困ったお嬢様
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月04日〜08月10日
リプレイ公開日:2004年08月09日
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●オープニング
「たのもー! なのじゃ!」
そう叫び、いきなり冒険者ギルドの受付カウンターに足音荒くやってきたのは‥‥小さな女の子だった。
「あらあら、ファナちゃんじゃないの。今日はどうしたのかなー?」
顔見知りなのか、受付のお姉さんは彼女の名前を呼んでカウンターに招き入れた。
呼ばれてカウンターに入ると彼女の膝の上にポツネンと座るファナと呼ばれた少女。
そしてファナは彼女の耳元に顔を近付けると小声で囁いた。
「実はじゃな‥‥」
「えーと、今回の依頼なんですが‥‥この子を連れて冒険して来て下さい」
「は?」
彼女の言葉に、その場にいる冒険者の1人が何を言っているのか分からず思わず大声で聞き返す。
その発言にムッとした表情を浮かべる少女を見て、受付のお姉さんは聞き返した冒険者の首根っこを捕まえて耳元で囁く。
(彼女は、ある高名な貴族のお嬢様なの!余り無礼な口は利かない方がいいわよ。それで彼女、冒険者に憧れていて普段どんな事をしているのか見たいんだって。でも貴族なのに親を通さないでわざわざ直接、しかも自分が貯めていたお金全部持ってきて依頼をお願いされたのよ、断れないじゃない。)
矢継ぎ早に事の次第を伝えると彼女はその冒険者から身を離して、改めて説明を始める。
「えーと‥‥それで今回の依頼の詳細についてですが、彼女に冒険者の活動を見せつつ村を襲撃したゴブリンを退治し、村を復旧する作業の手伝いをして来て貰えますか? その村はキャメロットから少し離れた所にありますが最近、ゴブリンの集団に襲撃を受けて家は壊されるわ、それで味を占めたゴブリン達が今も村の近くに居座っていているわでとても困っているそうです。また復旧に際しても若い人手が余りいない様なのでそちらについても手伝って下さい、とその村の村長からお願いされました。報酬は多いのですがその分やる事も多くて大変かとは思います」
「よろしくお願いするのじゃ!」
彼女の締めの言葉に続いて、ファナは叫ぶとそれとは裏腹に可愛らしくスカートの裾を摘んで一礼した。
そして頭を上げるファナと、不意に視線が絡む。
そんな少女の真摯でまっすぐな瞳と視線があっては、彼らはもう断る術を持たない。
否、それがなくても頭を縦に振る他ないのだ。内容がなんであれそれは正式な依頼なのだから。
●リプレイ本文
「ふはははは! 物事を自分の目で確かめようとするのはいい事だ! 百聞は一見さんお断りと言うしな! 我輩の活躍をようく見ておきたまへ! だが我輩に惚れるなよ、おぜうさん?」
「キミ、うるさい」
村に向かう街道を前に、高笑いを上げるローゼン・ヴァーンズ(ea0310)に、目潰しでツッコむハイエラ・ジベルニル(ea0705)。
容赦ないツッコミを受け、道端で声ならぬ声を上げて悶絶する彼は放置して、ファナに向き直り
「彼はちょっと変だから気にしないで、冒険者の皆がああじゃないからな。では改めて、エスコートさせて頂きましょうか。お嬢様」
彼ではなく「冒険者」にフォローして恭しく一礼をすると、彼女の後に続いて悶絶しているローゼン以外は次々とファナと挨拶を交わす。
「初めまして、ファナ。あたしは『明舞の天使』の称号を持つ李明華です。ミヨンファと呼んでね」
ファナに笑顔で言う李明華(ea4329)と
「ファナ様、この身命に代えても貴方を護る事を誓おう」
神聖騎士として、彼女に誓いを立てるオルトルード・ルンメニゲ(ea4484)。
そんな一同を好奇の目で見回しながら
「童が名はファナ・アルシャンクじゃ! 皆の活躍、楽しみにしているのだ!」
彼女の元気良い声が街道に鳴り響く、道端で呻くローゼンを除く一同はそれに思わず顔を綻ばせるのだった。
夕刻に差し掛かり、ファナと一同は目的の村へと到達した。
「思ったほどではないにしろ‥ひどいですね」
「全くだ‥」
村の周囲を囲う柵はあちこちが壊され、遠目に見える家々の漆喰には何かで穿たれた痕があるのを見てクリス・シュナイツァー(ea0966)と、スタール・シギスマンド(ea0778)は顔を顰める。
「まずは村で話を聞こう、考えるのはそれからだ」
