●リプレイ本文
●Knight Of Raund Table
キャメロットにて円卓の騎士が一人、ユーウェイン・ログレスの前に居並ぶのは十二人の冒険者達。
「ユーウェイン殿、宜しくお願いするでござるよ」
「こちらこそ、宜しくお願いしますね」
「手前は精霊の声と共に歩む者、森に住む者の性を受けしアルヴィン・アトウッド。『円卓の騎士』が一人として誉れ高きユーウェイン殿と共に戦え光栄に思う」
「‥‥何もそこまで畏まらなくても」
改めて挨拶を交わす滋藤柾鷹(ea0858)にユーウェインが笑顔を浮かべ返せば、続くアルヴィン・アトウッド(ea5541)には苦笑を浮かべつつ
「『円卓の騎士』とは言っても、他の騎士の方々に比べれば私はまだまだ及ばないからね。余り呼び方だとか、振舞い方だとか必要以上に気にしなくて構わないよ」
「しかしアーサー王直属の騎士である以上‥‥」
「そうそう無礼には、なぁ」
皆を見回して言うも、柾鷹とそれに続いて煙管から煙をくゆらせる名無野如月(ea1003)の言葉に頷く者もいれば
「ま、いいんじゃないか? 本人がそう言ってる事だし。なぁユーウェインさん」
「うんうん。『円卓の騎士』らしくなくていい奴よねー、ユーウェインって」
が、全て同色の衣服に身を包むツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)が侮蔑とも関心とも受け取れる感情を込め紡げば、砕けた性格の持ち主であるレムリィ・リセルナート(ea6870)は初対面にも拘らず旧知の友人の様に目一杯背伸びをして、頭を撫でてみたりしている。
「騎士らしくない、と言われるのは少しショックだけど全然構わないからね」
「何するんだよー!」
「‥‥『円卓の騎士』って言うと何となく近付き難いイメージ持ってたけど、案外気さくな人なんだな」
人それぞれな応対に口調こそ気にしていないものの、お返しと言わんばかりにレムリィの頭を撫で返せば怒る彼女に、彼と同じく騎士だが面立ちから異性に間違われ易いウォル・レヴィン(ea3827)の柔らかい響きは、皆に苦笑と共に賛同を招く。
「‥‥で、ユーウェインさんが発見してから俺達が現地に着くまでの日数を考えると、草原に到着した時に、既にアンデッド達が村近くまで行っていないと言う保証は無い。俺はまず、村周辺の警戒に当たる」
「確かに、ユーウェイン卿が遺跡を発ってからかなり日数が経っています。遺跡から一番近い村まで三日と聞きますから、既に襲撃に遭っていてもおかしくありません。この馬車をその村の方へ回せないでしょうか?」
その光景に何かを感じたのか、冒険者としての在るべき姿を思い出してか提案するツウィクセルに、茶色い髪をなびかせ微笑みながら彼と同じ提案を上げるアリシア・シャーウッド(ea2194)。
「うん‥‥他に何かあるかな?」
「無視するなっ!」
「馬車を草原と村との中間位置につけ村への斥候と草原への迎撃に分かれる、ってのはどうだ?」
先程から変わらずレムリィの頭を撫でつつも皆に尋ねる円卓の騎士に、普段と違って真面目な表情のシーヴァス・ラーン(ea0453)とアルヴィンが彼女の叫びの中でも先の二人とはまた違った、だがその意を汲む意見に逡巡する騎士だったが、その決断は早かった。
「とりあえず現状が分からない以上、まずは現地に行く事を優先に。馬車は遺跡と村の中間に着ける様、お願いしておきますよ。後は状況を踏まえた上で‥‥どうかな?」
「‥‥構わない、それならそれで早々に出発する事にしよう」
ユーウェインの申し出に無愛想な忍の風霧健武(ea0403)が簡潔に纏めると、皆一様に頷いては慌しく荷物を抱え馬車や自らが駆る馬へと乗り込んで行く。
「さって、と‥‥生きて聖杯をこの目で拝もうとしようか!」
「願わくば、彼らの魂が我等の主が御許へと導かれん事を‥‥」
「しかし、大事が起こる前兆でなければ良いが」
