【人の想い】一通の手紙
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや易
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月30日〜06月04日
リプレイ公開日:2005年06月08日
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●オープニング
「あの‥‥すいません」
キャメロットの港を管理する多忙な筈のアシュレイ・ゼルガードは珍しく、別な街の港に来ては現場の様子を見ていると誰かに呼び止められ振り返れば、顔馴染みな商家の女性が佇んでおり彼は恭しく一礼する。
「これはこれは、お嬢様がこの様な所にどう言ったご用件で」
「‥‥実はお願いしたい事がありまして」
礼儀正しく挨拶を交わせば、彼女は遠慮しがちに一枚の丸められた羊皮紙を差し出した。
「これは?」
「キャメロットから少し離れた村で働いている‥‥恋人への手紙です。シフール便で出しても良かったのですが、いつもお世話になっているアシュレイ様が丁度お越しになっているとお話を聞きまして、直接お渡し願えないかと思って」
「なるほど‥‥構いませんよ。手紙を届けるだけであれば仕事の合間を縫ってでも行けるでしょう。こちらも貴女のお父様にはお世話になっていますし、これ位であればお引き受け致しますよ」
手紙について、やんわりと尋ねれば彼女の答えに深く詮索する事なくナイスミドルは笑顔を浮かべると、その手紙を受け取った。
「‥‥しかし随分と厳重ですね、蝋で封をしているとは」
「信用してはいるのですが、一応」
手渡されたそれを改めて見れば、装飾も多少ではあったが凝っており彼の記憶の片隅でそれが何か引っ掛かったが‥‥彼女の答えにとりあえずは納得するアシュレイ。
「分かりました。封を開ける事無く、この宛名の方に届ければいいんですね?」
そして最後の質問をする船長に彼女、恥ずかしそうに頬を赤らめては小さく頷くのだった。
‥‥この時にしてみれば、もう少し確認をしておけば良かった事を彼は暫くしてから知る事になる‥‥。
「あれを知らないか?」
「あれ、と言いますと‥‥」
アシュレイが船で港を発ってから暫く、彼女が家に戻れば父親から何事か尋ねられ小首を傾げると
「仕事用の羊皮紙と送付用の封やら装飾やらなんだが」
「‥‥‥あ!」
言われて思い出し、声を上げればそんな彼女の様子に父親は嘆息を一つ。
「あれは仕事で重要な話を認め送る時に使うもので、それを私用で使われると非常にまずい‥‥最近唯でさえ別の商家の動きも活発になって来ており、お前は私用のつもりで何かを認めたとしても向こうはそう受け取ってくれんだろうな」
「でも仕事の手紙であれば厳重に送っている筈ですし、それの形を見ただけで重要な書類だと判別は」
「昔は友でも、今は敵の所もある。あの形の文書はもう既に知られているだろう。こちらとしてもそれは把握しているから、そろそろ変えようと思っていた所だったのだが‥‥」
そう言っては父親、頭を垂れる彼女に今回こそはしっかり戒めようと一呼吸置いてから再び言葉を紡ぎ出した。
「とにかく、あれが出たとなれば必死になってそれを奪おうとする筈だ、最近はそう言った監視の目も厳しいから恐らく‥‥もうばれているだろう」
「‥‥私のお手紙が‥‥」
「やれやれ、どうやらキャメロットまで出向かなければならなくなった様だな」
言い終わり彼女を見やれば手紙を託したアシュレイより手紙自体を心配している様子に、父親は頭を掻いて呟くと外出の準備をすべく自室へと向かうのだった。
そしてアシュレイがキャメロットに着いてから、依頼人の父親が予知した通りの事象が彼の身に降り注いでいた。
‥‥彼自身の仕事場まで時折ではあったがやって来る襲撃者を撃退しつつその事に思い至ると、多忙を極める自身のスケジュールから直接届ける事が出来ないと悟れば久々に冒険者ギルドへ顔を出し、依頼として持ち込むのだった。
「少し、釈然としないけれどこの手紙を奪われず、破かれず、封を開ける事無く外に書かれている宛名の者の元へと届けて貰えないだろうか」
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ミッション:手紙を届けろ!
