イギリスの未来を見定めよう!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月03日〜03月08日

リプレイ公開日:2005年03月10日

●オープニング

「全く‥‥あの件だけで手一杯だと言うのに、何故似た様な別件ばかりがこうも山の様に」
 ノッテンガム領主宅、オーウェン・シュドゥルクは日が経つに連れ高くなる紙片の束を見て辟易とした表情を浮かべては頭を抱えていた。
「何処も似た様なものです、この紙片に記されている件はノッテンガムだけでなくイギリス全体の問題とも言えるでしょう」
「とは言え、この問題にはいつまでも付き合いきれん‥‥何とかならないものだろうか」
「それでしたら、自らの目で現状を見て回ってはどうでしょうか。流石に直接その手の者との直接的な接触は危険で、探す手間もありますが違う方向から状況を伺う事は出来ると思います」
「‥‥ふむ、言わんとしている事は分かった」
 傍らに佇んでは領主の愚痴に付き合いつつも提案をする、オーウェンよりも年上だと思われる執事の言葉に彼は耳を傾けて一つ頷いた。
「少しの間、キャメロットに行って来る。後の事を頼むぞ」
「了承致しました、お気をつけて」
 暫く考え込む領主だったが、思い立ったが吉日でも言わんとばかりに早々に次の行動を執事に向けて言えば、老執事は畏まって自らの主に一礼をしてその場を後にするのだった。

「暇だぞ」
「そんな事、知りません」
 キャメロットは冒険者ギルド、最近よく顔を出してはカウンター越しに訴えるレイにやはりいつもと変わらず素っ気無い返事の受付嬢。
 そんな変わらない日常の中、それを変える為にかノッテンガムの領主が顔を出す。
「あ、お久し振りです。あれから大変そうですが、大丈夫ですか?」
「まぁ中々上手くは行かないがな」
 呟く領主の表情に受付嬢は余り芳しくない事を察して、話を変えようとして‥‥レイに小声で尋ねられた。
「‥‥誰だ?」
「ノッテンガムの領主、オーウェン・シュドゥルクさんですよ。失礼のない様にして下さいね」
「失礼、先客への挨拶がまだだったな。宜しくお願いするよ」
「こちらこそ、レイ・ヴォルクスと言う暇を持て余している冒険者だ。何か手伝える事があれば今なら喜んで協力するよ」
 レイの質問に受付嬢が紹介すれば、二人は互いに挨拶をして握手を交わす。
「そう言えば今日はどう言った用件で? わざわざお越し頂いたからには何かあるんじゃないですかー?」
「あぁ、そうだな。済まないが一つ、依頼したい事がある‥‥隠密行動に長けた冒険者を探しているのだがいい人物は居ないだろうか?」
「‥‥何でまた、そんな事を?」
 レイの発言に聞くべき事を思い出した受付嬢は早速尋ねるも、彼の依頼に首を傾げるが領主の代わりにレイが答えを口にする。
「変態についての調査かなにかと言った所だろう。以前からそうだがイギリスと言う国は特に変態と言う輩が多いからな、領主ともなればその件では何処でも頭を悩ませている事だろう」
「察しがいいな‥‥つまりはそう言う事だ、ノッテンガムでも最近その手の類が多くて困っている‥‥疑っている訳ではないのだがその手の物が多くなって来ている要因の一つに冒険者達の普段の行動も少なからずあるんではないかと考えてな。実際にキャメロットではどうなのか、冒険者達の普段の生活を見ながら話を聞いてみようかと思ったのだよ」
「なるほどー、でも隠密行動に長けた冒険者を探している理由って何ですか」
「実際に冒険者達に協力を願い出る訳だが、そう言ってはありのままの姿を見る事は出来ないだろう。協力して貰う冒険者達に失礼だとは思うのだが‥‥存在を悟られずにその動向を見届ける者の力添えが欲しくてな」
 レイの答えに頷いてその考えを漏らすオーウェンに納得する受付嬢だったが、再び湧き出る質問にそれも丁寧に答える領主。
 そしてその話が一通り終わったのか、暫く場を沈黙が包むも
「ブラボー! 面白そうだ、と言う事で私が手伝いたいと思うのだが構わないか? 安心したまえ、私が持つ十三の技を用いればきっとその任務‥‥達成して見せる!」
「ほぅ、その自信‥‥偽りなしと私は見た。お願いしてもいいだろうか?」
 暇を持て余していたからこそ、領主のその依頼に名乗り出ては変にやる気を出すレイに性格こそなんだが実力の程を見抜いたオーウェンはそれに頷き話をまとめれば、受付嬢は頬杖をつきながら呟いた。 
「依頼人の目当ての方は見つかったけど、一応レイさんについて説明した方がいいね‥‥しかしどうなる事やら」
 性格はさて置き、彼の実力を知っているから特に止めはしなかったが万が一、依頼に何かあれば冒険者ギルドの名折れと思い、何事か盛り上がっている二人の会話にに彼女は割り込んでいくのだった。