その光景にシーヴァスが不敵に笑えば、白銀と紅の瞳を閉じて神に仕える騎士はコルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)の祈る様な呟きに、同じく神聖騎士を務めるノース・ウィル(ea2269)は不安を覚えた、見えない何かが動き出した気がして‥‥。
「行きましょう。今は何よりもまず、先へ」
「そうですね。では皆さん、急ぎましょう!」
人それぞれの想いに白き髪を揺らして夜枝月藍那(ea6237)の静かな呼び掛けはまず今見据えるべき一行の道標を改めて指し示し、皆の背を押すとユーウェインは高らかに出発を告げるのだった。
そして、馬車はキャメロットを離れる‥‥亡霊達が蠢く遺跡へと向けて。
●Next Feneral
「野営はこの辺りが良さそうだね、誰か手伝ってくれないかな?」
馬車がキャメロットからメイドンカースル遺跡の近くまで着くと、重く立ち込める雲が広がった空の下でレムリィの呼び掛けに応じ、数人がてきぱきと動き出せば
「ユーウェイン卿、アンデット達が遺跡付近から動いた様子はあるか?」
「‥‥積極的に動いている様子は、なさそうですね。見付けた時もそうでしたが、遺跡から離れる様な素振りは余り見せていませんでしたから」
視力に優れる如月がまだ遠目に見える遺跡を見つめユーウェインに確認すれば、彼の言葉に
「もしかして、遺跡にある何かを守っているのか?」
「なら、村の方も大丈夫だと思いたいものでござるな‥‥」
その隣で話を聞いていたウォルの問い掛けには答えられず、冷静に辺りの様子を見ながらも今は村に向かったばかりの斥候達を心配する柾鷹だったが、余り変わらぬ状況にまずは準備を終わらせようと踵を返せば
「それではこちらも準備が終わり次第、遺跡の近くまで‥‥何をしているんだい、ノース殿?」
「我々が目立てば村が襲われる事もないだろう。それでこちらに注意を惹き付けようと、旗でも立てた方が良いかと思ってな」
その視界の中で何処かに落ちていたのか、長い木の棒に布を括りつけているノースの姿が映り、騎士が彼女に尋ねれば唖然とする三人を差し置いて彼女は何事かに気付き、手を打った。
「‥‥アンデッドは目が見えるのだろうか?」
「アンデッドは五感を持っているらしいけど、今回は早いに越した事がないからこちらから出向こうと思っているので‥‥その旗は今回、特にいらないかな」
そんなノースの疑問にユーウェインはおろか、皆もそれに気付き笑うと彼に諭された神聖騎士は一つ呻いた。
「むぅ、それならいいのだが‥‥」
やる気が空回りしてか彼女は、気恥ずかしそうにそそくさと今回は使う事がないだろう旗を解体するのだった。
さりとて、草原での戦いに向けての準備は着々と進んでいた。
「‥‥とりあえず、何事もなさそうだな」
一方、斥候を務める健武は自らの駿馬でキャメロットを発ってから皆より僅かに先行しつつ見晴らしのいい道を走り村への道を急ぐも、少なくとも今まで辿ってきた道程で死霊達を見かける事はなく、また村のある方向へ何かが進んでいる痕跡も見付からない事に少なからず安堵していたが
「だが、村に着くまでは分からんか」
元より無愛想ではあるが表情は厳しいままで、馬を駆りつつ健武は再び前を見据えると鼻息荒い愛馬を撫でてはもう暫く村に向けて疾駆する。
「しかし何故、聖杯探索のお触れが出たと同じタイミングでこの様な事が」
その答えはまだ誰も知る事はなく、だが彼の頭から離れる事もなかった。
そしてその後を遅れる事少し、藍那とツウィクセルは馬車に乗り健武の後を追い掛け村へと向かっていた。
「村にもし何かあってからでは遅いんですっ! 行かせて下さい!」
自衛能力の皆無な彼女だったがその固い決意と同時に真っ直ぐ皆を見つめると、ユーウェインは心配そうに
