【何でもござれ】 〜洞窟なお宅訪問〜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月02日〜12月09日

リプレイ公開日:2004年12月09日

●オープニング

「今回の依頼ですが‥‥彼、レイ・ヴォルクスの家のお掃除をして来て下さい」
「なんだか前にもそんな依頼がなかったか?」
 冬も近いとある日。
 ほんの少し寒さが抜けた昼頃、全身を覆う皮製のコートに同じく皮の帽子を目深に被った見るからに怪しい男と何事かを話していた受付嬢が不意に、辺りにいる冒険者に新しい依頼を持ちかける。
 受付嬢と話していた男を怪しみながら、だが同じ様な依頼はご遠慮だと言わんばかりに一人の戦士がそう零す。
「同じ様な依頼やりたい? やりたいなら他から回して貰うけど、うちもそれなりに実績が出て来たから同じ様なのは来ないわよ、流石に」
「‥‥ちなみに、どんな掃除だ?」
 ふっ、と溜息をついて首を左右に振りながら「甘く見ないで頂戴」と言わんばかりの表情を浮かべる受付嬢の様子を見て、また一人の冒険者が尋ねると立ったまま腕組みをしていた怪しい依頼人が口を開いた。
「それこそがこの依頼の一番の肝だ、良くぞ聞いてくれた。ブラボーだ!」
「‥‥」
「‥‥話を戻します。彼が数年振りにキャメロットの外れにある自宅に帰ってみると、なんか色々なモンスターが居座っていたそうでそれの駆除をお願いしたいと言う事です。」
 誰しも気付いて当然な事にも拘らず親切に冒険者達を褒める全身皮尽くめの男に、どんな反応を取ればいいか悩み詰まる皆だったが、そんな彼を無視して改めて依頼内容を口にする彼女の話で何とか事の次第を理解する。
「あの程度、私にとっては物の数ではないが折角だから後進の育成の為に依頼として持って来た次第だ。張り切って退治してくれ」
 続く彼の句に何とか頷きながら
「家の中にいるモンスターの退治ね、家ったってそんなに広くないでしょ。それこそ此処に回ってくるべき依頼じゃないんじゃないの?」
 ふとそんな事に気付き問い掛ける一人の女騎士に、受付嬢は首を振って真実を口にした。
「それが話によると彼の家、洞窟なの。しかも変に広いとか‥‥」
「常に男は修練を欠かすな、が私のモットーだ!」
 受付嬢はうな垂れ呟く中、当の依頼人はポーズこそ変わらないもののその声のトーンは先程より高く、張り切っている様が伺えた。
(「何でこんな風変わりな依頼が多いんだ、ここは‥‥」)
 口には出さず、その場に居合わせた冒険者達は皆同じ事を考えたとか考えなかったとか。

