Get Away
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 50 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月15日〜06月30日
リプレイ公開日:2005年06月20日
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●オープニング
「じゃあ確かにお渡ししました」
「‥‥こんなに頼んでいましたか?」
「えぇ、間違いないですね」
ノッテンガムの図書館前、たまの息抜きついでに荷と一緒にやって来たアシュレイは注文の受けていた品を図書館長の前に次々に置いて行くと、その量の多さに思わず尋ねるも事実だと船長が頷けば
「えーと、これです」
「‥‥こんなに頼んだ記憶は‥‥」
ざっと本の題名が記されたリストを証拠に差し出すと、羊皮紙の片隅に目を留めて今度は館長うな垂れる。
「そう言えば‥‥」
彼の見つめていた先にはしわくちゃになった挙句に何か濡れた跡‥‥それに二人は原因を察すると、大量の本を発注するに当たっての経緯を認識するのだった。
「暫く先に発注しようと思っていた物まで‥‥しょうがない。少し待っていてくれますか?」
「それは構いませんが、大丈夫で‥‥」
だが館長はアシュレイに答えを返す事無く図書館の中へ慌てて入っていけばそれから彼は暫くの間、戻って来る事はなかった。
「む、何やらブツが運び込まれるのか?」
その光景を隣接する民家の窓越しに観察する男が一人、ちなみに不法侵入である事を追記する。
だがそんな事は気にも留めず、彼は木箱とその前に佇む船長を眺め
「さて、あの中に旦那が言っていた『あれ』があるのか‥‥それともあの建物の中だろうか?」
窓に張り付いてブツブツと独り言を漏らしていたが、思考するに与えられた時間はほんの僅かだった。
「あんた誰や!」
野太い女性の言葉と同時、頭部に鈍い衝撃を感じた彼が振り返る‥‥とそこにはこの家に住む者だろう、逞しいおばちゃんが恐れる事無く何かを投げて来た事を察する。
だがしかし、彼はおばちゃんの気持ちを理解する事どころか逆に問われたものだと思ったのだろう、いつもの様に
「‥‥我の事か? そうだな、問われたからには名乗っておこう! 緊張してさらっと流せよ! 我が名はヴィー‥‥」
高らかと自らの名を叫ぼうとしたが、次に彼目掛け飛んで来たダガーが僅か数ミリ横の壁に刺さるのを見て、最後まで口上を述べる事は叶わなかった。
「元冒険者を舐めるんじゃないよっ!」
「おばちゃん、本気は良くないよ‥‥」
そして今度はいつの間に準備した幾本かのダーツを握っておばちゃん、叫んで彼に狙いを定めれば慌て宥めるヴィーだったがその説得が通じない事だけ、即座に理解すると
「‥‥すいません、忙しいけどお暇します」
颯爽と踵を返して窓を割り、ようやっと逃げ出すのだった‥‥背後から追い駆けてくるおばちゃんの怒声が響く中。
「‥‥‥‥」
「待たせてしまって申し訳‥‥最近この辺りで、あの手が多くて。と言うかあの騎士が此処を見張っている様なんだ」
民家の窓から飛び出して来た騎士を唖然として見送るアシュレイに、館長もそれを見て溜息をつけば再び彼の顔を見ると
「これからキャメロットに帰るのだろう? そのついでで非常に申し訳ないが、一つ頼まれてくれないか?」
館長の申し出に何となく察しがついた船長は、一通りの話を聞き終えてから金貨が詰まった二つの袋と彼の願いをキャメロットの冒険者ギルドまで届ける事を約束し、頷くのだった。
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ミッション:ノッテンガム図書館の蔵書整理及び不審者の撃退
成功条件:蔵書の完全整理+不審者の捕縛時。(完全成功)
達成条件:ミッション達成時。(通常成功)
失敗条件:達成条件の未達時。(完全失敗)
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
その他:依頼期間は三日間と限られていますので、依頼達成の為にも効率よく時間を使って下さい。
館長の方の指示を仰ぎつつ不要になった本を地下の倉庫に運んだり、新たに入荷した本を本棚に納めていく作業になります。
効率よく整理する為にはコツやそれなりの知識が必要と思いますが、体力勝負な側面もありますので大変だとは思いますが頑張って下さい。
尚、不審人物についてですがどうやら先にノッテンガムを違う意味で震撼させた騎士の様です、今の所特に目立った行動は取っていないと言う話でしたが‥‥何が目的なんでしょうね?