「‥‥此処に馬車を止めていて何かあったらまずいでしょう、一時的に馬車の避難をして貰えますか? 但し、村の様子を確認したらすぐに戻って来る事。それと危険と判断してもすぐに戻って来なさい、くれぐれも大事な物を履き違えない様にね」
「俺の事、忘れるなよ‥‥俺も村の方へ行くって言ったんだが」
だが藍那の背中を押す言葉を掛ければ、その後ろから声を掛けてくるエルフの射手の申し出。
ちょっと不機嫌そうなのはユーウェインが目の前にいるからか、それとも射手としての腕前が他の者より劣るからか。
そんな彼の心情には流石に気付かず、だが円卓の騎士は苦笑を貼り付けつつ送り出すと急いで二人は村目指して駆け出した。
「‥‥すぐに戻ります、必ず!」
「無事だといいが」
今は前だけを見て、送り出してくれた皆の元へ無事に帰る為に。
‥‥再び場面は戻り、遺跡近辺に蔓延る亡者達を退治しようと一行は動き出していた。
「風よ、轟け‥‥荒れ狂い、舞え!」
まずは迫る死体の群れに物怖じする事無く、コルセスカが張り巡らした聖なる結界の中で自らの射程ギリギリでアルヴィンはトルネードを展開すると
「この数では一度に倒し切れない、己が安全と退路を確保しつつ当たって下さい!」
気さくなユーウェインでも今はその表情厳しく、荒れ狂う風に続き皆に指示を出しては闘気の刃を前衛で各々武器を振るい戦う者へ順々に付与を始める。
「了解、っと!」
「南無八幡大菩薩‥‥推して、参る!!」
そして早い段階で彼からオーラパワーを受け取ったシーヴァスと如月を先駆けに、本格的に戦闘は始まった。
「しかし、ユーウェイン卿が想定していた以上に数が多そうだな」
「そうですね‥‥何があったか分かりませんが、それなら全てを倒すまでです!」
この場にいる冒険者以上の群れを見て、ユーウェインの隣で同じく闘気魔法の付与に励むウォルが半ば呆れる様に言えば、円卓の騎士は頷きやがて剣を抜き放って周囲の状況を確認した後で地を蹴れば、エルフの騎士もまたそれに倣うと
「よっし、今日も調子いいぞー」
辺りを駆け巡る剣閃の最中、近くでよろめく死体を見逃さず草原に僅かある樹上から矢を打ち下ろしては、その狙い過たず一つの死体を再び絶命させるアリシア。
重々しい負の生気立ち込める戦場の雰囲気に負けず、常に明るき射手が放つ銀の矢はまさしく一条の光の様にも見えた。
開始早々から一行は亡霊の群れを押し続ける、ズゥンビに遅れを取る者は流石にいない。
骸骨の騎士が幾許か増えてもそれが変わる事はなかったのだが‥‥。
「‥‥っ! いい加減に減らないのか?」
風切音と共にまた一体のズゥンビの腕を華麗に短槍で切り飛ばすノースだったが、四肢を失った所で全く意に介さないズゥンビに辟易して僅かにその距離を置くも
「ほぉら、そこっ! 危ないよ」
その横合いから剣を水平に構えて突っ込んで来るスカルウォーリアーに防御も間に合いそうにないと悟って舌打ちをするが、機動力を活かし戦うレムリィのGパニッシャーが彼女のフォローにと駆け寄り見事にその頭蓋を粉砕するとノースの眼前でその顔を貫こうとしていた剣は地に落ちる。
「しっかし、きついわね。アンデッドってこれだから‥‥しつこくて嫌い」
「予想以上の数、全てを弔う事は出来るのでしょうか?」
ノースと肩を並べ、手振り身振りで会話をする癖は普段と変わらなかったがそれでも上下する肩はもう暫く止められそうもなく悪態をつけば、両の違う色の瞳を細めコルセスカも彼女らに背中を預けると聖なる結界を張って、不安げな言葉を紡ぐ。
生きているからこそ疲労は常に蓄積する一行と、それとは正反対に死体の群れはただ動くものを狩ろうと奔走。
「出来ない、じゃなくてやるの。弱気になったら負けだよ」
「‥‥ユーウェイン殿、流石に皆疲弊して来ている」
「そうですね」
それでもコルセスカを優しく励ますレムリィに、その姿を見て常に己を崩さず柾鷹は離れて戦うユーウェインに告げると
「遺跡まではまだ‥‥遠いですね。近付かなければならない以上、今は引きましょう。遺跡にある何かを守る為に動いているのだとしたら、恐らくは大丈夫な筈。皆さん、今は一度引きましょう!」
