【何でもござれ】箱入り娘とお留守番

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月15日〜04月22日

リプレイ公開日:2005年04月23日

●オープニング

「はい、今日は此処までです」
「ありがとうございました」
 キャメロットのとある屋敷、今日の礼儀作法の講義が終了した事を告げる先生にアセリア・ツィーゲンは恭しく一礼をすると、彼女が扉の向こうに消えるまで見送るが
 ‥‥バタン。
「‥‥ふぅ」
 扉が閉まると同時、溜息をついて手近な椅子に掛けると彼女は窓の外を見やる。
 ‥‥何処までも広がっている様な、そんな錯覚を覚える広い庭にまた溜息。
「私はこのままでいいんでしょうか‥‥」
 彼女はこの頃良く考え込んでいた、自分の存在について。
「皆、良くしてくれますし父さんに母さんも仕事で忙しいけど優しく接してくれます‥‥けれど、それは誰の為?」
 呟いて天井を見上げる彼女の口から次々に思いの丈が紡ぎ出される。
「私の為? それとも‥‥この家の為?」
 そして一人、自らの両肩を抱いて震えると部屋の扉がノックされる。
「私は‥‥誰なんでしょうか」

「今回の依頼ですが、娘さんだけしか残らない屋敷に出向いて彼女のお相手をしてあげて下さい」
「‥‥久々に来たよ、変な依頼が」
 さて冒険者ギルド、舞い込んで来た新しい依頼を纏め上げた受付嬢が早速有志を募る為に呼び掛けると、ボソリと呟く冒険者に静かに一瞥しては沈黙させてその続きを語り出す。
「依頼人であるご両親が急な仕事で一週間の間だけ家を離れると言う事で、召使いさんこそいるものの家の者が娘さん一人だけと言う事でしょう、不安で仕事に集中出来ないとの事でこの依頼を出す決意した訳で‥‥暇な人は受けなさい」
 先程の突っ込みを警戒して、最後は命令口調な彼女の目は‥‥座っていた。
「‥‥怖いよ、お姉さん」
「ごめんなさい、つい」
 何がついなのか分からないが、舌を出していつもの表情に戻ると
「それで、この依頼について注意事項が一つ。屋敷の敷地内からアセリアさんと言う方なんですが、その娘さんを出さない様との事です。毎日ではありませんが習い事もあると言う話でしたし」
「‥‥なぁ、それって気が滅入らないか。そのアセリアって子の」
「ですが依頼として、これだけは厳守して欲しいとの事でした。もし屋敷の敷地内から出た事が分かれば報酬は払わないと言っておりましたし‥‥お家の事情もあるのでしょう、私達が深く干渉すべきではないと思います」
「だけどね〜」
 報酬を受け取る為のたった一つの条件を提示すると、修羅場を潜り抜けて来た冒険者達は困惑する。
 それは確かに尤もな訳で、受付嬢の表情も僅かに曇っていたが
「あ、ちなみにその家の最古参の召使いであるハルアさんと言う人が皆さんの様子を伺うと言う話でしたが‥‥見付からなければいいんじゃない?」
 あえて濁し、そう言うと彼女は悪戯めいた笑みを浮かべるのであった。

●今回の参加者

 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●初日
「初めまして、吟遊詩人のヴァージニア・レヴィンです。音楽でしたらお任せ下さいね」
「う‥‥ん、ちょっと違うな。もう少しきびきびと」
 ツィーゲル家に到着した一行は、今回の依頼で一週間相手をするアセリアの部屋を訪れるとまず真っ先にヴァージニア・レヴィン(ea2765)が恭しく挨拶するもそれを見て弟のウォル・レヴィン(ea3827)、身振り手振りを交え正しい形式の挨拶をその場で教えようとしたが
「普通でいいんじゃないかしら? 変に緊張したりさせたりって言うのも、ね」
「だな。俺はリ・ル、リルでいいよ」
 苦笑を浮かべるアセリアの様子を見て、アリア・バーンスレイ(ea0445)がエルフの姉弟を宥めればリ・ル(ea3888)は彼女の提案に乗ってざっくばらんな挨拶を交わし、彼女も微笑んでそれに応えた。
「ご存知だと思いますが、アセリア・ツィーゲルと申します。皆さんも忙しいでしょうに両親が変なお願いをしてしまった様で申し訳ありません」
 挨拶、と言うよりは一行への気遣いと詫びが連なる言葉に何か引っかかる一行ではあったが
「こちらこそお気遣いさせてしまい申し訳ありません。ですが一週間の間、宜しくお願い致します」
 慣れない場に皆それぞれな対応の中、どう振舞おうかうろたえる姉の姿に弟のウォルはそれでも仰々しい挨拶の見本を見せるのだった。