●今回の参加者

 ea0453 シーヴァス・ラーン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5678 クリオ・スパリュダース(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8689 小野 織部(47歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 eb0966 燕 紅狼(52歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●男達の語らい
「さて、そろそろ動く事にしようか」
「うむ、天気も上々だし今日はいい日になりそうだな」
 長閑な昼下がり、噴水の石縁に腰をかけのんびりしているのはノッテンガム領主のオーウェン・シュドゥルク。
 彼が何気に呟いて立ち上がると、何処にいるのかレイの呟きが辺りに響く。
「‥‥相変わらずだな、知らぬ間に近くに佇んでは人を観察する悪い癖は」
「久し振り、と言って貰いたい。そう言うお前こそノッテンガムの領主様になっていれば、久々の対面にも拘わらずそ知らぬ振りとは昔と変わらず冷たいな」
 どうやら見知った二人、久々に会った事で昔話に花が咲く。
「‥‥しかしどこに姿を眩ませたかと思えば、キャメロットにいたとは驚いたな」
「町の様子を見たくなったんだよ、シャーウッドの森での暮らしも悪くはなかったが」
「まぁ、いいさ。また時期に力を貸して貰う事になるかも知れない、その時は宜しく頼む」
「分かっている、やるべき事はあの時から既に見定めている。もう、迷いはしない」
 だが徐々に重くなる二人の声音、だがレイの言葉にオーウェンは微笑むと話を本題に戻した。
「‥‥話を戻そう。今回、レイに手伝っては貰うがあくまで裏方だ。悪い癖を出さない様に頼むぞ」
「それは彼ら次第だ、大丈夫だと思うが‥‥では一足先に行っている」
 釘を刺す領主にレイは自重して返すと、やがて何処かへと駆け出した。
「さて‥‥今の冒険者は普段何をして、どんな考えを抱いているのか楽しみだな」
 軽い足音がやがて聞こえなくなると彼もまた歩き出すのだった。

●麗らかな昼下がり
「もしかして今、暇だったりする? 時間が空いてるなら、一緒に遊び行かない?」
 太陽が天空の真頂点を過ぎた頃、以前の怪盗事件から治安が悪くなったと感じていたリオン・ラーディナス(ea1458)は一人、ちょっと洒落た格好で町の見回りをしていたが可愛い女性とすれ違うなり、青春を謳歌しようと踵を返して声を掛ける。
「あ、これからデートなの」
 だが彼女はそれだけ言うと、その場から足早に去っていく。
「‥‥もうこれで、何連敗目だっけ?」
 見回りかナンパか、どっちが主だった目的なのかよくは分からないが呟いてリオンは遠くを見つめたが、それも一瞬の事で視界の片隅にまた一人で歩いて来る女性を見かけては挫けずに再度、突貫するのだった。
「そこの道行くお嬢さん、もし良かったら‥‥」

 そんなリオンがナンパに励んでいる頃、日々、モデルとして日々の努力を忘れない神聖騎士のシーヴァス・ラーン(ea0453)は、最新の服を試着している真最中。
「こんな感じですかねー?」
「‥‥さすが俺、何でもうまく着こなすよな」
「うん、いい出来だわー」
 そんな麗しい彼が足を運んでいた仕立屋には、接客があるにも拘らずエクセレントマスカレードで怪しい雰囲気醸し出しなミリランシェル・ガブリエル(ea1782)が勤めており、昨日出来たばかりの上着を着せてはその出来に満足そうな表情を浮かべる。
「ん、あれは‥‥すぐ戻ってくる、暫く待っててくれ」
 そんな折、ふと外に視線が行くと女性に声を掛けてはうなだれるリオンの姿を見かけたシーヴァスは何事かを察すると、外へと飛び出していった‥‥今の格好を気にする事無く。
「流石はモデル、と言った所なのかしらねー」
 そんな彼の様子にミリランシェルは感心し、他に客もいなかったのでちょっとした興味からその後を着いて行くのだった。

