●リプレイ本文
●始まり.1
「‥‥よぉ、これなんだ?」
遡る事、十数年前。
重い岩を苦労して退ければその下にはいささか不自然な小さな扉。
「見たまま、扉だろ? しかしなんだろうな‥‥」
呟き、問い掛ける青年に、答えるもう一人の男はその小さな扉を開けると木製の小さな階段が下へと伸びているのを見つけ、どうしようか逡巡するも恐怖心より好奇心が勝った彼はそれを下へと降りていく。
「お、おい‥‥危ないぞ」
「大丈夫だって。怖がりだな、お前も」
扉を見つけた男が不安そうに止めるも、それを気にする事なく降りて程無く
「へぇ‥‥ちとガタ来てるけど、直せば小さな倉庫に使えそうだぜ。村から少し離れているけど、家を建てるのには十分なスペースはあるし、依頼された倉庫付の一軒家を建てる場所としてはうってつけかもよ」
入口から差し込む陽光を灯りの下、長い時を経てか腐敗している材木で周囲が覆われている空間をグルリと眺め回し、彼はまた一つあるものを見つける。
「って、ここの壁だけ金属か。扉がまたある‥‥よっ‥‥‥‥っとここは開かねぇや」
「とりあえず戻って来いよ、親方に報告しに行こう」
「そうだな」
地上から呼びかける男に頷いて、階段を再び上ろうとした時だった
‥‥‥ォォォーーー‥‥‥
「なんだ‥‥扉の奥から、か?」
それに気付いて引き返し開かずの扉に耳を当てて澄ませるも今は何も聞こえず、吹き込んでくる風にその風鳴り音だろうと判断すると
「ま、いっか」
彼は特に気にする事なく、それだけ呟いて地上へ伸びる階段を改めて上り始めるのだった。
やがてその上に家は無事建設された、それを塞いでいた巨大な岩は放置されたままで。
この時、それを気にして調査をしていれば未来は変わったかも知れないが、それを言った所で今がどうにかなる訳でもない。
そして、十数年前から‥‥いや、もしかすればもっと昔から続いていたかも知れない怪音の原因を断つべく、八人の冒険者がその小さな村へと辿り着いた。
●いざ開かん 〜調査編〜
「初めまして、深き森『知の部』所属、楽士担当のケイ・ヴォーンです。私の事はケイと呼んで下さい」
ケイ・ヴォーン(ea5210)の丁寧な挨拶から始まったこの依頼、道中は何事もなく目的の村へと辿り着いた一行は早速依頼人の家を訪ね、問題となっているその扉を確認する事にした。
「‥‥開かずの扉から聞こえる異音ですか、さぞかし不安でしょうねぇ?」
「まだ不定期なのでいいんですけど、気になる時は気になって‥‥」
「やっぱり変な音が毎日鳴り響く中での生活は嫌だよねー」
行動次第では村人との接触もあるこの依頼、ハーフエルフであるが故に防寒服のフードで耳を隠して行動すると決めたアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)はそれでも依頼人である家主の妻に優しく気遣うと、婦人は少し張り詰めた表情に少しだけ笑みを浮かべ状況を話し、ハンナ・プラトー(ea0606)が明るい声音で賛同すればその直後に一行は目的の扉へ到達した。
「これがその扉ですか‥‥ふむ、頑丈そうであるな」
倉庫一面の材質は木材だったが、例の扉がある壁だけは重厚な金属で覆われている事に一行は少しビックリするが、落ち着き払った表情で王零幻(ea6154)が遠目から見た率直な感想を口にすれば
「確かに‥‥特に変わった文字や文様はないですね」
「普通の扉となんら変わらないわね。鍵穴もあるし、ただ単純に鍵が掛かっていて開かないだけなのかしら?」
その青銅製の扉に近付いてはマジマジと調べるアルカード・ガイスト(ea1135)とロア・パープルストーム(ea4460)の魔術師コンビ、あれやこれやと推測を口にしながら扉に耳を当て、音を探ろうとするも今は何も聞こえなかった。
「済まぬがご婦人、この件について公にした上で村人達に話を尋ねて回ってもいいだろうか? 何、引っ越してきたばかりなのだろう? 村人とも馴染むよい機会だろうて」
「えぇ、そうですね‥‥冒険者の皆さんにお任せします」
その様子を見ながら、情報収集をする上でこの件を公表していいかと尋ねる王に婦人は特に気にする事なく快諾する。
