【怪盗の影】 〜蝶々仮面〜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月18日〜01月25日

リプレイ公開日:2005年01月25日

●オープニング

「ファンタスティックマスカレード‥‥ね」
 ある屋敷の一室、灯りもつけずに一人呟いたのは青年。
「許せないね、この僕を差し置いてキャメロット中にその名前を轟かせたこいつは」
 やがて彼は立ち上がり、月が浮かぶ夜空が見える窓辺へ赴きその下に佇むキャメロットの町を見下ろすと、手に持つ蝶を模したマスカレードを装着してやがて窓を開け放った。
「今だけは許そう、だがいずれ僕の名が君の事など掻き消す事を‥‥証明して見せよう」
 そして彼はその窓辺から身を宙へと舞わせた‥‥って此処三階なんですけど。
 その後、彼がどうなったかは‥‥続きをお読み下さい。

「ファンタスティックマスカレード‥‥か」
 珍しく顔を出したかと思えば、これまた珍しく暇を持て余しているのか冒険者ギルドのカウンターに転がって呟くのはレイ・ヴォルクス。
「聖夜祭で交換用のプレゼントをごっそり盗られてからと言うもの、その話題で持ち切りですね‥‥それと、それに便乗して最近はあちこちでファンタスティックマスカレードの名を語る人も出ている様で、なんか益々治安が悪くなって来ていますよ‥‥忙しいったらありゃしません」
「ふむ‥‥例えばどんな奴だ?」
 彼の言葉に反応して、年が明けてまだ間もないにも関わらず忙しい冒険者ギルドの実情に思わず愚痴をこぼす彼女だったが、ファンタスティックマスカレードの名を語る者と言う単語にピクと反応して尋ねるレイ。
「えーと‥‥私が聞いているのは蝶を象ったマスカレードにマントを羽織って、その下は全裸に下着一枚で夜な夜なキャメロットの街中を徘徊しては、妙な掛け声と変なポージングで人々を脅しては『ファンタスティックマスカレードではなく、私こそが最高だと人々に言い回れ‥‥さもなくば』とか言って、その怪しい格好で迫って来るそうです‥‥中には夢に出て来るまでの心的被害を受けた方もいるそうで、目を瞑っていられる状況じゃないんですよね‥‥ファンタスティックマスカレードの事で手一杯なのに、はぁ」
 説明してまた溜息をつく彼女に
「成程、それは面白そうだな。よし分かった、それ程に困っている人が多いのなら私が依頼人になってそのパピヨンとか名乗る奴を捕まえようじゃないか」
「いいんですか? そうして貰えると助かります。被害の割に依頼人になってくれる方がいなくて困っていたんですよ‥‥それとそのついでにで申し訳ありませんが、ファンタスティックマスカレードについても調査の方をお願いしていいでしょうか? 恐らく情報を聞いて回る事しか出来ないでしょうが、今後の為に必要となる情報があるかも知れませんので」
 相変らず疲れた表情で喋る彼女にレイは一つだけ頷いて返事をするのだった。
「任せろ、君はブラボーな結果を待っているといい」
 そして踵を返すと冒険者ギルドを後にするレイだったが、そんな彼の背中を見て受付嬢は一人ごちる。
「‥‥尚更心配だと思うのは気のせいかしら?」
 それはまだ、神のみぞが知る事。

●今回の参加者

 ea0333 フォーリス・スタング(26歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1252 ガッポ・リカセーグ(49歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6159 サクラ・キドウ(25歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7981 ルース・エヴァンジェリス(40歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb0142 鳳 萌華(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「折角前回はまともな依頼を受ける事が出来て喜んでいたのに、また変態の相手‥‥キャメロットは変態が多過ぎです」
「なんて言うか、多いですよね。迷惑な人ばかり」
「栄光の我が街は変態だらけ、か‥‥ふぅ」
 依頼人であり、同行する一行と同じ冒険者としてレイ・ヴォルクスと顔を合わせる一行の中、サクラ・キドウ(ea6159)は複雑な表情を隠す事無く呟くと、フォーリス・スタング(ea0333)にガッポ・リカセーグ(ea1252)も頷く。
「だからこそ、我々がそれを捕まえていくのだ。キャメロットを平和にする為にな」
 そんな落ち込む三人の肩を叩いて励ますレイ、初見の一般市民ならその格好に「怪しい奴」と思わずにはいられないだろうが、冒険者達はそんな事では怯まない。
「お久し振りであります、レイ殿」
「お久し振り、ミスタ」
 平然と挨拶するアンドリュー・カールセン(ea5936)とルース・エヴァンジェリス(ea7981)の顔を見て、レイは微笑を浮かべ
「うむ、久し振りだな。今回も期待しているぞ」
「はっ、精一杯頑張る所存で臨みます」
 二人の挨拶に頷き激励すると、そのやりとりを見てチョコ・フォンス(ea5866)は率直な(?)印象を交えた挨拶をする。
「レイさん、初めまして‥‥ん、なんか只者じゃないって感じがするね。この度はよろしくお願いします」
「そう見えるなら君も只者ではないのだろう、共に頑張ろうではないか」
「所で今回の依頼、どうして出した訳?」
 不敵な笑みを浮かべる二人の間に入って尋ねるルースの言葉に、彼が答えようとしたが
「それなら歩きながらでも話せますわ、まずは二人のマスカレードについての情報を探しましょう。そんな輩は早く捕まえないとね」
「そう、それが今回の依頼だしね‥‥」
 ロア・パープルストーム(ea4460)に静かに頷く無表情な鳳萌華(eb0142)らの提案を受けて、彼は皮のジャケットを翻し
「そうだな。君らの言う通り、それが先決か。今回の件においては思う所があったのだが、それは時期に話す事にしよう」
 そう呟くと一行と共に、人々が穏やかに歩く街中へ飛び出すのだった。