 そしてやはりほぼ同時刻、ノース・ウィル(ea2269)は社交ダンスの講習会が休みだった為、町にブラリと買い物に出てはその帰り道で迷子になっている子供を見つける。
「一緒に探してあげるからもう泣くな、男の子だろう?」
 優しい声音で落ち着かせると頷く彼に微笑み、その手を引いて母親を探すべく歩き出すと暫くして
「いい匂い‥‥お腹、空いたー」
「そうか、一切れだけで良ければ‥‥ほら、ゆっくり食べなさい」
 もう片方の手に抱える、大量のチーズが詰まった大きな皮袋から流れ出るチーズの匂いに彼がそう訴えると、今度は苦笑を浮かべて彼女はゆうに一週間分はあるだろうその袋から、チーズを一つ手渡して‥‥自らも少し食べたくなってしまった。
 
「チッチッチ、泣くんじゃねぇよ、男だろ」
 ミリランシェルがシーヴァスに追いついた頃、
「でももうこれ以上は。そうだシーヴァス、キミなら知っているのだろう‥‥ナンパの奥義って奴を! せめて、コツだけでも教えてくれ‥‥」
 早くも両手で数えられなくなった連敗数に嘆き呟くリオンに、その肩を叩いて励ますシーヴァスはビシッと明後日の方角を指差し
「モテる極意ってか? それはな‥‥」
 そして少しの間を置いて、その答えを紡ぐ。
「己のスタイルを持つって事だ。誰がなんと言おうと貫く意志と自信があればノープロブレムだぜ」
 言っている事は確かに分かる、それに『上半身』だけ見ればとても決まっていた。
 しかしまだ明後日の方角を見ている彼は、仕立屋で試着をしていた途中だった為に上着こそ着ていたが下は錦の褌全開だった。
 モデルと言う人から見られる事を生業としている彼はそんな事等全く意に介せず。
 それだけに自信満々なオーラを噴出している彼はリオンにそう諭すと、追い越して行く子供を連れた女性の背中目掛けてリオンを押しやった。
 後は実践あるのみだ、とでも言う様に。
「やぁ、そこのキミ。もし良かったら‥‥」
 そんなナンパとはなんぞやを説いてくれた神聖騎士の想いに応える為、彼は一つ頷くと早速行動に移す。
 もう今の彼には奥さんだろうが関係ない、どこかで見た後姿も気のせいにしておいて。
「何だ、リオンではないか」
(「な‥‥し、しまった!」)
 しかし返って来た声の主の顔を見て、自らの迂闊さにばつ悪くその場に固まるリオン。
 同じ依頼を何度かこなした事があるノースだったから、それは当然な訳で。
「その様子なら、今日はまだ成功していない様だな」
「お察し下さい‥‥で、その子供は何?」
「あぁ、迷子になっていてな。親を探しているのだよ」
「こんなに可愛いのに、可哀想‥‥よし、私も手伝うわ!」
 口に手を当て、笑うノースに頭を掻きながらもリオンは遅れて彼女が連れている子供の事を尋ねると、少年少女に目がないミリランシェルが子供に抱きついては友人の手伝いを決意する。
「そうだな、このまま放って置けないな。俺も手伝う事にするか」
「その前に‥‥下を履いてきては如何だろうか?」
 シーヴァスも同じ神聖騎士としてそう告げるも、そんな彼から目線を逸らしながらノースの提案に皆は静かに笑い声を上げた。

「今の冒険者はこんな感じなのか、昔はもう少し‥‥」
「だが面白いぞ、昔より大分な。見た目はああだが根本は何も変わらん、外面で判断する悪い癖も昔から相変わらずか? 話してみれば全て分かるさ」
 そんな光景を遠めで見つつ呟く領主に、やはり姿は見せず何処からか宥め諭すレイに
「っ、言われなくても話してくるさ」
 少し詰まりながらも四人の元に歩き出す彼の背中を見て
「まぁこんなものだろう、私としてはいささか詰まらないが‥‥ブラボーだ」
 やがて領主と話し出す冒険者達を暖かい眼差しで見つめて、褒め称えた。

 その後、キャメロットに来てから余り目立てないと嘆くミリランシェルの話を皮切りに、葱は凶悪だと言うリオンや女装する変態盗賊団と対峙した際の話を語るノースにうなだれるオーウェンだったが
「ああ? 別にいいんじゃねぇの? 変態か変態じゃねぇかは単に嗜好と価値観の違いだろ。素っ裸で笑いながら走ってても、笑って見てればいいじゃん。ただ他人様に深刻な迷惑がかかるんじゃそれは範疇を超えてるんでブッ倒してもオッケイ、俺が許す」
 鷹揚な神聖騎士の話に一部は首を傾げながらも彼が言わんとする事を理解して頷けば
「折角ですから一着作って見ませんか? いい色合いの生地が入りましたのー、きっと似合いますよー」
 ミリランシェロの申し出を次の機会にと丁重に断っては暫しの間、皆の話に聞き入った。

 その一方、それを影から見守る男が一人。
 銀髪をたなびかせる細身のバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)は、変態の情報を集めて歌にしては領主に聞かせようと密かに暗躍していた。
「一目見て、普通と違う者なら変態と疑うのは道理でしょう」
 路地の影から皆を見てそう呟くと、手に持つ羊皮紙にその光景を歌詞に変えては筆を走らせるが、傍から見ると彼もそう変わらない様な気がするのは気のせいだろうか?