「そうじゃな! 我々も色々と手伝いをせねば、それが冒険者の務めなのじゃ!」
アッシュール・バニパル(ea5546)の提案にニコニコと頷くファナだったが
「ファナ・アルシャンク、そう嬉しそうな顔をするな。村人達は辛いのだから」
アッシュールの続く言葉に釘を刺され、頭を垂れる。
「言葉尻が厳しいの。でも、アッシュール殿の言う通りじゃな。余り一人だけはしゃぎ過ぎては駄目じゃぞ」
ファナの前に立つ狂闇沙耶(ea0734)は笑顔を浮かべ、そう諭すと村の門をくぐる。
その肩にはファナが念の為に連れてきたシフールがちょこんと座っていた。
と言うのも狂闇だけが母国語以外の言語を全く話せない為で、この計らいは一同にとって大いに助かる事となった。
彼女の後に他の者も続く中、ファナだけは少しその場に立ち尽くす。
「確かに、言う通りじゃな。童も何か出来る事をせねば、なのじゃ!」
反省する彼女の瞳は未だ光を宿したまま、慌てて彼らの後を追い掛けた。
村に入り長から事情を聞く一同、が2人程足りない事に気付くファナはキョロキョロ、狂闇はそんな彼女の様子に気付き
「村の復旧に使える材木を探しに行ったのじゃろう、わしも少し手伝ってくるのでお嬢はここで他の皆の手伝いを頼むのじゃ」
肩にいるシフールを介して一同に告げると静かに駆け出す、ファナも思わず着いて行こうとするが
「ファナ様にはこちらで村のお手伝いをして頂きたいが、どうだろう?」
傍にいるオルトルードに引き止められ、渋々ながらも頷く。
「どんな時でも、自分が出来る事を精一杯やる。冒険者には大事な事だ」
「分かったのじゃ! で何をすればいいのかのぅ?」
「ゴブリン達の襲撃がいつあるか分かりませんから、とりあえずは見回りと炊き出しでしょうか?」
そんな彼女を察してかスタールは冷たく言うも、その言葉に優しさが含まれている事を感じファナはニコリと微笑み、何をすべきか尋ねるとクリスはそんな彼女に丁寧に答えた。
「近くに森があったな、そこまで赴いて狩りをしよう。他に何かあれば言ってもらえれば」
「それだけでも十分に助かりますので、お願いします」
アッシュールの言葉に村長の返事、それに頷くとスタールを連れ立って森へと向かった。
「じゃあ残った者で炊き出しの準備と、いつ襲われるか分からぬから村の見回りをしよう」
彼らが去って、やるべき事を言うハイエラに一同は頷くと各々行動を始めた。
その頃、村人から得た情報を元にゴブリン達の巣窟を探すべくローゼンと狂闇と李は村から少々離れた小さな丘に口を開けている洞穴があるのを見つけると、静かにブレスセンサーを唱えるローゼン。
「15匹位か、あの中にいるのは」
「でも外に出ているのもいるかものぅ、わしは辺りに簡単な罠を張りながら木立の上から様子を伺う事にするぞ」
「じゃあ洞穴近辺の様子はあたしが見張る事にしますね」
「それでは我輩は‥」
現状を伝える彼に、狂闇と李が動こうとするもローゼンの次に紡がれるであろう言葉を予想してギロリと睨む。
「それほど我輩が目立つのが怖いか、がまぁ今回は静かに様子を伺う事にしようか」
彼女達の一瞥に外見上は怯む事無く、だが大人しくする事を誓うローゼンだった。
それから暫く。
偵察から三人が戻って来ると一同は交替しながら適度な休みを取りつつ、万一の襲撃に備えて夜も見張りを行う。
そして太陽が空高く昇る頃、遅くまで皆が体験してきた冒険話を聞いていたファナと、その護衛役の2人が起きて来たのをアッシュールが見つけると
「狩りの時間だ‥」
手短に用件だけを伝えるとまだ眠そうに目を擦っていたファナは途端、目を輝かせアッシュールの後を追った。
「‥それと罠は洞穴の入り口を中心に十数個仕掛けておるから、引っかからぬ様気を付けてな」
ゴブリン達が居座る洞穴を前に偵察で得た情報や、仕掛けた罠等を解説する狂闇に、ファナを含めた一同は頷く。
「でも村にスタールさんだけで大丈夫でしょうか?」
「誰かしら残っておった方が村人も安心するじゃろうし、スタール殿の腕なら大丈夫じゃろう。それではわしが先陣を切って子鬼達を外に追い出す事にしよう」
「頑張るのじゃぞ!」
一人村に残るスタールの事を心配して言うクリスに、狂闇は信頼してそう言うと応援するファナにシフールを預け「下がっておれよ」とだけ言って洞穴の中に駆け出した。
一同は彼女を見送ると素早く散開、洞穴の周囲の木立等に隠れてその時を待つ。
