【何でもござれ】 〜聖夜に備えて〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月23日〜12月28日
リプレイ公開日:2004年12月28日
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●オープニング
「‥‥それでは、勝手なお話で申し訳ありませんが宜しくお願いしますね」
「いえいえ、こう言う時こそお互い様ですよ」
聖夜祭も後もう少しに控え、降り積もる真っ白な雪の中やって来た依頼人と思しき初老の男性と話している受付嬢。
暫く話していたがやがて一区切りついた様で、にこやかに別れの挨拶を交わすと再び初老の男性は雪が未だ降りしきる外へと消えていった。
「よぉ、何の話だったんだ?」
暖を取りに来た一人の冒険者は暇を持て余しているのか、気になって受付嬢に早速尋ねると彼女は微笑んで
「身寄りのない子供達を預かる修道院の方でね、この時期にもなるとサンタクロースのプレゼントを楽しみに益々はしゃぐ子供達の面倒は見なきゃならないし、新しい年を迎えるに当たって掃除とかもしなきゃならないしで忙しいんだけど、人手が足りないと言う事でお手伝いさんを募集しに来たんです」
「なるほどね」
回答を貰って面白そうだと言う表情を浮かべる彼を見て、次に受付嬢は声高らかにギルドにいる冒険者達へと呼び掛ける。
「そんな訳でその修道院のお掃除やら、子供達の相手をしてくれる方を募集していますー! ちなみに報酬はありませんので悪しからずですー!」
彼女の叫びに、ギルドの一角から「えー」といささか不満そうな声が上がったが
「‥‥うっさい、そこ。まず最後までちゃんと話を聞いてから文句を言いなさい」
ガラリと声音を変えて受付嬢の一瞥にそれは一蹴される。
直後静まった一角に座る冒険者達に、うんうんと頷きながら彼女は改めて続きを語りだす。
「報酬はありませんがー、折角なので子供達と聖夜祭をご一緒しませんか? と言うお招きを頂いています。そちらが報酬の代わりになりますが、子供好きな方とかー、お掃除好きな方にー、その他諸々‥‥とにかく気前良く手伝って頂ける方を募集していますのでよろしくね!」
そう言って彼女は微笑んだ、心優しき冒険者がいる事を願って。
●リプレイ本文
●いざ戦場へ?
「クレリック、私は孫紫竜と申します。本日は御手伝いに参りましたので、遠慮なく御用を申し付けて下さい」
「それと依頼とは言え、手ぶらで来るのもと思いまして花束をお持ちしました。聖夜祭でお使い下さい」
「寒い中ご足労頂いた上に花束まで頂いて‥‥道中寒かったでしょう? どうぞ中に」
一行を代表する形で挨拶を述べる孫紫竜(ea9709)とヴィルジニー・ウェント(ea4109)が差し出す良い香りが漂う花束を受け取り、クレリックは静かに微笑むと一行を中へと招き入れる。
「うふふ、昔を思い出しますね。張り切ってお手伝いしますよ!」
「子供達が笑って聖夜を過ごせるとよいな‥‥でも、素敵な殿方と浪漫チックな聖夜を過ごしたくもあった」
修道院内を元気に駆ける子供達の様子にユーリアス・ウィルド(ea4287)が張り切り、ノース・ウィル(ea2269)は彼女の意見に賛同しながらも少し複雑な表情で溜息を一つつけば
「最近、月道でジャパンからイギリスに来たばかりでまだイギリスという国や言葉に慣れておりません。皆様にご迷惑をお掛けするかも知れませんが、宜しくお願いしますね」
「文化や言語は違えど、そこに住む人達はそう変わりありませんから気楽に行きましょう」
ジャパンにはない荘厳な雰囲気漂う修道院の雰囲気に驚きながら志士の桜澤真昼(ea1233)が呟くも、それを察して優しい声音で諭すラディス・レイオール(ea2698)の言葉に一行もまた桜澤を見て頷いた。
「ま、こう言う依頼だし私達も楽しみながら頑張ろうね!」
