【何でもござれ】女らしく?
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月21日〜05月28日
リプレイ公開日:2005年05月30日
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●オープニング
「ややや、やめて下さいセルアン様ー!」
「いやよいやよも好きの内じゃー!」
シェザース家は今日も平和、今の時期は仕事もなく落ち着いた日々なので最近はいつもの様にロディ君を女装させようとセルアンさん、奮戦。
だがしかし、今日の抵抗はちょっと激しい。
止むを得ず先に折れたセルアンさんは、肩で荒く息をするロディ君を見つめ
「何が不満?」
素っ頓狂の事を聞いてみたりする。
「女装が不満です!」
そりゃ尤も、女装が好きじゃない人が女装させられるなら当然である。
「でも、君の親の代から続いていた事だし‥‥犬に噛まれたと思って諦めて、ね?」
「諦められるかぁっ!」
「むー」
いくらなんでもそれは無茶苦茶な話で、当然の事ながらロディ君は叫ぶと途端にセルアンさんは唸りながらもやがて意気消沈。
「分かったわ‥‥少し、考えてみる。時間を頂戴‥‥」
今までにない反応の彼女に、戸惑うロディ君はなんと声を掛けようか逡巡すればその間に彼女は彼だけを部屋に残し、去って行くのだった。
「‥‥セルアン様」
小さく呟くも次に紡いだ言葉は
「今考える位なら、もう少し早く考えて頂いても‥‥」
愚痴だったりするのは彼だけのヒ・ミ・ツ。
「後、せめてもう少しだけでも真面目に‥‥」
これは彼の本音で、昔からシェザース家に仕えているからこそロディ君は彼なりにシェザース家の事を案じ、その流れを変えたいと思っているのでありました。
「‥‥そんな事で、ロディ君を女装好きにさせたいのよ」
「その話から、どうしてそんな方向に」
落ち込んだセルアンさん、次にやって来た場所は冒険者ギルドでした。
着けば即座に今までの事情を掻い摘んで受付嬢に話しては依頼として頼んでみました。
勿論ですが彼女は少し呆れ、突っ込んでみるのでしたが
「愛が足りなかったのよ、私の。だからあんなに一人で悩んで‥‥そんな彼に皆さんの力で愛を!」
「‥‥‥」
「‥‥分かっているんだけどね、でも昔からのうちの流儀だから彼にも少し、理解して欲しいのよ」
どうにもちぐはぐな彼女の様子に、受付嬢も悩むと
「分かりました、引き受けます」
「ありがとー! それじゃ、よろしくね♪」
その答えに到達するとセルアンさん、報酬を置いては笑顔を浮かべ軽やかに冒険者ギルドを去っていくのでした‥‥。
後日、冒険者ギルドに張り出された依頼書は以下の通り。
「どちらからか、歩み寄れば解決なんだろうけどね‥‥これがそのきっかけ作りになればいいんだけど」
そして受付嬢は溜息を一つ漏らしましたとさ。
さて、今回の依頼は果たしてどうなる事か。
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ミッション:ロディ君をセルアンさん好みに仕立て上げよう?
成功条件:???(完全成功)
達成条件:ロディ君が女装を受け入れる事(通常成功)
失敗条件:ロディ君が以前と『何も』変わらなかった場合(失敗)
必須道具類:依頼期間中の食事はセルアンさんが提供しますので準備は不要です。
その他、必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
その他:‥‥何を書けと?
