ただ待つだけの時
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 78 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月13日〜12月19日
リプレイ公開日:2004年12月18日
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●オープニング
「全く持って‥‥少し張り切り過ぎたかしらね?」
瓦礫に埋まった唯一の出入口を見て一人呟くのはルルイエ・セルファード、自分以外に誰も閉じ込められていない事に安堵しつつも嘆息を漏らす。
「浮かれ過ぎていた所もあったかも‥‥今後の反省材料ね」
再び呟きながら周囲の状況を確認すれば、人は通れないながらも窓はあり空気に困る必要もなければ、調査に必要な機材こそ重くて持てなかったからこそ全員分の食料だけは彼女が一括で持ってたのが幸いして、暫くは持ちそうだった。
「ルルイエさん、大丈夫ですかー」
「大丈夫よ、それよりこの瓦礫の量を見るとここにいる人間だけでは退けられそうにもないから、至急人員を見繕って助けに来てくれる様にアシュドさんに伝えて貰えるかしら?」
一人の調査員が呼びかけに、彼女は冷静にそれだけを伝えると瓦礫に寄りかかって不安げにまた呟くのだった。
「‥‥困ったわね、本を置いてくるんじゃなかったわ。何をして待とうかしら?」
「‥‥と言う事で、崩落しかかっている遺跡に閉じ込められたルルイエの救助と調査事態は終わっているんだが調度品に引き上げがまだなんで、それの引き上げを手伝うのに何人かの人手を借りたいんだが」
「結構な人数ですね、最近はどこも忙しいですし要求される人数が揃うか微妙ですけど大丈夫ですか?」
ある日の冒険者ギルド、すっかり顔馴染みになったアシュドは見知った冒険者達に挨拶を交わしつつ受付嬢に一礼すると早速依頼を持ち掛けた。
そんな彼に最近の様子を伝えるも彼は
「それはそれで構わないさ、最低でも六人程‥‥ルルイエを助けるのに足りる人数だけ集まればね」
「そこまで優先する理由って‥‥あ、立ち入った事ですねこれは」
「まぁ‥‥姉みたいなものさ、私にとってはそれだけ長く一緒に過ごしてきた‥‥欠く事の出来ない人間の一人、それだけだよ」
優先すべき事項を伝え、受付嬢は以前から少しだけ気になっていた事を不躾ながら尋ねると、それを気にする事無く答えるアシュド。
「‥‥そう言う事で、忙しいかも知れないが宜しくお願いする」
いつもと違った様子の彼が改めて頭を下げるのを見て、受付嬢はニコリと微笑むと依頼状にアシュドが持ち込んできた依頼内容を書き始めるのだった。
●リプレイ本文
「『深き森』の獅臥柳明です。皆さんよろしくお願いします」
「同じく、『深き森』の夜枝月藍那です。ルルイエさんの救出、成功させましょうね」
獅臥柳明(ea6609)に夜枝月藍那(ea6237)の挨拶を最後に、現地での依頼人との顔合わせを終える一行。
時間がないとは言え今回の依頼は人数が多く、連携も大事になって来るが故のアシュドの配慮である。
そう言う思考が出来ると言う点ではまだ落ち着いている様が伺え、それなりに心配していた一行もその様子に安堵する。
「今回の依頼を願い出たアシュド・フォレクシーだ。好きな様に呼んで貰って構わない、今回も宜しくお願いする」
最後にアシュドが簡単に挨拶を済ませるのを聞き終えてからレオン・ユーリー(ea3803)が早速状況について尋ねる。
「取り敢えず現場までどれ位掛かって、どんな状況か簡単に教えてくれないか?」
「ルルイエが閉じ込められている場所まではそう遠くないが、奥に行くにつれて遺跡の状態が悪くなっている‥‥モンスターを見たと言う報告は受けてないし、期間こそ長めに取ってあるが余り予断を許さない状態だな」
「ま、思っている以上に余裕はないって事か‥‥」
厳しい表情で呟く彼らに、アルラウネ・ハルバード(ea5981)はそれでも努めて明るくアシュドへ話し掛ける。