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●リプレイ本文
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「もー、お姉ちゃんってば。本当に大丈夫だから、ね」
久々に会った義理の姉との会話を楽しげに、だが少し心配し過ぎな感がある会話を逢莉笛鈴那(ea6065)が笑顔で遮れば
「ぅ‥‥寒くないのになんでかねぇ、また嫌な予感がするよ」
そんな姉妹の仲良きやり取りの中、ノッテンガムへは二度目の来訪になるネイ・シルフィス(ea9089)は呟きと共に己が身を抱え一つ、身震い。
どうにもこうにも依頼書の内容が気になってしょうがない、過去の似た様な依頼を思い出しそれが頭の片隅に引っ掛かったきり、離れないから。
「もし、以前の方だったらどうしましょうか?」
「‥‥とりあえず、鉢植えでも準備しておこう。あ、以前やり過ぎたから一つあればいいわね‥‥」
その様子にコルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)が両の違う色を湛える瞳でネイに問うと、嘆息を漏らしつつもその態度とは裏腹に愉しげな表情を浮かべれば過去の経験に基づいて現地で鉢植えを探す事に決め、まずはノッテンガムを目指し歩き出すのだった。
「妹を宜しく」
「あぁ、まぁそう心配せずとも大丈夫だ。図書館の整理が主だった依頼だしな」
「それじゃあ‥‥行って来るよ!」
そんな一行に巨大な鈴那の姉が最後にそう言うも、真幌葉京士郎(ea3190)と自身の妹が紡ぐ句に安堵すると静かに手を振っては皆を見えなくなるまで見送るのだった。
「ま、あたしらが来たからには安心しておくれよ。本の整理も不審者も全部まとめて片付けてやるさ」
「本当に済まないね、この様な雑務を冒険者の皆さんにお願いするのはいささか気が引けたんだが」
「まー、そんな事は気にしない! 今更だし」
「今更‥‥」
数日を経て一行、何事もなくノッテンガムへ着けばまだ祭の熱狂覚めやらぬ中の図書館にて、ネイが依頼成功の宣言を兼ねた挨拶にニッと笑えば続く図書館長の詫びへ鈴那は励ますも、彼はマイナス方向に受け取れば一人沈む。
「余り気にしないの、って事だよ館長りん。余り気にし過ぎるとストレスで体毛なくなっちゃうぞ♪」
「‥‥まずは髪の毛からだろう」
「そっか‥‥うん、そうだね」
「館長りんって‥‥」
そんな微妙なフォローに重ねてボケるカファール・ナイトレイド(ea0509)に訂正を求めるのは、少し融通の利かない生真面目なガイエル・サンドゥーラ(ea8088)。
だが館長は初めて呼ばれる二人称に、彼女らの漫才は届いておらずどうしたものかと困惑。
(「ふむ、図書館周りでうろつく不審人物か‥‥気になるな。買った本の中に特別な本でもあるのか?」)
その最中、京士郎は苦笑を貼り付けながらも最寄りの窓から外を眺め辺りを伺ったが今はまだ静かな町の風景。
「さて、館長殿。落ち込んでいるだけでは時期に日が暮れる‥‥時間もない事だし、ご指示をお願い致す」
そして頭上を飛び回るシフールの相手をしながらガイエルが改めて本題を切り出せば館長も肝心の事を思い出し、はと顔を上げて動き出せば
「んーと‥‥一日目に要らない本を纏めて片付けちゃって、二日目に空いた棚に新しい本を並べる、でいい?」
カファールは作業手順を改めて確認すると、皆が皆頷いた事を見届けてから真先に動き出した。
そんな静かな町並みの中、異物が密かに佇んでいた。
