【何でもござれ】お菓子なゴーレム?

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月06日〜04月19日

リプレイ公開日:2005年04月14日

●オープニング

「ゴーレムだぁ〜!!!」
 先日の依頼で皆の活躍(?)によって何とかゴーレム騒動から立ち直ったアシュド君。
 まだ少々、雰囲気は何処か大人しげな感はあったものの以前凹んでいた時から比べれば大分元気であった。
 ‥‥だがちょっと待て、いきなりゴーレムを見つけたからって抱きつくのは懲りていないのか、アシュド君。
「‥‥ん、反応がない?」
 だがしかし、そのゴーレムは他の一般的なゴーレム(此処で言う一般的なゴーレムとは何かを守る為に存在する守護者的なものを指す、他にどの様なゴーレムがあるのかは未だ謎に包まれているが)と違う様で、彼の事を殴ったり蹴ったりと言った行動は一切取らなかったのである。
 もちろんアシュド君は驚く訳で‥‥てかその前にその癖早く直せ、と言いたい所ではあるが
「このゴーレム、今までのものとは全然違うタイプなのか‥‥しかし何が出来るのだろう?」
 そんな事を当人が気にする事はなく、先程から変わらずゴーレムに抱きついたまま思案に耽るアシュド君。
 その体勢は此処ではまず気にしないでおいて、その珍妙なゴーレムに首を傾げるばかりであった。
「面白い‥‥このゴーレムを調べる事で今まで見える事がなかった真実に近づけるのかも知れないな、ふっふっふ‥‥」
 マッドサイエンティスト宜しくな笑みを浮かべるも、やはりゴーレムに抱きついたままのアシュド君は言葉の割に、やはりどうしても格好良く見えなかった。

「アシュドさん、ご飯ですよ」
「あぁ、済まない‥‥」
 後日、ノッテンガムの研究室が未だ解放されない事から同じ地で別に設けている屋敷の片隅で今回は厳重な警戒の元、先に見つけたゴーレムについて研究を続けるアシュド君。
 忘れがちだが、何気に金持ちだったりするのを思い出した人も多いかも知れない。
 ‥‥その話はさて置き、件のゴーレムについて研究を続ける彼だったが肝心の行動理念については謎のまま今日に至っていた。
 この屋敷に連れて来てから特に何する事無く佇むそれを、彼は頬杖を付いてどうしたものかと悩みっぱなし。
「余り根を詰め過ぎずに、一度休憩してはどうですか? 大分お疲れみたいですし」
「‥‥そうだな、少し休もうか」
 そんなアシュド君を察するルルイエさん、扉の外から心配そうに呟くと彼もやがて根尽きて溜息を一つ漏らして、彼女の提案を呑もうと立ち上がった時だった。
「うわわっ!」
「どうかしましたか!」
「‥‥いや、部屋に転がっている研究資材を蹴ってしまっただけだ」
「ビックリさせないで下さい」
 確かに疲れているアシュド君、椅子から立ち上がるなりふらついては積んである小麦粉が詰まった袋を蹴飛ばして声を上げると、ルルイエさんから心配されたが続く言葉に恨みがましい声音に苦笑を浮かべる。
「ちょっと待ってくれ、今い‥‥く?」
「アシュドさん、どうかしましたか?」
 彼の言葉に、それでも心配せずにはいられないルルイエさん。
 再度声を掛けるも今度は反応がない。
「今行きま‥‥」
「‥‥すまん、大丈夫だ。それより、今から言う物を持ってきてくれないか? それとこの部屋への立ち入りも禁じてくれ。申し訳ないが君も含めて、だ」
「分かりました」
 何事かあったのだろうと察して、彼女は言うと同時に扉に手をかけたがアシュド君の申し出に踏み留まると踵を返し、それらを取りに行く事にした。
「あの調子ではまだもう暫く研究に取り掛かっていそうですね、しかしこれって‥‥?」
 彼の力強い声音から付き合いの長い彼女はそう察しながらも、持って来る様にと頼まれたものに果たして何の意味があるのか、さっぱり分からずに一人廊下で首を傾げながら歩くルルイエさんであった。
「小麦粉に、卵‥‥それとしょうが?」

