【小次郎先生】言葉の守り手

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月05日〜04月10日

リプレイ公開日:2005年04月14日

●オープニング

「いいからさ、ほっといてくんない?」
「しかし、そう言う訳にも行かんだろう。先生と言うもの、生徒の身は常に案じてだなー」
 ケンブリッジはフリーウィル冒険者養成学校、そこの職員室で一人の生徒を呼び出して熱く語るのは十河小次郎。
 彼がフリーウィルに無事勤める様になってから、一癖二癖ある生徒ばかりを相手にしていたがそれでも彼の明るい性格で(イギリス語はまだたどたどしい所こそあるも)それなりに順風満帆な日々を過ごしていた。
 だがそれでもやはり立つ所は立つもので、今は普段の素行が気になっている生徒を呼び出しては話を聞いているのだが、頑なな彼女は一言言うだけで黙して何も語らず。
「‥‥ま、あれだ。なんかあればコージローに気楽に話してくれよ」
「何あんた、それでも先生なの‥‥ばっかじゃない! じゃあね!」
 『先生』と呼ばれるのは照れるらしく、生徒には名前で言う様に言いつけてある十河が彼女の様子にとりあえず話を一度打ち切ると、当の本人は叫び踵を返してはその場を後にするのだった。
「‥‥難しいな、子供ってのはよ。なぁお袋? ‥‥妹もあぁなってなければいいけど」
 彼女の後姿を見送ってから、椅子をギイと傾けて天井を見ては呟く十河の瞳には‥‥。

 それから暫く。
 職員室を後にした彼女が路上の片隅で昏倒して倒れている所が発見されたのは。
 発見当時、額に一枚の羊皮紙が貼り付けられていたと言う。
『この者、狼藉暴言を吐きし者。皆さん、言葉は正しく使いましょう 〜言葉の守り手〜』
 実はもうこれで五件目だったりする『言葉の守り手』の犯行は昼夜を問わないにも拘らず姿を見せておらず、ケンブリッジの各学校に通う生徒達の間で話題になる事も少し増えて来た今日この頃であった。

 そしてそれから更に数時間後。
「オレの可愛い生徒までもが犠牲になった以上、これはもう見逃しておけない!」
「自分の生徒が犠牲にならなければどうでも良かったんですか‥‥」
 クエストリガーにて、十河先生の申し出にちょっと呆れるギルド員。
「や、悪い‥‥そう言うつもりじゃないんけどな。しかし、自らの型に当てはめようとする輩は断じて許せない! このままでは他の生徒達にも害が及ぶかも知れないし、オレ主導の元で奴を捕まえたいんだ!」
「‥‥そうですね。この件に関しては私達も憂うべき事態の一つだと考えていましたし」
 彼の提案に賛同するギルド員に彼は懐から一つの皮袋を取り出して断言した。
「これで賛同者を募ってくれ、そして必ず奴は捕まえて見せる事を誓おう!」

●今回の参加者

 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea7095 ミカ・フレア(23歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0299 シャルディ・ラズネルグ(40歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「‥‥思っていたより少ないなぁ」
 場に集まった面子を指折り数え、ちょっと残念そうに呟いたのは依頼人であり『言葉の守り手』たる人物を一行と共にとっ捕まえようと意気込んでいた十河小次郎その人。
「数なんか関係ねぇ‥‥言葉の守り手だか何だか知らねぇが、てめぇの理想を他人に押し付ける様な野郎は勘弁ならねぇ‥‥さっさと見付けてヤキ入れたらぁ」
「暴力じゃない、別な手段が思い浮かばないのかしらね」
「確かに、感心しないな」
 そんな十河を傍目にやる気は十分だが、一行の中で間違いなく真っ先に狙われるであろうがさつな言葉を放つシフールのミカ・フレア(ea7095)に、艶っぽい体躯を持つミカエル・クライム(ea4675)と無表情のまま淡々と彼女らに賛同するエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)だったが
「皆さんの気持ちは分からないでもないのですが‥‥私達が教えて上げればいい事です。何はともあれ、皆で協力して『言葉の守り手』を捕まえましょう」
 一人だけ違う意見を呟くシャルディ・ラズネルグ(eb0299)、一行の中で一番に年を経ている為だろう大人な発言に十河も頷いたが、ふとある事に気付いた。
「そう言えば、カンタータもいる筈だが彼女は何処だ?」
「あぁ、彼女なら‥‥」

