闇霧跋扈

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月21日〜04月28日

リプレイ公開日:2005年04月29日

●オープニング

 闇の様に濃い霧が辺りを漂う中、一人の女剣士が佇んでいた。
 彼女はその深く白い闇の中においても平然と、ただ正面だけを見て剣を構え‥‥揺らめいた霧の僅かな動きを察知すると同時、そこ目掛けて剣を振るったが
「ちっ」
 命中こそすれ返って来た不思議な手応えに舌打ちし、次いでそれから距離を離す様に飛び退る。
「‥‥三匹、か?」
 周囲を取り囲む気配を数え、しかし今度は再び剣を構える余裕など与えられず同時に飛び掛ってくるそれらの連撃を避け、受け流し、弾き返すと判断早く気配のない方向へと駆け出した。
「あの手応え‥‥人じゃないか。簡単な依頼だと思っていたが、どうやら私だけの手には余るな、さて」
 駆けながら、どうしたものかと悩む彼女はひとまず依頼を請け負った村に戻る事にする。
 徐々に離れていく気配を自らの背中に感じながら。

「手を借りたい、魔法を使える者と山林に詳しい者を特に」
 数日後、キャメロットの冒険者ギルドにて受付嬢に依頼を持ちかける彼女の姿があった。
「魔法を使える者を特に、って‥‥他の方じゃ対応出来ないかしら?」
 問われて受付嬢は辺りを見回すも依頼人が求める人材は丁度おらず、そう返してみたが彼女は首を振り
「魔法が使える者がいないと話にならない、相手は恐らくデビルだから‥‥。それと済まないが村で私が請け負ったこの依頼、村の都合もあって後二週間で終わらせると期限を切ってしまってな、比較的急ぐ依頼になる」
「でしたら‥‥取り急ぎ呼び掛けますので少しお待ち下さい。それで、貴方のお名前は?」
 依頼人の答えに慌てる事無く受付嬢は返すと、彼女は自らの名前を紡ぐのだった。
「レリア‥‥レリア・ハイダルゼムだ」

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 ミッション:彼女がとある村で請け負った、近隣の森で最近多発している原因不明の濃い霧の根源を協力して断て!

 成功条件:レリアと協力して三日以内に霧の根源を探し出し、どの様な結果であれそれを断つ事が出来た時。
 失敗条件:成功条件を達成出来なかった時。
 移動期間:キャメロットから村まで往復で四日を要し、村から森までは歩いてすぐ。
 必須道具類:期限が決まっている為、日数分の保存食は事前に各自で準備を。それ以外に必要だと思われる物は各自で予め持参して下さい。

 その他:森は広く木々も密集している事から行軍は苦労し、その為に戦闘ではお互いにではあるが様々な制限が課せられる筈。
 また発生している霧を見通す事は出来ず、相手がデビルである事から魔法無しにこの依頼を成功させる事は非常に難しい。
 敵の数は最低で三匹だが詳細は不明、固まっているのか散っているのか分からない以上、ある程度に分散して索敵、殲滅を試みた方が賢明かと思われる。
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●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1180 クラリッサ・シュフィール(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)/ 天霧 那流(ea8065