円卓の騎士がユーウェインとは言え、太刀筋に誤りはなくとも流石にその声音に疲労は隠せず周囲の状況から次に取るべき行動を判断し、一行へ呼び掛けると後方からの支援を受けながら追い縋る群れを傍目に、一行は一度目の後退をした。
‥‥まだ遺跡周辺を覆う、重き雲は晴れそうにもない。
●Tuning Fork Of Death
そして三日目の太陽が昇る。
前進と後退を繰り返しているにも拘らず、何故か遺跡近辺から離れようとしない亡霊の群れに一行は現地に着いた時にあったエルフが魔術師の提案から交代しながら休息を取り、僅かずつ野営を動かせば遺跡周辺まで後僅かな距離にまで迫っていた‥‥。
「‥‥」
レムリィがグウィドルウィンの壷に保存していた紅茶を簡素なカップに注ぎ、皆に差し出すその中でノースは一人、バックパックの中をまさぐるも既に保存食はない。
分かってはいる、いるのだがそれ故に諦め切れない‥‥そんな思いからかあえて逆さにはせずバックパックの中をひたすら掻き回す神聖騎士。
「‥‥彼女の言う事を聞いておいて良かった」
その光景にやれやれと頭を振るユーウェインは、傍らにある自身のバックパックから数個の保存食を取り出すと
「さて、それなりに細かく書いて貰ったつもりなんだけど依頼書はちゃんと読んでいるかい? この調子では読んでいない人がいるみたいだけどね、もう少し依頼書をしっかり読んで状況を考えてご覧」
優しい声音だが、その表情は厳しく彼女を視界に入れると再び口を開き
「お腹が空いたままで戦えるかい? 普段は身の回りにあって気にも留めない些細な物だからこそこういった場面では一番食料が重要なんだ。それは肝に銘じて貰いたいな、二人だけじゃなく皆もね」
「‥‥済まない」
紡げば反省するその姿に笑顔を浮かべると、必要分だけ保存食を差し出し
「けれどこれ切りだからね、次はないよ。それとお金も貰う、私だって生きる為に必要だからね」
しっかり釘を刺す円卓の騎士に返す言葉なく、ノースは己が情けなさから半泣きになりながら財布の口を開くのだった。
ちなみに同じ頃、馬車で走るツウィクセルも残り二個の保存食に愕然としていた事を付け加えておこう。
「忘れちゃダメだよ」
「‥‥分かった、気に留めておく」
少し怒っては叱咤する藍那に頭を下げるツウィクセルの姿があったとか、なかったとか。
遺跡ももう間近、一行は気力を奮い起こして今日も戦いに挑む。
「悪いが、油断はしない。元が騎士だったとしてもな‥‥今、楽にしてやるよ」
「ちぇすとぉぉぉー!!」
鎧を纏いし骸骨に、シーヴァスが一撃は僅かにそれを宙に浮かせると続く攻撃に重きを置く如月の烈風の如き突きが頭蓋を貫けば、胴より離れたその首を捨て
「次は何処だ、亡霊め‥‥幾ら沸いて出ようと、斬って捨てるまで!!」
高らかに叫び注意を自らに惹き付けようとするも、もう死霊の数は僅かで余り効果はなさそうだった。
「やれやれ、やっと終わりそうか?」
「‥‥まだです」
その光景に少し安堵してか、いつもの口調に戻るシーヴァスに空に浮かぶ雲とは正反対な白き髪を揺らしてコルセスカは何かを感じてだろう、厳しい表情を湛え言うと
「確かにな、少しレイスも残っているしもう一踏ん張りか」
気を緩めずに再びホーリーフィールドを張っては恐れず、銀の短剣を掲げレイスに駆ける彼女の姿を見て、改めて気を引き締めるシーヴァスだったがそんな彼の視界が片隅に草原を早く駆ける者がいた。
距離は彼らから離れている、しかしそれは間違いなくアリシアを目指し駆けていた。
「いけないっ! 皆さん、あれを!」
それが何か気付いた円卓の騎士は叫ぶと、手隙な者に呼び掛けて真直ぐにそれを追い始めた。
「どうしたんだ、ユーウェイン卿。そんなに慌てて」
その声にウォルが早く反応し併走しながら尋ねると、彼は静かにその名を紡ぐ。
「‥‥グールです」
