●リプレイ本文
●宴の街
此処はノッテンガム、領主の計らいで祭りに招かれた一行が辿り着いた頃には既に宴が始まっており否応なく皆のテンションは上がるが、馬車は一路ノッテンガム城へと向かっていた。
「イエイ! 初めましてな人もお久し振りな人もヨロシク! では、早速一曲行ってみよー」
それでも流石に我慢し切れない者もおり、賑やかな街道を馬車が走る中でハンナ・プラトー(ea0606)はいの一番に叫んではリュートベイルの弦を弾き、この日の為に覚えて来た周囲の調子に合わせアップテンポな曲を披露するのだった。
「今が楽しけりゃ、まずはそれでいい! 日毎吹く風、違うのだから! 過去に未来を気にするなとは言わないけれど、まずは今が大事さっ!」
無事にノッテンガム城へ辿り着いた一行、ハンナの曲に予想以上の反響があった為にちょっと着くのが遅くなったは此処だけの話。
「今回はお招き頂きありがとうございます」
それはひとまず、領主のオーウェン・シュドゥルクと会す一行の中から一歩前に踏み出して正しくお手本とすべきクラリッサ・シュフィール(ea1180)の恭しい挨拶に場にいる皆が感心すれば、領主も同様に歓迎の意を込めて皆と握手を交わす。
「こちらこそ、最近色々と世話になっているから然程大きくはないが歓待させて貰った。滞在している間はぜひ、好きに楽しんで行って貰いたい」
「えぇ、お言葉に甘えさせて頂きます」
そして浮かべる彼女の笑顔に場の雰囲気が和むと、いつもの調子で談笑が始まる。
「レイさん、初めまして。ショコラ・フォンスと申します、妹からお話は聞いております。先日はお世話になったみたいで」
「いやなに、こちらこそ。違う意味で楽しかったぞ」
その中、何処でも此処でも皮の装備品尽くめなレイにショコラ・フォンス(ea4267)は来る事が出来なかった妹の代わりに彼へ先日の礼を言うと、彼も苦笑を浮かべ遠くを見やる。
「それとこれを、貴女の事を慕う少年から預かって来ました。お返事を欲しいと言っていたので良ければ‥‥」
「ふむ‥‥成程、彼か」
次いで彼の手から差し出された手紙を受け取り、宛名を見れば此処最近見ていなかった青年の名が連ねられているのを見て笑うと、早速封を開ける。
『親愛なるレイ殿、自分は今他の街で任務に当たっております。今度お会いになる頃には一回り大きくなって帰って来る所存です‥‥』
「‥‥手紙は普通なんだな」
「まだあの事を根に持っているのか? そう言う所も昔と変わらんな」
それを横から覗いては静かに呟く領主へ、苦笑を浮かべる懐刀には返す言葉なく椅子にどっかと身を委ねると
「そうだな‥‥折角だから手紙で返す事にしよう。とりあえず一言、『成長の程、楽しみにしている』と添えておいてくれ」
「分かりました」
「あ、それとこれもこれも!」
そのやり取りにシュヴァルツ・ヴァルト(eb0529)は幼い容姿に合った幼い口調で自身も手紙を預かって来た事を伝え、バタバタと取り出し彼に託す。
『レイさんへ、また遊んで下さいね。今度はきっと期待に応えてみせますからっ! 正義の画家より』
「ま、楽しみにしておこうか。それでは済まんが少しこっちに来てくれ、手紙等ここ数年書き認めた事がないからな‥‥一応内容の確認をして貰いたい」
(「‥‥ちょっと待て」)
そんな突っ込みがあったりするも、それは知らずにレイは一時退席する旨を皆に告げショコラとシュヴァルツを伴い、その場を後にすれば
「まぁなんだな‥‥色々ありはしたが皆には感謝している」
「まだこれからあるのだろう? 正確には」
退室する彼らを見ては呟く領主だったが、ユイス・イリュシオン(ea9356)は友人から聞いた断片的な話を元に彼に問い掛ける。
「‥‥初見の公にいきなりこの様な事を問うのは失礼かも知れんが、先日アシュドが襲撃された件について公の意見を聞きたい」
「ふむ、その件についてだが‥‥正直分からん。ゴーレムの力を危機視しての強行偵察だけ、と思いたい所だがな」
