黒霧飛翔
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月10日〜06月15日
リプレイ公開日:2005年06月18日
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●オープニング
月が昇り始め、夜の始まりを告げる頃。
「‥‥またか」
何処か遠くから、何かの音が聞こえてくればやがてそれが空気を打ち据えて飛翔する生物の音だと理解する。
‥‥そもそもこの音が聞こえる様になってから、もう一週間は経つのでそれ以外には考えられなくなっていたが。
暫くすれば、それはやがて顔を出したばかりの月を覆う様な勢いでまだ黒く染まらぬ空を急ぎ染めようと青年の視界一面に広がる。
「夜はそう外に出る事がないとは言え、この調子じゃいつか被害が出るな」
窓の外、我が物顔で飛翔する黒き蝙蝠の群れを見つめ呟けば、今自分が考えている事と同じ事を思う者はこの時この村に何人いる事か‥‥そんな考えを巡らせ、明日にでも村長に冒険者ギルドへ依頼として出す旨を提案しようと決意したその時だった。
彼の思考を読んで、と言うのはあり得ないがタイミングよく青年の目の前にひときわ大きな蝙蝠が舞い降りると
「今だけだ、お前達の根城は知っている。冒険者が来るまで精々‥‥」
青年はそれを見て憎々しげに言葉を発したが、それは最後まで紡がれる事なく‥‥窓が砕ける音を最後に聞いて、自身の意識が空に広がる黒の様に染まって行くのを感じた。
‥‥それが最初の犠牲者だった。
それをきっかけに、村人の一人が取り急ぎキャメロットの冒険者ギルドに駆け込めば件の蝙蝠退治の依頼を持ち込むのだった。
「村から東にある、村人達は誰も足が踏み入れた事がない洞窟をねぐらにしては村を襲う蝙蝠達の群れを退治、ないしは追い払って下さい‥‥日に日に犠牲者が増えていき、このままでは」
勿論この依頼に受付嬢は一も二もなく頷いた。
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ミッション:洞窟内に蔓延る、大量の蝙蝠達を退治せよ!
成功条件:蝙蝠の『完全』駆逐。(完全成功)
達成条件:蝙蝠の駆逐。(通常成功)
失敗条件:達成条件の未達、村人達に犠牲が出る事。(完全失敗)
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
その他:手段や戦う場所は問いませんが、村にこれ以上犠牲が出るのは宜しくないので村内での戦闘は良い作戦が思い浮かばない限り、推奨しません。
ちなみに蝙蝠達がねぐらにしているだろう洞窟についての情報ですが、昔よりこの洞窟は誰も足を踏み入れた事がない場所である為、村の人々は洞窟の内部構造を知りません。
但し、入口の大きさから結構な大きさの洞窟であると言う話です。
幅は人間が五人程並べ、高さはジャイアントで三人肩車をすれば届く位だとか?
また蝙蝠達の総数についても詳細は不明ですが、そのほとんどが至極一般的なサイズの蝙蝠だそうです、が大きな蝙蝠もいるので油断だけはしない様に。
最後に洞窟周辺の地形ですが、高い木々に囲まれているので日中でも比較的日の光が余り届かないそうです。
以上、上記の事からどんな事が起こってもおかしくないので準備は十分にしてから依頼に望んで下さいね。
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●リプレイ本文
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「‥‥なんだ?」
数多なる蝙蝠達の被害に遭う村へと辿り着けば一行、情報を仕入れると同時に洞窟で火を使う許可を得て日が高い内に早速向かうが、場に違和感を覚え周囲を警戒するルクス・ウィンディード(ea0393)が呟きと同時、薄暗い森の奥から黒き霧が飛来する。
「まず今は隊列を、まだ間に合います」
薄暗いとは言え、まだ日中である事からいささか油断していた一行だったがそれを音で察知したレイン・シルフィス(ea2182)の反応も早く、即座に叫び皆は陣を整えれば一匹の大きな蝙蝠が率いる黒霧を迎え撃つ。
「全方位を警戒しろ! とんでもない所から攻撃が来るぞ!」
「分かっている」
視界はお世辞にも良いとは言えない場に、黒髪の戦士が警告する中で中途半端な長さの耳をバンダナで隠すアレクサンドル・リュース(eb1600)が冷静に返すと同時、一閃で二匹の蝙蝠を切り落とせば
「数だけは流石に多いか、だがこれなら」
静かに詠唱を解き放ちガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が目に見えない、魔を退ける聖なる領域を広げて包み覆おうとする霧を遮断する。