「‥‥実は壁でした、と言う安易な結末はないか?」
「案外、引き戸だったりする事もありそうですね」
そしてその頃、まだその扉を観察する魔術師コンビと一緒になって扉を調べ始めたノース・ウィル(ea2269)と、そんなはっきりした口調で言う彼女とは対照的に彼女と同じ神聖騎士ながらものんびりした声音でロレッタ・カーヴィンス(ea2155)は似た様な考えに思い至り、早速調べてみたが
「んー! 引き戸だった、ってオチはなさそうだよー!」
飾り気のない扉に唯一ある取っ手を掴んでは、一行の中で一番力持ちである騎士のハンナが扉を真横にスライドさせようと挑戦してみるも、彼女の顔が真っ赤になるだけでそれは確かにビクともしない。
「継ぎ目もある、か」
肩で息をしてその場にしゃがみ込むハンナの様子に苦笑を浮かべ、ノースは扉の周囲もまさぐってみたが継ぎ目を見て取ると、間違いなく扉が存在する事を告げる。
「此処には他の扉とか、変わったものもなさそうですね」
「それに今は音もしませんし、村人達から話を聞いて回りましょうか」
何か見落としがないか探るアレクセイの目にこれと言ったものが映らず嘆息すれば、彼女同様に何かないかと探す一行の中、マイペースにロレッタが意見を述べると皆はやがて頷いて扉を離れる。
がロアだけはその扉の前に立ち尽くしたまま
「‥‥必ず開けてみせますわっ!」
手始めとは言え、何も手掛かりが見つからなかった事に苛立ちでも覚えたのだろう、扉に宣戦布告をしては変に気合を入れる彼女であった。
「申し訳ありません、ライヴォルトさんの家の地下にある開かない扉の事で少々調べたい事があるのですが構わないでしょうか?」
ロレッタとノースは神聖騎士である事から、まずは村の教会へと出向いて伝承や言い伝えについて調査を始める為、件の家名に用件を伝えては神父に尋ねるロレッタ。
「えぇ、ですが大分昔にあった大火事のせいで今に残る口伝やこの村の歴史が果たして真実かどうか‥‥それでも宜しいでしょうか」
「あぁ、件の扉の事に関連している事であれば何でも構わない、昔から伝わっているのであれば少なからず真実は含んであるだろうし、教えて頂ければ非常に助かる」
笑顔で、しかし知る事は少ないだろうと言う神父にノースは微笑み、改めて尋ねると神父はポツリポツリと口を開き始めた。
「確か‥‥開かずの扉には昔、村を荒らし回った亡霊が封印されていると言う口伝があった筈‥‥」
難しい表情の中で記憶をまさぐり、そう呟けばまた思案して暫くの後に言葉を紡ぎだす神父。
「災厄を撒き散らし、数多な怪物を従えて村を蹂躙するそれに一人の勇者が立ち上がっては、地下にある神殿へ封じ込めたのだとか。ただ、この話は大分昔の事なので先にも言った通り、信憑性は‥‥」
「扉の事については何かご存知ですか?」
自信なさそうに呟く神父だったが、それを遮ってのロレッタのマイペースな質問に今はまず彼女達の質問に答える事が大事なのだろうと考えを改めると、苦笑を浮かべては次の回答を模索し始めた。
ロレッタとノースが教会で調査を順調に進めている頃、残る面子は思い思いに村内に散っては情報収集に精を出していた。
尤も、怪音がいつ鳴るか分からないと言う婦人の話からケイだけはまずその音の元を魔法で探ろうと扉の前に居座っているが。
「あの家の事でご存知な事はないだろうか、村長殿。例えば‥‥その家の歴史やその土地で過去に何かがあったとか」
「それとこの村に伝わる伝承等で、件の事に絡んできそうなものはあるでしょうか?」
まずは無難に、村の事に着いて管理及び把握しているだろう村長の元を訪れる王とアルカードは、礼儀正しく問い掛けると
「そうさな‥‥」
村長は厳かな口調でその家について語り出す、十と数年前に建てられ整地の際に発見された今の倉庫へと繋がる入口。
「‥‥前の住人は若い夫婦だったんじゃが、余りに長閑過ぎるこの村に嫌気でもさしたのじゃろう、数年でキャメロットへ引っ越して行ったの」
寂しそうな表情を浮かべながらも呟く村長のその答えには謎を解く鍵はなく、またアルカードが尋ねた伝承の事についても教会の神父がロレッタ達に教えた口伝だけが関与しそうだと判断すると、二人は揃って渋面を浮かべる。
