き込む鳴滝だったが、それなりに広い土地にあるのはただただ墓石と所々に生える枯れた木々だけ。
 時折鴉が薄気味悪く鳴いていたりもして、夜にもなればまさしく肝試しにピッタリな雰囲気になるだろうと思いながらも、墓場一帯を一回りした後につい最近掘り起こされた墓の前に辿り着く。
「それなりに日が経っているから何とも言えないな、これは」
 墓荒らしの事件が今も解決せず続いているとは言え、依頼期間の間は暇なもののその前までは亡くなったばかりの遺体に遺族も来ていた訳で、それを締め出す訳にも行かず。
 そうなると現場の状況をいつまでも残せるはずもなく、今では無数に足跡があってどれが犯人のものかまでは分からない。
「とりあえず周囲の状況を把握出来ただけ良しとするか」
 所々、地面が不自然に凸凹している事を気に留めながらもそう割り切って鳴滝は踵を返すと、墓守の小屋へと歩き出した。

「皆さん、お疲れ様でした」
 日が短くなったとは言え、まだ日が沈むには幾許かの時間が残されている日中。
 一通りの作業を終えて墓守の小屋に集まった後に状況を把握した皆に、やっと皆に馴染んだ人見知りするエルフことフィーナ・ウィンスレット(ea5556)は微笑みながら労いの言葉を掛ける。
「とりあえず、今出来るだけの事はやったので後は相手が出て来るまで交代で休む事にしよう」
「いつ、墓荒らしがやって来るか分からないからね」
 相変らず冷静に状況を頭の中で構築し、小腹が空いてか保存食のチーズをパクつきながらのノース・ウィル(ea2269)に以前ある依頼で一緒になった梁明峰(ea8234)が賛同して頷く。
「下手したら夜の墓地で戦闘、何か呪われそうよねぇ」
 レイナ・フォルスター(ea0396)の呟きに、だがそんな言葉とは裏腹に浮かべる気楽そうな表情は一行の気持ちを幾分和ませる。
「まぁノースの言う通り、今の内に休んでおこうぜ」
 彼女の気遣いに鳴滝も微笑を浮かべながらそう言うと、一行は夜に来るであろう墓荒らしの襲撃に備え、各々準備を始めるのだった。


 そして深遠の闇が蔓延る夜の刻を迎える、寒い夜空に月が白々と映える中
「まだスクロール、作る事が出来ないのよね‥‥」
 スクロールを作製する為に必要となる知識に対し、今の彼女ではまだもう少しだけ手が届かなかった。
 それを悟り、だからこそ早くスクロールを作れる様になりたいと思って一人うな垂れて呟くロアだったが
「‥‥まぁ相手は一応一人ですし、なんとかなりますよ」
 そんな彼女を小声で慰めながら、闇に沈む墓地独特の雰囲気を楽しむ喪路の言葉にレイナが頷いた時、鳴滝の耳に微かにあの音が聞こえた。

ザク‥‥ザク‥‥

「来たか‥‥じゃあ、手筈の通りな」
 手短にそれだけ伝えると、四人は静かに少し離れたその音源に向けて動き出した。

ザク‥‥ザク‥‥ジャリ‥‥

 墓を掘り起こしていた者がいつもとは違う音が聞こえたのに気付き、だがそれでもニヤリと笑みを浮かべながら
「‥‥我を守れ、愚者共よ」
 呟くと同時、ミミクリーで腕を伸張させた白野がそいつの間合いに飛び込んでホーリーシンボルを握っているであろう腕を狙ってバーストアタックを繰り出すが、その直前で壁の様に立ちはだかるオークによって阻まれる。
「クリエイトアンデットですか、しかも私達の事を把握した上で事前に何度か唱えてますね」
「こちらの動きを遭えて漏らす事で逆に私は動き易くなった、それに死体は新鮮な程良い‥‥」
 見て取る事が出来なかった墓荒らしの行動を推測したフィーナに、その通りだと答えるそいつは更に土中から現れるオークのズゥンビの陰に隠れ
「奴らを殺せ‥‥」
 命令を下すと一行の前に立ちはだかるズゥンビの群れは、咆哮を上げて攻撃を開始する。
 墓荒らしの意識が仲間に行った上でその懐に飛び込もうとした喪路だったが、それを相手にしない事にはままならず、その様子を見て一行は止むを得ずズゥンビを相手にしつつ隙を伺う事にした。
「邪魔を‥‥するなっ!」
「甘く見られたものね!」
 肩を並べつつ、立ちはだかるオークズゥンビに当たり墓荒らしまでの道を開こうとする鳴滝の拳に、続けざま振るわれるレイナの凄まじい斬撃とまだ落ち込んでいるのか、言葉少なに灯りを携えて彼らを魔法で支援するロア。
 その様子に墓荒らしは次の考えがあるのか、その場から踵を返して後退しようとしたがその瞬間を彼らが見逃す筈もなし。
「それ以上、ここでの暴挙は許さない」
 白野の伸張した腕から振るわれる六尺棒がヒットすると、立て続けに毛布を羽織ったまま放たれるフィーナのウインドスラッシュ。
 それはランタンで確保された視界で捉えた狙いを過たず、相手の足首を切り裂き転倒させ、その場に留める事に成功する。
「ふふ、逃げようとしても無駄ですよ?」
 それを確認して前に飛び出して来たのは梁はそいつに飛び掛り、馬乗りになると容赦なく墓荒らしの鳩尾に拳を入れ、その衝撃に上半身が浮き上がる。
「死者を冒涜するな!」
 そしてその瞬間、叫ぶノースは華麗に短槍を回し石突で顎を打ち据えると、完全に墓荒らしの意識を刈り取った。
 そこでやっと安堵の溜息を漏らす四人だったがまだズゥンビは動いており、墓荒らしが完全に沈黙している事を再度確認してから白野が念の為にホーリーシンボルを壊すと、鳴滝達に加勢すべく皆は駆け出した。


 翌朝。
 墓荒らしであるやつれた男性を捕まえた一行は、そいつの手足を厳重に縛った上で小屋の外に転がしておくと、騎士団に連れて行く前に墓地の整備を始めた。
「‥‥これで終わりです」
 手につく土埃を払って言う白野に一行はもういくつか目の墓を修復し終えた所だった、あれからすぐに一行は男から亡骸の在処だろうと思われる住処の場所を聞いて捜索するものの、そこには既に何もなく男も堅く口を閉ざしたままだった。
「出来る事なら‥‥皆さんを元いた場所に戻してあげたかったが‥‥」
(「‥‥これはせめてもの罪滅ぼしだ、冥福を祈る」)
 亡骸には優しい喪路と、心の中でそれだけを祈る鳴滝。
 共に悔しさを隠しながらも、皆と一緒に頭を垂れ冥福を祈った。

 そしてその後。
 騎士団に連れて行かれた男から墓を荒らした理由について等、騎士達が長い時間を賭けて根気強く問い詰めたのだが
「あの男が、死体を持ってくれば死んだ妻を蘇らせると‥‥だから、だから‥‥」
 ただそれだけを繰り返していたと言う。
 事件こそ解決したが、その男の話が真実なら事の真相は今もまだ闇の中にある。