そんな皆の様子にムードメーカー宜しくハンナ・プラトー(ea0606)の言葉と同時、クレリックの足が一つの部屋が扉の前で止まるとその扉を開け放った。
「‥‥これは中々大変かも」
その部屋に数多いる子供達を見て、ナロン・ライム(ea6690)は思わず呟く。
これからどうなる事か、楽しみである。
●いつもと違う戦場にて
「さあ! 皆さん、お家にお礼する気持ちで磨き上げましょうね! 綺麗なお部屋で聖夜祭を祝ったり、新しい年を迎えるのは気持ちが良いですよ」
ユーリアスの呼び掛けに子供達の反応は様々だったが、それは予想していたのでまずは気にせず次いで他の冒険者達に声を掛ける。
「それでは、手筈通り宜しくお願いしますね」
そして彼女の言葉に頷く一行、ある者は子供達の群れに飛び込み、またある者は防寒着を着込んで外へと向かうのだった。
「いやはや、これは大変ですね。早く終わらせて皆様を御手伝いしましょう」
「結構な重労働ね、雪かきって‥‥っと!」
腰を伸ばして修道院の屋根に降り積もる雪に向かう紫竜に、楽しげにそれを地へと投げ下ろすピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)。
そんな雪かきに励む彼らに飛来する雪の玉、いきなりのそれにビックリする二人が屋根から見下ろすと同時に響く声。
「皆ー、早く掃除を終わらせようねー!」
修道院中の掃除から逃げて来たのだろう三人の子供に呼び掛ける孫龍鈴(ea8387)は、その子らを追い駆けようとしてか無謀にも屋根から飛び降りようとするピアを見て、彼女より早く逃げる子供達を何とか捕まえ戻ろうとしたが
「そちらの方は大丈夫ですか?」
気配りを忘れない紫竜の言葉に龍鈴は笑みを浮かべ
「中の方が難儀だね、無理しなくていいけど出来れば早めに手伝って貰えると助かるよ」
「分かった、もう少しだけ待ってねー!」
ピアは子供達に高い高いの刑が出来ず少し残念そうな表情を浮かべながらも子供達と修道院の中に戻る龍鈴に手を振った。
「‥‥さて、もう少し頑張る事にしましょう」
雪に反射する日差しに目を細めながら、紫竜は言うとピアと共に雪かきを再開。
外にまで響いて来る子供達の元気な声を聞きながら。
その一方で同じく外にある飼育小屋へ動物好きの子供達と一緒に向かうラディスは、そこに住まう動物達を見ていた。
「僕達がしっかり育てているんだよー、凄いでしょ!」
「本当だね、寒いのに皆元気そうだ」
一人の少年が飼育小屋で飼われている牛や馬、鶏達の間を駆け回って胸を張って言うと、彼は端麗な顔に微笑を浮かべて彼の頭をそっと撫でる。
「どの子も蹄が伸びていますね、切った時はあるかな?」
動物達の様子を見て提案する彼に喜ぶ子供達はそれからラディスの手伝いをしたり、動物についての知識を聞いてはその純粋な瞳を輝かせていた。
もしかすれば此処が一番平和なのかも知れない。
そして修道院内は子供達の手を借りながら掃除をしたり、掃除の邪魔にならない様にと遊ぶ子供達の面倒を見ている冒険者達。
「貴方にとって一番大切な物はどれですか、それ以外は本当に必要かな?」
子供達が自ら使っている遊び道具を整理している中に入って、優しく諭すユーリアスの言葉に悩む子供達がいれば
「私の歌を聞きなさーい」
「ハンナお姉ちゃんが怒ったー」
歌や踊りを教えては簡単なお遊戯会をやろうと考えていたノースとハンナを前に落ち着きのない子供達もいて、中々一筋縄には行かなかった。
そして‥‥リュートベイルを弾きながら遂にはハンナが本気で怒った。
「遊ぶって言ってもね、相手の事も考えてあげなきゃダメだよ。一人よがりな行動で相手の事を傷つける事もあるんだからね!」
「それにね、良い子にしてないとサンタさんが来てくれないよ?」
その真剣な表情のハンナに彼女と一緒に歌を教え歌っていたナロンの一言で子供達は
『‥‥ごめんなさい』
すぐに反省して三人に謝ると、彼女はニッと笑って
「分かってくれたならお姉ちゃんは嬉しいぞー!」