「状況をウォルフからも聞いたのだがどうもその件、組織立った者達の襲撃の様だな。然も相当手練れの集まりとみる‥‥それだけの者を有する組織について何か断片的でも情報はないものか? 場合によっては‥‥」
「それはない、奴らは此処をまず狙っている。目的を果たす為にな」
そして立て続けの質問は最後まで言わせず、だが何を言いたいのか察して答える領主は少しの間を置いて、口を開き始めた。
「‥‥まぁ分かる事だけ言えば、少数精鋭の組織‥‥過去から残る『ノッテンガムの暗部』が此処に眠るものを解放しようと考えているらしい。それが何か、それが本当の目的なのかまでは掴めていないが最近の行動は程度から察するに恐らく‥‥現状の把握」
「私達の力量等を含めて、だろうな」
『それ』に属する一人だろうと相見えた事がある叶朔夜(ea6769)の呟きにウォルフガングも頷けば
「アシュドを襲撃した際、あれ程の腕を持っていれば殺せた筈。それをせず、真意すら見せず‥‥単純にそう考えるのが妥当か」
「此処十数年、動きが無かった事から様々な力のバランスを見たかったのだろう。今後の動きを決める為に」
賛同するとオーウェンがそう付け加える、水を一口含む。
「『三つの色が動き出した時、逆らおうとするな。触れて無理に開こうものなら‥‥』と先代の領主から口伝を預かったが、過去の体面にでも拘っているのだろうか。それが指す真意の程は分からん、だがそう思えてならない」
「‥‥関する資料はないのですか?」
「鋭意捜索中、と言った所か。口伝はただそれだけ、記録に関しては何かしらあってもおかしくないものの、一切が未だ見付かっていない。だが隠すのであれば森の中だろうな」
誰かの問いに揶揄してだろう、そう推測して答える彼だったが
「‥‥だが過去に一度だけ、例外はあった。原因は分からないがシャーウッドの森が奥から徐々に廃れて行った時、流石にその当時の領主は騎士団の全力を持ってそれを阻止しようと動いた事があった。発端は分かり切ってはいたが、シャーウッドの森はノッテンガムの民にとっては聖地と等しい。故にそれだけは許せなかったのだろう‥‥しかしそれだけの力を動かして暫く、それが不意に収まったのだよ。騎士団が何かをする前に、唐突に」
唯一の事象を提示して、息を漏らすと最後に一つだけ領主は皆の目を見て呟いた。
「そしてそれを機に、奴らが今まで動く事はなく口伝だけが伝えられ今に至るのだが‥‥内部で何らかの動きがあったのだろう、蒼に紅に黒の『三つの色』が動き出した。少なくともこれから、この地で何かが起きるのは必須だ」
(「ふ‥‥ん」)
その話を聞きながら黙する空間の中で一人静かにヲーク・シン(ea5984)は考えを巡らせるも、不意にそれは破られる。
「ところでノッテンガムの特産物って何ですか?」
ショコラに着いて行った筈のシュヴァルツが何故か部屋の扉を開け、突然な問いではあったがその雰囲気を払う様に尋ねる。
「‥‥そうだな、此処最近はレース織りが盛んだな。ただ現状が現状だからな、もう少し武器や防具の製作に力を入れたいとも考えている」
「レースは有名だね〜、女装好きの方々にも人気の様だし」
「勘弁してくれ」
そんな回答にハンナの茶々は領主を苦笑に誘い、過去にあった事件から事実である事を一応認めたが
「また来たいです〜」
質問の主はそれに拘る事無く真っ直ぐな笑顔を浮かべると、とにかく場が和んだ事に安堵する皆。
「折角ですから踊り等どうですか、オーウェンさん?」
その雰囲気に微笑を湛え、クラリッサが領主へ手を差し出せば彼も答えの代わりにその手を握ると暫し彼女との踊りに興じるのだった。
●静かなる狩人、再び
やがて街に繰り出した一行は、皆思い思いに散る。
その中で過去に長い時間、世話したりされたりした者達を探す三人の姿があった。
「やっと見つけましたよ、ゼストさん」