●緩やかに流れる夕暮
 日と刻を変えて、太陽が沈みかけている頃。
「そもそも”変態“と言う者の定義は不明確である。人と違った趣味を持っていれば、それだけでその者は変態と呼ばれるのだろうか? まぁ、自分の趣味を他人に無理矢理押し付けるのは余り賢いとは言えんがな」
 子供達が家へ帰ろうと駆ける中、賭場から出て来た筋肉質な体躯を持つ武道家の燕紅狼(eb0966)を見つけ彼の考えを、先日の遅くまで語ってくれた四人の冒険者達の話を思い出し
「それは確かに燕殿の言う通りであるな、少々物事を考え過ぎなのかも知れんな」
「故に、ただ頭ごなしに粛清していくのもどうかと思うが‥‥情状酌量の余地があるか位は考慮しても良いのではないだろうか?」
 納得して頷く領主の呟きに、指をぱちんと鳴らしてそう締め括る燕に彼は顎に手を当て思考を巡らせるも
「あ、領主様。お疲れ様〜」
「なんか足を運んで貰った様で悪いな」
 丁度その時、昼間より賑やかな広場に出た二人は人ごみの中から、民衆の前でリュートベイルを華麗に弾く鳴らすハンナ・プラトー(ea0606)と巨大な体躯を舞わせて軽業を披露する陸奥勇人(ea3329)に呼び止められれば、途端それは霧散する。
「キャメロットはやはり人が多いな、こう言った場所に来ると改めてそう感じるよ。しかしこれで治安の方は大丈夫なのか?」
「うーん、それを言われると最近は落ち着いて来ているけど安全だよ、っても言い切れないかな? けど‥‥」
 ノッテンガムでは見る事がない、大勢の集まりを目にして尋ねる領主の質問にリュートベイルの手入れを始めては少し寂しそうな表情でハンナが呟くと、それを遮って辺りに響く叫び声。
「ひ、ひったくりよー! 誰か捕まえて下さい!」

 場所は変わるも同刻。
 イギリスではまず見る事がない、紅い瞳を持つ狂闇沙耶(ea0734)は馴染みの店を回った後に恋人に会う為、道を急いでいたが
「ひ、ひったくりよー! 誰か捕まえて下さい!」
「‥‥参ったのぅ、蒼司様を余りお待たせしたくはないんじゃが」
 そう呟くと辺りを見回し、潜むに丁度いい場所を見つけるや急いでその身を隠し
「助けを呼ばれたからには、馳せ参じぬ訳にも行くまいて‥‥済まぬ、少しだけ待たせてしまうやも知れぬがお許しを!」
 今日はまだ見ぬ恋人に詫びながら、持ち歩いていた変装道具を手に取って彼女はそれを身に着け始めた。