●今回の参加者

 ea2624 矛転 盾(37歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3803 レオン・ユーリー(33歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7163 セラ・インフィールド(34歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea7981 ルース・エヴァンジェリス(40歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8780 王 月花(32歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「それでまず、内部の構造を教えて‥‥」
「教えない方が格好いいから秘密だ、と言うのは嘘だ。それ位は教えよう」
 ルース・エヴァンジェリス(ea7981)の質問をあっさり一蹴、する様に見せかけてレイは地面に屈むと地面に木の枝で地図を描き始める。
(「‥‥絶対遊ばれてるわよね、コレ」)
 彼女が内心呟く中、もといレイ・ヴォルクスの住居を前に一行は準備に励んでいた。
「しかし分からん、格好いいと何かメリットがあるのか? 射撃の精度が上がったりとか」
 手持ちの武器を確認し、弓と矢を黒畑緑朗(ea6426)に貸した後に問い掛けるアンドリュー・カールセン(ea5936)の問いにレイは手早く地図を描き上げると立ち上がって答える。
「特には無い、だが女性が美を求める様に男なら格好よさを求めるのが常だろう。つまりそれだ、君は違うか?」
「まぁ、確かに」
「尤も、格好いいだけで冒険者は務まらんからそれに見合うだけの力も持ち合わせているつもりだがね」
 なんとなくレイに共感を覚える彼はその答えにそれなりに納得はした様子だった。
「所でヴォルクスさんが家に住んでいた頃もモンスターはいたのか?」
「常にでは無いがな、けどいい修練になったぞ」
 道中から気になる事だらけの依頼人に質問を繰り返していたレオン・ユーリー(ea3803)はアンドリューの質問が終わると続いて尋ねれば、平然と返す。
「けれど住まいが洞窟って。油代、経費にして下さらない? 馬鹿にならないわ」
「ふむ、だがそれは依頼を伝えた際に準備してくれと伝えておいた筈だ。いくら依頼内容に後進の育成が含まれているとは言え、私もそこまで甘く無い。むしろ暗闇の中でも立派に戦えてこそ格好いい冒険者ではないか」
「最後のは良く分からないけど‥‥分かったわよ」
 ロア・パープルストーム(ea4460)の頼みに、だがレイは頑として譲らない。
 確かに彼の言う通りでロアにも言わんとする事は一応理解出来、それ以上は何も言わなかった。
「はて、屋敷の掃除と伺って参ったのですが‥‥まあ、掃除には変わりませんか」
「そうですね〜、でも私、コレ初仕事ね〜。皆宜しくお願いするわ〜」
 次々と続いたレイへの質問が一区切りついた頃、僧兵よりもメイドが本職だと思っている矛転盾(ea2624)が言うと、彼女の言葉に頷いては柔軟体操を念入りに行いながらコロコロと笑って挨拶を忘れないハーフエルフの王月花(ea8780)。
 だが、その性格故に他の面子とは上手くやっている様子である。
「では改めて確認しよう。今回モンスターを排除して貰うポイントとしてはこれから入る階層及び、その下の階層までだ。広いとは言え万遍にモンスターがいる訳では無いだろうし、構造自体も一本道だから問題はない筈だ。以上、健闘を祈る!」
 そんな賑やかな一行に、レイは改めて依頼の詳細を伝える。
「了解しました、Mrブラボー!」
「その心掛けやよし、だがより高みを目指して精進する事を忘れるな」
 最後に至っては叫ぶ彼にセラ・インフィールド(ea7163)も大きく返事をすれば、レイは頷き彼に激励の言葉を掛ければ益々持って賑やかになる皆へ、黒畑が一言だけ告げる。
「それでは、そろそろ参るでござる」
 話題の尽きない依頼人相手に長話し過ぎた一行は、彼の言葉を受けてやっと洞窟へと足を踏み入れた。


 洞窟に入って暫く、一行はまずゴブリンの集団に出くわす。
 一行を、と言うよりはレイを見るや敵意を剥き出しにする八匹程のゴブリン達を前にレイは
「この前様子を見に来た時、適当にあしらったからそれで怒っているのか。もう少し構ってやれば良かったか」
 と惚けた事を言い、「それはない」と内心一行がレイに突っ込めばそれを合図にか、一斉に動き出すゴブリン達。
 それを前にして一行の先頭に立つ王は場の緊迫感にその瞳を鋭く、紅く染めて
「さぁ、私の王流テコンドーを御見せするわ〜」
「負けられぬでござる」
 叫ぶと誰よりも早くゴブリンの一匹に躍り掛かれば、彼女の隣にいた黒畑もまたロアのバーニングソードの支援を受けると彼女に続いて切り掛かり、瞬く間に戦端は切って開かれた。

「せいっ!」
 最後の一匹の攻撃を流麗な再度ステップで避けると直後、喉元への一閃で絶命するゴブリンが倒れるのを見てアンドリューは呼吸を整えると
「ブラボー! この程度ならまず問題ないか」
「はっ、光栄であります!」
 レイの労いの言葉にアンドリューが背筋を伸ばして返事をする。
「しかしまだ先は長い、休憩を挟んでから進む事にしよう」

 それから一行は彼の言葉に従い、ゆっくり三日を掛けて洞窟内のモンスター掃討に勤しんだ。
「何を隠そう、私は索敵の達人です!」
「ブラボー! だが私も索敵の達人だ、尤も隠れんぼが下手でいつもされる側だがな!」
「それってダメじゃない」
 デティクトライフフォースを発動させ、宣言するセラにレイの掛け合いに頭を抱えてルースが呟くと
「野犬ってモンスターなの?」
「襲い掛かってくるからモンスターなんじゃないか、っと」
 直後に襲い来る野犬の群れに、セラの背後に隠れて黒畑から借りたランタンを掲げながらのロアの質問に、野犬の群れを撃退しつつ答えるレオンに彼女は頷けば
「こんな所にチョンチョンか。アンドリュー殿、ありがたく使わせて貰うでござる」
 更に進めば今度はチョンチョン、黒畑とアンドリューが放つ矢とナイフの前にハラハラと地に舞い落ちる。
「掃除のしがいがあります事」
 複雑な表情を湛えながらも呟いて、矛転が放つブラックホーリーに最後の一匹が落ちれば一行は、後もう少しで辿り着く最深部を目指して再び歩き始めた。
 奥に進めば進む程、酷くなる異臭に顔を顰めながら。