その内の一人、黒く短い髪を靡かせるカシム・ヴォルフィード(ea0424)は広場の片隅で休んでいた探していた彼ら、ゼスト達一行を見付け声を掛けたが
「元気そうで何より、お嬢さん」
「‥‥知っていて、わざと言っていますか?」
相変わらず静かなゼストの代わりに返すグロウの冗談半分な返事に、分かってはいながら女性らしい風貌を持つ彼はうな垂れると
「久しいな、此処で何をしているんだ?」
「‥‥シャーウッドの森を、守っている」
「なんでまた?」
その光景に微笑みながら叶は率直に、久々に逢った知人へ尋ねるとヲークは大柄な男から帰って来た答えに首を傾げる。
(「森に、何かあるのか‥‥?」)
「まぁ色々と厄介な物がね。久し振り、ヲーク」
少し逡巡するもそれを察したシェリアの言葉に引き戻されれば、真面目だった表情を一変させ緩めると
「シェリアさんにセアトちゃーん、お元気そうで何よりっ! これ、お土産ね!」
「あ、そう言えばこの前のお礼もまだなのに‥‥ありがとうございます」
「あー、気にしないでいいよ♪ それと折角だから化粧もどうかな? こう見ても自信あるんだよね〜」
「‥‥お願いして、いいですか?」
持参した手土産を彼女らに手渡し、微笑むゼストの妹は礼と同時に彼の提案に言い澱みながらも頬を赤らめ頷いた。
「セアトさん、ゼストさんがまたいなくなったりしたら、いつでも呼んで構わないからね」
「いつの話だ」
「でも、なかった訳じゃあないからね」
「‥‥相変わらずの様で安心した」
「そりゃ光栄の限りで」
そんなお年頃の彼女にカシムは兄に聞こえる様、大きな声で言えばシェリアの援護もあって沈黙するゼストに皆は笑うと心底安心したと叶の呟きにグロウが仰々しく一礼する。
だがそれでも静かなゼスト、皆に半ば引き摺られる様に来た感が否めない様な表情を湛える彼に
「ゼストも‥‥来るよな? 来ないなら、それでもいいよ〜、その時はセアトちゃんと二人きりで‥‥くく」
セアトに化粧を施しながら、不敵な笑みを浮かべるヲークの呼び掛けは言わずがなもし。
「‥‥行くに決まっているだろう」
不精不精な返事ではあったが、彼の挑発は見事に功を奏した。
「ゆっくりと羽を伸ばすのも偶には良いかな、久々に逢ったのであれば尚の事」
「そう言う事だな、俺達も此処最近まで森に篭り放しだったから丁度いい気晴らしになる」
「あれからずっと、ですか?」
「まぁ、そうなるかな‥‥と、どうやら終わった様だな。後でゆっくり話すから今はまず、祭を楽しむ事にしようぜ」
少し、話に夢中になっていたがやがて女性二人を連れて駆け出すヲークの姿を捉えたグロウの言葉に叶とカシムは慌ててその後を追い駆けるのだった。
「‥‥アシュドは何処だ?」
その一方で残りの面子はアシュド達を探しあちこちを放浪している真最中、その中で頭一つ背が高いウォルフガング・シュナイダー(ea0433)は辺りを伺うも中々見付けられず、頭を擦ってばかり。
「この人出だ、見付けるのは容易でないだろうな」
そんな落ち着かない彼のエスコートを受けてユイス、彼を宥めるも何処か落ち着かない様子に
「どうしたんですか、何か慌てている様ですけど」
「いや、どうしても言わなければならない事があってな‥‥」
クラリッサも思わず心配するが、彼は変わらず頭に手を乗せたまま。
「‥‥分からなくもないが少し、落ち着いてくれ。折角の祭でもある事だし、な」
事情を知っているからこそ、ユイスは改めて彼を宥めると頭に乗っている手を掴んではぐいと降ろし、笑顔を浮かべれば
「それもそうか、しかしユーウェイン卿は来ていない様で残念だったな」
「円卓の騎士の、ですか?」
「そうだ、まぁ友人の話から察すれば今も何処かで修行に明け暮れているのだろう。ただひたすら、自身が目指す騎士になる為」
彼女の振る舞いにやっとウォルフガングも落ち着けば、此処には来ていないと言うユイスの捜し人の名に皆少し騒然とするも、彼女は至って冷静にそう判断すると遠くを見やり呟いた。
