【何でもござれ】 〜特産物を守れ!〜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月10日〜03月22日

リプレイ公開日:2005年03月15日

●オープニング

「さてと、これで手配は終了っと」
 そう言って託した手紙を携えた馬車を見送るのはセルアン・シェザース、男性に女装をさせる事を趣味とする一風変わった貴族である。
 流石にそれは屋敷内だけの話で、外では至って普通に振舞っている‥‥しかしそれだけに厄介だ、と言う使用人の話もあったりはするが彼女は一向に気にしていなかったり。
「‥‥何を手配したんですか?」
 彼女の隣に佇んでいる彼、ラディ・コロイドは恐る恐る尋ねた。
 それもその筈、整った容貌故に彼女の犠牲となっている回数が屋敷内でダントツに多いから余りに気になって尋ねるとセルアンは彼にとって否定して欲しかった、予想通りの答えを口にする。
「ちょーっとノッテンガムの特産物を‥‥ね」
「‥‥あれですか」
「いいじゃない。最近まで家業に忙殺されていたんだし、たまにはストレス発散しないと!」
「それでストレスを溜める身にもなって下さい‥‥」
 静かに呟く彼だったが、そんな事は聞きもせずに彼女は嬉しそうな表情を浮かべていたが
「そう言えば最近、ノッテンガムに至る主な街道でそれらを輸送する馬車ばかり襲われると言う話を聞きますけど、そちらについての対処は?」
 彼の水を差す様な言葉にそれでも彼女は気にせずふふん、と不敵な笑みを浮かべると言葉を紡いだ。
「それも把握済み。抜かりはないわ、既に冒険者ギルドに依頼を出しているわ。後は無事荷物さえ届けば‥‥いつも以上に楽しめそうね」
「‥‥可哀相に」
 彼女とは長い付き合いであるラディは考えを全て読み切ると、自分以外の犠牲者に早くも涙するのだった。

「今回の依頼ですが、ノッテンガムに向かって貰いセルアンさんが手配した物を無事キャメロットまで送り届けて下さる様、その荷を積んだ馬車の護衛をお願いします」
「その手配した物って‥‥依頼人からして察しはつくから余り聞きたくないが、なんだ?」
 受付嬢が告げる新たな依頼に、過去に一度だけあったセルアンからの依頼を思い出してか尋ねる冒険者に彼女は微笑んだ、薄氷の笑みではあったが。
「現地に行って貰えれば分かると思いますよ、産地としてノッテンガムが有名ですからね」
「なんだってまたいきなり‥‥しかも俺達に声が掛かる理由って一体なんだ」
「最近はキャメロットからノッテンガム間の街道でそればかりを狙った強盗が出るそうなので、心配なんでしょうね」
「気のせいならいいが、なんか彼女の依頼に強盗と聞くとどうしても‥‥」
「気のせいにしておいて下さい。その荷が届かなければ彼女が困ると仰ってましたし、それが例えどんな事であれ、そう言った人達を出さない為に皆さんがいるんですから」
 嫌な予感がどうしても拭い切れない彼に「困った人達を救う為」と止めの言葉を放てば、彼らは頷かざるを得ない。
「まぁ依頼を受けるか受けないかは皆さんの自由だから、ゆっくり考えてみて下さいね」
 だが流石に彼女も鬼ではなく、今までとは打って変わった優しい声音でそう願い出ると改めて冒険者達に一礼するのだった。

●今回の参加者

 ea1252 ガッポ・リカセーグ(49歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4099 天 宵藍(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5541 アルヴィン・アトウッド(56歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6900 フェザー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea6902 レイニー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