「骸骨は無視! 次!」
前衛と僅か離れ、今日も高みから光の如き銀の矢を打ち下ろす射手。
それなりに疲弊しているもアリシアの変わらぬ声音が響けば、以前ほど移動を繰り返す事無く確実に皆の支援を行っていた矢先だった。
「ちょっと、何‥‥止まらないっ」
視界に飛び込んで来た早く動く物体に気付けばアリシアは矢を射掛けるも、幾本の矢に貫かれてもその俊敏な動きは止まらず駆けて来るが
「こっちだぜ!」
背後を貫かれた衝撃に振り返るグールの視界に入るのはいち早く駆けつけたシーヴァス、持っていた銀の短剣を稚拙な腕前ながらも命中させるとグールと対峙し、額に僅か冷や汗を流す。
「‥‥くそ、向こうは余裕かよ」
棒立ちのまま、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている様なグールの表情に悪態をついて、力量差から感じる重圧を和らげると次の瞬間に双方は相打つ。
「うぉおおおぉっ!」
「GoAaaa!」
斬撃を浴びせるもお互いの一撃に地に膝を突いたのはシーヴァス、その機を逃さずグールは飛び掛るもギリギリでその場面に駆けつけたユーウェインの盾が前にそれは防がれると、続くウォルと柾鷹の連撃に飛び退り、再び様子を伺い始める。
「シーヴァス殿、下がって下さい。後は私達が」
「ちっ‥‥」
「気にするなよ‥‥さて」
大事を見て円卓の騎士がシーヴァスに指示をすれば、彼もそれを察し舌打ちしながら下がるとウォルはグールを見据えたまま、どうしたものかと逡巡するが
「‥‥少なからず手傷を被っている以上、数の優位のまま押し切るのが無難か」
隣に佇む騎士の影響からか判断早く呟けば、特に言葉を交わす事無く即座に行動を開始した。
「喰らえよっ!」
ウォルの闘気の弾丸がその足を抉り、縫い止めれば
「これでっ」
「‥‥忝い」
その隙に一気に詰めるユーウェインがフェイント気味な一刃に惑わされれば、侍が止まる事無く二刀立て続けに振るうと、僅かに逸れたがグールの右肩から先を深く撫で斬り飛ばすも、しかし
「なっ、逃げるなよ!」
相手も不利を悟ってだろう、素早く踵を返しウォルの叫びに背後から来る弓や魔法を気にも留めず近くにある村の方向へ駆け出した。
「くっ‥‥このままでは」
遅れて駆け出す柾鷹だったが、足を抉り取られているにも拘らず速いグールの足に追い付けないと悟るも
「再び、冥府魔道へと堕ちるがいい‥‥」
感情が抜け落ちた、静かな声音を辺りに響けば次の瞬間にはグールの頭部を一本の眩しき矢が貫いていた。
「とりあえず、間に合った様だな」
その一撃でグールはその動きを止め、矢が放たれた木の向こうから村まで駆けていた健武が姿を現すのだった。
皆の元へ帰りがてら、僅かな死霊の群れを退治した彼はいささかくたびれて‥‥だが窮地を救えた事に安堵すると駆け寄って来た皆の元へ吉報を知らせる。
「村は無事だった。此処に戻る途中で数体の死体と戦ったが問題ないだろう、入れ違いで騎士達が向かって行った」
しかし雲は重く立ち込めたまま、この時点でまだ今回の大元を断っていない為だろう。
「‥‥何かの試練だと言うのですか?」
気を緩める事無く打ち漏らしがないか遺跡周辺の散策を始めた一行の中、その黒い空を見上げては円卓の騎士はそう思わずにはいられなかった。
●You Swear Meeting Again
「‥‥随分と大きな遺跡だね」
「そうですね、歴史については疎いのですがそんな私でも知っている、名のある遺跡ですから」
あれから無事に藍那も一行と合流すれば、再開される死霊の捜索。
そんな彼女はユーウェインの隣で、間近に聳える遺跡を見上げ感心しきり。
「この遺跡に何があるのでしょう?」
「さて、なんだろう。少なくとも他の冒険者達が入っていった事から何かしらあるのだろうけど‥‥」
「ひとまず野営に戻りませんか? 皆さんをお待たせさせるのも申し訳ありませんし」
「そうだな」