「‥‥また直に、キャメロットに戻って来るだろう」
「はふぃ、ふぉれみんふぁふぉふん(訳:はい、これみんなの分)」
場面は戻り、ゼスト達一行。
露天で買って来た菓子にソーセージを山の様に携え、ヲークはその面子の中で一番に張り切っていた。
「十本位軽い軽い。俺、育ち盛りだし〜」
「そうなんですか?」
「そうなんですよー、セアトちゃん」
「にしたって、食べ過ぎよ‥‥」
抱えて来たそれらを皆に分けつつも、セアトの疑問とシェリアの突っ込みにも止まらず一人、それを恐ろしい勢いでがっつけば
「まぁこの程度なら私でも」
次には街のあちこちで行われている数々の余興に叶が飛び込みで参加し、幾多のボールを器用に取り回す中
「‥‥ヲーク、これは出来るか?」
その光景に閃いたゼスト、さっきの借りを返さんとばかり叶に壁を背負って貰えば取り回すボールの一つをナイフで容易く射抜いてふと笑いヲークを挑発。
勿論それに引き下がらず、張り合ってみるが彼が投げるナイフは全て彼方へ消えて行く。
「‥‥もう、いいか? いつ当たるのか怖くて堪らないんだが‥‥」
「‥‥うお〜、剣で斬らせろ〜! 真っ二つにしてやる〜!!!」
「落ち着けよ、大人気ない」
「あ、ゼスト君。的になってくれ給え、君なら間違いなく当たりそうだ」
「‥‥遠慮する、当たるではなく当てるのだろう。俺に‥‥」
十本程投げて、流石に恐怖に駆られた叶が提案するが限界突破したヲークはそれに耳を傾ける事無くいきなり抜刀するもグロウに止められれば、溜まった憂さをゼストに晴らそうとしたりと‥‥まぁそんな勢いで笑いながら七人は祭りを楽しんでいた。
とは言え、ノッテンガムに着いたばかりなカシム達の疲労は簡単にピークへと達し、休憩ついでに酒場で歓談を始めた。
「ま、誰かさんのせいで余り表立っては暮らせないが領主の計らいで今じゃシャーウッドの森の監視をしているって事だ」
様々な話の末からゼスト達の話に及ぶと、そう紡いでぐいとワインの入ったグラスを煽るグロウにカシムは疑問を投げ掛ける。
「ノッテンガムについて余り知らないのですが、シャーウッドの森に何かあるんですか?」
「厄介なものが眠っているって話だ、今はまだ兆候しか見られないけどな」
「‥‥?」
先程までとは打って変わった彼の重たげな口調に美麗な魔術師は眉を顰める。
「まぁ変なモンスターが最近見受けられるのよ。そう強くないんだけど、多数で来るからこれが大変でね」
「領主から何か話は?」
その問いにポツリポツリと漏らすゼストの話は先に聞いた領主の話とほぼ同じで
「同じ様な話だな」
それにヲークが呻けば、叶にカシムもなんとなく渋面を浮かべた。
「大事にならない様、努めるさ。まずは俺達がな。何かあればいずれそっちにも話が行くかも知れないが‥‥今は分からない事を話して場を重くしてもしょうがない、まず呑もうぜ。何よりも誰よりもこいつは皆に平等だからな! ってカシム、全然飲んでいないじゃないか。呑めよ」
「いや、僕は‥‥」
「遠慮するなって、ほら!」
グイッ、ゴキュ。
「‥‥‥も、だめれすぅ〜〜〜」
バタン。
場の雰囲気に話を終わらせれば、良く分からない理屈を述べてグロウは先程からそれを遠慮する魔術師へ飲ませると直後に彼は、酒場内に大きな音を響かせて机に突っ伏した。
「‥‥ま、こんな所か? 皆着いたばかりでこれじゃ疲れただろ」
飲ませた張本人であるグロウは自身の強引さを勝手に棚に置き、彼に肩を竦めるも一行の事を気遣った配慮に今はひとまず解散するのだった。
「また明日、か?」
「明日も宜しくお願いしますね」
叶の別れ際の言葉にセアトは笑顔で約束を交わし、ヲークも笑顔で彼女に手を振れば
「ま、折角の機会だし領主様にもう一度話を聞きに行ってみるかな」
まずは安らかな寝息を立てているカシムを宿に送り届ける為、歩き出した。
●ゴーレムは何を見る?