成功条件:無事に手紙を届ける。(完全成功)
達成条件:読める状態で手紙を届ける。(通常成功)
失敗条件:破かれる、奪われる等して手紙を届けられなかった場合。(完全失敗)
必須道具類:期間中の保存食は忘れずに。
その他、必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
その他:アシュレイさん、この件に関して気にはなっている様ですが他の仕事が山積みなので今回は同行する事が出来ないそうです。
手紙は蝋で封をしています、元の依頼人の方から開けない様に承っているそうなのでくれぐれも開けない様に。
街中でもアシュレイさんが襲われた位なのでキャメロットから出ればきっと、様々な手を使ってその手紙を奪いに来ると思いますので管理には十分気を付けて下さい。
襲撃者についての対応は任せますが、相手の勘違いもありますのでくれぐれもやり過ぎない様に、お願いします。
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●リプレイ本文
●
ここは冒険者ギルド、出発を前に一行は今回の依頼人であるキャメロットの港を統べる船長の、アシュレイ・ゼルガードと邂逅していた。
「初めまして、アリッサ・クーパーと申します。手紙は必ずお届け致しますのでご安心下さい」
「こちらこそ私が引き受けた仕事を皆に押し付ける様で非常に申し訳ない、宜しく頼むよ」
アリッサ・クーパー(ea5810)の挨拶に、その風貌に僅か似合わない笑顔を浮かべればそれをきっかけに皆も彼と言葉を、握手を交わす。
「それで申し訳ありませんが間違いがあると後々大変な事になると思いますので、今回の依頼について知っている事を詳しく教えて貰えないでしょうか?」
‥‥依頼書でざっと内容だけは理解していたがアシュレイの口から紡がれた、彼が予想する事の顛末にアリッサは
(「恋は盲目と言いましょうか、何と言いましょうか‥‥」)
営業用の笑顔を浮かべながらも内心、淡々とそんな想いを巡らせれば
「ほいほい、お手紙のお届けだね♪ 折角書いたんだから、無事にキシッとした状態で届けてあげないとね!」
「そうだな‥‥しかしその手紙は恋人宛のものなのか、羨まし‥‥ごほんごほん」
「早く素敵なお相手が現れると良いですね」
「はっ、何故それを!」
「私がお相手しましょうか?」
「あ、いや。いきなり言われるとだな‥‥」
改めて、やるべき事を口にするミリート・アーティア(ea6226)に頷いてはノース・ウィル(ea2269)、相変わらず本音を漏らせばロレッタ・カーヴィンス(ea2155)は自身にも諭すかの様に呟いて、続く彼女の(バレバレな)疑問に普段は実直なシン・バルナック(ea1450)が別な側面からそう問い掛けると、恋に焦がれる神聖騎士とは言えいきなり事態には流石に狼狽する。
「‥‥それで一番肝心な事なのですが、人相や特徴等、知っている事を教えて頂きたいのですが何かご存知でしょうか?」
(『スルーかよ』)
だがマイペースな神聖騎士は、ノースの問いには答える事無く一番に必要な情報をアシュレイに尋ねるとその場に居合わす皆が内心で突っ込んでいる事には気付かず、笑顔を浮かべれば先程から一人、静かに佇む受付嬢がいるカウンターの傍らで何事かしていた忍の葉隠紫辰(ea2438)はイギリス語で
『渡すべき相手だと判断するに足る情報はないだろうか?』
そう記した羊皮紙を彼の眼前に掲げ、次いで言葉を紡ぐ。
「警戒し過ぎかも知れんが、念には念を入れておかねばな‥‥」
だが、彼らの問い掛けに船長は困った様な表情を浮かべると
「それでその、この手紙を渡す相手なのだが‥‥済まない、この手紙に書いてある名前以外の事は正直分からないんだ。慌てていて聞くのを忘れてしまってね」
「‥‥目的地に着いたらその相手を探し出さなければならない、か」
真正直に答えを紡いで、表情を変える事無く紫辰は淡々とした調子で紡ぐ。
「済まないがアシュレイ、一度失礼させて貰う。用意しなければならない物があるので」
とりあえず一通りの情報を得た一行の中、アリオス・セディオン(ea4909)は手短に用件だけ伝えれば踵を返す直前で見た、アシュレイの笑顔に手を掲げて応えるとその場を後にした。
それから暫くして準備を終えた一行、ひとまず無事にキャメロットを出立する。
「報告、楽しみにしているよ」