 その彼女ことハーフエルフのカンタータ・ドレッドノート(ea9455)は一人、捕縛作戦を円滑に進める為に情報収集を行っていた。
「襲われた時、何か気付いた事はありませんでしたか?」
 耳は隠しても姿勢はいつものまま、背筋をしゃんと伸ばしては『言葉の守り手』の噂を聞きまくっている彼女はつい最近被害に遭った女生徒に出会うと、件の事について尋ねる。
「‥‥そういや、棒か何かで殴られたんだけど背後を振り返ったら変に景色が歪んでいた様な気も」
 先の事件に少し懲りているのか、やや大人しい口調で話す被害者に首を傾げるカンタータだったがちょうどその時
「やっと見付けたぞ。けどご苦労様、何かいい情報は‥‥お、フォーシャじゃないか。元気そうで良かった良かった」
 額に汗かき駆けて来た十河は二人の姿を見とめ、笑顔で頷き声を掛けたがフォーシャと呼ばれた女生徒はふいと顔を背けその場を後にする。
「むぅ‥‥まったく困った奴だな」
「せ‥‥じゃなくて小次郎さん、きっと照れているだけですよ‥‥それより今は『言葉の守り手』を捕まえる事に」
「‥‥そうだな! それでどうだ、何か分かったか?」
 フォーシャを心配する十河だったが、彼女の事をフォローして今の目的を思い出させると彼女はその問いに首を傾げて
「どうでしょう? とりあえず皆さんと合流してから話します」
 一言だけ呟くと十河を伴って歩き出した。

 その後、彼女の得た情報から犯人を推測しようとする一行だったが決め手に欠けると止むを得ずそれは諦めて、『言葉の守り手』を誘き出す作戦を練り始めた。
「こんなのはどうだ‥‥」
 一番に提案するエルンストは表情を変えずその続きを紡ぐと、一行はその妥当なその案に頷くのだった。


 そして日は移り変わり、翌日。
「おはようございます」
 ケンブリッジの道中で顔見知りのミカエルとすれ違い、軽く肩がぶつかったものの別段気にせず挨拶を交わすカンタータだったが、長い金髪はたなびく事無くそのまま歩き去ろうとする彼女。
「‥‥おはようございます」
 それでも再度、その背中に挨拶を投げ掛けると今度こそミカエルは振り返り、その動きに合わせて髪も舞ったが返って来たのは鋭く冷たい視線に
「貴方、何様のつもり!? ‥‥挨拶よりも先に肩がぶつかった事を謝りなさいな!」
「‥‥ごめんなさい」
 言葉遣いこそ綺麗だったが彼女を見下すその発言にカンタータは暫し呆然とし、それでも俯きながら詫びたが
「ハーフエルフだから、その様な事が分からないのでしょうけどね」
 カンタータに近付き、その隠された耳元にミカエルが囁くと少しの間を置いて泣き声を上げ疾駆する彼女。
「何もそんなつもりじゃないと思うのだが‥‥どうだろう」
 その光景を黙って見過ごす事が出来ず、彼女が去ってからだったが今度はエルンストが風紀委員宜しく彼女を落ち着かせようと冷静に諭そうとするも
「あたしに注意するなんて、貴方も何様のつもり? 生憎とあたしに注意していいのは兄だけなんですからねっ! それにそもそも、貴方は何も関係ないのに‥‥あぁ」
 途中で区切り、彼を見て納得するといやらしい笑みを浮かべ
「彼女のお仲間でしたか、仲良くやって下さいね。あたしのいない所で」

