山より来たる襲撃者
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月09日〜01月14日
リプレイ公開日:2005年01月14日
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●オープニング
「クソ‥‥今日もか」
村の外にある、冬を越す為に必要となる保存食を収めている一つの食料庫の中が荒らされている事を確認して呟く、村の数少ない自警団員が一人の青年。
「最近間隔も短いし、その被害も大きくなってる‥‥手を講じても今ではその効果も余りない。かと言ってこれ以上やられてはまずいな‥‥」
倉庫の状況も見ながらも、今までの事象を整理すると彼にはもはや答えが一つしか残されていない事が分かった。
「我々の手には負えない、か‥‥なら冒険者ギルドにお願いする他なさそうだな」
そう言うと青年は現場に残る一房の白い毛を拾っては握り締め、外に広がる雪の上に残る幾つもの足跡を睨み付けた。
「今回の依頼ですが、とある寒さの厳しい村で越冬する為に保存している食料を強奪していく白い猿達の退治をお願いします」
「猿かよ‥‥」
ある日の冒険者ギルド、日差しは柔らかく降り注ぐもその風は益々冷たく否応にも冬を実感させる中、到来した依頼を伝える受付嬢に不服そうな呟きを漏らす冒険者。
「猿だからって舐めちゃいけません。常に集団で動き、そのずる賢さは折り紙つき。今まで村の自警団の方も色々と手を施したのですが、一筋縄に行かなかった様で万策尽きてうちのギルドに依頼として持ち込んだそうです」
「しかしそう言った話は余り聞かないが」
「推測の域は出ませんが、恐らくは近くの山で猿達の食料となる冬芽等が今年不作なのでは、と言う話がありますのでそうだとすれば至極当然ですが、しかし‥‥」
冒険者達へ話をする内、徐々に目を伏せる受付嬢だったがやがて首を何度も左右に振ると
「越えてはいけない領域を越えての猿達の狼藉に、下手をすれば村一つが消えてしまいます。早急に猿達を撃退して頂きます様、宜しくお願いします」
「‥‥まぁ、分からんでもないがな」
自らの考えをふっきり冒険者達に伝える彼女に、彼女の父親はその頭に手を乗せ小さく呟くと彼女も静かに頷くのだった。
●リプレイ本文
依頼があった目的の村へと辿り着いた一行はキャメロットから二日程しか離れていないにも関わらず、それとは違う景色に感嘆しつつもその寒さに身震いしながら村長に挨拶を済ませ、村を闊歩する。
「猿達もきっと必死なのでしょうが、死活問題は人間の方も同じ事。仕方がないと割り切るしかないのでしょうね‥‥」
「村の人を困らせりゅ、白いお猿さん達をめっすりゅの!」
深い白銀の世界が広がる村を改めて見やり呟く霞遙(ea9462)に、十歳と言う幼さならではの舌足らずな口調で元気良く決意を述べる遊士天狼(ea3385)の言葉に、当然の事ながら皆が頷くと
「それでは早速始めようか。霞殿、指示を出してくれ」
イリス・ローエル(ea7416)の言葉を皮切りに、一行は早々に食料を奪う猿達を懲らしめる為の準備を始めるのだった。
「添星‥‥餓えて、死んだ。貴女の様な子‥‥出したく、ないの‥‥たまには、真面目に‥‥‥」
持ち込んだ保存食を囮に倉庫で一網打尽にしようと、まずは倉庫に置かれている残り少ない食料を運ぶ一行の中、麗蒼月(ea1137)は妹と思しき名を紡ぎ、過去の記憶に思いを寄せるも運ぶ食料の匂いにお腹がグゥ、と鳴る。
「‥‥駄目‥‥お腹、空いた‥‥」
「犯人はきっとまた犯行現場に戻ってくる‥‥間違いないよ」
「‥‥まだ食料はあるしな」
呟き、それでも我慢する彼女の傍らでは防寒着に身を包み、片手を顎にあて何事か思案しながら現場を観察して独り言を語るハーフエルフのユウン・ワルプルギス(ea9420)に、自警団長は当然の答えを返すも彼女の耳には届いていない様で、今度はしゃがみ込んでまだ残っている一房の毛を掴むと再び語り出す。