まぁ、無理強いは一番良くないですよね。
二人の心情を察しつつも、何とかいい方向に導ける様‥‥頑張って下さいね。
ちなみに皆さんがセルアンさんのお屋敷に入って行動を取る場合は彼女もフォローするとは思いますが、どう言った理由でお屋敷にいるのか言い訳等考えて置いて下さい。
またお屋敷内部の行動ですが、セルアンさんからしてあれなので礼儀とかには余りうるさくないけれど、それなりに気をつけて振舞って下さいね。
――――――――――――――――――――
●リプレイ本文
「レイヴァントをやっているシロウです、ごきげんよう」
「やっているって‥‥随分と面白い事言うのね」
「そうか? まぁ依頼は堅実かつ真面目に取り組むつもりだ」
事前の打ち合わせも必要だと思ってか、依頼人であるセルアン・シェザースの提案でとある酒場に集う一行と彼女はレイヴァント・シロウ(ea2207)の砕けた自己紹介に笑いながら
「えぇ、宜しくお願いするわ。依頼内容は改めて言う必要はないわよね? で屋敷に入る建前だけ、考えている人からは予め聞いておきたかったのだけど大丈夫よね」
皆を見回して頷くのを確認し、次いで何か思い出して微笑むと一言付け加えた。
「考えて来ていない人は‥‥勿論フォローするからね」
(「‥‥あの目ぇ見て、余りいい予感せーへんのは気のせいかな」)
にこやかな表情ながらも良からぬオーラを纏っている様なセルアンに、特徴的な話し方をするシーン・オーサカ(ea3777)はそう思わずにはいられなかった。
「はいはーい、セルアンさん。こんな事をしたいんですがどうでしょうかー」
だが彼女の考えは茶色い瞳でセルアンを見つめ話し掛けるハンナ・プラトー(ea0606)の発言に中断され、二人のやり取りを見守る。
「愉しそうね‥‥私としてもそれは願ったり叶ったり、必ずやる事を誓うわっ!」
「とりあえず、ロディが受け入れてくれたらにしましょう。でも女装‥‥ねぇ、受け入れてる自分が怖い様な」
そして話が終わったのだろう、やおら立ち上がれば拳を握るセルアンにキラ・ヴァルキュリア(ea0836)は手で銀髪を梳き依頼人を諭すも自嘲めいた笑みを浮かべれば、初めて依頼を受けるアトス・セムトラック(eb2451)は不安を表情の一端に覗かせるのだった。
「‥‥大丈夫でしょうか?」
「楽師として暫くの間、こちらに滞在させて貰うリゼルです」
「宜しくお願いしますね」
「こちらこそ、可愛い楽師さん方♪ ゆっくりして行ってね」
そしてその日の内に一行は時間を分けて彼女の屋敷を来訪すれば、最後の楽師組であるリゼル・シーハート(ea0787)とカノン・レイウイング(ea6284)の挨拶に当主も初めて会ったかの様に振舞うが
「お久し振りっ、セルアンさん。さぁ、楽しんでいこー!」
唯一ロディ君にも面識のあるハンナの笑顔にはしっかり笑顔で返し、当主の傍らに佇む彼へ客室の案内を命じる。
「しかし今日は来訪される方が多いですね、しかも当分の間ご滞在‥‥何かお考えで?」
「ん、まぁね。近くなったら相談するわ」
そりゃ一日に八人も屋敷を訪ね、暫く滞在するとなれば気になるのも当然な執事候補の質問に、彼女の答えでひとまずは納得すると三人の案内を勤めるロディ。
「いつもそんな調子なのですか?」
その後姿を見送るセルアンに声を掛ける、彼女の家庭教師を勤める手筈のアリシア・ハウゼン(ea0668)。
「んまぁ、そうと言えばそうね」
「‥‥もう少し、素直になれば宜しいのに」
「聞こえなかったけど、何か?」
否定せずその問いに頷く彼女へ麗しき魔術師が囁けば、尋ね返して来たセルアンへ
「少しお話でも如何でしょうか?」
別の、ある意味肝心な事を知る為に彼女は一つ微笑んで当主を誘った。
「何でまた、女装なんてナイスな習慣が始まったの?」
『‥‥そうそう』
いつでもどこでもリュートベイルを離さないハンナが奏でる音色の中、暫しは雑談に興じるセルアンらだったが、いきなりさらりと尋ねる女騎士の発言に居合わす皆は慌てるも肝心な事だけに結局頷けば、当の本人は皆の視線を受けながら
「立派な執事たるもの、女装が似合わければならないって口伝が当家にあるのよ」
『‥‥』
一同絶句、女装が似合えばこの家では立派な執事らしいと言う彼女の言葉に‥‥だがシーンはそこから核心に迫るべく口を開く。
