●リプレイ本文
●準備は万端?
出発を前に激しい剣戟を舞うのはルカ・レッドロウ(ea0127)。
最近気が緩んでいると見た彼の師匠がいきなり駆けつければ途端に始まったそれに、近くでアルラウネ・ハルバード(ea5981)の友人から罠についての様々な話を聞いていた一行は皆、唖然とするも彼らはそんな事など気にする事もなく立ち回る。
その舞は、見るものが見れば様々な事を想定しての打ち合いである事が分かる程の打ち合いで、他の者は見守る他なかった。
「っと、時間の様だ‥‥行って来るぜ」
それから幾許かの時間を経て、誰からかの呼び声に今まで何度か切り結ばれた剣と剣が中空でピタリと止まると、ルカは一言だけ告げ激しい動きで傾いた羽根付き帽子を直すと踵を返しては一行の元へと駆けて行った。
そんな彼の背中を見送る師匠はただ静かに、彼の姿が見えなくなるまで見送っていた。
‥‥美しきかな、師弟愛。
目的の場所へと到達すると一行は、これから最深部目指して踏破する予定の遺跡を外から見上げていた。
高く聳えるそれは遺跡の中でも比較的大きく頑丈そうな部類ではあったが長い時を経てのものだろう、痛みが目立つのと天辺がいささか不自然に飛び出しているのが気になったりするが。
「ほぉ、土地を問わず遺跡と言う物は郷愁を誘うものがございますね」
「しかしこれまた‥‥大きいものね」
「それでも、遺跡と言うものには何かを感じずにはいられぬ。それ自体に何らかの意味があり、歴史もあろうしな」
そんな遺跡を見つめては数珠を片手にメイドの仕事を休んでまで来た矛転盾(ea2624)と、今まで何度かルルイエ達と共に依頼をこなしてきたアルラウネが感嘆の息を漏らせば、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は静かな表情を湛えたまま考古学者としてその遺跡の生い立ちに思いを馳せる。
と皆が皆、その遺跡に様々な思いを巡らせている中でやがて依頼人のルルイエが姿を見せると、調査拠点としている遺跡内部へと案内するのであった。
「すいません、今回もお世話になります。とりあえずは中の方に‥‥」
「初めてお会いしますね、アストレア・ワイズと言います。少し頼りないと思いますがよろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いしますね、アストレアさん。今後も機会があればよろしくお願いします」
「そう言えばルルイエさん、アシュドさんの怪我は治りましたか?」
「えぇ、怪我の方は大分良くなりましたよ。わざわざ心配して頂いて申し訳ありません」
殺風景な遺跡の中を歩きながらルルイエとは初見の、ガイエル同様に考古学者としての興味から参加したのだろう、秀麗な顔立ちのアストレア・ワイズ(eb0710)が礼儀正しく挨拶をすれば、そんな彼女とは逆に遺跡内部に残る物に興味を覚えたシエル・ジェスハ(ea2686)も丁寧にアシュドの様態を伺うと二人に対してにこやかに言葉を交わす彼女。
「あ、あれがお手紙に書いてあった石版なのかな♪」
「そうですよ、それではこちらでお話の方を」
そんな彼女達の後ろ、色が違う瞳を持つシフールのニューラ・ナハトファルター(ea0459)が飛びながら手紙にあった例の石版を視界に捉えると、ルルイエは頷き遺跡についての詳細を語り始めた。
「詳細、と言っても現状分かっている事はほとんどありません。何せまだ、内部にすら足を踏み入れていませんからね。ただ石版に記されている本だと思われるものが眠っている場所は、頂上に見えた不自然に突出した所にあると予想しています。そこに至るまで、どんなものが待ち受けているか分かりませんがそれらを突破して最深部に至るまでが今回の目的になります」
「なるほどね、それでここはどんな謂れがある遺跡なのだろうか?」
彼女が記したのだろう、遺跡の外観図に沿って説明を受けた後に質問と手を挙げて尋ねる、目指す未来は大商人だと言うガッポ・リカセーグ(ea1252)に