「どんな風に出現したのかとか‥‥知っている事を教えて下さい、思い出したくないかも知れませんが」
「うぅ‥‥」
 聞き込みで得た情報から一人の被害者宅を訪ねるサクラ達はその本人に尋ねるも涙ぐむ被害者の女性、当然と言えば当然の反応ではある。
「少し落ち着いて、ゆっくり話して貰えればそれで構わないから」
「は、はい‥‥あれは空から舞い降りて私の前に来るや‥‥マントを脱ぎ捨てて変なポーズを取ると」
 ガッポの言葉に少し落ち着いてか、彼女は語り出すも徐々に小さくなるその声はやがて途切れ
「青い蝶がーーー!」
 叫び、蒲団を頭から被るその様子にガッポは蒲団の上から彼女の頭を撫で落ち着かせると、静かな怒りに震える。
「変態マスカレードめ」
 唸るガッポではあったが、マスカレードについての有益な情報はその後も得る事はなかった。

 かたや、アンドリュー達は二人のマスカレードを追い掛ける。
「妙な仮面をつけた男を知っているか」
「見たと言えば見たわ、夜の街の屋根を飛び交う真っ赤な仮面を着けた人」
「私は顔全体を覆う布地の仮面を付けた、がっちりした方を見ましたが?」
「いいえ、長い金髪が夜風に舞っていましたよ。それは偽者じゃない?」
「華奢だったと思うんですけど、気のせい?」
「結構鍛えていると思う‥‥私の目にはそう映ったわ」
 雑談に花を咲かせるおばさん達を目標にアンドリューは尋ねると、更に会話はヒートアップ‥‥どうやら最近の話題はファンタスティック・マスカレードの事で持ち切りらしい、少なくとも此処の一角は。
「情報提供感謝‥‥する」
 アンドリューはその話が長期に渡る事を見越し、適度な所で打ち切ろうとするもおばさん達はアンドリューを離さない。
「‥‥どうしたものか」
「必要そうな情報だけ覚えておく事に努力しようではないか。ブラボーだ、アンドリュー」
「はっ! お褒めの言葉、感謝し‥‥ます」
 そんなおばさん達の様子に絶句する鳳へ、レイは揉みくちゃにされているアンドリューを励ましては微笑むのだった。