「ママー、あそこの壁変に膨らんでいるよー。目もあるし誰かいるの?」
「しっ! 目を合わせちゃいけません! 馬鹿が伝染っちゃいますよ!」
‥‥子供にばれている辺り、密かではないのだがそれでも彼は図書館に尤も近い民家の一軒が壁から、擬装用の布越しに図書館を見張っていた。
「冒険者様ご一行にお越し頂く事はバレバレだったが‥‥むぅ、これでは旦那から授かった使命が全う出来んではないか、あの時の借りを返してくれよう‥‥」
やけっぱちで突貫してやろうかと本気で考えるも、見た記憶があるハーフエルフの顔を確認すれば先日の件を思い出し、あっさりそれを中止を決め‥‥とりあえずその場で待機する事に決めるのだった。
町行く人々に指差されている事は全く気付かない中で。
●
「それではヨッシー、此処の見張りを頼む」
「アン!」
まだ共に過ごした時間は少ないが、愛犬にそう命じ頭を一つ撫でてからガイエルは踵を返し図書館の中へ戻ると、鈴那のアイデアを元に彼女とコルセスカが中心となって地下へ本を運ぶ準備を始めていた。
「本を運ぶ力仕事は任せてくれ。それから、他にも何かあったら遠慮無く言って欲しい」
「京りーん。此処の一番上の棚にある本、全部下だって。運ぶの手伝って〜」
「それと此処の本も悪いけど頼むよ‥‥しかしこれ、装丁からして面白そうな本だけど読めそうにないねぇ」
「すまん、少し待て」
一行の中、唯一の男手である京士郎の呼び掛けに地下へ運ぶ本棚の辺りを飛翔するカファールに理解し得ない言語から内容が分からないものの興味津々なネイは遠慮なくヘルプを要請すると、侍は慌しくあちこちを駆け回る事となり
「んー、順調順調♪」
「この調子でしたら此処は思ったより早く終わりそうですね。あ、京士郎さん、こちらの本もあの階段の近くまで運んで貰えますか?」
その間に積まれていく本をコルセスカと鈴那は手際良く、途中で買ったボロ布を用いて種類の異なる本の間にそれを挟み縛り上げればまたしても京士郎を呼んで地下へ続く階段の前へ運ぶ様、お願いするのだった。
「これは思った以上に‥‥辛そうだな、俺一人なら」
「ふふっ、私達も少しだけかも知れませんが手伝いますから頑張りましょう」
先の困難を予想して、早めにぐうの音を漏らせば白き髪を揺らして苦笑を浮かべる神聖騎士が立ち上がれば、適度な厚さで束となっている本を一つ抱え追い駆け励まし笑顔を浮かべた。
図書館と言うイメージはどうにもこうにも暗い感じが付きまとうものだが、ノッテンガムの図書館が二階には外を見渡せるテラスに読書用の机や椅子があったりして、中々に洒落ていた。
「‥‥せめて、もう少し時間があればな」
そこに佇んではガイエル、余りない大量の書物を目の前にするこの機会を口惜しそうに呟くも当番制の見張りを絶やす事は出来ず周囲への警戒を厳にしていた。
「しかしヴィーとか言う者の狙い、果たして何が狙いであろうな。どうにも嫌な予感がするが」
「ガイりーん、見張り交代だよ〜」
具に動く人波を見据えては、どうにも自身の中にある一つの疑念が拭えず吹く風に乗せて独り言を漏らし、思考の渦に飲まれようとしたがカファールのまだ暫く慣れそうにない呼び掛けに苦笑すると、飛び回るシフールに笑顔で応じ地下倉庫へ足を向けるのだった。
「いずれ分かる‥‥といいのだが」
限られている時間の中、ただでさえ少ない人手を割いての見張りには理由がある。
地下倉庫へ、読む頻度が低い本や朽ちそうな本を押し込む作業がある為に上が手隙になる事を見越してだったが
「これって‥‥」