「少なくとも、大分古い遺跡だと言うのは見て頂ければ分かったかと思います。内部は状態がいい様なので容易くは壊れないと思いますし、また内部の方も然程人の手がついている痕跡もなく、まだ本格的な調査がされていない遺跡だと言うのは確かかと」
「‥‥楽しみが残っていると同時に、気を引き締めて掛からないといけないか」
「それならそれで俄然やる気が出るってものです。けれどそれ以上に皆無事に戻る、って言う事が大事ですけどね」
ルルイエが懇切に説明すれば、表情を引き締めて言うガッポに大事な事を付け加えるシエル。
「そうですね。シエルさんの言う通り、何よりもまず皆さんの命が大事です。確かに依頼ではありますが、余り皆さん無茶はなさらない様に。では早速になりますが‥‥」
ぐぅ〜
とルルイエがシエルと目を合わせ、頷き言い終わるより早く誰かのお腹が鳴った。
誰か、とまでは皆尋ねなかったが。
「その前にお食事を取ってからの方がいいみたいですね。お昼も大分過ぎてしまいましたし、早速準備しましょう」
「それなら私がお手伝いします」
微苦笑を浮かべるルルイエに矛転が申し出れば、二人を中心に少し遅い昼食を作り始めた。
ちなみに味の方は矛転のメイドで培った腕前のおかげでとてもいい出来だったと言う。
そしてお腹も満たして準備が整ったルルイエと一行は、張り切って遺跡の最深部目指して歩き始めた。
●第一層 〜惑うも進め〜
『惑う事無く目指す未来、進むべき我らが道は‥‥』
暫く進めば、立ち塞がる一枚の石版。
刻まれる文字の後半は何かに削り取られ読む事は叶わなかったが、果たしてこれは何を指すものかと一行は首を傾げる。
「‥‥悩んで立ち止まる位なら、まずは進めだな」
だが、そんなものを気にする事無く一行を引っ張る様にルカはそう言って歩を進めると、アストレアがブレスセンサーを詠唱する中で一行は石版の後ろに伸びる回廊を進み始めた。
が、それからランタンの油が一つ切れる程の時間が経過した頃‥‥一行は迷っていた。
「この壁の向こう側も通路だよー♪」
「罠がないのがまだ救いね」
二人のジプシーはエックスレイビジョンによって得た情報を他の皆に報告するも、今置かれている状況が再認識出来ただけで打開策となるものは何もなかった。
「どうやらここは迷路の様ですね。縦横無地人に入り乱れる通路の連なり‥‥」
「地味に嫌な仕掛けだな‥‥」
ルルイエの言葉にガッポはやる気が削がれてか、トーンを下げて呟くもここまで来た以上戻る道すらもままならない一行に残された道は進む事だけだった。
「これはちょっと予想していませんのでしたけど‥‥進めばきっと出口は見えますよ♪」
「それもそうだな。のんびり、と言う訳には行かぬがいずれ出口は見えるであろうし‥‥今は進む事に集中しよう」
入って早々げんなりする一行だったが、それを明るい調子で元気付けるニューラと早くも悟りを開いてかガイエルの呟きに一行は何処かにあると思われる出口目指して、足取り重く進み始めるのであった。
‥‥それから更に油を一本使い切る頃になって、一行はやっと迷路の出口へと到達するのであった。
ルルイエが持っていた羊皮紙を拝借してガイエルが地図を書いていなかったらまだ時間が掛かったろうが、彼女のおかげでまだこの程度で済んだ事を付け加えておこう。
侵入者を阻むのは、何も罠やモンスターだけではないのである。
●第二層 〜意思なき遺物〜
『阻むは意思なき物と意思あり者、波の如き襲うそれは‥‥』
迷宮の出口を抜けた一行の前にまたしても立ちはだかる一枚の石版、やはり同様に後半は何かに削り取られており、読み取る事は出来なかった。
「殺風景には変わりはないが、通路の雰囲気が大分変わったの。先程までと違って回廊が広くなったし、風が流れて来ておる」
「石版から察するに、こう言う場所ではお約束の罠と‥‥」
「モンスターも襲って来る様な、そんな記述ですね」
地図をまとめながら、通路こそ広くなったものの変わらぬ遺跡内部にガイエルが詰まらなそうに呟くと出立前に友人から罠について付け焼刃程度ではあったが知識を授かったアルラウネが微笑みながら石版の意を解し、同様に察したルルイエが彼女の後を代わり紡ぐ。