「大丈夫、アシュド君の大切な人をきっと無事に救出するから、泣かないで、ね?」
「‥‥泣いている様に見えるか?」
「見えるわよ」
顔見知りの彼女に反論するも再びはっきり言われると彼は一つ考え、やがて頷き
「済まないな」
「頑張りましょう、ね」
礼を言うアシュドにアルラウネも微笑んで彼を見つつも皆に呼び掛ける様に言うと、頷く一行は危険に溢れる遺跡へと足を踏み入れるのだった。
遺跡に入って暫く。
事前に遺跡の調査員から聞いた話を参考に一行は、入口とルルイエが閉じ込められている目的の部屋の中間辺り、まだ崩落する危険性が少ない場所にひとまずキャンプを張っては早めの休息を取る事にする。
これから先、崩落しない様に気をすり減らしながら進まなければならない訳で獅臥の案に対してアシュドはともかく、己のやるべき事を理解しているシルフィード・インドゥアイ(ea5287)の対応は中々に手早かった。
「流石ですね」
「お褒め頂きありがとうございます〜」
そんな彼女に労いの言葉を掛けるのはその主人、レイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)に笑顔で答えれば
「お疲れ様、シルフィ♪」
「見事なお手際でした、私も見習わせて貰います」
ルーヴァイス家と親交が深く、レイヴァートと許婚の中でもあるアーサリア・ロクトファルク(ea0885)と彼女に仕えるメイドのノエル・エーアリヒカイト(ea5748)が辺りの整頓をしながら賞賛すれば、彼女は益々持って照れる。
とは言え、此処から先が本番で遺跡に入ってから変わらず渋い表情のままのアシュド。
「まぁ余り難しく考えてもしょうがないですよ〜、こう言う時は食事でもしましょう〜。これからもっと大変ですからねー」
「まぁ、それもそうか」
そんな彼に明るく声を掛けるのはおっとりマイペースなシェリル・シンクレア(ea7263)にアシュドも苦笑を浮かべながら、彼女が差し出す保存食に手を伸ばした。
何はともあれ取り敢えず半分、しかしこれから苦難の道のりの始まりである。
‥‥十分な休息を終えた一行は慎重且つ順調に先に最深部を目指して進むも、どの程度の振動で崩れるか分からない以上、余り賑やかに駆けて目的地目指して突っ切る訳にも行かない。
そんなもどかしい進軍の中、灯りを持って先頭を飛ぶプリム・リアーナ(ea8202)の姿を見つめるリース・マナトゥース(ea1390)。
「こう言う時、シフールの方は便利で羨ましいです」
「いいでしょ? でもその分、力仕事は出来ないけどね〜」
そんな会話の中、一行はそれでも着実の上に慎重を重ねて先頭を進む灯りに着いて行く。
その先頭を歩くのはマントのフードを目深に被って、ハーフエルフである事をアシュドに悟らせない様な格好をしているイドラ・エス・ツェペリ(ea8807)。
ちょっと不自然な気もしないでもないが、特に依頼人は気にしていない様子である。
彼もまたランタンを掲げ所々に走る亀裂を見ては慎重に、ロングロッドでコツコツと叩いて安全を確認しながら、歩く面子を導く。
「これで崩壊したら洒落にならない訳ですが‥‥巻き込まれるよりはマシかと」
「確かにそうですね〜、っとわわわぁ!」
フードの下で苦笑を浮かべて彼が呟けば、マイペースに歩きながら賛同するシェリルが平坦な場所で転びそうになったり。
「気をつけてくれ給え」
「あわわ‥‥すいませんー」
近くを歩くアシュドが辛うじて彼女をを支え、何とか余計な振動を遺跡に与える事はなかったが
「‥‥大丈夫だろうか?」
「ま、余り気にし過ぎない方がいいだろうよ」
如何なく各々の特技(?)を見せる一行に、ちょっとだけ不安を覚える依頼人だったが宥め諭すレオンの言葉に、それでも少しずつ動揺は隠せずにいた。
「アシュドさんが慌ててしまっては、私達も出来る事が出来なくなってしまいます。落ち着いて行きましょう」
そんな彼の様子に柔らかく微笑んで言う獅臥の言葉に、一行と遅れてアシュドは頷くと再び慎重に前進を始めるのだった。
