【人の想い】 死して尚

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 36 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月01日〜04月10日

リプレイ公開日:2005年04月07日

●オープニング

 ガシャ‥‥ガシャ‥‥。
 夜の街道に響く、重量ある甲冑が擦れる音。
 最近ノッテンガムからキャメロットへと続く街道沿いの村々で噂になっている、時期はずれの怪談話。
 何処から来たのかは分からないが何処かを目指しているのだろう、夜な夜な道なき道を進んでいる騎士達‥‥その動きに生気は感じられず、恐らくは人でないと思われるそれはただ何かの意思の元で黙々と歩き続けていると言う。
 その先頭を進む騎士の胸には、地中から掘り出された時のままだろう荒い形を保った青い宝石をぶら下げる首飾りが闇夜の月光に照らされ輝いていた‥‥。

「あの‥‥最近キャメロットでも少しずつ噂になっている‥‥」
「イキャーーーーーーーーー!」
 依頼人だろうか、一人の女性が受付嬢の前に立って話を始めると、途中でそれを遮って叫ぶ彼女。
 ‥‥怪談話が嫌いだからとは言え、いささか過敏過ぎやしないだろうか。
 と言う話はひとまず置いておいて。
「‥‥その、騎士達の集団の中にノッテンガムの騎士団に入った、とある男性がいないか確認したいんです‥‥昨年までは月に最低でも一回は手紙をくれたのに、今年に入ってからぱったりとそれがなくなって。それについ最近、キャメロットにある彼の実家の方にノッテンガムの知人から『行方不明になった』と言う手紙も来て‥‥心配なんです、それでご賛同頂ける方を募りたいのですが」
 伏し目がちに言う彼女に、まだその表情は強張っていたが受付嬢は何とか声を捻り出す。
「事情は分かりました、確かにその件については街道沿いの村々から気味が悪いので調査してくれと言う依頼もありましたし。けれどその中に彼がいたら‥‥どうします?」
「その時は‥‥」
 受付嬢の問い掛けに彼女は暫くの沈黙を返し、そして
「その時は‥‥私が彼を止めます」
 見た目からして冒険者ではない事が容易に伺える彼女だったが、その決意に気圧されて受付嬢は思わず頷くのだった。

 後日、その話を何処かで聞いたのだろう彼女の両親が冒険者ギルドにやって来ると彼女とは別に金貨の詰まった皮袋を受付嬢の目の前に置いて、一つの依頼を頼むのだった。
「娘の気持ちは大事にしてやりたいから好きな様にやらせてやって下さい‥‥でも、私達にとってはたった一人の娘なのです。我侭なお願いだと承知していますが、どうか無事に戻って来られる様、お力添えをして頂きたいのです‥‥宜しくお願いします」

●今回の参加者

 ea0433 ウォルフガング・シュナイダー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2155 ロレッタ・カーヴィンス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4747 スティル・カーン(27歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 ea5304 朴 培音(31歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5592 イフェリア・エルトランス(31歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6368 ナツキ・グリーヴァ(33歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 一行より先行する馬一頭に人二人。
 ウォルフガング・シュナイダー(ea0433)とナツキ・グリーヴァ(ea6368)の二人は他の面子より先行し、北上しながら途中途中の村で慌しく情報収集に勤しんでいた。

「鉱山の事故とか、そう言った話は最近この辺りじゃ聞かないな。けど数は多くないが行方不明になる人が多いって話はちらほら聞くなぁ、後は墓荒らしとか。あいつらが通る前後に集中してるみたいだが」
「‥‥そうか、助かる」
 日数的に訪れる事が出来る最後の村にて、通り掛るおじさんに尋ねるウォルフガングは以前にも聞いたその答えに言葉少なく、礼を返すと頭上に太陽の位置を目に留める。
「そろそろ行かねばならないな」
 収穫としては芳しくなかったが、一行と合流する為に必要なギリギリの時間だと判断すると止むを得ず彼は馬の腹を蹴って駆け出した。

