そのゴーレム、凶暴につき

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月31日〜02月13日

リプレイ公開日:2005年02月06日

●オープニング

「こんにちは‥‥」
 開く扉の音とそれより小さな声で冒険者ギルドに入って来たのは、ルルイエ・セルファードだった。
「あら、こんにちは〜。今年もよろしくねっ!」
 そんな彼女にあいも変わらず元気に挨拶を交わす受付嬢だったが、ちょっと彼女の様子がおかしい事に気付くと
「‥‥どうしました?」
「いささか困った事が起こりまして、冒険者の方々のお手をお借りしたく‥‥」
 尋ねる受付嬢にルルイエは僅かに苦笑を貼り付けて事の顛末を語りだす。
「実はアシュドさんが以前捕獲していたゴーレムの内、二体程が‥‥研究用に買い取ったノッテンガムの屋敷から逃げてしまって、それの処置をお願いしたいんです。不幸な事にも今、そのゴーレム達が進んでいる方角の先には市街地があって‥‥十分に危険な物なので対処や手段等その結果においては問わず、市街に到達する事をなんとしても阻止して欲しいのです」
「あちゃ‥‥で、ゴーレムは壊しちゃってもいいって事?」
「はい。今回は状況が状況なので結果云々よりも、どの様な形であれ迅速に対応して欲しいとの事でした」
 事の重大さに頭を抱えながらメモを取る受付嬢に、ルルイエは更に続ける。
「詳細に関してはこれから伝えますが、今回は同伴者無しと言う事で申し訳ありませんが皆さんだけでお願いします。私も今はアシュドさんから頼まれた別件で忙しくて」
「そう言えば‥‥肝心のアシュドさんは?」
「実はゴーレムが逃走した際に‥‥」

〜以下、回想〜
 ノッテンガムにあるゴーレムを研究する為にアシュドが買い取った屋敷にて。
「あぁっ! ゴーレムを封じていた氷の棺が溶けて‥‥‥‥動いている様が何とも素敵だぁ!」
 やや長い期間にかけて目を離し、心配になって保管していたゴーレムの様子を見に行ったアシュドは起動しているその様に慌てるが、それも一瞬でゴーレムを愛する余りに飛びついたりしてみる‥‥何故? と言う突っ込みは野暮だからしない様に。
 ボグゥ!
 しかしそれを攻撃と判断した一体のゴーレムは、その拳を如何なく振るいアシュドを排除する事に成功する。
 ‥‥後はお察し下さい。

「と、こんな事情で療養中です」
「いやに早い説明ですね‥‥らしいと言うか、何と言うか」
 冷静に告げるルルイエに呆れる受付嬢は共に溜息をつくも、ルルイエは改めて言葉を発する。
「そう言う訳でして、非常に申し訳ない依頼ではありますが宜しくお願いします」

●今回の参加者

 ea1180 クラリッサ・シュフィール(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2182 レイン・シルフィス(22歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2686 シエル・ジェスハ(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea6591 シーナ・アズフォート(31歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6914 カノ・ジヨ(27歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7050 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea7712 本田 薫(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 一人馬を駆るアトス・ラフェール(ea2179)はキャメロットを発とうとしていたルルイエに何とか追いつくや、物腰柔らかい様子で彼女に話しかけた。
「良かった、間に合った様で‥‥少しお尋ねしたい事があるのですが構わないでしょうか?」
「貴方こそ大丈夫ですか? えーと、アトスさん?」
 状況を理解しているからこその気遣いにアトスは一つ頷くと、馬から降りるや早速質問を切り出した。