「済まないが、同士を何人か探しているのだが」
 それからまた後日、冒険者ギルドを久々に訪れては早速本題を切り出すアシュド君に
「内容にもよりますけど、どうもアシュドさんの依頼って変なのばかりで不安なんですよね。それに同士って‥‥ゴーレム好きの同士って事ですか?」
 思った事を遠慮なく言う受け付け上に、反論せず苦笑を浮かべる魔術師だったがいつもと違ってその表情からは余裕を感じる。
「いや。今回の安全性はしっかり確認したし、そう言った方向性の同士ではない」
「へー。で、どんな方をお探しなんですか?」
 断言するアシュド君に珍しいと思って興味津々な受付嬢が尋ねると意外な答えが返ってきた。
「‥‥あれだ。お世話になっている者へ、ささやかでも何かその労を労って上げたいと思っている者とかだな‥‥」
「えーっ?!」
 その時、彼女はアシュド君の言わんとしている事を察し
(「春ももうすぐなのに、明日は大雪だ‥‥」)
 内心、そう思いながら
「な、何をするんですか一体‥‥?」
「実はつい最近、遺跡でゴーレムを見つけたんだがこれがまた変わったものでな。どうやらお菓子作りしか出来ないゴーレムらしい。私もそうだが、調理を出来ない者にとってはこれとないものだろうと思って、最終的なテストも兼ねて皆にも使って貰いたいんだよ」
「なるほど」
 尋ねる彼女に真意の程を話すアシュド君に納得すると彼女は筆を取るも
「でも、気をつけて下さいね。今回何かあったらアシュドさん、多分ただじゃ済まないですよ」
「あぁ、分かっている。大丈夫だ」
 それでも一応と釘を刺す受付嬢に、流石にそれは承知済みで彼は笑顔を浮かべ頷いた。

●今回の参加者

 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1180 クラリッサ・シュフィール(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1706 トオヤ・サカキ(31歳・♂・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea4818 ステラマリス・ディエクエス(36歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5981 アルラウネ・ハルバード(34歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6914 カノ・ジヨ(27歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea9037 チハル・オーゾネ(26歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

リカルド・シャーウッド(ea2198

●リプレイ本文

「アシュドさん、おひしゃしぶり♪」
「とは言ってもほんの少し前だったけどね。でも良かった、元気になって」
「こちらこそ、この前は色々と済まなかったな」
 ノッテンガムはアシュド君のお屋敷にて、邂逅する一行と依頼人。
 先の依頼でアシュドを世話したチョコ・フォンス(ea5866)とアルラウネ・ハルバード(ea5981)の挨拶に、彼は苦笑いを浮かべながら詫びるも
「過ぎた事だし、いいんじゃないかしら? それよりゴーレムでお菓子作りだなんて、アシュド君らしさ全開ね」
「そぅですね〜、ある意味安心しましたぁ」
 そんな事は気にせず、笑顔で返すアルラウネにその肩へ止まっては賛同の意を示して頷くシフールのクレリック、カノ・ジヨ(ea6914)らへ尚済まなそうにアシュドは頭を掻いた。
「それで、そのゴーレムさんは何処にいるんでしょうか?」
 そんな顔見知り同士の話の中、アシュドとは初見ながらもちょっとした好奇心からゴーレムとの腕前を競う為に参加したチハル・オーゾネ(ea9037)が臆せず本題について尋ねると
「あぁ、そうだったな。裏庭に待機させているからこれから案内しよう」
 答えるアシュドも周りの皆の様子に気付いて、先導する様に歩き出す。
「ゴーレムさんと一緒にお菓子作り、楽しみですね♪」
「でも、アシュドさんは勿論ですが私達も取り扱いには十分気を付けましょうね〜」
「‥‥今回は流石に大丈夫だ」
 ステラマリス・ディエクエス(ea4818)が歩きながら弟と息子に未だ帰って来ない夫の事を思い浮かべ微笑み呟けば、銀色の長髪を靡かせてクラリッサ・シュフィール(ea1180)は仰々しく歩きながらも過去の依頼を思い出してやんわりとアシュドに釘を刺せば
「どうなる事か、楽しみの様な怖い様な‥‥」
 その言葉を受けて少し不安になったのは、依頼人を除けば一行の中でたった一人の男性であるトオヤ・サカキ(ea1706)。
「ま、簡単なテストはしているから大丈夫な筈だ。それより少ない男同士、頑張ろうじゃないか」
 トオヤの僅かな不安にアシュドは答えながら彼と握手を交わすが
「どちらかと言えば俺よか、アシュドさんが頑張れよ」
「む‥‥努力はするさ」
 その肩を叩いて、励ませば彼の真意を察して複雑な表情を浮かべながらも頷いた。

