【春の遠足】正しい魔法の使い方

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月06日〜06月09日

リプレイ公開日:2005年06月14日

●オープニング

 ケンブリッジから僅かに離れた平原にて、藁で作ったのだろうバランスは悪いが人型をしたそれを睨む十河小次郎、そして息を吸って掌を眼前に掲げれば
「‥‥盛れ炎。その形、我が意思に従い剣と成し、切り崩さんと‥‥」
 唱えるも、その言霊が形にならない事を察すると次の句を紡ぐのを止めた。
「‥‥これだけは、昔から全く変わらないなぁ」
 そして溜息を漏らせば、愛刀を錘にしておいてある一枚の紙片に目を通しこのついでにちょっと生徒達に相談に乗って貰おうかと考えるのであった。

「あぁ、もうこんな時期なんですね」
 ケンブリッジの冒険者ギルド『クエストリガー』にて、いつも依頼をお願いしている受付のお兄さんを捕まえれば早々に持っていた紙片を見せ付ければ彼は恒例の行事に頷く。
「フリーウィルとしてはサバイバル訓練に主を置くのだけれど、個人的には魔法について‥‥教えて貰いたいと思っていて」
「‥‥え?」
 そして肝心の話を切り出すと、何を言っているのかと驚くお兄さん。
 だが次には少し考えて、小次郎が魔法を使っている話を見たり聞いたりした事がない事に思い当たり問い掛けてきた。
「魔法が使えないのか、それとも使わないのかは分かりませんが何か深い理由でもあるんですか?」
「‥‥まぁ、な」
 相槌を打つがその理由は言わず、彼も聞かなければ暫し場が沈黙するが少し考えてから次の句を紡ぐ。
「教えて貰う、とは言っても皆がどう言った心構えとかで魔法を使っているのか聞きたいんだろうな。そう言う事でそれをついでに一筆添えて貰えると助かる」
 そしていつもより真面目な表情の上に微笑みを浮かべると小次郎は一度、頭を下げるのだった。

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 ミッション:遠足で野外生存の術を磨きつつ、(中核となる)魔法を使うに当たっての心構え等を小次郎さんに教えて上げよう!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 その他:小次郎先生が遠足の場所として選んだのはケンブリッジ近郊にある滝と川がある辺りとなります、水量もそこそこあり水遊びが出来れば川魚も棲んでいますので釣りをする事も可能です。
 依頼期間中はサバイバル訓練を兼ねていますので基本的に自給自足となります、それについての準備等も忘れぬようお気をつけ下さい。
 ちなみにフリーウィル以外の生徒の方や一般の冒険者でも参加出来ますので、遠慮なくご参加下さい。
 どう言った理由で小次郎さんが魔法を使えないのか(使わないのか)は話してくれませんでしたので、皆さんが魔法の使い方や使うに当たっての心構え等を説いて上げ、間接的に要因を排除して下さい。
 皆さんの熱い思いで小次郎さんを立派な志士に変える事が出来ます様、お祈りしています。
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●今回の参加者

 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea4683 カナ・デ・ハルミーヤ(17歳・♀・バード・シフール・イスパニア王国)
 ea7215 シュリデヴィ・クリシュ(28歳・♀・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea7218 バルタザール・アルビレオ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8255 メイシア・ラウ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