「ま、まぁ口伝やら伝統っちゅーのを大事にされるのは貴族はんとしては当然やとは思います。でもジーザス教全盛の今の世じゃ、女装や男装は凝り過ぎてるとあらぬ疑いをかけられる事にもなりかねへんかと。先々においてカマな変態にロディはんが狙われるよーな事もあるかも知れまへんし、程々に留めておいた方がエエんとちゃいますか?」
「うっ、私以外の人に玩具にされるロディ君‥‥それは困るわ。彼を玩具にして遊んでいる様に見えるだろうけど仕事も一番に出来るから、口伝の通りに彼の事を鍛えているだけなのに」
(言葉こそあれだが)意外にも真面目に答える依頼人に皆は唸るが彼女の気持ちを何となく察すると、やおら立ち上がるレイヴァント。
「にしても、もう少し真面目に振舞ってはどうか? 少なくとも仕えている者達の目からも微妙に映っているらしいぞ」
「ガーン! こんなに真面目にやっているのに?!」
「女装して遊んでいる光景の方が皆さんに多く見られているからではないでしょうか」
一人早々と屋敷に来ては彼女のアドバイザーと屋敷内部では新人である事を建前に、様々な人から話を聞いていた彼の言葉に衝撃を受けるセルアンだったが、それを気にせずアリシアも的を射た発言をして依頼人、轟沈。
「セルアン嬢も屋敷内で少し貴族らしい振る舞いをして見せるべきだと思う、そう言う訳で早速やる事にしようか」
「うっ‥‥とんだ藪蛇だったわ」
「頼まれた事はしっかりやるから、セルアンさんも頑張ってね〜」
そしてセルアンを伴い退室するレイヴァントらの背中を見送りながらハンナは、当初の約束だけ改めて交わせば弦を軽く弾いてまずは一曲目を弾き終えるのだった。
「私もお嬢様に良く男装させられるんですけど、やっぱり抵抗ありますよね‥‥」
さて、その一方のロディ君はと言えば主人の命により『花嫁修業を兼ねた、行儀見習いのメイドさん』として、早速セルアンに女装させられているアトスに屋敷内の案内をしていた。
セルアン曰く
『女装して欲しい、って顔に書いていたから』
だとか‥‥それはまぁさて置き、アトスは彼の考えを知ろうと身の上話(勿論嘘である)を紡げば、存外あっさりと彼は思いの丈を紡ぎ出す。
「ですよね。私もセルアン様を頑張って支えようとしているのですが‥‥女装癖は変わらなくて」
「そう言えばロディさんは女装について、どう思っているんですか?」
「まぁ好きにはなれませんよ。そもそもどうして私が一番に女装させられるのか分かりませんし」
どうやらセルアンの事情を知らないロディ君に、同じ状況のアトスも詰まるが
「でも、流石に外を歩くのは嫌ですけど『お屋敷の中だけ』なら誰も見ていませんし、それで少しでも役に立てるならその程度の事は、って最近思う様になって来たんです」
「‥‥それは考えなかったですね、でも確かにそう言う考え方も」
予め考えていた事を口にすると、生真面目な性分からロディはそう答え考え込む。
「私達は何をすべきなのでしょうね?」
そしてアトスは最後に意味深な問い掛けをすれば、足音だけが響く世界でロディは彼の女性にしてはやや太い二の腕に未だ気付く事無く、その答えを模索し始めた。
そして日は着実に過ぎて行くと、とりあえずの事情が分かった一行はロディを説き伏せようと翌日から早速励み始めた。
「ロディ、女装ってそんなに嫌なものじゃないのよ?」
「確かに格好を真似るだけなら一朝一夕で済むが、そこに女性らしい立ち居振る舞いを加えるとしたら大事だ。男が急に女の動きをしてもボロがぼろぼろに出るよ? 男女の仕草・行動・思考・嗜好の差はそれ程に深く大きい」
キラやレイヴァントは迷う事無く、だが女装の真理(?)について熱く語れば
「一度でもご自分が女装をなさっている姿を銅鏡で見た事がありますか? きっと女装について、考え方が変わると思いますよ」
自身の弟に女装をさせ、泣いては暫く口を利いてくれなかった弟の顔を思い出しつつそれとロディを重ね、伝えたかった事を真っ直ぐにぶつける者がおり
「セルアンはんにきっちりとした礼儀作法を教える為には、女装してた方がやり易いと思うで。別に心まで女になれなんちゅー事は言わへん、つまり女のヒトはどーゆートコに気をつけるべきだとか、改めて視点を変えて考える参考にするって事で‥‥どうや?」
「‥‥どうや、と言われても‥‥」
かたや女装についての考え方を変えようとシーンが諭すも、中々にロディ君も頑固で悩みこそすれ自らの意志を簡単に曲げようとはしなかったが‥‥それでも彼の中で確かに僅かに、考え方が変わりつつあった。
そんなとある日。
今後セルアンの見聞を広げる為にだろう、彼女の私室にてゲルマン語を教えるアリシアにちょっとした気分転換を兼ねてリゼルが曲を奏でる中へ、三人にお茶を持って来たロディが部屋を訪ねれば