直後に轟くのは爆音。それから一瞬、洞穴から少し離れた所に狂闇が現れ、それに続いてワラワラと出てくるゴブリン達。
いきなりの事で頭に血が上っているのか、簡素な草の環の罠に半数はバタバタと地面に転がると直後、一同は姿を現しゴブリン達に躍り掛かる。
クリスに李、狂闇が切り込む中、ローゼンとアッシュールが後方から支援するその光景を少し離れた所から見ながらファナは質問を投げかける。
「怖くないのか、皆は?」
「初めての時はな、だけどここにいる皆もそうだと思うが何かをしたくて冒険者になったから、例え怖くても夢を諦めたくないから‥歩を止める訳には行かないのだよ」
それに近くに立つオルトルードがそれに優しく答えると今度は
「お嬢様はどんな冒険者になりたいのだ?」
いつの間にか近づいてきた一匹のゴブリンをダガーであしらいつつ、今度は逆にファナに質問をするハイエラ。
「困っている誰かを、弱い人達を守れる様な冒険者になりたいのじゃ!」
その問いに戦う彼らの姿を見ながら彼女ははっきりと宣言すると、彼女達は微笑んだ。
「くす、あなた達を逃がしませんよ。天使に懺悔なさい」
鞭で絡め取った一匹のゴブリンに微笑を浮かべ、ダブルアタックで蹴り飛ばす李。
そんな彼女に背後から別のゴブリンが襲いかかるも回避された挙句、横合いからクリスのスマッシュに地に叩き伏せられる。
今度はその彼目掛けて2匹のゴブリンが襲い掛かるがローゼンとアッシュールの風の刃と矢に体勢を崩す、その隙にクリスは一歩下がり再び剣を振るった。
戦闘の主導権は冒険者達が握りつつある、しかしまだ数に勝るゴブリンは何とかしようと足掻くも
「失せよ、小鬼共!」
鳴り響く爆音再び、ゴブリン達の真っ只中で放たれる狂闇の微塵隠れにその微かな希望は潰えた。
「これで3匹目かよ、間が開いてるからまだ何とかなってはいるが‥」
村に来て、2回目の日が沈み掛けている。
一人村に残るスタールは血糊のついたショートソードを振るい、それを払うと溜息をつく。
そんな彼の耳にまた村人の声が響く。
「今度は村の正面から離れた所にいくつか影が見えるぞー!」
「まだ向こうは終わらないのか‥さすがに持たないぞ」
呟きながらも村の正門をくぐり、遠くを見やる彼の目にはゴブリン達の住処から戻ってきたファナと一同の姿が映る。
村を出る前とそう変わらない一同を見て、今度は安堵の溜息をついた。
その後ゴブリン達の住処に丸1日交代しつつ見張りを立てるも、数は思っていたよりも少なかった様で、戻ってくるゴブリンは一匹もおらず完全に駆逐した事を感じた一同は村に戻るなり、復旧作業に尽力した。
皆が真面目に柵を作り直したり漆喰を塗り直したりするそんな中
「ふははははは! 絶景かな! おぅ、そう言えばこの村に魔除けを兼ねて我輩を称える銅像を立てるとかどうだろう! この屋根の上とか! 我ながらいいアイデアだな! さぁどうだ皆の衆? HAHAHA!」
「そんなのいらないし、そもそもキミ作業の邪魔」
まだ完全に直っていない一軒の家の屋根に立って高笑いを上げるローゼン。
その近くで舞を披露するハイエラと李だったが、そんな彼を見るや舞を中断してハイエラはそっけなく言い、手近に転がっていた木屑を投げつけると高笑いに夢中になっているローゼンは飛来する木屑に気付く事もなく、顔面にモロ直撃。
その場にいる一同の期待とも憐憫とも言えぬ気持ちに裏切る事無く、彼はそのまま屋根から滑り落ち、変な角度で地面に叩き付けられた。
「アレは変だから見習っちゃダメだぞ」
「あの様な真似はしないが悪い所は誰しもあるし、アレでも立派な冒険者だと思うのじゃ!」
そんな彼の様子を気にせずさらりと酷い事を言う彼女にファナはそう言うと
「余りフォローになってないな」
呟くスタール、その場にいた皆は声を立てて笑う。
やっと、村人達の顔にも笑顔が見られ、ファナはその事に嬉しくなり微笑んだ。
その様子に、オルトルードは何も言わず頭を撫でた。
「ファナ・アルシャンク、何か得るモノはあったか?」
復旧の目処が立ち、村を後にするファナと一同。
帰路の途中で尋ねるアッシュールに、彼女は一同の顔を見回して
「‥強いだけじゃダメなのだな、今回は色々と勉強になった。私ももっと色々な事を学んでお主達の様な冒険者になりたいと思うたぞ! 本当にありがとなのじゃ!!!」
今までにない大声で叫び満面の笑顔を浮かべるファナに、一同は顔を顰めながらも微笑むのだった。