 その一方、馬が使える事を考慮した上でアトスより先行して馬車でノッテンガムへと向かう九人。
「不束者だけどよろしくねっ」
 ガタゴト揺れる馬車の中、鼻歌を歌いながらの本田薫(ea7712)が挨拶に頷きシーナ・アズフォート(ea6591)は明るい調子で
「ゴーレム退治だ、楽しく行こう〜♪」
「楽しく、はどうかと思いますが私の騎士道に賭けて、街の方々を守らなければ〜」
「しかし壊していいとは言うものの、本当に壊せるのか今一つ‥‥」
 言うも、のんびりだが少しシーナを窘めつつクラリッサ・シュフィール(ea1180)が自らの意を発せば、双海一刃(ea3947)はその冷徹な瞳に僅かな不安を宿す。
 想いは人それぞれで、だが気負いや不安がないと言えば嘘になる。
「けれどアシュド君も迂闊だねー、いつかやりそうな気はしたけど」
 そんな少し張り詰める雰囲気を笑い声で払拭したのは、今回ドジを踏んだ依頼人を知るピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)。
 彼女の言葉を当の本人が聞いていたらどんな反応を取るか面白そうな気もするが、余計な一言がついているので余り宜しくないかも知れないが何はともあれアシュドはおらず、場も和めば結果オーライである。
「ノッテンガムまで、まだ大分日数も掛かりますし今の内に準備出来る事はしてしまいましょう」
「そうです‥ね。予め打合せ等もしておけば、直前に駆けつける事になっても連携も行い易いでしょうしー」
 その雰囲気に自然体となった一行の中、やるべき事を思い出しシエル・ジェスハ(ea2686)が提案すれば、カノ・ジヨ(ea6914)は宙を飛び回りながらも賛同すると皆は狭い馬車の中ながらも出来る事を開始した。

「ゴーレムが市街地へ向かう理由に心当たりはありませんか」
 馬車にいる皆の話が行動へと変換されている頃、アトスはルルイエに最後の質問をしていた。
「私からは何とも言えません、アシュドさんでもそれは果たして分かっているか‥‥」
「そうですか、引き止めてしまって申し訳ありませんでした。お互いに急ぐ身ですし、私はここで失礼します」
 淡々と語る彼女に、残念そうな表情を浮かべるも引き止めた事に頭を下げて詫びると再び騎乗して愛馬の踵を返して馬車で先行する一行に追いつく為、駆け出すのだった。
「申し訳ありませんが、よろしくお願いしますねー」
 遠ざかる彼の背中にルルイエの声が響けばアトスはそれに、振り返らず片手を挙げ応えるのだった。


 それから数日、アトスと無事合流し全員が揃った一行は予定通りノッテンガムへ辿り着くとアシュドの依頼でボーンゴーレムの動向を探っていたシフール達と合流する。
「とりあえず〜、ついさっき確認出来た場所は此処と‥‥此処です〜。それ以前の進行がこーだから〜‥‥」
「この辺りが予想されるポイントかな? だとすれば丁度いいですね〜、分断する手間が省けて」
 ニーベと言う、シフール達の代表が紙片にノッテンガム周辺の簡単な地図とゴーレム達の辿っているルートを描き示すその筆の進みとは裏腹な、のんびりした口調の彼女より先に回答を導くサーシャ・クライン(ea5021)と、彼女の推測にレイン・シルフィス(ea2182)も静かに頷き
「しかし二体のゴーレム、互いの距離が結構離れていますね‥‥」
 問題点を一つ上げては、秀麗な顔に皺を寄せては一つ唸った。
 そして、サーシャに言うべき回答を言われてしまったニーベは今にも泣き出しそうな表情を浮かべていたりするが
「大丈夫っ! 皆の力を集めればきっと倒せるよ!」
「そうだな‥‥ここまで来た以上、やる他あるまい。手筈通り、様子を見てくる事にする」
 そんな事には気付かず、前向きな本田が檄を飛ばせば双海は愛想なく返しつつも打合せ通りに自らがやるべき事を行う為、踵を返しては森の中へと静かに消えて行く。
「‥‥あ、私も行きますー」
 そんな彼の後姿を見て自らのやる事を思い出したマイペースなカノ、ワンテンポ遅れて森へ消えた双海を羽ばたき追えば、それを合図にシフール達も各々行動を再開する。
「それじゃ〜ぁ、皆さんは〜‥‥」
「此処と此処で待っていればいいかな?」
「‥‥うわ〜ん!」
 ニーベの指示より、今度もまた早くサーシャが的を射た発言をすれば泣きながら飛び立って行った。
「‥‥それでは、二班に分かれて打合せ通りに行動する事にしましょう」
 そんなニーベの反応にどうしたものかと少し困りつつもサーシャの言葉に一行はゴーレムを破壊する為、動き出した。
 ノッテンガムの街を守る為の決戦は、間もなく始まろうとしていた。