 その一方でナツキは村内での情報収集を機動力のあるウォルフガングに任せ一人、時間が余りなかったにも拘らず得られた情報を纏めていた。
「宝石の情報は特になし。けれど誰かの手で掘り起こされた墓はあって‥‥その墓で眠っていた人達の騎士だけに限らず、っと。足りない時間の中で調べた結果、共通性は少なくともないのよね。でも‥‥『掘り起こされた』にしてはこれ、不自然じゃなかったかしら?」
 ふと、目の前にある一つの墓を見て何か違和感に捉われ‥‥やがて一つの結論に達する。
「よりにもよって、一番性質が悪いわね‥‥」
「何がだ」
「あ、お帰り。とりあえず帰りの道中で話すわ、それより今は急いで皆に合流しましょう」
「あぁ、そうだな‥‥」
「急げばまだ間に合う筈!」
 結論と同時、ウォルフガングが合流するとナツキは言葉と同時に早々と彼の馬に乗って、恐らく目的の場所に辿り着いているであろう皆の元へ急ぐのだった。

「‥‥久々の任務、鈍った腕をと思ったんだが増やし過ぎたか‥‥まぁ話の限りじゃ冒険者達が動き出してる様だし、力量の程を伺って見るのもまぁ悪かぁないか」
 闇の中、蠢く群れを一人木の枝に登っては見下して冷笑を浮かべる男はそう結論付けると、ゆるりと動く群れと共にその姿を消した。


 ウォルフガングとナツキができるだけ北上してノッテンガムの情報収集に勤しんでいた頃、街道沿いの村々を訪れながら件の話を聞き込む八人は、やがてつい最近にそれを見たと言う村へと辿り着いていた。
「この辺りで、行方不明になった騎士や者はいないか?」
「ふぅむ‥‥少なくとも此処一年の間、そう言った話はないのぅ」
 目的の村に辿り着いても一行は欠かさず情報を集める中、騎士にしてはやや華奢だその瞳に強い意志を宿すスティル・カーン(ea4747)の問い掛けに一人の老人は確信を持って頷くと
「それでは、この紋章に見覚えはありますでしょうか?」
「‥‥ちょっとはっきり覚えてはおらんが、確かこれはノッテンガムの騎士団が紋章な筈じゃ。よし、見た者がいた筈じゃからそいつを呼んで来よう。お主等はそこで待っておりなさい」
「いや、それには及ばない。俺達が出向くからその場所だけ教えてはくれないか」
 続くロレッタ・カーヴィンス(ea2155)の問いには反応を見せ、ヨタヨタと歩き出す老人だったがその体を気遣ってだろう、スティルに済まなそうな表情を浮かべると一軒の家を指差して二人を導く。

 その傍ら、依頼人であるイリアに付き従い村を歩くノース・ウィル(ea2269)と朴培音(ea5304)は彼女と親しげに話していた。
 とは言え、朴は人付き合いが余り得意ではない為に専らノースと依頼人の話を聞きつつ、彼女の心情を理解する事に努める。
「なるほど、蒼い石の首飾りはイリア殿が彼に贈ったものなのか」
「えぇ、『肌身離さず持っている』っていつも手紙に書いてくれて‥‥」
 目を伏せる彼女にノースと朴は得た情報の中からその話を思い出すと、それでも彼女を落ち込ませない様にとノースは次の句を紡いだ。
「その手紙、見せて貰っても構わないだろうか?」
「‥‥どうぞ」
 少し逡巡するも、二人の雰囲気を察してか気丈に振舞うイリアから託された手紙を受け取ると
「もしかすればこの手紙に何らかの兆候が隠されているかも知れぬな‥‥」
 早速それを開いては目を通すノースの目に飛び込んで来る中々に熱い言葉の群れ。
「ラブラブなのは本当に羨まし‥‥いかんいかん」
 思わず本音を漏らしかけ、慌てて首を振るノースだったが時既に遅し。
「ノース君‥‥人の事は言えないが、頑張れよ」
「大丈夫ですよ、お二人だってまだ若いんですから」
 その様子は二人にしっかりと見られており、朴にイリアが励ませば依頼人と立場が逆転してしまった事に気付いたノースは二人の視線を浴びてうなだれた。
「‥‥迂闊」
 まぁ場が和んだだけ良しとしようではないか。