「きゃ〜、本物? 初めましてぇ! でも凄いね、お菓子を作るゴーレムが本当に存在してたんだ」
 広い屋敷の敷地内を歩く事暫し、やっと裏庭に到達した一行の前にそのゴーレムが姿を現すとチョコの叫びを受け、自慢げな表情を湛えるアシュド君。
 ‥‥君の事じゃないから安心しろ。
 それはともかく、そのゴーレムは繋ぎ目のない全身鎧に身を包んだ成人男性相当のサイズで並んで背比べをするトオヤより僅かに低く、彼はその頭を掌で恐る恐る叩いていたりしたが攻撃的な反応も返ってこず、至って大人しかった。
「あ、でも確かにこれなら作れそうだねー」
 そのゴーレムの様子に皆は興味津々と観察する中、ハンナ・プラトー(ea0606)は自分らとなんら変わらない手の構造に感心しながら
「んー、でも単にゴーレム君じゃ味気ないなー。名前ってないの?」
「そうだな‥‥どう名前をつけたものか、実の所私も悩んでいてな」
 不意に思い浮かんだ疑問をぶつければ、見付けた本人の答えに一行は少し考えてみると二人ばかりが『彼』に相応しい名を叫ぶ。
「じゃあ‥‥プディンちゃんで!」
「ハニーさんは?」
 さっきまでゴーレムの事を君付けで呼んでいたハンナが顔を上げて叫べば、チョコも『彼』の手を拭きながら彼女とは別の名前を呼べば、周囲を包むのは沈黙。
『‥‥‥‥』
 反応のないゴーレムに、一歩も引かない二人が静かに睨み合うもその雰囲気を和らげたのはチハルでエプロンを身に着け、静かに佇むゴーレムの姿を見て
「結構格好いいですねー」
「‥‥確かにそぅかも知れませんねぇ」
 場の雰囲気を気に留めず、天然ボケを遺憾なく発揮すればカノが頷けば続いて皆も笑って場の雰囲気は途端に緩んだ。
「‥‥後でいい名前考えようか?」
「そうだね」
「よっし! さあ、つっくろー。感謝の気持ちなプディングを、そしてあの子のハートに直撃だー」
 場の雰囲気に彼女らはお互い休戦を承諾すると、ハンナは叫びチョコの手を引いて皆と揃って材料を集め出すのだった。


 ジンジャープディングの作り方(実際とは微妙に違いますが)
1.ボウルに砂糖と熱い溶かしバターを入れ、バターの熱で砂糖の粒を溶かす。
 一部加工が必要な材料は加工して、ゴーレム君(仮名)の前に並べると『彼』はそれらをプディングの材料と認識してか、皆の前で初めて動き出しそれらを手際よく混ぜ合わせていく。
「なるほど〜、あたしとは違う作り方なんですね。でも、負けませんよ」
 その様子にチハルは頷きながらも自らの手法でプディングを作り始める、まだ勝負は始まったばかりでこの結果は如何になるか?
 そんな二人の対決(?)は目が離せない所であるが、別の意味で目が離せないと言えばアルラウネ。
 その手際に感心しながらちょっとした興味からエックスレイビジョンでゴーレムの内部を見透かそうと終始『彼』を見つめていたが
「表向きは鉄の固まり、ね。中を見せないなんて恥ずかしがり屋なのね」
 黙々と料理を続けるゴーレムに改めて首を傾げ、次いでアシュド君を見る彼女であった。
「‥‥うーん、危険だわ」

