●リプレイ本文
「道中の護衛を請け負ったブラッフォードです。お見知り置きを」
出発を前に、ギルドで依頼人と挨拶を交わす一同。
ブラッフォード・ブラフォード(ea3418)を最後に、一通り挨拶が終わると依頼人である歌姫のセネス・ファルトニーニが口を開く。
「色々と伺っていると思いますが、セネス・ファルトニーニと申します。道中何かとご迷惑をお掛けすると思いますが皆様、改めてよろしくお願い致します。」
噂通り、容姿もさる事ながら美しい声ではあったが何処か精彩を欠いている、そんな声音を察して
「セネスさん、大丈夫ですよ。私達もついていますし笑顔で村に帰るのが、いい運を引寄せますよ」
「そう‥ですよね。」
シーン・イスパル(ea5510)が彼女の気分を解そうと、微笑みながら言うも余り効果はなかった。
沈みがちな場の雰囲気にシフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)は明るい声で
「はよ行こうでぇ、道中長いし少しでも早くセネスはんを村に送り届けるんや」
皆に畳み掛ける様に言うと、タイミングよく開いた扉を潜り抜け「はよいこやぁ〜」と外から呼び掛ける。
「少し力を抜いた方がいいですよ。顔がこわばってしまって‥折角の美人さんが台無しです」
イフェリアに同調し、ユーリアス・ウィルド(ea4287)も笑顔で彼女に語りかける、そんな彼女達にセネスは微笑を浮かべると
「今、ここで落ち込んでいてもしょうがありませんよね。行きましょう皆様」
扉を開けるのだった。
キャメロットを離れて暫く、見晴らしのいい草原を走る一本の街道を歩く一同。
適度な間隔を持って彼女の周囲をカバーする一同、そしてその中心に歌姫のセネス。
その名はそれなりにではあるが知れ渡っているのは確かな様で、街道ですれ違う旅人の一部が振り返ったり、話し掛けて来たりする。
「結構知っている人、多いんだね」
「そうですね、この辺りは良く来るんですよ」
セネスの近くにいるトア・ル(ea1923)の質問に、大分落ち着いてきたのか彼女が答えると
「幾つから歌を歌っているのですか?」
「歌姫になった動機って何?」
「今度、私の行きつけの酒場で歌ってみたりしませんか?」
トアの質問を皮切りに、アルカード・ガイスト(ea1135)ヴィオレッタ・フルーア(ea1130)世羅美鈴(ea3472)の三人が立て続けに尋ねる。
「えーっと、そんなにまとめて言われましても‥」
困りながらも笑顔で言い淀む彼女の表情を見て、一同は顔を綻ばせた。
「しかし、キャメロット近郊の街道でモンスターが出るとは治安が悪くなっているのか?騎士団は何をしているのだ」
愛馬を駆って彼らより先行して様子を伺うブラッフォードは呟きながら辺りを見回すが、特に何も彼の目に留まらない。
「これだけ見晴らしが良ければ、今日は何事もないだろうな」
再度呟く彼の元にイフェリアが空から舞い降り、彼の肩に止まる。
「空から見ても、特に動くものとかは見えんかったわ。ただ、もう暫く行った所に森があったさかい、もう日も沈みそうやし森の手前でまずは一泊、って感じやろなぁ」
「そうだな‥一度皆の元に戻るか」
彼女の話を聞いて、ブラッフォードは愛馬の腹を蹴ると元来た道を戻り始めた。
その後、一同は森の手前で野営を張って2組で交代しながら襲撃に備えるも何事もなく次の日を迎えた。
「この森を抜けて、あの山の中腹に私の故郷があります」
森の入り口で、セネスが向こうに見える山を指して言うその表情には何とも言い難い感慨深さが伺える。
「じゃあ今日はこの森を抜ける所までかな?」
「それが妥当だね」
美鈴の言葉にシーンが賛成し、一同が頷くと
「ほな今日も元気に行ってみよかー!」
徹夜をしたにも拘らずイフィリアは持ち前の元気さで明るく言い飛翔すると、それを合図に一同も歩き出した。
日も沈み暗転した空に月が浮かぶ頃、日中に擦れ違った旅人達からシーンが色々と聞いた所、森の向こうから野犬の群れが出没すると言う話を聞くも昼に遭遇する事なく無事山の麓まで辿り着く。
周囲を警戒しつつ、手頃な場所を見つけると今日の野営を築き早々に食事を済ませるとまだ日が沈んでそう時間も経っていない事から、一同はセネスを不安がらせない為にも彼女を交えて色々な話をする事になった。
「その倒れたって人は危篤とかじゃないんでしょ? どんな事があったとかは聞いてないの?」
ユーリアスが淹れてくれたお茶を皆が飲みつつ様々な話が続く中、トアが気になっている事を尋ねるとセネスは恥ずかしげに顔を俯かせ
「恥ずかしい話なんですが、大事があったって事を聞いたらそれだけで頭が一杯になってしまって、詳しい事は言っていたとは思うんですけど‥聞きそびれちゃいました」
呟いた、その姿を見てユーリアスも
「あの人‥結構無茶するから、怪我してないと良いですけど‥」
自らの恋人に思いを馳せるユーリアスを見て、セネスはポツリと