「これはまた聞くに堪えたい暴言ですねぇ‥‥と、丁度いい所に。小次郎先生、あそこで何か凄い口論になっているので来て貰えますか?」
「先生って呼ぶの、やめろよってばさー!」
 その騒ぎを人ごみの中から見ていたシャルディは、間近を通った十河を呼び止めるも彼にとっての禁句を紡いで吹き飛ばされる‥‥ナイスガッツだ、暦年齢百十一歳のエルフ。
「で、何の騒ぎだー? コジローで良ければ話の一つや二つ、何でも聞くぞ」
「‥‥別に、何でもないわ。お節介ね」
 しかし吹き飛ばされた彼を気に留めず十河、人ごみを掻き分け事の中心になっているミカエルへ尋ねるが彼女は素っ気無い返事を発するだけで
「それじゃ、ご機嫌よう」
 再び尋ねようと口を開きかけた十河より早く、彼女は二人を一瞥するとその場から人通りの少ない道へと去って行った。

「‥‥しかし、最後はいささか演技が過ぎやしなかったか?」
「あれ位がちょうどいいでしょう、つぅ‥‥」
 ミカエルが立ち去ってから、吹き飛ばされたシャルディを助け起こすエルンストに
「だ、大丈夫ですか‥‥?」
「ここで怪しい素振りをしてた奴は見えなかったな‥‥どこにいやがるんだ」
「とりあえず皆揃ったな、じゃあ行くか!」
 辺りの様子を伺っていたミカを連れてカンタータが大人のエルフを気遣うと同時、十河の掛け声に皆は揃って駆け出した。
「只でさえ少ない人員を欠く様な行為は勘弁して貰いたいものだがな」
 その中でエルンストの合理的な考えから紡がれた言葉ははたして彼の耳には入らず、そんな彼の行末を案じるのであった。

 その頃一人、街路樹ざわめく人通りの少ない道を進むミカエルの耳に
「‥‥人を思いやらぬ言葉を使ったお主、聞くに痛々しい。よってわしが裁いて進ぜよう‥‥」
 しわがれた声が飛び込み辺りを見回すも、その視界には何も映らず首を傾げながら再び視線を先に戻した時、彼女目掛けて何かが空を切って振るわれ‥‥るより早く
「そこ、か‥‥」
 静かに紡がれたエルンストのブレスセンサーが何者かの存在を感じ、そこを指差せばシャルディのプラントコントロールによって突如蠢く木々の枝が彼女の周囲を薙ぎ払う。
「チェストー!」
 乱れる光の中から姿を現した『言葉の使い手』だろう老人に飛び蹴りを繰り出すミカと十河‥‥シフールのミカはともかく、先生はもう少し遠慮しろと言わんばかりの蹴りに老人だろうとお構いなしで倒れる彼の上にどっかと座る。
「残念でした。暴言を吐くあたしは真実じゃないのよ〜、貴方を誘き出す為に演じただけなの」
「インビジブル、でしょうか? でも上手く引っ掛かってくれて助かりました‥‥でも本当は私が捕まえたかったです」
「むむむ‥‥してやられた、と言う訳か」
 ミカエルが紡ぐ真実とカンタータの推理(と本音)を聞いて痛みと共に顔を顰め、十河に拘束され呻く老人に頭にミカが乗ると
「言葉の守り手ってなぁ、てめぇのコトか?」
「そうじゃよ、学びし処であるケンブリッジでも最近の言葉の乱れ様と言ったら」
「『言葉の守り手』と名乗る貴方が『言葉』を捨て、『力』で捻じ伏せるのですか。なぜ言葉で注意しないのですか?」
「そうだ‥‥言いたい事があるのなら正面から言え、まずはそれからではないか」
「言うて皆が分かればこの様な事もせんかったわ‥‥発端は孫じゃった。昔はあんなに可愛かったのに、今ではわしの言う事を聞かぬのはおろか、あまつさえ「じじい」呼ばわり‥‥それで今のケンブリッジの姿を見るに到った」
 尋ねる一行に苦渋の表情を浮かべ呟く老人は、溜息をついて息を吸い直すと改めて自らの決意を紡げば
「痛々しいと思って‥‥決めたんじゃよ、わし一人で言葉の秩序を正そうと」
「ざけんじゃねぇぞ? 誰彼構わずてめぇの型に嵌め込みやがって、それに誰も彼もがそうだって言うのかよ! 独り善がりにも程があらぁ、てめぇみてぇなのをな‥‥偽善者ってんだよ! もし頭で分からねぇとか言うなら‥‥身体に分からせてやろうか?」
 老人の決意を否定する一行の瞳に宿る光は強く、ミカとエルンストは厳しい態度と口調で老人を攻め立てたが
「ミカさん、それではそのご老人と変わらないですよ‥‥それと、その様な事で言語の美しさは守れません。言葉とは使い続けて磨いていくもの。力で矯正するものではないのではないでしょうか‥‥しかし、言葉を大切にしたい気持ちは大変素晴らしいもの。手段を間違えただけなのでしょう。どうです、私もご一緒しますから朝登校してくる方々に呼び掛けてみませんか? 『おはようございます、今日も言葉を大切に〜♪』とね」
 やはりそんな中でもシャルディ、ゆったりとした口調で老人に一つの提案を掲げると皆の様子を今度は黙って見守る十河が頷き、初めて口を開いた。
「それ、面白そうだな」
「小次郎さん‥‥面白そうって理由だけで」
 その様子に何か言いたげなカンタータではあったが彼女自身、どうする事も出来ないだろうと見切って密かに溜息をつくのだった。