「終わるのか?」
部屋の扉を開けては本棚が一切ない内部、堆く積まれている本の山々に辟易と呟く鈴那と京士郎‥‥危ういバランスながらも崩れずにいるのは館長の努力の賜物か。
「どうだ、凄いものだろう?」
(『何がですか‥‥』)
目の前に広がる光景を唖然と眺める一行に胸を張って言う館長、勿論一行の心の声は聞こえない。
「‥‥一先ず、不要な本だけ置くスペースを確保しましょう」
「おっと、荷物の持ち過ぎは危険だから気を付けてくれよ」
とりあえず表情だけ呆れるも、すぐさまいつもの調子に戻ったコルセスカは早速手近な本の山に取り掛かろうとし、女性には優しい京士郎の何かを予感しての掛け声はいささか遅かった。
「足元にも気を付けてくれ、上と違って乱雑‥‥」
乾いた音と言の葉が同時、持って来たランタンに火を灯す館長によって一行の周囲が明るくなれば本の山を突き崩さんと、自身の足元に転がる本に躓いてそれ目掛けて倒れていく神聖騎士の姿が皆の目に映り
『あ‥‥』
皆が揃って間抜けな声を発すれば、次の瞬間には盛大な音を立てて沢山の埃を舞わせる事となった。
「‥‥何があったのだ?」
そこへ遅れて登場するガイエルは扉を開けるなり口元を押さえ、咳き込んでいる一行へ声を掛けると晴れる粉塵の中で鈴那、視線の先にある壁に妙な違和感を覚える。
「あ、れ?」
「参ったな、これでは予定が早速崩れそうだ」
普通の壁とは何処か違う気がしたがガイエルや他の皆は何も気付いていないらしく、辺りに散乱する大量の本に頭を抱えるばかり。
「ご、ごめんなさい‥‥とりあえず始めましょう。まだ時間はありますし‥‥」
「まぁいっか‥‥よし、始めよー!」
わたわたと両手を振って、珍しく慌てるコルセスカの様子に忍はひとまず依頼の事を思い出し腕捲りをすれば、周囲の本を綺麗に積み始めた。
「一時はどうなる事かと思いましたが、何とか目処が立ちましたね」
あれから一日少々の時間を経て、予定は多少後ろ倒しになったものの地下倉庫の整理に決着がつけば後は至って簡単なものである。
本棚の空いたスペースに図書館長が手違いで大量に購入した本を詰め込むだけ。
「そうなると、後はあいつだけだねぇ‥‥どうしてやろうか?」
得意とする掃除でミスを発生させるも、残作業から目処が立った事にコルセスカが安堵から微笑を浮かべると皆も笑顔を浮かべる中でネイは、久々に再会する騎士をどう弄ぼうかと想いを馳せる。
‥‥何はともあれ、決戦は間近?
●
「あれに見えるは旦那が所望している本だろうか?」
三日目、今日は何故か堂々と図書館真正面に位置する民家の屋根の上で寝転がりヴィーは様子を伺っていたが、図書館の入口前に置いてあるそれに気付けば屋根から舞い降り近くまで歩み寄ればガイエルの愛犬ヨッシーの鳴声は気にせず近付き、本を手に取ろうとしたが図書館の扉が開け放たれた事で、慌て飛び退る騎士。
「ふふ‥‥久し振りだねぇ。絶対無敵のアリンコ」
見知った者である事を確認して一行の先頭に立つネイは、惑う事無く即座に鉢植えを投擲すると
「ぶへっ!」
‥‥言うまでもなくそれは彼の顔面を捉えれば、頭を振って一行を睨み据えるも
「えいっ!」
「雷撃の束よ、彼者を貫け‥‥」
「ひゃぎゃーーーっ!」
「凄いね、狙いを付けないで投げたのに本当に当たったよ」
「うむ、不思議だ」
試しに投げて見た鈴那の手裏剣も額に突き刺されば、直後にガイエルが放つ収束された雷撃で全身を焦がされれば、地を転げ悶絶する中それでも彼は叫ぶ。