「肝心の扉を開ける方法が分からぬな‥‥」
「他に、この事について何か知っていそうな御仁はいませんか?」
その問い掛けに、村長は思案して何事か思いつくと扉を開けては二人を手招きする。
「おる事はおる、じゃが話が聞けるかどうかは‥‥」
難しい表情で呟いては踵を返す老人に、二人は首を傾げつつも着いて行く他に道を切り開く事は出来ないと判断し、遅れてその後を追うのだった。
そして王とアルカードが村長の案内の元、とある家に着けばその中からは賑やかな音が聞こえてきた。
「何事かな?」
「あ、すいません。すこーし騒がしかったでしょうか?」
「ハンナか、何をやっておるのだ」
その家の扉を開けて家の主に尋ねる村長の後に続いて二人が入れば、その中でリュートベイルを弾き鳴らす女騎士の詫びに王も何事かと尋ねる。
「村人達から話を聞いて回ったら、此処に辿り着いたのよ」
「なるほど。それで村長、この方は?」
「この村を一番古くから知る者じゃよ‥‥だが高齢で数年前から動く事叶わず床に伏せ、最近では最早まともに喋る事すら出来なくなっておる」
王へ答えを返すアレクセイにアルカードへの答えを紡ぐ村長の言葉を聞きながら、その場にいる一行は沈痛な表情を浮かべるもハンナだけは、変わらず楽器を奏でる事を止めなかった。
「んー、なんとなくかな」
との彼女の性格を現す様なコメントに、静か過ぎるよりはいいだろうと判断する他の皆は鳴り響く音色の中、無理を承知で事情を話しては反応を伺ってみる。
「‥‥‥‥‥‥‥ぁ、‥‥‥‥‥れ‥‥‥‥」
たっぷり一時間、いささか疲れたハンナがリュートベイルを弾く手を止めた時だった。
静かに紡ぎ出される、横たわる老人の言葉と視線に皆はそちらを向けば一つの棚があり、許可を得た上でくまなくそこを探すと一つの古びた鍵を見つける。
「これであの扉が開くんでしょうか?」
答えは気にせず、だがアレクセイはその鍵を手に老人に尋ねるとその視線は中空を彷徨い、そしてまた言葉を紡ぐ。
「‥‥‥‥‥ぃ、わ‥‥‥‥‥れ‥‥‥‥‥‥し」
意味不明なそれに首を傾げつつも心に留め、一行は扉の鍵を手にして村長と老人に礼をして駆け出した。
「忝い‥‥それと村長、この依頼が終わったら一緒に酒を飲んで語りませぬか? 先程の話を聞いた限り、興味の尽きない話が聞けそうでな」
微笑んでは提案する王の言葉に村長が頷いたのを確認してから。
「‥‥家の中に周辺は何もなし、この扉も色々やっても反応はないし‥‥本当に開くのかしらね?」
家に居残っては怪音を探ろうとひたすら待ち続けるケイに、定時連絡の時間を前に他の皆より一足先に戻ってきたロアは少しの時間で依頼人の家やその周辺に扉を調べてみたが、手掛かりとなりそうな物は見つからずケイに愚痴を零すも
「しっ‥‥‥」
その当人は口に人差し指を当て静かにと促し、静まる倉庫内に響く音に耳を澄ませる。
‥‥‥ォォォーーー‥‥‥
「風? どこかに隙間でもあるのかしら‥‥それとも」
「我にその奏でられし音の理を!」
木霊の様に響き渡るその音に、ロアは様々な推論を頭に巡らす中でケイは銀色の光を放っては詠唱を連ね上げサウンドワードを完成させると音との会話に集中し、やがてその表情を変えた。
「そうですか‥‥どうやら準備して置いて良かったみたいです」
「何? 何か分かったなら勿体ぶらずに教えなさいよ」
含みのあるケイの言葉に自己中心的なロアが尋ねると、彼は一つ微笑むだけだった。
「そろそろ時間か?」
「そうですね‥‥でも、その前にお祈りでも捧げませんか?」
教会の窓越しに見える沈む夕日にノースはそう判断し、教会を後にしようとロレッタに呼び掛けたが、彼女はノースに一つの提案をする。
勿論、断る理由のないノースはロレッタと一緒に教会に鎮座するセーラ像へ祈りを捧げた。
『無事に、この事件が解決出来る様‥‥私達を導き、そして見守り下さい』
過去に一度だけ、同じ依頼で顔を合わせただけの二人だったが冒険者として、神聖騎士としてその祈りに相違はなかった。
●いざ開かん 〜探索編〜
ガンガンガン!