 先にボーンゴーレムと接触したのはクラリッサ達、前衛に重きを置いた五人だった。
 いの一番に出遭ったのは先行する双海だったがそれは彼を気にする事なく、ただ何処かへと進み続ければ、そんな戸惑う双海の様子を捉えたシフールの連絡を受けた四人は彼と合流した上で迎撃に当たる。
「申し訳ありません、こちらの都合で氷漬けにしておいていざ危険になったら壊すしかないなんて。でも大勢の人の安全を守る為、あなたがこれ以上罪を重ねない為‥‥そして何より私の報酬の為、覚悟して下さい!!」
「そうですよ〜、此処から先へは絶対行かせませんからね〜」
 最後の一言で自らを現すシエルに、緊迫した場面にも拘らず間延びした口調のクラリッサが口上を述べると、何故か動きを止めていたゴーレムはそれを聞き終えてか再び動き出す。
 しかし動き出したそれは先程と変わり、木を薙ぎ倒さん勢いで攻撃を繰り出してくる。
「く‥‥流石に一筋縄ではいかんか」
 相手の形状故にと普段と違う武器で臨む事に戸惑いはなかったが、それでも双海一人の手には十分余るった。
 しかし、今の彼は一人ではない。
「大丈夫ですっ、これ位なら♪」
 硬い装備に身を包むクラリッサがその攻撃を一手に引き受ける中、明るく言い放つ言葉とは裏腹に油断なき体捌きでその攻撃を掻い潜るシーナと共に着実に攻撃を当て、その体を削り取る。
「けど流石に頑丈ですね」
 そしてそれを補佐するシエルはピンポイントで関節を狙って矢を射れば、倣ってサーシャもまた距離を置きつつ彼らの牽制にと魔法を放つも、未だ平然と動くそれを見て嘆息を漏らす。
「でも、まだまだですよ〜!」
 そんな、激しいゴーレムの攻撃に押されるクラリッサは少しずつノッテンガム市街へ歩を進めるゴーレムを押し返すべく、叫んでは闘気を纏ったメイスを再び振り抜いた。

 さてもう片方の五人だが、こちらはクラリッサ達よりも比較的バランスの取れた編成でもう一体のボーンゴーレムに挑んでいた。
「来たれよ、降り注げ‥‥光輪の矢」
 こちらはレインのムーンアローと、駆ける前衛の戦士達から注意を離す為に上空から放たれるカノのホーリーを軸に攻撃が展開されるも、要となるアトスのコアギュレイトは中々ゴーレムに効かなかった。
「つぅー、結構硬いよぉ〜。手が痺れそう‥‥でも、此処から後ろには行かせないっ」
 叫ぶ薫の背後にはまだ遠くではあるものの確実に街が近付いてきており、何度かの打ち合いにそう叫んでは全てを打ち砕く炎を纏った斬撃を振るうも、それは回避されて体が泳ぐ。
「やらせない、ですよ〜」
 それを狙ってゴーレムも鋭く腕を叩きつけようとするも、カノのホーリーに阻害され近くの木を激しく打ち揺らせば、その腕は食い込んで抜けなくなる。
「ほらっ、今だよアトス君!」
 その暇を見逃さずピアが叫べば同時にアトスは再び、それを縛り付ける言霊を唱えた。
「今度こそっ! 我が言葉に従いて‥‥束縛されよっ、かの魂!」
 そして‥‥それはやっと動きを止め、五人は安堵しながら再び動き出す前に攻撃を再開するも、その心境は複雑だった。
「脱走したのが悪かったみたいだね。大人しくしていれば壊されなくても済んだのに‥‥」
「そう‥‥ですね、こんな事にならなければ破壊したくはありませんでした」
 静かに呟く薫にレインを見て、カノはまだ戦っていると思われる五人の事を思い出すと彼女は飛翔を始めた。