●リプレイ本文

「クルードは鞭の様な長い尻尾を持っているのが特徴だそうでござる」
「厄介でござるな」
 友人の調査から今回の敵について話す滋藤柾鷹(ea0858)の話に、同じくジャパンで生まれた黒畑緑朗(ea6426)が似た口調で率直な感想を述べると
「それと確か‥‥吐く霧の息は魔法のミストフィールドと同じ、一メートル程度しか視界を通さず、魔法でも吹き飛ばす事が出来ないとか、ちょっと記憶があやふやですけれど」
 白きクレリックであるサラ・ディアーナ(ea0285)は自らの知識をまさぐりつつも滋藤とは正反対に、いささか自信なさげにそう付け加える。
「お互い此の所、悪魔の奴に縁があるな」
 そんな今回の目標についての情報を聞きながら、真幌葉京士郎(ea3190)は先日アリオス・エルスリード(ea0439)と同じ依頼を受けた事から今回の依頼に対して皮肉を言うと
「あぁ、しかし何事もなければいいが‥‥」
 頷きつつもアリオス、最近冒険者ギルドで取り扱う依頼傾向にふと不安を覚え呟いたが、直後に二人今回の依頼主であるレリア・ハイダルゼムを視線の片隅に捉えれば
「‥‥使い慣れない武器ではあるだろうが、少人数編成となる為に素早い対応が必要だ。ひとまずルーンソードを貸しておくので、もし良ければ使ってくれ」
「それと綺麗な顔に困惑は似合わん、もしもの時は俺がレリアの武器にもオーラを付与させて貰う、だから安心していてくれ」
 表情こそクールに立ち振る舞うも面倒見のいいレンジャーが彼女に一振りの剣を手渡せば、彼に対抗してかは分からないものの童顔の侍は微笑を浮かべる。
「あぁ、済まない」
 それにレリアはアリオスから剣を受け取り、苦笑を浮かべ二人にそう返す。
「それにしても、仕事で自ら期限を決めるなんて‥‥クールに見えて意外と大胆なのね」
 そんな彼女の反応に二人の様子は気にせず、そのやり取りからロア・パープルストーム(ea4460)の紡いだ発言に彼女はその答えを紡ぎ出す。
「依頼であれ、そうでなかれ自身がやる事には責任を持ってやりたいからな。それに困っている者からの依頼であれば、早く解決してやりたいと思うだろう?」
「まぁ、それはそうね」
「それより急がないと‥‥時間も限られていますし」
「そうですね、そろそろ森に向かわないと」
 それにロアが頷くと、太陽が思ったよりも西に傾いているのを見ながらいつもの様に自らの銀髪の調子を気にする重装備の騎士、クラリッサ・シュフィール(ea1180)が言葉にそんな女騎士とは対称的な金髪を靡かせセレス・ブリッジ(ea4471)が慌て皆に呼び掛けるれば
「協力の程、宜しくお願いする」
 改まってのレリアが申し出に、一行は笑顔で返すと速度を上げた。


 森へ到着すれば三班に分かれての殲滅を図るその前に‥‥下準備に取り掛かる一行。
「霧は局所的だな、奴らが吐く息だけでは流石に森全体を覆う事は出来ない様だ‥‥が、森自体広いからな。結構骨は折れると思う」
 道中でレリアから森の様子を聞いた一行は考えていた作戦の為に、ロアの指示が元で匂いの強い草を摘んでは道中で予め買っておいた袋に詰める。
「目がダメなら鼻で‥‥って言うのはいい案だけど、誰か鼻に自信のある人いるのかしら?」
 不意にロアが草を摘む皆を見回して問い掛けると、アリオスとレリアを除く全員は首を横に振り‥‥直後に辺りを一陣の乾いた風が舞った。
 まぁ風が吹いていれば大丈夫だろう、そして落ち合う場所を決めて九人は森の中へと三組に分かれて散開する。