「確認したいのだが‥‥‥‥‥と言った用件で、一つ部屋を貸して貰えないだろうか?」
 挨拶を終え、まずは初日と言う事でそれぞれ思い思いに動く中、ノース・ウィル(ea2269)を筆頭にハルアへアセリアの為に計画してきた事を相談していた。
「そうね‥‥後片付けまで宜しくて? でしたら構わないわ」
「無論、そのつもりだ」
「ノースさん、何のお話ですか〜?」
「料理を作ってやりたいんだけど、それは問題ないよな?」
「あ、それとお茶会を催しても構わないですか?」
 侍女長の耳元で囁き、その承諾を得たノースに問い掛ける和紗彼方(ea3892)だったが彼女は一つだけ笑うも
「えぇ、それでしたら全然構いませんわ。事前にいつやるかさえ教えてさえ貰えれば、こちらもお手伝い致しますよ」
 和紗への答えを紡ぐより早く、クオン・レイウイング(ea0714)とヴァージニアへ見た目の割に優しく答えるハルアが言えば、ノースは一言
「楽しみにしていてくれ」
 それだけ言うと、彼女は碧の瞳を輝かせ無邪気に頷けば次いでハルアに向き直り
「アセリアちゃんについて、何か注意点はありますか? 体が弱いとかはないですか?」
「この様な依頼でふと考えたのだが、過去に誘拐の憂き目に遭った事等は‥‥」
「お嬢様のお体は全然元気ですよ、持病もありませんしその様な大きな事件に巻き込まれた事もありません‥‥ただ」
「ただ?」
 和紗の質問にハルアは最後に声のトーンを落とし、気になる皆を代表してウォルが首を傾げ呟くと侍女の長はボソリと呟いた。
「最近、元気ありませんの‥‥一人娘なので溺愛なさるのは分かるんですが、少々過保護が過ぎるのでしょうね。最近では余り外にお出掛けすらさせて貰っていませんし‥‥奥様に似て気丈ですから全くその素振りは見せませんが、私の目は誤魔化せません!」
 そして咳払いを一つして
「‥‥良い子なのですが、聞き訳が良過ぎてこのままではやりたい事を見付けられるか不安なのですよ」
 言い終われば今度は溜息をつく彼女だったが、それを聞いて一行は
『大丈夫、任せて下さい!』
 この依頼で初めて顔を合わせた者も多いだろうに、息もぴったりとハルアに力強く断言すればハルアは思わず微笑んだ。

●二日目
 日もすっかり真頂点に昇った頃、皆より遅れてツィーゲル家に馳せ参じたのはロット・グレナム(ea0923)。
 初日こそ皆と歩調を合わせ挨拶に出向いたが、余り寝起きが良くないので二日目からは今時分に現れた。
「ふ‥‥ぁ、まだ少し眠い‥‥なぁ」
 欠伸と共に漏らす呟きの中、彼は視線を巡らせるとその片隅に庭を散歩するお嬢様と常に元気一杯な志士の二人を捉えた。

「すっごく気持ち良いんだよ、肌で風を感じたり花の匂いを嗅いだりするのって。自分や自然が生きているんだって実感出来るし」
 美しく刈り揃えられている庭園の様子に感動を覚え、活き活きとした表情を浮かべる和紗にアセリアも釣られて微笑むと
「ボクの故郷だと今の時期桜が満開でお花見するんだよ。桜って咲いてすぐ散っちゃって寂しいんだけど、花びらが風に舞ってる所が凄く綺麗なんだよ」
 風にそよぐ木々の奏でる音に合わせ、舞を始める志士。
 その舞はどこか自然に同化した優しいもので、アセリアにとっては見た事のない舞と言うのも相まって彼女はそれに釘付けになる。
「‥‥とと、ボクの事ばかり話していてもしょうがないね。アセリアちゃんのお話も色々と聞きたいな」
「私、ですか?」
「他に誰がいるのかな? お友達になるにはまずお互いの事をよく知る事、だから普段どんな事をしているのかとか、好きな物とか趣味とか‥‥後は夢! アセリアちゃんとお友達になりたいから、色々な事を聞きたいな」
 アセリアに見つめられ、照れながらも舞を続ける中で彼女にそう尋ねる和紗だったが
「夢‥‥夢ですか、考えた事もありません‥‥おかしいですか?」
 彼女の表情は僅かに曇ったが、場の雰囲気からか少しだけ本音を呟いた。
「ん、そんな事ないよ。なければこれからでも探せばいいだけだから、ね」
 やがて風が止み、音も止み、舞を止める和紗はアセリアを諭すとその横にちょこんと座り髪を撫でやり、先の会話を続けようと再び口を開いた。