「初めまして、妹がいつもお世話になっております。兄のショコラ・フォンスと申します」
‥‥祭の中心から少し離れたアシュドの別邸、喧騒より離れているとは言え賑やかな界隈の中でも静かな家の中でアシュドとルルイエに逢ってはショコラ、挨拶と共に一通の手紙を差し出した。
「これをその妹から預かって来ました。是非読んでやって下さい」
「おねーさん、心配していたよ」
それを受け取り、シュヴァルツの言葉に笑えばその封を開いた。
その手紙にはアシュドが無事で安堵していると言う事と次の依頼は必ずお手伝いしたいと言う事、そして会える日を楽しみにしていると言った事が記されおり、その最後には小さいながらもアシュドとルルイエの二人が仲良く手を繋いでいる絵が入っていた。
それを見てアシュド、何と言えばいいか分からない複雑な表情を浮かべると
「どうかなされましたか?」
「‥‥ん、いやな。何でもない」
「妹はお二人の事を友達と思っている様ですが、お二人にもそう思って貰えたらいいなと言っておりました」
「こちらこそ、そう思って貰えているなら嬉しい限りだな」
「そうですね、親しい方が増えるのは喜ばしい事です」
兄はその内容を知らず、問うも彼は苦笑だけ浮かべればそれを懐にしまってショコラの問い掛けには二人、揃って答えた。
「これからも宜しくお願い致しますね」
それにショコラは安堵し、感謝の笑顔を浮かべると話に一区切りついた事を察した黒き騎士は彼の背後にぬっと現れ
「‥‥怪我の具合はどうだ?」
「まぁこの程度で済んで安心している、やろうと思えば皆あの程度では済まなかっただろうし」
「それもそうだな‥‥しかしアシュド、こんな場で話すのもなんだが先日の襲撃者について何か心当たりや気付いた事はないだろうか?」
先日の依頼で右腕を負傷し、その部位を今も吊っていたアシュドにウォルフガングが守り切れなかった事を悔いる様に声を掛ければ、彼は存外元気に答えるが続く問いには首を捻って考え込むも
「済まん、何も思い当たる節が無い。私のゴーレムが目的なら、非常に許せなくはあるがっ!」
「‥‥そうか、しかし奴らは一体何者で何が目的なのだろうな。アシュドの知識が狙いかゴーレムが狙いか‥‥」
言葉の最後で拳を握っては熱く語る彼に半ば呆れる彼の横、クラリッサはルルイエを捕まえては
「そう言えばルルイエさん、アシュドさんの事はどう思っているんですか?」
「‥‥そうですね、まだ世話が焼けます。これで私と同い年なんて」
「ま、そうかもね〜。成長しているのかいないのか微妙だし。でも私はいつも通り! 今日も聞いてね、マイナンバー!」
囁く様な質問をすれば彼女の答えを発端に、賑やかな外の喧騒に負けまいと二人の為に練習した曲をハンナが奏でる中、女性らしい会話を弾ませていた‥‥がその傍らでは何やら不穏な空気。
「‥‥‥‥かなり怒っていたぞ、彼女は。と言う事でそこに正座だ」
「腕輪の事か‥‥」
「‥‥いいか、アシュド。あの後、彼女にあの壊れた腕輪を返してだな‥‥」
無意識に頭を擦る騎士は先日の依頼において、親しい友人から託されたお守り代わりの腕輪を壊した状態で返した時の事を思い出し‥‥アシュドの問いに肯定とも否定とも言わず目を細めれば、紡ぐべき次の句をとぎらせた。
「‥‥とにかく、周囲に危険を作り過ぎだ」
「う‥‥」
友人の気持ちも分かる彼だったが、理不尽な仕打ちを受けた様で半ば八つ当たり気味に辛辣な口調で警告を促すと、アシュドは痛い所を突かれ縮こまったが