「まぁさっきのはさて置いて、これについては想定済みだよな? フォロー頼むぜ」
「任せて下さい‥‥生物なら、ですけどね」
団長、と皆から呼ばれるルカの再確認にアストレアは表情変えずに呟けば、その言葉に各々がやるべき事を改めて認識してから趣が変わる第二層へと一歩足を踏み出‥‥そうとした瞬間
「ってそこ、落とし穴!」
早速透視して見えた罠にアルラウネが叫ぶと、ルカと矛転は上げた片足を中空で彷徨わせる。
「なんて言うか‥‥最初からこれでは気が抜けそうにありませんね」
「全く、こりゃじっくりと腰を据えて進む必要がありそうだ」
そんな前衛二人の様子に悪いと思いながらも茶色い髪を少し揺らして笑いを堪えるシエルに、年の功からか落ち着いて呟くガッポは彼女と目を合わせると早速最初の罠解除に取り掛かるのだった。
そして一行は石版が告げた通り、罠にモンスターの合わせ技に襲われながらもしっかりそれらに対処しつつ先に進んでいた。
「‥‥来ます、小さな飛行物が前方から‥‥多数!」
「多数? 一体、何が‥‥」
最初の落とし穴から暫く進む一行の中で表情は冷静に、しかしブレスセンサーで何かを察してか叫ぶアストレアへガイエルが尋ね返そうとした時、黒い霧さながらな蝙蝠の群れが一行を瞬時に包み込んだ。
「こりゃ、静かにやり過した方が良さそうだ。お、こっちに丁度いい隙間があるぞ」
「あ、そっちはー」
「‥‥ってぇ?!」
そんな蝙蝠達をやり過ごせそうな通路の隙間を見つけてガッポが踵は皆を導く様に駆け出し、彼の後を飛翔して追い縋りながらもエックスレイビジョンでその先を見通したニューラが警告の声を上げたが、それはほんのちょっとだけ遅く‥‥
「ここまで考えて、こんな通路の端にまで罠を仕掛けているのだとしたらかなり骨が折れますね」
「ですねー、これからもっと厳しくなるのかな? あ、ここの壁の向こう側に何か空間が見えますですよ♪ お宝でしょうか〜」
「え、本当に? 行ってみようか」
「それよりまず‥‥助けてくれ!」
他の皆がまだ僅かに群がる蝙蝠達の対応をしている最中、またしてもな落とし穴を見て次に駆け付けたシエルとニューラが話をしていれば、その縁に捕まっては助けを呼ぶガッポ。
「冗談ですよ、今助けますからね」
「そう言えば、風の流れが少しおかしいわ‥‥気にして置いた方が良さそうね」
そんな彼に舌を出しては謝って助け出すシエル達を見ながら、アルラウネはふと先程より少し強くなった風に気付き、とりあえず自らの心の中に留めておいた。
それを乗り切ったかと思えば
「グランドスパイダか、さっきの蝙蝠より厄介だな‥‥」
先程の罠で少々疲れ気味だったものの、優れた視力と聴覚で先んじて前方から迫るそれを捕捉したガッポにルルイエはいち早くその進路へと呪文を展開する。
「我が呼び声に応じよ精霊‥‥燃え滾る極炎の壁を我らが前に張り‥‥」
「ちょっと待って、まずい方向に風が強くなるわ!」
「巡らせよ‥‥って、え?」
今では髪が靡く程の風の中でアルラウネは次の風の流れを何とか読み咄嗟に警告の声を上げたが、残念ながらルルイエは呪文を完成させ‥‥
「ぎゃー!!!」
程無くして形を成した炎の壁が逆風を受けて揺らぐと直後、熱風となって皆を襲ったのは言うまでもない。
‥‥誰しも完璧ではないのだ。
「ご、ごめんなさい‥‥」
●第三層 〜動かぬ彫像?〜
『幾年の年月を経て尚、‥‥な守護‥‥瞬く間に‥‥召されよ』
散々な目に遭いながらも、友人から受けた罠についての知識を遺憾なく発揮したアルラウネとレンジャー部隊の活躍を中心にまとまった動きを見せた一行は被害を最小限に抑えて、また石版の前に立っていた。
一度引き返そうか、と言う話も出たが後少しで最深部へ到達する事を見越すと一行は僅かな休息を取った後、再び奥を目指して進み始めるも
「‥‥っ?!」
僅かに覚える違和感に歩き出しては早々、背後を振り返るルルイエはやがて疼き出す心臓を押さえながら、それでも皆を心配させるまいといつもの表情を浮かべ再び歩き出した。