「遠足〜、歩きやがりますよ〜、飛んだら負けですよ〜♪」
 奏でられる横笛の腕前は見事ながらも、珍妙な歌詞を独特な喋り方で口ずさみ歩くシフールのカナ・デ・ハルミーヤ(ea4683)を最後尾に、一行と小次郎は徒歩で遠足の目的地である滝を目指して進んでいた。
「大丈夫? 大分遅れているみたいだけど」
「‥‥皆さん置いていかないで下さい」
 その光景にミカエル・クライム(ea4675)は背後を振り返って彼女に声を掛けると、暫しの沈黙の後に帰って来た本音は皆の苦笑を誘うのだった。
「でもその心構えは俺も見習いたい所だな、うんうん」
 そんな彼女の驢馬を引きつつ十河小次郎は一人満足げに頷くも、進む足を彼女に合わせる気はない様子。
「所で小次郎先生‥‥」
「だぁーっ、先生って呼ぶの止めろよ〜! ‥‥で、なんだ?」
 そんな折、ワケギ・ハルハラ(ea9957)は小次郎を呼び止めたが、『先生』だけ余計で照れる彼に吹き飛ばされれば道の先を一人転がって進み
「酷いです‥‥」
 天地を逆にしては瞳を潤ませると、そんな彼の代わりにジーン・インパルス(ea7578)が小次郎へ問い掛けた。
「なぁセンセ、後どれ位で着くんだ?」
「バッカ〜、だから止めろってばぁ! ‥‥何、あと少しだ」
「そっか、ならいいんだけどな」
 好きな人には堪らないのだろうか? まぁ良く分からないが、ジーンもワケギ同様吹っ飛ばされるとそれに落ち着いて小次郎は答えを紡げば、自身が改造したというローブに舞う文字と共と共に笑顔を見せる彼。
「‥‥小次郎さん、何で『先生』と呼ばれると照れるんですか?」
 その初めて見る光景を落ち着いて見ながら、前を歩く彼の背にメイシア・ラウ(ea8255)は問い掛けると
「ん、そうだな‥‥結局の所俺達同じ生き物だろう? 教えるか、教わるかだけの違いで呼び方が変わるのが何ともむず痒いんだよな。それに呼び方も堅苦しいしな‥‥と、やっと着いたな。よし、それじゃあ早速始めようか!」
 くるりと振り返り、苦笑しながら頭を掻いて答えれば同様に苦笑を浮かべる彼女に今度は小次郎、ニッと笑い踵を返すと視界に映る滝に叫び誰よりも先に駆け出すのだった。
「待ちやがって下さいー!」
 ‥‥カナの悲しい叫びを背中越しに聞きながら。


「それじゃ、せんせ‥‥あわわ! な、何でもないです! 行って来ます!」
「おう、気を付けてなー」
 滝の目の前、盛大に水が落ちる音を聞きながら小次郎は注意事項だけ述べ、生徒達の積極性と生存能力の程を見る為に皆の荷物番を勤めようと、どっかと座りバルタザール・アルビレオ(ea7218)の慌て訂正したその呼び掛けに応えるも
「折角だから小次郎も行って来てはどうだ? 釣りをする者もいるから荷物番は不要だ」
「そうですよ。手伝って下さい、ね」
 静かな表情で提案するシュリデヴィ・クリシュ(ea7215)にメイシアも小次郎を招き呼べば、少し考えるも
「‥‥まぁ、いっか」
 二人の好意に甘え、やがて立ち上がるのだった。

「待ちやがれですよ〜」
 森の中、早速見つけた兎へカナがスリープを唱えればそれを眠らせる事に成功し、はしゃぐ彼女を見て、小次郎が羨ましげな視線を投げ掛けると
「もしかして詠唱が照れ臭いとか、難しい言葉で同じ場所で舌を噛むとか! ‥‥それよりむしろ剣重視で生きてきたから魔法がいまいち信用出来ないとか」
「ぶー、そんな事はないぞ。と言うかどう見られているんだ俺は‥‥」
 その様子にバルタザールは自身の推理をぶつけるも、否定するがうな垂れる小次郎に
「可笑しな人でやがるのではないですか?」
「‥‥‥」
 天然であるが故の的を射たシフールが彼の肩に止まって言うとそれをフィニッシュにいじけ、そこらに生える草を引き抜き始める小次郎だったが
「まぁさ、そんだけ剣の腕があれば魔法使わなくてもいいんじゃねぇの」
「‥‥そう思うか?」
「時と場合にも寄るだろうけどな」
 ジーンの慰めに顔を上げると、複雑な表情を浮かべ佇む彼の姿が目に飛び込んで来た。
「どうしても種火が欲しくなった時はないか? 努力や根性を引き出さないと勝てない相手に遭った事はあるか? そして水で消せない様な火事に遭った事はないか? ‥‥魔法はそんな、使う必要があると感じた時に使える様になるんじゃねぇのか」
 動き易そうな橙色のローブの上から右肩を押さえ何かを思い出してだろう、先程までとは違う静かな声音で呟く彼に小次郎は
「魔法ってそんなものなのかなぁ」
 やがて皆も歩を止め野草を摘み始める中へ疑問を響かせれば、植物知識の専門家は自身の考えを紡ぐ。
「精霊魔法は精霊の力を借りているのだから『自分の実力と思わない事』。心を通じ合わせての『お願い』或いは『依頼』が、きっと魔法の本来の姿だと思うので精霊への感謝を忘れない様にする。これは力に溺れる魔法使いにならない為の戒めにもなるかと」
「こうやって自然と触れ合っていると、私達は自然の恩恵を一身に受けて生きているんだって気がします。精霊魔法の属性も自然の物ですよね、自然に素直な気持ちで耳を傾け心の迷いを打ち消すのが私の魔法を使うに当たっての心構えです」
 そしてそれに賛同しメイシア、微笑んでは立ち上がり手を広げクルクル身を舞わせると小次郎は始めたばかりの野草を摘む手を止め、二人のエルフを見つめポツリと呟いた。
「‥‥そう言う考え方もあるんだな」
「何よりもまず、自然である事が大事だと思います」
 そして驚いた様な表情を湛える彼に、その反応に今度は苦笑を浮かべてメイシアが諭すと唸って考える小次郎の傍らで、ジーンが欲する胃の薬になりそうな野草を再び探し始めた。