「徹底的に‥‥壊しますよ♪」
「村人達の為に、引く訳には行かないなっ!」
蝙蝠達の数はまだそう多くなく、徐々に蝙蝠達の数が減っていけば鳴滝静慈(ea2998)はルーティ・フィルファニア(ea0340)が明るい声音で物騒な言葉を言うと同時、放つ重力波の直撃を以て地へ墜ちようとするジャイアントバットを闘気宿る拳の連撃で打ち貫いた。
「‥‥これ以上、好き勝手やらせねぇ」
ちょっと回りの視線を気にしつつ、だがさらりと言えば残る僅かな霧はひとまずこの場を去るのだった。
「とりあえず、この草か‥‥どうしても見付からなければ生木を沢山拾って来てくれ。でも木の枝を折ってはダメだ、そこだけ気を付けてくれ」
やがて洞窟の前に辿り着いた一行、先の戦闘で軽く負傷した者達の手当てを終えれば森の知識に長けるエルフの一人、ルクス・シュラウヴェル(ea5001)が回りに生える木々を気遣いつつも燃やした際に煙を出す草木について皆へ教えるが、一行の中で呻く者一人。
「‥‥すまん、草木については余り見分けがつかんのだが」
「ではセリオス殿は私と行くか? 他の者は問題ないだろうか?」
静かな表情のまま本音を言い、詫びる神聖騎士のアリオス・セディオン(ea4909)に彼女は彼と似た調子で提案すると皆が頷くのを確認してから
「この借りは必ず‥‥」
「そう堅苦しく考える必要はない、まぁ行こう。日没まで時間もない事だしな」
彼の誓いに苦笑を浮かべ、似た者同士な神聖騎士二人は皆より僅か遅れて森の中へ消えて行った。
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夜が明けた後、一行は少し日が昇り明るくなるのを待ってから洞窟へと足を踏み入れる。
「流石に眠りこけている頃だろうな」
「蝙蝠‥‥ああ、なんかやだなぁ‥‥あの吸血種‥‥」
「ほら、村人達の為にも頑張って行きましょう」
アレクサンドルは静かな内部の様子に安堵するも、その背後から戦士のルクスが冗談交じりに言えば他の皆はその様子に苦笑を浮かべる中でレインはそんな彼を宥めると、同時に彼らの背中を押すのだった。
「『お互いの体を舐めあう習性を利用し、捕獲した蝙蝠に毒を塗って群れに戻し全滅させた』と言う探検隊の話を耳にしたが、本当かどうかは怪しいものだ‥‥試すのも一興だったか」
「それを考えるよりもまずは‥‥」
「急げっ、もう少しで出口だ!」
過去に呼んだ記憶がある文献の一部を思い出してはふむと呟くガイエルに、アリオスと鳴滝はそれ所ではないと叫んでは駆けていた。
勿論それには理由があり‥‥遡る事少し。
適度に洞窟深くまで進んだ一行は昨日集めておいた大量の野草や生木を積んでは早速それを燃やし、早々に脱出を図ろうとしたが流石にそこまでされて黙っている蝙蝠達ではなかった訳で。
「先に行けっ、此処は俺が」
と言う事で駆けていた一行、薄暗い森の中でも僅かに射す日の光を確認してルクスが皆へ進むべき道を手で指し示せば、自らは歩みを止めて囮になろうとするも
「何もそこまで‥‥皆より遅れて行けばいいだけの事」
「生憎と、危険は承知なのさぁ」
「ルクス殿のそれは勇気でも何でもないぞ」
同じ名を持つ戦士の肩を掴み、聖なる光球を周囲に漂わせ蝙蝠達を牽制するエルフの神聖騎士はすぐ駆ける様、彼を促すと戦士は小さく呟いた。
「‥‥よくよく考えればこんな所じゃ死ねないじゃん、どうせなら女の子と一緒がいい」
「もう少しだぞ!」
「つっ! 分かった、分かったって!」
だが場に相応しくない言葉に彼女はルクスの耳を引っ張れば、彼は止むを得ず彼女に引き摺られる様に駆ける。
「さて‥‥と、魔法使いの本領発揮ですね♪ 蝙蝠の牙城陥落、始めます」
そして洞窟から二人のルクスが飛び出すのを確認すると‥‥依頼開始時からそうだが、余程ストレスでも溜まっているのかルーティが紡いだ物騒な言霊は直後、グラビティーキャノンの発動を持って実行される。
「流石に一撃、とは行かないか」
「何のっ! まだまだですよっ!!」
それに穿たれた岩壁は大きな音を立て崩落し、入口を埋めようとするも存外に大きな入口はその一撃だけでは埋まらず、肩で息を整えては這い出てくる蝙蝠達を迎え撃とうとするアリオスの言葉に、既にセブンリーグブーツを脱いでいる彼女は益々張り切って再度詠唱を紡ぎ、外へ出る蝙蝠達を最小に抑えては出入口を閉鎖する事に成功した。
「さて、じゃあこいつらを退治したら他に出口がないか一応確認してみるか」
後は外に飛び出した蝙蝠達を退治して暫く待つだけ、先程洞窟周辺を確認したものの鳴滝の提案に皆頷けば、まずは霧を払おうとそれぞれ得物を抜いた。