「まぁ落ち着いてくれ、貴方は割を食ったかも知れないけどな。だがアシュド、改めて友人をいつも懇意にして貰って感謝している。出来れば今後も変らぬ付き合いを頼みたい」
ウォルフガングの気持ちを汲んで尚、ユイスが静かに諭せば彼の代わりに本当に伝えるべき事を口にすると
「しかし心配なら何故俺が乱暴されるんだ‥‥全く、素直じゃない」
彼女の隣に佇む騎士は静かに不平を零すがしょうがないと言った感で微苦笑を浮かべ、それでもアシュドは本気で詫びるのだった。
「あぁ、分かっているよ。こちらこそ、腕輪については本当に申し訳なかったが今後とも懲りずに頼むと伝えておいてくれ」
「ねぇねぇアシュドおにーさぁーん、僕ゴーレムさんが見たいです、見たいです、見たいですぅ♪」
「ん‥‥まぁ見せられないものが無い訳じゃないし、構わないぞ。少し歩く事になるけれどな」
そしてやっと場が落ち着けば、幼いながらも場の雰囲気を読んでいたのかシュヴァルツは、アシュドの袖をぐいぐい引っ張りそう懇願すると彼もその提案には満更ではない様で彼の頭を撫でると、それに応えるべく立ち上がり
「あ、ちなみに『ハニーさん』の名前の由来は甘いからスイーツになってハニーって思いついたそうですよ」
「へぇ、なるほど‥‥とそう言えばまだ名前、決めていなかったな」
そんなシュヴァルツの、ショコラの妹から聞いた裏話を聞きながら一行を連れ立って今はノッテンガム城で動いている、名も無きお菓子作りを得意とするゴーレムの元へと案内するのだった。
●憂鬱なる夜
宴は続く、夜になっても。
その中で領主のオーウェンも人混みに紛れあちこちを一人、ふらふらしていたが
「よっ、領主様。一人なのか?」
「たまにはそう言う気分になる時もある、君だってそう言う時はあるだろう」
「まぁね、でも女性と一緒にいる方が多いかな‥‥と、そうじゃなくて日中の話なんだが正直、その情報を手に入れてどう思った?」
冗談を織り交ぜつつも、真剣な表情で尋ねるヲークにオーウェンも普段の表情に戻れば
「何とも言えんな。まだそれを目の当たりにしていない以上、報告書や情報だけでは判断しようにもし兼ねる」
「けど、そう言う時でも動かなければ分からない事もある。それを怠っちゃいないか」
彼にそう言うも、即座に飛んで来た反撃にはぐうの音も出ない。
「‥‥日中に話した事以上は調査中だ、ただよからぬ目的を持つ組織が動き出し恐らくはその目的の為、シャーウッドの森に害を加えようとしているのが今だ‥‥が、その真意は恐らく」
「他にある、か」
気を取り直して‥‥と言うよりは彼の言葉を遮って、ヲークが結論を言えば領主は静かに頷くと
「そう言えば‥‥その組織は本を集めていると言う情報を聞いた記憶がある、朧げな記憶だから嘘か真か分からないがな」
「出所に根本が曖昧な情報は、情報と言えないんじゃないか?」
自信なさげ紡ぐ新たな情報も、彼の更なる突っ込みには呻く他なかった。
「いや〜、難し過ぎて知恵熱出そうだ〜」
「‥‥まぁ精進させて貰うよ、確かに君の言う通り、これだけの情報で皆に協力を請うのは可笑しな話だ。私はそう聡くないからな」
不意に肩を竦め笑うヲークに、その真意を悟るも嫌な印象を抱いた感なく領主が頭を掻けば
「ま、頑張ってな‥‥っとそこの道行くお姉さんー。お酒でもどう?」
励ましつつも、夜の町に消えて行くヲークの後姿に唖然とするのだった。
●終わりと始まり
「ルルイエおねーさん、あのね」