「何だか異国へ来たみたい‥‥でももう少し、歩き易い所はないのかしら」
「まぁ、止むを得まい。今はまず、確実に進む事にしよう」
 霧が僅かに立ち込める何処とも知れない、そんな錯覚を覚える森の中でロアは二人のジャパン人に囲まれ、滋藤に宥められつつ笑うとパッシブセンサーのスクロールを紐解いてそれを唱え
「‥‥思った通りダメね、反応しないわ」
 効力を発揮しない魔法に、だが霧が魔法でない事を改めて理解すると彼女は気を取り直してはインフラビジョンを唱えて、赤外線視覚を得る。
「ロア殿、拙者自身にはシルバーナイフしか悪魔に効きそうな攻撃手段がないので、魔法での補助を宜しくお願いするでござる」
 徐々に濃くなって来る霧に何かを感じ、過去の依頼でロアと一緒になった事がある黒畑が呼び掛ければ
「‥‥来るでござる」
「せっかちね‥‥でもこれだと何も視えないわ」
 揺れ動く木々のざわめきに滋藤は皆に警告すれば、現れるだろう突然の襲撃者にロアは苛立たしさを隠さず呟き黒畑の刀へバーニングソードを付与すれば、音がする方向を見つめても自らの赤外線視界にデビルが映らない事を確認し、慌てずその効果を切った直後。
「甘い‥‥」
 蠢く茂みから長い尾に醜悪な顔を携えた生物が飛び出せば、それをクルードと判断した三人はその速度の乗った悪魔が初撃を近くにいた黒畑が受け流し
「逃がさん!」
 だがそれに別段慌てる事無く、再び霧の中に身を隠そうとそれが背を向ければ滋藤が放った投網は周囲の地形にも拘らず、奇跡的に命中し絡め取る。
「いやぁっ!」
「焦げなさい!」
 そして間合いを詰めた黒畑の気合が一閃と同時、皆は集中攻撃を畳み掛けると暫く後にボロ雑巾宜しくな状態と化したのはクルードだった。
「‥‥まずは一匹、次もこの調子で上手く行けばいいでござるが」
 一匹であれば、一行の実力に劣るクルードではあったが地形と武器が利かない特性故に僅かな不安を覚える滋藤だったが、自らの目的をここでも果たせると感じて己が身を震わせた。

 その一方、アリオス達三人も着実に敵を見つけては三人の中では一番森に詳しいセレスの指示で予め確認していた木々の深い所に追い込み、確実に退治していた。
「っ‥‥こちらです!」
 セレスのプラントコントロールで立ちはだかる木立に戸惑うクルードの動きを制限させると、その中で更にクラリッサが重装備と周囲の木々に足を取られつつも注意を自身に惹き付ければ
「全てを薙ぎ払え、地の束縛よ‥‥グラビティーキャノン!」
「こいつで止めだっ」
 耳に飛び込んで来た詠唱に、クルードが振るわれる尾を盾で受けその衝撃に身を任せて魔術師の直線状から離れると直後に放たれる重力波に悪魔が吹き飛び、続けて放たれたアリオスの魔法の矢で胸と頭部を貫かれては絶命した。
「実際、捕らえてしまえばなんと言う事の相手だな。数こそ多いが」
 いささか詰まらなげに崩れ落ちるクルードを見下した、その時だった
「‥‥気をつけて下さい」
 三人の視界を覆う様に突如濃い霧が立ち込めれば、咄嗟にセレスが小声で警戒を促すも
「きゃあっ!!!」
「っ‥‥」
 それから僅かな間すら置かず飛来する二つの影、一つの影が両腕に尻尾を同時に振るいクラリッサを吹き飛ばし、もう一つの影はアリオスを狙うも紙一重で回避されるとそのまま霧の中へと舞い戻る。
「そのまま返す訳には‥‥っ!」
 だが崩れた体勢ながらも彼は、異臭を放つ袋を一つが影の軌跡に重ねて投げつける。
「油断禁物、と言う事か‥‥」
 当たったかは分からない、だがたたらを踏んで地に膝を突くアリオスは僅かな気の緩みをすぐに戒めると、立ち上がってクラリッサに手を差し出し助け起こす。
「つっ‥‥今度皆さんと合流したら、お話しておく必要がありますね」
 差し出された手を握りながら痛みに顔を顰めつつ、だが体よりもまず先程の戦闘から木々に絡まった髪を心配する女騎士の呟きには、まだ幾分の余裕が感じられた。

 それから二日の時を経て、来た当初に比べれば大分落ち着いた霧が漂う森の中で三組は無事に何度目かの合流を果たすと、皆の報告からレリア
「‥‥勝負は明日だな、奴らが逃げ出さない限りは。だから今日は早めに休む事にしよう」
 思ったより疲弊している皆の様子にそう判断を下すと、誰も異論を唱える事無く明日に備えて早々に眠りにつくのだった。