「釣り組はどうだー、いい魚は釣れたか?」
「‥‥まぁ、それなりだと思います」
 ジーンの案内の元、無事に森から小次郎達が帰還すれば野草の選別はバルタザールとメイシアに任せ、釣りに勤しむ者達の中で一番に手付きが慣れているベアータ・レジーネス(eb1422)に声を掛けると彼の控えめな言葉に小次郎は相反する成果に驚く。
「これでか」
 見た感じ、お坊ちゃんと言った感じが否めなかったが、それでも彼の後ろでその身を中空に舞わせる魚達の数は思っていた以上に多かった。
「意外に面白いな、釣りと言うものも」
「そうね、ちょっと生臭いのが難だけど」
「‥‥もう十分だ、俺でもそんなに食べられないからな」
「そうですね」
 経験が無いだろうシュリデヴィにミカエルでも釣れている為にその総数はかなりの数である事に気付けば、ベアータは苦笑を浮かべ自前の釣り道具一式を片付けると
「小麦粉とバターと塩があれば揚げ魚が出来るんですが、どなたか持って来てません?」
「ちょっと待てよ、持って来ていた筈だが‥‥」
 早速調理を考えての彼に、小次郎は自身のバックパックを漁り始め持って来た筈のそれらを探し始めるのだったが結局見付かる事はなく、カナの腕と素材の味を活かすと形で魚に野草と兎を食す事になった事を付け加える。