2.卵と生姜のすりおろしを加え混ぜ、その後小麦粉とパン粉を更に加えて切る様に混ぜる。
「今の所、私がリードしているのですがここで更に差を広げねば‥‥うん」
 ライバルに少しでも差をつけようと、クラリッサは自慢の髪を後ろで編みまとめては気合も十分に、着々と材料を混ぜ合わせるゴーレム君に倣っていささかおぼつかない手つきながらも奮戦中。
 そしてその隣でステラマリス、流石に主婦だけの事はあり彼女同様にゴーレム君に倣いつつも自らのアレンジを織り込みプディングの種を完成させると、此処最近戻って来ない夫の事を思い出し
「‥‥今度帰ってきたら、聖書アタックですからね」
 刺々しい調子で呟くも、彼女に顔には悪戯っぽい微笑が浮かんでいた‥‥仲良き事は美しき事かな。

3.容器にバターを塗り、種を流し込んで布巾で包み湯気の上がった蒸し器で暫し蒸す。
「‥‥彼女、好きだといいなぁ。や、大抵の女の子はプディング好きかも知れないけど」
「だいじょぶだいじょぶ、想えば叶うよ」
 此処からはゴーレム君の作業範囲外の様で、動きが止まったのを確認してからアシュド君の呼び掛けの元『彼』が作った種を器に流し込む最中、不安を紡ぐトオヤに調理開始当初から様々な曲を奏でていたハンナが明るい調子で彼を励ます。
「ま‥‥それもそうか」
「うんうん、そうそう」
 彼女の明るい曲に明るい励ましを受けたトオヤはそう結論付けるとハンナも頷き、もう何曲目かを弾き終えてリュートベイルの弦を軽やかに弾くと、ゴーレム君から不思議な音が発せられたのが耳に飛び込んで来た。
「さ、後は『彼』が蒸しあがる時間を告げるまで待機だ」
 ‥‥そして始まった時からゴーレム君に抱きついたままのアシュド君が皆に言えば、一行は複雑な表情を浮かべながらも暫しの休憩に入る。

4.蒸し上がったら布巾を外し、少し冷ました後に皿に開けて蜂蜜をタラリ。
『カンセイデス、トリダシテクダサイ』
「ゎー、とりあえず食べられそうなプディングが出来ましたねぇ〜♪」
 ゴーレム君の音声による呼び掛けで一行は動き出し、蒸し器の蓋を開ければ立ち昇る湯気の中で、調理に長けた友人から頂いたレシピを元にゴーレム君と皆に手伝い作って貰った人間サイズのプディングの出来にカノが嬉しそうに微笑むと
「ハニーさん、お疲れさま♪」
 終始ゴーレム君をじっくりと見つめ、鮮やかにスケッチしていたチョコはそれを終えると今回の立役者で今はまた静かに佇むだけのゴーレム君を労い、今度は沢山作ったプディングの味見をと言う事でお茶会の準備を始める一行の元に、『彼』もお茶会に誘うべくその手を引いて連れて行くのだった。


 皆で作ったプディングにステラマリスがお茶会用にと別に作っていた焼菓子とお茶に舌鼓を打ちながら、ハンナが奏でる曲を聴いてはゆるりとした時の中でお茶会は和気藹々と盛り上がっていた。
「‥‥どうですか?」
「うん、悪くないわ。でも」
「どうしてだろう、ゴーレム君の方が美味しい‥‥」
 チハルが手によりをかけて作ったミルクプディングをステラマリスに食して貰えば、言葉尻こそ濁しているも自身の答えと同じ彼女の言葉に少しうな垂れるチハルだったが
「だがこれはこれで美味しいぞ」
 だがアシュドの言う通り、満足そうに食べている他の皆の姿を見るとチハルは自信を取り戻し
「うん、そうですね。キャメロットに戻ったら知り合いの方々に作ってみます」
「寝起きの悪い男でも、彼女との明るい未来はあるでしょうか?」
「そうね、折角だから占ってあげるわ。他ならぬトオヤ君の為にね、でもその前に彼女の事‥‥詳しく聞きたいわ」
「い、いや‥‥話すって言っても何を?」
「何でもいいわよ、折角だから聞いてみたいなって思っていたの。色々とあるじゃない、馴れ初めとか」
「面白そぅですね、私も聞いてみたいです〜」
「うっ」
 グッと握り拳を固めて決意を紡げばその傍ら、知人であるアルラウネに占って貰おうとトオヤは問い掛けるも彼女は一つ、条件を提示すれば皆の話に聞き入っていたカノを筆頭に周囲の女性陣もその話の輪に加わって来る。
「アシュドさん〜」
「済まんな、そう言う話には私も疎くて助けてやりたいのは山々なんだが」
 女性の方が明らかに多い面子でそれはある意味で失言だったが、今更時を戻せる訳はなくトオヤはアシュドに助けを求めるも、彼の答えに腹を括ったが
「そう言えばアシュド君、ルルイエさんとはどうなの?」
 それでも効果がなかった訳ではなく、アシュドにもそう言った質問が飛んで行けば密かに安堵するトオヤであった。
「ん‥‥あれから色々と忙しくてな」
「大事に思っているなら、ちゃんと態度で示さないと駄目だよ。でないと‥‥私のラージクレイモアが暴れちゃうぞ」
 言葉を濁すアシュドの答えに、リュートベイルの弦を弾きながらもハンナは強い口調で彼に言えばアルラウネ、
「誰かにプレゼントするって言うのは、その誰かの事を大切に思うからなのよね。そして、そう言う気持ちになれる相手がいるっていうのはとても素敵な事よ」
 優しい言葉を彼に投げ掛ければ立ち上がり、アシュドの手を引いてはその背中を押す為、尋ねた。
「ルルイエさんのお部屋、何処?」
 流石姉御肌、そして彼女の性格を知っているだけにアシュドは抵抗せず歩き出すのだった‥‥さてはて、どうなる事か。