「私、彼が喜んで歌を聞いてくれるのがとても嬉しくて‥誰でも私の歌を聞いて喜んでもらえればいいな、って思って歌姫になったんですよ。まだお互いが小さかった頃、あの時は私も余り歌が上手くなくて‥でも彼はそんな歌をいつも聞いて、笑顔を浮かべてくれたのです。でももし‥その彼が‥」
「セネスが泣きそうな時は支えてあげるから、余り一人で思い詰めないで」
言いながら感情が昂ぶって来たのか、その声音に少しずつ嗚咽が混じる。
トアは彼女を後ろから優しく抱きしめると、セネスは堪え切れず静かに泣き崩れるのだった。
そんな女性陣の話を遠くで聞きながらアルカードは何かの襲撃に備え、警戒をしていた。
ガサリ
草と草が擦れる音が微かに彼の耳に届く、まだそう距離は近くない。
彼は落ち着き払い、インフラビジョンを唱えるとその目に飛び込んできたのは速いスピードでこちらに、話の通りなら野犬だろう、が四匹駆けて来ていた。
急いで立ち上がり、周囲をぐるりと見回すとちょうど反対側からも五匹が向かってくる。
「野犬がきますよっ!」
アルカードの声に和んでいた一同に緊張が走る。
慌てて全員が立ち上がったその時、一匹の野犬が飛び出しそれを皮切りに街道の両サイドから野犬が次々と飛び出す。
お世辞にも広いとは言えない街道で、挟撃を受け混戦になる様相を呈していたが
「ここならっ!」
「お願いですから‥発動してっ!!」
木々に燃え移らない絶妙な位置に素早くヴィオレッタはファイアーウォールを張り、炎の壁に怯む野犬を傍目にアルカードとユーリアスはその壁の向こうから魔法で畳み掛ける。
森に近い、もう一方ではトアはセネスを庇いつつ、バーニングソードを付与されたナイフで野犬の牽制に徹すると世羅は強烈なスマッシュを浴びせ、見事な手際で野犬を両断。
「そっちに行きました!」
「レディに夜這いをかけるなんて、なっていないですよ♪」
世羅の脇を駆け抜ける一匹の野犬を前にシーンも負けじとナイフを煌かせると、フェイントから即座に続く攻撃でその喉笛を一文字に切り裂く。
自分だけバーニングソードを付与されない事を気にする事無く、ブラッフォードも歌姫の前に立ち加えられる筈だった攻撃を避け、反撃とばかりにオーラパワーで強化されたロングソードの一撃を見舞う
そんな慌しい地上を余所にイフェリアは悠々と空へ飛すると、ダーツを野犬目掛けて打ち降ろす。
地の利を活かして強襲をかけた野犬達ではあったが、彼らの素早い連携の前にそれは儚く、瞬く間に倒されたのだった。
更に翌日。
昨夜の野犬の襲撃後、交代で休みを取るも疲労の色が隠せない一同だったが山を登りたなびく煙が見えた時、目的の村まであと僅かだと感じ意気揚々と山を登る。
その間、彼らの行く手を野犬の群れが何度か姿を現すも、一同はセネスを守りつつ無事に村へと到達した。
「僕にはセネスがその人の前で笑顔で居る未来が見えるよ。ジプシーの僕が言うんだから、
大丈夫。看病する人の方がそんな落ち込んでたらその人も良くならないからさ」
着いて尚、不安そうな表情を浮かべるセネスの背中をそっと押すトアに、一同も頷く。
「ここまで‥皆様、本当にありがとうございました。村長に話をしておきますので、今日は是非この村で休んで行って下さい」
「あたし達へのお礼よりもまず、早く彼の元に行ってあげたら?」
「そうそう、一番なら大事にしないとね♪」
セネスの一礼にヴィオレッタとシーンの言葉がまた彼女の背中を押す、嬉しそうな表情を浮かべて駆け出す彼女の後姿を見送りつつ
(「‥里帰りする為の護衛の依頼を受けたからかしら? あたしもノルマンにいる両親を思い出しちゃったわ」)
そう思うヴィオレッタ、そんな彼女と同じ事を考えたのかイフェリアは口に出して
「里帰りかぁ〜、うちもせなあかんなぁ‥」
遠くを眺め、呟かずにはいられなかった。
その後、村に住む医者の話では彼、ゼルエス・フェルアニィはやはり野犬に襲われたそうで村に戻ってきた時は全身血塗れだったが、外傷は深くなく若い事もあって暫く安静にすればすぐに動ける様になるだろう、と聞き一同は安堵の溜息を漏らす。
そんな、日も沈み掛けた頃合にどこからか歌声が聞こえてきた。
辺りを見回すと恐らくは彼女にとって大事な彼が住む家なのだろう、その二階のテラスで歌を紡ぐセネスの姿が一同の目に映る。
〜今は暗闇に覆われていても、歩く道すら見えなくても、日は必ず昇るから、勇気を持って歩き出そう〜
「私は好みだが、さして人気が高くないのは大きな所では歌わないからか」
ブラッフォードの問い掛けに、答える者は歌を紡ぐ。
〜生きているから、悲しい事、苦しい事、たくさんあるよ、だけど怖がらないで、諦めないで、前に進む事を〜
「心に染み渡る歌声です‥早く帰ってリオさんに会いたいな」
セレスの歌に、今は遠くにいる恋人を想うユーリアス。
〜光あれ、光あれ、今を生きる人、夢を目指す人、全てに光あれ、いつか必ず、希望の光は貴方を照らす〜
明るい表情を浮かべた彼女の歌声はそれから月が顔を出してもまだ暫く、村中に響き渡った。