‥‥それから洞窟を完全に閉鎖して丸一日の時間が経ち、ルーティの魔法に男性陣の腕力で入口を塞いでいた岩を完全に除去すれば
「さぁ、ここで食い止めましょう!」
レインの叫びが直後、洞窟に潜む闇が外へと待っていたと言わんばかりに涌き出て来た。
「‥‥これでも少なくなっているのかなぁ」
「どうだろうな」
存外に洞窟が広かったのか、想像より多い大小様々な蝙蝠達が飛び出して来ればそれを見て黒髪の戦士の疑問にアリオスは状況をしっかり捉えるも、そもそも最初の全数が分からない事から冷静に答えると二人は揃って、向かい来る黒霧へ得物を構え戦端は開く。
「どちらにせよ、数が多過ぎる‥‥なら」
その先陣を切るのはアレクサンドル、槍穂が貫かん如き勢いでチェーンホィップを振るい黒き霧を真っ二つに切り裂いていく。
回避が不得手だからこそ、攻撃のみに専念する彼の体は多くの掠り傷から血に濡れるも構わず突っ込み一匹の巨大蝙蝠を捕捉すればそれを見事に絡め取ると
「いよっしゃあっ!」
長大な槍を振り回し飛び上がるルクスは、降下する勢いに合わせ自らの体重も上手く乗せる事に成功すると、身動きが取れないそれの頭部から背部までを一気に貫通し一撃で葬り去る。
「うわぁ‥‥血だらけ、じゃなくて」
そんな彼の気が抜けた言葉と同時、蟠っては周囲を飛び交う霧は散り散りになるとそれぞれの意思で一行を襲い始めた事に気付き、己が身にへばり付く蝙蝠の血に呻く戦士は後衛の防衛を思い出し駆け出すも、一行の連携は見事だった。
「これだけの数なら、こちらがいいか」
「‥‥深く、深く眠れ。闇の、更に深い闇に至るまで‥‥」
状況を判断し、適切なスクロールを紐解いてガイエルが植物を操り前衛に負けじと防御手段を確保すれば、時折皮膚を裂かれる痛みを今だけ気にせずレインは凛とした声を響かせて詠唱を完成させて放つスリープで一匹のジャイアントバットを眠りの淵に落とし
「オレの自慢の拳でも受けて逝けよっ!」
いつものテンポを持って踏み込む鳴滝は足から伝わる力を拳に乗せて、地に墜ちるより早くそれを打ち据え吹き飛ばせば打って出たくなる自らの勢いを一度殺し、軽やかなステップで後退するとまずは皆を守る事に専念する。
‥‥暫くその戦いは続き、一行は傷だらけになるも何とか蝙蝠達の撃退に成功する。
「次は洞窟の中か、何も起こらなければいいが」
「‥‥その前に、まず、休憩を‥‥」
まずは自身の傷を癒し、神聖騎士のルクスは他の者の治療を始めようとしながら洞窟を見据え呟けば、緊張の糸が切れたルーティの言葉に皆も一先ず膝を落とした。
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そして一行は洞窟へ再度足を踏み入れる、残る蝙蝠がいないか確認をしなければならないし何より好奇心が疼く者もいたから、このままでは帰れない。
「しかし‥‥広いですね」
「天井まで見えない〜」
洞窟内部に反響する足音からそう察するレインに、ランタンを翳すルーティも自慢の視力が辛うじて届かない天井を恨めしそうに見つめるも、やがて諦め皆同様に周囲の警戒を始めたが今度はその視界の片隅に光を見付ける。
「ん、これ‥‥」
そして一行を引き止めてから彼女は光の元へ向かい、その辺りを調べて見ると小さな宝石が一欠片見付かれば、ルーティは笑顔を浮かべ皆の元へ戻るのだった。
「‥‥全くと言っていい程に何もないな。罠ですら」
「人の手が加わっている様子もなさそうだ、自然に出来た洞窟の様だな」
それからまた暫く歩く一行、時折宝石の欠片こそ見付かるもルーティにレインが中心になっての探索が甲斐もなくガイエルの呟きと同時、彼女が放る石片が地を転がる中で嘆息を漏らす神聖騎士のルクス。
「しかし結構な時間が経っていないだろうか? 蝙蝠達も残ってはいない様だし、そろそろ引き返すべき頃だと思うが」
「そうだな、俺達も含め村人達が伝染病になっていないか気にもなるしな」
まだ奥まで辿り着いていないがアリオスの提案にアレクサンドルも同意すると一行を見渡し、一様に頷くのを確認してから洞窟探索を早々に打ち切る事を決めると、村人達を安堵させるべく出入口へと向かえば
「後に新たな脅威が住み着かない様‥‥そして村がこれから、平穏に過ごせる様に」
平穏を願い、祈る様な響きを含ませてレインが呟けば最後の魔力を振り絞ってルーティがグラビティーキャノンで再びその洞窟を封鎖すれば、神聖騎士がルクスの提案で村人達を見舞う為に洞窟だったその場を後にするのだった。
「成功だな。よし、鳴滝。メシ奢ってくれ」
「なんでだっ!」
この話を聞いて安堵するだろう、村人達より先に喜んでは黒髪の戦士の提案に鳴滝は肩に回されそうになる彼の手を払い除けると、誰よりも早く村に着く努力を開始した‥‥。