「く、くぅ〜」
 ゴーレムの攻撃を受けて強かに吹き飛ばされるクラリッサは頭を振って立ち上がろうとするも、その隙にシエルとサーシャ目掛けて駆け出すゴーレム。
 足をふらつかせ追い駆ける事が叶わないクラリッサに、双海とシーナも取る戦法故にいきなり駆け出すゴーレムに対応出来ず、その足を止めようと遠距離攻撃に切り替えるも効いている様子はなかった。
「チェックメイトッ♪」
 しかしそれに冷静に対応するサーシャは、ギリギリまで弓で攻撃を加えるシエラに手で合図して後方に下がらせるとゴーレムの腕が届く目前の距離でトルネードを展開、それを中空に舞い上げると地に叩きつけた。
 そのダメージは大した事がなかっただろう、だがしかし中空より落下した衝撃に今迄蓄積されていたダメージが解放されてか、足の一本を奪う事に成功した。
「大丈夫‥‥ですよっ」
 じたばたと這いずり回るそれを見て、クラリッサの治療に当たって握り拳を作っては大事がない事を伝えるカノに
「い、一応‥‥なんとかなりましたね〜」
「戦闘も恋も、最後まで諦めないんだからっ♪」
 彼女が微笑み安堵の息を漏らせば、そんなクラリッサを意味ありげに見て微笑んでは明るく勝利宣言を告げるシーナであった。


 それから無事依頼を解決した一行は、キャメロットへ帰る馬車がノッテンガムを経つまで余り時間がない中にも拘らず折角だからとニーベの話から、これから調査する屋敷の代わりに領主が提供する家に身を寄せていたアシュドを訪ねる。
 床に伏せる彼の様子は思った程の怪我ではないらしいが、不思議と派手に包帯が巻かれていた事がいささか気になった。
「ゴーレムだって生きてるんです。愛しているなら二度とこんな事が起こらない様にして下さい!」
「すまんが、危険物の取り扱いはもう少し慎重にして貰えると助かるのだが‥‥」
「何がそこまでアシュドさんを突き動かすのかは分かりませんが、まず命を大事にして下さいね‥‥それで、ゴーレムはどうして市街地へ行ったのでしょうか?」
 しかしそれを気にする事なく一行の口から次々出るのは心配半分と非難半分の言葉‥‥そして、最後に紡がれるレインの疑問までを一通り聞き終えてから彼は
「あぁ、十分懲りたさ‥‥で、最後にあった質問なんだが正直な所分からない。何らかの命令が与えられ稼動するのがゴーレムだが、今回の件のゴーレムもまた調査中でね。どんな命令が与えられていたのかまでは‥‥」
 皆の言葉を受けて力なく微笑みながら最後の問いに対する答えを口にすれば、一行の好奇心は儚くも砕け散る。
「なーんだ、残念。でもアシュド君、そんな調子で本当に研究進んでいるの?」
「それに、またいづれやりそうですね」
 そしてその腹いせか、紡がれるピアとアトスの容赦ない言葉に一行も頷けば。
「痛い所を突くな‥‥」
 顔を俯かせ小声で呟くアシュドの様子に一行が笑えば、少々しょぼくれながらもしかし事件が解決した事に内心、胸を撫で下ろすのだった。