「ロディはセルアンに何をしてあげたいんだ?」
「‥‥先代の様に立派な人になって貰う為、困った時には支えて」
「なら女装、と言うのも彼女を支える一環ではないかな? セルアンだって君の見ていない所でも頑張っている、けれどいつもその調子なら誰だって倒れる。それを未然に防ぎ、彼女を支えているのは君の女装では?」
「それとロディ君、執事だからその様に扱われなければいけないと思っていませんか?」
からかう事が好きな楽師にしては珍しく、彼が部屋に来た事を境にいきなりではあったが真面目な口調に表情で問えば、続くアリシアに返答が詰まるロディだったが
「セルアンさんも、言わなければ分からない事がありますよ」
「でも、ねぇ‥‥」
今は教え子であるセルアンにも優しく呼び掛けるが、言い淀むその姿にリゼルは溜息をついてロディは知らないだろう、彼女が女装をさせる本当の理由を語り出した。
「言ったら詰まらないじゃない、それにロディにだけ目をかけているみたいで‥‥そう言うえこひいきみたいなの、嫌いなのよ」
「‥‥だそうですよ」
やがて話し終ると沈黙する空間の中でボソリと呟く当主の、初めて執事候補に向け紡がれる真実に、思いも寄らず立ち尽くすロディだったが何かに躊躇う彼の背中を押す様にアリシアが微笑めば
「なら、私がすべき事は‥‥」
アトスが投げ掛けた先の問いを思い出すとその答えを逡巡しながらも今、紡いだ‥‥。
最終日、ハンナの提案はロディ君が女装を(一応)受け入れた事で決行されていた‥‥ちなみにその提案とは、身なりだけだが性別逆転な仮装パーティ。
レイヴァントの教え(?)もあって、友人知人も巻き込めば結構な人数が集まったのはご愛嬌‥‥まぁセルアンもこれにはとてもやる気だったので当然と言えば当然か。
「うんうん、もう必要十分で綺麗だよ。迷わず進むって大切だね」
「全く全く」
「‥‥いやでもやっぱり複雑です」
と言う事で、無難な礼服を身に纏うハンナとセルアンが見守る中でやっと真打登場のロディ君。
まだ多少いやいやそうな複雑な表情を浮かべながらも、先日ノッテンガムから仕入れたレースだらけのドレスを着込むその姿に二人は満足げに頷く。
「キラ君――やらない‥‥か?」
その傍ら、レイヴァントはその光景に微笑を浮かべながらも先程やっと見付けたキラが何処かの部屋に駆け込んで行くのを見掛け追えば、部屋の外から誘う様な声を掛けると同時に現れた彼の姿を見て思わず語尾が掠れる。
「‥‥にゃ、にゃん‥‥」
実はもう三度目の女装だったりするキラの、獣耳のヘアバンドに巫女装束を舞わせながら頬を赤らめるその御姿に、自身がまだ女装していない事を忘れる程の衝撃を受ければ
「貴方もうちの執事になる?」
そんなキラの奮戦振りにいつの間にか近くに佇んでいたセルアンがそっと彼の肩を叩けば、そう声を掛けて来るのだった。
「これはジャパンの十二単と言う着物なんですよ。とても綺麗で気に入ってます♪」
「ジャパンの服は独特ですね、センスもいいし」
「巫女装束で良ければロディはんも着てみる? でも貴重な物やからしっかり返してな〜」
「う、うーん‥‥」
「まぁいきなりこれは派手かも知れませんね、それでしたらこちらなど」
談笑やら踊りやら続く中、やっと最後の衣装に着替えたキラの十二単を見て感嘆するも他の女性陣同様に礼服で身を固め、笑顔で巫女装束を取り出すシーンの誘いにはやはりまだ苦笑を浮かべ逡巡するロディ君を庇う、麗しい吟遊詩人宜しくなアリシアは別な服を勧める。
「良い歌が出来そうですね」
その場の光景だけを見回せば何とも珍妙な感じであるが、どことなく暖かい場の雰囲気からカノンが微笑み呟けば隣でもう何曲弾いた事か、ハンナの曲が鳴り止むと間断なく自身の竪琴に今の気持ちを乗せ奏で始め、セルアンから借りた派手派手しいドレスを纏うリゼルも同じ想いを抱いてだろう美しい声音を響かせてはシーンと視線を合わせ、やがて二人の声は歌となり交じり合うのだった。
貴方にはいつも輝いていて欲しい、でも自分が出来る事とはなんだろう?
私が出来る事なら出来得る限りの事をしてあげたい。
貴方がそう望むなら、貴方が私を必要とするなら、貴方が私の希望になるなら‥‥私は貴方を照らす灯火になろう。
‥‥ちょっと場の雰囲気にそぐわぬ歌詞の様な気はするが、まぁロディ君も女装をある程度受け入れ、セルアンも上機嫌とあれば問題なしである。
何はともあれ、めでたしめでたし‥‥かな?