「ん、何かな?」
‥‥だが楽しい時間は早く駆け去っていき、一行はキャメロットへ戻る時を迎える。
ささやかながらも一行と受付嬢にお土産を渡しては見送りにまでやって来たルルイエやゼスト達の中、ルルイエを呼んでシュヴァルツは手招きすると屈んで何事かと尋ねる彼女の頬に軽く唇をつけた。
「ありがとう」
「こちらこそ」
そんな彼のお礼にルルイエも微笑を浮かべると馬車に乗る皆へゼスト達
「‥‥良ければ、また来い」
「素直じゃないんだから」
「全くだな」
「それにもう少し言い方があるでしょう、お兄ちゃん」
相変わらず無愛想な彼にダメ出しをする彼の仲間、その様子に皆笑えばその最中で誰かが叫ぶのだった。
「また、逢いましょう」
その言葉に皆が皆、頷いたのは言うまでもない。
「平和、いつまでも平和だったらいいんだけどねー。その為にも、私達が頑張らなきゃね‥‥って私が言っても説得力無いかなー?」
「そんな事ありませんよ、皆さんが皆さんそれぞれに頑張っているんですから。ハンナさんもそうですよね?」
「もっちろん!」
「でしたらもっと自信を持っていいと思います」
帰りの馬車の中、喧騒未だ覚めやらぬノッテンガムを名残惜しく見つめ呟いたハンナ珍しく真面目な独り言はクラリッサに励まされ、そんな彼女の気遣いハンナも笑顔で応えれば
「誰しも平和を望んでいる、しかしそれを崩さんとする者がいる。恐らく今後とも皆には力を借りる事があるだろう。その時は‥‥頼む」
そう紡いでは頭を下げる、キャメロットに忘れ物を取りに行くと言って一行の帰路に随伴するレイへ
「血を流さない為の力でしたら、いつでもお貸ししますよ」
声音こそ柔らかいも信念を持って、真直ぐな瞳に答えを返すカシムへ彼は皮の帽子を目深に被り直すと、静かに遠ざかって行くノッテンガムを皆と一緒に見つめるのだった。
「‥‥騒々しい事だな」
「まぁある意味、私達にとっても前夜祭になるのか。皮肉だな」
「前夜祭、と言うよりは最後の晩餐の方が合うかも知れないぜ」
とある酒場の一角、二人の男と一人の女が楽しげに騒ぐ領民達の姿を見てそれぞれ思った事を口にすれば三人の中で一際体の大きな男がもう一人の男を見つめ問い掛ける。
「『レギオン』の件、どうなっているか」
「まだ、綻び程度だ。でもそれで十分だと思うけどな」
「同種での共闘本能が強いからな。綻びだけでも作れば後は勝手にやってくれる、か」
「それでもいいが、時間は掛かる。だからもう少し邪魔なものは取り除いて解放して見せるさ」
「‥‥順調なのであれば問題はない」
「しかし凄い念の入れ様だな、昔あれだけの事をやって止むを得ず封印した『レギオン』だって言うのに、それをまた使うだなんて」
「確かにね。けどまぁ『あれ』がなければ我らが至上にて目指すべき道が開けないから、確実に在処が分かった物を手中に収める手段として用いるのは止むを得ないわね」
「‥‥そう言う事だ、それに『レギオン』の解放も計画が一端として有用である。さて、以上だな。ロイガーは今の任を継続、マリスは先の為に待機、私は『あれ』の確定をする‥‥解散だ」
喧騒に紛れるその会話を打ち切って、三人は椅子を引くと立ち上がった。
周囲で飲み、騒ぐ領民達など視界に入っていないかの様に堂々と、ふてぶてしく。
「そろそろ幕が上がる、覚悟して貰おう‥‥」
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