「足が速い‥‥しかも迷いなく道を進むか、手馴れているな」
 再び場面は戻り、あれから暫く‥‥領主と燕達三人はひったくり犯を追い駆けていたがその距離は中々詰まらず、焦りを覚えながらも何とか追い縋っていたると
「悪人退治はわしがしよう、己が正義を貫く【仮面の少女、まじかる★しすたー、さっちん】‥‥只今推参!」
 いきなり民家の屋根が上に現れたのは、三度笠に小面と法衣を羽織り簗染めのハリセンを掲げて高らかと名乗る、まじかる★しすたーさっちんこと狂闇‥‥だったが、ひったくり犯に一行はそんな彼女に構う余裕なく通り過ぎて行く。
「‥‥名乗りを聞かずに通り過ぎるは失礼に値するぞ! 聞かなかった事、その身を持って後悔するんじゃな!!」
 当然と言えば当然なのだが、その対応にブチ切れたさっちんはヒラリと宙に舞い上がれば爆発だけを残し、先行くひったくり犯の背後に現れハリセン一発!
「はぁ‥‥はぁ。あ、あれは一体‥‥何者だ?」
「同業者、だろうな。俺達と同じ冒険者。格好こそあれだが、ここでは俺達だってこうやって治安の維持に努める時もある。本当は起こらないのが一番だけどな」
 そして一行が追いつくまでこれでもかと言わんばかりにハリセンで叩き捲るさっちんを見ながら、息も切れ切れな領主に陸奥が先程言いかけたハンナの続きを語る。
「それでは皆の衆、悪人には気を付けるんじゃぞ!」
「ん、後は私達がやっておくね」
「忝い、それでは失礼する!」
 不意にぴたりと止まるハリセン、やっと気が済んだかさっちんはそれだけ言うとハンナの返事と同時に微塵隠れで消えるのだった、僅かに焦げる犯人を残して。
「‥‥本当に色々な冒険者がいるものだな」
「確かに変わった奴は多い、だけどそれを変態と一括りにするのは視野が狭い証拠だぜ、領主様」
「目の当たりにして、それを実感した。色々と教えて貰って済まないな」
「命ある限り全てが‥‥学ぶ場だから、そう気にするな」
 陸奥の言葉に自らを恥じるオーウェンだったが、そんな彼に燕はそう説くと
「はーい、そんな訳でちょっと落ち込む領主様に一曲プレゼント。良かったら周りの皆も聴いてってね」
 ひったくり犯をしっかり拘束したハンナはリュートベイルを構えると、優しい音色を奏で出す。
「そういやぁ、筋肉騎士団ってのが居るがあれは‥‥」
 静かだが明るい曲が流れる中、自分が知っている限りの話をしようと陸奥は適当な場所に腰をかけるのだった。

「‥‥筋肉騎士団ね、ふむふむ」
 辛うじて聞き取れた陸奥の言葉を影から聞いては羊皮紙に書き取り、再び思いの丈を走らせるバーゼリオ。
 しかしまだ、何かが足りないと思った彼は陸奥の話を途中まで聞くと広場に飛び出し道行く人に笑顔で呼びかける。
「お好みの曲は何ですか? 何でも弾いて見せましょう。その代わり、知っている変態の噂を教えて貰いたいのです。如何ですか?」

「‥‥お待ちしましたか?」
 一方の狂闇は急いで変装を解いて駆け、何とか約束の時間に彼と落ち合う事に成功すると先程とは全く違う落ち着いた口調で彼氏に向けて満面の笑みを浮かべた。

●朝露光る早朝
 また日は変わり、今度は鳥の鳴き声軽やかな朝。
「変態‥‥それはイギリスの文化ではないのか?」
「‥‥いや、それは違うんだがな」
 グループ『深き森』に所属し、今はイギリスで休息を取っていると言う小野織部(ea8689)の元を訪ね、日々の鍛錬である素振りをしながら話す彼の質問を否定してオーウェンは直後、頭を抱える。
「そうか‥‥だが俺は変態について、否定するつもりはない。変態は変態、犯罪は犯罪だと思っているからな」
「皆、似た様な事を言う‥‥やはり年月を経て頭が固くなってしまったのかもな」
 オーウェンは同じ位の年である浪人の、もう何度聞いた事か同じ様な言葉に自嘲の笑みを浮かべると小野は左手に木刀を持ち直して、再び素振りを始めながら
「けど、まだ変化出来る余地は十分にあるさ。俺も、勿論あんたも‥‥だからあんたはキャメロットまで来たんじゃないのか?」
 視線は常に前を見据え、木刀を振りながらも笑みを浮かべる小野に領主は静かに頷いた。
「あぁ、そうだ‥‥そうだな」
「あんた、意外に忘れっぽいだろ?」
「友人にもよく言われる、困ったものだな」
 長い時間話していた訳ではないが小野は領主の性格は一端を見抜くと、彼は否定せずに苦笑いを浮かべ、直後に二人揃って大声で笑うのだった。