「良い報告が出来る様、善処致す」
忙しいにも関わらず、一行を見送る船長に滋藤柾鷹(ea0858)は控えめだがその表情に決意を覗かせて誓えば一路、目的地を目指し歩き始めた。
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「む〜! しっつこ〜い!!」
目的の村へ人の目に触れる事無く無事に到達する為、街道の小脇にある森の獣道を進む一行だったがキャメロットを出て暫くすれば追っ手の影が待ちかねたとばかりに迫る。
「いい加減に諦めて貰えないのでしょうかね」
「ほんとほんと」
既に何度目かの追いかけっこに辟易してだろう、溜息を漏らし呟くシンは本物の手紙を守るミリートをいつでも庇える様、彼女の傍を駆けながら無邪気な笑顔と共に紡がれる賛同を得ると
(「‥‥彼女にこんな場面を見られたら半殺し、かな‥‥」)
変な意味はないのだが、ふと全力で彼女を守っている事に気付き今は何処にいるだろう自身の彼女へ想いを馳せ‥‥少し背筋が寒くなるのを押さえられなかったが
「急ごう、構うだけ時間の無駄だ」
紫辰の言葉で我に帰るとそれでもミリートを守る事を継続しつつ、森の中へ姿を消すのだった。
「しかし上手い事偽装しているなぁ、多分あの木の箱の中に手紙があるんだろ? ‥‥誰が本物を持っているのかさっぱり分からん」
今は森の中で静かに夜営をする一行を見守るかの様に襲撃者が一人、皆が皆持っている木箱を確認してボソリと漏らせば
「先の応酬から考えるに奴ら、俺達より腕が立ちそうな‥‥引きますか?」
「あれが目的のものだと分からず、それにまだ追い駆ける事しかしていないのにか? あり得ん、村も既に近い。先回りして‥‥仕掛ける」
また別な男が漏らす不安に首領格と思しき男が答えに彼らは従う他なく、立ち上がると‥‥何の変哲もないただの恋文を追い駆けている事に気付く事は無く、真面目に彼らは一行を待ち伏せる為にその先を目指し駆け始めた。
‥‥そしてその時は早々に来た。
初めてその面と面を突き合わせる、手紙を送り届けようとする一行と手紙を奪おうとする一行。
「これは娘御が恋人に宛てた手紙、故にお主等が狙う様な代物ではない。何かの勘違いでござろう? お引取り願えれば手出しはせぬが」
「そう言って引くと思うか? 得てして大事なもの程その様な言い訳で偽られる、我が主の為にもそれは必ず‥‥貰って行く!」
数こそ拮抗しているが、実力で劣るだろうと踏んでいる頭領格の男はそれでも柾鷹の提案を強気に蹴ると、侍の抜刀をきっかけに自身も剣を引き抜くが
「大事な想いを綴った手紙だからな、守らせて貰う」
「抜かせっ!」
「甘い事は十分に知っています、それでも私は‥‥!」
手紙を送り届ける一行が意思をノースが指し示すも臆せず彼は飛び掛るが、今はまだ迷いながらそれでも己が『守る為の剣』と言う信念を貫く為、一行の誰よりも前に立ちはだかる騎士に気圧され‥‥しかしながら、辛うじて剣を振り抜くのだった。
「これで仕舞い、だな」
柾鷹は静かに呟くと風切音と共に刀を鞘に収めると、戦いの終幕を早々に告げた。
潜伏こそ上手だったが腕っ節の方が並程度では一行に叶う筈もなし、様々な事情故に一行も命までは奪わず襲撃者達を拘束すれば
「と言う事で、皆様の勘違いなのですが。もし、もう私達を追い駆けないと約束して頂けるのであれば、怪我を癒しますが」
「騙されるか、必ずそれを奪うか‥‥若しくは‥‥」
「行きましょう、皆さん。後もう少しです」
頭領格の男へ冷たい表情とは裏腹の優しい声音で事情を説明しては問う白きクレリックに返って来た答えは、一度たりとも剣を抜く事がなかったシンを筆頭に一行を呆れさせる結果と相成った。
「く‥‥だが、これで終わりだと‥‥思うな」
やがて村を目指し駆け出す一行の後姿を見送りながら、まだ事実を受け入れない頑固な首領格の男は捨て台詞を吐くも体を蝕む鈍痛に気絶するのであった。
‥‥様々な想いのすれ違いは未だ続く。
●
村に入ってからも尚、周囲を警戒して止まない一行。
人はそう多くないものの、その中でも油断だけは決してしないと厳しい表情に書いては警戒する忍の瞳に、民家の屋根から盛大に水をぶっ掛けようと試みる男の姿が映る。
「危ない」
「はやぁ〜‥‥お手紙一つでこんなになっちゃうんだ。なんか大変だね‥‥」