「先程より大分面白そうな趣ですね‥‥けれど予想していた通りで余り、宜しくないですが」
進んで暫く、目の前に広がる光景にガイエルは愉しげに周囲を見回す。
「これだけの数がまとめて動き出せば、余程の冒険者でも手に負えないぞ」
「その場合、はっきり言って私達だけでは‥‥無理でしょうね」
一行の先頭にいるルカと矛転の発言は尤もで、先程より広い一本道と思われる通路の両脇には剣を掲げた無機質ながらも屈強さが伺える青銅の像が所せましと乱立していたからだった。
「しかし、最初の石版で先入観を持たされてしまっただけかも知れません。もしかすればあの石版だけがフェイクなのかも‥‥」
「確かにね。で、どうしようかしらルルイエさん?」
「‥‥‥‥」
「何かを守るものであれば、ある程度の距離にさえ近付かなければ問題はない筈です。この様に」
だがそれでも希望を捨てない事が冒険者としてあるべき姿。
それを自然に感じてか冷静ながらも自らの考えを紡いだアストレアに皆が頷くと、どうしたものかと依頼人に問い掛けるアルラウネだったが先程から何故か沈黙を保つルルイエは反応を見せない。
そんな依頼人の様子に、思い立った事を口にしてガイエルは屈んで一つの石片を掴むとそれをひょいと先へと転がした。
‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
それに対して何かが起こる事はなく、通路には石片が転がる乾いた音が消えると先程と変わらない静けさが戻ってきた。
「警戒するに越した事はないですが、暫くは大丈夫そうですね」
『おー』
結果を伴った僧侶に一行は感嘆のどよめきを上げ、周囲をより警戒しながら歩き出そうとしたが‥‥先頭を務める二人の耳に、再び乾いた音が飛び込んできた。
「さっきの石片‥‥じゃねぇな、軽い音が規則的にこっちに向かって響いて来てるぜ」
そしてルカの視線にやがて、木彫りの地を駆ける鳥を模した像が三体映った。
「アシュド君が見たら、喜びそうね」
「辺りに罠は?」
「視界良好♪ 問題ないですよー」
「場所としても、戦うには適していますね‥‥ならっ!」
ふっ、と微苦笑を浮かべここにはいないウィザードを思い出して呟くアルラウネにルルイエも釣られて笑うが、それでも取り急ぎ周囲の状況を確認するとニューラの返事を受けてからアストレアが雷撃を迸らせると、一行は戦闘へと移行する。
「かの書を依代に、猛き炎の力を我らに‥‥」
スクロールを行使して、ガイエルは先を駆けるルカ達の武器に炎を宿せば
「つぇぇいっ!」
「砕かせて貰います」
気合一閃、ルカが先頭のウッドゴーレムを素早く抜き放った刀で打ち据えその動きを僅か止めると静かに、だが確実にそれを壊す一撃を振るう矛転の薙刀をまともに受けて砕け散る。
「この程度であれば問題は‥‥」
「残念、同じ様な音がまだ離れているが聞こえるぞ」
「それにこっちも!」
先程まで静かだったルルイエの久々な発言に水を差すガッポとニューラ。
確かに先程から規則的に聞こえる音がまだ鳴り止む事無く徐々に辺りに響いていれば、ニューラのサンレーザーによるけん制でその動きこそ余計に鈍くなっているものの一行の背後に迫らんとするクレイジェルもいた。
「持てる力を全て出さなければ‥‥危ういですね」
始まったばかりではあるが、早々に終わらせてくれない事を矛転は感じるとだからこそ落ち着き払った表情を浮かべ、再び爆砕の一撃を振るうのだった。
「まだ、ここで立ち止まる訳には行かないんだよっ!」
何よりも大きく響くルカの叫びに、皆もそれに自らの心を鼓舞させながら。
大事な事は、何事にも挫けぬ強き意思である。
●そして、最奥にて待つ魔本
『眠りし魔本、それが起きせし時‥‥』
様々な障害を越えて一行を出迎えるのは、またしても先程と変わらない石版と只の行き止まり。
「あ‥‥なんか上にまだ道があるよー♪」
唯一のシフールであるニューラが羽ばたきながら様々な視点から辺りを観察すれば、直上にまだ続く通路を見つけ、予め準備してきた縄梯子にロープを結わえ頭上の通路にそれを引っ掛け、皆の力で縄梯子を引っ張り上げて道を切り開くと最深部と思われる部屋へと一行は進んだ。