奥に進むに連れ道を阻む瓦礫の量は少しずつ増え、それを脇に退かしながら一行はやがてルルイエがいると思われる部屋の前へと辿り着いた。
「しかし、これは‥‥」
積み重なる瓦礫の山を見て呟くイドラに一行も唖然と口を開ける。
その大きさこそ何とか撤去出来そうなサイズだったが、その量が尋常じゃなかったからだ。
その量故に、普通の声量で呼び掛けたとしても向こうまでは届かずかと言って叫ぶ訳にも行かずどうしたものかと考える一行の中
「‥‥ルルイエ、お前ここで何をした?」
「でもルルイエさんは無事な様ね、ランタンの灯りの下で何かしているわ」
アシュドは尋ねずにはいられなかったが、それでもエックスレイビジョンで瓦礫の向こうを見るアルラウネの言葉に少なからず安堵した表情を浮かべ、彼女もまたその様子に微笑む。
「と‥‥とりあえず瓦礫を退けましょう〜」
「そうだな」
そしてふと呟いた依頼人の問い掛けに対する答えが気になるものの‥‥いや、だからこそかも知れないがアーサリアの呼び掛けに彼女の許婚も頷くと瓦礫の撤去を始めるのだった。
「彼の者に力を、彼の者に幸いを、彼の者に祝福を‥‥」
アーサリアと夜枝月が何度目かのグットラックを唱え、その加護を受けて再び作業に戻る一行。
「しかしいい加減、向こうが見えないもんかな」
「この大きさなら一気に崩してしまいたいのですが、遺跡に振動を与えてしまうので根気強く、コツコツ慎重に行くありませんよ〜」
キリキリと瓦礫の山に向かうレオンだったが、流石にうんざりしてそう呟くもシルフィードの判断にアシュドも頷くとレオンは返事の変わりに手を軽く上げて答える。
「でもほんとよね、これ位なら一気に崩したいわー」
「まぁまぁ、二次災害にあったらそれこそ冗談になりませんから落ち着いて」
切れ掛かるレオンから借りたランタンの油を補充しにプリムがシェリルの元に舞い降りてブチブチ言うも、宥め諭す彼女に渋々ながら頷いた時
「でも上の瓦礫は大分なくなってきた様ですね、あと少しで向こうの部屋と繋がるんじゃないでしょうか」
瓦礫の下方を照らしながら言って微笑むリースにプリムは「まぁ、確かにね」と頷き、油の補充を済ませると再びその羽で上昇し、黙々と体力勝負の撤去作業をする六人へ再び灯りを供給する。
その灯りの下、無駄に積み重なる瓦礫を頂上から崩れ落ちない様にバランスを取りつつ、六人一列に並んでは着実にその山を削る。
「ふぅ‥‥恐らくもう一息です、焦らずいきましょう」
「随分と長い時間、作業していますしね」
その頂上に立つ獅臥が皆に声を掛けてまた一つの瓦礫を、マントで口元を覆い頷くイドラに渡して取り除いた時だった、瓦礫の山から向こうの部屋が垣間見える様になったのは。
ルルイエの姿も見え、動いている事から生存の確認が改めて分かると獅臥は呼び掛ける。
「ルルイエさん、後少しですからもう少しだけ待っていて下さいね」
彼の呼び掛けに頷く彼女の様子を見て安堵する一行、しかしノエルだけはいささか複雑そうな表情。
「使わず終いで良かったのか、残念だったのか」
「折角だからこれからはそれで戦えば?」
「遠慮します」
壁に立てかけられている大槌を見て呟けば、メイド仲間のシルフィードの提案にしかし彼女は表情を変えず、丁寧に断るのだった。
その後、無事に救出されたルルイエは一行の手厚い看護を受けながら調度品引き上げの指示を出し、可能な範囲でそれを達する。
「この度はありがとうございました、調度品の移送まで手伝って頂いて。それと飛んだご迷惑をお掛けしました」
「全くだ‥‥心配して来てみれば」
一通りの作業を終え、久々の外の空気を吸って伸びをする一行に詫びて一礼する事の張本人が頭を下げる中、憮然とした表情で呟く依頼人。
「とにかくルルイエさんが無事で良かったわ、だってアシュド君泣いちゃうんだもの」
「泣いていないだろう」
「そうでしたっけ〜?」
「‥‥勘弁してくれ」
アルラウネの茶々に否定するアシュドだったが、更なるシルフィードからの突っ込みで遂には頭を抱える。
そして笑う一行の中、アシュドに事の真偽を問い質す事無くルルイエも皆と一緒になって静かに笑うのだった。