「‥‥いいねぇ。此処で邪魔をするのも無粋だろうから、誰かの手伝いでもするか」
 その様子に遠目で見守っていたロッド、それだけ呟いてはまた欠伸をして一人屋敷へ歩を再び進めた。


「ふむ、中々上手いではないか」
「嗜み程度ですけど‥‥」
「そんな事はないと思いますよ、センスがあると思いますわ」
 時は進みノースとヴァージニア、今日は一日何もないと言うハルアの話から彼女の時間を少し頂戴して社交ダンスの手解きを教授していた。
 ヴァージニアが奏でるゆったりした曲調に合わせ、アセリアの手を取り踊るノースへ静かに返すも首を左右に振ってそれを否定するヴァージニア。
「お二人はどうして楽器やダンスを始めたんですか?」
 和紗との会話で芽生え、気になりだした事について二人に尋ねると
「素敵な殿方を居止める為には踊りの一つは出来ておきたいからな‥‥一応言っておくが、私はその様な目的でソシアルを覚えた訳ではないぞ?」
「そうなんですか?」
 ノースの言葉に竪琴を奏でるエルフが逆に聞き返せば、音だけが流れる場で暫し沈黙する皆。
「‥‥いや、どうだろう‥‥なっ?!」
 そしてノース、苦笑いだけ浮かべたつもりだったが僅かな動揺からアセリアの足を踏んで思い切り転倒すれば
「時には失敗もしますけど、楽しいから、好きだから始めたんですよ」
 奏でる曲を中断し、倒れ伏す二人に手を差し伸べるヴァージニアの答えに少し戸惑いながら、それでも彼女の手を掴んで呟いた。
「‥‥探して、みようかしら」
「一度きりの人生だから後悔だけはして欲しくはないな」
 その呟きと同時に立ち上がって礼服にまとわりついた埃を払って、言葉とは裏腹に痛みで顰め面を浮かべる麗人にアセリアは苦笑を浮かべ頷くのだった。

 かたやアリアとクオンはその頃、皆への料理作りに勤しんでいる真最中。
「さって、海の桜亭のコックの腕の見せ所だねっ!」
 お抱えの料理人で一杯の広い厨房をとりあえず、二人が今日だけ取り仕切る約束であったがその出来次第では依頼期間中、その限りではないと言う話に俄然やる気になる二人。
「今日はノルマンで覚えたビーフシチューを作ろうと思う、済まないが依頼期間の間だけでも色々とお嬢様に作ってあげたい物があるので協力の程、宜しく頼む」
 腕捲りで気合も十分なアリアに、彼女と比べればまだその腕は未熟ながらもクオンは料理人達へ気遣いつつも言葉を掛けると早速調理を始めた。
「まずは材料を切る事から始めよう」
 そして、いつもとは違う戦闘が調理場で切って開かれた‥‥。

●四日目
 屋敷のとある一室、ノースの提案により造られた野に咲く草花が所狭しと敷き詰められるその部屋で、今日はクオンとアリアお手製のお菓子を広げて催されるお茶会。
「ここまでして頂いて‥‥皆様の気持ちが、嬉しいです」
 と彼女が言って感動する中、アリアとクオン二人だけで作ったお菓子が皆の眼前に置かれると一行はいつもの表情に戻り、口々に冒険譚を語り始めた。