「僕は思うのです。最近一部で筋肉系が変態扱いされるのは不当であると。変態という言葉は本来、変態性欲が略されたものです‥‥従って変態的行動とは、性的欲求に根ざした行動を指すのです」
「ふ‥‥ふむ。それは確かに皆も言っていたが‥‥しかし筋肉系? それは筋肉を皆に見せ付ける行為を指すのか?」
 あれから鍛錬を続ける小野の元で普段の様子を伺えば、意外に長居してしまった事に気付くとそれを詫びて、次はギルス・シャハウ(ea5876)の元に向かう。
 近所の子供達を集めての礼拝だろう、その様子を感心しながらも静かに終わるまで見届けてからお互いに自己紹介を交わしてから早速、変態についての話をしてみればこんな話だったり。
(「‥‥やはり見た目だけでは分からぬな」)
 と青き蝶の羽を持つシフールを見て、内心でオーウェンがそう思ったのは秘密だ。
「そうです。彼等の脱衣して筋肉を誇示すると言う行為は、性的快感を得る手段というより、自己顕示欲・自己愛の現れだと思うのです。彼等はよく褌一丁になりますが、その褌こそが彼等と変態を隔絶するキーアイテムなのです」
「‥‥だから、変態と筋肉系は同じではない、と言うのか‥‥いや、しかしだな‥‥」
「そう、変態とは最後の一枚を躊躇いなく脱ぐ者達の事なのです! あぁ、褌一丁の筋肉人間達。今頃は海で水泳大会。僕がこの手で怪我した人を癒して上げたかった‥‥」
 筋肉系について熱く語るギルスに戸惑いながらも、やはり何か違うと思って続きを紡ごうとするも既に彼は遠くの世界に行っている様で、領主の言葉がまだ途中である事に気付かず遮り‥‥完全に別な世界に行ってしまう。
「‥‥ど、どうすればいいのだろうか?」
 今は辺りで遊ぶ子供達に聞く訳にも行かず、彼は一人頭を抱えるのであった。
 ただ、今まで話をして来た冒険者達と同じ事を言っていたギルスの事を
「待っててね、ムキムキなおじさん達。これから僕が痛んだ筋肉を癒しに行くからね‥‥クスクス」
 ‥‥まぁ、おじさんぽい人が好きだ、と言う事を後で説明すれば問題はないだろう。

「ボク自身は変態には縁遠く、逢った事がないので存在はまず否定しませんが、人様に迷惑をかける方については厳しく取り締まると言う風にすれば良いと思いますよ」
「ふむ、君もそう思っているのか。確かに誰かしらに害を与える存在であるなら取り締まる事は必然だな‥‥切り分けが難しい所ではあるが」
 再び場所は変わって王宮図書館、真っ直ぐな眼差しで真実の魔術師を目指していると言うワケギ・ハルハラ(ea9957)の考えに領主は賛同して、外を見やれば日は大分高くまで昇っている事に気付いた。
「しかしもう昼も近いな。あと一人、話しておきたい者がいるのでもし良ければ歩きながら話をしないか? 気分転換の散歩を兼ねて、と言う事でどうだろう?」
「そうですね‥‥折角のお誘いですし、たまにはいいかも知れません」
 領主の誘いにワケギは微笑み、周囲に積んでいる本の山を片付け始めた。

「ソールズベリを変態の隔離場所にすると言う話があるんですが、そこの領主さんは当然と言えば当然なんですが拒否しているそうです。それとカンタベリーでは、『耽美の灯は消さない』との抵抗活動が見られるそうです」
「‥‥どこも大変なのだな」
「本当に、そうですね」
 アンドリュー・カールセン(ea5936)がいる森に向かう道すがら、ワケギは友人から聞いた話を語る。
 噂の域を出ないその話はしかし、ノッテンガム領主であるオーウェンにも他人事ではないと受け取り、沈痛な表情を浮かべたが
「あ、ここですね‥‥ってこんな所で一体何をしているんでしょう?」
「‥‥そうだな、森林浴でもしているのはないかな」
 目的地に辿り着く二人はその鬱蒼とした木々の群れを見て疑問符を浮かべるも、オーウェンはそう推測して森へと足を踏み入れたが

 カランカランカランカラン

「鳴子か! 何でこんな所に‥‥」
「なんか、余りいい予感がしないのは‥‥気のせいですか?」
 その踏み出した足に抵抗を覚えると直後に辺りに鳴り響く鳴子に驚けば、自らの直感を領主に言うワケギ。
「とは言え、私は彼とも話をせねばならないからな」
「大丈夫でしょうか‥‥?」
「何、多少なら多分大丈夫だ。此処までの案内、非常に助かった」
「いえ、こちらこそオーウェンさんのお役に立てたなら幸いです。気をつけて下さいね」
 オーウェンも彼同様の考えだったが、それでも成すべき事の為に森へ入る事を決意すると、ワケギの応援に手を振って返すと森へ足を踏み入れた。

「‥‥誰か入って来たな‥‥」
 鳴子の音を耳にし、その罠を仕掛けた張本人であるアンドリューは森林浴を中断して立ち上がると
「‥‥何か忘れている気もするが、思い出せないなら気にした所でしょうがないか」
 そう割り切っては呟くと、周囲に同化する服を着こなして音源の元に向かうのだった。