小野 織部(ea8689

●リプレイ本文

「私はフェザー・フォーリングと申します、それで隣にいるのが妹の‥‥」
「クソ兄貴、俺は男だ弟だ! いい加減その紹介はヤメロ!」
 ノッテンガムに向けて出発前に皆が揃えば自己紹介を行うのが必然で、そんな中で特に異彩を放つのはフェザー・フォーリング(ea6900)とレイニー・フォーリング(ea6902)の双子の兄弟だった。
 兄の紹介にその後頭部を豪快に蹴り飛ばす彼女‥‥もとい、彼は確かに女物の服を着ている限り、女性に見える訳で不憫であると他の面々はその光景に苦笑を浮かべたとか。
「ふむ。荷物を護衛し、依頼人へ届ければ良いのだな?」
 そしてまだバタバタ暴れるシフール兄弟をどうしたものかと思いつつも、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が依頼人の代わりに皆を見送りに来たロディに改めて尋ねると
「はい、そうなります。それと一つだけ言い忘れていましたが、荷の中身は見ない様に。余計辛くなるだけですから‥‥」
 言うなり悲しげな表情にふっと、意味ありげな溜息をつけば
「今回の依頼主はセルアン殿だったな‥‥と言う事は、その荷物‥‥」
「だう? ん〜‥‥まあ、直に判るから良いや♪」
 以前、彼女から似た様な依頼を受けてはその後の惨状を目の当たりにしたノース・ウィル(ea2269)があの光景を思い出して頭を抱えるも、それを特に気にせず明るく返すミリート・アーティア(ea6226)の言葉と満面の笑顔は皆の不安を払拭した。
「ふんふーん♪」
「兄貴が妙に乗り気だ‥‥嫌な予感がする。なぁ、依頼人の趣味って何だ?」
『‥‥‥‥‥』
「黙るなよっ!」
 もそんな中、楽しげに鼻歌を歌うフェザーの様子を疑問に思い、レイニーが尋ねるもそれを知っている者から返ってくる沈黙に思わず叫ぶ。
「まぁ行こうか。ここまで来たんだ、何が待っていても依頼として受けたからにはやるしかないだろう」
 そんな彼を諭す、ガッポ・リカセーグ(ea1252)の言葉にレイニーはやっと観念して諦めると、次々に馬車に乗る皆の後を追うのだった。
「いつも通り、気楽にいこっ♪」
 肩を落とすレイニーに背後から明るく声を掛けるミリート、何とか笑顔で彼は頷き返すとやがて一行を乗せた馬車は軽やかに走り出す。
「皆さんご無事で‥‥いや、帰って来てからが‥‥ううっ」
 徐々に離れていく馬車を見送り、呟いては涙するロディはレイニー以上に肩を落として家路に着く、後二週間も経たない内に来るだろう『それ』を着ている自分と彼らの姿を思い浮かべて‥‥。

 馬車に揺られて暫く、最年長者のアルヴィン・アトウッド(ea5541)は一つのミスに気付く。
「‥‥六時間後も晴れか‥‥違うものを持ってきていたとは迂闊だったな」
 スクロールを広げ、封じられた呪文の展開にまでは成功するも効果が違う事に気付きよくよく調べてみればその巻物はフォーノリッヂではなく『ウェザー』フォーノリッヂだった。
 と言う訳で、見えた未来にうなだれつつも自然が好きな彼は少なくとも暫く晴れだと言う事に思考も併せて前向きにすると、馬車に美しく響き渡るミリートの歌声を聴きながら吹き渡る風を浴びて呟いた。
「春はもう〜、ま〜ぢ〜か〜♪」
「いい歌に‥‥いい風だな」

 行きは何事もなく無事にノッテンガムの市街地まで到達した一行は早速、散り散りになって賊についての情報収集をする中、一人でセルアンが手配した荷物を受取に行く天宵藍(ea4099)。
「どうやらここの様だな」
 ロディから出発前に託された地図に記された場所に着くや、周囲の様子を見て出発前から気になっていた事が瞬時に霧散する。
「肝心の荷は中身‥‥聞かずとも分かった気がする」
 遠い目でその店の扉を見やってはやがて、意を決すると彼はその店に飛び込んで行った。
 ちょっとだけ疼く、二丁目での依頼以降通い始めた血を抑えて。

 そして、賊についての情報も得た一行は一晩しっかり休むと帰路へと至る。
 それぞれが得た情報のやり取りする中で、何が待っているのかを察して。
「どうやら、似た様な集団とまた戦わねばならない様だな‥‥」
「何にせよ、懲らしめる事になるだろうな。余り見たくはないものだが」
 統合された情報からデジャヴを感じてうなだれるノースの姿がとても小さく見えた中、荷の保護を終えたガイエルは彼女の肩を叩いて諭す、やるべき事を。