 そしてその日の夜、皆は様々な話に盛り上がるがいつからか本題である魔法に何ぞやについて教える為、小次郎と向き合う形でそれぞれ語り始めた。
「まずはあたしなりの心構えをビシッとレクチャーしてあげるわ、しっかり聞いてね」
「よろしく頼むぞ」
「任せなさい! で、まずは精神の集中からなんだけど‥‥」
 この依頼を余程楽しみにしていたのか、テンション高く言うミカエルに小次郎も頼もしげに頷くもそれから暫く‥‥
「へー」
「それだけでお終いっ?!」
「おう、理屈に捕らわれるのは嫌いだからな」
『‥‥‥‥』
 語り終わった後の率直な彼の感想に彼女はショックを受ければ、彼の発言に皆は唖然とし早々に理屈についての講釈を諦める。
 だが小次郎はその雰囲気を察せず、次いで質問を紡ぐ。
「所で皆は魔法をどう言うものだと思っている? 良ければ皆が魔法についてどう思っているのか、知りたいんだけどな」
「魔法とは鍛錬の結果。神聖魔法は信仰心次第などと言う輩もいる様だが、私に言わせれば笑い話だ。信仰心はあくまで基礎に過ぎず、それを魔法として昇華させるのは弛まぬ自己鍛錬に他ならないだろう」
「私も賛成でやがりますよ、私の場合はこう見えても結構練習してるんですよ。どうやったら魔法が出せるかとか考えずに、体が勝手に動く位に」
 それに答えたのは静かな僧侶と、特徴的な語り口の紡ぎ手が同じ事を言うと頷きながらも
「確かに尤も単純で、明快な答えだ‥‥ただ練習するにしても魔法が使えないんじゃなぁ」
「魔法が使えない事に何か原因があるのでは‥‥もし差し支えなければ、教えて頂きたいのですが」
「んー、心当たりはある様な気はするんだが実際の所‥‥良く分からん」
 渋い表情を浮かべる小次郎の呟きが気になり、ワケギはその理由について尋ねるもあっさりした答えに皆押し黙るが、彼の発言に思い当たったベアータはポツリと漏らす。
「『汝、自らを知れ』‥‥自分に魔法を教えてくれた先生が私に言った言葉なんですが、小次郎さんにも当てはまる所があるんじゃないかな」
「自分を知る‥‥か、存外に大事な事だと思うな。そうなると皆は自分を知っている事になるのかな?」
「どうでしょうか?」
 柔らかい声音で小さく紡がれたそれは、小次郎を考えさせるも同時に鋭い感性から沸いた疑問に彼は苦笑と共に、首を傾げた。
「僕の目指している『真実の魔法使い』と言うのは、『魔法を使うべき時にのみ使う方だ』と思います」
「そうですね。私は自分が決めた相手のみを傷つける覚悟と腕を持てるまで、必要な時以外は威力のある魔法は使わないと決めています。小次郎さんが魔法を使えないのは、今がその『必要な時』じゃないからではないでしょうか?」
「‥‥必要な時じゃ、ない?」
 ワケギが目指すべき目標にベアータも頷くと、森の中で呟いたジーンの言葉を思い出して今度は小次郎が首を傾げる番となる。
「えぇ、きっと魔法が必要となる時が来れば小次郎さんも使える様になりますよ」
「なるほど。皆の考え、色々参考になったよ。今はとりあえず今のまま、変に焦らない事にするか。魔法が使えなくても気にしないでおこう」
「‥‥少し位、気にした方がいいと思うが」
 それにやっと安堵したのか小次郎は微笑み、シュリデヴィはこめかみを抑えるも皆笑うのだが、若干一名だけ和んだ場の雰囲気の中で立ち上がる者がいた。
「ちょっと待ってよ、それで終わったらあたしの気が済まないわ‥‥ここからはスパルタ教育よっ!」
 ずびしぃっと小次郎に指を突きつけミカエル、先日が一件の逆襲と言わんばかりの勢いで叫べば小次郎の回りの草へ手際良く焚火の火を用い、囲う様に着火して行く。
「使えぬのなら使える様にすればいい‥‥確かにこれなら手っ取り早いかもな」
「プットアウトが使えるならこれ位楽勝でしょ、小次郎君?」
「何?! プットアウトが使えるのか‥‥よし来た、俺と一緒に火災現場で救助活動をしないか?」
 勢いはそれ程でもないが、燃え盛る火の中にいる小次郎へ好き好きに言う三人に小次郎が声にならない声で静かに呻いた時だった。
「‥‥キャメロットの冒険者酒場で毎晩聞こえる『依頼〜、依頼〜』と言う恨みがましい声の話なんですが‥‥」
 その傍らで一段落着いた事からおどろおどろしい声音で怖い話を紡ぐバルタザールの声が響けば、やがて小次郎以外の皆は彼の近くに座り話に聞き入るのだった‥‥。
「うぉい、誰かこれをどうにかしてくれー!」
「‥‥そもそもだな、小次郎が魔法を使えれば問題ないのだ。使えないからこの様な事になる訳で、日頃の精進が足りないと言うか‥‥聞いているか?」
「そんな余裕あるかー! うぉー、今に見ろー!」
 小次郎の心からの叫びが辺りに木霊する中、静かな表情のままシュリデヴィはいつもの様に捲くし立てれば、遂に彼は絶叫しヤケクソ気味にプットアウトの詠唱を紡ぎ出すのだった‥‥。


 こうして遠足は無事に終了した。
「小次郎さん、この遠足で心の痞えは取れましたか?」
「取れたんだか、吹っ切れたんだか‥‥」
 ‥‥尋ねるメイシアのすぐ前でボロボロになっては小声で彼女に返す小次郎以外は。
「お侍さんもちょっと位でへこたれちゃダメですよ、めげずに頑張りやがって下さい」
「あぁ、そうする‥‥けど魔法は使える様にした方がいいかもな」
 文字通り、煤ける彼はカナの励ましに力なく頷いてまだ元気にはしゃぐ皆の姿を羨ましそうに見つめるのだった。