「じゃあまた続きを教えるからね」
フォローを忘れず子供達に抱きつくハンナと、ナロンの呼び掛けに子供達は歌に踊りの続きを教えてと三人にせがみ始めるその傍ら、女の子の身嗜みを整えていたジーニーは最後の子に軽い化粧を施し終えると立ち上がる。
「綺麗になったから、夜まで大人しくしていてね。余りはしゃぎ過ぎちゃダメよ?」
子供達の返事を聞き終えてから年長の子供達と一緒に掃除をしている別室へと足を向け、その部屋の扉を開ける。
「お疲れ様‥‥順調そうですね」
「だね、思ってた以上に捗っているよ」
想像していた様相と異なる内部に驚きながら龍鈴に声を掛けると、手伝ってくれた子供の頭を撫でながら答える。
「この部屋の掃除はお終い、他は紫竜さん方にやって頂いている部屋だけですね」
「皆、手伝ってくれてありがとうね」
桜澤とユーリアスの言葉を聞いてジーニーと子供達は頷き、そして残すは聖夜の夜を迎えるだけとなった。
●聖夜の夜に
夜を迎え修道院のクレリックに子供達と一緒に神に祈りを捧げた後に綺麗に飾り付けされた食堂で夕餉に興じ、今は再び子供達と遊ぶ一行。
「ゴーレムってどうして動いているか未だ分からないんだよー、不思議だよね? でも私達はそれでも依頼人のお願いで、捕まえたりバッサバッサと切り倒したりしているんだー」
「サンタクロースは愛や献身が存在するのと同じ位確実に存在するの、それらがちゃんとあって皆の人生を素晴らしい物にしてくれているのよ。誰もサンタクロースを見ていないけど、それはサンタクロースがいない事の証明ではないよ。もしサンタクロースがいなかったら、クリスマスはもっとつまらないものでしょう。目に視えないものの存在は信じる気持ちや詩だけがそっと教えてくれる‥‥サンタクロースがいるおかげで、今日はとても素晴らしい日でしょ? そう、サンタクロースは永遠に生き続けて子供達に喜びを与え続けている存在なのよ」
昼間の騒動はどこへやら、静かにピアやジーニーの話を聞く子供達の目に映る一つの流れ星。
「この仕事が終わったら、一度きちんと会いに行こうかな‥‥」
「私はこんなに楽しんでますが、他の皆さんはどうしているでしょうか‥‥うん、お土産話を沢山持って帰りましょう!」
それを見て不意にそんな想いに捕らわれるナロンとユーリアス。
「聖夜なのに一人身な私。ああ、かわいそー。でも今日は、皆が恋人だからいっかなー」
そんな中でもハンナは時折感じる寂しさだけを今は忘れようと、子供達に抱きついた。
それは外で子供達と一緒に雪と戯れる紫竜とピアの目にも映った、がそれよりも今は子供達が投げてくる多数の雪玉を避ける事に必死な二人。
ちなみにサンタ帽を被る桜澤は既にダウン、夜空を見上げると呟いた。
「綺麗ですね、今日の夜空はいつもより‥‥聖夜祭だから、なんでしょうかね?」
その矢先、傍らに倒れこんだのは紫竜。
「紫竜様、浸りたい気持ちも分かりますが手伝って貰えませんか?」
多勢に無勢で元気が有り余る子供達の前ではさしもの彼らも無力だった、そして彼の言葉に続いて子供達に引っ張られ一緒に外に出て来た龍鈴もダウン。
「子供は風の子、元気な子‥‥言うだけの事はあるわね」
そんな三人は流れ星を見る暇は与えられず、まだ暫く雪合戦は続くのだった。
風邪で寝込む一人の少女を看病していたノースの瞳にもそれは映り、その子に優しく呼び掛ける。
「今度、流れ星が流れたら願い事をかけるとよいぞ」
囁き、少女の上半身を起こして外を見える様に体勢を変えると直後、夜空を切り裂く流星に二人は静かに眼を閉じて願いを呟く。
「お姉ちゃんは何をお願いしたの?」
祈りが終わって少女はノースを見て問い掛けると、彼女は
「ふふ、内緒だ」
静かに微笑んで彼女の頭を撫でるのだった。
皆さんは、聖夜の夜を幸せに過ごしましたか?
どんな事であれ、幸せだったと言えるならその想いは忘れないで。
そして、少なくとも一行は幸せだったと思う。