「これは‥‥人間のものじゃない。犯人は動物‥‥それも複数だね」
「‥‥それは分かっている、サスカッチと言うモンスターの仕業だ」
「やはり! 僕の推理は間違っていなかった!」
「‥‥」
フードの奥に隠れるエルフの耳よりやや短いそれを見て、違う意味で彼女に不可思議なものを見る様な視線を向ける自警団長のそれに、彼女は気付く事はなかった。
かたや、もう一人のハーフエルフであるヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)は自らの存在を隠す事無く食糧を運んでいたが為に、村人達から無言の対応と言う冷たい洗礼を浴びていた。
「全く、下賎な者はこれだからな」
「それではこの依頼が無事に終わってから一曲歌ってはどうか? バードの‥‥」
そんな彼の村人達を見下す発言を宥める様、気を配ったノース・ウィル(ea2269)の提案に彼は訂正を要求した。
「俺はバードではない、吟遊詩人だ。『旋律のヴルー』と呼んでくれ」
「ならば‥‥旋律のヴルー殿、それでどうか?」
「悪くない提案だ、考えておく事にしよう」
「楽しみにしていますね」
最後の食料を運んで来た本田薫(ea7712)がそれを耳にして言うと、自信家のハーフエルフはキッパリと
「任せておきたまえ、皆の心を震わせる歌を紡ごうではないか」
言い放って蒼い防寒着をはためかせ、倉庫の目張りを手伝う為に再び屋外へと出るのだった。
「‥‥忙しい‥‥」
その頃、倉庫では霞が取り仕切る罠の設置におおわらわ。
しかし想定していた罠を作るのにいささかロープが足りず、村人から買い取った上での作成だったが敵がいつ来るか分からない以上、急いで設置し対応出来る様にしておかなければならなかったから致し方なしと言った所か。
「私は防寒服を被って待機するね! それから、万が一私に襲い掛かっても少しならリカバーポーションで回復出来るから、少しの傷じゃ動じないよ。防寒服を猿が触ったら大声で叫ぶからね」
「兄ちゃ、姉ちゃ、板ないよー。どこ?」
倉庫内で待ち伏せする薫が襲撃の際の打ち合わせをしていれば、それを聞きながらも倉庫の目張りに精を出す遊士。
「これだな‥‥と、通りで寒い筈だ、雪が降って来たぞ」
板を探す幼い忍者に辺りを見回し、それを見つけたノースがまず一枚を手渡すとはらりと舞う一片の雪を目に留め呟いた。
「天、しろふわだーすきー!!」
板を受け取った彼もまたそれを見ると、まだ遊びたい盛りである衝動に駆られて外に飛び出し、雪と戯れ始める。
「もー、しょうがないなー」
その様子に言葉とは裏腹の笑顔で見守る薫はまた後で説明しようと心に決めて、遊士の抜けた穴を埋めるのだった。
それから小一時間、一通りの準備を終えた一行は夜を迎えるとそのまま猿達を迎撃する為見張りを始める。
戦いは、もう間もなく始まる‥‥。
そして日は落ち、辺りを白き闇が覆っていた‥‥いわゆる吹雪。
夕方はまだ静かに降り積もるだけの雪だったが、時間が経つにつれ風は酷くなり今ではこの惨状である。
少なくとも視界に活動共に制限を互いに架せられる状態だったが、倉庫近くにある一つの小屋で微かに見える倉庫を見つめながら発泡酒を飲む事で体を温めるノースは非常に落ち着いたもの、まだ経験の浅い面子もそれを見て落ち着きながらその時を待っていた。
「あれが例の猿共か‥‥よし! 行くか」
程無くしてノースと同じく外を見張っていたイリスが、その優れた視界で何かを捉えると立ち上がり、小屋で待機している他の四人に行動を促す。
「猿が相手とは言え皆、油断せぬ様に」
「まあ、精々頑張るとするか」
イリスとノースの言葉に頷くと五人は、極寒の白い闇が覆う外へと覚悟を決めて飛び出した。
ギィ、とイリス達が待ち伏せをしている倉庫で唯一の出入口の扉が開かれる。
(「猿に見つかって噛まれたっても退治しなくちゃ! いくら山の中に餌がないからって、人様の食料を持っていくのは許せない!!」)