雲の隙間から僅かに見える太陽の位置に、集合の時間だと言われ藍那を伴って野営地まで引き返そうとするも
「‥‥? これ、なんだろう?」
彼の後に続こうとした彼女だったが、ふと視界に入った何かの文様が刻まれる石版の欠片らしきものを見つけ、それを拾えば
「どうしました? 置いていきますよ」
「あ、ちょっと待って下さい!」
冗談めかしたユーウェインの呼び掛けに慌てると、急ぎ駆け出す彼女だった。
「で、遺跡の中に入って見た訳だけど‥‥何もなさそう」
「一本道で、辺りが余りにも殺風景過ぎる」
「‥‥外れでしたかね?」
アリシアと健武の詰まらなそうな声音に、参ったと苦笑を浮かべては提案者であるユーウェインが軽く頭を掻いていた。
‥‥あれから情報を交換する一行、新たな敵を発見した者はいなかったがその代わりにアルヴィンから一つの報告を受ける。
「メイドンカースル遺跡と言ったか、どうやらまだ誰も出入りしていない入口を見つけたのだが」
その報告にふむと唸る円卓の騎士、だが相変わらずの即断で彼は
「少し、遺跡の内部も見ておきたい。誰か手伝って貰える人はいるかな?」
有志を募れば、自称トレジャーハンターと言うアリシアと遺跡に興味を覚えていたのか、協力を申し出た健武を連れ立って遺跡内部に入るも、この有様。
「アンデッドが待ち伏せているより全然ましだけど‥‥つまんない!」
「どうやら奥に着いた様だ」
静かな回廊に響くアリシアの不平不満と同時、忍が最奥に着いたと告げれば三人は一様にうなだれる。
それもその筈、歩いてから然程時間が経たずに終点では‥‥だが、そんな三人の目に一つの石版が映る。
「読めんな」
「右に同じく〜」
それを見ては健武とアリシア、共に両手を上げ降参すると円卓の騎士がそれを手に取る。
「‥‥‥」
「ねぇ、読めるの?」
「‥‥‥私が読めたら苦労はしないよ」
「ならば、意味ありげな行動を取るな」
「いや、ついね。だけどこれは持って帰る必要がありそうかな、今後の為に必要なものかも知れない」
相変わらず無愛想な健武の突っ込みにユーウェインは微笑むも、その石版に何かを感じて回収すれば、それ以外の収穫がない事を悟ると早々に来た道を引き返す二人を追い駆けるのだった。
「‥‥貴方を見て、少しだけ貴族に対する考え方を改める気になったよ」
そして謎の石版に幾つかの欠片を回収した一行と円卓の騎士、あれからも死霊の群れを捜索出来る範囲で探し出すもいなくなった事を確認すれば無事にキャメロットまで戻って来た。
「まぁ貴族と一口に言っても人それぞれだからね。それに大抵、誰しも嫌いな人だっているでしょうから余り気にする必要はないんじゃないかな?」
(「差別は嫌いだが、上辺だけで判断して差別していたのは俺の方かもな‥‥」)
ユーウェインと会話を幾度か交わし、感じた事をツウィクセルが口にすれば彼は優しくその肩に手を置くと自身を改めて振り返るが、それを表に出さない様
「それと悪かった、冒険者とは何か‥‥もう一度振り返ってみる事にするよ」
「そうだな、もう少し自身を戒める事にしよう。気を遣わせてしまい、本当に申し訳ない」
「何、君達のおかげで助かったんだ。こちらこそ余計なお世話だったかもと思って冷や冷やしていたよ」
保存食の件について後で迷惑を掛けた事を思い出し、エルフの射手が反省すればノースも同様に詫びるが、彼こそ頭を下げて皆を慌てさせるのだった。
「‥‥さ、ここでお別れだ。本当に今回は助かったよ、それじゃあ」
「その時はこっちこそ宜しくね、ユーウェイン!」
「今度会う時があれば、もっと役に立って見せる」
「ユーウェイン卿も頑張れよ、また会える日を楽しみにしているぜ」
だがやがて冒険者ギルドの前に辿り着いては円卓の騎士、一行へ礼を告げ馬に跨ればレムリィ、如月、ウォルの言葉を背に受けると振り返り‥‥最後に一言だけ声を張り上げて約束した。
「あぁ。必ず‥‥また会おう!」
〜Fin〜