「此処からキャメロット寄りの村ではまだ目撃された話を聞かなかった事から、少なくとも南に向かっている様でござるな。だが昨夜のペースで進んでいる様ならまだ当分は着くまい」
「ノッテンガムの騎士団がキャメロットに侵攻、と見られる可能性もある訳か‥‥下手をすれば謀反とも取られかねんな」
 翌日、時間が限られている事からウォルフガングとナツキの帰りを待たず偵察を終えた一行は、とある家の好意で朝食を頂きながら今までに得た情報を滋藤柾鷹(ea0858)とアンドリュー・カールセン(ea5936)の二人が中心になって纏めていた。
「だがオーラテレパスで反応がなかった事から察するに、彼らは‥‥」
 そして二人の会話に続いて、スティルはオーラテレパスに反応しなかった蒼い首飾りを下げた騎士や他の者達を思い出して最後まで紡ぐ事が出来なかった結論に、それでもイリアは顔を上げて聞いていたが
「多分辛い思いをするわよ、貴女が無理をする必要はないと思うけど‥‥」
「その覚悟はお有りか?」
 彼女の話と得た情報からイリアの想い人がその集団にいるだろうと言う判断を下す一行の中、過去に大事な人を喪ったイフェリア・エルトランス(ea5592)が優しく諭すも少し言い淀んだ彼女の後を継いで、その意思を改めて確認する滋藤だったが彼女の意思は一向に変わらず静かに一つ頷いた。
(「逃げても良いと思う、でも現実に向き合う彼女は強いと思うわ‥‥私はあの時、逃げ出してしまったから」)
 僅か、過去の想いに囚われるもイリアの口が開くのを見てそれを振り切るとイフェリアは彼女の言葉に耳を傾ける。
「私が‥‥見届けなきゃ行けないんです、絶対に‥‥絶対に」
「でしたら、無茶は決してしないで下さいね。命ほど尊い物はありません、それにもし貴女の身に何かあればまた悲しむ人も増えます。それだけは心に留めて置いて下さいね」
 彼女の呟きに場の雰囲気は張り詰めるが、イリアの手を取ってサリュ・エーシア(ea3542)が微笑むと彼女の全身から力が抜ける。
「さて、二人の帰りを待ちたい所ですけどこれ以上待っていてはしまいますわね。どうしたものでしょう?」
「確かに。早ければ今日、着くかも知れぬが‥‥何も成さないとは言え、これ以上人々の不安を煽るのを見ているだけと言う訳には行かぬでござるな」
「なら今夜、決行しよう‥‥誰よりも不安なのはすぐ傍にいるのに何も出来ない彼女なんだから」
 彼女の話が一息ついた所で首を傾げては頬に手を当て次に悩むロレッタに滋藤ら一行だったが、依頼人の意思を汲んで朴が提案すると皆は顔を合わせ‥‥やがて頷いた。

 その夜、異臭を放ち進軍する騎士達を見付けた一行は彼らを静める為に剣を抜くと避けえぬ戦いは始まった。
「戦うしか‥‥ないのか」
「‥‥流石に堅いな」
 その進行上にアンドリューが罠を張りその行動に枷を掛けるも、動く死体に悩みそれでも剣を振るうスティルを援護すべく木上より放った矢は頑強な鎧に阻まれる。
「貴方達が何を想って行進しているか分からない‥‥でもここは貴方達のいるべき場所ではないのよ」
 だがイフェリアの腕前はそれを意に介せず、兜の隙間を縫って頭部を抉れば
「ふむ、見事な腕前だな」
 彼は自分以上の腕前に素直に感心する他ない。
「‥‥見えないな」
「昨日は確かに見たんだけどね」
 多数の敵に屈強な鎧を纏う死体の群れ、だがその力量差は明らかで僅かずつ押し返す一行の中、イリアを警護するノースと朴はその戦闘の最中で青い首飾りをした騎士を見付けようと視線を彼女からほんの一瞬外した時、重ね重ね釘を刺されていたもののいても立ってもいられずにイリアは、戦闘の只中に飛び込もうと駆け出す。
「イリアさんっ!」
 ホーリーライトで彼女を守るサリュもその姿を見とめ叫ぶが、彼女の足は止まらない。
 そして次の瞬間だった、彼女の目に月光を反射して光る蒼き宝石が映ったのは。
「間に‥‥合わないっ?!」
 依頼人を守ると誓ったスティルが慌てて踵を返すも一人の騎士に行先を阻まれ‥‥月光に煌く剣が大上段から振り下ろされようとする直前。
「お前が死ねば悲しむ人もいるだろう‥‥だから無茶はするな」
 その窮地を救ったのは情報収集から戻って来たばかりのウォルフガングとナツキ、木々に阻まれながらも駆抜けざまにその騎士を剣の腹で叩き付け転倒させれば
「我々はそなたの想い人を必ず助ける。それはどんな形になるか分からないし、見届けるのは辛いだろうが、それはイリア殿が望んだ事。だから信じてくれ、我々を」
「そう‥‥今は落ち着いて」
 彼女に追い付いたノースがその手を掴み諭すと朴がイリアを優しく抱き留めて再び二人の距離を開ける、自らに出来る事の少なさに歯噛みしながら。
 その光景に安堵する一行だったがその時
「あそこに‥‥何かいるな」
「何者ですかっ!」
「ちっ」
 何かを視界の片隅に捕らえ馬を宥めて彼方を指差すウォルフガングと同時、放たれるナツキのグラビティーキャノンに何者かが舌打ちと同時、枝から降り立つ。
「何者だ」
「問われて名乗る名前はお前らにゃ持ち合わせちゃいねぇよ」
 問う滋藤に、その男は重圧を放ちそう言うと
「‥‥お前の仕業か」
「止まりなっ! ま、そうだな。しかし最近の騎士ってのは弱いな、こいつなんか最後の最後で女の名前なんか呼びやがって‥‥腑抜けばっかかよ」
 警戒する一行を傍目に、蠢く群れへ命令を下すと動きを止めた蒼い首飾りを下げる騎士の頭を叩いて嘲笑する男に息を呑むイリア。
「‥‥何の権利があって貴方は人の命を踏み躙るのですかぁっ!」
「あん?! 何を甘い戯言抜かしてやがんだ、手前ぇはっ!」
 激昂するイフェリアは立て続けに二本の矢を放てば、男も叫び黒き光でそれの軌道を外したが
「‥‥悪かぁねぇ、お前等とならある程度は愉しめそうだな。だが」
 肩口に刺さる一本の矢を見て男は不敵な笑みを浮かべると、後方へ飛び退る。
「逃がしません!」
「悪いが今日は此処までだ、こっちより別件の方が大事なんでなっ! お前ら、ちゃんと相手をしてやれよ」
 命を尊ぶサリュもまた男の行為に怒りを覚え、裂帛と同時にホーリーを放つも男はそれを今度は完全に相殺し、遂に闇へと姿を消す。
「あの方を逃がす訳には‥‥」
「その気持ちは分かる、だが今は命を弄ばれた者達の解放が先でござる」
 怒るロレッタに、状況を鑑みて滋藤は皆にそう呼び掛けると目前で地に倒れ蠢くイリアの想い人へ
「‥‥安らかに眠ってくれ」
 様々な想いが錯綜する中で振り上げられた刀は一瞬、虚空で止まるも彼はそれを振り切ってその刃を‥‥振り下ろした。