「兄貴、あれがそうですぜ」
「‥‥セルアンが冒険者達の護衛を付けてまで守るもの、今まで奪ってきた荷の中で間違いなく一級品の物だろう、お頭達が成し得なかった事を今度こそ果たすんだ」
 一行がキャメロットに向けて移動を始めてから二日目。
 濃い闇が蔓延る刻となり、ノッテンガムから出てきた一行の様子を一日かけて観察していた偵察の者からの報告を受け、首領格らしき男の決意に賊と思しき一団は一様に頷いた。
 どうやらその賊達は、過去にセルアンが華国より取り寄せた民族衣装を強奪しようとした賊の残党だと思われる、いやだってその格好が‥‥。
「‥‥とりあえずもう少し待つ。もう少し、闇が濃くなってから‥‥あの荷を奪うぞ。そしてそれを亡きお頭の墓標に‥‥」
 皆に指示を出し、最後まで紡ぐ事が出来ずに言葉を詰まらせる首領格の男に釣られ、皆も涙するのだった‥‥ちなみにそのお頭は死んでおらず、未だ牢獄の中ではあるが健在である事を付け加えておく。
 とにかく、勘違いの復讐劇(?)はもう間も無く幕を開ける。

「はやぁ〜‥‥真っ暗寒々。こう言う時、星に詳しければ色々楽しめるのになぁ‥‥」
 夜は無理せずに野営を張っては交代で見張りを立て、賊の襲撃に備える冒険者一行。
 冷たい空気の中、静かにミリートは天上に広がり瞬く星々を見上げ残念そうに呟く中、レイニーは爆ぜる薪の上を飛んでは暖を取りつつ兄を見やり
「くそ、何にやついているんだこの兄貴‥‥」
 微笑む寝顔になんとなく怒りが沸いた時だった、彼の耳に風切音が聞こえてきたのは。
「来たぞ! 起きろっ!」
「げぼぁ!」
 叫ぶと同時、まず真先にフェザーに蹴りを入れ起こすと直後、数本の矢が赤々と燃える薪の周囲に突き刺さる。
「余り荷から離れ過ぎるな、対応出来なくなるぞ」
「分かってお‥‥る‥‥」
 町で入手した情報から襲撃があるであろうポイントを把握していた一行はアルヴィンが指示の元、機敏な動作で陣を組むも街道脇の林から姿を現す襲撃者の姿を見て、ノースはデジャブをやはり覚えて今度は目眩が一つ。
「前回は着替えの最中で不意打ちを受けたそうだからな、そんなお頭の失敗を踏まえて今回はちゃんと着替えてから登場だ!」
 どうやらうまく逃げ果せた者からの話を聞いてだろう、今度こそはと叫ぶ頭領格の男はレースが程よくあしらわれたドレスを着込んで登場。
 ちなみに後ろから続く部下達も当然の事ながら同様の格好。
「今こそ‥‥亡きお頭の為、各地に伝わる女性用の衣服を全て集めれば何でも五つまで願いが叶うと言う地に行く我らが野望の為に、まずはレースと言うレースを奪うのだ!」
『‥‥‥‥』
 彼の決意に一行は沈黙で返す。
 そんなあり得ない野望に、と言った事もあるだろうがそれ以上に以前のお頭と違っていやに似合うその姿に唖然とする一行。
 ‥‥全うな生活をしていれば、モデルとしてもやって行けただろうに。
「何だ、その沈黙と猜疑に憐憫が入り混じった視線の束は! もういい、やれ野郎ど‥‥」

 がっ!