「蝶の仮面を被った最低男が出るらしいので、皆さん気をつけて下さいね〜。最高なのはレイさんだし♪」
「‥‥そう、ブラボーだけで十分。仮面の男は不要でしょう」
 夜は夜で毎日、得た情報から仮面を着けた二人の男が現れた場所を駆け回っては、まだ外を出歩いている住民達に警戒の声を上げていた。
 そんな中でも犯人の次の標的をレイにすべく夕刻の酒場でそれを煽る発言を繰り返す事に努力した一行の努力は遂に最後の日になって実る。
「いたわ、あそこの屋根の上。噂通りの格好ね」
 暗がりに身を潜め、レイと囮役を買って出たフォーリス、ルース、サクラ三人をそう遠くない位置で見守りつつ周囲の状況をインフラビジョンでロアが警戒する中、それを見つけると月明かりもある事から通常の視力に戻しその格好を遠目で静かに笑うと同時、その変態は言葉を紡ぎ出した。
「貴様らか、私の事を馬鹿にしては探し回っている愚かな冒険者達と‥‥レイ・ヴォルクス、まさかお前もだったとはな」
 蒼い蝶の仮面と身に纏うマントを着けた男は、レイに指を突きつけ変なポーズを取っては威嚇(?)する。
「‥‥やはり、久しいな」
 しかしそんな事に突っ込む事無く名を呼ばれた本人は真面目に答えると、ルースは突っ込み忘れていた件を思い出しては尋ねた。
「し、知り合い?」
「何、昔の顔馴染みだ。格好良さの道を違えてしまったな」
(「そ、それだけ‥‥? しかもどんな顔馴染み‥‥?」)
 退路を断つべく物陰に隠れるガッポとアンドリューは叫ぶ事叶わず、とりあえず心の内で突っ込むも今は会話が続く。
「今更貴様の言葉に耳を傾ける気はない、過去の決着を今こそ‥‥」
「オイタする子にゃ天誅よ! 天と地より遣われし正義の‥‥えーと、画家参上!!!」
 何やら因縁めいた台詞を紡ぐ仮面の男を遮ったのは、その変態を取り囲むように現れる冒険者は一人のチョコ、まるごとメリーさんを着込んでの登場予定だったが生憎と持ち合わせておらず、その点だけが口惜しい。
「あーっはっはっ、待っていたよパピヨン。この私があんたを見定めてやろうじゃないか」
 沈黙する変態にそれを好機と見るや、チョコは高笑いをあげじっくりと画家の目で観察を始める。
「‥‥なってないわ、仮面を付けて顔隠す様な奴を私は最高とは認めないっ!」
 闇の中で鋭く光る眼光を走らせ、ビシッと指を突きつけては変態をそう断言するも
「‥‥お前の言い分など知るかぁ! 見て驚愕せよ、我が羽撃(はば)たきを!」
「ふっ、その前に貴方が落ちなさい」
 そして遂に切れる変態はチョコ目掛けて飛び掛かるも、宙に舞うその足に闇よりホイップを絡ませその行動に枷をかける鳳とそれに続いて鼻で笑いスクロールを開くロアはチョコが持つランタンの炎を操って、そのマントに火をつける。
「へ、変態が出たぁー!」
 そしてその直後、変態の様子に唖然とするフォーリスの目の前に着火したマントに慌てふためくそれが舞い降りてくると、意識を取り戻すと同時に一瞬でファイアーボムを完成させ、それを零距離で炸裂させた。
「ああぁぁぁーーーー‥‥‥」
「ブルァアッ!」
「‥‥ぶち撒けた」
 自ら焦げながらも彼方に吹き飛ぶフォーリスとは裏腹に、叫んでは血を吐きながら宙を舞う変態に辛辣な笑みを浮かべる鳳の背後から駆けるのはルースとサクラ。
「迷惑千万。現れて早々失礼だけど、退場して貰える?」
「変態はゴキブリみたいなもの、一人見たら三十人‥‥ならばこの武器がピッタリです」
 呟きと共に振るわれるルースの闘気を纏った拳に変態は体を九の字に曲げれば、サクラのGパニッシャーが脳天を捕らえて一瞬の内に全裸の蝶仮面の意識を刈り取った。
「むぅ、私が出る幕がなかったな」
「そうね‥‥大した事なかったし」
 うな垂れるレイに詰まらなそうな返事で答えるルースだったがそれは一対九ともなれば当然の結果‥‥だがその時
「私の名を語る者が一人、葬ってくれた事に感謝するよ。冒険者の方々」
 闇の中より響く声、しかし辺りを見回せどその姿は見えず。
「どこよ、出て来なさいっ‥‥ファンタスティック・マスカレード!」
「探した所で無駄。私は何処にでもいて、何処にもいないのだから」
 その言い回しに何者であるかを即座に悟り、叫びながらインフラビジョンで周囲を探るロアの目におかしな場所での熱源を探知した。
「‥‥そこかっ」
 そして彼女が言葉を紡ぐより早くレイは、ロアがそれを見つけた場所と同じ‥‥道の片隅にある木材の山を手刀で薙ぎ払う。
「ちっ」
「折角ここまで来たんだ、同類と一緒に休んでいけばどうか?」
 舌打ちと共に崩れる木材の中から飛び出した影を察知したアンドリューがナイフを放るも、それは壁に突き刺さるのみ。
「少々油断が過ぎた様で‥‥手強い君達に捕まらない内に失礼させて貰う事にするよ」
 まだ何処からか聞こえてくる声音に含まれる余裕の残響が消える中、姿は見えずとも探す一行だったが彼だけは遂に見つける事が出来なかった。


 こうして期待していなかった珍客の来訪こそあったが蝶の仮面を着けし者は無事に捕らえ、牢獄へと繋がれる事になった。
「一体何が目的だったのかしらね?」
 ガッポが昏倒するパピヨンマスクをロープで縛り上げる中、呟いたロアが気になるのも尤も。
 犯行の動機は、軽業師として生計を立てていた彼が華麗に物を盗むファンタスティック・マスカレードへ抱いた一方的な嫉妬による犯行だった。
 こうして不可思議な事件は解決し、変態がまた一人減ったキャメロット。
「これで一人の変態はいなくなりました。でも、きっとこの後に続く変態が‥‥いて欲しくないですね」
「‥‥全く」
「そうだな、しかし君達には茶番を見せてしまった様で申し訳ないな」
「そんな事はありません」
 溜息を漏らすサクラに言葉少なに頷きながら賛同する鳳と、帽子を目深に被って彼女と同時に頷いては一行に詫びるレイ。
 だがそれを気にする事無くアンドリューが敬意を払って慰めると彼は一行に向き直って感謝の意を示すのだった。
「ブラボーだ。その心遣い、忘れる事なき様にな」
「はっ!」
 アンドリューと他の皆‥‥全員かは分からないが彼の言葉に答え、敬礼した。
 とにかく彼らがいる限り、キャメロットの未来は昇る朝日が如く眩しいものだろう。