 それから暫く、森の中心まで後半分と言った所‥‥オーウェンは落とし穴に嵌り、底で腕組みをして何かを待っていた。
「ブランクは早々簡単に埋められるものではないか」
 自嘲する様に呟くと、そんな彼の目の前にロープが降りてくる。
「やはり昔から変わってないな、詰めの甘い所も」
「うるさい! ‥‥が助かった」
「構わないさ。しかしこれだけの罠を張るとは‥‥」
「しかし、話は各人に通している筈なんだが」
 ロープを垂らす主はレイで、オーウェンを助け出し疑問を口にすると彼の話を聞いて
「なら、進む他あるまい。が少なくともこの罠の張り方はそれについての知識に長けている者だな、私の知識では気が抜けん、じっくり進む事にしよう」
「あぁ、頼む」
 進む事を決意した矢先だった、何かに反応してレイがダガーを抜き放ったのは。
「話を忘れていなければ、罠を解除して待つのが礼儀ではないか? アンドリューよ」
「はっ! 申し訳ありません!」
「まぁいい、比較的大人しい罠だけだろう? ならそれよりも日頃の精進を褒めるべきであるな」
 ダガーが刺さる木の向こうから、呼び掛けられ戦闘態勢を解いて現れたのはアンドリューその人で、全力を持って二人(と言うかレイに)謝るとレイも(オーウェンの事は気にせず)彼の努力を褒め称える。
 そんな二人を見ながら内心どう思っていただろう、オーウェンはそれでも
「‥‥所で早速だが、先日簡単に話した件について君はどう思う?」
「は、不穏分子ですか。不穏分子は全力を持って排除すべきです」
「うむ、その通りだ。ブラボー」
「‥‥」
 話の噛み合わなさに一人蚊帳の外にいる感を覚えずにはいられないオーウェンだったが、諦めて最初から説明をするのだった。

「‥‥この森の中では何が起こっているのでしょう? 入ってみたい気もしますが‥‥」
 またしてもバーゼリオ、気付けば彼も何故か此処に来ていたが森の只ならぬ雰囲気を察して、その歩を止めている。
「町に戻って、いつもの様に曲を流しつつ話を聞いて回った方がいいですね」
 そう彼は判断するが早く踵を返すと、未だ罠でてんこ盛りな森を後にした。

●星と月が瞬く夜
「また宜しく、ね」
「うるさいっ! もう来るもんか!!」
 日も沈み、夜の喧騒に紛れて今日も生業に勤しむクリオ・スパリュダース(ea5678)は、眉一つ動かさない冷静な判断で今日は一つの商談を話にならないと蹴っていた。
「‥‥やっと落ち着いた様だが、今いいかな?」
「構わないよ。尤も黒い話が多いけど、いいね?」
 顔を真っ赤にさせて彼女の商談相手とすれ違いながら尋ねると、クリオは静かに微笑んでは意味ありげにそう言うと領主が頷くのを確認してからポツリポツリと語り出した。
「‥‥アーサー王はケンブリッジ救援を冒険者に任せた件は知ってるよね。あれは国民を守る義務を放棄したのと同義。大きな事件であるにも拘らず、集まるかも分からない冒険者有志に委ね、王は無力ですって言っちゃったんだから。でそんな事をしたものだから当然イギリスでは王に代わって、冒険者の力が増す訳だ」
「‥‥確かに黒い話だな‥‥」
 組んだ両の手に顎を乗せて言うクリオの話は確かに重く、呻く様にオーウェンは呟いたが彼女の話はまだ続く。
「で話は少し変わるけど、冒険者は一般より変態行為に走りやすい。生業より冒険に依存する者ほど社会のくびきが緩いし、冒険者は実力社会だから変態でもやっていけるから。そうして冒険者の株が上がる事で、釣られて変態の株も上がった。変態の社会的認知て訳、誰かが嫌がってもね」
「‥‥なるほど、な」
「王が軍を動かし、国の力を示すのは国民心理にとって大事な事だった。アーサー王は自身の無力さを認めてしまった為に、それは民の誇りをも傷付け社会不安の風潮が名誉ある国民としての節度を忘れさせる一因になったと‥‥ま、国政批判になっちまったが要は為政者の手で社会不安を払拭し、誇りと自信に満ちた統治を復活させろって事さ」
「ふむ‥‥確かにそうかも知れん。だが見える事だけが真実ではないかも知れん。今まで色々な冒険者から話の話で学んだ事を踏まえて考えれば‥‥真意は他にあるのかも知れないとも思うのだが、どうだろうか?」
「なるほど、そう言う考えも出来るわね‥‥ま、領主でも色々大変だと思うけど自分の発言には責任を持ってしっかりした統治をしてね」
 途中途中で相槌を打ちながら最後まで聞き終えると、領主は内容が内容ながらも確かに話の一端は的を得ているその説明に納得しつつも、自分なりの考えから彼を擁護したがお返しの手厳しい激励には苦笑いを浮かべるのだった。