 しかし彼がスカートを翻して言い終えるより早く、ホイップでその身を絡めとっては頭部を穿つ天の鳥爪撃。
「‥‥それが答えか、よく分かった」

 がすっ、がすっ、がすっ

 例えようがない感情に身を任せ、地に倒れ伏す頭領格の男をひたすら蹴り続ける天だったが、彼もそのままでは終わらない。
「や、やるんだ! げふっ‥‥俺の屍を乗り越えてでも! がっ!」
「げ、現親分の意思を継ぐんだっ! 行くぞっ!」
 彼の最後っぽそうな命令に心震わせ、再び動き出した賊一団に点の様子に少しポカンとしていた一行も合わせて動き出す。
「悪い子にはお仕置きだよ!!」
 そしてミリートの声が闇夜に響く中、様々なレースのドレスに身を包んだ盗賊団との戦いが始まった。

 動き辛い服ながらも地形を巧みに使って奮戦する盗賊団だったが、それをわざと森に押し込みガイエルのプラントコントロールで相手の動きを絡め取れば
「こいつらにはこれが利かないのか‥‥残念だ」
 天の鞭にノースのダガーが閃く中で、Gパニッシャーを振るっては心底残念そうに呟くガッポの脇を馬車目掛けて駆ける賊もいたが、近づいて来た者はアルヴィンとフェザーのライトニングトラップでそのドレスを華麗に焼き焦がす。
「その身に刻め、二度とこんな事を考えぬ様にな‥‥」
 自らと同じ位の年の者を見て、それでも容赦なくレイニーの雷撃を追い駆けて風の刃を放ったアルヴィンは静かに、一応更正してくれと祈るのだった。


「や、皆ご苦労様♪ っと、荷物も無事だね〜」
 あれから、対盗賊団用にと街道を警備していたノッテンガムの自警団にその身柄をまとめて引き渡してからは何事もなくキャメロットへ辿り着いた一行。
 セルアンは手厚い歓迎で一行を迎えるも、一つの木箱が目の前に置かれると皆に背を向けて早速それを開ければドレスの数々を放り出す。
「さ、それじゃあ男性の皆さんにはこれを着て貰おうかしらね‥‥」
 そして再び振り返る彼女、その目に怪しい光を宿して男性陣を見据える。
(「しまった、忠告しておくのを忘れていた‥‥」)
 彼女の高らかな宣言に、誰にでも常に気配りを忘れないノースが珍しくそれを忘れている事に気付くも、今更なので内心に留めると
「どうやら同じ趣味をお持ちの様で‥‥貴方とは心の親友となれそうです」
 セルアンに負けまいと、ケンブリッジまで行き買ってきた女性用の制服を取り出すフェザーも同様にその瞳を光らせる。
「ややこしいのが二人に増えたぞ‥‥をい」
 そんなレイニーの呟きなど二人は聞こえず、だが
「‥‥の様ね、でも貴方もきっと似合うわ。行きましょう、花園の向こうに」
 わざわざ発注していたのだろう、シフール用のドレスを手に取って微笑むセルアンは指を一つ鳴らすと、側近の使用人達はフェザーとレイニー、天を捕縛する。
「あ、そこのおじさん達はちょっと圏外だから似合う様な服を発注するまで待っててね」
「おじ‥‥」
「‥‥さん」
 取り残されたガッポにアルヴィンのフォローらしからぬフォローを入れる彼女は、二人の呟きを残念だと受け取ったのか、苦笑を浮かべると
「さ、それじゃ行きましょう‥‥ロディ、他の皆さんを中庭に案内してお茶をお出しして」
『いーやーだー!』
「‥‥妾はミニは断固拒否じゃ!」
 三人に甘く囁き向こうの部屋へと導けば、抵抗する双子と何かのスイッチが入ったっぽい天はやがて、皆の前から姿を消した。

『‥‥(助かった、圏外で)』
「茶が美味いな」
「‥‥でもちょっと可哀想かな」
「済まぬ‥‥」
 暫くしてセルアンが引き連れて来た麗しい三人の姿の姿を見て、残された二人の男性は安堵を覚えつつも涙し、無縁な女性陣は紅茶を飲みながらそれぞれの思いを紡げば
「‥‥ふっ、我が師匠・蘇芳ママよ。梅紅再びじゃ‥‥」
 しょぼくれる双子のシフールとは対照的に天だけが一人、部屋の中で何かあったのだろう、華国の民族衣装に身を包んでは仰ぎし師匠の為に激しい舞を踊れば、セルアンは大層喜ぶのであった。

 教訓:セルアンからの依頼の場合、若い男性の方は十分に覚悟を決めてから来て下さいね。