「朝ですよー!」
カィーンカィーンカィーン!
「朝だー、起きろー!」
朝。そろそろ人々が動き出す頃合を迎え、既に身支度を整えたケイとハンナは依頼人から事前に拝借したフライパンを叩き、高音と低音をバランスよく混ぜ鳴らせば嫌でも起きる他ない。
「まだ少し、早くありませんか‥‥?」
いささか眠そうに、しかし慌てる素振りは全くないアレクセイに
「滞在中は朝に注意しろって誰かさんが言ってたみたいだからねー、それに善は急げって言うじゃない。鍵も手に入ったんだし、さ」
笑顔で言うハンナに半分の不思議と半分の理解を持って、彼女はとりあえずもう眠れないだろうと冷静に判断すると同室で自身同様に動き出す他の女性陣より一足先にベットから這い出た。
「最後の扉が今開かれる! ‥‥まだ解決してませんから最後ではないですが」
扉の前、王の肩に乗るケイがお決まりらしい一人ボケツッコミをすれば、肩を貸す彼は苦笑を浮かべつつデティクトアンデットを唱え、扉の向こうに何もない事を察知するとアレクセイに頷きかけ、そして慎重にその扉は開け放たった。
「灯り如きで手間取りたくはありません、これを使って下さい」
「遺跡かしらね、造りが人工的だわ‥‥それにしてもケイ、本当にレイスが出るの?」
奥まで広がるその闇に一行は臆する事無く踏み出せば、呟いてクリエイトファイアーで生み出した火種をランタンに提供するアルカードに、それを貰いつつロアは周囲を見回してそう判断すると王の肩に止まるシフールに改めて尋ねた。
「サウンドワードで得た音の話に寄れば、間違いなくそうですよ」
「だとすると、少々厄介ですね」
彼女の問い掛けにケイは自らを曲げず強く頷くと、ロレッタがのんびりながらも少し厳しい表情を浮かべ呟いたその時だった。
‥‥‥ォォォーーー‥‥‥
風鳴りの様な音が辺りに木霊すると、王が再び唱えたデティクトアンデットに反応が現れたのは。
「目前に潜んでおるぞ」
「行くよ、皆っ!」
徐々に朧げな姿を実体化させるレイスより僅かに早く王が警告の声を発すると、事前に闘気を宿していた長剣を掲げてハンナが叫びながら誰よりも早く先陣を駆け、それに切り込んで行った。
「しかしどの辺りになるのだ、ここは?」
一匹だけだったレイスを多少手間取りながらも屠った一行はそれから暫く進む。
も、意外に広い場所らしくなんとなく落ち着かなくなったのだろう、誰にともなく尋ねるノースだったがその答えは帰ってこなかった。
それには誰も答えようがなく、当然の反応ではあったが‥‥しかし、その答えはやがて一行の目の前に広がる。
「此処が最深部か、頭部が欠けた像があるな‥‥神殿か何かなのだろうか?」
最深部へと到達すればそこは広間で、地上に注ぐ陽光を何処からか取り入れているか僅かに通路より明るいその中で頭部の欠けた像が一行を出迎えると、その像に周囲を調べては呟くアルカードに
「壁にも何か彫られていますよ、普通に読めるけど‥‥これって」
罠がないか探すアレクセイの目に、壁に刻まれる文字が留まると詰まる土埃を払っては読み上げ始めた。
●始まり.0
「あの地下神殿に封ずる以外になさそうじゃの、存外と広ければ頑丈でもある」
「しかし、誰がどうやってあそこまで連れてくるのじゃ?」
更に更に昔、その当時の村。
退治しても次々と沸いて出るモンスター達に万策尽きた村人達は最後の手段にと、いつからか村にあった地下神殿へそれを誘い込み封じ込める事に決めた。
地下神殿、とは言っても建造された理由等はその当時から既に知っている者がいなかった為、利用価値は村人達でも非常に低く村の存亡と秤にかければこの様な使い方をしても致し方あるまい。