「へぇ、これがこの遺跡の目玉って奴か」
「何が書いてあるのでしょうね?」
石版の向こう、台座に鎮座して置かれているのは一冊の古びた黒い本。
図書館でしか見る事がないそれを見て皆はどんな物だろうかと興味津々だったが、下手に触る訳にも行かず遠目から只眺める。
「危険が招くと判ってても‥‥いいのね? 愚問かも知れないけれど、ね」
そしてその本を前に立つルルイエへ優しく尋ねるアルラウネはそれと同時、透視の魔法で台座を見通してみようと試みるも
(「見えないわね‥‥魔法が施されているのかしら」)
何かに妨げられ見通す事が出来ないそれに僅かな不安を抱くと直後、彼女は自らの意思を紡ぎ出す。
「これが何であれ、アシュドさんが望んでいるだろう物ですから‥‥持ち帰ります」
そして本に手をかけて、それを台座から抜き取ると同時
「一番最後が危険なんですけど‥‥大丈夫なのでしょうか?」
シエルが静かに呟いた後だった。
‥‥‥‥ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥‥
「あ、え? あわわ‥‥」
「その前に私達が危険に晒される訳ね‥‥」
「‥‥悪質だな」
「全くですね」
「同感」
まだ然程大きくものの、揺れる遺跡の只中で珍しくうろたえるルルイエの様子を見ながら顔に手を当てて呻くアルラウネに、ガイエルが毒づけばほとんど表情が変わらないアストレアに矛転が静かに呟く。
「のんびり話している場合じゃないぞ! とっととここからおさらばしようぜェ!」
「そうしましょー!」
そんな一行をたきつける様にルカが叫ぶと、返事の変わりに皆は見えない出口に向けて駆け出すのだった。
それから‥‥。
アストレアのブレスセンサーで外に出ているだろう調査員達を探知するや、遺跡の崩壊が容易に予想出来た為に力技も止むを得なしと判断したルカと矛転を筆頭にそこまでの道を切り開いて外に転がり出ると、遺跡は一行を飲み込めなかった無念さを現すかの様に一層激しい振動と大きな音を立てては崩れるのだった。
「ととととと、とりあえず‥‥はぁ‥‥無事で良かったですね皆さん」
まだ少し動転しながらも息を落ち着けると、いつもの調子に戻るルルイエ‥‥どうやら突発的な事象が起こるとパニックになるらしい。
「ルルイエさん、私にもお宝を見せて頂いて構いませんか?」
とにかく無事に脱出出来て安堵の溜息を漏らしながら同時に息を荒げる一行の中、それよりも持ち帰った本への興味心が勝ったシエルはルルイエに歩み寄ってその裾を掴み尋ねると、彼女もまだ息を整えながらそれをシエルに渡す。
「今回の収穫は途中でニューラさんが見つけたスクロールの束にこの本一冊だけですか‥‥ってこの本、開かないんですけど」
「え? ‥‥本当ね」
「どれ‥‥‥‥‥ぬ、開かん」
いざ本を開こうとしたがそれは何故か開く事が出来ず、ルルイエも同様の結果に倒れればガッポが横から取り上げて禿頭に血管を浮かべる程、力を入れてみるもその本は開きもしなかった。
「これはこれで興味深いものだな、まぁ読めなければ意味はないが」
「しょうがありません、これについては開く所から研究を始める事にします‥‥」
「中に何が書かれているのか、余計に気になりますね。いづれ、アシュドさんも交えてお話を伺ってみたいです。この本の事といい、色々と興味の尽きない話が聞けそうなので」
「‥‥そうですね、いいかも知れません。ではその日を迎えられる様に頑張る事にしてみますよ」
ガイエルのストレートな一言に、何かが記されているだろうそれに期待していたルルイエは先程より落ち込んで呟くと開かないだけに余計に好奇心が湧き上がるアストレアはそんな彼女を励まし、約束を交わす。
そして皆もルルイエを励ます中、その様子を静かに見て微笑むルカは久々に拝んだ陽光を見上げ
「‥‥さって、今度はどんな冒険が待っているかな」
羽根付き帽子を外しては、尽きない冒険心に早くも次なる冒険へと心を躍らせるのであった。
‥‥そして、鍵が一つ。
〜Fin〜