寒気が倉庫に吹き込む中、心の中で叫ぶ本田だったがそれでも今はまだ敵に悟られる訳には行かず身動き一つ取れない本田の耳にしかし、天井から落ちて来る筈の霞手製の罠が降る音は聞こえてこなかった。
敵もさるもの、それには気付いた様子だった。
やがて麗と本田が隠れる場所のすぐ脇に置いてある囮の保存食を喰らう音が聞こえ‥‥その隙を見てか、遊士が扉を背に天井から降り立つと春花の術を唱え展開する。
「喰らうのりゃ!」
食料を前に油断したのか、気付くのが遅れた数匹は倉庫内を包む香に眠りにつき、それを見て残りの猿達は浮き足立つも、一回り体格の大きな猿がまだ起きている面子を導くかの様に入口へと向かう。
「私は剣魔、故に斬られたい者は私の前に来い!」
だが猿達が入口より飛び出すギリギリのタイミング、唯一の出入口の前に立ちはだかって行手を塞ぐイリスに一瞬の逡巡を見せると、挟撃の形で冒険者達に取り囲まれる。
「ごめんね、本当はこんな事したくないの。でも、村人だって必死だから‥‥許してね」
「弱肉強食‥‥自然界の、常識‥‥」
そして振るわれるイリスの刃に血を撒き散らす白き猿を見て小さく本田は呟いたが、迷いを見せず群れに飛び込む麗の言葉を受けて、思考を切り替えると彼女の後を追って攻撃へと転じる。
「獣如きが、身の程を知るのだなっ!」
その中で、ヴルーロウは吹雪で濡れそぼった上での戦闘により瞳を真紅に染めて防御を考えない行動によって蒼き旋風と化せば、それでもまだ動ける猿達は入口の僅かな隙間から抜け出そうと足掻いたが
「逃がしません‥‥よ?」
「それ以上はさせぬ!」
それを封殺する霞とノースの攻撃の前に、最早知恵を働かせる余裕等与えられる事はなかった。
そしてただ一人吹雪の中で立ち尽くすのはユウン、雪の中に隠したロングスピアや石で飛び出してきた猿達を攻撃しようと考えていたのだが、その場所を把握していたとしても操作する為に視認出来る物しか飛ばせない事を直前になって思い出し、今は立ち尽くすのみ。
「迂闊でした、僕とした事が‥‥でも、視界を遮る程の吹雪ですし‥‥」
呟きうな垂れながらも、プライドの高さ故か視界を覆う吹雪のせいにして独り言を暫くの間繰り返すのだった。
最近の村人達の対応に油断している事もあったかも知れないし、日に日に厳しくなる環境を生き残る為に猿達も焦りを覚えてか、半ば力押しな吹雪の中の襲撃だったが冒険者達の活躍で、村への被害は最小限に抑えられた。
天候に助けられ苦しめられながらも、一行は無事に目的を達成した。
「‥‥もしかしたら結構可愛かったかも‥‥残念」
「血で手を汚す、剣魔の道を行くと決めたのだから当然か」
翌朝、昨夜の吹雪が嘘の様に晴れ渡る空の下で隠した食料を運ぶ一行の中、まだ倉庫の前に残る骸を見て哀悼を捧げる(?)霞と自ら進む道を律するイリスだったが
「猿が害を及ぼすのは、もしかしたら人を恐れなくなったと言う側面もあるかも知れぬな」
「‥‥また出て来る様になったらどうすればよいじゃろうか?」
「その時は、火で追い払うのも手かもね」
「木酢液‥‥村や食料庫の、周りに塗って、おくと‥‥いい、わ。‥‥ちょっと、臭い‥‥けれど‥‥山火事の、臭い、似ていて猿、寄ってこない‥‥」
難しい表情で呟くノースの思案に村長は頷き懸念を口にすると、対策についてもしっかり考えて来たのだろう、麗に本田は親身になって手解きをする。
しかし猿を、自然を侮る事なかれ。
またいつの日か、何処かで牙を剥かれ困る人達が出る事であろう‥‥だが今は
「今回も見事に事件解決、だね‥‥さすが僕」
満足そうに笑みを浮かべるユウンの言う通り、事件は解決したのだ。
「『僕』、じゃなくて『僕りゃ』なのりゃ!」
遊士の突っ込みに一行は笑いながら頷いた時、約束通りに朗々とヴルーロウの歌声が竪琴と共に村中へ響き渡った。
「白き魔獣、吹雪と共に人を襲い〜♪ 村に積もる雪が悲劇を消し去る〜♪ そこへ勇ましき者達現れる〜♪ 忍の技、獣を眠りにつかせて〜♪ 戦士の剣、真白き雪を赤く染め上げる〜♪ そして吹雪止み、日はまた昇る〜♪」
とにかく、今回は終幕である‥‥また、その日が来るまで。