 ‥‥数日後の朝、ミカエルにミカの二人が揃って魔法学校へ向かう途中、偶然十河と出会えば
「おう、この前は色々と助かったぞ!」
 まだ多少離れている距離にも拘らず、叫んで二人に礼を言えば
「ま、お節介も程々にな。過度の干渉はうざってぇだけだ、あの野郎と同じでな」
「そうだな、心に留めて置く事にするよ」
 やはり先日の依頼の事を思い出したのだろう、近付き彼の耳元を飛び交って説教じみた台詞を言うミカだったが、それでも笑い答える小次郎の表情に
「‥‥本当に分かってんのかね」
「まぁまぁ」
 呆れ首を振る彼女だったが、それを宥めて話題をさりげなく逸らすミカエルは艶っぽい笑みを浮かべ
「でも小次郎先生、中々やるわね♪ そう言えば‥フリーウィルの先生よね? ん〜、パープル先生とタッグ組んだら面白‥‥」
 何か思惑でもあるのだろうか、言葉の途中で一度区切ってから一つ咳払いをすると彼女は改めて言い直す。
「良いケンブリッジの勉強になると思うわよ♪」
「なるほど‥‥よし分かった! もう少し、余裕が出来たらその人と会って話をしてみる事にするか」
「余りいい予感がしないのは気のせいか?」
 小次郎の呟きにミカエル、今度は意味ありげな微笑を浮かべるとそれにミカが突っ込んだ時だった。
『おはようございまーす! 今日も一日、言葉を大切に使いましょ〜!』
 丁度視界にフリーウィルの校門が映ると同時、聞き馴染みのある幾人かの声が辺りに響き渡る‥‥それは件の老人と、皆に『言葉』で呼び掛けようと提案したシャルディに依頼の縁からカンタータにエルンストが手伝っていた。
「‥‥これこそ、間違いではなかろうかのぅ」
 そう静かに呟く老人だったがその呼び掛けに応じ挨拶を返す人々の姿を見てだろう、まだ僅かだったが笑顔を浮かべれば
「おはようっ!」
 その光景に十河はニッと笑って、二人を伴い駆けるのであった。