「ぬぉぉ‥‥あの時の半分エルフ娘に今回初めて見る顔ばかりな冒険者様ご一行め。たいそうなお持て成しをありがとうございます、だが『絶対無敵のアリンコ』だと‥‥残念ながら今は違うっ! 我が真実の名は‥‥」
『アリンコー』
「おうぇええぃやー」
額に刺さった手裏剣を投げ捨て否定する騎士だったが、次にはあっさり泣き崩れるが一行も鬼ではなかった。
「折角だから名前を聞いておこうではないか」
「本当か? 本当に本当か?」
「男に二言はない」
京士郎の断言に途端、ヴィーは明るい表情を浮かべ立ち上がれば
「我が名はヴィー! ヴィー・クレイセア! 『古今無双の疾風』とか呼んで欲しいと思っている今日この頃、皆さんは元気でしたか?」
「‥‥ヴィーか、その名前憶えておいてやろう。その代わりと言っては何だが、丁度本の整理が終わってロープが余っているので大人しく縛について貰う」
「え?」
蒼いバンダナはためかせ、最後は疑問系で締められる口上を述べるも呆れる侍の言葉と同時にコルセスカのコアギュレイトによって体が拘束されれば、赤い礫が飛翔し彼をロープでぐるぐる巻きにする。
「ん、お疲れ様〜♪」
「しかし変わらないねぇ、お前さんも」
「‥‥惚れるなよ?」
そしてコテンと倒れるヴィーの額に乗っては笑顔を浮かべるカファールに、ヴィーを見下ろし呆れるネイは続く彼の言葉には無言で、拳で思い切り頬を殴って彼を黙らせると
「なんか、可哀想と言うか‥‥物凄く不憫です。きっと死んでも治らないんですよね‥‥」
そう呟きながらもコルセスカはいつも以上に神に祈ってみるのだった‥‥無駄だとは知っているが、それでも何となく祈らずにはいられなかったから。
「ヴィーと申したか、図書館に何用だ? 先の件同様に本が狙いか‥‥まさか、魔本?」
「知らない知らない、魔本が此処にあるんじゃないかと言う事で偵察に来ていたなんて僕知らないです、はい」
‥‥それから暫く、変わらず図書館の前にてヴィーを問い質す一行。
とは言えこうもあっさり捕まる物とは思わずガイエルの最初で最後の質問にヴィーが棒読みでそう答えれば皆、沈黙するが
「‥‥そう言えばあんたも久し振りだねぇ、逢いたいとは思っていなかったけど」
その最中、不意に擦れる金属音が響けば油断なくネイが振り返るとその視線の先、蒼い甲冑を身に纏う巨躯の騎士が一人佇んでいた。
「今はまだ、本気で事を構える時ではないのだがな‥‥ヴィー、戻ったら覚悟しておけ」
「‥‥早々簡単に」
巨躯の騎士が呟きに京士郎は刀を抜こうとして‥‥闘気の力で拘束された事を即座に理解し、舌打ちするが
「今度はやらせないよっ!」
目を閉じても瞼を貫かん程の緑光をその身に巻いて、ネイは叫びと同時に風刃が立て続けに二つ、蒼き騎士へ放つ‥‥が。
「もう少し先だ‥‥我々と貴様らが見える時はな。それまでその命、大事にしておけ。そしてその時に見せてみろ、お前らが意志の力を‥‥」
それは確かに直撃し‥‥だが表情を変える事無く、舞う土埃の中から飛び出して彼はいつの間にかネイの顔に息が掛かる程の距離まで肉薄し、呟きを漏らすと一行に構う事無くヴィーだけを抱えれば
「お互い釈然とせんが、今日も此処で幕引きだ‥‥」
槍を振り下ろし、広範囲に衝撃波を撒き散らして後退していくのだった。
「その日がいつ、来るんだか‥‥ねぇ」
「でもヴィーりん、これで暫くは大人しくしていそうだから問題なしって事で! それにしても変なヒトだったね〜」
歯噛みしつつも冷静に、開く距離と彼我の実力差から魔術師は追撃を断念すると赤髪のシフールが場を締め、最後の言葉には皆同意して強く頷くのだった‥‥謎だけを残したまま。