 依頼が始まってから日々、屋敷内に流れるヴァージニアが今も曲を奏でる中で始めこそ皆の話に聞き入っていたアセリアだったが、それとも二人が作ったお菓子を食してか日々の様々な出来事から一行に気を許した為か、アセリアの独白が歌の代わりに紡がれる。
「‥‥やりたい事、したい事が出来ている皆様が羨ましいです。私は今、何がしたいのか分かりません。でもっ‥‥今の生活が嫌だと言う訳でもなく」
「その答えは自分で見つけなくてはならないだろう、けれど外への憧れがあるのなら‥‥まず自分が外に出てやっていける所を示さなくては行けないと俺は思う」
 彼女の叫びとその惑いにエルフが騎士は厳しく、僅かにアセリアは顔を強張らせるが
「箱の中で嘆くだけじゃ何も変わらない。ならば今より自分が強くなれば良い、例えば‥‥自分を鍛えてみるとか」
「広い外の世界へ羽ばたくのは自らの翼に拠るものであって、他人の力では遠くまで飛んでは行けないからな」
 ウォルに続いてクオンの口から紡がれる、優しさ故の厳しい言葉はアセリアの顔を俯かせると、ふとある事が気になったリルは彼女の顔を覗き込む様に屈んで尋ねた。
「そういや御両親と真剣にこう言う話をした事はあるのかい? もしかしたら、話す前から何かを諦めちゃいないか?」
「あっ‥‥」
 いつもは豪快な彼だったが今、その声音は静かでアセリアはいささか混乱する頭の中を整理する余裕が出来ると、彼の問い掛けにハッと息を呑む。
「君がもっと積極的に考えて動けば、道は開けるんじゃないかな。尤も最初から何でも思い通りにゃならんだろうけど変革はめげずに、明るく、根気良くだ。でも自分の力でこの家を守り立てるってのも中々格好いいぜ」
 今度は優しい口調でアセリアに諭し掛けたがそれは彼女を逡巡させ、紡ごうとした言葉を忘れさせる。
「‥‥ま、敷地の外に出てみたければ見聞を広げたいとでも言ってみればいい。ケンブリッジの視察とかさ、そう言う悪企みも楽しいぜ。護衛はキャメロットのギルドにお任せあれ、ウイングドラゴン位なら撃退してやるぜ」
 暫く空く間、それをリルは察すると暫く悩みながらも言ってニッと笑えば
「その時が来たら遠慮なく言ってね、手伝ってあげるから」
「もしやる気があるのなら基本的な護身の仕方位は教えてあげられるから、どう進むにせよ‥‥頑張れ」
 空いた器にまだ温かい紅茶を注ぎ直し微笑むアリアと力添えする旨を告げるウォルに、アセリアは今までにない力強い返事と共に皆をしっかり見据えては頷き
「その時は、宜しくお願い致します」
「あぁ、未来を決めるのはアセリア自身だが‥‥未来の選択を増やす手伝いなら俺達でも出来るからな」
 はっきり断言すると、クオンは笑顔を浮かべ手を差し出しては彼女と握手を交わすのだった。


 ‥‥今までの様々な出来事からすっかり一行と打ち解けたアセリアだったが、その夜は眠れずにいた。
「皆様、とても強くて羨ましい‥‥私も変われるかしら?」
 窓に広がる夜景を見つめてそう呟いた時だった、黒衣の魔術師がその視界に現れたのは。
 当然の事ながらそれにビックリする彼女だったが、彼の仕草に従うまま窓を開けるとロットは開口一番
「悪い魔法使いがお姫様を攫いに参りました‥‥と言う訳で、見せたい物があるからちょっと攫われてくれないか? あ、敷地から出たりはしないから」
 彼女に言えば己が手を差し伸べ、夜空の下へと誘った。

「‥‥どうしたのですか、こんな時間に」
 彼女を両腕で抱え、リトルフライでゆっくり屋敷の屋根に上がると安全そうな場所に彼女を下し、自分もそっと屋根に足をつければその問い掛けにまずアセリアの隣へ座り、キャメロットの夜景を見下ろして呟いた。
「この景色を見てると、自分が凄くちっぽけに見えるんだ。そんな自分が無理して強がっても仕方ない。だから、無理なんてせずに自分の思うままに‥‥っと、独り言だから気にしないでくれ。ともかく、この夜景を見せたかったんだ」
「‥‥そうですね。凄く、綺麗です」
 そんな彼の言葉にアセリアが微笑むと、ロットは視線をそのままに最後に一言だけ添える。
「依頼の期間中、もしまたこの景色が見たければいつでも言ってくれ。依頼が終わっても、連絡があれば文字通り飛んで来る」
「ありがとう‥‥ございます」
 そして微笑むロットへ彼女は彼の肩に暫し頭を預けると、闇に煌く星の群れを遠目に今はまだ憧れるだけだったがいつかこの空へ、羽ばたこうと誓うのだった‥‥皆の言葉を胸に。

●それから
 数ヵ月後の話ではあるが、あの一週間を共有した一行はアセリアがキャメロットを出て、遠くへ見聞を重ねる為の旅に出たと言う話を聞く事になる。
 それに至るまでの話は機会があればまた、と言う事で。
「人は‥‥私は変われると信じられる、今なら。皆様のお言葉‥‥確かにこの胸に」

 〜Fin〜