 ‥‥そして時間は過ぎ、一行が出立の頃。
「ルルイエさん、この間は茶化してごめんなさい。恋とか愛とかよく分かんないけど、二人の関係がちょっぴり羨ましかったんだ」
 皆が帰路への準備をしている時、チョコは先んじてそれを済ませると一行を見送りに出て来たルルイエへ詫びるも、彼女の発言を待たずチョコは一枚の羊皮紙を差し出す。
「前、アシュドさんにはルルイエさんの絵を贈ったんだよ。絵がもっと上達したら、いつか二人並んだ絵を描かせてね」
「えぇ、その時はこちらこそお願いしますね」
 彼女のお願いにルルイエも微笑んでそう返すと同時
「チョコ、もう行くぞ」
「はーい、それじゃあね」
 アシュドの呼び掛けに彼女はルルイエに手を振って別れを告げると
「それじゃ、少しの間キャメロットに行って来る」
「はい、気をつけて下さいね」
 いつもの調子で二人は言葉を交わすが、その根底にあるものは僅かだが変わっている様でそれを感じたチョコは微笑むとアシュドの手を引いて待つ一行の元へと駆け出した。
「それじゃあ少しだけアシュドさん、借りて行きますねっ!」


 さて、今回プディングをお持ち帰りした者達の後日談。
『気持ちだけは詰まっています』
 自ら認めた、たった一言の言葉と名前が書いてある羊皮紙を確認するとトオヤは深呼吸を一つして、とある家の扉をアルラウネと共に叩いた。
 ‥‥その結果がどうなったかは分からないが、少なくとも彼女もトオヤの事を想っていればその気持ちは無碍にしないだろう。

 そしてクラリッサもトオヤ同様に、彼女の場合は想い人の元を訪ねれば女性からの贈り物に喜ばない男性などいる筈もなく恐らく喜んで食べて貰えたろうし、ステラマリスは息子と弟にゴーレム君から学んだプディングを披露しながら
「今度と言う今度は‥‥」
 静かに静かに夫の帰りを待つその手が僅か、怒りに震えていたらしいのは秘密だ。

「皆食べて下さいねー」
 しかしながら想い人が皆いる訳でなく、ハンナにチハルは酒場にいる友人達へそれを振舞っていた。
「うわーん、どうせ私には恋人いないよー!」
 相変わらずリュートベイルを爪弾き嘆くハンナは叫ぶも、友人達の励ましを受けて早々といつもの調子に戻れば、今度は明るい曲を弾き始める姿があったとか。

 今日も今日とて、様々な人々の想いが錯綜する中でまたキャメロットの日は落ちていく。
 明日はどんな日になるだろうか、そんな事を思いつつカノはお世話になっている人の元を訪ね、彼が浮かべる満足そうな表情に釣られ笑みを浮かべながら祈る様に呟いた。
「明日も、いい日になるといいですねぇ〜」