「悪魔とは言え、お洒落をするのもたまには良かろう‥‥逃がしはせぬ!」
 そして最終日である三日目、再び三組に散れば真幌葉達は闘気の刃を携え早速一匹目の悪魔を見付けると、匂い袋をぶつけた所でそれを追い駆ける真最中であったが
「‥‥いかんな、後退するぞ」
 漂う霧の中に踏み込めばレリアが耳を欹て、それを察して侍と二人でサラを挟む様な隊形でじりじりと後退する。
 しかし霧は三人を逃がさず、微かに揺らめけば飛び出して来る三匹のクルードを真幌葉とレリアが何とか押さえる。
「クラリッサさんが言っていた、他とは違うクルード‥‥の様ですね」
「あぁ、さっき俺が当てた奴以外からも微かに同じ匂いがした。恐らくはそうだろう‥‥だがこの数なら」
 再び距離を置いて霧の中から飛び掛るタイミングを伺う三匹に、しかし三人も迂闊には手を出せず霧を見据えれば、再び霧がゆらりと動いた。

「‥‥今回復をします、少し我慢していて下さい」
 暫し後、漂う霧を目前に木陰で息を潜める三人。
 レリアが攻撃を一手に受ける側へ回り、その隙に真幌葉が一匹を退治したものの尾による一撃を受け彼女が激しく咳き込み崩れ落ちると、慌ててレリアを担ぎその場から後退する。
 辺りの様子を伺いつつ、未だ肩で荒い息をするレリアにサラがリカバーで癒すと
「少しずつこっちに霧が近付いて来ている、勢い付いているか‥‥」
 徐々に濃くなる霧に毒づきながらも侍は立ち上がり、再びそこへ足を踏み出す。
「が、依頼は果たさなければならない。再開しようじゃないか」
「私も‥‥行こう」
 先程よりは落ち着いているが、まだ少し咳き込んでレリアも立ち上がったがそんな彼女をサラは献身的な精神を持って引き止める。
「もう暫く安静にしていて下さい」
「そう言える状況ではない‥‥なら、動くしかあるまい」
「けれどっ」
 しかし最後の叫びは梢のざわめきに掻き消され、再び現れた二匹の悪魔へそれぞれ武器を構えると‥‥幾本もの矢がそれの横合いから飛来し、うち一匹の頭蓋を見事に貫いた。
「見えなくとも数を打てば意外に当たるものだな」
 匂いを敏感に嗅ぎ取ってだろう、三人の視界に現れたのはアリオス達三人。
 レンジャーが放った矢の軌跡を追ってはセレス、木々を操って残る一体の動きをギリギリの所で絡め取ると
「さぁ、地獄の闇へと還れ!」
 真幌葉が一閃は、悪魔に最後の咆哮をもたらした。
「‥‥これで終わりでしょうか?」
「一度休憩を挟んでから、もう一度森を回った方が良いかも知れませんね」
 そして最後のクルードが動かなくなったのを確認し、その場に居合わせる皆は安堵するとクラリッサの疑問からセレスの提案に皆は頷いて、まずは地に腰を下すのだった‥‥。


 ‥‥翌日、その森に霧は漂う事なく春の陽光を浴び青々と輝いていた。
「究めれば、この世に切れぬ物無し!」
「何とか間に合ったな‥‥協力に感謝する。それでは、縁が合ったらまた会おう」
 森を見下ろせる丘の上でその光景に終幕を告げる代わりと黒畑が叫べば、そんな彼とは正反対に淡々とした調子で呟いたレリアはアリオスから借りていた剣を返し、一行へ感謝の気持ちを僅かに告げてあっさり背を向けた。
「えぇ、気を付けて旅を続けてね」
「それと、余り無理はするなよ」
 だがその背中へロアと真幌葉が別れの言葉を投げ掛けると、彼女は前を見据えたままだったが返事の代わりに一行へと手を掲げ、振るのであった。