 そして最深部、広い部屋から奥へと進む道はなく今までで一番酷い異臭の中、その奥で屈んでは何かしているゴブリンにコボルトで、その数は一行の倍もいた。
「どうします?」
「依頼の変更は無い、道が無いのなら切り拓くのみ。何、危険だと判断したら私も加勢しよう」
 相手が弱いとは言え、倍の戦力を見てレイに尋ねるルースだったが依頼人の返事は力強く、優しい答えだけだった。
「相手こそ不服だがその数、それを補うに値するでござる」
 今度は連日の戦闘で疲れが抜け切っていない王より早く黒畑が駆け出して、一行の存在に気付いた最初のゴブリンを同時に振るう二刀で切り飛ばせば、それからは乱戦になった。
「コォォォ!」
「ゴブリンにコボルトだけとは言え、これだけいると面倒だな!」
 息を吐き、変幻する軌道の蹴りを放つ王の隣でコボルト達の攻撃を捌いてはぼやくレオン。
 個々の力量に差があっても、その数が倍ともなれば一行は防戦一方。
「流石に倍では厳しいか、少しだけ手を貸そう」
 それまで一行を静かに見守っていたレイが呟くと、コートのポケットに手を入れたまま軽く地を蹴ってレオンの前に蟠るコボルト達の前に降り立ち、一瞬で二匹を吹き飛ばすとすぐさま襲い来る複数の刃をあっさりと避けてみせる。
「何者だよ、ヴォルクスさん‥‥」
「凄い」
 それを目にしたレオンが尋ねれば、ロアを守りながらもセラが感嘆の声を上げるその中、更にもう二匹のゴブリンを吹き飛ばすと再び後退して
「君達と同じ冒険者だ。だが君達も高みを目指していればこれ位、いづれ出来る様になる。今はまだ届かなくても、だから今を頑張るのだ」
 そう呟く彼の言葉に後押しされてか、一行は一気に攻勢へと打って出る。

 それから、レイの僅かな助力を借りて一行は負傷者こそ出たものの、何とかゴブリン達の殲滅に成功した。
「任務完了だな」
「極めれば、この世に切れぬ物なし」
 アンドリューの言葉に黒畑も刀を納めて同時に言えば、二人は顔を見合わせてお互いに笑みを零した。


「さぁ、お掃除を致しましょう」
 戦闘を終えて一息つく一行の中、立ち上がって言ったのは矛転。
 ‥‥いつの間にか「掃除長・矛転」と書いた名札がついていたりする辺り、彼女にとってはこっちの方が本番だと伺える。
「いや、そこまでは頼んでいないが‥‥」
「‥‥ああ、ヴォルクス様。良い機会ですので今後この様な事が起きぬよう、お掃除の仕方をお教えして差し上げましょう」
 微笑を浮かべての申し出に唸るがしかし
「後輩への教授として率先して存分に働いて頂きましょう。ね、皆?」
 言ってはしてやったり、と満足そうな笑みを浮かべるルースに退路を断たれたレイは止むを得ず立ち上がり
「こう見えても私は掃除される側の達人だ、逃げはしないぞ!」
「なら掃いていいか?」
 自慢にならない自慢をレイがすれば、突っ込みの変わりにとレオンがいつの間にか何処かに転がっていた箒を手に、彼の足元を叩くと
「『葬除』終わったわ〜、今度は『掃除』ね〜」
 呟く王の一言を合図に、矛転は静かに頷くと掃除が開始するのだった。

「今回の騒動の原因はこれね」
 レイと矛転が戦闘に立って掃除をする中、彼らと少し離れて異臭の理由が気になったロアは広間に来ると、その根源である魚の干物を手に取って呟いた。
「何でここにあるのか分からないけど、これだけ奥に置いてたのなら忘れて当然かも。ってこれ何かしら?」
 そんな干物の山の奥、何かの木の実を一つ見つけるロア。
「取り敢えず、貰える物なら確認してから貰いましょう」
 表情は歪めたまま、そう呟くと舞い戻るのだった。

 無事に依頼を終え、掃除までした一行は餞別を持って両手を腰に当て見送るレイに苦笑を浮かべながら帰路へ着くのだった。
「背中に、人生を!」
 しかし、レイの謎だけは解けず終いだった。