直後に気付くも回避が間に合わない、本物の手紙を持っているミリートを水が掛からないであろう場所へ押し出すと彼女は尻餅をついて頭上から降って来た水に一人、その身を挺してずぶ濡れになる紫辰の姿に唖然とすれば
「他人事ではないんだがな」
憮然とした表情で返す紫辰へミリートは肩を少し竦め、次いで苦笑を返した。
村に入ってから本領を発揮する筈だった襲撃者達。
だが僅かに頭が悪く、ある意味分かり易い手段で手紙を強奪ないしは破棄しようと目論んだが
「その手は食わぬでござるよ」
予め船長から聞いていた襲撃の話から対策を立てていた事もあって尽く一行に看破されるとやがて諦めたのか、やがて影すら見なくなれば一行は人を選び尋ねていった結果より一人の男性の元へと辿り着くのだった。
「すいません、セシリアンヌ・レドックさんから貴方宛にお手紙を預かって来たのですが」
「‥‥? 人違いではないでしょうか、確かに私に愛すべき人はいますがその名前は‥‥」
唯一アシュレイから聞いていた依頼人の名前を少し変えて訪ねるロレッタに、それなりに整った顔立ちの青年が真実の名前を紡ぐと一行は手紙を渡すべき相手だと判断し、ミリートは持っていた手紙を託すのだった。
「はい、これっ。大事にしてあげてよね♪」
「あ、ありがとうございますっ! ここ最近手紙が来ていなかったので待ち遠しかったんですよ!」
そしてそれを受け取れば青年、嬉しそうに読み耽るその姿に皆はそれぞれ異なりながらも複雑な想いから一様に何とも言えぬ表情を浮かべると
「や、やっと追い着いたぞ‥‥」
一人になっても懲りずに追って来たのだろう、街道で逢い見えた首領格の男がくたびれながらもその場に姿を現せば、請け負った仕事が達せなかった事に地に膝をつくとうな垂れるが一行の中でアリオスはそれだけでは許さなかった。
「お前達が追っていた物を見せよう」
「!!!」
「無駄骨だった訳だが‥‥後もう少しだけ、付き合って貰おうか」
フェイクの木箱を目の前で放り捨てれば、小声で手紙を持つ彼の手からそれを拝借し僅かに手紙の内容を見せつけ何を追い駆けていたのか気付かせればアリオスは、蹲ったまま呆然とする男の両肩をがっしと掴み微笑むのだった。
と、様々な想いが錯綜したが無事に手紙は依頼人の依頼人が愛する者の元へ届き、これにてとりあえずこの依頼は万事解決、めでたしめでたし。
●後日談
「本当にこの度は申し訳なかった! ほら、お前も頭を下げなさい!」
「すいませんでしたー‥‥」
その後は何もなく、無事キャメロットに辿り着いた一行が報告の為に冒険者ギルドの扉をくぐれば、お出迎えの第一声は依頼人とその父の詫びだった。
「あ、いや。今となっては過ぎた事。そう気になさらずとも構わないが‥‥」
その剣幕にややたじろいで、だが柾鷹はいつもと変わらず落ち着き払って父親を宥めるとその言葉にやっと頭を上げれば
「そう言えば、大事な者より手紙を預かって来た」
「あ、ありがとう!」
ノースは託された手紙を依頼人に渡すと、先程の表情から一転して笑顔を浮かべれば彼女の妬ましげな視線に気付かず鼻歌を歌った時、扉が軋む音と同時に皆より少し遅れてアリオスが現れる。
「奴らの口から雇い主の名を聞き出して、多少なりとも損害を与えたかったんだがな‥‥」
捕らえた男達を騎士団に突き出してから暫く様子を伺っていたのだが、知りたかった事については全く語る事無く、頭領格の男から話を聞いていた騎士の一人が頭を横に振れば止むを得ず帰って来たのだった。
「何、ご苦労様。そこから先は私達の範疇外だ、気持ちだけできっと十分だよ‥‥そうですよね?」
暗い影を落として呟く彼に船長は励まし、友人の顔を見て笑えば彼は頷く他に術はなく頭を縦に振ると場にいる皆を見て一つの提案をするのだった。
「じゃあこれから食事にでも行きましょうか、私‥‥ではなく彼が持つでしょう。まだ日も高いけれど好きな者がいれば一緒に酒でも‥‥」
「お酒は止めて下さいね、アシュレイさん」
「‥‥そうだな、酒はやめてくれ」
だが即座に釘を刺す受付嬢と依頼人の父親に一行は何故、と首を傾げたが
「俺達より付き合いは長いだろうから‥‥そうする事にしよう」
「だね、じゃあ今日はお酒抜きで。でもいつか分かると思うからその日を楽しみにしてよっと♪」
静かに理由を明示し賛同する紫辰に頷いては、今後とも付き合いがあるだろう事を見越して、ミリートが皆を見回し微笑んで言うと誰よりも早く踵を返して冒険者ギルドを飛び出した。