 彼女からの話を聞いて、オーウェンは残るロア・パープルストーム(ea4460)とバーゼリオから話を聞く為に酒場へと足を向ける。
「結論から言うと、私は変態と言うものに縁はないわ。こうして冒険者家業をして酒場にも出入りして友達もいるけど、見た事も話した事もなくて‥‥治安が悪くなったとか変態が蔓延るだとか、それはその人の生活環境が要因ではないのかしら? 物事に終始があるように、変態にも切欠と原因がある筈よ。領地に変態が増えたのなら、まずは領主様ご自身の胸にお聞きになってはどうですか?」
「‥‥心当たりは全くないぞ」
「なら、レイ・ヴォルクスと言う方に聞いてみては? あの方は変態、と言うよりは変人ですけどその友人には変態も多そうだし怪しい技の数々をお持ちの様だからきっと何か教えてくれるかも‥‥って元依頼人の氏に聞かれちゃ不味いわね、このお話は他言無用でお願いしますね」
 今まで皆が皆、様々な話や意見をしてくれる中で彼女の質問には特に心当たりなくオーウェンが返すも、ロアがある人物を紹介すれば小さく笑い出す。
「可笑しな事を言ったかしら?」
「いや、すまんな。ちょっと似た友人の事を思い出して‥‥まぁなんだ、その人物から話を聞いてみるのも面白そうだな」
「色々と参考になる話を聞ける筈よ‥‥まぁ、大人の余裕ある態度が変態を撃滅させるの。それも覚えておくといいかもね」
 変わらず笑う彼に小首を傾げながらもロアの助言に、オーウェンが頷いたその時。
「領主殿の為に『イギリスの変態達』なる歌を作りました! 是非、お聞き下さい!」
 先程まで酒場のあちこちで歓談する者達のために曲を奏でては、何事か話を聞いていたバーゼリオが二人の前に『真打ちは最後に登場するものだ!』とでも言わんばかりに現れると、その返事を待たずして即興ながらも歌を紡ぎ始めた。
「一撃必殺、先手必勝の声高く! 今日も華麗に褌舞わせ、大剣両手に何処へ行くー? そうっ、それは‥‥」
 ‥‥以下省略、色々な意味でお察し頂ければと。
 そして暫しの間、珍妙ながらもイギリスを体現する様な歌が酒場に響き渡った。

「後もう少しで作れそうなんだけど、まだ何か足りない気も‥‥まぁ試してみようかしら?」
 話も一段落するとロアは更に磨きをかけた精霊碑文学の知識でスクロールを作成しようと、今は静かな歌が流れる酒場の片隅の机で白紙のそれを広げて作業を始めるべく筆記用具を手に取ったが
「ふむ、中々に面白い話を聞かせて貰ったよ」
「あ‥‥ら、いたの?」
「十三の技が一つを用いれば、多少五月蝿く離れていようともある程度の話を聞き取る事は造作もない」
 単に聴覚が優れているだけではないだろうかとロアは思いながら、何と無く嫌な予感を過ぎらせると
「それでどんなご用件、で‥‥?」
「ロア、まだお前にそれを作る事は出来ない。故に一時没収だ、その日が来たら返す事を約束する‥‥言っておくが、あれだ。怒っている訳じゃあないぞ」
「あ、ちょ‥‥」
 そう言ってレイはスクロールを素早く回収すると、ロアが引き止める間も無く即座に人でごった返す酒場を脱出する。
 まぁ、素行云々について注意された訳ではないのでとりあえず問題はないだろうが、今後の風当たりはどうなるか事か‥‥そして今日も夜の町は平穏無事(?)に終わりに向けて進むのだった。


 さりとて、この夜を最後にオーウェンとレイのキャメロット行脚は終わりを告げた。
「冒険者達の中々に面白い私生活も垣間見れたし、変態についての話も良く分かった。もう少し、柔軟な考えを持つべきだと言う事を理解したよ」
「それは良かった。だから言ったろう、面白い奴らだと‥‥実際私も安心したけどな」
「未来はまだ分からないが、確かに面白くはなりそうだな」
 月夜を肴に二人は酒と言葉を酌み交わして、色々とあったもののそう捨てたものではないだろうと感じてか、安堵した。