 翌日、激戦を終えた一行はサリュと二人の神聖騎士を中心に朽ち果てた騎士達をその場にではあったが埋葬し、弔うと
「悲しい結果になってしまいましたが‥‥負けないで下さいね」
 ロレッタの励ましに依頼人は泣き腫らした瞳で皆を見て、力強く頷いた。
「彼の分まで希望を持って、生きてね」
「はい、いつも心配ばかり掛けていたから‥‥彼が安心する位に強く‥‥」
 蒼い宝石の首飾りを様々な角度から見ていたナツキだったが、何の変哲もない宝石である事を悟るとサリュにそれを渡し、彼女は両手に握り静かに何事か唱えてからイリアに首飾りを返した。
「大丈夫、イリアさんならきっと」
 そしてその言葉にまた、彼女はその場に泣き崩れるのであった。
「‥‥人の想いは何よりも強く心に残るものだ」
「それをあいつは‥‥許せない」
 遠目にその様子を見て、ウォルフガングは悲しげに呟くと朴は怒りを露わにするもそれを宥める様、人によっては冷たく聞こえただろうが冷静にアンドリューは諭す。
「とりあえず、この件は解決だな」
 そう、いつまでも悲しみに暮れている訳には行かない。
 日々、どこかで誰かがまだ泣いているのだから‥‥皆を救えずとも悲しみを和らげる事はきっと出来る筈だから。
 そしてまた、一日の始まりを告げる様に日は昇る‥‥。

 後日、アンドリューと滋藤はノッテンガム領主に件の報告すると同時、遺品を託しに出向く。
 全てが全て、遺族が見付からないであろうが領主は滋藤の気持ちを汲んで可能な限り探し出す事を誓い、別件で詫びるアンドリューにオーウェンは答えの代わりに一つ微笑むと
「色々と済まなかったな、最近此処も物騒になって来てな‥‥この件についても調べてはいるが、いかんせん追い付かない状況だ。故に何かあればまた頼む事があるかも知れないが、その時は宜しく頼む」
 苦渋の表情を浮かべ、だがアンドリューへの仕返しは忘れず彼の髪を掻き乱すと溜息をついて背後の窓から外を、遠目で外を見やるのだった。