「‥‥オレが行く、それと幾人かの若者を集めて成し遂げる」
しかしそこまでどうやって誘き寄せるか、提案こそすれ肝心な事にまでは考えが至らなかった村人達に、その話し合いに加わっていた一人の青年が部屋の扉を開けてはそう訴え出る。
「しかしお前、もうじき結婚を控えているではないか」
「そうよっ! 私だけを置いて‥‥行かないで」
机を囲む老人の一人が呟けば、その場に居合わせる結婚相手の彼女と思われる女性が叫ぶ。
「その前に、村がなくなったら同じだろう? それに絶対死ぬ訳じゃない、必ず戻ってくるから」
しかし彼の決意は固かった、その瞳だけで静かにそれを皆へと伝えると村長は頷く他に選択肢は残されていなかった。
やがて有志を集めて決行された作戦は思っていた以上に順調で彼以外の人間は皆、扉の外へと脱出を果たしていたが
「あ‥‥と、少し、だったの‥‥に」
最後に残って敵を食い止めていた彼は一瞬の隙を突かれ、バグベアの一撃に吹き飛ばされた。
そして、直後に音を立て閉まる扉を見て苦しそうに呻く‥‥扉まであと、もう少しだった。
そして様々な想いが走馬灯の様に頭を巡ると、一言だけ呟く。
「オレの分まで生きて‥‥く‥‥」
しかしそれは最後まで紡がれる事なく、直後に襲い来る鈍い衝撃と共に意識がブラックアウトする中、後もう少しで結婚出来る筈だった彼女の泣き叫ぶ声が扉の向こうから聞こえた気がする。
そして‥‥。
その後、その地下へと続く扉はその上に岩で蓋をされて以後彼はその地において祭られる事となるのだったが、直後に起こった大火事にて村のほとんどが焼き尽くされ、その時の混乱を機に今迄忘れ去られる事となるのだった。
●いざ開かん 〜終幕編〜
あれから最深部をくまなく調査した一行だったが、彫られた文字が人の手によるもので大分年月が経っている事は推測出来た。
だが、刻まれる暗き内容のそれから全てを知らぬ一行は何らかの理由によって閉じ込められた者が怨念化して今回の件を起こしたのだろうと判断し、またレイスの他に敵がいない事が分かると今回の目的である怪音の原因を断った事から、地下神殿と思しきそこから引き上げるのだった。
その答えは、遠からず‥‥だがけして近いと言う訳ではないだろうがこの件をきっかけにいづれ分かる日が来るだろうと思われる。
「‥‥と言う訳だったのですが、やはり思い当たる事は何もありませんか?」
その夜、依頼人に報告をした後で一人村長の家を訪ね約束を果たすのは王、持参した酒を酌み交わしては村長にも同様の報告をする。
「うむ、今となっては‥‥昔の大火事を機に僅かにあったと言うこの村の歴史を伝える文献や、口伝自体も一時的に失われた時があったと聞くからのぅ」
「そうなると、神父が言っておった様に真実から捻じ曲がって伝えられた口伝や歴史が今に残る可能性がある、と」
「そうだの‥‥昔から残る何かがあれば、真実の歴史が紐解けるだろうが」
そんなやり取りに、王は自らの杯を空けると残念そうな表情を浮かべて小さく呟いた。
「村の新たな伝承が出来る瞬間に立ち会うのも良かったやも知れぬ、だが失われた歴史に手を掛けておった‥‥それこそ惜しい事をしたかもな」
「もしかすれば‥‥これがきっかけになって何かが分かるかも知れませんな。さて、折角お誘いを受けたので話を戻しましょうか‥‥この村とは関係ありませんが、今もある村に残る珍しい伝承があるのですがご存知ですかな?」
「一体どの様なお話で‥‥?」
消沈する王に村長は気遣い、話を変えると王はそれを察して耳を傾けるのだった。
そうして、静けさの帳が落ちる中で二人の話はいつまでも続いたと言う。